(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463956
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】乳化組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 7/005 20060101AFI20190128BHJP
A23D 7/02 20060101ALI20190128BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20190128BHJP
A61K 8/06 20060101ALN20190128BHJP
A61K 8/34 20060101ALN20190128BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D7/02
!A61Q19/00
!A61K8/06
!A61K8/34
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-241340(P2014-241340)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-101122(P2016-101122A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 華代
(72)【発明者】
【氏名】山形 徳光
(72)【発明者】
【氏名】天野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英人
【審査官】
小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−245205(JP,A)
【文献】
特開2013−227275(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/112009(WO,A1)
【文献】
特開2013−075850(JP,A)
【文献】
特表2014−514361(JP,A)
【文献】
特開2013−071930(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/053354(WO,A1)
【文献】
AAPS PharmSciTech, August 2014, Vol.15, No.4, p.1000-1008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00− 9/06
A23L 23/00−25/10;35/00
A21D 2/00−17/00
A61K 8/00− 8/99;A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂(遊離脂肪酸を除く)が乳化剤により水中油型に乳化されてなる乳化組成物において、
乳化組成物が食品であり、
前記油脂にプテロスチルベンを含み、
プテロスチルベンの含有量が油脂に対して0.001%以上10%以下である、
乳化組成物。
【請求項2】
油脂(遊離脂肪酸を除く)が乳化剤により水中油型に乳化されてなる乳化組成物の製造方法において、
プテロスチルベンを油脂に加えて品温50℃以上に加熱して溶解させ、次いで、乳化処理を施す、
乳化組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や皮膚等にのりがよく均一に塗布できる乳化組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズなどの水中油型乳化組成物をパン表面に薄く塗布したり、皮膚等に外用剤を塗布する場合には、食品や皮膚等の表面にのりやすく均一に塗りやすいことが好ましい。従来、このような物性改良については、例えば、WO2012/053354号公報(特許文献1)に記載されているように、可塑性油脂組成物において改良が提案されているが、水中油型乳化組成物においては、このような塗りやすさの提案はあまりなされていない。
【0003】
一方、健康素材として、プテロスチルベンが知られている。例えば、特開2013−075850号公報(特許文献2)には、タンパク質粒子及びプテロスチルベンを含有する組成物が提案され、その組成物は、有効成分として美白効果を発揮する化合物を水溶化させた状態で含有し、高い保存性及び高い浸透性を示すことが記載されている。また、特開2013−071930号公報(特許文献3)には、プテロスチルベンの誘導体として新規ヒドロキシスチルベン誘導体又はその薬学的に許容可能な塩が提案され、新規ヒドロキシスチルベン誘導体を、効率よく、安全に生成する方法が記載されている。しかしながら、これらプテロスチルベンを上述のような乳化組成物の物性改善に与える影響については一切記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2012/053354号公報
【特許文献2】特開2013−075850号公報
【特許文献3】特開2013−071930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、食品や皮膚等にのりがよく均一に塗布できる乳化組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、油脂が乳化剤により水中油型に乳化されてなる乳化組成物において、油脂中にプテロスチルベンを含有させるならば、意外にも食品や皮膚等にのりがよく均一に塗布できる乳化組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)
油脂が乳化剤により水中油型に乳化されてなる乳化組成物において、前記油脂にプテロスチルベンを含む、乳化組成物、
(2)
(1)記載の乳化組成物において、プテロスチルベンの含有量が油脂に対して0.001%以上10%以下である、乳化組成物、
(3)
(1)又は(2)記載の乳化組成物において、乳化組成物が食品である、
乳化組成物、
(4)
(1)又は(2)記載の乳化組成物において、乳化組成物が皮膚外用剤である、
乳化組成物、
(5)
(1)乃至(4)のいずれかに記載の乳化組成物の製造方法において、
プテロスチルベンを油脂に溶解させ、次いで、乳化処理を施す、
乳化組成物の製造方法、
(6)
(5)記載の乳化組成物の製造方法において、
プテロスチルベンを油脂に加えて品温50℃以上に加熱して溶解させる、
乳化組成物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、食品や皮膚等にのりがよく均一に塗布できる乳化組成物及びその製造方法を提供する提供できる。したがって、これら乳化組成物の需要拡大が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
<本発明の特徴>
本発明の乳化組成物は、油脂が乳化剤により水中油型に乳化されてなる乳化組成物において、前記油脂にプテロスチルベンを含むことを特徴とする。これにより、食品や皮膚等にのりがよく均一に塗布できる乳化組成物が得られる。
【0011】
<乳化組成物>
本発明の乳化組成物は、油脂が乳化剤により、油滴として水相中に略均一に分散して水中油型の乳化状態となっているものである。
【0012】
<油脂>
油脂としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油等の植物油の精製油、並びにMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド等の化学的若しくは酵素的処理を施したもの等を使用することができ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでもトリグリセリドが好ましい。
【0013】
<油脂の含有量>
本発明の乳化組成物においては、油脂の含有量は、5〜75%であるとよく、さらに5〜60%であるとよい。このような含有量であることにより、食品や皮膚等に塗布できる性状が得られやすい。
【0014】
<乳化剤>
乳化剤としては、生液卵黄、殺菌液卵黄、リゾ化卵黄等の液卵黄、レシチン、リゾレシチン等のレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化性澱粉、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、等を用いることができる。
【0015】
<乳化剤の含有量>
乳化剤の含有量は、乳化組成物の0.10〜10%とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜8%、さらに好ましくは2〜6%である。乳化剤の含有量が少なすぎると、乳化安定性が悪くなりやすく、反対に多すぎるとコストが上がるので好ましくない。なお、乳化剤としてリゾ化卵黄、生卵黄等を用いる場合には固形分換算で上記の範囲の含有量にすることが好ましい。
【0016】
<プテロスチルベン>
プテロスチルベン[4−[(E)‐2‐(3,5−ジメトキシフェニル)ビニル]フェノール、4−[(E)‐3,5−ジメトキシスチリル]フェノール、(E)‐3,5−ジメトキ‐4’−ヒドロキシスチルベン、又は(E)−3’,5’‐ジメトキシスチルベン‐4‐オールとも称する]は、レスベラトロールと同様に抗酸化活性を有することが知られている。プテロスチルベンを利用した商品としては、PteroWhiteTM90%(Sabinsa社)が知られており、Sabinsa社から商業的に得ることができる。、また、和光純薬工業株式会社、東京化成工業株式会社又はSigma−Aldrich社から粗製形で得ることができる。
【0017】
<プテロスチルベンの含有量>
本発明の乳化組成物においては、プテロスチルベンの含有量は、油脂に対して0.001〜10%であるとよく、さらに0.001〜8%であるとよい。これにより、食品や皮膚等にのりがよく均一に塗布できる性状が得られ易く好ましい。
【0018】
<乳化組成物の水相原料>
本発明の乳化組成物の水相原料としては、特に制限はなく、乳化組成物に配合される種々の原料を用いることができる。
【0019】
<食品>
本発明の乳化組成物として使用する食品としては、特に制限はないが、クリーム、ソース類、マヨネーズやドレッシング等が挙げられる。
【0020】
<外用剤>
本発明の乳化組成物として使用する外用剤としては、特に制限はないが、スキンケア用クリーム、皮膚用医薬品、化粧品等が挙げられる。
【0021】
<乳化組成物の製造方法>
本発明の乳化組成物の製造方法は、プテロスチルベンを油脂に溶解させ、次いで、乳化処理を施すことを特徴とする。プテロスチルベンは、油脂中に溶解させる方法としては、特に制限はないが、例えば、プテロスチルベン粉末を油脂中で撹拌混合する方法やプテロスチルベン粉末を油脂中に分散した状態で、品温50℃以上に加熱して溶解させる方法等が挙げられる。安定した組成物を得る点からは、プテロスチルベン粉末を油脂中に分散した状態で加熱溶解させる方法を採用することが好ましい。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
下記配合表に従って、乳化組成物を調製した。つまり、プテロスチルベンを加えて品温50℃以上に加熱した油脂を、品温0℃以上20℃以下に冷却し、次いで、水相原料を加えて乳化装置(ホモジナイザー)で乳化処理を施すことにより、乳化組成物を調製した。
【0023】
大豆油 50%
プテロスチルベン 3%
液卵黄 47%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
合計 100%
【0024】
[比較例1]
実施例1において、プテロスチルベンを配合せず、その減少分は生卵黄の配合量を増やして補正した以外は、実施例1と同様にして、乳化組成物を調製した。
【0025】
[試験例1]
実施例1及び比較例1の乳化組成物について、それぞれ塗布試験を行った。すなわち、各乳化組成物を、食品用途としてパン生地の表面に艶出し剤としてはけで塗布した。その結果、実施例1の乳化組成物は比較例1の乳化組成物に比べて、パン生地表面にのりがよく均一に塗布でき好ましかった。
【0026】
[試験例2]
実施例1及び比較例1の乳化組成物について、それぞれ塗布試験を行った。すなわち、各乳化組成物を、皮膚外用剤用途として手の甲の皮膚に指で薄くのばすように塗布した。その結果、実施例1の乳化組成物は比較例1の乳化組成物に比べて、皮膚表面にのりがよく均一に塗布でき好ましかった。
【0027】
[実施例2]
下記配合表に従って、乳化組成物を調製した。つまり、プテロスチルベンを加えて品温50℃以上に加熱した油脂を、品温0℃以上20℃以下に冷却し、次いで、水相原料を加えて乳化装置(ホモジナイザー)で乳化処理を施すことにより、乳化組成物を調製した。
【0028】
<酸性水中油型乳化食品の配合割合>
菜種油 40%
プテロスチルベン 1%
食酢(酸度5%) 5%
液卵黄 5%
オクテニルコハク酸化澱粉 5%
食塩 1.5%
デキストリン 1%
加工澱粉 2%
清水 残 余
―――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0029】
得られた乳化組成物について、食品用途としてパン生地の表面に艶出し剤としてはけで塗布した。その結果、パン生地表面にのりがよく均一に塗布でき好ましかった。
【0030】
[実施例3]
下記配合表に従って、乳化組成物を調製した。つまり、プテロスチルベンを加えて品温50℃以上に加熱した油脂を、品温0℃以上20℃以下に冷却し、次いで、水相原料を加えて乳化装置(ホモジナイザー)で乳化処理を施すことにより、乳化組成物を調製した。
【0031】
<クリームの配合割合>
菜種油 30%
プテロスチルベン 2%
リゾ化卵黄 5%
オクテニルコハク酸化澱粉 5%
生クリーム 5%
加工澱粉 2%
清水 残 余
―――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0032】
得られた乳化組成物について、食品用途としてグラタンの表面にはけで塗布した。その結果、グラタン表面にのりがよく均一に塗布でき好ましかった。
【0033】
[実施例4]
大豆油48gにプテロスチルベン2部を加えて品温50℃以上に加熱して大豆油にプテロスチルベンを溶解させた。次に、プテロスチルベン含有大豆油50g、リン脂質(卵黄レシチンPC−98N、キユーピー(株)製)8.82gおよびジパルミトイルホスファチジルグリセロール(日本油脂(株)製)0.18gをホモミキサーにて分散し、均質化した。これに日本薬局方濃グリセリン11.05gを溶解させた注射用水を添加して混合し、全量を500gとして粗乳化液を調製した。次に、上記粗乳化液をマントン−ガウリン型ホモジナイザー(APV社製)にて600kgf/cm
2の加圧下で15回通液して、乳化組成物を調製した。なお、上述の祖乳化液を調製する乳化処理とその後の乳化組成物を調製するための乳化処理は品温50℃に加温した状態で行った。
【0034】
得られた乳化組成物について、皮膚外用剤用途として手の甲の皮膚に指で薄くのばすように塗布した。その結果、皮膚表面にのりがよく均一に塗布でき好ましかった。