特許第6465699号(P6465699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6465699ジアザジエニル化合物、薄膜形成用原料、薄膜の製造方法及びジアザジエン化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465699
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】ジアザジエニル化合物、薄膜形成用原料、薄膜の製造方法及びジアザジエン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 251/08 20060101AFI20190128BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20190128BHJP
   C07F 15/06 20060101ALN20190128BHJP
【FI】
   C07C251/08CSP
   C23C16/18
   !C07F15/06
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-44993(P2015-44993)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-164131(P2016-164131A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2017年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】吉野 智晴
(72)【発明者】
【氏名】遠津 正揮
(72)【発明者】
【氏名】西田 章浩
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 奈奈
(72)【発明者】
【氏名】桜井 淳
(72)【発明者】
【氏名】岡部 誠
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0295298(US,A1)
【文献】 国際公開第11/123675(WO,A1)
【文献】 特開2013−204048(JP,A)
【文献】 特開2013−189696(JP,A)
【文献】 国際公開第15/065823(WO,A1)
【文献】 特表2013−545755(JP,A)
【文献】 J. Reinhold et al,CNDO/2-Berechnungen zur elektronischen Struktur von Mono-Diimin-Cobalt(III)-Systemen,Z. phys. Chemie, Leipzig,1980年,261(5),pp. 989-994
【文献】 Sang Bok Kim et al,Synthesis of N-Heterocyclic Stannylene (Sn(II)) and Germylene (Ge(II)) and a Sn(II) Amidinate and Th,Chemistry of Materials,2014年,26(10),pp. 3065-3073
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F
C23C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物。
【化1】
(式中、R及びRは各々独立に炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐状のアルキル基を表し、Mは銅、鉄、ニッケル、コバルト又はマンガンを表し、nはMで表される金属原子の価数を表す。ただし、RとRは異なる基である。
【請求項2】
上記一般式(I)において、Rは水素である請求項1に記載のジアザジエニル化合物。
【請求項3】
上記一般式(I)において、Rはメチル基である請求項2に記載のジアザジエニル化合物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載のジアザジエニル化合物を含有してなる薄膜形成用原料。
【請求項5】
請求項に記載の薄膜形成用原料を気化させて得られるジアザジエニル化合物を含有する蒸気を、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、該ジアザジエニル化合物を分解及び/又は化学反応させて該基体の表面に金属原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(II)で表されるジアザジエン化合物。
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジアザジエニル化合物、該化合物を含有してなる薄膜形成用原料、該薄膜形成用原料を用いた薄膜の製造方法及び新規なジアザジエン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属元素を含む薄膜材料は、電気特性及び光学特性等を示すことから、種々の用途に応用されている。例えば、銅及び銅含有薄膜は、高い導電性、高エレクトロマイグレーション耐性、高融点という特性から、LSIの配線材料として応用されている。また、ニッケル及びニッケル含有薄膜は、主に抵抗膜、バリア膜等の電子部品の部材や、磁性膜等の記録メディア用の部材や、電極等の薄膜太陽電池用部材等に用いられている。また、コバルト及びコバルト含有薄膜は、電極膜、抵抗膜、接着膜、磁気テープ、超硬工具部材等に用いられている。
【0003】
上記の薄膜の製造法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、化学気相成長法等が挙げられるが、組成制御性、段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、ALD(Atomic Layer Deposition)法を含む化学気相成長(以下、単にCVDと記載することもある)法が最適な製造プロセスである。
【0004】
化学気相成長法に用いられる金属供給源として、様々な原料が多数報告されているが、例えば、特許文献1には、ALD法による薄膜形成用原料として用いることができるジアザジエニル錯体が開示されている。また、特許文献2には、化学蒸着法又は原子層蒸着法に使用することができるジアザジエン系金属化合物が開示されている。特許文献1及び特許文献2には、本発明のジアザジエン化合物について具体的な記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0164456号明細書
【特許文献2】特表2013−545755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化学気相成長用原料等を気化させて基材表面に金属を含有する薄膜を形成する場合、蒸気圧が高く、自然発火性が無く、融点が低く、低温で熱分解して薄膜を形成することができる材料が求められている。特に蒸気圧が高く、自然発火性が無く、融点が低い材料が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、検討を重ねた結果、特定のジアザジエニル化合物が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0008】
本発明は、下記一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物、これを含有してなる薄膜形成用原料、及び該原料を用いた薄膜の製造方法を提供するものである。
【0009】
【化1】
(式中、R及びRは各々独立に炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐状のアルキル基を表し、Mは金属原子又はケイ素原子を表し、nはMで表される金属原子又はケイ素原子の価数を表す。)
【0010】
また、本発明は、上記一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物を含有してなる薄膜形成用原料及び上記一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物を含有する蒸気を、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、該ジアザジエニル化合物を分解及び/又は化学反応させて該基体の表面に金属原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、下記一般式(II)で表されるジアザジエン化合物を提供するものである。
【0012】
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蒸気圧が高く、自然発火性が無く、常圧30℃もしくはわずかな加温により液体になる低融点なジアザジエニル化合物を得ることができる。該ジアザジエニル化合物は、CVD法による金属薄膜形成用の薄膜形成用原料として特に適している。また、本発明によれば、新規なジアザジエン化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の一例を示す概要図である。
図2図2は、本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
図3図3は、本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
図4図4は、本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のジアザジエニル化合物は、上記一般式(I)で表されるものであり、CVD法等の気化工程を有する薄膜製造方法のプレカーサとして好適なものであり、ALD法を用いて薄膜を形成することもできる。本発明のジアザジエニル化合物は、融点が低く、常圧30℃で液体又はわずかな加温で液体となる化合物である。融点が低い化合物は輸送性がよいことから、CVD法等の気化工程を有する薄膜製造方法のプレカーサとして好適である。
【0016】
本発明の上記一般式(I)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐状のアルキル基を表し、Mは金属原子又はケイ素原子を表し、nはMで表される金属原子又はケイ素原子の価数を表す。
【0017】
上記R、R及びRで表される炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、イソペンチル及びヘキシル等が挙げられる。
【0018】
上記一般式(I)において、Mは金属原子又はケイ素原子を表す。該金属原子としては、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムが挙げられる。中でも、Mが銅、鉄、ニッケル、コバルト及びマンガンである場合は、融点が低いことから特に好ましい。
【0019】
上記一般式(I)において、RとRが異なる場合は融点が低いことから好ましい。また、Rが水素である場合は蒸気圧が高く、融点が低いことから好ましく、中でもRがメチル基であり且つRが水素である場合は特に蒸気圧が高く、融点が低いことから好ましい。また、Rがエチル基である場合は蒸気圧が高いことから好ましい。気化工程を伴わないMOD法による薄膜の製造方法の場合は、R、R及びRは、使用される溶媒に対する溶解性、薄膜形成反応等によって適宜選択することができる。
【0020】
一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物の好ましい具体例としては、例えば、Mがコバルトの場合には下記化学式No.1〜No.18で表される化合物が挙げられる。なお、下記化学式No.1〜No.18において「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「Pr」はプロピル基を表し、「iPr」はイソプロピルを表し、「sbu」は第二ブチル基を表し、「tBu」は第三ブチル基を表す。
【0021】
【化3】
【0022】
【化4】
【0023】
一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物の好ましい具体例としては、例えば、Mが銅の場合には下記化学式No.19〜No.36で表される化合物が挙げられる。なお、下記化学式No.19〜No.36において「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「Pr」はプロピル基を表し、「iPr」はイソプロピルを表し、「sbu」は第二ブチル基を表し、「tBu」は第三ブチル基を表す。
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物の好ましい具体例としては、例えば、Mが鉄の場合には下記化学式No.37〜No.54で表される化合物が挙げられる。
なお、下記化学式No.37〜No.54において「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「Pr」はプロピル基を表し、「iPr」はイソプロピルを表し、「sbu」は第二ブチル基を表し、「tBu」は第三ブチル基を表す。
【0027】
【化7】
【0028】
【化8】
【0029】
一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物の好ましい具体例としては、例えば、Mがニッケルの場合には下記化学式No.55〜No.72で表される化合物が挙げられる。なお、下記化学式No.55〜No.72において「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「Pr」はプロピル基を表し、「iPr」はイソプロピルを表し、「sbu」は第二ブチル基を表し、「tBu」は第三ブチル基を表す。
【0030】
【化9】
【0031】
【化10】
【0032】
一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物の好ましい具体例としては、例えば、Mがマンガンの場合には下記化学式No.73〜No.90で表される化合物が挙げられる。なお、下記化学式No.73〜No.90において「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「Pr」はプロピル基を表し、「iPr」はイソプロピルを表し、「sbu」は第二ブチル基を表し、「tBu」は第三ブチル基を表す。
【0033】
【化11】
【0034】
【化12】
【0035】
本発明のジアザジエニル化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。例えばコバルトのジアザジエニル化合物を製造する場合には、例えば、コバルトのハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩又はその水和物と、該当するジアザジエン化合物とを、ナトリウム、リチウム、水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、アンモニア、アミン等の塩基の存在下で反応させる方法、コバルトのハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩又はその水和物と、該当するジアザジエン化合物のナトリウム錯体、リチウム錯体、カリウム錯体等を反応させる方法などが挙げられる。
なお、ここで用いるジアザジエン化合物は、その製造方法により特に限定されることはなく、周知の反応を応用することで製造することができる。例えば、Rが水素であるジアザジエニル化合物を製造するのに用いるジアザジエン化合物は、アルキルアミンとアルキルグリオキサールをトリクロロメタン等の溶媒中で反応させたものを適切な溶媒で抽出し、脱水処理することで得る方法が挙げられ、また、Rが炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基であるジアザジエニル化合物を製造するのに用いるジアザジエン化合物は、アルキルアミンとジケトン類(R−C(=O)C(=O)−R)をトリクロロメタン等の溶媒中で反応させたものを適切な溶媒で抽出し、脱水処理することで得る方法が挙げられる。
【0036】
本発明の薄膜形成用原料とは、上記で説明した本発明のジアザジエニル化合物を薄膜のプレカーサとしたものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される製造プロセスによって異なる。例えば、1種類の金属又はケイ素のみを含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、上記ジアザジエニル化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である。一方、2種類以上の金属及び/又は半金属を含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、上記ジアザジエニル化合物に加えて、所望の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、他のプレカーサともいう)を含有する。本発明の薄膜形成用原料は、後述するように、更に、有機溶剤及び/又は求核性試薬を含有してもよい。本発明の薄膜形成用原料は、上記説明のとおり、プレカーサであるジアザジエニル化合物の物性がCVD法、ALD法に好適であるので、特に化学気相成長用原料(以下、CVD用原料ということもある)として有用である。
【0037】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長用原料である場合、その形態は使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0038】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を該原料が貯蔵される容器(以下、単に原料容器と記載することもある)中で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とし、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該蒸気を基体が設置された成膜チャンバー内(以下、堆積反応部と記載することもある)へと導入する気体輸送法、CVD用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とし、該蒸気を成膜チャンバー内へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物そのものをCVD用原料とすることができる。液体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表されるジアザジエニル化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液をCVD用原料とすることができる。これらのCVD用原料は更に他のプレカーサや求核性試薬等を含んでいてもよい。
【0039】
また、多成分系のCVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、本発明のジアザジエニル化合物と他のプレカーサとの混合物若しくは該混合物を有機溶剤に溶かした混合溶液をCVD用原料とすることができる。この混合物や混合溶液は更に求核性試薬等を含んでいてもよい。
【0040】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は二種類以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、プレカーサを有機溶剤に溶かした溶液であるCVD用原料中におけるプレカーサ全体の量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。プレカーサ全体の量とは、本発明の薄膜形成用原料が、本発明のジアザジエニル化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である場合、本発明のジアザジエニル化合物の量であり、本発明の薄膜形成用原料が、該ジアザジエニル化合物に加えて他の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物を含有する場合、本発明のジアザジエニル化合物及び他のプレカーサの合計量である。
【0041】
また、多成分系のCVD法の場合において、本発明のジアザジエニル化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0042】
上記の他のプレカーサとしては、水素化物、水酸化物、ハロゲン化物、アジ化物、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アルキニル、アミノ、ジアルキルアミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ジアミン、ジ(シリル−アルキル)アミノ、ジ(アルキル−シリル)アミノ、ジシリルアミノ、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドラジド、ホスフィド、ニトリル、ジアルキルアミノアルコキシ、アルコキシアルキルジアルキルアミノ、シロキシ、ジケトナート、シクロペンタジエニル、シリル、ピラゾレート、グアニジネート、ホスホグアニジネート、アミジナート、ホスホアミジナート、ケトイミナート、ジケチミナート、カルボニル及びホスホアミジナートを配位子として有する化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上のケイ素や金属の化合物が挙げられる。
【0043】
プレカーサの金属種としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムが挙げられる。
【0044】
上記の他のプレカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いた場合には、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プレカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができ、アルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0045】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、本発明のジアザジエニル化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応等による変質を起こさないものが好ましい。
【0046】
上記の他のプレカーサのうち、チタン、ジルコニウム又はハフニウムを含むプレカーサとしては、下記式(II−1)〜(II−5)で表される化合物が挙げられる。
【0047】
【化13】
【0048】
(式中、Mは、チタン、ジルコニウム又はハフニウムを表し、R及びRは各々独立に、ハロゲン原子で置換されてもよく、鎖中に酸素原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表し、Rは炭素数2〜18の分岐してもよいアルキレン基を表し、R及びRは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、R、R、R及びRは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、pは0〜4の整数を表し、qは0又は2を表し、rは0〜3の整数を表し、sは0〜4の整数を表し、tは1〜4の整数を表す。)
【0049】
上記式(II−1)〜(II−5)において、R及びRで表される、ハロゲン原子で置換されてもよく、鎖中に酸素原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、3−ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、トリフルオロメチル、パーフルオロヘキシル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、2−ブトキシエチル、2−(2−メトキシエトキシ)エチル、1−メトキシ−1,1−ジメチルメチル、2−メトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−エトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエチル、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエチル等が挙げられる。また、Rで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、1−エチルペンチル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル等が挙げられる。また、Rで表される炭素数2〜18の分岐してもよいアルキレン基とは、グリコールにより与えられる基であり、該グリコールとしては、例えば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。また、R及びRで表される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、2−プロピル等が挙げられ、R、R、R及びRで表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル等が挙げられる。
【0050】
具体的にはチタンを含むプレカーサとして、テトラキス(エトキシ)チタニウム、テトラキス(2−プロポキシ)チタニウム、テトラキス(ブトキシ)チタニウム、テトラキス(第二ブトキシ)チタニウム、テトラキス(イソブトキシ)チタニウム、テトラキス(第三ブトキシ)チタニウム、テトラキス(第三ペンチル)チタニウム、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウム等のテトラキスアルコキシチタニウム類;テトラキス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のテトラキスβ−ジケトナトチタニウム類;ビス(メトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(第三ブトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(メトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(2−プロポキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第三ブトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第三アミロキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(メトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(2−プロポキシ)ビス(2,6,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第三ブトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第三アミロキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のビス(アルコキシ)ビス(βジケトナト)チタニウム類;(2−メチルペンタンジオキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、(2−メチルペンタンジオキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のグリコキシビス(βジケトナト)チタニウム類;(メチルシクロペンタジエニル)トリス(ジメチルアミノ)チタニウム、(エチルシクロペンタジエニル)トリス(ジメチルアミノ)チタニウム、(シクロペンタジエニル)トリス(ジメチルアミノ)チタニウム、(メチルシクロペンタジエニル)トリス(エチルメチルアミノ)チタニウム、(エチルシクロペンタジエニル)トリス(エチルメチルアミノ)チタニウム、(シクロペンタジエニル)トリス(エチルメチルアミノ)チタニウム、(メチルシクロペンタジエニル)トリス(ジエチルアミノ)チタニウム、(エチルシクロペンタジエニル)トリス(ジエチルアミノ)チタニウム、(シクロペンタジエニル)トリス(ジエチルアミノ)チタニウム等の(シクロペンタジエニル)トリス(ジアルキルアミノ)チタニウム類;(シクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(メチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(エチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(プロピルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(イソプロピルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(ブチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(イソブチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、第三ブチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリス(メトキシ)チタニウム等の(シクロペンタジエニル)トリス(アルコキシ)チタニウム類等が挙げられ、ジルコニウムを含むプレカーサ又はハフニウムを含むプレカーサとしては、上記チタンを含むプレカーサとして例示した化合物におけるチタンを、ジルコニウム又はハフニウムに置き換えた化合物が挙げられる。
【0051】
希土類元素を含むプレカーサとしては、下記式(III−1)〜(III〜3)で表される化合物が挙げられる。
【0052】
【化14】
【0053】
(式中、Mは、希土類原子を表し、R及びRは各々独立に、ハロゲン原子で置換されてもよく、鎖中に酸素原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表し、R及びRは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、p’は0〜3の整数を表し、r’は0〜2の整数を表す。)
【0054】
上記の希土類元素を含むプレカーサにおいて、Mで表される希土類原子としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられ、R、R、R、R、R、R及びRで表される基としては、前記のチタンを含むプレカーサで例示した基が挙げられる。
【0055】
また、本発明の薄膜形成用原料には、必要に応じて、本発明のジアザジエニル化合物及び他のプレカーサの安定性を付与するため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ−ジケトン類が挙げられ、これら求核性試薬の使用量は、プレカーサ全体の量1モルに対して0.1モル〜10モルの範囲が好ましく、より好ましくは1〜4モルである。
【0056】
本発明の薄膜形成用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素などの不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が最も好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が最も好ましい。また、水分は、化学気相成長用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、金属化合物、有機溶剤及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。金属化合物、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0057】
また、本発明の薄膜形成用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが最も好ましい。
【0058】
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する本発明の薄膜の製造方法としては、本発明の薄膜形成用原料を気化させた蒸気、及び必要に応じて用いられる反応性ガスを、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、次いで、プレカーサを基体上で分解及び/又は化学反応させて金属を含有する薄膜を基体表面に成長、堆積させるCVD法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件及び方法を用いることができる。
【0059】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられ、これらは1種類又は2種類以上使用することができる。
【0060】
また、上記の輸送供給方法としては、前述した気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0061】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD、熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱と光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALDが挙げられる。
【0062】
上記基体の材質としては、例えばシリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属ルテニウム等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられ、基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0063】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明のジアザジエニル化合物が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく、150℃〜400℃がより好ましい。本発明のジアザジエニル化合物は250℃未満で熱分解させることができるので、150℃〜250℃が特に好ましい。また、反応圧力は、熱CVD又は光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合、2000Pa〜10Paが好ましい。
また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることができる。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.01〜100nm/分が好ましく、1〜50nm/分がより好ましい。また、ALD法の場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0064】
上記の製造条件として更に、薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする際の温度や圧力が挙げられる。薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする工程は、原料容器内で行ってもよく、気化室内で行ってもよい。いずれの場合においても、本発明の薄膜形成用原料は0〜150℃で蒸発させることが好ましい。また、原料容器内又は気化室内で薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする場合に原料容器内の圧力及び気化室内の圧力はいずれも1〜10000Paであることが好ましい。
【0065】
本発明の薄膜の製造方法は、ALD法を採用して、上記の輸送供給方法により、薄膜形成用原料を気化させて蒸気とし、該蒸気を成膜チャンバー内へ導入する原料導入工程のほか、該蒸気中の上記ジアザジエニル化合物により上記基体の表面に前駆体薄膜を形成する前駆体薄膜成膜工程、未反応のジアザジエニル化合物ガスを排気する排気工程、及び、該前駆体薄膜を反応性ガスと化学反応させて、該基体の表面に上記金属を含有する薄膜を形成する金属含有薄膜形成工程を有していてもよい。
【0066】
以下では、上記の各工程について、金属酸化物薄膜を形成する場合を例に詳しく説明する。金属酸化物薄膜をALD法により形成する場合は、まず、前記で説明した原料導入工程を行う。薄膜形成用原料を蒸気とする際の好ましい温度や圧力は上記で説明したものと同様である。次に、堆積反応部に導入したジアザジエニル化合物により、基体表面に前駆体薄膜を成膜させる(前駆体薄膜成膜工程)。このときに、基体を加熱するか、堆積反応部を加熱して、熱を加えてもよい。この工程で成膜される前駆体薄膜は、金属酸化物薄膜、又は、ジアザジエニル化合物の一部が分解及び/又は反応して生成した薄膜であり、目的の金属酸化物薄膜とは異なる組成を有する。本工程が行われる際の基体温度は、室温〜500℃が好ましく、150〜350℃がより好ましい。本工程が行われる際の系(成膜チャンバー内)の圧力は1〜10000Paが好ましく、10〜1000Paがより好ましい。
【0067】
次に、堆積反応部から、未反応のジアザジエニル化合物ガスや副生したガスを排気する(排気工程)。未反応のジアザジエニル化合物ガスや副生したガスは、堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01〜300Paが好ましく、0.01〜100Paがより好ましい。
【0068】
次に、堆積反応部に酸化性ガスを導入し、該酸化性ガスの作用又は酸化性ガス及び熱の作用により、先の前駆体薄膜成膜工程で得た前駆体薄膜から金属酸化物薄膜を形成する(金属酸化物含有薄膜形成工程)。本工程において熱を作用させる場合の温度は、室温〜500℃が好ましく、150〜350℃がより好ましい。本工程が行われる際の系(成膜チャンバー内)の圧力は1〜10000Paが好ましく、10〜1000Paがより好ましい。本発明のジアザジエニル化合物は、酸化性ガスとの反応性が良好であり、金属酸化物薄膜を得ることができる。
【0069】
本発明の薄膜の製造方法において、上記のようにALD法を採用した場合、上記の原料導入工程、前駆体薄膜成膜工程、排気工程、及び、金属酸化物含有薄膜形成工程からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。この場合、1サイクル行った後、上記排気工程と同様にして、堆積反応部から未反応のジアザジエニル化合物ガス及び反応性ガス(金属酸化物薄膜を形成する場合は酸化性ガス)、更に副成したガスを排気した後、次の1サイクルを行うことが好ましい。
【0070】
また、金属酸化物薄膜のALD法による形成においては、プラズマ、光、電圧などのエネルギーを印加してもよく、触媒を用いてもよい。該エネルギーを印加する時期及び触媒を用いる時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程におけるジアザジエニル化合物ガス導入時、前駆体薄膜成膜工程又は金属酸化物含有薄膜形成工程における加温時、排気工程における系内の排気時、金属酸化物含有薄膜形成工程における酸化性ガス導入時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0071】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、200〜1000℃であり、250〜500℃が好ましい。
【0072】
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する装置は、周知な化学気相成長法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては図1のようなプレカーサをバブリング供給で行うことのできる装置や、図2のように気化室を有する装置が挙げられる。また、図3及び図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。図1図4のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【0073】
本発明の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜は、他のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、メタル、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。該薄膜は種々の電気特性及び光学特性等を示すことが知られており、種々の用途に応用されている。例えば、銅及び銅含有薄膜は、高い導電性、高エレクトロマイグレーション耐性、高融点という特性から、LSIの配線材料として応用されている。また、ニッケル及びニッケル含有薄膜は、主に抵抗膜、バリア膜等の電子部品の部材や、磁性膜等の記録メディア用の部材や、電極等の薄膜太陽電池用部材等に用いられている。また、コバルト及びコバルト含有薄膜は、電極膜、抵抗膜、接着膜、磁気テープ、超硬工具部材等に用いられている。
【0074】
本発明のジアザジエン化合物は、下記一般式(II)で表されるものであり、CVD法等の気化工程を有する薄膜製造方法のプレカーサとして好適な化合物に用いられる配位子として特に好適な化合物である。
【0075】
【化15】
【0076】
(式中、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す。)
【0077】
本発明の上記一般式(II)において、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す。Rで表される炭素数1〜6の直鎖又は分岐状のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、イソペンチル及びヘキシル等が挙げられる。
【0078】
一般式(II)で表されるジアザジエン化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化学式No.91〜No.96で表される化合物が挙げられる。
なお、下記化学式No.91〜No.96において「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「Pr」はプロピル基を表し、「iPr」はイソプロピルを表し、「sbu」は第二ブチル基を表し、「tBu」は第三ブチル基を表す。
【0079】
【化16】
【0080】
本発明のジアザジエン化合物は、その製造方法により特に限定されることはなく、周知の反応を応用することで製造することができる。例えば、エチルアミンとアルキルグリオキサールをトリクロロメタン等の溶媒中で反応させたものを適切な溶媒で抽出し、脱水処理することで得る方法が挙げられる。
【0081】
本発明のジアザジエン化合物は、薄膜形成用原料等に用いられる金属化合物の配位子として用いることができる。また、本発明のジアザジエン化合物は、溶媒、香料、農薬、医薬、各種ポリマー等の合成原料等の用途にも用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0083】
[実施例1 化合物No.91の製造]
2L四つ口フラスコに、エチルアミン33%水溶液530.9g(3.89mol)とトリクロロメタン398g(3.33mol)を仕込み、6℃付近まで冷却した。この溶液に1−メチルグリオキサール(ピルブアルデヒド)40%水溶液200g(1.11mol)を液温6〜8℃にて1.5時間滴下した。滴下終了後、液温6〜8で3.5時間撹拌した。その後、反応液を静置し有機層を分液した。更に、水層はトリクロロメタン(100g)で2回抽出を行い有機層を回収した。全ての有機層をまとめて硫酸ナトリウム(適量)で脱水、ろ過後に、微減圧下オイルバス温度60〜70℃にて脱溶媒を行った。その後、減圧下オイルバス温度70℃にて蒸留を行った。得られた留分は淡黄色透明の液体であり、収量67.0g及び収率47.8%であった。
【0084】
(分析値)
(1)質量分析 m/z:126(M+)
(2)元素分析 C:53.7質量%、H:9.41質量%、N:18.1質量%(理論値;C:54.0質量%、H:9.07質量%、N:18.00質量%)
【0085】
[実施例2 化合物No.2の製造]
200mL三つ口フラスコに、上記で得られた化合物No.91を19.4g(154mmol)と脱水テトラヒドロフラン(111g)を仕込み、ドライアイスで冷やしたイソプロパノールバスで−10℃まで冷却した。その中に、金属リチウム片1.07g(154mmol)を少しずつ加え−20〜−10℃で反応させた。この溶液を、塩化コバルト10.0g(77.0mmol)と脱水テトラヒドロフラン83.3gの懸濁液に、0℃前後で滴下した後、氷冷下で12時間反応させた。その後、バス温度70℃、微減圧下で脱溶媒を行った。放冷後、脱水ヘキサン100gを加えて生成物を溶解し、0.2μmメンブランフィルタでろ別した。得られたろ液をバス温度70℃、微減圧下で脱溶媒し、乾燥させた。得られた残渣をバス温度120℃、100Paで単蒸留を行い、暗黒色粘性液体を得た。その後、クーゲルロール精製装置を用いて、蒸留温度90〜105℃、圧力60Paにて精製を行い、濃緑色液体である目的物を得た。収量は3.60gであり、収率は15.0%であった。得られた目的物を大気中で放置することで自然発火性の有無を確認したところ、自然発火性は無かった。
【0086】
(分析値)
(1)質量分析 m/z:311(M+)
(2)元素分析(金属分析:ICP−AES、塩素分析:TOX)
Co:18.7質量%、C:53.6質量%、H:9.12質量%、N:18.1質量% (理論値;Co:18.9質量%、C:54.0質量%、H:9.07質量%、N:18.0質量%)
塩素(TOX):10ppm未満
【0087】
[製造例1 N,N’−ジプロピル−プロパン−1,2−ジイミンの製造]
1L四つ口フラスコに、n−プロピルアミン65.6g(1.11mol)と脱水トリクロロメタン132g(1.11mol)を仕込み、8℃付近まで冷却した。この溶液にピルブアルデヒド40%水溶液50.0g(0.278mol)を液温8〜10℃となるように1時間かけて滴下した。滴下終了後、液温10℃で2時間撹拌した。その後、反応液を静置し有機層を分液した。更に、水層はトリクロロメタン(100g)で2回抽出を行い有機層を回収した。全ての有機層をまとめて硫酸ナトリウム(適量)で脱水、ろ過後に、微減圧下オイルバス温度60〜70℃にて脱溶媒を行った。その後、減圧下オイルバス温度100℃にて蒸留を行った。得られた留分は淡黄色透明の液体であり、収量26.7g及び収率62.4%であった。
【0088】
(分析値)
(1)質量分析 m/z:154(M+)
(2)元素分析 C:72.2質量%、H:12.0質量%、N:17.9質量%(理論値;C:70.0質量%、H:11.8質量%、N:18.2質量%)
【0089】
[実施例3 化合物No.3の製造]
300mL三つ口フラスコに、上記で得られたN,N’−ジプロピル−プロパン−1,2−ジイミン23.8g(154mmol)と脱水テトラヒドロフラン(111g)を仕込み、ドライアイス/IPAバスで−35℃まで冷却した。その中に、金属リチウム片1.07g(154mmol)を少しずつ加え−35℃で反応させた。この溶液を、塩化コバルト10.0g(77.0mmol)と脱水テトラヒドロフラン83.3gの懸濁液に、−3℃前後で滴下した後、氷冷下で12時間反応させた。その後、バス温度70℃、微減圧下で脱溶媒を行った。放冷後、脱水ヘキサン100gを加えて生成物を溶解し、0.5μmメンブランフィルタでろ別した。得られたろ液をバス温度69℃、微減圧下で脱溶媒し、乾燥させた。得られた残渣をバス温度135℃、110Paで蒸留し、暗黒色粘性液体である目的物を得た。収量は13.6gであり、収率は48.1%であった。得られた目的物を大気中で放置することで自然発火性の有無を確認したところ、自然発火性は無かった。
【0090】
(分析値)
(1)質量分析 m/z:367(M+)
(2)元素分析(金属分析:ICP−AES、塩素分析:TOX)
Co:15.5質量%、C:58.2質量%、H:9.78質量%、N:15.4質量%(理論値;Co:16.0質量%、C: 58.8質量%、H: 9.88質量%、N:15.3質量%)
塩素(TOX):10ppm未満
【0091】
[製造例2 N,N’−ジイソプロピル−プロパン−1,2−ジイミンの製造]
1L四つ口フラスコに、イソプロピルアミン197g(3.33mol)と脱水トリクロロメタン496g(4.16mol)を仕込み、10℃付近まで冷却した。この溶液にピルブアルデヒド40%水溶液150g(0.833mol)を液温10〜14℃となるように1時間かけて滴下した。滴下終了後、液温10℃で2時間撹拌した。その後、反応液を静置し有機層を分液した。更に、水層はトリクロロメタン(100g)で2回抽出を行い有機層を回収した。全ての有機層をまとめて硫酸ナトリウムで脱水、ろ過後に、微減圧下オイルバス温度60〜70℃にて脱溶媒を行った。その後、減圧下オイルバス温度64℃にて蒸留を行った。得られた留分は淡黄色透明の液体であり、収量95.5g及び収率74.0%であった。
【0092】
(分析値)
(1)質量分析 m/z:154(M+)
(2)元素分析 C:72.2質量%、H:12.0質量%、N:17.9質量%(理論値;C:70.0質量%、H:11.8質量%、N:18.2質量%)
【0093】
[実施例4 化合物No.4の製造]
200mL三つ口フラスコに、上記で得られたN,N’−ジイソプロピル−プロパン−1,2−ジイミン15.4g(49.9mmol)と脱水テトラヒドロフラン(110g)を仕込み、ドライアイス/IPAバスで−20℃まで冷却した。その中に、金属リチウム片0.69g(99.8mmol)を少しずつ加え−20〜−15℃で反応させた。この溶液を、塩化コバルト6.5g(49.9mmol)と脱水テトラヒドロフラン110gの懸濁液に、−3℃前後で滴下した後、氷冷下で12時間反応させた。その後、バス温度65℃、微減圧下で脱溶媒を行った。放冷後、脱水ヘキサン100gを加えて生成物を溶解し、0.2μmメンブランフィルタでろ別した。得られたろ液をバス温度69℃、微減圧下で脱溶媒し、乾燥させた。得られた残渣をバス温度125℃、50Paで蒸留し、暗黒色粘性液体である目的物を得た。収量は10.7gであり、収率は58%であった。得られた目的物を大気中で放置することで自然発火性の有無を確認したところ、自然発火性は無かった。
【0094】
(分析値)
(1)質量分析 m/z:367(M+)
(2)元素分析(金属分析:ICP−AES、塩素分析:TOX)
Co:15.9質量%、C:58.6質量%、H:10.0質量%、N:15.4質量%(理論値;Co:16.0質量%、C:58.8質量%、H:9.88質量%、N:15.3質量%)
塩素(TOX):10ppm未満
【0095】
[製造例3 N,N’−ジエチル−ペンタン−2,3−ジイミンの製造]
2L四つ口フラスコに、エチルアミン33%水溶液530.9g(3.89mol)とトリクロロメタン398g(3.33mol)を仕込み、6℃付近まで冷却した。この溶液にエチルメチルジケトン(2,3−ペンタンジオン)111g(1.11mol)を液温6〜8℃にて1.5時間滴下した。滴下終了後、液温6〜8で3.5時間撹拌した。その後、反応液を静置し有機層を分液した。更に、水層はトリクロロメタン(100g)で2回抽出を行い有機層を回収した。全ての有機層をまとめて硫酸ナトリウム(適量)で脱水、ろ過後に、微減圧下オイルバス温度60〜70℃にて脱溶媒を行った。その後、減圧下オイルバス温度70℃にて蒸留を行った。得られた留分は淡黄色透明の液体であり、収量68.7g及び収率40.1%であった。
【0096】
(分析値)
(1)質量分析 m/z:154(M+)
(2)元素分析 C:69.7質量%、H:11.4質量%、N:18.0質量%(理論値;C:70.0質量%、H:11.8質量%、N:18.2質量%)
【0097】
[実施例5 化合物No.14の製造]
300mL三つ口フラスコに、上記で得られたN,N’−ジエチル−ペンタン−2,3−ジイミン18.9g(123mmol)と脱水テトラヒドロフラン(180g)を仕込み、ドライアイス/IPAバスで−30℃まで冷却した。その中に、金属リチウム片0.851g(122.6mmol)を少しずつ加え−10℃で反応させた。この溶液を、塩化コバルト10.0g(6.13mmol)と脱水テトラヒドロフラン180gの懸濁液に、−3℃前後で滴下した後、氷冷下で12時間反応させた。その後、バス温度76℃、微減圧下で脱溶媒を行った。放冷後、脱水ヘキサンで再溶解させメンブランフィルタでろ別した。得られたろ液をバス温度70℃、微減圧下で脱溶媒し、乾燥させた。得られた残渣をバス温度120℃、65Paで蒸留し、暗黒色粘性液体である目的物を得た。収量は5.0gであり、収率22.0であった。得られた目的物を大気中で放置することで自然発火性の有無を確認したところ、自然発火性は無かった。
【0098】
(分析値)
(1)質量分析 m/z:367(M+)
(2)元素分析(金属分析:ICP−AES、塩素分析:TOX)
Co:15.6質量%、C:58.2質量%、H:9.78質量%、N:15.4質量%(理論値;Co:16.0質量%、C:58.8質量%、H:9.88質量%、N:15.3質量%)
塩素(TOX):10ppm未満
【0099】
[評価例1]コバルト化合物の物性評価
化合物No.2、3、4及び14並びに下記に示す比較化合物1について、目視によって常圧30℃における各化合物の状態を観察し、固体化合物については微小融点測定装置を用いて融点を測定した。また、化合物No.2、3、4及び14並びに下記に示す比較化合物1及び2について、TG−DTAを用いて重量が50%減少した際の温度を測定した。結果を表1に示す。
(常圧TG−DTA測定条件)
常圧、Ar流量:100ml/分、昇温10℃/分、サンプル量約10mg
(減圧TG−DTA測定条件)
10Torr、Ar流量:50ml/分、昇温10℃/分、サンプル量約10mg
【0100】
【化17】
【0101】
【化18】
【0102】
【表1】
【0103】
上記表1より、比較例1は融点171℃の化合物であることに対して、評価例1−1〜1−4は全て常圧30℃の条件下で液体であることがわかった。融点が低い薄膜形成用原料は輸送が容易であることから、生産性を向上させることができる薄膜形成用原料である。また、TG−DTAの結果から、評価例1−1〜1−4は、比較例1よりも減圧50質量%減少時の温度が低いことがわかった。このことから、評価例1−1〜1−4は、比較例1よりも優れた蒸気圧を示すことがわかった。中でも、評価例1−1及び評価例1−4は特に優れた蒸気圧を示すことがわかった。
【0104】
[実施例6]ALD法による金属コバルト薄膜の製造
化合物No.2、3及び4を化学気相成長用原料とし、図1に示すALD装置を用いて以下の条件のALD法により、Cu基板上に金属コバルト薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線回折法及びX線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は3〜6nmであり、膜組成は金属コバルト(XPS分析によるCo2pピークで確認)であり、炭素含有量は検出下限である0.1atom%よりも少なかった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.02〜0.04nmであった。
【0105】
(条件)
反応温度(基板温度):230℃、反応性ガス:水素ガス
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、150サイクル繰り返した。
(1)原料容器加熱温度100℃、原料容器内圧力100Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を導入し、系圧100Paで30秒間堆積させる。
(2)5秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)反応性ガスを導入し、系圧力100Paで30秒間反応させる。
(4)5秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
【0106】
[実施例7]ALD法による金属コバルト薄膜の製造
化合物No.14を化学気相成長用原料とし、図1に示すALD装置を用いて以下の条件のALD法により、Cu基板上に金属コバルト薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線回折法及びX線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は6〜9nmであり、膜組成は金属コバルト(XPS分析によるCo2pピークで確認)であり、炭素含有量は0.5atom%であった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.04〜0.06nmであった。
【0107】
(条件)
反応温度(基板温度):210℃、反応性ガス:水素ガス
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、150サイクル繰り返した。
(1)原料容器加熱温度100℃、原料容器内圧力100Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を導入し、系圧100Paで30秒間堆積させる。
(2)5秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)反応性ガスを導入し、系圧力100Paで30秒間反応させる。
(4)5秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
【0108】
[比較例3]ALD法による金属コバルト薄膜の製造
比較化合物2を化学気相成長用原料とし、図1に示すALD装置を用いて以下の条件のALD法により、Cu基板上に金属コバルト薄膜の製造を試みたが、平滑な薄膜を得ることはできなかった。Cu基板上に形成されたCo含有物中の炭素含有量は10atom%以上であった。
【0109】
(条件)
反応温度(基板温度):230℃、反応性ガス:水素ガス
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、150サイクル繰り返した。
(1)原料容器加熱温度100℃、原料容器内圧力100Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を導入し、系圧100Paで30秒間堆積させる。
(2)5秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)反応性ガスを導入し、系圧力100Paで30秒間反応させる。
(4)5秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
【0110】
実施例6及び実施例7の結果より、いずれも良質な金属コバルト薄膜を得ることができた。中でも、化合物No.2、3及び4を用いて製造した場合には、金属コバルト薄膜は炭素含有量が非常に低い金属コバルト薄膜を得ることができた。
一方、比較例3では、Cu基板上に平滑な薄膜を形成することはできず、基板上に小さな塊が散見された。また、Cu基板上に形成されたCo含有物中の炭素含有量は10atom%以上であったことから、良質な金属コバルト薄膜を得ることはできないことがわかった。
図1
図2
図3
図4