(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態であるアンテナ装置1の動作を解析するためのコンピュータ上のシミュレーションモデルを示した斜視図である。電磁界シミュレータとして、Microwave Studio(登録商標)(CST社)を使用した。
【0016】
アンテナ装置1は、第1の給電点11と、第2の給電点21と、グランドプレーン70と、第1の給電素子10と、第2の給電素子20と、第1の放射素子30と、第2の放射素子40とを備えている。第1の給電素子10は第1の放射素子30単体に対する給電部位であり、第2の給電素子20は第2の放射素子40単体に対する給電部位であり、アンテナ装置1としての給電部位ではない。アンテナ装置1としての給電部位は、第1の給電点11及び第2の給電点21の2つであり、アンテナ装置1はマルチアンテナである。
【0017】
第1の給電点11及び第2の給電点21はグランドプレーン70を利用した所定の伝送線路や給電線等に接続される給電部位である。所定の伝送線路の具体例として、マイクロストリップライン、ストリップライン、グランドプレーン付きコプレーナウェーブガイド(導体面とは反対側の表面にグランドプレーンが配置されたコプレーナウェーブガイド)などが挙げられる。給電線としては、フィーダー線や同軸ケーブルが挙げられる。
【0018】
本実施形態では、第1の給電点11及び第2の給電点21は、例えば、グランドプレーン70の外縁部71の中央部の近傍であって、中央部を軸として対称形状になるように、グランドプレーン70の異なる面に設けられている。
【0019】
グランドプレーン70は2枚の基板である第1の基板80及び第2の基板90に挟まれている。第1の基板80及び第2の基板90は、グランドプレーン70をグランド基準とする給電点11,21とを夫々備えている。グランドプレーン70は、
図1の場合、基板80と基板90に挟まれた内層形成された部位であるが、これに限られない。本実施形態では、第1の基板80(手前側)には、第1の給電素子10と第2の放射素子40とが配設されており、第2の基板90(奥側)には、第2の給電素子20と第1の放射素子30とが配設されている。
【0020】
図2は、
図1のアンテナ装置1の主要部の拡大図である。第1の給電素子10及び第2の給電素子20は、グランドプレーン70をグランド基準とする第1の給電点11及び第2の給電点21にそれぞれ接続された導体である。
【0021】
図2に示すように、第1の給電素子10及び第2の給電素子20は、放射素子30及び放射素子40から所定距離離れて配置された導体である。本実施形態では、第1の給電素子10は放射素子30から、第2の給電素子20は放射素子40から、それぞれZ軸に平行な方向成分を有する間隔を空けて、即ち、グランドプレーン70と基板80,90の分離れて、配置されている。しかし、給電素子10,20、放射素子30,40、並びにグランドプレーン70のZ軸に平行な高さ方向における各位置は
図2のように全て同じであってもよいし、又は一部のみが同じでもよいし、或いは互いに異なっていてもよい。
【0022】
第1の給電素子10は第1の給電点11を介して、第2の給電素子20は第2の給電点21を介して例えば、実装される給電回路86(例えば、不図示のICチップ等の集積回路)に接続される。給電回路86は、例えば、第1の基板80(
図2の手前側)又は第2の基板90(
図2の奥側)のいずれか一方にまとめて実装されてもよく、第1の基板80及び第2の基板90の両方に、それぞれの給電素子10,20に対応する給電回路を実装してもよい。或いは、給電回路86を基板80,90の外に配置して配線によりアンテナ装置1の給電点11,21と接続してもよい。第1の給電点11及び第2の給電点21と給電回路86は、少なくともスイッチ素子を含み又はスイッチ素子85と接続されており、さらに上記の異なる複数の種類の伝送線路や給電線を介して接続されてもよい。
【0023】
ここで、基板80は、上記スイッチ素子85を給電点11に接続するためのストリップ導体84を備えた伝送線路を有してもよい。ストリップ導体84は、例えば、グランドプレーン70との間に基板80を挟むように基板80の表面(内表面)に形成された信号線である。同様に、基板90は、スイッチ素子85を給電点21に接続するためのストリップ導体94を備えた伝送線路を有してもよい。ストリップ導体94は、例えば、グランドプレーン70との間に基板90を挟むように基板90の表面(内表面)に形成された信号線である。
【0024】
スイッチ素子85は、第1の給電素子10と第2の給電素子20とのいずれか一方を択一的に選択して給電回路86に接続する素子である。スイッチ素子85は、基板80,90のどちらかに配置され、給電回路86に接続している。第1の給電素子10を励起させる場合、スイッチ素子85によって、給電回路86を第1の給電素子10の給電点側端部16と接続された給電点11へ接続させ、第2の給電素子20と接続された給電点21を開放端にする。第2の給電素子20を励起させる場合、スイッチ素子85によって、給電回路86を第2の給電素子20の給電点側端部26と接続された給電点21へ接続させ、第1の給電素子10の給電点側端部16と接続された給電点11を開放端にする。このように、スイッチ素子85により、第1の給電素子10による励起と第2の給電素子20による励起を相補的に切り替え可能である。
【0025】
給電回路86において、給電点11と給電点21とで異なるマッチングの空間、周波数、偏波面、時間等の特性で励振するように設定し、スイッチ素子85でこの設定に沿うよう切り替えることで、アンテナ装置1は、ダイバーシティの機能を実現することができる。従って、アンテナ装置1は、その時々で、通信状態がより良好なアンテナの電波を採用するよう選択できる。
【0026】
複数の放射素子30,40を利用することにより、マルチバンド化、ワイドバンド化、指向性制御等の実施が容易となる。また、複数のアンテナが一つの無線装置(無線通信装置)に搭載されてもよい。或いは、放射素子は、第1の給電素子10及び第2の給電素子20で共通であってもよい。
【0027】
アンテナ装置1は、2つの給電点11,21を備えることによって、MIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナとして機能することができる。また、アンテナ装置1は、前記2つの給電点11,21によって、第1の給電素子と第2の給電素子両方を励起したとしても、第1の給電点11と第2の給電点21との間のアイソレーションを高く保つことが出来る。
【0028】
ここで、給電素子10,20及び放射素子30,40は、本実施形態の場合、
図2に示すように基板80,90の表面に設けられているが、基板80,90の内部に設けられてもよい。例えば、給電素子10,20と給電素子10,20に接する媒質とを含んで構成されたチップ部品が基板80又は/及び90に実装される。これにより、媒質に接した給電素子10,20を基板80,90に容易に実装できる。
【0029】
基板80,90は、誘電体、磁性体、又は誘電体と磁性体との混合物を基材とする基板である。誘電体の具体例として、樹脂、ガラス、ガラスセラミックス、LTCC(Low Temperature Co−Fired Ceramics)、アルミナなどが挙げられる。誘電体と磁性体との混合物の具体例として、FeやNi、Coなどの遷移元素、SmやNdなどの希土類元素を含む金属あるいは酸化物のいずれかを有していればよく、例えば、六方晶系フェライト、スピネル系フェライト(Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライトなど)、ガーネット系フェライト、パーマロイ、センダスト(登録商標)などが挙げられる。
【0030】
或いは、放射素子30,40がスマートフォン(無線装置)などのカバーガラスの表面に設けられる場合、放射素子30,40は、銅や銀などの導体ペーストをカバーガラスの表面に塗って焼成して形成されるとよい。このときの導体ペーストとして、カバーガラスに利用される化学強化ガラスの強化が鈍らない程度の温度で焼成できる低温焼成可能な導体ペーストを利用するとよい。また、酸化による導体の劣化を防ぐために、メッキなどを施してもよい。また、カバーガラスには加飾印刷が施されていてもよく、加飾印刷された部分に導体が形成されていてもよい。また、配線などを隠す目的でカバーガラスの周縁に黒色隠蔽膜が形成されている場合、放射素子30,40が黒色隠蔽膜上に形成されてもよい。
【0031】
図3A〜
図3Cは
図1及び
図2のアンテナ装置1の主要部のYZ軸方向の断面図を示す。詳しくは、
図2に示したアンテナ装置1の、
図3AはA−A’断面、
図3BはB−B’断面、
図3CはC−C’断面を示す。
図1〜
図3Cに示した本実施形態では、第1の給電素子10は、第1の放射素子30とZ軸に平行な方向での平面視において重複しており、第2の給電素子20は、第2の放射素子40とZ軸に平行な方向での平面視において重複している。しかし、第1の給電素子10と第1の放射素子30、第2の給電素子20と第2の放射素子40、の夫々が非接触で給電可能な距離離れていれば、Z軸に平行な方向での平面視において必ずしも重複していなくてもよい。或いは、X軸又はY軸に平行な方向などの任意の方向での平面視において重複していてもよい。給電素子、放射素子の他の配置構成は、別の実施形態として後述する。
【0032】
第1の給電素子10は、グランドプレーン70をグランド基準とする給電点11に接続された給電素子の一例である。第1の給電素子10は、第1の放射素子30に対して非接触で高周波的に結合して給電可能な導体である。第2の給電素子20は、グランドプレーン70をグランド基準とする給電点21に接続された給電素子の一例である。第2の給電素子20は、放射素子40に対して非接触で高周波的に結合して給電可能な導体である。
【0033】
第1及び第2の給電素子10,20は、例えば、給電素子10,20の少なくとも一部とグランドプレーン70とがグランドプレーン70の法線方向における平面視で重複しないように配置された線状の導体である。グランドプレーン70の法線方向は、
図1の場合、Z軸に平行な方向である。
【0034】
第1及び第2の給電素子10,20は、それぞれ、給電点接続部13,23と、先端部12,22とを備える。給電点接続部13,23と先端部12,22との間に折れ曲がり部14,24があり、給電点接続部13,23と先端部12,22とは90°の角度を有する連続形状である。
【0035】
第1及び第2の給電素子10,20は線状の導体部分を有する線状導体である。給電点接続部13,23は、例えば、XY平面に平行なグランドプレーン70の外縁部71から離れる方向に、給電点11,21を起点にまず折れ曲がり部14,24まで延伸している。先端部12,22は、折れ曲がり部14,24から端部15,25まで延伸する線状導体である。
【0036】
図1及び
図2には、グランドプレーン70に平行且つ外縁部71に直角な方向に延伸する給電素子10,20の給電点接続部13,23が例示されている。グランドプレーン70に平行且つ外縁部71に直角な方向は、
図1の場合、Y軸に平行な方向である。折れ曲がり部14,24は、外縁部71から直角の方向(Y軸方向)から端部15,25方向(X軸方向)へ延伸方向が変わる部分である。
【0037】
さらに、給電素子10,20の先端部12,22は、折れ曲がり部14,24から離れる方向であって、X軸方向と平行の方向に、端部15,25に向かって延伸している。
図1の場合、第1及び第2の給電素子10,20は、左右及び厚み方向で点対称となっている。
【0038】
図1には、XY平面内に配置されたL字状の2つの給電素子10,20が例示されているが、給電素子10,20は、折れ曲がり部14,24の角度は、90°でなくてもよく、給電素子10,20は曲線や直線状などの他の形状であってよい。また、給電素子10,20は、基板80,90のXY平面内で延在する導体部分と、XY平面とは異なる平面内(基板内面又は内部)で延在する導体部分とを有する導体でもよい。
【0039】
第1の放射素子30は、第1の給電素子10から離れて配置され、第1の給電素子10と電磁界結合(電磁界共振結合)することにより給電されて放射導体として機能する放射素子の一例である。即ち、第1の放射素子30は、第1の給電素子10が共振することにより給電され、放射導体として機能する。
第1の放射素子30は、第1の給電素子10から非接触で給電を受ける給電部50を有する線状導体である。
図1〜
図3Cにおいて、第1の放射素子30と第1の給電素子10は、互いに電磁界結合可能な距離で離れて配置されている。
【0040】
図1〜
図3Cに示す実施形態では、第1の放射素子30は、折れ線状の導体であり、端部31から折れ曲がり部35まで延伸する部位である第1の平行部32と、折れ曲がり部35から折れ曲がり部36まで第1の平行部32から離れるように延伸する傾斜部33と、折れ曲がり部36から端部37まで延伸する部位である第2の平行部34とを備えている。第2の平行部34が、第2の給電素子20の先端部22と近接して平行して延伸している。
【0041】
具体的には、放射素子30は2つの折れ曲がり部35,36を有する連続形状であり、傾斜部33と第1の平行部32との間は折れ曲がり部35で延伸方向が変わっている。所定の角度で屈折する折れ曲がり部35から折れ曲がり部36に向かって、傾斜部33として、グランドプレーン70及び給電素子10から離れる方向に延伸する。折れ曲がり部36から他方の開放端である端部37に向かって、第2の平行部34として、第2の給電素子20の先端部22と近接して平行して延伸している。詳しくは、第1の放射素子30は、第2の給電素子20の先端部22の近傍であって、第2の給電素子20よりもグランドプレーン70から離れた位置で延伸する第2の平行部34を含んでいる。さらに、前記第2の平行部34は、第2の給電素子20が配置されていない部分に延伸する部分、即ち、第1の給電素子10よりも長く、第1の平行部32と反対側へグランドプレーン70の外縁部71に沿って延伸している延伸部39(
図1参照)を含んでいる。
【0042】
また、同様に、放射素子40は2つの折れ曲がり部45,46を有する連続形状であり、傾斜部43と第1の平行部42との間は折れ曲がり部45で延伸方向が変わっている。所定の角度で屈折する折れ曲がり部45から折れ曲がり部46に向かって、傾斜部43として、グランドプレーン70及び給電素子20から離れる方向に延伸する。折れ曲がり部46から他方の開放端である端部47に向かって、第2の平行部44として、第1の給電素子10の先端部12と近接して平行して延伸している。さらに、前記第2の平行部44は、第2の給電素子20よりも長く、第1の平行部42と反対側へグランドプレーン70の外縁部71に沿って延伸している延伸部49(
図1参照)を含んでいる。
【0043】
なお、第1の給電素子10の先端部12と第2の放射素子40の第2の平行部44の一部又は全部と平行して近接して配置されている。第1の給電素子10と第2の放射素子40で容量結合や電磁界結合をしたとしても、第1の給電素子10と第1の放射素子30との電磁界結合の強度と比較して大幅に小さい。
【0044】
上述のように、放射素子30,40は、例えば、グランドプレーン70の外縁部71の外側に配置された線状の放射導体部分を有する線状導体である。放射素子30は、例えば、外縁部71に対してグランドプレーン70とは反対側に、外縁部71から所定の最短距離離れた状態で、外縁部71に平行な方向に延在している導体部分(第1の平行部)32を有している。例えば、所定の最短距離とは、放射素子30の基本モードの共振周波数における真空中の波長をλ
0とする場合、給電部50と、給電点11のグランド基準であるグランドプレーン70の外縁部71との最短距離は、0.0034λ
0以上0.21λ
0以下である。外縁部71に平行な方向は、
図1の場合、X軸に平行な方向である。放射素子30が、外縁部71に沿った第1の平行部32を有することによって、例えばアンテナ装置1の位置ロバスト性が向上する。
【0045】
図1には、XY平面内に配置された折れ線状の放射素子30が例示されているが、放射素子30は、曲線や直線、L字状などの他の形状であってよい。また、放射素子30は、XY平面内で延在する導体部分と、XY平面とは異なる平面内で延在する導体部分とを有する導体でもよい。
【0046】
放射素子40は、放射素子30と同一又は同様の形状を有しているとよいため、その詳細な構成についての説明は簡略する。放射素子40は、一方の端部41と他方の端部47とを有し、端部41から47までに折れ曲がり部45,46で2回折れ曲がって延伸している折れ線状のアンテナ導体である。放射素子40は、例えば、外縁部71に対してグランドプレーン70とは反対側に、外縁部71から所定の最短距離離れた状態で、外縁部71に平行な方向に延在している導体部分(第1の平行部)42を有している。同様に、放射素子40は、傾斜部43と第2の平行部44とをさらに有している。
このように構成される第2の放射素子40は、第2の給電素子20が共振することにより電磁界結合によって給電され、放射導体として機能する。
【0047】
第1の放射素子30と第2の放射素子40は、互いに異なる方向に延伸する導体であり、給電素子10,20から互いに離れる方向に延伸する導体である。このとき、Z軸に平行な方向での平面視において、放射素子30と放射素子40が交差するように配置すると、アンテナ装置1の実装面積を減らすことができる。放射素子30と放射素子40は、
図1の場合、互いに異なるXY平面内に配置された導体であるが、互いに同一の平面内に配置された導体でもよい。また、放射素子30と放射素子40は、
図1の場合、一直線上に位置しているが、互いに異なる直線上に位置してもよい。例えば、Z軸に平行な方向での平面視において、
図1の場合、給電素子10の端部15に対してグランドプレーン70から遠い側と近い側に配置されてもよい。
【0048】
給電素子10,20と放射素子30,40は、例えば、互いに電磁界結合可能な距離で離れて配置されている。放射素子30は、給電部50で給電素子10を介して電磁界結合によって非接触で給電される。このように給電されることによって、放射素子30は、アンテナの放射導体として機能する。
図1に示すように、放射素子30が2点間を結ぶ線状導体である場合、半波長ダイポールアンテナと同様の共振電流(分布)が放射素子30上に形成される。すなわち、放射素子30は、所定の周波数の半波長で共振するダイポールアンテナとして機能(以下、ダイポールモードという)する。また、放射素子がループ状導体であってもよい。放射素子がループ状導体である場合、ループアンテナと同様の共振電流(分布)が放射素子上に形成される。すなわち、放射素子は、所定の周波数の1波長で共振するループアンテナとして機能(以下、ループモードという)する。なお、放射素子40は、給電部60で給電素子20を介して電磁界結合によって非接触で給電されるが、放射素子30と同様であるため、その詳細についての説明は省略する。
【0049】
電磁界結合とは、電磁界の共鳴現象を利用した結合であり、例えば非特許文献(A.Kurs, et al,”Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances,”Science Express,Vol.317,No.5834,pp.83−86,Jul.2007.)に開示されている。電磁界結合は、電磁界共振結合又は電磁界共鳴結合とも称され、同じ周波数で共振する共振器同士を近接させ、一方の共振器を共振させると、共振器間に作られるニアフィールド(非放射界領域)での結合を介して、他方の共振器にエネルギーを伝送する技術である。また、電磁界結合とは、静電容量結合や電磁誘導による結合を除いた高周波における電界及び磁界による結合を意味する。なお、ここでの静電容量結合や電磁誘導による結合を除いたとは、これらの結合が全くなくなることを意味するのではなく、影響を及ぼさない程度に小さいことを意味する。
【0050】
給電素子10,20と放射素子30,40を電磁界結合させることによって、衝撃に対して強い構造が得られる。すなわち、電磁界結合の利用によって、給電素子10,20と放射素子30,40を物理的に接触させることなく、給電素子10,20を用いて放射素子30,40に給電できるため、物理的な接触が必要な接触給電方式に比べて、衝撃に対して強い構造が得られる。
【0051】
また、電磁界結合で給電する場合の方が、静電容量結合で給電する場合に比べて、給電素子10,20と放射素子30,40の離間距離(結合距離)の変化に対して、動作周波数における放射素子30,40の動作利得(アンテナ利得)は低下しにくい。ここで、動作利得とは、アンテナの放射効率×リターンロスで算出される量であり、入力電力に対するアンテナの効率として定義される量である。したがって、給電素子10,20と放射素子30,40を電磁界結合させることで、給電素子10,20と放射素子30,40の配置位置を決める自由度を高めることができ、位置ロバスト性も高めることができる。
【0052】
最近では、手への馴染みやすさへの考慮や、ディスプレイの視認性を向上及び/又は外因からの圧力での破壊の防止のため、ディスプレイやボディ全体が曲面へ所定量変形・湾曲可能になるよう柔軟性をもった携帯機器(無線装置)が提案されている。このような携帯機器に搭載されるアンテナは、ある程度曲がった場合でも送受信できるよう、外的要因による変化を内部で補償できる位置ロバスト性が高い構造が望ましい。
【0053】
なお、位置ロバスト性が高いとは、給電素子10,20及び放射素子30,40の配置位置等がずれても、放射素子30,40の動作利得に与える影響が低いことを意味する。また、給電素子10,20と放射素子30,40の配置位置を決める自由度が高いため、アンテナ装置1の設置に必要なスペースを容易に縮小できる点で有利である。また、電磁界結合の利用によって、容量板などの余計な部品を構成してなくても、給電素子10,20を用いて放射素子30,40に給電できるため、静電容量結合で給電する場合に比べて、簡易な構成での給電が可能である。
【0054】
また、給電素子10が放射素子30に給電する部位である給電部50は、
図1の場合、放射素子30の一方の端部31と他方の端部37との間の中央部38以外の部位(中央部38と端部31との間の部位)に位置している。このように、給電部50を放射素子30の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分(中央部38)以外の放射素子30の部位に位置させることによって、アンテナ装置1のインピーダンスマッチングを容易に取ることができる。
【0055】
給電部50は、放射素子30と給電素子10とが最近接する放射素子30の導体部分のうち給電点11に最も近い部分で定義される部位である。
【0056】
放射素子30のインピーダンスは、ダイポールモードの場合、放射素子30の中央部38から端部31又は端部37の方に離れるにつれて高くなる。電磁界結合における高インピーダンスでの結合の場合、給電素子10と放射素子30間のインピーダンスが多少変化しても一定以上の高インピーダンスで結合していればインピーダンスマッチングに対する影響は小さい。よって、マッチングを容易に取るために、放射素子30の給電部50は、放射素子30の高インピーダンスの部分に位置させることが好ましい。
【0057】
例えば、アンテナ装置1のインピーダンスマッチングを容易に取るために、給電部50は、放射素子30の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分(中央部38)から放射素子30の全長の1/8以上(好ましくは、1/6以上、さらに好ましくは、1/4以上)の距離を離した部位に位置するとよい。
図1の場合、放射素子30の全長は、放射素子40の全長L40と同じであり、給電部50は、中央部38に対して端部31側に位置している。
【0058】
第2の給電素子20が第2の放射素子40に給電する部位である給電部60は、放射素子40に給電する部位であるが、放射素子30と同じ機能を有しているとよいため、その詳細な構成についての説明は省略する。
【0059】
なお、放射素子の基本モードの共振がループモードの場合、給電部50,60は、放射素子の基本モードの共振周波数における最も高いインピーダンスになる部分からループの内周側の周長の3/16以下(好ましくは、1/8以下、さらに好ましくは、1/16以下)の距離を離した範囲内の部位に位置するとよい。
【0060】
また、給電素子10,20の共振の基本モードを与える電気長をLe10,Le20、放射素子30,40の共振の基本モードを与える電気長をLe30,Le40、放射素子30,40の基本モードの共振周波数f
1における給電素子10,20または放射素子30,40上での波長をλとして、Le10,Le20が、(3/8)・λ以下であり、かつ、Le30,Le40が、放射素子30の共振の基本モードがダイポールモードである場合、(3/8)・λ以上(5/8)・λ以下であり、放射素子30,40の共振の基本モードがループモードである場合、(7/8)・λ以上(9/8)・λ以下であることが好ましい。
【0061】
前記Le10,Le20は、(3/8)・λ以下が好ましい。また、グランドプレーン70の有無を含めその形状に自由度を与えたい場合には、(1/8)・λ以上(3/8)・λ以下がより好ましく、(3/16)・λ以上(5/16)・λ以下が特に好ましい。Le20がこの範囲内であれば、給電素子10,20が放射素子30,40の設計周波数(共振周波数f
1)にて良好に共振するため、アンテナ装置1のグランドプレーン70に依存せずに給電素子10,20と放射素子30,40とが共鳴して良好な電磁界結合が得られ好ましい。
【0062】
また、外縁部71が放射素子30,40に沿うようにグランドプレーン70が形成された場合、給電素子10,20は外縁部71との相互作用により、給電素子10,20とグランドプレーン上に、共振電流(分布)を形成することができ、放射素子30,40と共鳴して電磁界結合する。そのため、給電素子10,20の電気長Le10,Le20の下限値は特になく、給電素子10,20が放射素子30,40と物理的に電磁界結合できる程度の長さであればよい。また、電磁界結合が実現しているとは整合が取れているということを意味している。また、この場合、給電素子10,20が放射素子30,40の共振周波数に合わせて電気長を設計する必要がなく、給電素子10,20を放射導体として自由に設計することが可能になるため、アンテナ装置1の多周波化(マルチバンド化)を容易に実現できる。例えば、給電素子10と放射素子30は互いに異なる共振周波数を有し、給電素子20と放射素子40は互いに異なる共振周波数を有していてもよい。なお、放射素子30,40に沿うグランドプレーン70の外縁部71は、給電素子10,20の電気長と合計して設計周波数(共振周波数f
11)の(1/4)・λ以上の長さであることがよい。
【0063】
なお給電素子10,20の物理的な長さL10,L20は、整合回路などを含んでいない場合、放射素子の基本モードの共振周波数における真空中の電波の波長をλ
0として、実装される環境による短縮効果の短縮率をk
1としたとき、λ
g1=λ
0・k
1によって決定される。ここでk
1は、給電素子20の環境の実効比誘電率(ε
r1)および実効比透磁率(μ
r1)などの給電素子が設けられた誘電体基材等の媒質(環境)の比誘電率、比透磁率、および厚み、共振周波数などから算出される値である。すなわち、L20は、(3/8)・λ
g1以下である。給電素子10,20の物理的な長さL10,L20は、Le20を与える物理的な長さであり、その他の要素を含まない理想的な場合、Le10,Le20と等しい。給電素子20が、整合回路などを含む場合、L10,L20は、ゼロを超え、Le20以下が好ましい。L20はインダクタ等の整合回路を利用することにより短く(サイズを小さく)することが可能である。
【0064】
また、放射素子30,40の電気長Le30,Le40は、放射素子の共振の基本モードがダイポールモード(放射素子の両端が開放端であるような線状の導体)である場合、(3/8)・λ以上(5/8)・λ以下が好ましく、(7/16)・λ以上(9/16)・λ以下がより好ましく、(15/32)・λ以上(17/32)・λ以下が特に好ましい。また、高次モードを考慮すると、前記Le31は、(3/8)・λ・m以上(5/8)・λ・m以下が好ましく、(7/16)・λ・m以上(9/16)・λ・m以下がより好ましく、(15/32)・λ・m以上(17/32)・λ・m以下が特に好ましい。ただし、mは高次モードのモード数であり、自然数である。mは1〜5の整数が好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。m=1の場合は基本モードである。Le30,Le40がこの範囲内であれば、放射素子30,40が充分に放射導体として機能し、アンテナ装置1の効率が良く好ましい。
【0065】
また同様に、放射素子の共振の基本モードがループモード(放射素子がループ状の導体)である場合、前記Le30,Le40は、(7/8)・λ以上(9/8)・λ以下が好ましく、(15/16)・λ以上(17/16)・λ以下がより好ましく、(31/32)・λ以上(33/32)・λ以下が特に好ましい。また、高次モードについては、前記Le30,Le40は、(7/8)・λ・m以上(9/8)・λ・m以下が好ましく、(15/16)・λ・m以上(17/16)・λ・m以下がより好ましく、(31/32)・λ・m以上(33/32)・λ・m以下が特に好ましい。
【0066】
なお放射素子30,40の物理的な長さL30,L40は、放射素子の基本モードの共振周波数における真空中の電波の波長をλ
0として、実装される環境による短縮効果の短縮率k
2をとしたとき、λ
g2=λ
0・k
2によって決定される。ここでk
2は、放射素子30の環境の実効比誘電率(ε
r2)および実効比透磁率(μ
r2)などの放射素子が設けられた誘電体基材等の媒質(環境)の比誘電率、比透磁率、および厚み、共振周波数などから算出される値である。すなわち、L30,L40は、放射素子の共振の基本モードがダイポールモードである場合、(3/8)・λ
g2以上(5/8)・λ
g2以下、放射素子の共振の基本モードがループモードである場合、(7/8)・λ
g2以上(9/8)・λ
g2以下である。放射素子30,40の物理的な長さL30,L40は、それぞれLe30,Le40を与える物理的な長さであり、その他の要素を含まない理想的な場合、Le30,Le40と等しい。L30,L40は、インダクタ等の整合回路を利用することにより短くしたとしても、ゼロを超え、Le30,Le40以下が好ましく、Le30,Le40の0.4倍以上1倍以下が特に好ましい。
【0067】
また、
図1に示すように給電素子10,20とグランドプレーン70の外縁部71との相互作用を利用できる場合において、給電素子10,20を前述のように放射導体として機能させてもよい。放射素子30,40は、給電素子10,20によって給電部50,60で非接触に電磁界結合で給電されることにより、例えば、λ/2ダイポールアンテナとして機能する放射導体である。一方、給電素子10,20は、放射素子30,40に対して給電可能な線状の給電導体であるが、給電点11,21で給電されることにより、モノポールアンテナ(例えば、λ/4モノポールアンテナ)として機能することも可能な放射導体である。放射素子30,40の共振周波数をf
1、給電素子10,20の共振周波数を共振周波数f
1とは異なるf
2と設定し、給電素子10,20の長さを周波数f
2で共振するモノポールアンテナとして調整すれば、給電素子10,20の放射機能を利用することができ、アンテナ装置1の多周波化(マルチバンド化)を容易に実現できる。
【0068】
給電素子10,20の放射機能を利用したときの物理的な長さL10,L20は、整合回路などを含んでいない場合、給電素子10,20の共振周波数f
2における真空中の電波の波長をλ
1として、実装される環境による短縮効果の短縮率をk
1としたとき、λ
g3=λ
1・k
1によって決定される。ここでk
1は、給電素子10,20の環境の実効比誘電率(ε
r1)および実効比透磁率(μ
r1)などの給電素子が設けられた誘電体基材等の媒質(環境)の比誘電率、比透磁率、および厚み、共振周波数などから算出される値である。すなわち、L20は、(1/8)・λ
g3以下(3/8)・λ
g3以下であり、好ましくは、(3/16)・λ
g3以上(5/16)・λ
g3以下である。給電素子10、20の物理的な長さL20は、Le20を与える物理的な長さであり、その他の要素を含まない理想的な場合、Le20と等しい。給電素子10,20が、整合回路などを含む場合、物理的な長さL10,L20は、ゼロを超え、電気長Le10,Le20以下が好ましい。L10,L20はインダクタ等の整合回路を利用することにより短く(サイズを小さく)することが可能である。
【0069】
また、放射素子30,40の基本モードの共振周波数における真空中の電波波長をλ
0とする場合、給電素子10,20と放射素子30,40との最短距離xは、0.2×λ
0以下(より好ましくは、0.1×λ
0以下、更に好ましくは、0.05×λ
0以下)であると好適である。給電素子10,20と放射素子30,40をこのような最短距離xだけ離して配置することによって、放射素子30,40の動作利得を向上させる点で有利である。
【0070】
なお、最短距離xとは、給電素子10,20と放射素子30,40において、最も近接している部位間の直線距離である。また、給電素子10,20と放射素子30,40は、両者が電磁界結合していれば、任意の方向から見たときに、交差しても交差しなくてもよいし、その交差角度も任意の角度でよい。
【0071】
最短距離xとなる位置は給電素子10,20と放射素子30,40との結合が強い部位であり、最短距離xで並走する距離が長いと、放射素子30,40のインピーダンスが高い部分と低い部分の両方と強く結合することになるため、インピーダンスマッチングが取れない場合がある。よって、放射素子30,40のインピーダンスの変化が少ない部位のみと強く結合するために最短距離xで並走する距離は短い方がインピーダンスマッチングの点で有利である。
【0072】
具体的には、最短距離xで並走する距離は、ダイポールモードの場合は、放射素子30,40の長さの3/8以下であることが好ましい。例えば、
図1の寸法例としては、給電素子10と放射素子30が電磁界結合する並走距離xは放射素子30の長さのおおよそ2.2/8である。
【0073】
図1の場合、最短距離xは、給電素子10の折れ曲がり部14と端部15との間に位置する先端部12と、放射素子30の折れ曲がり部35と端部31との間に位置する第1の平行部32に位置する給電部50との最短距離である。及び、給電素子20の折れ曲がり部24と端部25との間に位置する先端部22と、放射素子40の折れ曲がり部45と端部41との間に位置する第1の平行部42に位置する給電部60との最短距離である。なお、基板80,90に変形が生じた場合に、放射素子30,40において、給電部50,60の位置が、傾斜部33,43になることもありうる。
【0074】
図1の放射素子30は、給電素子10によって給電部50で非接触に給電されることにより、特に、電磁界結合で給電されることにより、ダイポールモードで動作するアンテナ(例えば、λ/2ダイポールアンテナ)として機能する放射導体である。放射素子40についても同様である。
【0075】
一方、給電素子10,20は、放射素子30,40に対して給電可能な線状の給電導体であるが、給電点11,21で給電されることにより、モノポールモードで動作するアンテナ(例えば、λ/4モノポールアンテナ)として機能することも可能な放射導体である。
【0076】
放射素子30は、中央部38に対して端部31寄りに給電部50を有しているので、給電素子10と高インピーダンスで電磁界結合する。同様に、放射素子40は、中央部48に対して電磁界結合する方の端部41寄りに給電部60を有しているので、給電素子20と高インピーダンスで電磁界結合する。
【0077】
給電素子10,20が高インピーダンスで放射素子30と放射素子40のいずれにもマッチングした状態、つまり、電磁界結合している状態では、アンテナ装置1の指向性は、第1の給電素子10と第2の給電素子20の中間を取るYZ平面に対して、環境が一様であれば線対称になる。
【0078】
図4は放射素子の共振周波数における電流の大きさと向きを示すシミュレーション図である。
図4は第1の給電素子10を励起したときの電流の流れを示す平面概略説明図である。なお、
図1の実施形態では、給電素子10,20の先端部12,22と放射素子30,40の第1の平行部32,42はZ方向で重なっているが、
図4では説明のため位置をずらして記載している。また、
図4では、第1の放射素子30と第2の放射素子40は、交差して表されているが、夫々が配置される基板80,90が異なっているため、短絡はしていない。
【0079】
図4において、電流の大きさは矢印の太さで示す。図中、白抜き矢印で示すように、励起された電流の位相に依らず、第2の給電素子に電流を相互に打ち消すように逆向きの電流(キャンセル電流)を発生させて、第2の給電素子における電流値が低下する。
【0080】
例えば、
図4の場合では、第1の放射素子30において、第1の給電素子10によって励起されることにより、Ia方向に電流が流れる。さらに、第1の放射素子30の第2の平行部34は第2の給電素子20の先端部22よりも長くグランドプレーン70に沿って延伸している(延伸部39に該当)ので、第1の放射素子30の電流Iaがグランドプレーン70に影響することで、グランドプレーン70を介して第2の給電素子20に電流Iaが流れる。このように作成される経路において、電流Iaは共振電流として分布する。
【0081】
一方、第1の給電素子10が給電点11によって給電・励起されることにより、グランドプレーン70内で給電点11へ収束するように電流Ibが発生し、さらにその電流Ibは収束する向きに第2の給電素子20へ流れる。この時、第2の放射素子40は、周囲の電磁界、特に第1の放射素子30に流れる電流が作成する電磁界の影響を受けて、Ib方向の電流が流れている。ここで、第2の放射素子40を通って、第2の給電素子20に流れる電流Ibとグランドプレーン70内で給電点11により発生する電流Ibは一体となって電流の経路を作成している。このように作成される経路において、電流Ibは共振電流として分布する。
【0082】
このように、意図的に作成した別のカップリング経路により共振電流を形成し、第2の給電素子20において打ち消しあう電流(キャンセル電流)として機能させ、第2の給電素子20における電流値を低下させている。
【0083】
従って、電流の位相に依らず、第2の給電素子20における不要な電流が抑えられ、アイソレーションの特性を向上させることができる。従って、追加の無給電素子を配置しなくても、アイソレーションの特性を向上させることができるため、アンテナ装置としての実装性が向上する。
【0084】
また、
図4では、第1の給電素子10が給電点11によって給電・励起される例を示したが、第2の給電素子20が、給電点21によって、給電・励起されてよい。この場合も、構造の対称性から、別のカップリング経路により形成される共振電流が、第1の給電素子10においてキャンセル電流として機能し、アイソレーションの特性を向上させることができる。
【0085】
<S11,S21特性>
図5Aは、シミュレーション上で得られたアンテナ装置1のS11特性である。なお、S11特性とは、高周波電子部品等の特性の一種であり、本明細書においては周波数に対する反射損失(リターンロス)で表したマッチング特性とする。具体的に、
図5Aは、
図1のアンテナ装置1の構成において、給電素子10の給電点側端部16とグランドプレーン70の外縁部71との間の給電点11でギャップ給電したときのS11特性についての計算結果である。なお、設計周波数は、1.35GHzである。
【0086】
図5Bは、シミュレーション上で得られたアイソレーション特性S21を示す。なお、
図5A及び
図5Bを解析したときのシミュレーション条件の
図1〜
図3Cに示す各部の寸法は、単位をmmとすると、
給電素子及び放射素子とグランドプレーンとの最短距離 L13:5
先端部の長さ L12:18
第2の平行部の長さ L34:40
第2の平行部とグランドプレーンの距離 L37:10
給電素子の導体幅 W10:0.5
放射素子の導体幅 W30:0.5
給電素子の厚み T10:0.018
放射素子の厚み T30:0.018
基板及びグランドプレーンのY方向長さ L81:120
基板のX方向長さ L82:150
グランドプレーンのY方向長さ L71:70
給電素子10と20の距離 L83:7
グランドプレーンの厚み T70:0.0018
基板の厚み T80,T90:0.8
である。誘電体である基板80,90の比誘電率は3.3、tanδ=0.003である。なお、給電素子20は給電素子10と対称であって同じ寸法であり、放射素子40は放射素子30と対称であって同じ寸法であるとする。
【0087】
図5Aにおいて、マッチング特性でS11が最小値になるところがインピーダンス整合のとれる、インピーダンス整合周波数であり、この値を動作周波数とする。また、
図5Bにおいて、S21の値が局所的に低下し、最小となるところが、アイソレーション極小周波数であって、この周波数で高いアイソレーションが取れる。
【0088】
本発明の構成では、
図4に示すように、第2の給電素子でキャンセル電流が発生することで、動作周波数付近のアイソレーションが向上している。従って、
図5Aでの最小値である動作周波数付近で、
図5Bで示すアイソレーション周波数S21もほぼ極小値となる。即ち、インピーダンス整合周波数と、アイソレーション極小周波数とが略一致する。
【0089】
<第2実施形態>
上述のようなアンテナは搭載される端末(無線装置)の周囲の環境の影響により、アンテナ特性が変動するおそれがある。特に、搭載された端末の位置移動により、周囲の遮蔽物の環境が変化し、アンテナ特性がずれた場合は、そのずれた分を補正するためのチューニングが可能になるように、インピーダンス可変手段をさらに備えてもよい。
【0090】
本実施形態において、インピーダンス可変手段を設けることにより、段階的なチューニングが可能となる。
【0091】
図6Aは、本発明の第2実施形態に係るアンテナ装置2の動作を解析するためのコンピュータ上のシミュレーションモデルを示した斜視図である。電磁界シミュレータとして、Microwave Studio(登録商標)(CST社)を使用した。
【0092】
アンテナ装置2は、無線装置(無線通信装置)100の筐体50へ実装させてもよい。
図6Bは、無線装置100の平面図であって、給電素子10,20及び放射素子30,40、並びにグランドプレーン70等のアンテナ装置2の構成要素の配置位置を見やすくするため、透視的に示した図である。
【0093】
無線装置100は、人が携帯可能な無線装置である。無線装置100の具体例として、情報端末機、携帯電話、スマートフォン、パソコン、ゲーム機、テレビ、音楽や映像のプレーヤーなどの電子機器が挙げられる。なお、他の実施形態のアンテナ装置も、無線装置へ実装させてもよい。
【0094】
本実施形態のアンテナ装置2と、
図1のアンテナ装置1との違いは、本実施形態では、放射素子30,40にインピーダンス可変手段300,400をさらに設けたことである。インピーダンス可変手段300,400としては、例えばインダクタやキャパシタ、可変容量ダイオードである。インピーダンス可変手段は、スイッチのオンオフにより2値的に切り替えてもよいし、インピーダンスを連続的に変化させてもよい。
【0095】
このように設けられたインピーダンス可変手段300、400は、アンテナ装置2へ入力された外部信号によりインピーダンス値を直接制御する。或いは、アンテナ装置2は、例えば、インピーダンス可変手段300,400を制御することにより放射素子30及び放射素子40の基本モードの共振周波数を調整するマッチング回路を備え、結合状態を変化させることに連動して、共振周波数を調整してもよい。
【0096】
図7A,7Bは、
図6Aのようにインピーダンス可変手段300,400を設けることにより、段階的なチューニングを行ったS11特性図である。
【0097】
一例として
図6Aのように放射素子30,40に直列に挿入されたインピーダンス可変手段300,400のインダクタ値を変化させてシミュレーションを行ったグラフを示す。
図7A,7Bの寸法測定条件は、
図5A,
図5Bの条件に加えて、インピーダンス可変手段300,400を設置する位置は、単位をmmとして、
端部から可変インダクタまでの距離 L300,L400:29.5
である。
【0098】
図7のシミュレーションでは、インピーダンス可変手段のインダクタを変化させた。
【0099】
本実施形態においても、上述の実施形態同様に、
図4のように、第2の給電素子20において、意図的に作成した別のカップリング経路により、打ち消しあう電流(キャンセル電流)を発生させることで、電流値を低下させている。従って、アンテナ全体のアイソレーションが高められる。従って、追加の無給電素子を配置しなくても、アンテナ全体のアイソレーションが高められる。即ち、給電素子でキャンセル電流が発生することで、動作周波数付近のアイソレーションが向上している。
【0100】
さらに、本実施形態において、インピーダンス可変手段によりインダクタ値を制御することで、インピーダンス整合周波数を制御するときも、同様のキャンセル電流が発生するので、アイソレーション極小周波数も制御することができる。従って、S11が最小値である動作周波数付近で、それぞれのインダクタ値に対して、対応するS21も極小値となる。即ち、インピーダンス整合周波数と、アイソレーション極小周波数とが略一致する。なお、アイソレーション極小周波数は周囲と比べて比較的小さい値になっている箇所で、値の大小による差はここでは考慮しない。
【0101】
また、インピーダンス可変手段により、インピーダンス整合周波数とアイソレーション極小周波数の両方を制御する。
図7A及び
図7Bのグラフからわかるように、インピーダンス整合周波数(動作周波数)を調整して変化させた場合であっても、給電素子でキャンセル電流が発生することで、動作周波数付近のアイソレーションが向上しているので、インピーダンス整合周波数とアイソレーション極小周波数が略一致する。
【0102】
よって、
図7Bでは、インピーダンス可変手段によりインピーダンス整合周波数を変化するにつれて(
図7A参照)、アイソレーション極小周波数も略一致して変化するように制御されている。
【0103】
従って、インピーダンス整合周波数とアイソレーション極小周波数を、多段階的なチューニングが可能となる。このような周波数の制御を用いることで、周波数特性を変えることが可能になり、変化する端末の周辺機器の環境へ対応することができる。
【0104】
<第3実施形態>
上述の第1実施形態及び第2実施形態では、給電素子と放射素子はYZ方向で重なるように配置されていた。しかし、本発明は、
図4に示すようキャンセル電流を発生させる構成例は、この構成に限られず、別の構成であってもよい。
【0105】
図8は、本発明の第3実施形態であるアンテナ装置3の動作を解析するためのコンピュータ上のシミュレーションモデルを示した斜視図である。
図9A〜9Cは、
図8のアンテナのYZ方向断面図である。
【0106】
本実施形態では、給電素子と放射素子はZ方向で同じ位置には配置されていない点を除いて、上述の実施形態と同様の構成を有る。本実施形態では、A−A’断面では
図9Aに示すように、第2の給電素子20Aと第2の放射素子40Aは、Z方向で少しずれた位置で電磁界結合する。同様に、C−C’断面では
図9Cに示すように、第1の給電素子10Aと第1の放射素子30Aは、Z方向で少しずれた位置で電磁界結合する。
【0107】
このような構成でも、第1の放射素子10Aの放射部は、第2の給電素子20Aの近傍であって第2の給電素子20Aよりもグランドプレーン70から離れた位置で延伸する部分を含んでいる。さらに、第1の放射素子30Aの第2の給電素子20A近傍に延伸する部分は、第2の給電素子20Aが配置されていない部分に、電磁界結合する部分と反対側にグランドプレーン70の外縁部71に沿って延伸している。
【0108】
第1の放射素子30Aの前記延伸部分と、励起する第1の給電素子10Aの電磁界により、
図4に示すように、第2の給電素子20において、意図的に作成した別のカップリング経路により、打ち消しあう電流(キャンセル電流)を発生させることで、電流値を低下させている。従って、追加の無給電素子を配置しなくても、給電素子でキャンセル電流が発生することで、動作周波数付近のアイソレーションが向上し、インピーダンス整合周波数とアイソレーション極小周波数が略一致する。
【0109】
<第4実施形態>
図10は、本発明の第4実施形態であるアンテナ装置4の動作を解析するためのコンピュータ上のシミュレーションモデルを示した斜視図である。
図11A〜11Cは、
図10のアンテナのZ方向断面図である。
【0110】
本実施形態では、第1の給電素子10Bと第1の放射素子30Bが同じ基板に配置され、第2の給電素子20Bと第2の放射素子40Bが同じ基板に配置される。基板以外の寸法は、
図1の構成と同様であるため、説明を割愛する。
【0111】
本実施形態では、A−A’断面では
図11Aに示すように、第2の給電素子20Bと第2の放射素子40Bは、同じ基板上であって、所定の距離X方向に離れた位置で電磁界結合する。同様に、C−C’断面では
図11Cに示すように、第1の給電素子10Bと第1の放射素子30Bは、同じ基板上であって、X方向に離れた位置で電磁界結合する。
【0112】
このような構成でも、第1の放射素子30Bの放射部は、第2の給電素子20Bの近傍であって第2の給電素子20Bよりもグランドプレーン70から離れた位置で延伸する部分を含んでいる。さらに、第1の放射素子30Bの第2の給電素子20B近傍に延伸する部分は、第2の給電素子20Bが配置されていない部分に、電磁界結合する部分と反対側にグランドプレーン70の外縁部71に沿って延伸している。
【0113】
第1の放射素子30Bの前記延伸部分と、励起する第1の給電素子10Aの電磁界により、
図4に示すように、第2の給電素子20において、意図的に作成した別のカップリング経路により、打ち消しあう電流(キャンセル電流)を発生させることで、電流値を低下させている。従って、追加の無給電素子を配置しなくても、給電素子でキャンセル電流が発生することで、動作周波数付近のアイソレーションが向上し、インピーダンス整合周波数とアイソレーション極小周波数が略一致する。
【0114】
上述の第1実施形態〜第4実施形態では、第1、第2の給電素子と放射素子は、最近接箇所は、平行に交差していた。しかし、電磁界結合する部分は、平行でなくてもよい。
給電素子10,20と放射素子30,40との交差角度が異なるアンテナ装置の実施形態バリエーションであってもよい。給電素子10,20と放射素子30,40は、どのような角度で交わっていても、両素子が電磁界結合していれば、放射素子30,40の動作利得は所望の値を確保できる。また、交差角度を変化させても、放射素子30,40の動作利得の特性には、ほとんど影響しない。
【0115】
なお、キャンセル電流を発生させるためには、例えば、第4実施形態のように第1の給電素子10Bと第1の放射素子30B、第2の給電素子20Bと第2の放射素子40Bが同じ基板に配置される構成例では、給電素子と放射素子が水平方向において近接するが、接触・交差させないように配置し、短絡させないようにする。
【0116】
上述の実施形態では、放射素子は2つ配置されていた。しかし、本発明において、
図4に示すようなキャンセル電流を発生させる構成例は、この構成に限られず、別の構成であってもよい。例えば、放射素子が1つであってもよい。
【0117】
以上、アンテナを複数の実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0118】
例えば、アンテナは、図示の形態に限られない。例えば、アンテナは、放射素子に直接又は接続導体を介して間接的に接続された導体部分を有するものでもよいし、放射素子に高周波的(例えば、容量的)に結合された導体部分を有するものでもよい。
【0119】
また、給電素子、放射素子は、直線的に延びる線状導体に限らず、曲がった導体部分を含むものでもよい。例えば、L字状の導体部分を含むものでもよいし、メアンダ形状の導体部分を含むものでもよいし、途中で分岐した導体部分を含むものでもよい。
【0120】
また、グランドプレーンを有する伝送線路は、マイクロストリップラインに限られない。例えば、ストリップライン、グランドプレーン付きコプレーナウェーブガイド(導体面とは反対側の表面にグランドプレーンが配置されたコプレーナウェーブガイド)などが挙げられる。
【0121】
また、グランドプレーンは、図示の外形形状に限られず、他の外形形状を有する導体パターンでもよい。また、グランドプレーンは、平面状に形成された形態に限られず、曲面状に形成された形態でもよい。同様に、板状導体は、図示の外形形状に限られず、他の外形形状を有する導体でもよい。また、板状導体は、平面状に形成された形態に限られず、曲面状に形成された形態でもよい。
【0122】
また、「板状」には、「箔状」又は「フィルム状」の意味が含まれてよい。
【0123】
以上、マルチアンテナを実施形態及び実施例により説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。他の実施形態及び実施例の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0124】
本出願は、2014年5月30日に日本国特許庁に出願された特願2014−113074号に基づく優先権を主張するものであり、特願2014−113074号の全内容を本出願に援用する。