【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)第1の本発明の少なくとも一実施形態に係る油冷式スクリュー圧縮機システムは、
被圧縮気体が潤滑油に対し相溶性の気体である油冷式スクリュー圧縮機システムであって、
スクリュー部及び該スクリュー部の両端に形成された軸部を有する雄雌スクリューロータと、
内部に前記スクリュー部が収容されるスクリュー室及び前記軸部が収容される軸受室を有するハウジングと、
前記軸受室に設けられ、前記軸部を回転自在に支持するための軸受と、を有するスクリュー圧縮機と、
前記スクリュー部に潤滑油を供給するための第1潤滑油供給系統と、
前記軸受に潤滑油を供給するための第2潤滑油供給系統と、を備え、
前記第1潤滑油供給系統は、
前記スクリュー圧縮機の吐出気体が導入され、該吐出気体から潤滑油を分離するための気液分離器と、
前記ハウジングを構成するハウジング壁に形成され、該ハウジング壁の外表面に開口し、かつ前記スクリュー室に連通する第1供給流路と、
前記気液分離器の潤滑油貯留域と前記第1供給流路の開口とに接続された第1供給路と、を備え、
前記第2潤滑油供給系統は、
潤滑油貯留タンクと、
前記ハウジング壁に形成され、該ハウジング壁の外表面に開口し、前記軸受室に連通する第2供給流路と、
前記潤滑油貯留タンクと前記第2供給流路の開口とに接続された第2供給路と、
前記ハウジング壁に形成され、前記軸受室に連通し、該ハウジング壁の外表面に開口する第1排出流路と、
前記潤滑油貯留タンクと前記第1排出流路の開口とに接続された排出路と、を備えている。
【0009】
本明細書で「潤滑油」とは、ポリアルキレングリコール(PAG)のように、通称「潤滑剤」と言われているものも含むものとする。
前記構成(1)では、スクリュー室に潤滑油を供給する第1潤滑油供給系統と、軸受室に潤滑油を供給する第2潤滑油供給系統とを設け、これら供給系統は独立した循環系を形成している。
そのため、前述した従来の油冷式スクリュー圧縮機のように、軸受に供給された潤滑油をスクリュー室に供給しないため、スクリュー室に供給される潤滑油量を低減できる。これによって、スクリュー室における被圧縮気体の冷却を抑制でき、圧縮機吐出側の被圧縮気体の温度を上昇できるため、被圧縮気体の凝縮及び潤滑油への溶け込み量を抑制できる。
従って、潤滑油の潤滑性能を確保できる。
【0010】
また、軸受室に供給される潤滑油は高い吐出温度を有する被圧縮気体に接触することがないため、軸受室に供給される潤滑油を冷却するオイルクーラを小型化できる。
さらに、本発明の圧縮機システムでは、スクリュー室と軸受室間の潤滑油の微小な漏れは許容できる。そのため、特許文献1のような高コストなシール構造を採用しないため、シール構造をコンパクトかつ低コスト化できる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では、前記構成(1)において、
前記第1排出流路と前記スクリュー室とに連通する第1分岐排出流路が形成され、
該第1分岐排出流路は第1閉塞部材によって閉塞される。
前述の従来の油冷式スクリュー圧縮機は、軸受室から排出される潤滑油をスクリュー室に導入する流路、即ち、前記第1排出流路及び前記第1分岐排出流路と同じ流路を有している。
前記構成(2)によれば、従来の油冷式スクリュー圧縮機を本発明の少なくとも一実施形態に係る油冷式スクリュー圧縮機に改造する場合に好適である。
即ち、従来機に形成された前記第1分岐排出流路を前記第1閉塞部材で閉塞し、かつ前記第1排出流路を設けるだけの簡単な改造で、本発明の油冷式スクリュー圧縮機に改造できる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、前記構成(1)又は(2)において、
前記潤滑油貯留タンクが密閉タンクであり、
前記スクリュー圧縮機の吸入口に接続された吸入路と、
前記吸入路から分岐し、前記潤滑油貯留タンクに接続された吸入分岐路と、
前記潤滑油貯留タンクと前記気液分離器の潤滑油貯留域とに接続された戻し管と、
前記戻し管に設けられた開閉弁と、
前記潤滑油貯留タンクに設けられた油面レベルセンサと、
前記油面レベルセンサの検出値が入力され、該検出値が閾値以下となったとき前記開閉弁を開放するための制御装置と、をさらに備えている。
【0013】
スクリュー室の吸入側領域と吸入側軸受室とでは、吸入側軸受室のほうが圧力が高いため、軸受室の潤滑油がわずかにスクリュー室へ流入する。そのため、第2潤滑油供給系統の潤滑油量は徐々に低下する。なお、スクリュー室の吐出側領域と吐出側軸受室とでは、ほぼ同じ圧力であるため、両室間の潤滑油の漏れはわずかである。
前記構成(3)において、スクリュー圧縮機の吸入路は吐出路と比べて低圧であり、該吸入路と前記吸入分岐路を介して連通している潤滑油貯留タンクも低圧状態となる。他方、吐出路に接続された気液分離器は潤滑油貯留タンクより高圧となる。そのため、前記戻し管に設けられた開閉弁を開放すれば、気液分離器内の潤滑油は戻し管を通って自動的に潤滑油貯留タンクに回収できる。
従って、潤滑油貯留タンク内の潤滑油の油面レベルが低下したとき、気液分離器内の潤滑油を自動的に潤滑油貯留タンクに戻し、潤滑油貯留タンクの貯油量を確保できる。
【0014】
なお、気液分離器内に貯留された潤滑油は被圧縮気体を含んでいるが、該潤滑油が低圧の潤滑油貯留タンクに入ると、被圧縮気体は潤滑油から分離し、前記吸入分岐路及び前記吸入路を介してスクリュー圧縮機の吸入口に排出される。そのため、潤滑油貯留タンク内に貯留された潤滑油は被圧縮気体の含有量が減少する。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では、前記構成(3)において、
前記ハウジングに設けられた吐出気体路と、
前記吐出気体路を通る吐出気体の温度を検出する温度センサと、
前記第1供給路に設けられた流量調整弁と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記温度センサの検出値が入力され、前記流量調整弁の開度を調整して前記吐出気体の温度を調整するものである。
前記構成(4)によれば、前記吐出気体の温度を所望の温度に調整できる。そのため、被圧縮気体の温度を上昇させ、被圧縮気体の凝縮及び潤滑油への溶け込み量を抑制できる。
【0016】
(5)幾つかの実施形態では、前記構成(1)において、
前記被圧縮気体が炭化水素系気体である。
例えば、石油精製プロセスでは炭化水素系気体が生成される。炭化水素系気体は凝縮しやすい性質をもつ。炭化水素系気体をスクリュー圧縮機で圧縮する場合、前記構成(1)〜(4)の何れかによれば、軸受室に供給される潤滑油において、少なくとも凝縮しないで潤滑油中に分散して存在する炭化水素系気体の混入を抑制できる。これによって、軸受室に供給される潤滑油の機能低下を抑制でき、軸受室に設けられた軸受の損傷を抑制できる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、前記構成(5)において、
前記被圧縮気体がモル質量が44以上の炭化水素系気体である。
モル質量が44以上の炭化水素系気体(例えばプロパンガス以上のモル質量を有する炭化水素系ガス)は特に被圧縮気体に溶け込みやすい。かかる気体であっても、前記構成(1)〜(3)の何れかによって、軸受室に供給される潤滑油への被圧縮気体の混入を抑制でき、軸受室に設けられた軸受の損傷を抑制できる。
【0018】
(7)第2の本発明の少なくとも一実施形態に係る油冷式スクリュー圧縮機システムの改造方法は、
被圧縮気体が潤滑油に相溶性の気体であり、
スクリュー部及び該スクリュー部の両端に形成された軸部を有する雄雌スクリューロータと、
内部に前記スクリュー部が収容されるスクリュー室及び前記軸部が収容される軸受室を有するハウジングと、
前記軸受室に設けられ、前記軸部を回転自在に支持するための軸受と、を有するスクリュー圧縮機と、
前記スクリュー部に潤滑油を供給するための第1潤滑油供給系統と、
前記軸受に潤滑油を供給するための第2潤滑油供給系統と、を備え、
前記第1潤滑油供給系統は、
前記スクリュー圧縮機の吐出気体が導入され、該吐出気体から潤滑油を分離するための気液分離器と、
前記ハウジングを構成するハウジング壁に形成され、該ハウジング壁の外表面に開口し、かつ前記スクリュー室に連通する第1供給流路と、
前記気液分離器の潤滑油貯留域と前記第1供給流路の開口とに接続された第1供給路と、を備え、
前記第2潤滑油供給系統は、
前記ハウジング壁に形成され、該ハウジング壁の外表面に開口し、前記軸受室に連通する第2供給流路と、
前記第2供給流路の開口に接続された第2供給路と、
前記ハウジング壁に形成され、前記軸受室と前記スクリュー室とに連通する第2排出流路と、を備えた油冷式スクリュー圧縮機システムの改造方法であって、
前記ハウジング壁に形成され、前記第2排出流路に連通し、前記第2排出流路と共に該ハウジング壁の外表面及び前記スクリュー室に開口する直線形状の貫通孔を形成する第3排出流路を形成する第1工程と、
前記第3排出流路の前記ハウジング壁外表面開口に排出路を接続する第2工程と、
前記第2排出流路の前記スクリュー室側開口を第1閉塞部材で閉塞する第3工程と、
前記第2供給路に接続された潤滑油貯留タンクに前記排出路を接続する第4工程と、を含む。
【0019】
前記方法(7)によれば、前記第2排出流路が形成された従来の油冷式スクリュー圧縮機に対し、前記第1工程から前記第4工程までの工程を行うことで、スクリュー室に潤滑油を供給する第1潤滑油供給系統と、軸受に潤滑油を供給する第2潤滑油供給系統とを分離独立させた本発明の油冷式スクリュー圧縮機システムに低コストで容易に改造できる。
【0020】
(8)第3の本発明の少なくとも一実施形態に係る油冷式スクリュー圧縮機システムの改造方法は、
被圧縮気体が潤滑油に相溶性の気体であり、
スクリュー部及び該スクリュー部の両端に形成された軸部を有する雄雌スクリューロータと、
内部に前記スクリュー部が収容されるスクリュー室及び前記軸部が収容される軸受室を有するハウジングと、
前記軸受室に設けられ、前記軸部を回転自在に支持するための軸受と、を有するスクリュー圧縮機と、
前記スクリュー部に潤滑油を供給するための第1潤滑油供給系統と、
前記軸受に潤滑油を供給するための第2潤滑油供給系統と、を備え、
前記第1潤滑油供給系統は、
前記スクリュー圧縮機の吐出気体が導入され、該吐出気体から潤滑油を分離するための気液分離器と、
前記ハウジングを構成するハウジング壁に形成され、該ハウジング壁の外表面に開口し、かつ前記スクリュー室に連通する第1供給流路と、
前記気液分離器の潤滑油貯留域と前記第1供給流路の開口とに接続された第1供給路と、を備え、
前記第2潤滑油供給系統は、
前記ハウジング壁に形成され、該ハウジング壁の外表面に開口し、前記軸受室に連通する第2供給流路と、
前記第2供給流路の開口に接続された第2供給路と、
前記ハウジング壁に形成され、前記軸受室と前記スクリュー室とに連通する第2排出流路と、
前記ハウジング壁に形成され、前記第2排出流路に連通し、前記第2排出流路と共に該ハウジング壁の外表面及び前記スクリュー室に開口する直線形状の貫通孔を形成する第3排出流路と、を備え、
前記第3排出流路の前記ハウジング壁外表面に開口する開口が第2閉塞部材で閉塞された油冷式スクリュー圧縮機システムの改造方法であって、
前記第2閉塞部材を取り外し、前記第3排出流路の前記ハウジング壁外表面側開口に排出路を接続する第5工程と、
前記第2排出流路の前記スクリュー室側開口を第1閉塞部材で閉塞する第6工程と、
前記第2供給路に接続された潤滑油貯留タンクに前記排出路を接続する第7工程と、を含む。
【0021】
従来の油冷式スクリュー圧縮機において、軸受室から排出された潤滑油をスクリュー室に供給する前記第2排出流路を切削加工で形成する場合、ハウジング壁の外表面からスクリュー室に貫通する直線状の貫通孔を形成する必要がある。そのために、前記第3排出流路が形成されている。
前記方法(8)によれば、前記第2排出流路及び前記第3排出流路からなる貫通孔が形成された従来の油冷式スクリュー圧縮機に対し、前記第5工程から前記第7工程までの工程を行うことで、本発明のスクリュー圧縮機システムに低コストで容易に改造できる。
【0022】
(9)幾つかの実施形態では、前記方法(7)又は(8)において、
前記潤滑油貯留タンクが内部を密閉可能なタンクであり、
前記スクリュー圧縮機の吸入口に接続された吸入路から分岐し前記潤滑油貯留タンクに接続する吸入分岐路を設ける第8工程と、
前記潤滑油貯留タンクと前記気液分離器の潤滑油貯留域とに接続する戻し管を設けると共に、該戻し管に開閉弁を設ける第9工程と、
前記潤滑油貯留タンクに設けられた油面レベルセンサと、前記油面レベルセンサの検出値が入力され、該検出値が閾値以下となったとき前記開閉弁を開放するための制御装置を設ける第10工程と、をさらに含む。
【0023】
前記方法(9)によれば、潤滑油貯留タンク内の潤滑油の油面レベルが低下したとき、前記開閉弁を開放することで、潤滑油貯留タンクと気液分離器との圧力差により、気液分離器内の潤滑油を自動的に潤滑油貯留タンクに戻すことができる。これによって、潤滑油貯留タンク内の潤滑油量を常に確保できる。
また、前述のように、低圧下の潤滑油貯留タンクに貯留された潤滑油に混じった被圧縮気体は、分離して前記吸入分岐路及び前記吸入路を介しスクリュー圧縮機の吸入口に排出されるので、被圧縮気体が多量に混じった潤滑油を軸受室に供給することはなくなる。