【実施例】
【0046】
サンプル1〜5に係る焼結体12の結晶相及び水酸化物イオンの含有量は、X線回折(XRD)測定及びフーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)測定に基づいて評価し、平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)画像に基づいて評価した。また、サンプル1〜4に係る焼結体12の導電特性及び誘導特性は複素インピーダンス測定に基づいて評価した。さらに、サンプル1〜4の分極緩和特性及びエレクトレットとしての性能はTSDC測定及び表面電位測定に基づいてそれぞれ評価した。
【0047】
(サンプル1)
サンプル1の作製並びに測定について
図3のフローチャートを参照しながら説明する。これは後述するサンプル2〜5についても同様の流れで行われる。
【0048】
ステップS101において、成形体を作製した。先ず、市販の重合度約1500のポリビニルアルコール(販売元コード=160−03055:和光純薬工業株式会社製)の水溶液を調製し、これを市販の単斜晶ハイドロキシアパタイト粉体(販売元コード=011−14882:和光純薬工業株式会社製)と混ぜて混合物を調製した。このとき、ポリビニルアルコールの量は混合物全体の3.2質量%となるようにした。
【0049】
その後、混合物を温度60℃で乾燥させた。乾燥後の混合物を乳鉢で粉砕し、さらに、#400及び#100のふるいを用いて40〜150μmの粒径に分級した。
【0050】
分級済みの粉体を約0.30g秤量し、直径13mmの錠剤成形器に入れ、一軸加圧成形を行って、直径約13mm、厚さ約1.1mmの成形体を作製した。
【0051】
ステップS102において、作製した成形体を管状炉内に設置し、大気雰囲下で焼結処理することにより焼結体12を作製した。サンプル1では、成形体に対する焼成温度を1250℃とした。この場合、焼成温度で2時間保持した後に自然放冷することで、直径約10mm、厚さ約1.0mmの円盤状の焼結体12を得た。その後、ステップS103において、焼結体12の表面12a及び裏面12bをダイヤモンドラッピングフィルムでそれぞれ約30μmずつ研磨した。焼結体12は6種類作製した。すなわち、XRD測定用の第1焼結体12と、FT−IR測定用の第2焼結体12と、SEM観察用の第3焼結体12と、複素インピーダンス測定用の第4焼結体12と、TSDC測定用のエレクトレット材10の基材となる第5焼結体12と、表面電位測定用のエレクトレット材10の基材となる第6焼結体12を作製した。
【0052】
次に、ステップS104において、第1焼結体12のXRD測定を行い、ステップS105において、第2焼結体12のFT−IR測定を行った。また、ステップS106において、第3焼結体12を0.1Mの塩酸溶液に30秒間浸漬することでエッチング処理した後、ステップS107において、第3焼結体12のエッチング面のSEM観察を行った。
【0053】
その後、ステップS108において、
図5A及び
図5Bに示すように、第4焼結体12〜第6焼結体12の表面12a及び裏面12bに電極14をそれぞれ形成した。電極14の材質としては、例えば金(Au)を用いることができる。具体的には、中央に直径8mmの円をくり抜いたおおむね19cm角のカプトンテープ(図示せず)を、円の中心が、直径約10mmの第4焼結体12〜第6焼結体12の表面12a及び裏面12bの中心にくるようにそれぞれ貼り付けてマスキングし、金スパッタすることで第4焼結体12〜第6焼結体12の表面12a及び裏面12bにそれぞれ電極14を形成した。その後、ステップS109において、第4焼結体12の複素インピーダンス測定を行った。
【0054】
ステップS110において、第5焼結体12及び第6焼結体12の分極処理を行った。分極処理は次のようにして行った。代表的に第5焼結体12について説明する。先ず、
図6に示すように、電極14をつけた第5焼結体12を上下から白金線16を巻いたアルミナ棒18で挟み、両端をテフロン糸20で固定した。次に、分極処理時における大気の絶縁破壊に起因する印加電圧の降下を防ぐために、一式をシリコンオイル22(KS−64F:信越化学工業株式会社製)で覆った後、これを電気炉(MMF−1:アズワン株式会社製)内に設置した。さらに、一式を200℃まで昇温し、そのまま2時間保持することでシリコンオイル中の水を除去した後に白金線16を直流高圧電源24(AMA−10K20RBX:マクセレック株式会社製)に接続し、厚さ約1mmの第5焼結体12に対して、200℃で8kVの直流電圧を1時間印加することで、分極処理を行った。また、高温下での分極緩和を防ぐために、直流電圧は、第5焼結体12の温度が完全に室温に下がるまで印加し続けた。上述の分極処理を第6焼結体12についても同様に行った。その後、ステップS111において、第5焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10のTSDC測定を行った。
【0055】
その後、ステップS112において、第6焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10の電極14を除去した。具体的には、先ず、ダイヤモンドラッピングフィルム(ダイヤモンドの粒径=約30μm)で軽く研磨することで、大部分の電極14を除去し、仕上げにアルミナペースト(アルミナの粒径=約10μm及び約3μm)を用いてバフ研磨を行った。その後、エタノールと純水でそれぞれ第6焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10の超音波洗浄を行った。
【0056】
その後、ステップS113において、第6焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10の表面電位測定を行った。この表面電位測定を含む上述した各種測定の具体的な条件等は後述する。
【0057】
(サンプル2)
成形体を焼成温度1300℃で焼結処理して焼結体12(第1焼結体〜第6焼結体)を作製したこと以外は、サンプル1の場合と同様にして、サンプル2に係るエレクトレット材10を得た。
【0058】
(サンプル3)
成形体を焼成温度1350℃で焼結処理して焼結体12(第1焼結体〜第6焼結体)を作製したこと以外は、サンプル1の場合と同様にして、サンプル3に係るエレクトレット材10を得た。
【0059】
(サンプル4)
成形体を焼成温度1400℃で焼結処理して焼結体12(第1焼結体〜第6焼結体)を作製したこと以外は、サンプル1の場合と同様にして、サンプル4に係るエレクトレット材10を得た。
【0060】
(サンプル5)
焼成温度1500℃としたこと以外は、サンプル1の場合と同様にして、焼結体12(第1焼結体〜第6焼結体)を作製した。ただし、サンプル5の場合、第1焼結体12のXRD測定において、α型リン酸三カルシウム(α-TCP)の結晶相が現れ、六方晶ハイドロキシアパタイト類似の組成と結晶構造が維持できていないことが判明した。さらに、第3焼結体12のSEM観察の結果、粒子が割れたような形となっていることが判明したため、その後の導電特性及び誘導特性の評価を断念した。
【0061】
(対照サンプルS)
量論組成の六方晶ハイドロキシアパタイトにより構成される焼結体12(対照サンプルS)の作製並びに測定について
図4のフローチャートを参照しながら説明する。先ず、ステップS201において、サンプル1の場合と同様に成形体を作製した。次に、ステップS202において、成形体を焼成温度1250℃で焼結処理する際に、昇温過程及び降温過程の別によらず、炉内温度が300℃以上である間は継続して、100℃、0.1MPaの水蒸気を管状炉内に供給したこと以外は、サンプル1の場合と同様に対照サンプルSに係る焼結体12(第7焼結体〜第9焼結体)を作製した。また、サンプル1の場合と同様に、ステップS203において、対照サンプルSに係る第7焼結体12〜第9焼結体12を研磨し、ステップS204において、第7焼結体12のXRD測定を行い、ステップS205において、第8焼結体12のFT−IR測定を行った。さらに、サンプル1の場合と同様に、ステップS206において、対照サンプルSに係る第9焼結体12の表面12a及び裏面12bに電極14をそれぞれ形成し、ステップS207において、第9焼結体12の複素インピーダンス測定を行った。
【0062】
<評価方法:各種測定の具体的な条件等を含む>
(焼結率の算出)
サンプル1〜4に係る焼結体12の焼結率は、マイクロメーターで測定した寸法と電子天秤で秤量した重量及び量論HAの理論密度である3.16g/cm
3を用いて、以下の式2により算出した。
【0063】
【数2】
【0064】
(XRD測定)
対照サンプルSに係る第8焼結体12及びサンプル1〜4に係る第2焼結体12のXRDパターンは、自動X線回折装置(RINT2000縦型ゴニオメーター:理学電機株式会社製)を用いて測定した。
【0065】
XRD測定の実施条件は以下の通りである。
・X線:CuKα(波長=154.18pm)
・管電圧:50kV
・管電流:100mA
・スキャンモード:2θ/θモード(連続法)
・測定範囲:2θ=20〜60deg
・スキャンスピード:1.0deg/分
・サンプリング幅:0.02deg
【0066】
(SEM観察)
サンプル1〜4に係る第3焼結体12について、焼成温度の違いによる第3焼結体12の平均粒径の変化を調べるために、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(JSM−7001F:日本電子株式会社製)を使用してSEM観察を行った。
【0067】
(平均粒径の算出)
平均粒径の算出法を示す。先ず、各第3焼結体12のSEM画像上に、複数の粒子を通過するよう、ラインを引き、次に、ラインの長さLを計測し、これをライン上に存在する粒子の数nで割った。この作業を、ランダムな20本のラインに対して行い、以下の式3に従って平均粒径を算出した。
【0068】
【数3】
【0069】
(FT−IR測定)
サンプル1〜4に係る第2焼結体12における水酸化物イオンの含有量を確認するため、臭化カリウム(KBr)錠剤法に基づいて、対照サンプルSに係る第8焼結体12及びサンプル1〜4に係る第2焼結体12の粉砕物の赤外分光分析を行った。具体的に説明する。先ず、対照サンプルSに係る第8焼結体12とサンプル1〜4に係る第2焼結体12及びKBr結晶(販売コード=165−17111:和光純薬工業株式会社製)を乳鉢でそれぞれ十分に粉砕した後、各焼結体12の粉砕物に対して、内部標準物質としてSDS粉体(販売元コード=196−08675:和光純薬工業株式会社製)を様々な重量混合比W
r(焼結体12の重量÷SDSの重量)で混合し(混合物1)、さらにKBr粉体を加えて十分に混合した(混合物2)。ここで、W
rの範囲はおおむね1〜25とし、また、KBr粉体の混合量は、混合物1の重量の少なくとも30倍以上とした。混合物2は80℃で少なくとも5時間以上乾燥させた後、一軸加圧することでペレット状に成形した。得られた各ペレットの赤外線吸収スペクトルはFT−IR装置(Spectrum Two フーリエ変換赤外分光分析装置:パーキンエルマー社製)を用いて測定した。
【0070】
FT−IR測定の実施条件は以下の通りである。
・測定範囲:3800〜2600cm
-1
・分解能:4cm
-1
・積算回数:16スキャン
・測定雰囲気:大気
【0071】
(複素インピーダンス測定)
表面12aと裏面12bに電極14を形成した第4焼結体12又は第9焼結体12を、白金線付きの白金板で挟み、さらに、セラミックウールとアルミナ板で挟んで、これをインコネル600製の治具で締結することにより、第4焼結体12又は第9焼結体12の電極14と白金板とを圧着した。治具に挟持した第4焼結体12又は第9焼結体12は、白金線を介して専用の耐熱プローブに接続した後、無誘導式の管状炉内に設置した。さらに、耐熱プローブをインピーダンスアナライザー(1260型インピーダンスアナライザー:ソーラートロン社製)に接続し、室温〜850℃の温度範囲内で5℃/分の昇温と20分間の保持を50℃きざみで繰り返しながら、±100mVの交流電圧を10Hz〜10MHz周波数範囲で印加することにより、複素インピーダンス測定を行った。
【0072】
(TSDC測定)
図7Aに模式的に示すように、リード線18を介して、一対の電極を具備するエレクトレット材10(第5焼結体を分極処理したもの)の電極間を短絡させると、電極14内で静電誘導が生じる。この状態でエレクトレット材10を加熱すると、エレクトレット材10の分極状態が熱的に緩和してゆくことで、誘導電荷が解放されるため、外部回路に電流が発生し、さらに加熱温度を上昇させると、エレクトレット材10が完全に脱分極するため、電流は流れなくなる。エレクトレット材10の分極緩和過程で発生するこのような電流を温度の関数としてプロットしたものをTSDC曲線(
図7B参照)と呼ぶ。
【0073】
実際のTSDC測定の手順を示す。先ず、表面12aと裏面12bに電極14を形成したエレクトレット材10(サンプル1〜4に係る第5焼結体12を分極処理したもの)を白金線付きの白金板で挟み、さらに、セラミックウールとアルミナ板で挟んで、これをインコネル600製の治具で締結することにより、エレクトレット材10の電極14と白金板とを圧着した。次に、治具に挟持したエレクトレット材10を、白金線を介して専用の耐熱プローブに接続し、無誘導式の管状炉内に設置した後、耐熱プローブを微小電流測定装置(ポテンショ/ガルバノスタット、VERSASTAT4−400T:プリンストンアプライドリサーチ社製)に接続してTSDC測定を行った。ここで、測定温度は、室温〜850℃とし、昇温速度は5℃/分とした。すなわち、加熱温度を室温〜850℃に変化させたときの、エレクトレット材10の分極緩和に伴う静電誘導電荷の解放によるTSDCを測定した。
【0074】
(蓄積電荷量の算出)
エレクトレット材10(サンプル1〜4)の蓄積電荷量は、TSDCを時間積分することで算出した。
【0075】
(表面電位測定)
電極14を除去したエレクトレット材10(サンプル1〜4:第6焼結体12を分極処理したもの)に対して、表面電位計(MODEL347:トレック・ジャパン株式会社製)を用いて、表面電位測定を行った。測定の前処理として、エレクトレット材10を100℃で3時間熱処理して直ちに真空デシケーターに移した後、デシケーターごとグローブボックスに入れて放冷した。エレクトレット材10は、乾燥空気の導入によりグローブボックス内の相対湿度を5%以下まで下げた後に、真空デシケーターから取り出した。表面電位測定は、グローブボックス内に設置した表面電位計及び自動ステージを用いて行った。なお、表面電位測定を行う際、エレクトレット材10(サンプル1〜4)の表面に付着した電荷や表面近傍の空間電荷を取り除く目的で、接地された金属をエレクトレット材10の表面に接触させている。この処理が終わった瞬間を測定開始時点(0秒)とした。
【0076】
<評価:測定結果を含む>
(焼結率の評価)
サンプル1〜5に係る焼結体12を6個ずつ作製し(第1焼結体〜第6焼結体)、上述した方法でそれぞれの焼結率を求めた後、これらの相加平均をとることで、各サンプルの平均焼結率を算出した。この結果を
図8に示す。
【0077】
平均焼結率は、1250℃で89.96%、1300℃で93.15%、1350℃で94.52%、1400℃で95.26%であり、焼成温度の上昇に伴って、焼結率が上昇していることが確認された。なお、焼成温度が1500℃のサンプル5に係る焼結体12は、平均焼結率が93.57%で、サンプル3及び4に係る焼結体12と比較して反対に焼結率が低下していた。これは、XRD測定による結晶相の評価でも言及するが、アパタイト相がα−TCPに部分転移したためであると考えられる。
【0078】
(XRD測定による結晶相の評価)
対照サンプルSに係る第7焼結体12(量論組成の六方晶ハイドロキシアパタイトにより構成される焼結体)及びサンプル1〜5に係る第1焼結体12のXRDパターンを
図9に示す。参考としてJCPDSカードに基づくα−TCPのXRDパターンも示す。サンプル1〜4に係る第1焼結体12の各XRDパターンには、対照サンプルSに係る第7焼焼結体12と同様のパターンが現れており、サンプル1〜4に係る第1焼結体12が六方晶ハイドロキシアパタイトの基本構造を有する単一の結晶相から構成されていることが確認できた。一方、サンプル5のXRDパターンには、α−TCPと同様のパターンが現れている。サンプル5の場合、1500℃の大気下における焼成過程において、HAの基本構造が維持できず、一部、α−TCPに転移したものと思われる。
【0079】
[SEM観察に基づく平均粒径の評価]
サンプル1〜4に係る第3焼結体12について、焼成温度の違いによる、第3焼結体12の平均粒径の変化を調べるために、上述の方法でSEM観察を行った。サンプル1〜4に係る第3焼結体12のエッチング面におけるSEM画像を
図10に示す。
【0080】
図10の結果から、焼成温度の増加と共に、焼結体12の平均粒径が増大していることがわかった。焼成温度の上昇により結晶粒の成長が進んだものと考えられる。サンプル1〜4に係る第3焼結体12の平均粒径を上述した方法で算出した結果、サンプル1が1.36μm、サンプル2が2.56μm、サンプル3が4.28μm、サンプル4が10.68μmであった。なお、
図10では示していないが、サンプル5は粒子が割れたような形となっており、平均粒径を求めることができなかった。
【0081】
[FT−IR測定に基づく水酸化物イオンの含有量の評価]
対照サンプルSに係る第8焼焼結体12(粉砕物)とSDS(粉体)との混合物の赤外吸収スペクトルを上述の方法で測定した場合、赤外吸収スペクトルには、
図11に示すように、ハイドロキシアパタイト中の水酸化物イオンの伸縮振動に由来する3572cm
-1付近の吸収ピーク(I
OH(s))と、SDS中のCH
2基の伸縮振動に由来する2852cm
-1付近の吸収ピーク(I
CH2(s))とが現れる。なお、
図11のスペクトルは、HAとSDSの重量混合比W
r(s)が3.64の場合を示す。
【0082】
同様に、サンプル1〜4に係る第2焼結体12(粉砕物)とSDS(粉体)との混合物の赤外吸収スペクトルにも、
図12A〜
図13Bに示すように、第2焼結体12の水酸化物イオンの伸縮振動に由来する3572cm
-1付近の吸収ピーク(I
OH(x))と、SDS中のCH
2基の伸縮振動に由来する2852cm
-1付近の吸収ピーク(I
CH2(x))とが現れる。
【0083】
図12Aは、サンプル1に係る第2焼結体12とSDSとの混合物であって、特に、重量混合比W
r(x)が1.07、1.39、1.86及び3.88の場合における赤外吸収スペクトルを示す。
【0084】
図12Bは、サンプル2に係る第2焼結体12とSDSとの混合物であって、特に、W
r(x)が1.02、1.29、2.12及び4.06の場合における赤外吸収スペクトルを示す。
【0085】
図13Aは、サンプル3に係る第2焼結体12とSDSとの混合物であって、特に、W
r(x)が1.02、1.37、2.11、4.24及び22.8の場合における赤外吸収スペクトルを示す。
【0086】
図13Bは、サンプル4に係る第2焼結体12とSDSとの混合物であって、特に、W
r(x)が1.01、1.36、2.25、4.50及び18.8の場合における赤外吸収スペクトルを示す。
【0087】
FT−IR測定に基づく水酸化物イオンの含有量の評価は、上述の方法で行った。すなわち、対照サンプルSに係る第8焼結体12及びサンプル1〜4に係る第2焼結体12とSDSとの混合物に対してそれぞれ、W
r(s)の変化に対するI
OH(s)/I
CH2(s)の変化及びW
r(x)の変化に対するI
OH(x)/I
CH2(x)の変化をプロットして
図14のグラフを作成した。
【0088】
図14より、サンプル1〜4に係る第2焼結体12とSDSとの混合物に対応するプロットにおいて、傾き、すなわち、W
r(x)の変化に対するI
OH(x)/I
CH2(x)の変化の割合が焼成温度の上昇に伴って小さくなってゆく傾向があることが確認された。
【0089】
そして、対照サンプルSに係る第8焼結体12とSDSとの混合物に対応するプロットの傾き(Ss)及びサンプル1〜4に係る第2焼結体12とSDSとの混合物に対応するプロットの傾き(Sx)並びにこれらの比(Sx/Ss)は以下の通りであった。
【0090】
対照サンプルSに係る第8焼結体12とSDSとの混合物に対応するプロット(直線L
Sで示す)の傾きSsは17であった。
サンプル1に係る第2焼結体12とSDSとの混合物に対応するプロット(直線L
1で示す)の傾きSxは6.1であり、Sx/Ssは0.36であった。
サンプル2に係る第2焼結体12とSDSとの混合物に対応するプロット(直線L
2で示す)の傾きSxは3.5であり、Sx/Ssは0.21であった。
サンプル3に係る第2焼結体12とSDSとの混合物に対応するプロット(直線L
3で示す)の傾きSxは0.64であり、Sx/Ssは0.04であった。
サンプル4に係る第2焼結体12とSDSとの混合物に対応するプロット(直線L
4で示す)の傾きSxは1.7であり、Sx/Ssは0.10であった。
【0091】
(複素インピーダンス測定に基づく導電特性及び誘電特性の評価)
先ず、複素インピーダンス測定に基づく導電特性の評価について説明する。対照サンプルSに係る第9焼結体12並びにサンプル1〜4に係る第4焼結体12の複素インピーダンス測定において、所定の温度Tで周波数fを変化させた場合における、fの対数値(log(f/[Hz]))の変化に対する複素導電率の実数成分の対数値(log(σ’/[S/cm]))の変化をプロットした。
【0092】
対照サンプルSに係る第9焼結体12の場合、Tが536℃、585℃、634℃、682℃及び730℃に到達したときのlog(σ’/[S/cm])を抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図15に示す。
【0093】
サンプル1に係る第4焼結体12の場合、Tが511℃、562℃、612℃、662℃及び712℃に到達したときのlog(σ’/[S/cm])を抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図16Aに示す。
【0094】
サンプル2に係る第4焼結体12の場合、Tが513℃、564℃、614℃、664℃及び714℃に到達したときのlog(σ’/[S/cm])を抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図16Bに示す。このサンプル2において、664℃の10000Hz以降のデータの挙動が不安定になっているのは、測定装置由来のエラーによるものである。以下同様である。
【0095】
サンプル3に係る第4焼結体12の場合、Tが516℃、566℃、616℃、665℃及び715℃に到達したときのlog(σ’/[S/cm])を抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図17Aに示す。
【0096】
サンプル4に係る第4焼結体12の場合、Tが507℃、558℃、609℃、660℃及び710℃に到達したときのlog(σ’/[S/cm])を抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図17Bに示す。
【0097】
図15〜
図17Bよりそれぞれ、100Hzに対応するlog(σ’/[S/cm])を抽出し、1000T
-1[K
-1]とlog(σ’/[S/cm])の関係をプロットした。すなわち、Arrhenius plotsを作成した。これを
図18に示す。
【0098】
図18より、温度600℃、周波数100Hzにおけるlog(σ’/[S/cm])は、対照サンプルSに係る第9焼結体12で約−7.7、サンプル1に係る第4焼結体12で約−7.4、サンプル2に係る第4焼結体12で約−7.0、サンプル3に係る第4焼結体12で約−6.9、サンプル4に係る第4焼結体12で約−6.8であった。
【0099】
また、
図18の各アレニウスプロットに対して近似した直線の傾きから、イオン伝導の活性化エネルギー(Ea)を求めた。その結果、活性化エネルギーは、対照サンプルSに係る第9焼結体12で約0.88eV、サンプル1に係る第4焼結体12で約0.98eV、サンプル2に係る第4焼結体12で約1.08eV、サンプル3に係る第4焼結体12で1.10eV、サンプル4に係る第4焼結体12で1.08eVであり、サンプル1〜4に係る第4焼結体12の間で大きな差は認められなかった。
【0100】
次に、複素インピーダンス測定に基づく誘電特性の評価について説明する。対照サンプルSに係る第9焼結体12並びにサンプル1〜4に係る第4焼結体12の複素インピーダンス測定において、所定のTでfを変化させた場合における、log(f/[Hz])に対する誘電正接tanδの変化をプロットした。
【0101】
対照サンプルSに係る第9焼結体12の場合、Tが536℃、585℃、634℃、682℃及び730℃に到達したときのtanδを抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図19に示す。
【0102】
サンプル1に係る第4焼結体12の場合、Tが511℃、562℃、612℃、662℃及び712℃に到達したときのtanδを抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図20Aに示す。
【0103】
サンプル2に係る第4焼結体12の場合、Tが513℃、564℃、614℃、664℃及び714℃に到達したときのtanδを抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図20Bに示す。
【0104】
サンプル3に係る第4焼結体12の場合、Tが516℃、566℃、616℃、665℃及び715℃に到達したときのtanδを抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図21Aに示す。
【0105】
サンプル4に係る第4焼結体12の場合、Tが507℃、558℃、609℃、660℃及び710℃に到達したときのtanδを抽出してlog(f/[Hz])に対してプロットした。これを
図21Bに示す。
【0106】
図19〜
図21Bよりそれぞれ、100Hzに対応するtanδを抽出し、T[℃]とtanδの関係をプロットした。これを
図22に示す。
【0107】
図22より、温度600℃、周波数100Hzにおけるtanδは、対照サンプルSに係る第9焼結体12で約0.7、サンプル1に係る第4焼結体12で約1.3、サンプル2に係る第4焼結体12で約1.4、サンプル3に係る第4焼結体12で約1.5、サンプル4に係る第4焼結体12で約1.4であった。
【0108】
上述の導電特性及び誘電特性評価の結果から、サンプル1〜4に係る第4焼結体12において、温度600℃、周波数100Hzにおけるlog(σ’/[S/cm])及びtanδが焼成温度の上昇に伴って増加してゆくことが確認された。
【0109】
(TSDC測定に基づく分極緩和特性の評価)
サンプル1〜4に係る第5焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10のTSDC測定結果を
図23に示す。なお、500〜850℃のデータについては、図示を省略した。
図23より、サンプル1〜4に係るエレクトレット材10におけるTSDCのピーク値が200〜400℃の範囲に少なくとも1つ存在していることがわかる。
【0110】
また、このピークが現れる温度が、焼成温度の上昇に伴って高温側にシフトしてゆくことがわかる。これは、分極処理によって移動したキャリアが占有している準安定サイトのエネルギーが分散しているためであると考えられ、基本的には当該サイトが安定であるほど、TSDCピークの現れる位置が高温側にシフトするものと思われる。
【0111】
そして、サンプル1〜4に係る第5焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10の蓄積電荷量を上述した方法で算出した結果、サンプル1に係るエレクトレット材10では約3μC/cm
2、サンプル2に係るエレクトレット材10では約12μC/cm
2、サンプル3に係るエレクトレット材10では約26μC/cm
2、サンプル4に係るエレクトレット材10では約35μC/cm
2であった。これは、焼成温度の上昇に伴う平均粒径の増大により、各々の粒内におけるキャリアの総数と移動距離が増大したためであると考えられる。
【0112】
[表面電位測定に基づくエレクトレット性能の評価]
サンプル1〜4に係る第6焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10について、表面電位の時間変化を
図24に示し、測定開始時点から5400秒経過後の表面電位を
図25に示す。
【0113】
図24及び
図25の結果より、サンプル1〜4に係る第6焼結体12を分極処理して得た全てのエレクトレット材10において、表面電位は、陽極側で分極処理した面(陽極処理面)では正の値、陰極側で分極処理した面(陰極処理面)では負の値を示すことが分かった。また、表面電位(絶対値)が焼成温度の上昇に伴って増加してゆくことがわかった。これは、TSDC測定の結果と同様に、焼成温度の上昇に伴う粒径の増大により、各々の粒内におけるキャリアの総数と移動距離が増大したためであると考えられる。
【0114】
さらに、
図24に示すように、サンプル1〜4に係る第6焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10のうち、サンプル2〜4に係る第6焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10の表面電位は、測定開始直後に急激に増大し、その後、時間の経過と共に飽和曲線を描くことがわかった。おそらく、測定開始時に、エレクトレット材10と接地された金属とを接触させることで、エレクトレット材10と金属の界面において瞬間的な電荷移動(接触帯電)が生じ、見かけ上、エレクトレット材10の表面電位が減衰するものの、その後、時間の経過と共に、移動した電荷が放電や移動によって漏洩し、減少してゆくために、エレクトレット材10の表面電位が顕在化してゆく経過を観測しているものと思われる。サンプル2〜4に係る第6焼結体12を分極処理して得たエレクトレット材10のうち、最も表面電位の低かったサンプル2に係るエレクトレット材10であっても、その値は、測定開始時点から3200秒経過時点で2000Vに達しており、時間の経過につれてさらに上昇してゆく傾向が見られた。ただし、ここでは便宜上、各サンプルの「安定後の表面電位」として、表面電位の測定開始時点から5400秒経過後の表面電位の値を採用した。もちろん、サンプル2〜4の各飽和時点での表面電位を「安定後の表面電位」として採用してもよい。
【0115】
<考察>
上述した、各サンプルに対する焼結率、結晶相、平均粒径、水酸化物イオンの含有量、導電特性及び誘電特性、分極緩和特性及びエレクトレット性能等に関する評価から、焼結体12及びエレクトレット材10の好ましい態様は以下の通りであることがわかる。
【0116】
(1) 焼結体が少なくとも水酸化物イオン及びリン酸イオンを含む六方晶アパタイト類似の組成と結晶構造を有することが好ましい。さらに好ましくは、六方晶ハイドロキシアパタイト類似の組成と結晶構造を有することである。
【0117】
(2) 焼結体の平均粒径は2〜100μmであることが好ましい。さらに好ましくは2〜50μmであり、より好ましくは、2〜20μmである。
【0118】
(3) 焼結体の水酸化物イオンの含有量は、量論組成の量論HAよりも少ないことが好ましい。
【0119】
(4) 量論HAの粉体とSDSの粉体を様々な重量混合比W
r(s)で混合して得た混合物群sと、焼結体12の粉砕物とSDSの粉体を様々な重量混合比W
r(x)で混合して得た混合物群xの赤外吸収スペクトルをそれぞれ計測し、ハイドロキシアパタイト中の水酸化物イオンの伸縮振動に由来する3572cm
-1付近の吸収ピークの強度I
OHとSDS中のCH
2基の伸縮振動に由来する2852cm
-1付近の吸収ピークの強度I
CH2との比を求めた場合に、W
r(s)の変化に対する混合物群sの該強度比(I
OH(s)/I
CH2(s))の変化の割合と、W
r(x)の変化に対する混合物群xの該強度比(I
OH(x)/I
CH2(x))の変化の割合の間に式1の関係があることがより好ましい。
【0120】
(5) 焼結体の焼結率は、90%以上であることが好ましい。
【0121】
(6) 焼結体の複素インピーダンス測定結果より求めた複素導電率の実数成分の対数値log(σ’/[S/cm])は、温度T=600℃、周波数f=100Hzにおいて−7.3以上であることが好ましい。
【0122】
(7) 焼結体の複素インピーダンス測定結果より求めた誘電正接tanδは、T=600℃、f=100Hzにおいて1.3以上であることが好ましい。
【0123】
(8) エレクトレット材のTSDC測定結果より求めた蓄積電荷量は、10μC/cm
2以上であることが好ましい。
【0124】
(9) エレクトレット材を5℃/分で等速加熱することにより発生するTSDCのピーク値は、少なくとも1つ以上、200℃以上に存在することが好ましい。
【0125】
上述した特性を満足することで、安定した状態での表面電位として2000V以上を実現することができる。
【0126】
なお、本発明に係るエレクトレット材及びその製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。