(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂層(B)に、ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂層(C)が積層され、さらに前記樹脂層(B)が積層された請求項1〜3のいずれかに記載の保香性フィルム。
ヘキサン酸エチルの含有濃度が50ppmのエタノール/水混合液(質量比15/85)を4ml封入し、25℃、40%Rh環境下で1週間静置した際の混合液中のヘキサン酸エチルの残存率が60%以上である請求項5又は6に記載の包装材。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の保香性フィルムは、少なくとも、シール層(A)と、環状ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂層(B)とを有する多層フィルムであり、シール層(A)が当該多層フィルムの一方の表層となる。そして、樹脂層(B)のシール層(A)側表面から多層フィルムの一方の表層となるシール層(A)の表面までの厚みが1〜15μm、前記シール層(A)の厚みが1〜10μm、総厚みが50μm以下の保香性フィルムである。
【0012】
[シール層]
本発明の保香性フィルムに使用するシール層(A)は、ヒートシールによりシーリング可能な層であり、その厚みが1〜10μmである。シール層(A)の厚みを当該厚みとすることで、得られる多層フィルムの優れた保香性を実現できる。当該厚みは好適な接着性を兼備しやすいことから、好ましくは3〜10μmであり、より好ましくは3〜8μmであり、特に好ましくは4〜8μmである。また、樹脂層(B)等の隣接する層との間で、特に優れた層間強度を確保する際には、4μm以上とすることが好ましい。
【0013】
当該シール層(A)に使用する樹脂としては、食品等の包装材のヒートシール層として使用され樹脂種を適宜使用すればよく、例えば、ポリオレフィン系樹脂を含有するシール層を好ましく使用できる。当該ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリエチレン樹脂や、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体(E−EA−MAH)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン系共重合体;更にはエチレン−アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマー等が挙げられ、単独でも、2種以上を混合して使用しても良い。
【0014】
なかでも、薄肉でも好適なヒートシール性を確保しやすく、また、樹脂層(B)等の他の樹脂層との接着性が高く、該層と共押出した際、製膜安定性を向上させやすいことから低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリエチレン系樹脂を好ましく使用でき、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を特に好ましく使用できる。
【0015】
LDPEとしては高圧ラジカル重合法で得られる分岐状低密度ポリエチレンであれば良く、好ましくは高圧ラジカル重合法によりエチレンを単独重合した分岐状低密度ポリエチレンである。
【0016】
LLDPEとしては、シングルサイト触媒を用いた低圧ラジカル重合法により、エチレン単量体を主成分として、これにコモノマーとしてブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン等のα−オレフィンを共重合したものを好ましく使用できる。LLDPE中のコモノマー含有率としては、0.5〜20モル%の範囲であることが好ましく、1〜18モル%の範囲であることがより好ましい。
【0017】
前記シングルサイト触媒としては、周期律表第IV又はV族遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物の組合せ等のメタロセン触媒系などの種々のシングルサイト触媒が挙げられる。また、シングルサイト触媒は活性点が均一であるため、活性点が不均一なマルチサイト触媒と比較して、得られる樹脂の分子量分布がシャープになるため、フィルムに成膜した際に低分子量成分の析出が少なく、シール強度の安定性や耐ブロッキング適性に優れた物性の樹脂が得られるので好ましい。
【0018】
エチレン系樹脂の密度は0.880〜0.970g/cm
3であることが好ましい0.900〜0.965g/cm
3の範囲。密度がこの範囲であれば、適度な剛性を有し、ヒートシール強度や耐ピンホール性等の機械強度も優れ、フィルム成膜性、押出適性が向上する。また、融点は、一般的には60〜130℃の範囲であることが好ましく、70〜120℃がより好ましい。融点がこの範囲であれば、加工安定性や層(B)との共押出加工性が向上し、更に柔軟性もあることから、耐ピンホール性も良好となる。また、エチレン樹脂のMFR(190℃、21.18N)は2〜20g/10分であることが好ましく、3〜10g/10分であることがより好ましい。MFRがこの範囲であれば、フィルムの押出成形性が向上する。
【0019】
プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン・α―オレフィンランダム共重合体、例えば、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、メタロセン触媒系ポリプロピレンなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。望ましくはプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体であり、特にメタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体が好ましい。
【0020】
また、これらのポリプロピレン系樹脂は、MFR(230℃)が0.5〜30.0g/10分で、融点が110〜165℃であるものが好ましく、より好ましくは、MFR(230℃)が2.0〜15.0g/10分で、融点が115〜162℃のものである。MFR及び融点がこの範囲であれば、得られるフィルムの寸法安定性が良好で、更にフィルムとする際の成膜性も向上する。
【0021】
また、シール層(A)に使用するポリオレフィン系樹脂としては、後述する環状オレフィン系樹脂を使用してもよい。シール層として環状オレフィン系樹脂を使用する場合には、環状オレフィン系樹脂からなるシール層であってもよいが、好適なヒートシール性を得やすいことから、環状オレフィン系樹脂の含有量が30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明に使用するポリオレフィン系樹脂を含有するシール層(A)には、上記ポリオレフィン系樹脂以外の他の成分を含有してもよい。当該他の成分としては、ポリオレフィン系樹脂と共押出可能な各種樹脂を使用できる。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂を含有するシール層(A)中のポリオレフィン系樹脂の含有量は90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、実質的にポリオレフィン系樹脂からなることがさらに好ましい。なかでもポリエチレン系樹脂の含有量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的にポリエチレン系樹脂からなることがさらに好ましい。
【0024】
[樹脂層(B)]
本発明に使用する樹脂層(B)は、環状ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂層である。本発明の保香性フィルムは当該樹脂層(B)を総構成中に有することで、好適な保香性を実現できる。また、隣接する層との層間強度を高くでき、好適なシール強度や耐破袋性を実現できる。
【0025】
当該環状オレフィン系樹脂としては、その構造においては特に限定されるものではなく、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」という。)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のオレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」という。)等が挙げられる。さらに、COP及びCOCの水素添加物は、特に好ましい。また、環状オレフィン系樹脂の重量平均分子量は、5,000〜500,000が好ましく、より好ましくは7,000〜300,000である。
【0026】
前記ノルボルネン系重合体の原料となるノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を有する脂環族系単量体である。このようなノルボルネン系単量体としては、例えば、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデテトラシクロドデセン、ジシクロペンタジエン、ジメタノテトラヒドロフルオレン、フェニルノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、メトキシカルボニルテトラシクロドデセン等が挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0027】
前記ノルボルネン系単量体と共重合可能なオレフィンとを共重合したノルボルネン系共重合体に使用するオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素原子数2〜20個を有するオレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン;1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエンなどが挙げられる。これらのオレフィンは、それぞれ単独でも、2種類以上を併用することもできる。
【0028】
本発明に使用する樹脂層(B)においては、環状ポリオレフィン系樹脂を70質量%以上含有することで、好適な低吸着性と耐破袋性とを実現できる。また、好適な直進カット性を得やすくなるため易引裂き性も向上させやすくなる。当該環状ポリオレフィン系樹脂の含有量は、好ましくは樹脂層(B)の98質量%以上であり、実質的に環状ポリオレフィン系樹脂からなる層とすることがより好ましい。
【0029】
樹脂層(B)に上記環状ポリオレフィン系樹脂以外の他の成分を含有する場合には、環状ポリオレフィン系樹脂と共押出可能な各種樹脂を使用でき、例えば、上記環状ポリオレフィン以外のポリオレフィン系樹脂等を使用できる。
【0030】
前記環状ポリオレフィン系樹脂として用いることができる市販品として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、ポリプラスチックス社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる。
【0031】
樹脂層(B)中の環状ポリオレフィン系樹脂の含有量は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限されず、樹脂層(B)中の主成分として含有すればよく、好ましくは樹脂層(B)に含まれる樹脂成分中の70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、実質的に環状ポリオレフィン系樹脂からなる層であることが特に好ましい。
【0032】
他の樹脂を併用する場合には、例えば、上記シール層(A)にて例示したポリオレフィン系樹脂等を好ましく使用できる。当該他の樹脂は、樹脂層(B)に含まれる樹脂成分の30質量%以下で併用することが好ましい。
【0033】
本発明に使用する樹脂層(B)においては、これら環状ポリオレフィン系樹脂のうち、ガラス転移温度が100℃以下の環状ポリオレフィン系樹脂を60質量%以上使用することが好ましく、80質量%以上使用することがより好ましい。当該範囲とすることで、低吸着性と好適な耐破袋性能とシール強度を両立しやすくなる。また、ガラス転移温度が100℃以下の環状オレフィン系樹脂がその質量%以上含まれることにより、樹脂層(A)との層間強度が良好となり、高いシール強度を得る事ができる。
【0034】
ガラス転移温度が100℃以下の環状ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系単量体の含有比率が75質量%以下の非晶性環状ポリオレフィン系樹脂を好ましく使用でき、より好ましくは当該単量体の含有比率が70質量%以下の環状ポリオレフィン系樹脂である。
【0035】
さらに、前記樹脂層(B)のガラス転移温度Tgは、共押積層法での製造が可能である点と、工業的原料入手容易性の観点からは、Tgが200℃以下であることが好ましい。特に望ましくは60℃〜180℃である。この様なTgを有する樹脂層(B)としては、樹脂層(B)に使用する環状ポリオレフィン系樹脂の総量中のノルボルネン系単量体の含有比率が20〜90質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは25〜90質量%、更に好ましくは30〜85質量%である。含有比率がこの範囲にあれば、耐熱性、剛性、防湿性、加工安定性が向上する。尚、本発明におけるガラス転移温度Tgは、DSCにて測定して得られる値である。
【0036】
樹脂層(B)の厚みは特に制限されず、保香性フィルムの層構成や厚み等に応じて適宜好適な範囲に調整すればよいが、積層する他の層との層間強度を得やすいことから、10μm以下であることが好ましく、1〜8μmであることがより好ましく。1〜6μmであることが特に好ましい。
【0037】
[保香性フィルム]
本発明の保香性フィルムは、前記シール層(A)及び前記樹脂層(B)を有する多層フィルムであり、その総厚みが50μm以下である。また、保香性フィルム中の樹脂層(B)のシール層(A)を有する側の表面から、保香性フィルムの一方の表層であるシール面となるシール層(A)の表面までの厚みが1〜15μm以下の保香性フィルムである。本発明の保香性フィルムは、当該構成とすることで、包装材の薄肉化が可能であると共に、薄型であっても好適な保香性と高いシール強度を実現できる。
【0038】
保香性フィルムの総厚みは、薄型化と好適な包装特性とを実現しやすいことから、好ましくは25〜50μmであり、より好ましくは25〜45μmであり、特に好ましくは30〜45μmである。また、樹脂層(B)のシール層(A)側表面からシール層(A)のシール面表面までの厚みは、好適なシール性等を得やすいことから、3〜10μmであることが好ましく、3〜8μmであることがより好ましく、4〜8μmであることが特に好ましい。
【0039】
本発明の保香性フィルムは、上記シール層(A)と樹脂層(B)以外の任意の他の樹脂層(C)が積層されていてもよい。本発明の保香性フィルムにおいては、上記厚み範囲となる構成であれば、当該他の樹脂層(C)が、シール層(A)と樹脂層(B)との間に設けられていてもよいが、シール層(A)と樹脂層(B)とが直接積層された構成が、特に好適な保香性と接着性とを得やすいため好ましい。また、シール層(A)と樹脂層(B)とが直接積層された構成において、当該樹脂層(B)上に他の樹脂層(C)が積層された構成も好ましく使用できる。
【0040】
他の樹脂層(C)としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂層を好ましく例示できる。当該ポリオレフィン系樹脂としては、前記シール層(A)に用いられるポリオレフィン系樹脂を好ましく使用でき、なかでも、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等のポリエチレン樹脂を好ましく使用できる。特に、前記樹脂層(A)と融点差をつけた当該樹脂層(C)を多層することで、包装機械適性が向上する。
【0041】
なお、樹脂層(C)中のポリオレフィン系樹脂の含有量は、当該樹脂層(C)を形成するために用いる樹脂成分の全質量に対し、50質量%以上で当該特定の樹脂を含有することを言うものでありが好ましく、好ましくは60質量%以上含有することがより好ましい。樹脂層(C)中には、上記ポリオレフィン系樹脂以外の他の成分を含有してもよく、当該他の成分としては、ポリオレフィン系樹脂と共押出可能な各種樹脂を使用できる。
【0042】
本発明の保香性フィルムは、上記のとおり、少なくとも前記シール層(A)と前記樹脂層(B)とが含まれていればよく、各種層を適宜積層して使用できる。なかでも、上記樹脂層(C)を使用した好ましい構成例としては、例えば、シール層(A)/樹脂層(B)/他の樹脂層(C)の構成を例示できる。当該構成においては、樹脂層(B)の厚みを1〜3μmとすることで、好適な保香性と耐カール性とを実現しやすいため好ましい。
【0043】
また、他の好ましい構成例としては、シール層(A)/樹脂層(B)/他の樹脂層(C)/樹脂層(B)の構成を例示できる。当該構成においては、樹脂層(B)の厚みを厚くすることができ、特に好適な保香性を実現しやすくなる。当該構成においては、シール層(A)に積層する樹脂層(B)の厚みが1〜10μmであることが好ましい。特にコストを低減する場合には、当該樹脂層(B)の厚みは1〜8μmであることが好ましく、1〜6μmとすることがより好ましい。一方、特に高い保香性を実現する場合には、3〜10μmとすることが好ましく、5〜8μmとすることがより好ましい。なお、シール層(A)上に積層する樹脂層(B)と、他の樹脂層(C)上に積層する樹脂層(B)とは、同一の樹脂からなる層であることも好ましいが、異なる樹脂からなる層であってもよい。また、耐カール性を得やすいことから、シール層(A)上に積層される樹脂層(B)と、他の樹脂層(C)上に積層される樹脂層(B)との厚み差が1μm以下であることが好ましく、実質的に同一厚みであることが好ましい。
【0044】
前記の各樹脂層には、必要に応じて、防曇剤、帯電防止剤、熱安定剤、造核剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤等の成分を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。特に、内容物の隠蔽性や印刷見栄え特性から不透明化や白色化も可能である。
【0045】
また、本発明の保香フィルムは、ヘキサン酸エチルの含有濃度が50ppmのエタノール/水混合液(質量比15/85)を4ml封入し、25℃、40%Rh環境下で1週間静置した際の混合液中のヘキサン酸エチルの残存率が好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上とすることで特に優れた保香性を実現できる。当該ヘキサン酸エチルの封入は、例えば、保香フィルムのシール層側を内面として一辺が開口した12cm×12cmの小袋を作製し、当該小袋に混合液を入れた後、開口部をヒートシールすることで封入できる。
【0046】
本発明の保香性フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、多層構成とする場合には、各樹脂層に用いる樹脂又は樹脂混合物を、それぞれ別々の押出機で加熱溶融させ、共押出多層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で目的とする多層構成で多層した後、インフレーションやTダイ・チルロール法等によりフィルム状に成形する共押出法が挙げられる。この共押出法は、各層の厚さの比率を比較的自由に調整することが可能で、衛生性に優れ、コストパフォーマンスにも優れた保香性フィルムが得られるので好ましい。また、本発明で用いる非晶性環状ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂層(B)と、樹脂層(A)としてポリエチレン系樹脂を用いた場合には、両者間で融点とTgとの差が大きくなる場合もあるため、共押出加工時にフィルム外観が劣化したり、均一な層構成形成が困難になったりする場合がある。このような劣化を抑制するためには、比較的高温で溶融押出を行うことができるTダイ・チルロール法が好ましい。
【0047】
[包装材]
本発明の多層フィルムは、当該多層フィルムをシーラントとし、他のフィルム等の基材やラミネート層等を積層して包装材として使用できる。当該包装材は、多層フィルム中のシール層(A)を一方の表層として有し、適宜な態様に加工して、一枚あるいは複数枚の包装材のシール層(A)をヒートシールすることで、各種の包装袋を形成できる。
【0048】
基材を構成する材料としては、例えば、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、セロハン等の樹脂フィルム、紙、板紙、織物等の織布や不織布、あるいは、アルミニウム箔等の金属箔などが挙げられ、好ましくは、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリプロピレン樹脂からなるフィルムあるいはアルミニウム箔である。基材がポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリプロピレン樹脂からなるフィルムである場合には、延伸フィルムであることが好ましい。また、基材は単層であってもよく、多層であってもよい。多層の基材としては、ポリアミド樹脂層、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層、ポリアミド樹脂層の順に多層された3層の基材やポリエステル樹脂層とアルミニウム箔が多層された基材等が挙げられる。
【0049】
基材の厚さは使用する態様に応じて適宜調整すればよいが、低コストで、好適なヒートシール性を得やすいことから、5〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。
【0050】
本発明に使用する基材は、香気性成分の揮発や内容物の変質等を抑制するために、遮光性を有することも好ましい。当該基材の遮光性としては、得られる包装材の波長190〜900nmの光の透過率が3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。当該遮光性を付与する際には、遮光性のある着色フィルムや金属箔、紙等の基材を使用してもよく、フィルムや紙に着色層や金属層等の遮光層を積層した基材を使用してもよい。
【0051】
また、本発明の包装材を食品等の用途に適用する場合には、基材として紙基材を使用することも好ましい。当該紙基材としては、坪量が150〜500g/m
2程度のものを選択して使用することが好ましい。坪量を当該範囲とすることで、十分な腰や強度を有する包装容器が得られやすく、また、包装容器成形時の加工適正が得られやすくなる。また、コスト面でも優位となる。
【0052】
また、本発明に使用する基材は、上記の樹脂フィルムや金属箔等に各種の機能層が積層された基材であってもよく、例えば、酸素ガスや水蒸気等の透過を阻止するバリア層を有していても良い。
【0053】
バリア層としては、例えば、酸化珪素あるいは酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着層、ポリ塩化ビニリデン系樹脂層、ビニルアルコール樹脂層、エチレン−ビニルアルコール共重合体層、ポリアクリルニトリル樹脂層、ポリアミド系樹脂層等が挙げられる。特に、酸化珪素あるいは酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着層をバリア層として用いることが好ましい。無機酸化物の蒸着層を有する本発明の積層体は、内容物の保存安定性に優れる利点がある。
【0054】
バリア層は、前記の基材の片面に、物理気相成長法あるいは化学気相成長法等によって無機酸化物を蒸着する方法や、ロールコート、グラビアロールコート、キスコート等のコーティング方式、グラビア印刷、オフセット印刷、転写印刷等の印刷方式により樹脂を溶解した液を塗工してバリア層を形成する方法が挙げられる。
【0055】
本発明の包装材は、ヘキサン酸エチルの含有濃度が50ppmのエタノール/水混合液(質量比15/85)を4ml封入し、25℃、40%Rh環境下で1週間静置した際の混合液中のヘキサン酸エチルの残存率が好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上とすることで特に優れた保香性を実現できる。当該ヘキサン酸エチルの封入は、例えば、保香フィルムをシーラントとして製造した包装材のシール層側を内面として一辺が開口した12cm×12cmの小袋を作製し、当該小袋に混合液を入れた後、開口部をヒートシールすることで封入できる。
【0056】
保香性フィルムと、基材との積層は、例えば、接着剤を介して積層する方法を例示でき、当該方法としては、公知の方法、例えば、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、サンドラミネート法、ホットメルトラミネート法が挙げられる。
【0057】
保香性フィルムと基材とを接着するために用いられるドライラミネーション用接着剤としては、例えば、ポリエーテル−ポリウレタン系接着剤、ポリエステル−ポリウレタン系接着剤等が挙げられる。また各種の粘着剤を使用することもできるが、感圧性粘着剤を用いることが好ましい。感圧性粘着剤としては、例えば、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、これらの混合物をベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサンのような有機溶剤に溶解したゴム系粘着剤、或いは、これらゴム系粘着剤にアビエチレン酸ロジンエステル、テルペン・フェノール共重合体、テルペン・インデン共重合体などの粘着付与剤を配合したもの、或いは、2−エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸n−ブチル共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体などのガラス転移点が−20℃以下のアクリル系共重合体を有機溶剤で溶解したアクリル系粘着剤などを挙げることができる。
【0058】
ドライラミネート、ウェットラミネート、ノンソルベントラミネート等を好ましく使用できる。また加熱ロールの熱圧着で貼合する熱ラミネートや押出ラミネート等の各種積層法を適用し、多層構成を形成させることも可能である。さらに、前記保香性フィルムと紙基材間に接着性樹脂、前記フィルム等の基材が構成されていても良い。
【0059】
本発明の保香性フィルム及び包装材は、薄肉化が可能で、好適な保香性を有することから、日本酒等のアルコール飲料、コーヒー豆やインスタントコーヒー、茶葉、香水等の香気成分を含有する内容物の包装に好適に適用できる。
【実施例】
【0060】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳しく説明する。
【0061】
(実施例1)
シール層(A)用樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン〔密度:0.920g/cm
3、MFR:5g/10分(190℃、21.18N);以下、「LLDPE(1)」と言う。〕を用いた。樹脂層(B)用樹脂として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体〔三井化学株式会社製「アペル APL8008T」、MFR:15g/10分(260℃、21.18N)、ガラス転移点:70℃;以下、「COC(1)」という。〕を用いた。樹脂層(C1)用樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン〔密度:0.930g/cm
3、融点125℃、MFR:5g/10分(190℃、21.18N);以下、「LLDPE(2)」という。〕を用いた。樹脂層(C2)用樹脂として、LLDPE(2)を60質量部と高密度ポリエチレン〔密度:0.966g/cm
3、融点128℃、MFR:10g/10分(190℃、21.18N);以下、「HDPE」という。〕40質量部との樹脂混合物を用いた。これらの樹脂をそれぞれ、シール層(A)用押出機(口径40mm)、樹脂層(B)用押出機(口径40mm)、樹脂層(C1)用押出機(口径50mm)、樹脂層(C2)用押出機(口径50mm)に供給して200〜250℃で溶融し、その溶融した樹脂をフィードブロックを有するTダイ・チルロール法の共押出多層フィルム製造装置(フィードブロック及びTダイ温度:250℃)にそれぞれ供給して共溶融押出を行って、フィルムの層構成が(A)/(B)/(C1)/(C2)の4層構成で、各層の厚さが8μm/3μm/20μm/9μm(合計40μm)である保香性フィルム(1)を得た。得られた保香性フィルムの表面層(C2)表面にコロナ処理を施し、濡れ試薬による表面張力は40dyne/cmであった。処理面側にウレタン系接着剤を3.5g/m
2になるよう塗工後、アルミ箔(厚さ7μm)をドライラミネートし、更に、得られた積層体のアルミ箔側にウレタン接着剤を3.5g/m
2になるよう塗工後、二軸延伸ポリエステル(厚さ12μm)(融点260℃、東洋紡製)をドライラミネートし、包装材(1)を得た。
【0062】
(実施例2)
シール層(A)用樹脂として、LLDPE(1)、樹脂層(B)用樹脂として、COC(1)90質量部とHDPE10質量部の樹脂混合物を用い、樹脂層(C1)用樹脂として、LLDPE(2)60質量部とHDPE40質量部の樹脂混合物を用い、樹脂層(C2)用樹脂として、LLDPE(2)20質量部とHDPE80質量部の混合物を用いた。フィルムの層構成が(A)/(B)/(C1)/(C2)の4層構成で、各層の厚さが8μm/3μm/20μm/9m(合計40μm)である保香性フィルム(2)を得た。最外層となる樹脂層(C2)にコロナ処理を施し、濡れ試薬による表面張力は40mN/mであった。実施例1と同様にして、アルミ箔と二軸延伸ポリエステルをドライラミネートし、包装材(2)を得た。
【0063】
(実施例3)
シール層(A)用樹脂として、LLDPE(1)、樹脂層(B)用樹脂として、COC(1)、樹脂層(C)用樹脂として、LLDPE(2)を用いた。フィルムの層構成が(A)/(B)/(C)/(B)の4層構成で、各層の厚さが8μm/6μm/20μm/6m(合計40μm)である保香性フィルム(3)を得た。最外層となる樹脂層(B)にコロナ処理を施し、濡れ試薬による表面張力は40mN/mであった。実施例1と同様にして、アルミ箔と二軸延伸ポリエステルをドライラミネートし、包装材(3)を得た。
【0064】
(実施例4)
シール層(A)用樹脂として、LLDPE(1)、樹脂層(B)用樹脂として、COC(1)70質量%とノルボルネン系モノマーの開環重合体〔三井化学株式会社製「アペル APL6013T」、MFR:15g/10分(260℃、21.18N)、ガラス転移点:125℃;以下、「COC(2)」という。〕30質量部の混合物、樹脂層(C)用樹脂として、LLDPE(2)を用いた。フィルムの層構成が(A)/(B)/(C)/(B)の4層構成で、各層の厚さが8μm/6μm/20μm/6m(合計40μm)である保香性フィルム(3)を得た。最外層となる樹脂層(B)にコロナ処理を施し、濡れ試薬による表面張力は40mN/mであった。実施例1と同様にして、アルミ箔と二軸延伸ポリエステルをドライラミネートし、包装材(4)を得た。
【0065】
(実施例5)
シール層(A)用樹脂として、LLDPE(1)、樹脂層(B)用樹脂として、COC(1)50質量%とノルボルネン系モノマーの開環重合体〔三井化学株式会社製「アペル APL6015T」、MFR:15g/10分(260℃、21.18N)、ガラス転移点:145℃;以下、「COC(3)」という。〕50質量部の混合物、樹脂層(C)用樹脂として、LLDPE(2)を用いた。フィルムの層構成が(A)/(B)/(C)/(B)の4層構成で、各層の厚さが8μm/4μm/24μm/4m(合計40μm)である保香性フィルム(5)を得た。最外層となる樹脂層(B)にコロナ処理を施し、濡れ試薬による表面張力は40mN/mであった。実施例1と同様にして、アルミ箔と二軸延伸ポリエステルをドライラミネートし、包装材(5)を得た。
【0066】
(比較例1)
シール層(A)用樹脂として、LLDPE(1)を用いた単層フィルム(厚み40μ)を得た。最外層にコロナ処理を施し、濡れ試薬による表面張力は40mN/mであった。実施例1と同様にして、アルミ箔と二軸延伸ポリエステルをドライラミネートし、包装材(H1)を得た。
【0067】
(比較例2)
シール層(A)用樹脂として、LLDPE(1)、樹脂層(B)用樹脂として、COC(1)、樹脂層(C)用樹脂として、LLDPE(2)を用いた。フィルムの層構成が(A)/(B)/(C)の3層構成で、各層の厚さが25μm/5μm/25μm(合計55μm)である共押出多層フィルム(1)を得た。最外層となる樹脂層(C)にコロナ処理を施し、濡れ試薬による表面張力は40mN/mであった。実施例1と同様にして、アルミ箔と二軸延伸ポリエステルをドライラミネートし、包装材(H2)を得た。
【0068】
上記実施例及び比較例で得られたフィルム及び包装材につき、以下の評価を行った。
【0069】
[残存率(ヘキサン酸エチル)]
実施例及び比較例で得られた包装材を24cm×12cmに切り出して半分に折り、包装材のシール層側を内面として2辺をヒートシールして、1辺が開口した12cm×12cmの小袋を作製した。得られた小袋に、ヘキサン酸エチルの含有濃度が50ppmのエタノール/水混合液(質量比15/85)を4ml封入して開口部をヒートシールした。当該小袋を、25℃、40%Rh環境下で1週間静置した後、混合液を取り出し、混合液中のヘキサン酸エチルの濃度をガスクロマトグラフィーで測定し、ヘキサン酸エチルの残存率を算出した。
残存率=1週間後のヘキサン酸エチルの面積値/初期ヘキサン酸エチルの面積値×100
○;残存率60%以上
×;残存率60%未満
【0070】
[臭気濃度]
上記保香性と同様にして得られた小袋を、25℃、40%Rh環境下で1週間静置した後、混合液を取り出し、混合液を取り出した小袋をガラスバイアル瓶に封入した。当該ガラスバイアル瓶を、75℃で5分加温した後、室温にてシェーカー攪拌を行い、臭い識別装置(島津製作所製)にて、ガラスバイアル瓶中の臭気濃度を測定した。
【0071】
[シール強度]
実施例及び比較例で得られた包装材を使用して、シール温度170℃、シール時間0.1S、シール圧力0.3MPaの条件で、表面処理を施していない樹脂層(A)同士をシールした。シールしたフィルムを23℃で自然冷却後、15mm幅の短冊状にサンプルを切り出した。この切り出したサンプルを23℃、50%Rhの恒温室において引張試験機(株式会社エー・アンド・ディー製)を用いて、300mm/分の速度で90度剥離を行い、ヒートシール強度を測定した。得られたヒートシール強度の値から、下記の基準によってヒートシール強度を評価した。
○:ヒートシール強度が30N/15mm幅以上
×:ヒートシール強度が30N/15mm幅未満
【0072】
[層間剥離強度]
実施例及び比較例で得られた包装材を使用して、シール温度170℃、シール時間0.1S、シール圧力0.3MPaの条件で表面処理を施していない樹脂層(A)同士をシールした。シールしたフィルムを23℃で自然冷却後、15mm幅の短冊状にサンプルを切り出した。この切り出したサンプルを23℃、50%Rhの恒温室において引張試験機(株式会社エー・アンド・ディー製)を用いて、300mm/分の速度で90度剥離を行い、シール層(A)と隣接する樹脂層(B)間での剥離時の層間剥離強度を測定。
○:層間剥離強度が20N/15mm幅以上
×:層間剥離強度が20N/15mm幅未満
【0073】
[光線透過度]
紫外・可視吸光光度計(島津製作所製)を用いて、実施例及び比較例で得られた包装材の190〜900nm波長における光線透過率を測定し、光線透過度を評価した。
○:透過率1%未満
×:透過率1%以上
【0074】
【表1】
【0075】
上記表から明らかなとおり、実施例の本願発明の保香性フィルムは、ヘキサン酸エチルの残存率が高く、臭気濃度を低く抑制できると共に、好適なシール強度を有するものであった。また、製造時にもカールが生じず、層間強度も高いものであった。一方、比較例の共押出多層フィルムは、臭気濃度の抑制と好適なシール強度とを兼備できないものであった。