特許第6465417号(P6465417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465417
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】蓄光性蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20190128BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20190128BHJP
   C01F 17/00 20060101ALI20190128BHJP
   C01G 9/00 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   C09K11/64
   C09K11/08 B
   C01F17/00 B
   C01G9/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-249767(P2017-249767)
(22)【出願日】2017年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-109164(P2018-109164A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2018年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-255439(P2016-255439)
(32)【優先日】2016年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591020445
【氏名又は名称】立山科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】土屋 哲男
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】山口 巖
(72)【発明者】
【氏名】中島 智彦
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 匠
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6292684(JP,B1)
【文献】 特開平07−011250(JP,A)
【文献】 特開平08−116845(JP,A)
【文献】 特開平08−127772(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101429432(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101665692(CN,A)
【文献】 特開2014−019803(JP,A)
【文献】 特開2009−102496(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098426(WO,A1)
【文献】 特開平10−188649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1):
Sr1-aMgb24;Eude・・・(1)
(式(1)中、a、b、d及びeは、(b+d+e)<aであり、それぞれ0.05≦a≦0.8、0.01≦b≦0.08、0≦d≦0.2、0≦e≦0.15であり、Mは、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ランタニウム(La)、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ガドリニウム(Gd)、ネオジム(Nd)及びセリウム(Ce)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を示す。)で表され、430〜480nmの波長域の励起光によって発光する、蓄光性蛍光体(ただし、Sr0.89Mg0.04Al24;Eu0.04Dy0.02で表され、かつ、430〜480nmの波長域の励起光によって発光する、蓄光性蛍光体、及びSr0.905Mg0.04Al24;Eu0.01Dy0.03で表され、かつ、430〜480nmの波長域の励起光によって発光する、蓄光性蛍光体を除く)であって、
前記蛍光性蓄光体に含まれるアルミニウム(Al)は、γ−アルミナ由来のアルミニウム(Al)である、蓄光性蛍光体
【請求項2】
下記組成式(1):
Sr1-aMgbZncAl24;Eude・・・(1)
(式(1)中、a、b、c、d及びeは、それぞれ0.05≦a≦0.8、0.01≦b≦0.08、0.01≦c≦0.2、0≦d≦0.2、0≦e≦0.15であり、Mは、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ランタニウム(La)、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ガドリニウム(Gd)、ネオジム(Nd)及びセリウム(Ce)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を示す。)で表され、430〜480nmの波長域の励起光によって発光する、蓄光性蛍光体(ただし、Sr0.90Mg0.05Zn0.05Al24;Eu0.035Dy0.025で表され、かつ、430〜480nmの波長域の励起光によって発光する、蓄光性蛍光体を除く)。
【請求項3】
460nmの光源で励起し、励起停止から10分後の残光輝度が300mcd/m2以上である、請求項1又は2に記載の蓄光性蛍光体。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の蓄光性蛍光体の製造方法であって、
ストロンチウム元素を含む原料と、マグネシウム元素を含む原料と、アルミナと、必要に応じてユーロピウム元素を含む原料と、必要に応じて、ジスプロシウム、サマリウム、ランタニウム、プラセオジム、テルビウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウム、イッテルビウム、エルビウム、ガドリニウム、ネオジム及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む原料と、必要に応じて亜鉛元素を含む原料と、を混合して混合物を得る工程と、前記混合物を1200℃〜1700℃の範囲で焼成する工程とを含む、製造方法。
【請求項5】
前記混合物を得る工程において、酸化ホウ素をも混合する、請求項に記載の蓄光性蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記各原料が、均一に微細化した原料である、請求項4又は5に記載の蓄光性蛍光体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の蓄光性蛍光体を含む、蓄光性製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、430〜480nmの波長域の励起光によって発光し、励起停止後も発光する蓄光性蛍光体、該蓄光性蛍光体を含んでなる蓄光性製品、及び蓄光性蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体の中でも、光の励起後も発光が可能であり、残光時間の長いものは蓄光性蛍光体(蓄光性材料)として知られている。このような蓄光性蛍光体は、災害、停電時においても誘導標識や照明としての機能があるため、安全、安心な社会を構築するための材料として期待されている。
【0003】
これまでに長残光を示す蓄光性材料としては、SrAl24を母結晶とすると共に、賦活剤としてユーロピウムを、共賦活剤としてセリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムからなる群の少なくとも1つ以上の元素をそれぞれ特定量で含む、緑色発光を示すアルミン酸塩が知られている(特許文献1)。また、屋外での使用に適合した残光強度(本実施形態では、残光輝度とも称す)を有する蓄光性材料としては、マグネシウム又はカルシウムが添加された(Sr1-a-b-x-yMgaBabEuxDyy)Al24(aは0.02≦a≦0.1であり、bは0.03≦b≦0.15であり、xは0.001≦x≦0.04であり、yは、0.004≦y≦0.05であり、(a+b)は0.08≦(a+b)≦0.2である)が知られている(特許文献2)。更に、高温における残光強度を有する蓄光性蛍光体としては、リチウム、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属元素を少量含む材料が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2543825号公報
【特許文献2】国際公開第2011/155428号
【特許文献3】特許第4932189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、省エネルギーの観点からLED照明技術が開発されてきているが、LED照明による白色光は、従来の赤、青及び緑の混合した三派長蛍光体と異なり、YAG(セレン蛍光体)を460nm付近の波長域のブルーLED光源で励起する方法が主流である。従って、ブルーLEDを中心とした光源を効率よく吸収可能な蛍光体が必要不可欠である。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のアルミン酸塩の蛍光体は、430〜480nmの波長域での光吸収が小さいため、発光輝度及び残光強度が十分でない。また、特許文献2及び3に記載の蓄光性材料においても、430〜480nmの波長域での光吸収が小さく、LED照明に用いることが困難である。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、430〜480nmの波長域の励起光によって発光し、励起停止後も発光する蓄光性蛍光体、該蓄光性蛍光体を含んでなる蓄光性製品、及び蓄光性蛍光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の組成式を有する蓄光性材料が、430〜480nmの波長域の光源により励起することで発光し、好ましくは高輝度な白色発光を示し、励起停止後も発光し続け、好ましくは高輝度で発光し続けることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の蓄光性材料は、従来の蓄光性蛍光体のLED光源に対する吸収に関する欠点を解消でき、下記組成式(1):
【0010】
Sr1-aMgbZncAl24;Eude
で表され、430〜480nmの波長域の励起光によって発光する、蓄光性蛍光体である。ここで、式(1)中、a、b、c、d及びeは、それぞれ0.05≦a≦0.8、0.01≦b<0.1、0≦c≦0.2、0≦d≦0.2、0≦e≦0.15であり、Mは、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ランタニウム(La)、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ガドリニウム(Gd)、ネオジム(Nd)及びセリウム(Ce)、からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を示す。なお、Srはストロンチウム、Mgはマグネシウム、Znは亜鉛、Alはアルミニウム、Euはユーロピウム、Oは酸素を示す。
【0011】
460nmの光源で励起した場合の、該蓄光性蛍光体の蛍光強度(本実施形態では、蛍光輝度とも称す)は、350cd/m2以上であることが好ましい。
【0012】
該蓄光性蛍光体は、460nmの光源で励起し、励起停止から10分後の残光強度が300mcd/m2以上であることが好ましい。
【0013】
該蓄光性蛍光体の組成式(1)は、Sr0.90Mg0.04Al24;Eu0.04Dy0.02で表されることが好ましい。
【0014】
該蓄光性蛍光体の組成式(1)は、Sr0.90Mg0.05Al24;Eu0.04Dy0.02で表されることが好ましい。
【0015】
該蓄光性蛍光体の組成式(1)は、Sr0.89Mg0.04Al24;Eu0.04Dy0.02で表されることが好ましい。
【0016】
該蓄光性蛍光体の組成式(1)は、Sr0.90Mg0.05Zn0.05Al24;Eu0.035Dy0.025で表されることが好ましい。
【0017】
該蓄光性蛍光体の組成式(1)は、Sr0.905Mg0.04Al24;Eu0.01Dy0.03で表されることが好ましい。
【0018】
また、本発明者らは、ストロンチウム元素を含む原料と、マグネシウム元素を含む原料と、アルミナと、必要に応じてユーロピウム元素を含む原料と、必要に応じて、ジスプロシウム、サマリウム、ランタニウム、プラセオジム、テルビウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウム、イッテルビウム、エルビウム、ガドリニウム、ネオジム及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素とを含む原料と、必要に応じて亜鉛元素を含む原料と、を混合して混合物を得る工程と、前記混合物を1200℃〜1700℃の範囲で焼成する工程とを含む、蓄光性蛍光体の製造方法が、特に、本発明の蓄光性材料を好適に得られる製造方法であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
該蓄光性蛍光体の製造方法では、前記混合に際し、酸化ホウ素も混合することが好ましい。
【0020】
該蓄光性蛍光体の製造方法では、各原料として、均一に微細化した原料を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の蓄光性製品は、本発明の蓄光性蛍光体を含む。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(蓄光性蛍光体)
本実施形態の一実施形態の蓄光性蛍光体は、下記組成式(1):
Sr1-aMgbZncAl24;Eude・・・(1)
で表される。この蓄光性蛍光体は、酸化物系の蛍光体である。
【0023】
式(1)中、Mは、トラップ準位の形成の点から、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ランタニウム(La)、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ガドリニウム(Gd)、ネオジム(Nd)及びセリウム(Ce)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を示す。Mで示される元素は、好ましくは、良好な蛍光強度及び残光特性を有することから、ジスプロシウム(Dy)である。
【0024】
式(1)中、Srの組成比であるaは、良好な蛍光強度及び残光特性を有する点から、0.05≦a≦0.8であり、好ましくは0.06≦a≦0.3であり、より好ましくは0.07≦a≦0.2である。また、定比組成からの欠損を導入することで残光強度や残光時間を長くすることができるため、(b+c+d+e)<a≦0.18であることが好ましく、(b+c+d+e)<a≦0.16であることがより好ましく、(b+c+d+e)<a≦0.15であることが更に好ましく、(b+c+d+e)<a≦0.13であることが更により好ましい。
【0025】
Mgの組成比であるbは、0.01≦b<0.1であり、MgをSrサイトに固溶させことでバンドギャップを制御し、優れた残光強度が得られる点から、好ましくは0.03≦b≦0.09であり、より好ましくは0.045≦b≦0.08であり、更に好ましくは0.05≦b≦0.07である。Mgの組成比は、定比に対して過剰であると優れた残光特性が得られるため好ましく、この場合、a<(b+c+d+e)であるか、又はa<(b+c+d+e)であり、かつ、c<bである。また、Mgの組成比は、定比に対して欠損であると優れた蛍光強度が得られるため好ましく、この場合、a>(b+c+d+e)であるか、又はa>(b+c+d+e)であり、かつ、c<bである。
【0026】
Znの組成比であるcは0≦c≦0.2であるが、好ましくは0.01≦c≦0.15であり、より好ましくは0.02≦c≦0.1であり、MgサイトをSrとZnに固溶させことで母結晶のバンドギャップを制御し、優れた残光強度が得られる点から、更に好ましくは0.02≦c≦0.08であり、更により好ましくは0.03≦c≦0.06であり、より更により好ましくは0.04≦c≦0.05である。Znの組成比は、定比に対して過剰であると優れた残光特性が得られるため好ましく、この場合、a<(b+c+d+e)であるか、又はa<(b+c+d+e)であり、かつ、d<bである。また、Znの組成比は、定比に対して欠損であると優れた残光特性が得られるため好ましく、この場合、a>(b+c+d+e)であるか、又はa>(b+c+d+e)であり、かつ、d>bである。
【0027】
本実施形態では、MgとZnを両方含むと、高い残光強度と同時に長残光を有する蓄光性蛍光体が得られるため好ましい。この場合、欠損を有する蓄光性蛍光体であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態では、次の数式(2)により求められる残光輝度の減衰率は、用途に応じて特に限定されないが、特に長い時間発光が必要な用途では、46%以上が好ましく、47%以上がより好ましく、48%以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、100%であることが好ましく、100%未満であってもよく、60%以下であってもよく、55%以下であってもよい。減衰率が前記範囲であれば、優れた残光強度と共に長残光を有する蓄光性蛍光体が得られるため好ましい。
【0029】
残光輝度の減衰率(%)=(10分後の残光輝度/5分後の残光輝度)×100・・・(2)
ここで、5分後及び10分後の残光強度は、蓄光性蛍光体を暗所で1時間放置後、光源を用いて460nmの波長で1分間励起した後、励起を停止し、その5分後及び10分後の残光強度を示す。
【0030】
Euの組成比であるdは、良好な輝度を有する点から、0≦d≦0.2であるが、コストや励起後の残光強度を高くする点から、好ましくは0.005≦d≦0.15であり、より好ましくは0.01≦d≦0.1であり、更に好ましくは0.02≦d≦0.08であり、更により好ましくは0.03≦d≦0.07であり、より更により好ましくは0.035≦d≦0.06であり、最も好ましくは0.04≦d≦0.05である。
【0031】
Mの組成比であるeは、0≦e≦0.15であり、好ましくは0.001≦e≦0.1であり、より好ましくは0.005≦e≦0.07であり、トラップ準位を制御し残光時間を長くする観点から、更に好ましくは0.01≦e≦0.06であり、更により好ましくは0.015≦e≦0.05であり、より更により好ましくは0.02≦e≦0.04である。
【0032】
式(1)中、a、b、c、d及びeは、定比組成からの欠損を導入することでも残光強度や残光時間を長くすることができることから、(b+c+d+e)<aであることが好ましく、0<a−(b+c+d+e)≦0.15であることがより好ましく、0.005≦a−(b+c+d+e)≦0.13であることが更に好ましく、0.007≦a−(b+c+d+e)≦0.1であることが更により好ましく、0.01≦a≦0.05であることがより更により好ましい。
【0033】
式(1)中、a、b、c、d及びeは、定比組成からの過剰を導入することでも残光強度や残光時間を長くすることができることから、a<(b+c+d+e)であることが好ましく、0<(b+c+d+e)−a≦0.3であることがより好ましく、0.005≦(b+c+d+e)−a≦0.2であることが更に好ましく、0.01≦(b+c+d+e)−a≦0.15であることが更により好ましく、0.02≦(b+c+d+e)−a≦0.1がより更により好ましく、0.021≦(b+c+d+e)−a≦0.023であることが最も好ましい。
【0034】
本実施形態の蓄光性蛍光体の蛍光強度は、用途に応じて特に限定されないが、460nmの励起による蛍光強度が350cd/m2以上であることが好ましく、400cd/m2以上であることがより好ましく、高輝度を有する蛍光体として用いることができることから、450cd/m2以上であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態の蓄光性蛍光体の、460nmの光源で励起し、励起停止から10分後の残光強度は、用途に応じて特に限定されないが、300mcd/m2以上であることが好ましく、350mcd/m2以上であることがより好ましい。また、その残光強度は、災害、停電時や消灯後においても優れた残光強度を有する誘導標識や照明として用いることができることから、400mcd/m2以上であることがさらに好ましく、よりさらに好ましくは、450mcd/m2以上である。
【0036】
本実施形態では、組成式Sr0.90Mg0.04Al24;Eu0.04Dy0.02で表される蓄光性蛍光体が、高輝度であるため好ましい。
【0037】
本実施形態では、組成式Sr0.90Mg0.05Al24;Eu0.04Dy0.02で表される蓄光性蛍光体が、比較的輝度が高く、かつ、励起停止後も適度な輝度で発光し続けるため好ましい。
【0038】
本実施形態では、組成式Sr0.89Mg0.04Al24;Eu0.04Dy0.02で表される蓄光性蛍光体が、高輝度であり、かつ、励起停止後も極めて高い輝度で発光し続ける長残光特性を有するため好ましく、該蓄光性蛍光体が、γ-アルミナを用いて得られた蛍光体であることが、より好ましい。
【0039】
本実施形態では、組成式Sr0.90Mg0.05Zn0.05Al24;Eu0.035Dy0.025で表される蓄光性蛍光体が、高輝度であり、かつ、励起停止後も極めて高い輝度で発光し続ける長残光特性を有するため好ましく、該蓄光性蛍光体が、γ-アルミナを用いて得られた蛍光体であることが、より好ましい。
【0040】
本実施形態では、組成式Sr0.905Mg0.04Al24;Eu0.01Dy0.03で表される蓄光性蛍光体が、励起停止後において極めて高い輝度で発光し続ける長残光特性を有するため好ましい。
【0041】
(蓄光性蛍光体の製造方法)
本実施形態の蓄光性蛍光体の製造方法は、ストロンチウム元素を含む原料と、マグネシウム元素を含む原料と、アルミナ(酸化アルミニウム)と、必要に応じてユーロピウム元素を含む原料と、必要に応じて、ジスプロシウム、サマリウム、ランタニウム、プラセオジム、テルビウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウム、イッテルビウム、エルビウム、ガドリニウム、ネオジム及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む原料と、必要に応じて亜鉛元素を含む原料と、を混合して混合物を得る工程と、その混合物を1200℃〜1700℃の範囲で焼成する工程とを含むものである。
【0042】
本実施形態の蓄光性蛍光体は、特に限定されないが、後述する溶媒を用いない乾式混合や、溶媒を用いた湿式混合などによって製造することができる。蓄光性蛍光体を作製するためには、上記各原料として、無機材料及び金属有機化合物を先駆体(前駆体)に用いることが可能である。無機材料としては、例えば、金属炭酸塩、金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属水酸化酸化物が挙げられる。また、上記各原料としては、適宜乳鉢や、遊星ボールミル、ビーズミル、ハンマーミル、ジェットミル、ローラーミルなどの粉砕機で均一に微細化(ナノサイズ化)した原料を用いることが、高結晶化の点から好ましい。各原料を混合することで、蓄光性蛍光体の原料である混合物を得ることができる。なお、原料の均一性を表す指標としては、下記の数式(3)を用いることができる。
【0043】
均一性 = ΣXi|D50−Di|/D50ΣXi・・・(3)
ここで、Xiは粒子iのヒストグラム値、D50は体積基準のメジアン径、Diは粒子iの体積基準径を示す。該指標では値が大きくなるほど分布が広いことを示す。
【0044】
上記各原料の上記数式(3)で示される均一性は、通常0.40以下、好ましくは0.30以下、より好ましくは、0.27以下、さらに好ましくは0.25以下である。
【0045】
また、微細化の観点から、体積統計値での中位径D50が0.01〜1μmの範囲であることが好ましい。体積統計値での中位径D50は、たとえば、レーザー回折・散乱法により求めることができる。
【0046】
また、金属有機化合物溶液を所定比に混合したものや、多段階で焼成して合成した金属酸化物を原料として用いることが、より多くナノ粒子を含む原料となり、金属組成の制御、高結晶性材料合成の観点から好ましい。
【0047】
蓄光蛍光体の合成では、合成反応中の高結晶化及び金属組成制御とともに混合原子価をもつEuの価数を制御することも重要である。原料として無機材料と金属有機化合物を混合した前駆体原料は、焼成過程でカーボンの生成によるEu2+の生成を促進するなどの効果から有効である。還元反応には、水素を含むAr(アルゴン)ガス、N2(窒素)ガスなどを用いることが好ましく、材料中にカーボンや有機材料を含ませることも有効である。
【0048】
上記材料を混合するに際し、酸化ホウ素をも混合することが、430〜480nmの波長域の励起光によって励起停止後も高輝度に発光する蓄光性蛍光体を好適に得られることから、好ましい。酸化ホウ素の混合物中での含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、全原料(混合物)100質量%に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
【0049】
酸化アルミニウムとしては、例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ及び水酸化酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、特に、γ−アルミナ(γ−酸化アルミニウム)を原料として用いて焼成した場合、輝度が比較的高く、より長残光な蛍光体が得られるため好ましい。酸化アルミニウムは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
また、金属有機化合物としては、例えば、金属有機酸塩、β−ジケトナート、金属アルコキシド、金属酢酸塩、金属2−エチルヘキサン酸塩、金属アセチルアセトナート、金属ナフテン酸塩などが挙げられるが、溶媒に溶解する金属有機化合物であれば、特に制限なく用いることができる。金属有機化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0051】
溶媒は、金属有機化合物を溶解する溶媒であれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、ベンゼン、アセチルアセトナート、エチレングリコール、水などが好ましい。また、溶媒等に解けない金属を含む化合物、例えば、金属オレイン酸塩、金属ステアリン酸塩などの固体材料も、先駆体として用いることができる。
【0052】
このように各原料を混合する方法が、溶媒を用いた湿式混合の場合、その後に溶媒を除去するために、本実施形態の製造方法は、混合物を乾燥する工程を有してもよい。また、金属を含む金属有機化合物や硝酸塩を原料に用いた場合、本実施形態の製造方法は、混合する工程の後に、500℃以下の温度において溶媒及び有機成分の除去を行う工程を有していてもよい。
【0053】
次いで、得られた混合物を、1200℃以上、好ましくは1200℃以上1800℃以下、より好ましくは、高結晶成長とEu価数制御の点から、1400℃以上1700℃以下で焼成する工程を経ることで、蓄光性蛍光体を得ることができる。本実施形態では、温度を多段階で変化させながら混合物を焼成する工程を含むことが好ましい。このように温度を多段階で変化させた焼成は、それによって分解蒸発による組成ずれや不純物相の生成がより有効かつ確実に防止されるので、長残光特性を得る上で望ましい。なお、各温度での焼成の間において、被焼成体の粉砕、混合、及び錠剤成形(加圧成形)を行うと、組成ずれや不純物相の生成をより有効且つ確実に防止する上でより望ましいが、各温度での焼成の間において、被焼成体の粉砕や錠剤成形(加圧成形)を行うことなく、温度を多段階で変化させた焼成を行っても長残光特性を得る上で有効である。
【0054】
焼成工程終了後に、あるいは、温度を多段階で変化させた焼成においては、いずれかの焼成工程の後に、好ましくは最後の焼成工程の後に、被焼成体(蛍光体)を適宜の形状に成型して焼結成型体(蓄光性製品)を得ることができる。また、得られた焼結成型体を適宜微粉化して、微粉状の蓄光性蛍光体を得ることもできる。
【0055】
該微粉状の蓄光性蛍光体は、固体状バインダーや液状媒体等と共に種々の物体表面に塗布したり、プラスチックス、ゴム、塩化ビニール、合成樹脂又はガラス等と混合して、各色の蓄光性成型体、好ましくは赤色蓄光性成型体や、蛍光膜などとすることもできる。
【0056】
本実施形態によれば、430〜480nmの波長域の光源により励起することで発光すると共に、励起停止後も蓄光特性を有する蓄光性蛍光体、該蓄光性蛍光体を含んでなる蓄光性製品、及び蓄光性蛍光体の製造方法を提供することができる。
【0057】
そのため、本実施形態の蓄光性蛍光体は、省エネルギーのLED照明技術に好適に適用でき、災害、停電時や消灯後においても誘導標識や照明としての機能を保持することが可能である。その結果、本実施形態の蓄光性蛍光体は、安全、安心な社会に資する優れた白色発光照明装置用の蛍光体として用いることができる。
【0058】
本実施形態によれば、特に、ブルーLEDの波長である460nm付近の励起光源で高輝度を示し、かつ励起光源を停止後も高輝度、長残光を示す。そのため、460nmの励起光源が必要な従来型のLEDに用いられているYAG(セレン系蛍光体)に比べて、広い用途への利用も可能である。例えば、励起時において高い輝度を示し、停電時においても発光するため、安全な避難誘導が行える照明器具への展開が可能である。
【0059】
更に、本実施形態の蓄光性蛍光体を種々の物品の表面に塗布したり、プラスチックス、ゴム、塩化ビニール、合成樹脂又はガラス等に混合したりして、成型体又は蛍光膜とすることにより、道路標識、視認表示、装飾品、レジャー用品、時計、OA機器、教育機器、安全標識及び建築材等に利用することができる。また、本実施形態の蓄光性蛍光体を蛍光ランプの蛍光膜として用いることで、残光性の優れた蛍光ランプとして使用することができる。
【0060】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の特徴を実施例に基づいて、さらに詳しく説明する。なお、以下の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本発明に含まれるものである。
【0062】
<試験方法>
(1)蛍光強度(輝度、cd/m2)及び残光強度(輝度、mcd/m2)の測定
得られた試料の蛍光強度は、朝日分光(株)社製の光源(製品名「MAX−302」)を用いて460nmの波長で励起して、(株)トプコン社製の輝度計(製品名「SR−UA1」)で測定した。
残光強度の測定では、まず、暗所で1時間放置後、朝日分光(株)社製の光源(製品名「MAX-302」)を用いて460nmの波長で1分間励起した後、励起を停止した。そして、その5分後及び10分後の残光強度を(株)トプコン社製の輝度計(製品名「SR−UA1」)で測定した。
【0063】
<原料>
蓄光性蛍光体の合成に際して、以下の原料(試薬)を用いた。
(1)炭酸ストロンチウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(2)α−酸化アルミニウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(3)γ−酸化アルミニウム((株)レアメタリック社製、純度:99.99%)
(4)酸化マグネシウム((株)レアメタリック社製、純度:99.99%)
(5)酸化ユウロピウム((株)レアメタリック社製、純度:99.99%)
(6)酸化ジスプロシウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(7)酸化ホウ素((株)高純度化学研究所製、純度:99.9%)
【0064】
(8)酸化イットリウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(9)酸化ランタン((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(10)酸化セリウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(11)酸化プラセオジム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(12)酸化ネオジム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(13)酸化サマリウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(14)酸化ガドリニウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
【0065】
(15)酸化テルビウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(16)酸化ホルミウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(17)酸化エルビウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(18)酸化ツリウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(19)酸化イッテルビウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
(20)酸化ルテチウム((株)レアメタリック社製、純度:99.9%)
【0066】
(実施例1)
Sr0.90Mg0.03Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように上記各原料を秤量し、さらに、酸化ホウ素を全原料100質量%に対して1.25質量%になるように該原料に添加して、自動乳鉢を用いて2時間混合して混合物の粉末を得た。なお、酸化アルミニウムとしては、α−アルミナを用いた。また、上記各原料は、予め遊星ミルで均一に微細化した。得られた粉末をアルミナ製の焼成ボードに充填し、アルゴン−水素混合ガス(アルゴン量:3%)中、1400℃にて3時間焼成した。焼成後、乳鉢で粉砕し、均一混合することで粉末を得、さらにこの粉末を錠剤成形して、蛍光体の試料とした。
【0067】
該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1及び2中、「欠損」とはAB24のスピネル構造のAサイトが定比組成より少ないことを意味し、「定比」とはAB24のスピネル構造のAサイトが1.00、Bサイトが2.00の金属組成を持つことを意味し、「過剰」とはAB24のスピネル構造のAサイトが定比組成より多い金属組成を含むことを意味する。
【0068】
(実施例2)
Sr0.90Mg0.04Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
Sr0.90Mg0.05Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
Sr0.90Mg0.06Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
比較例1として、SrAl24;Eu:Dyの組成を有する蓄光性蛍光体(ネモトルミマテリアル社製、製品名「GLL300FF」)を実施例1と同様に錠剤成形して、蛍光体の試料とした。その試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
比較例2として、SrAl24;Eu:Dyの組成を有する蓄光性蛍光体(ネモトルミマテリアル社製、製品名「GLL300M」)を実施例1と同様に錠剤成形して、蛍光体の試料とした。その試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
焼成温度を1450℃とした以外は、実施例1と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0074】
(実施例6)
焼成温度を1450℃とした以外は、実施例2と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0075】
(実施例7)
焼成温度を1450℃とした以外は、実施例3と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0076】
(実施例8)
焼成温度を1450℃とした以外は、実施例4と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1及び2に示す結果から明らかなように、本発明の蓄光性蛍光体は、460nmの波長域の励起光によって発光し、励起停止後も発光することが分かる。
【0080】
特に、表1に示す結果から、定比組成を有する実施例2の蓄光性蛍光体の10分後の残光強度が118mcd/m2であるのに対して、Mgの含有量が過剰である実施例3及び4の10分後の残光強度がそれぞれ271mcd/m2と135mcd/m2であることから、Mgの含有量が過剰であると残光特性が向上することが分かる。
【0081】
(実施例9)
酸化アルミニウムとして、γ−アルミナを用いた以外は、実施例6と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を実施例6の結果と共に表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示す結果から、α−アルミナを用いて得られた蓄光性蛍光体の10分後の残光強度が129mcd/m2であるのに対して、γ−アルミナを用いて得られた蓄光性蛍光体の10分後の残光強度が、355mcd/m2であることから、γ−アルミナを用いて焼成した場合、高い輝度を有しながら、顕著な残光特性を有することが分かる。
【0084】
(実施例10)
Sr0.89Mg0.04Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例9と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を実施例9の結果と共に表4に示す。
【0085】
(実施例11)
Sr0.87Mg0.04Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例9と同様にして、試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を実施例9の結果と共に表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
表4に示す結果から、γ-アルミナを用いた場合でも、欠損を有する蓄光性蛍光体が、極めて高輝度の残光特性を有することが分かる。この輝度は、表1の比較例に示す結果との対比から、従来品と比べても極めて顕著な残光特性を有することが分かる。
【0088】
(実施例12)
Sr0.905Mg0.04Al24;Eu0.01Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例9と同様にして、試料を調製し、1500℃、N2:H2=97:3の雰囲気で5時間焼成した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表5に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
(実施例13)
Sr0.90Mg0.05Zn0.05Al24;Eu0.035Dy0.025の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例12と同様にして試料を調製し、1500℃、N2:H2=97:3の雰囲気で5時間焼成した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表6に示す。
【0091】
(実施例14)
Sr0.90Mg0.05Al24;Eu0.035Dy0.025の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例13と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を実施例13の結果と共に表6に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
表6に示す結果から、Zn(亜鉛)をドーピングすることにより、高い残光強度(輝度)を有する蓄光性蛍光体が得られることが分かる。
【0094】
(実施例15)
Sr0.91Mg0.03Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例14と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表7に示す。
【0095】
(実施例16)
Sr0.88Mg0.06Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例14と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表7に示す。
【0096】
参考例17)
Sr0.85Mg0.09Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例14と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表7に示す。
【0097】
(比較例3)
Sr0.94Al24;Eu0.04Dy0.02の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例14と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表7に示す。
【0098】
【表7】
【0099】
表7に示す結果において、実施例15及び16、参考例17の蛍光強度及び残光強度が、比較例3より優れていることから、Mgをドーピングすることにより、460nmの波長域の励起光に対して、優れた蛍光強度及び残光強度が得られることが分かる。また、参考例17の残光強度は、比較例2の残光強度に対して劣るが、蛍光強度は、比較例2の蛍光強度に比して高いだけでなく、実施例15及び16に比しても高い。これらのことから、Mgの組成比であるbは、0.01≦b<0.1であるときに、優れた蛍光強度及び残光強度が得られることが分かる。
【0100】
(比較例4)
Sr0.94Mg0.02Al24;0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。なお、Yは、イットリウムを示す。
【0101】
(比較例5)
Sr0.94Mg0.02Al24;La0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0102】
(比較例6)
Sr0.94Mg0.02Al24;Ce0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0103】
(比較例7)
Sr0.94Mg0.02Al24;Pr0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0104】
(比較例8)
Sr0.94Mg0.02Al24;Nd0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0105】
(比較例9)
Sr0.94Mg0.02Al24;Sm0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0106】
(比較例10)
Sr0.94Mg0.02Al24;Eu0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。なお、Euは、ユーロピウムを示す。
【0107】
(比較例11)
Sr0.94Mg0.02Al24;Gd0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0108】
(比較例12)
Sr0.94Mg0.02Al24;Tb0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0109】
(比較例13)
Sr0.94Mg0.02Al24;Dy0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0110】
(比較例14)
Sr0.94Mg0.02Al24;Ho0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0111】
(比較例15)
Sr0.94Mg0.02Al24;Er0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0112】
(比較例16)
Sr0.94Mg0.02Al24;Tm0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0113】
(比較例17)
Sr0.94Mg0.02Al24;Yb0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0114】
(比較例18)
Sr0.94Mg0.02Al24;Lu0.04の組成比になるように各原料を秤量し、焼成温度を1300℃として焼成した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表8に示す。
【0115】
【表8】
【0116】
表8に示す結果から、希土類のみをドーピングしても、本発明の蓄光性蛍光体が有する優れた蛍光強度及び残光強度は得られないことが分かる。
【0117】
(実施例18)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.89Mg0.03Zn0.03Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表9に示す。
【0118】
(実施例19)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.88Mg0.03Zn0.03Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表9に示す。
【0119】
【表9】
【0120】
表9に示す結果から、Znをドーピングすることにより、高い残光強度を有する蓄光性蛍光体が得られることが分かる。
【0121】
(実施例20)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.89Mg0.04Zn0.01Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表10に示す。
【0122】
(実施例21)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.88Mg0.04Zn0.02Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表10に示す。
【0123】
(実施例22)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.87Mg0.04Zn0.03Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表10に示す。
【0124】
(実施例23)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.86Mg0.04Zn0.04Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表10に示す。
【0125】
(実施例24)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.845Mg0.03Zn0.06Al24;Eu0.15Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表10に示す。
【0126】
(実施例25)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.855Mg0.03Zn0.07Al24;Eu0.15Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表10に示す。
【0127】
【表10】
【0128】
表10に示す結果から、Znをドーピングすることにより、高い残光強度を有する蓄光性蛍光体が得られることが分かる。
【0129】
(実施例26)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.88Mg0.03Zn0.03Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表11に示す。
【0130】
(実施例27)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.87Mg0.04Zn0.03Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表11に示す。
【0131】
(実施例28)
酸化アルミニウムとしてγ−アルミナを用いて、Sr0.86Mg0.05Zn0.03Al24;Eu0.02Dy0.03の組成比になるように各原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして試料を調製した。該試料について、蛍光強度及び残光強度を測定した。その結果を表11に示す。
【0132】
【表11】
【0133】
比較例2、実施例10及び26〜28の試料について、下記の数式(3)により残光輝度の減衰率を求めた。その結果を表12に示す。
残光輝度の減衰率(%)=残光輝度(10分後)/残光輝度(5分後)×100・・・(3)
【0134】
【表12】
【0135】
表11及び12に示す結果から、Zn及びMgをドーピングすることにより、高い残光強度と同時に長残光を有する蓄光性蛍光体が得られることが分かる。