特許第6465103号(P6465103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許6465103架橋性ゴム組成物及びゴム架橋物の製造方法
<>
  • 特許6465103-架橋性ゴム組成物及びゴム架橋物の製造方法 図000004
  • 特許6465103-架橋性ゴム組成物及びゴム架橋物の製造方法 図000005
  • 特許6465103-架橋性ゴム組成物及びゴム架橋物の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465103
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】架橋性ゴム組成物及びゴム架橋物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/02 20060101AFI20190128BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20190128BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20190128BHJP
   C08C 19/02 20060101ALI20190128BHJP
   C08F 236/12 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   C08L9/02
   C08L15/00
   C08K5/17
   C08C19/02
   C08F236/12
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-510238(P2016-510238)
(86)(22)【出願日】2015年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2015057550
(87)【国際公開番号】WO2015146650
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2017年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-62532(P2014-62532)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】堅田 有信
(72)【発明者】
【氏名】福峯 義雄
(72)【発明者】
【氏名】塩野 敦弘
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/087431(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/02
C08C 19/02
C08K 5/17
C08L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるニトリル基含有共重合体ゴム[A]と、
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上、及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴム[B]と、
アミン系架橋剤とを含有する架橋性ゴム組成物。
【請求項2】
前記ニトリル基含有共重合体ゴム[A]が、さらに(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位(c)を有する請求項1に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項3】
前記ニトリル基含有共重合体ゴム[A]のヨウ素価が120以下である請求項1又は2に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項4】
前記α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)が、マレイン酸モノn−ブチル単位である請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項5】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるニトリル基含有共重合体ゴム[A]と、
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上、及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴム[B]と、を含み、
アミン系架橋剤で架橋されてなるゴム架橋物。
【請求項6】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるニトリル基含有共重合体ゴム[A]と、
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上、及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴム[B]と、
アミン系架橋剤とを混合した後、架橋するゴム架橋物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架橋性ゴム組成物及びゴム架橋物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムに代表されるニトリル基含有高飽和共重合体ゴムは、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムなどの一般的なニトリル基含有共重合ゴムに比べて、耐熱性、耐オゾン性などに優れているため、自動車用の各種燃料油ホース、O−リング、油中ベルト等に多く使用されている。
【0003】
自動車用エンジンなどに組み込まれるO−リングでは、ガソリンなどの燃料油にさらされる環境下で使用されるため、これに接触しても膨潤しないといった耐燃料油性を持つことが要求されている。この要求に応えるゴムコンパウンドとして、例えば特許文献1では、(i)少なくとも1種の水素化ニトリルゴム、(ii)少なくとも1種の水素化ターポリマーゴム、(iii)少なくとも1種の、強塩基と弱酸との第1族金属を含む塩、及び(iv)少なくとも1種のオレフィン/酢酸ビニル及び/又はオレフィン/アクリレートゴム、を含むポリマーブレンドが提案されている。
【0004】
さらに、寒冷地で使用される自動車用エンジンなどに組み込まれるO−リングにおいては、低温度環境下においてもゴム弾性を有するといった耐寒性も必要であり、耐寒性と耐燃料油性の両立が課題として挙げられている。耐寒性を向上させる目的で、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのニトリル含有量を減らすと、その分、耐燃料油性は悪化してしまうことが、一般に知られている。これらの物性を同時に向上させる手法として、例えば、非特許文献1に記載されているように、水素化ニトリルゴムの分子構造を制御することが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2005−29790号公報」(2005年2月3日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本ゴム協会誌 75巻 32頁〜36頁 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載のように分子構造を制御することは、工業的に容易ではなく、製造コストが上昇してしまうという問題がある。そこで、分子構造を制御すること以外の方法で得られる、耐寒性及び耐燃料油性に優れた新たな架橋性ゴム組成物が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、耐燃料油性及び耐寒性が共に優れており、耐燃料油性及び耐寒性のバランスに優れている架橋性ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるニトリル基含有共重合体ゴム[A]と、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上、及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴム[B]と、アミン系架橋剤とを含有する架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物によれば、上記の課題を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る架橋性ゴム組成物は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるニトリル基含有共重合体ゴム[A]と、
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上、及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴム[B]と、アミン系架橋剤とを含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐燃料油性及び耐寒性が共に優れ、耐燃料油性及び耐寒性のバランスに優れているゴム架橋物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例における耐燃料油性及び耐寒性を測定した結果を示す図である。
図2】本発明の実施例における耐燃料油性及び耐寒性を測定した結果を示す図である。
図3】本発明の比較例における耐燃料油性及び耐寒性を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<架橋性ゴム組成物>
本発明に係る架橋性ゴム組成物は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるニトリル基含有共重合体ゴム[A]と、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上、及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴム[B]と、アミン系架橋剤とを含有している。本発明に係る架橋性ゴム組成物を用いることにより、耐燃料油性及び耐寒性が共に優れており、耐燃料油性及び耐寒性のバランスに優れたゴム架橋物を得ることができる。
【0014】
〔ニトリル基含有共重合体ゴム[A]〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物に含まれるニトリル基含有共重合体ゴム[A]は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるものである。
【0015】
(α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1))
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体(ma1)としては、例えば、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば限定されず、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;等が挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体として、これらの複数種を併用してもよい。
【0016】
ニトリル基含有共重合体ゴム[A]中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)の含有量は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]の全単量体単位中、30重量%未満であり、好ましくは25重量%以下である。また、1重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることがさらに好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)の含有量が多すぎると、得られる架橋物の耐寒性が低下する傾向にあり、少なすぎると、耐燃料油性に劣る傾向にある。
【0017】
(共役ジエン単量体単位(b1))
共役ジエン単量体単位(b1)を形成する共役ジエン単量体(mb1)としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0018】
ニトリル基含有共重合体ゴム[A]中における、共役ジエン単量体単位(b1)は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]中において、少なくとも一部が水素化された状態で含有される。共役ジエン単量体単位(b1)の含有割合は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]の全単量体単位中、20〜83.5重量%が好ましく、30.5〜64.0重量%がより好まく、40〜58.5重量がさらに好ましい。共役ジエン単量体単位(b1)の含有割合が20重量%以上であることにより、得られるゴム架橋物のゴム弾性が向上する。一方、当該含有割合が83.5重量%以下であることにより、得られるゴム架橋物の耐熱老化性、耐化学的安定性などが向上する。
【0019】
共役ジエン単量体単位(b1)の水素化は、従来公知の水素化触媒等を用いて行ない得る。
【0020】
水素化の程度は特に限定されないが、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]のヨウ素価が、好ましくは120以下、より好ましくは80以下、さらに好ましくは25以下、特に好ましくは10以下となるように水素化させるとよい。ヨウ素価が120以下であることにより、得られるゴム架橋物の耐熱性及び耐オゾン性が向上する。
【0021】
(α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1))
ニトリル基含有共重合体ゴム[A]に含まれる、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を形成する単量体としては、エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個有する、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体(md1)であれば特に限定されない。
【0022】
無置換のカルボキシル基は、主として架橋のために用いられる。ニトリル基含有共重合体ゴム[A]が、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、これがアミン系架橋剤によって架橋することにより、架橋密度が高くなるため、得られるゴム架橋物を伸び等の機械的特性に優れ、しかも、耐圧縮永久ひずみ性及び耐寒性により一層優れるものとすることができる。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体(md1)のエステル部の、酸素原子を介してカルボニル基と結合する有機基としては、アルキル基、シクロアルキル基及びアルキルシクロアルキル基が好ましく、アルキル基が特に好ましい。このような酸素原子を介してカルボニル基と結合する有機基としてのアルキル基は、炭素数が1〜12のものが好ましく、より好ましくは2〜6である。また、酸素原子を介してカルボニル基と結合する有機基としてのシクロアルキル基は、炭素数が5〜12のものが好ましく、より好ましくは6〜10である。さらに、酸素原子を介してカルボニル基と結合する有機基としてのアルキルシクロアルキル基は、炭素数が6〜12のものが好ましく、より好ましくは7〜10である。酸素原子を介してカルボニル基と結合する有機基の炭素数が、アルキル基であれば1以上、シクロアルキル基であれば5以上、アルキルシクロアルキル基であれば6以上であることにより、架橋剤を添加し、架橋性ゴム組成物とした場合における加工安定性が向上する。炭素数が12以下であることにより、架橋速度が速くなり、得られるゴム架橋物の機械的特性が向上する。
【0024】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体(md1)の具体例としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチル等のマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチル等のマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシル等のマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチル等のフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチル等のフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシル等のフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチル等のシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチル等のシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシル等のシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチル等のイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチル等のイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシル等のイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;等が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になるという点より、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチル;等のα,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子の各々にカルボキシル基を有するジカルボン酸のモノエステルが好ましく、マレイン酸モノn−ブチル、シトラコン酸モノプロピル等の該二つのカルボキシル基をシス位(シス配置)に有するジカルボン酸のモノエステルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。
【0026】
ニトリル基含有共重合体ゴム[A]中における、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)の含有割合は、全単量体単位中、4.5〜10重量%が好ましく、6〜9.5重量%がより好ましく、6.5〜8.5重量%がさらに好ましい。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)の含有量が4.5重量%以上であることにより、得られるゴム架橋物の機械的特性及び耐圧縮永久ひずみ性が向上する。一方、当該含有量が10重量%以下であることにより、架橋剤を添加し、架橋性ゴム組成物とした場合におけるスコーチ安定性が良好になったり、得られるゴム架橋物の耐疲労性が向上したりする。
【0027】
(その他の単量体単位)
ニトリル基含有共重合体ゴム[A]は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体(ma1)、共役ジエン単量体(mb1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体(md1)と共重合可能なその他の単量体の単位を含有していても良い。
【0028】
その他の単量体単位を形成する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤等などが挙げられる。
【0029】
ニトリル基含有共重合体ゴム[A]には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)、共役ジエン単量体単位(b1)、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)以外に、さらに(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位(c)を含むことが好ましい。ニトリル基含有共重合体ゴム[A]が、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位(c)を、さらに有することにより、耐寒性及び耐燃料油性がより向上し、耐燃料油性及び耐寒性のバランスがさらに優れたゴム架橋物を得ることができる。
【0030】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位(c)を形成する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体(mc)としては、アクリル酸又はメタクリル酸と、アルコキシアルキル基を有するアルコールとのエステル化合物であればよく、特に限定されない。なお、以下、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の意味である。
【0031】
このような(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体(mc)としては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸i−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸i−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸t−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル等が挙げられる。これらのなかでも、アルコキシアルキル基の炭素数が2〜8のものが好ましく、2〜6のものがより好ましく、アクリル酸メトキシエチル及びアクリル酸エトキシエチルがさらに好ましく、アクリル酸メトキシエチルが特に好ましく、アクリル酸2−メトキシエチルがとりわけ好ましい。
【0032】
ニトリル基含有共重合体ゴム[A]中における、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位(c)の含有割合は、全単量体単位中、11〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましく、20〜25重量%がさらに好ましい。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位(c)の含有量が11重量%以上であることにより、得られるゴム架橋物の耐油性及び耐寒性がさらに向上する。当該含有量が30重量%以下であることにより、得られるゴム架橋物の耐疲労性及び摺動摩耗性が向上する。
【0033】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル等が挙げられる。
【0034】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0035】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0036】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体としては、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0037】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。
【0038】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0039】
共重合性老化防止剤としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリン等が例示される。
【0040】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)、共役ジエン単量体単位(b1)、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位(c)、及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)以外の、その他の単量体単位の含有量は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]を構成する全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0041】
〔ニトリル基含有共重合体ゴム[B]〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物に含まれるニトリル基含有共重合体ゴム[B]は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴムである。ニトリル基含有共重合体ゴム[B]を含むことにより、耐燃料油性が向上する。
【0042】
(α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2))
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体(ma2)としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体(ma1)と同様のものが挙げられ、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体(ma2)として、これらの複数種を併用してもよい。中でも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。
【0043】
ニトリル基含有共重合体ゴム[B]中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)の含有割合は、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]の全単量体単位中、30重量%以上であり、好ましくは35重量%以上である。また、90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることがさらに好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)の含有量が少なすぎると、得られる架橋物の耐燃料油性が低下する傾向にあり、多すぎると耐寒性が低下する傾向にある。
【0044】
(共役ジエン単量体単位(b2))
共役ジエン単量体単位(b2)を形成する共役ジエン単量体(mb2)としては、共役ジエン単量体(mb1)で述べたと同様のものが挙げられ、共役ジエン単量体(mb2)として、これらの複数種を併用してもよい。中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0045】
共役ジエン単量体単位(b2)の含有割合は、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]の全単量体単位中、70重量%以下であり、好ましくは65重量%以下である。また、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましい。共役ジエン単量体単位(b2)の含有量が少なすぎると、ゴム架橋物のゴム弾性が劣ったり、耐寒性が低下する傾向にある。当該含有割合が70重量%以下であることにより、得られるゴム架橋物の耐油性、耐熱老化性、耐化学的安定性などが良好になる。
【0046】
ニトリル基含有共重合体ゴム[B]は、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]中の共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されているものが好ましい。その場合、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]のヨウ素価は好ましくは120以下であり、より好ましくは80以下、さらに好ましくは25以下、特に好ましくは10以下である。ヨウ素価が120以下であることにより、得られるゴム架橋物の耐熱性及び耐オゾン性が向上する。
【0047】
(その他の単量体単位)
また、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体(ma2)及び共役ジエン単量体(mb2)と共重合可能なその他の単量体の単位を含有していてもよい。
【0048】
その他の単量体単位を形成する単量体としては、例えば、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体(md2)、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体(mc)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤等が挙げられる。
【0049】
ニトリル基含有共重合体ゴム[B]は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]と共架橋させ、ゴム架橋物の機械的特性や耐圧縮永久ひずみ性をより向上させる観点から、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d2)を含有することが好ましい。
【0050】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d2)の含有割合は、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]の全単量体単位中、4.5〜10重量%が好ましく、6〜9.5重量%がより好ましく、6.5〜8.5重量%がさらに好ましい。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d2)の含有量が4.5重量%以上であることにより、得られるゴム架橋物の機械的特性及び耐圧縮永久ひずみ性が向上する。一方、当該含有量が10重量%以下であることにより、架橋剤を添加し、架橋性ゴム組成物とした場合におけるスコーチ安定性が良好になったり、得られるゴム架橋物の耐疲労性が向上したりする。
【0051】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d2)を形成するα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体(md2)としては、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体(md1)で述べたと同様なものが挙げられ、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体(md2)として、これらの複数種を併用してもよい。中でも、本発明の効果がより一層顕著になるという点より、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチル;等のα,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子の各々にカルボキシル基を有するジカルボン酸のモノエステルが好ましく、マレイン酸モノn−ブチル、シトラコン酸モノプロピル等の該二つのカルボキシル基をシス位(シス配置)に有するジカルボン酸のモノエステルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。
【0052】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)、共役ジエン単量体単位(b2)、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d2)以外の、その他の単量体単位の含有量は、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]を構成する全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0053】
なお、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体(mc)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤等については、上記〔ニトリル基含有共重合体ゴム[A]〕における説明に準ずる。
【0054】
〔ポリマームーニー粘度〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物に含まれるニトリル基含有共重合体ゴム[A]及びニトリル基含有共重合体ゴム[B](以下、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及びニトリル基含有共重合体ゴム[B]をまとめて、単に「ニトリル基含有共重合体ゴム」と略すこともある。)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは15〜200、より好ましくは15〜150、さらに好ましくは15〜100である。ポリマームーニー粘度が15以上であることにより、得られるゴム架橋物の機械的特性が良好になる。また、ポリマームーニー粘度が200以下であることにより、架橋剤を添加し、架橋性ゴム組成物とした場合における加工性が良好になる。
【0055】
〔ニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物に含まれるニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]の製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合した後、所望により未反応の単量体を除去してニトリル基含有共重合体ゴムのラテックスを調製し、これを必要に応じて水素化した後、凝固・乾燥して、所望の固形状ゴムを得ることができる。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0056】
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;等が挙げられる。乳化剤の使用量は、重合に供する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0057】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
例示した重合開始剤の中でも、無機又は有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、重合に供する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0059】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。中でも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、重合に供する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0060】
乳化重合の媒体には、例えば、水が使用され得る。水の量は、重合に供する全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0061】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0062】
得られた共重合体に対して、共役ジエン単量体単位(b1)の二重結合を選択的に水素添加することにより、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]を製造することができる。ニトリル基含有共重合体ゴム[B]として、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]中の共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されているものを用いる際には、共役ジエン単量体単位(b2)の二重結合を選択的に水素添加することにより、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]を製造することができる。なお、水素添加に用いる水素添加触媒の種類と量、水素添加温度などは、公知の方法に準じて決めればよい。
【0063】
また、水素添加方法としては、ラテックス状態のまま、又は、ラテックスを凝固・乾燥して得られる固形状のゴムを有機溶剤に溶解した状態で行うことができる。前者の場合には、水素化反応後のラテックスを凝固・乾燥して、所望の固形状ゴムを得ることができる。また、後者の場合には、水素化反応後の溶液から、スチームストリッピング等で有機溶剤を除去した後、所望により乾燥して、所望の固形状ゴムを得ることができる。
【0064】
〔ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]の混合比〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物における、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]の混合比(重量比)([A]/[B])は、20/80〜80/20が好ましく、25/75〜75/25がより好ましく、40/60〜60/40がさらに好ましい。ニトリル基含有共重合体ゴム[A]の混合比を、ニトリル基含有共重合体ゴム[B]との合計量100に対して20以上とすることで、十分な耐寒性が発揮される。ニトリル基含有共重合体ゴム[B]の混合比を、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]との合計量100に対して20以上とすることで、十分な耐油性が発揮される。
【0065】
〔アミン系架橋剤〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物は、アミン系架橋剤を含む。これにより、耐圧縮永久ひずみ性が改善され、また、得られるゴム架橋物に優れた耐寒性を付与できる。
【0066】
アミン系架橋剤の具体例としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物、又は、架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されない。より具体的には、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基又はヒドラジド構造(−CONHNHで表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物及び架橋時にその化合物の形態になるものが好ましい。その具体例として、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物、ヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩等の脂肪族多価アミン類;2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)等の芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等のヒドラジド構造を2つ以上有する化合物;等が挙げられる。これらのなかでも、脂肪族多価アミン類が好ましく、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0067】
本発明に係る架橋性ゴム組成物中における、アミン系架橋剤の配合量は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]の総量100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、0.2〜15重量部がより好ましく、0.5〜10重量部がさらに好ましく、1〜5重量部が特に好ましく、1.5〜4重量部が最も好ましいである。当該配合量が0.1重量部以上であることにより、得られるゴム架橋物の機械特性及び耐圧縮永久ひずみ性がさらに向上する。また、当該配合量が20重量部以下であることにより、得られるゴム架橋物の耐疲労性が良好となる。
【0068】
〔塩基性架橋促進剤〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]、[B]及びアミン系架橋剤に加えて、塩基性架橋促進剤をさらに含有していることが好ましい。塩基性架橋促進剤をさらに含有させることにより、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0069】
塩基性架橋促進剤の具体例としては、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(以下「DBU」と略す場合がある)及び1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5(以下「DBN」と略す場合がある)、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−メトキシエチルイミダゾール、1−フェニル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリメチルイミダゾール、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−エトキシイミダゾール、1−メチル−4−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−4−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−アミノイミダゾール、1−メチル−4−(2−アミノエチル)イミダゾール、1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール、1−メチル−5−ニトロベンゾイミダゾール、1−メチルイミダゾリン、1,2−ジメチルイミダゾリン、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−フェニルイミダゾリン、1−メチル−2−ベンジルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプチルイミダゾリン、1−メチル−2−ウンデシルイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプタデシルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシメチルイミダゾリン、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾリンなどの環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤;テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン、オルトトリルビグアニド等のグアニジン系塩基性架橋促進剤;n−ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニア等のアルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤;等が挙げられる。
【0070】
これらのなかでも、グアニジン系塩基性架橋促進剤、環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤が好ましく、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7及び1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5がさらに好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7が特に好ましい。なお、上記環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤は、有機カルボン酸及びアルキルリン酸等と塩を形成していてもよい。
【0071】
本発明に係る架橋性ゴム組成物中における、塩基性架橋促進剤の配合量は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]の総量100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。塩基性架橋促進剤の配合量が0.1重量部以上であることにより、架橋性ゴム組成物の架橋速度が十分な速さとなり、架橋密度が良好となる。当該配合量が20重量部以下であることにより、架橋性ゴム組成物の架橋速度が速くなりすぎることを防ぐので、その結果、スコーチを抑制できる。また、貯蔵安定性が良好となる。
【0072】
〔その他の配合剤〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物には、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]並びにアミン系架橋剤、必要に応じて添加される塩基性架橋促進剤以外に、ゴム分野において使用され得る配合剤を含んでもよい。このような配合剤としては、例えば、カーボンブラック及びシリカ等の補強性充填材、炭酸カルシウム及びクレイ等の非補強性充填材、塩基性架橋促進剤以外の架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミン等のスコーチ防止剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料等を配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を配合することができる。
【0073】
本発明に係る架橋性ゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]以外のゴムを配合してもよい。ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]以外のゴムを配合する場合における、架橋性ゴム組成物中の配合量は、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び[B]の総量100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0074】
〔調製方法〕
本発明に係る架橋性ゴム組成物は、これまで説明した各成分を好ましくは非水系で混合して調製される。
【0075】
本発明に係る架橋性ゴム組成物を調製する方法に限定はないが、例えば、架橋剤及び熱に不安定な架橋助剤等以外の成分を、バンバリーミキサー、インターミキサー、ニーダー等の混練機で一次混練した後、ロール混練機等に移して架橋剤及び熱に不安定な架橋助剤等を加えて二次混練することにより調製できる。
【0076】
このようにして得られる本発明に係る架橋性ゴム組成物は、コンパウンドムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕を15〜200に好適に調整することができ、20〜175にすることがより好ましく、25〜150にすることがさらに好ましい。このようなコンパウンドムーニー粘度の本発明に係る架橋性ゴム組成物は、加工性に優れるものである。
【0077】
<ゴム架橋物>
本発明に係るゴム架橋物は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるニトリル基含有共重合体ゴム[A]と、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上、及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴム[B]とを含み、アミン系架橋剤で架橋されてなるものである。
【0078】
本発明に係るゴム架橋物は、本発明に係る架橋性ゴム組成物によって好適に得られる。よって、耐燃料油性及び耐寒性が共に優れている。また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a1)30重量%未満、共役ジエン単量体単位(b1)及びα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位(d1)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b1)の少なくとも一部を水素化してなるニトリル基含有共重合体ゴム[A]と、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(a2)30重量%以上、及び共役ジエン単量体単位(b2)を有し、前記共役ジエン単量体単位(b2)の少なくとも一部が水素化されていてもよいニトリル基含有共重合体ゴム[B]と、アミン系架橋剤とを混合した後、架橋するゴム架橋物の製造方法も本発明の範疇である。
【0079】
本発明に係るゴム架橋物のより具体的な製造例は次のとおりである。つまり、本発明に係る架橋性ゴム組成物を用い、例えば、所望の形状に対応した成形機より成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。当該成形機としては、例えば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロール等が挙げられる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行なってもよい。成形温度は、10〜200℃が好ましく、25〜120℃がより好ましい。架橋温度は、100〜200℃が好ましく、130〜190℃がより好ましい。架橋時間は、1分〜24時間が好ましく、2分〜6時間がより好ましい。
【0080】
また、ゴム架橋物の形状、大きさ等によっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0081】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱等のゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0082】
このようにして得られる本発明に係るゴム架橋物は、耐燃料油性及び耐寒性が共に優れており、耐燃料油性及び耐寒性のバランスに優れている。さらに、本発明に係るゴム架橋物は、常態物性が良好であり、耐圧縮永久ひずみ性に特に優れたものである。
【0083】
このため、本発明に係るゴム架橋物は、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置及びボールねじ等)用のシール、バルブ及びバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板及び負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;
印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、化粧品、及び医薬品の分野、食品と接触する分野、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。これらのなかでも、本発明に係るゴム架橋物は、ベルト、ホースまたはシール材として好適に用いることができ、特にシール材として好適であり、シール材のなかでもO−リングとして好適である。
【0084】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。
【0086】
〔ニトリル基含有共重合体ゴムの組成〕
ニトリル基含有共重合体ゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、H−NMR分析及び13C−NMR分析により求めた。なお、表1に示す1,3−ブタジエン単位は、1,3−ブタジエン単位中の炭素−炭素二重結合を水素化した構造単位を含むものである。
【0087】
〔ヨウ素価〕
ニトリル基含有共重合体ゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0088】
〔ムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)〕
ニトリル基含有共重合体ゴムのムーニー粘度は、JIS K 6300−1に従って測定した(単位は〔ML1+4、100℃〕)。
【0089】
〔耐燃料油浸漬試験〕
ゴム架橋物を、30mm×20mm×2mmの大きさに打ち抜き、得られた試験片を、トルエン/イソオクタン=50/50(体積比)の燃料油(Fuel−C)中に40℃で168時間浸漬することにより、耐燃料油浸漬試験を行った。そこから、JIS K 6258に従い、浸漬後の体積膨潤度ΔV(単位:%)を算出した。浸漬後の体積膨潤度ΔVが低いほど、耐燃料油性に優れる。
【0090】
〔耐寒性試験〕
ゴム架橋物を、JIS K 6261に従い、TR試験(低温弾性回復試験)により架橋物の耐寒性を測定した。TR10(単位:℃)が低いほど、耐寒性に優れる。
【0091】
上記の2つの試験で得られたΔVとTR10を、X軸とY軸にプロットした時、プロットが左下に近いほど、耐燃料油性と耐寒性が両立したバランスの良い材料といえる。
【0092】
〔合成例1〕
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル(ma1)23部、マレイン酸モノn−ブチル(md1)7部、アクリル酸2−メトキシエチル(mc)30部、及び、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン(mb1)40部を仕込んだ。金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応した。
【0093】
次いで、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて未反応の単量体を除去し、ニトリル基含有共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0094】
次いで、当該ラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1,000ppmになるように、オートクレーブ中に、当該ラテックス及びパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、ニトリル基含有共重合体ゴムのラテックスを得た。
【0095】
得られたニトリル基含有共重合体ゴムのラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、ろ過して固形物(クラム)を取り出し、それを、60℃で12時間真空乾燥することにより、ニトリル基含有共重合体ゴム[A]を得た。得られたニトリル基含有共重合体ゴム[A]は、ヨウ素価が7、ポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は50であった。得られたニトリル基含有共重合体ゴム[A]を構成する各単量体単位の含有割合を表1に示す。
【0096】
〔合成例2及び3〕
アクリロニトリル(ma2)、マレイン酸モノn−ブチル(md2)、アクリル酸2−メトキシエチル(mc)、及び1,3−ブタジエン(mb2)の使用量を表1に示す量へと変更とした以外は、合成例1と同様にして、ニトリル基含有共重合体ゴム[B1]、[B2]を得た。
【0097】
得られたニトリル基含有共重合体ゴムを構成する各単量体単位の含有割合、ヨウ素価及びポリマームーニー粘度を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
〔実施例1:[A]と[B1]のゴムブレンド試料の作製方法と評価結果〕
表2の配合量に従って、バンバリーミキサー、次いで、ロール混練機を用いて、架橋性ゴム組成物を調製した。まず、バンバリーミキサーを用いて、合成例1で得られたニトリル基含有共重合体ゴム[A]及び合成例2で得られた[B1]に、FEFカーボン(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製、カーボンブラック)、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(商品名「ADK Cizer C−8」、ADEKA社製、可塑剤)、4,4’−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラック CD」、大内新興化学社製、老化防止剤)、ステアリン酸、及びポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸(商品名「フォスファノールRL−210」、東邦化学社製、加工助剤)を添加して混練した。次いで、混練物をロール混練機に移して、さらに、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名「Diak#1」、デュポン・ダウ・エラストマー社製、ポリアミン系架橋剤)、及び、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン(商品名「ノクセラー DT」、大内新興化学社製、架橋促進剤)を添加して混練し、架橋性ゴム組成物を得た。
【0100】
そして、架橋性ゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状の架橋物を得た。次いで、得られた架橋物をギヤー式オーブンに移して170℃で4時間二次架橋した。得られたゴム架橋物について、耐寒性試験及び耐燃料油浸漬試験(トルエン/イソオクタン=50/50)の各評価を行った。結果を表2に示す。
【0101】
〔実施例2:[A]と[B2]のゴムブレンド試料の作製方法と評価結果〕
[B1]の代わりに[B2]を用いた以外は、実施例1と同様にしてゴム架橋物を得た。配合及び評価結果を表2に示す。
【0102】
〔比較例1:[B1]と[B2]のゴムブレンド試料の作製方法と評価結果〕
[A]の代わりに[B2]を用いた以外は、実施例1と同様にしてゴム架橋物を得た。配合及び評価結果を表2に示す。
【0103】
〔比較例2:[A]のみのゴム試料の作製方法と評価結果〕
[A]のみのゴム試料とした以外は、実施例1と同様にしてゴム架橋物を得た。配合及び評価結果を表2に示す。
【0104】
〔比較例3:[B1]のみのゴム試料の作製方法と評価結果〕
[B1]のみのゴム試料とした以外は、実施例1と同様にしてゴム架橋物を得た。配合及び評価結果を表2に示す。
【0105】
〔比較例4:[B2]のみのゴム試料の作製方法と評価結果〕
[B2]のみのゴム試料とした以外は、実施例1と同様にしてゴム架橋物を得た。配合及び評価結果を表2に示す。
【0106】
表2の数値を用いて、ΔV及びTR10を、それぞれX軸及びY軸にプロットしたものを図1〜3に示す。図1〜3は、本発明の実施例及び比較例における耐寒性及び耐燃料油性の測定結果を示す図である。
【0107】
図1より、実施例1−1〜1−3のブレンド体では、比較例2及び3の非ブレンドゴムのプロットより、左下に近づいていることが分かる。このことより、ブレンドすることにより、耐燃料油性及び耐寒性が共に向上していることが示された。
【0108】
図2でも、同様に、非ブレンドの比較例2及び4のプロットに比べ、実施例2−1〜2−3のブレンド体のプロットは左下に近づいており、耐燃料油性及び耐寒性が向上していることが示された。
【0109】
一方、図3に示されるとおり、比較例1のブレンド体では、そのプロットは左下から遠ざかっており、耐燃料油性及び耐寒性が悪化していることが示された。
【0110】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は様々なゴム製品に利用することができる。
図1
図2
図3