【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様では、薬剤の用量を投薬するための薬物送達デバイスの駆動機構が提供される。駆動機構は、好ましくは軸方向に延びるハウジングを含む。好ましくは、ハウジングは、実質的に管状または円筒形状であり、この形状は、ユーザが片手で駆動機構または薬物送達デバイス全体を把持して操作することを可能にする。
【0013】
駆動機構は、ピストンロッドをさらに含み、ピストンロッドは、軸方向に延び、駆動機構によって投薬すべき薬剤を収容するカートリッジのピストンと動作可能に係合する。カートリッジはピストンを含み、ピストンは、軸方向遠位方向での変位によって、ピストンの軸方向変位に対応する薬剤の量をカートリッジから押し出す働きをする。ピストンは、典型的には、軸方向近位方向でカートリッジを封止する。
【0014】
ピストンロッドは、カートリッジのピストンを軸方向遠位方向に変位させる働きをする。したがって、ピストンロッドは、遠位方向に向かう推力または圧力をカートリッジのピストンに加えて、投薬すべき薬剤のそれぞれの量に対応する所定の距離にわたってピストンを遠位方向に変位させるように動作可能である。
【0015】
駆動機構は、駆動スリーブをさらに含み、駆動スリーブは、ハウジング内に回転可能に支持され、用量の設定のためにピストンロッドから動作可能に解放可能である。したがって、用量設定手順中、ピストンロッドは、ハウジングに対して実質的に静止したままであり、一方、ピストンロッドから動作可能に切断されて解放される駆動スリーブは、ハウジングに対して、したがってピストンロッドに対して回転可能である。
【0016】
しかし、設定された用量の投薬のために、駆動スリーブは、ピストンロッドと動作可能に係合可能である。それぞれの用量投薬モードにおいて、ピストンロッドと駆動スリーブは動作可能に係合され、それにより、駆動スリーブは、ピストンロッドに駆動力または駆動モーメントを及ぼし、ピストンロッドを遠位方向に駆動し、それに従ってカートリッジのピストンを変位させる。
【0017】
駆動機構は、駆動スリーブと係合された用量制限部材をさらに含み、それにより、用量制限部材は、用量設定手順中に駆動スリーブがピストンロッドに対して回転するとき、駆動スリーブに対して、および/またはピストンロッドに対して軸方向に変位される。用量制限部材は、駆動機構の独立構成要素として提供され、駆動スリーブおよびピストンロッドと直接係合される。
【0018】
さらに、駆動スリーブは、ピストンロッドを少なくとも部分的に取り囲む。したがって、ピストンロッドは、駆動スリーブを通して軸方向に案内される。ピストンロッドと駆動スリーブは、好ましくは間接的に係合可能である。したがって、駆動スリーブとピストンロッドの直接の機械的な相互作用または接触はない。駆動スリーブからピストンロッドへの駆動力または駆動モーメントの伝達は、典型的には、駆動機構の別の機能的構成要素によって提供される。
【0019】
さらに、駆動スリーブとねじ係合される用量制限部材が、ハウジングに回転可能にロックされる。このようにすると、用量制限部材は、ハウジングとの相互作用により回転するのを防止される。これにより、用量制限部材は、ピストンロッドに対するおよび/またはハウジングに対する駆動スリーブの回転に応答して軸方向で変位可能である。用量制限部材は、ハウジングに回転可能にロックされ、たとえばハウジングにスプライン連結される(splined)ので、用量制限部材は、典型的には、駆動スリーブが用量増分方向で回転されるとき、ピストンロッドに対するおよび/または駆動スリーブに対する近位方向に向かう軸方向摺動変位を受ける。
【0020】
用量制限部材は、最大用量構成に達したときにピストンロッドと係合するように動作可能であり、またハウジングによって軸方向に案内され、さらに駆動スリーブとねじ係合されるので、様々な異なる構成の駆動機構に適用される。ここで、用量制限部材は、用量制限部材を通って、および駆動スリーブを通って延びるピストンロッドに回転可能にロックされる必要はない。
【0021】
さらに、駆動機構は、止め部材(stop member)を含み、止め部材は、ピストンロッドに提供されるか、またはピストンロッド内に組み込まれて、用量制限部材と係合する。このようにすると、止め部材と用量制限部材の相互当接に達したとき、用量設定手順中のピストンロッドに対する、したがって駆動スリーブに対する用量制限部材のさらなる軸方向変位が阻止される。
【0022】
少なくとも1つの止め部材は、典型的には停止面を含み、用量設定手順中に駆動機構の最大用量構成に達したときに用量制限部材と係合または当接する。少なくとも1つの止め具と用量制限部材が相互に係合するとき、少なくとも1つの止め具は、ピストンロッドに対する駆動スリーブのさらなる用量増分変位を妨げる、または阻止する働きをする。
【0023】
一般に、用量制限部材は、やはり駆動スリーブを通って延びるピストンロッドに対してほぼ無接触の構成で駆動スリーブの内部に配置される。駆動機構の内部摩擦が減少される。さらに、駆動スリーブに対するおよび/またはピストンロッドに対する用量制限部材の近位方向に向かう変位によって達成される用量設定中にも、ピストンロッド自体は、駆動スリーブおよび/または用量制限部材の用量設定変位によって全く影響を及ぼされない、または損なわれないままである。
【0024】
この有益な効果は、特に、用量制限部材に対するおよび/または駆動スリーブに対するピストンロッドの実質的に無接触の配置により達成可能である。
【0025】
最大用量構成に達したときに初めて、ピストンロッドが用量制限部材と最初に動作可能に係合して、ピストンロッドに対する用量制限部材のさらなる軸方向の、好ましくは近位方向に向かう変位を妨げる。用量制限部材は駆動スリーブとねじ係合されるので、用量制限部材とピストンロッドの相互止め構成は、それにより、駆動スリーブのさらなる回転および用量増分変位を実質的に阻止する。したがって、カートリッジ内に残る薬剤の量を超える用量が設定されることはない。
【0026】
一実施形態では、用量制限部材が、駆動スリーブとピストンロッドとの間で半径方向に配置される。好ましくは、ピストンロッドは、駆動スリーブの半径方向中心部分を通って、および用量制限部材の半径方向中心部分を通って延びる。用量制限部材を駆動スリーブ内部にほぼ完全に配置することによって、用量制限部材のかなり省スペースの構成が達成される。好ましくは、用量制限部材は、駆動スリーブから軸方向に少なくとも部分的に突出して、ハウジングと非回転可能に係合する。
【0027】
別の実施形態では、用量制限部材は、ピストンロッドを取り囲むスリーブ部分を含む。典型的には、用量制限部材は、そのスリーブ部分で、中空の駆動スリーブ内部に位置される。用量制限部材のスリーブ部分が、駆動スリーブの内側に面する壁とねじ係合される。
【0028】
別の実施形態では、用量制限部材のスリーブ部分は、駆動スリーブの雌ねじと係合される雄ねじを含む。したがって、用量制限部材のスリーブ部分の外径は、駆動スリーブの内径に実質的に一致する。駆動スリーブとの外向きのねじ係合により、用量制限部材は、そこを通してピストンロッドを無接触で受け取るように適用された比較的大きい自由内径を特色とする。
【0029】
別の実施形態では、用量制限部材は、軸方向に延び、駆動スリーブの近位端から少なくとも部分的に突出するブラケット部分をさらに含む。ブラケット部分は、駆動スリーブの回転位置に関係なく、および/または駆動スリーブに対する用量制限部材の軸方向位置に関係なく、駆動スリーブの近位端から少なくとも部分的に突出する用量制限部材の部分である。
【0030】
典型的には、駆動スリーブは、最大用量構成に達するまで、用量増分方向で回転可能である。この最大用量構成で、用量制限部材のブラケット部分は、駆動スリーブの近位端からほぼ完全に延び、用量制限部材のスリーブ部分は、好ましくは、駆動スリーブのねじ部分内部に完全に残る。この最大用量構成で、スリーブ部分の近位端は、駆動スリーブの近位端にほぼまたは実質的に達することが好ましい。
【0031】
たとえば用量投薬手順中に、反対方向、したがって用量減分方向に回転されるとき、用量制限部材は、駆動スリーブ内部の遠位止め具に達するまで遠位方向に摺動するように動作可能である。投薬手順の最後にゼロ用量構成に対応するこの構成では、少なくとも、用量制限部材のブラケット部分の近位端は、駆動スリーブの近位端から依然として突出する。このようにすると、ブラケット部分は、ハウジングの一部とロック係合したままである。
【0032】
別の実施形態によれば、ブラケット部分は、2つの軸方向に延びて平行に向けられた分岐部を含み、分岐部は、ハウジングのピンを摺動可能に受け入れるために閉じたフレーム構造を形成するように相互連結される。ブラケット部分が、閉じたループまたは一種のスリットを形成して、ハウジングの半径方向内側に延びるピンを受け取るので、用量制限部材は、回転軸として軸方向を有する回転に対して実質的に固定される。
【0033】
しかし、用量制限部材の半径方向固定は、用量制限部材のスリーブ部分と、駆動スリーブの対応する形状の雌ねじとのねじ係合によって得られる。
【0034】
さらなる実施形態では、用量制限部材はまた、ピストンロッドの対応する形状の溝と係合される少なくとも1つの半径方向内側に延びる突出部を含む。この実施形態では、用量制限部材は、駆動機構のハウジングとピストンロッドの両方と直接連係(interlocked)または係合される。ここでは用量制限部材はピストンロッドとの恒久的な接触配置にあるものの、この実施形態は、ピストンロッドの全般的な設計に関して有益である。
【0035】
典型的には、ピストンロッドは、駆動ホイールの雌ねじと係合するために雄ねじを含む。駆動ホイールは、用量投薬手順中に、駆動スリーブと選択的に係合する。回転可能な駆動ホイールとねじ係合されるとき、ピストンロッドは、用量減分回転する駆動ホイールの作用下で長手方向遠位方向への変位を受けるために、ハウジングに対して回転可能にロックされなければならない。ここでは、用量制限部材は、ピストンロッドのための回転連係機能を提供する。
【0036】
用量制限部材がハウジングに回転可能に係合される、または回転可能にロックされるとき、ピストンロッドは、この用量制限部材にスプライン連結される、または回転可能にロックされるので、ピストンロッドは、用量制限部材を介してハウジングに対して回転可能にロックされる。この態様では、用量制限部材は、2つの機能を提供する。一態様では、内容物終了機能を提供し、別の態様では、ハウジングに対してピストンロッドを回転可能にロックする働きをし、それにより、回転可能な駆動ホイールとのねじ係合は、用量投薬中に遠位方向にピストンロッドを前進させるように動作可能である。
【0037】
さらなる実施形態によれば、ピストンロッドと一体に形成される止め部材は、ピストンロッドの近位端に、半径方向外側に延びるフランジ部分を含む。このようにして、止め部材は、最大用量構成に達するときに、用量制限部材のスリーブ部分の近位リムと軸方向で係合する。また、代替として、ピストンロッドの止め部材は、ピストンロッドの軸方向に延びる溝の近位端として実装される。ここで、用量制限部材の半径方向内側に延びる突出部は、溝の端部と軸方向で当接し、それにより、最大用量構成に達したときに、ピストンロッドに対する用量制限部材のさらなる近位方向に向かう変位を妨げる。
【0038】
さらなる実施形態によれば、ピストンロッドの止め部材は、遠位方向に面し、用量制限部材の対応する歯車付きの近位リム(geared proximal rim)と嵌合するように設計された冠歯車を含む。したがって、近位リムも、止め部材の遠位方向に面する冠歯車と係合するために、近位方向に延びる冠歯車を含む。止め部材と用量制限部材の相互に対応する冠歯車によって、ピストンロッドと用量制限部材のよく定義された軸方向係合が達成される。
【0039】
ピストンロッドの止め部材が、用量制限部材の対応する歯車付きの近位リムと嵌合するために冠歯車を含むとき、用量投薬中にピストンロッドが用量制限部材に対しておよび/またはハウジングに対して回転するようにされると特に有益である。特に、駆動ホイールがピストンロッドにスプライン連結され、それにより回転可能に連係されることが想定可能である。次いで、それに従って、駆動ホイールの用量減分回転は、ピストンロッドを回転させる働きをする。ここで、ピストンロッドは、ハウジングとねじ係合され、それにより、駆動ホイール、したがって駆動スリーブが用量減分方向に回転されるときに、遠位方向に向かう用量投薬変位を受ける。
【0040】
最大用量構成に達するとき、ピストンロッドと用量制限部材が遠位方向に一緒に変位可能であることが意図される。それぞれの制限された用量投薬手順の最後にゼロ用量構成に達するとき、用量制限部材とピストンロッドは、相互に対応する冠歯車によって正確に係合されたままである。ピストンロッドと用量制限部材の同時の同期した遠位方向に向かう変位を提供するために、ピストンロッドと用量制限部材の雄ねじが実質的に同一のリードを含むと特に有益である。
【0041】
また、ピストンロッドの止め部材は、特にピストンロッドと用量制限部材が純粋に軸方向に向かう変位を受けるとき、遠位方向で平面状または平坦な形状である。
【0042】
さらなる実施形態では、駆動スリーブは、ばね要素の作用に反して遠位方向で軸方向に変位可能である。ばね要素は、典型的には、駆動スリーブの近位リムと、ピストンロッドに回転可能に係合された駆動ホイールとの間に挟まれる。駆動ホイールは、好ましくは、駆動機構のハウジング内に軸方向で固定され、一方、駆動スリーブは、駆動ホイールに対して遠位方向で軸方向に変位可能である。
【0043】
特に、駆動スリーブは、典型的には、ばね要素の作用下で駆動ホイールから係合解除する。このとき、駆動スリーブの用量設定回転変位は駆動ホイールおよび/またはピストンロッドに対して実質的に影響がないので、駆動機構は用量設定モードにある。好ましくは、駆動スリーブは、別のばね要素の作用に反して用量増分方向で回転可能であり、そのばね要素によって、デバイスのユーザによって提供される手動で加えられるトルクまたはエネルギーは、駆動機構内に、または駆動機構によって貯蔵および保存される。
【0044】
駆動ホイールに対する駆動スリーブの遠位方向に向かう変位により、駆動スリーブと駆動ホイールのトルクまたはモーメント伝達係合が得られる。さらに、このとき、駆動スリーブは、たとえばクラッチまたはラチェット部材によって追加のばね要素と動作可能に連結され、それにより、用量減分方向で駆動スリーブを回転させる働きをするばねベースの駆動力を受ける。用量設定モードから用量投薬モードへの駆動機構の切替えは、駆動スリーブの回転解放、および駆動スリーブと駆動ホイールのトルク伝達または回転連係と共に生じる。好ましくは、駆動スリーブと駆動ホイールのトルク伝達係合は、駆動スリーブに用量投薬回転をさせるようにばねベースの駆動力が解放される前に得られる。
【0045】
さらなる実施形態では、駆動ホイールは、ピストンロッドとねじ係合される。したがって、駆動ホイールは、ピストンロッドの雄ねじと嵌合する雌ねじを特色とする中心貫通開口を含む。駆動ホイールはハウジング内で軸方向で固定されるものの、ここで、上述したように、ピストンロッドが直接または用量制限部材を介してハウジングに回転可能にロックされるとき、駆動ホイールの回転は、ピストンロッドの遠位方向に向かう変位をもたらす。
【0046】
さらなる実施形態では、駆動スリーブは、遠位端面に冠歯車部分を含み、駆動ホイールの対応する形状の冠歯車部分と嵌合する。好ましくは、駆動スリーブと駆動ホイールの冠歯車部分の軸方向伸張または延びは、駆動ホイールに対する駆動スリーブの最初の制限された遠位方向に向かう変位が、駆動スリーブと駆動ホイールのトルク伝達係合を提供するのに既に十分であるようなものである。
【0047】
駆動スリーブをさらに遠位方向に変位させるとき、駆動ホイールと駆動スリーブのトルク伝達係合は維持される。しかし、駆動ホイールのこの連続する遠位方向に向かう変位は、駆動スリーブがハウジングに選択的に連係されるラチェット機構を係合解除する働きをする。
【0048】
さらに別の実施形態では、駆動スリーブの近位リムは、ばね要素の作用に反して用量増分方向へ回転可能にハウジング内で支持された駆動スピンドルのピニオンと噛合される。ここで、特に用量投薬モードで、駆動スリーブは、ばね支持された駆動スピンドルによって駆動され、この駆動スピンドルは、駆動スリーブの歯車付きリムと噛合される。駆動スピンドルは、典型的には別の駆動部材とねじ係合され、この駆動部材は、駆動スピンドルとねじ係合され、ハウジングに対して軸方向に摺動可能に変位可能である。
【0049】
ここで、駆動部材は、圧縮ばねまたは螺旋ばねと直接係合される。螺旋ばねは、駆動スピンドルでの用量減分回転を直接誘発するように特に適用され、一方、軸方向で圧縮される圧縮ばねは、駆動スピンドルとねじ係合された軸方向に変位可能な駆動部材と係合して、スピンドルギアを形成する。
【0050】
さらに、別の実施形態によれば、駆動ホイールはまた、その外周に、ハウジングのラチェット部材と係合される歯車付きリムを含み、ラチェット部材は、駆動ホイールが用量投薬、したがって用量減分方向に回転するときに、可聴クリック音を発生するように動作可能である。さらに、ハウジングのラチェット部材はまた、反対方向、したがって用量増分方向での駆動ホイールの回転を妨げるように動作可能である。このようにして、用量投薬中にピストンロッドが遠位方向でのみ排他的に変位可能であることが実質的に保証される。したがって、ハウジングに対するピストンロッドの近位方向に向かう変位は実質的に妨げられる。
【0051】
別の態様によれば、本発明はまた、薬剤の用量を投薬するための薬物送達デバイスに関する。薬物送達デバイスは、上述したような駆動機構と、薬物送達デバイスによって投薬すべき薬剤を少なくとも部分的に充填されたカートリッジとを含む。カートリッジは、駆動機構のハウジング内または薬物送達デバイスのカートリッジホルダ内に配置され、カートリッジホルダは、たとえばそれぞれ再使用可能または使い捨ての薬物送達デバイスの場合に、ハウジングに解放可能または非解放可能に固定される。したがって、薬物送達デバイスは、薬剤を充填されたカートリッジを受け取って収容するためにカートリッジホルダを含む。
【0052】
それとは別に、薬物送達デバイスと駆動機構は、薬剤の用量を投薬するためにユーザが薬物送達デバイスおよびその駆動機構をトリガして制御するための用量注射部材など、さらなる機能的構成要素を含む。
【0053】
本出願の文脈では、遠位方向は、投薬およびデバイスの方向を指し、ここで、好ましくは、薬剤の送達のために生物学的組織または患者の皮膚に挿入される両先端注射針を有するニードルアセンブリが提供される。
【0054】
近位端または近位方向は、投薬端から最も離れたデバイスまたはその構成要素の端部を示す。典型的には、作動部材が薬物送達デバイスの近位端に位置され、この作動部材は、用量の設定のために回転されるようにユーザによって直接操作可能であり、かつ用量の投薬のために遠位方向に押されるように操作可能である。
【0055】
本明細書で使用する用語「薬物」または「薬剤」は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態において、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、および/または、ペプチド、タンパク質、多糖類、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモンもしくはオリゴヌクレオチド、または上述の薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病関連の合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチの処置および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病性網膜症などの糖尿病に関連する合併症の処置および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)もしくはその類似体もしくは誘導体、またはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4もしくはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4の類似体もしくは誘導体を含む。
【0056】
インスリン類似体は、たとえば、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28−B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリン、およびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0057】
インスリン誘導体は、たとえば、B29−N−ミリストイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−パルミトイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−ミリストイルヒトインスリン;B29−N−パルミトイルヒトインスリン;B28−N−ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28−N−パルミトイル−LysB28ProB29ヒトインスリン;B30−N−ミリストイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30−N−パルミトイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29−N−(N−パルミトイル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(N−リトコリル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)−des(B30)ヒトインスリン、およびB29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0058】
エキセンジン−4は、たとえば、H−His−Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Lys−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Lys−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser−NH2配列のペプチドであるエキセンジン−4(1−39)を意味する。
【0059】
エキセンジン−4誘導体は、たとえば、以下のリストの化合物:
H−(Lys)4−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)5−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39);または
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
(ここで、基−Lys6−NH2が、エキセンジン−4誘導体のC−末端に結合していてもよい);
【0060】
または、以下の配列のエキセンジン−4誘導体:
desPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2(AVE0010)、
H−(Lys)6−desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desAsp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desMet(O)14,Asp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2;
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Lys6−desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28,Pro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(S1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2;
または前述のいずれか1つのエキセンジン−4誘導体の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和化合物
から選択される。
【0061】
ホルモンは、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンなどの、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストである。
【0062】
多糖類としては、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩がある。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。
【0063】
抗体は、基本構造を共有する免疫グロブリンとしても知られている球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位は免疫グロブリン(Ig)単量体(1つのIg単位のみを含む)であり、分泌型抗体はまた、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもあり得る。
【0064】
Ig単量体は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、システイン残基間のジスルフィド結合によって結合された2つの同一の重鎖および2本の同一の軽鎖から構成される「Y」字型の分子である。それぞれの重鎖は約440アミノ酸長であり、それぞれの軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化させる鎖内ジスルフィド結合を含む。それぞれの鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインから構成される。これらのドメインは約70〜110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に基づいて異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的な免疫グロブリン折り畳み構造を有する。
【0065】
α、δ、ε、γおよびμで表される5種類の哺乳類Ig重鎖が存在する。存在する重鎖の種類により抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される。
【0066】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(C
H)と可変領域(V
H)を有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、α、およびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つの免疫グロブリン・ドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0067】
哺乳類では、λおよびκで表される2種類の免疫グロブリン軽鎖がある。軽鎖は2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211〜217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を有し、哺乳類の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0068】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(HV)に3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0069】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化は、Igプロトタイプを3つのフラグメントに切断する。1つの完全なL鎖および約半分のH鎖をそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズが同等であるが、鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR結合部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH−H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合は、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域は、縮合して単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することもできる。
【0070】
薬学的に許容される塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩としては、たとえば、HClまたはHBr塩がある。塩基性塩は、たとえば、アルカリまたはアルカリ土類、たとえば、Na+、またはK+、またはCa2+から選択されるカチオン、または、アンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1〜R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1〜C6アルキル基、場合により置換されたC2〜C6アルケニル基、場合により置換されたC6〜C10アリール基、または場合により置換されたC6〜C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0071】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0072】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく本発明に様々な修正および変更を施すことができることが当業者にはさらに明らかになろう。さらに、添付の特許請求の範囲で使用される任意の参照符号は、本発明の範囲を限定するものとは解釈すべきでないことに留意されたい。
【0073】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べる。