【文献】
Iodinated Feed Reduces Stress in Steelhead Trout,Global Aquaculture Advocate,2003年,APRIL 2003,p22-23
【文献】
配合飼料のカロリー・タンパク質比がハマチの成長、飼料効率および体成分に及ぼす影響,Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries,1980年,vol.46 no.9,p1083-1087
【文献】
Trace minerals in fish nutrition,Aquaculture,1997年,vo.151,p185-207
【文献】
The action of thyroxine on mitochondrial respiration and phosphorylation in the trout(Salmo trutta fario L.),Comp. Biochem. Physiol.,1968年,vol.25,p241-255
【文献】
Thyroid hormone stimulates myoglobin expression in soleus and extensorum digitails longus muscles of rats: Concomitant alterations in the activities of Krebs cycle oxidative enzymes,Thyroid,2001年,vol.11 no.6,p545-550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1日あたり0.1mg/kg体重以上のヨウ素を摂取させることを特徴とするブリ類、マグロ類又はカツオ類の養殖魚の肉質改善方法。但し、肉質改善は、普通筋及び/又は血合筋の赤色強化、普通筋及び/又は血合筋のミオグロビン含量増加、又は、普通筋の食感改善である。
【背景技術】
【0002】
養殖魚が切り身、フィレー、刺身などに加工されて流通される場合、加工品の外観は消費者の購買意欲に大きく影響するが、特に肉の色調は重要とされている。例えば、ブリ類であれば血合筋が、マグロ類やカツオ類であれば血合筋と普通筋が鮮やかな赤色を呈しているものが消費者に好まれるため、肉の色調は商品価値を決める大きな要因となる。
【0003】
魚類は成長にともなって肉の赤色が増していく特徴があり、これは肉中の色素タンパク質であるミオグロビン含量が成長に伴って増加することに起因する(非特許文献1、非特許文献2)。しかし、肉中におけるミオグロビン含量の増加割合には個体差があるため、同時期に産まれた同じ種類の魚であっても、色調の濃淡に個体間で差が認められることがある。非特許文献3には魚類の肉中におけるミオグロビン含量についての一般的な値が記載されている。
【0004】
クロマグロを養殖する場合、通常は体重が30〜50kg程度になるまで生育させてから出荷するため、育成期間として3〜4年程度を要する。ブリでは、体重が2〜5kg程度まで生育させて出荷する場合には2年程度、体重が7〜9kg程度まで生育させて出荷する場合には3年程度の育成期間を要する。しかしながら、このような長期間をかけて目標の体重まで養殖魚を生育させても、ミオグロビン含量が十分に増加しない個体も存在するため、このような個体では肉の色調が好ましい鮮やかな赤色とならず、商品価値が低いものとなってしまうことがある。
【0005】
非特許文献4には、甲状腺ホルモンによって、ラット心筋でのミオグロビン遺伝子の発現量が増加することが記載されている。甲状腺ホルモンとは、甲状腺で合成・分泌されるヨウ素含有ホルモンである。
特許文献1には、抗菌性、殺ウイルス性があるヨウ素を感染症予防のために0.1〜1%添加した魚類用飼料が記載されている。
特許文献2、3には、トウガラシを含有する飼料を給餌してブリの血合筋の色調を保持する方法、肉質を改善する方法が記載されている。特許文献4には、アスコルビン酸、フェルラ酸及びpH調整剤を有効成分とする魚肉の退色・変色防止剤が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
養殖魚を水揚げしてみなければ肉の色調や品質は判別できないため、水揚げ後に品質が十分ではないことがわかってもどうすることもできない。育成期間を長期化すれば、全ての個体においてミオグロビン含量を十分に増加させ得るが、台風や時化のような自然災害や魚病羅患などの被害を受けるリスクを高めるばかりでなく、給餌その他の管理コストが増加することとなるので望ましくない。
現行よりも短い育成期間で、肉の色調が好ましい鮮やかな赤色を備えた養殖魚にすることができれば、上記のようなリスクを回避しつつ管理コストを抑えることが可能となる。
本発明は、ブリやマグロのような養殖魚の飼育過程において、肉の赤い色調を強化する方法及びそれに用いる養殖魚用飼料を提供することを課題とする。また、本発明は、適度な歯応えのある魚肉生産する方法又は養殖魚用飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記課題を解決すべく、養殖魚にヨウ素を投与することによって肉中のミオグロビン含量が増加するのではないかとの考えのもと、鋭意研究を行った結果、ブリやマグロのようなミオグロビンを豊富に含む養殖魚の魚肉の赤い色調を強化する方法を見出し、本発明を完成した。また、本願発明の方法により、刺し身などに調理加工した場合、適度な歯応えのある魚肉が得られることを見出した。本発明は以下の(1)〜(6)をその要旨とする。
(1)1日あたり0.1mg/kg体重以上のヨウ素を摂取させることを特徴とする養殖魚の肉質改善方法。
(2)1日あたり0.1〜100mg/kg体重のヨウ素を摂取させることを特徴とする(1)の養殖魚の肉質改善方法。
(3)肉質改善が、普通筋及び/又は血合筋の赤色強化、普通筋及び/又は血合筋のミオグロビン含量増加、又は、普通筋の食感改善である(1)又は(2)の方法。
(4)少なくとも、水揚げ直前の1か月間に3日以上又は10日以上摂取させることを特徴とする(1)ないし(3)いずれかの方法。
(5)養殖魚がブリ類、マグロ類又はカツオ類である(1)ないし(4)いずれかの方法。
(6)飼料乾物重量1kgあたりヨウ素を10mg以上1000mg未満含むことを特徴とする養殖魚用飼料。
(7)ブリ類、マグロ類又はカツオ類用の飼料である(6)の養殖魚用飼料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、ブリやマグロなどの養殖魚の飼育過程において、ミオグロビンによる魚肉の赤い色調を強化することができる。また、本発明によれば、適度な歯応えのある魚肉である養殖魚を生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、養殖魚の肉質改善とは、魚肉の色や食感など、食品としての品質をより良くすることを意味する。特に、普通筋及び/又は血合筋の赤色強化とは、普通筋及び/又は血合筋のミオグロビンに基づく赤色が強化される作用である。本発明において普通筋とは、骨格筋のうちの速筋をいい、主に食用とする部分である。本発明において血合筋とは、骨格筋のうちの遅筋をいう。
【0013】
本発明において、ミオグロビン含量増加とは、筋肉中のミオグロビンの含量を増加させる作用である。普通筋及び/又は血合筋におけるミオグロビンの含量は、例えばMeat Science (1982)、Volume 7 Issue 1、p29-36に記載されている方法により測定できる。すなわち、養殖魚から採取した普通筋や血合筋をリン酸緩衝液中で磨砕した後、遠心分離によって上清を採取し、吸光光度計にて525nm、730nmの吸光度を測定する。測定した吸光度を元に、次式にてミオグロビン含量を算出する。
ミオグロビン含量(mg/kg肉)=(吸光度525nm−吸光度730nm)×2,303
【0014】
本発明において、普通筋の食感改善とは、普通筋の食感が改善される作用であり、具体的には普通筋の破断強度向上を意味する。普通筋の破断強度が向上すると、刺し身などに調理加工した場合、歯応えがよくなり、好ましい食感となる。
普通筋の破断強度は、食品や医薬品の破断強度測定に用いられる一般の物性測定機器により測定できる。破断強度の測定に用いる物性測定機器としては、特に限定されるものではないが、YAMADEN RHEONER II CREEP MATER RE-2 3305S(株式会社山電)などのレオメーターが例示できる。レオメーターにより破断強度を測定する場合を例にすると、養殖魚の普通筋から調製した厚さ0.5mm〜2.0cm程度の刺身を接触面積30mm
2の楔形プランジャーで刺身の厚さの80%まで押し込んだときの最大荷重として測定することができ、最大荷重の値が大きいほど、破断強度が向上していると評価する。
【0015】
本発明に使用されるヨウ素は、ヨウ素原子を含む化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、ヨウ化物、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩などのヨウ素化合物、分子ヨウ素(I
2)などを用いることができるが、好ましくは無機ヨウ素化合物であり、より好ましくはヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化水素酸、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ素酸ナトリウムであり、特に好ましくはヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸カルシウムである。これらのヨウ素を2種以上混合して使用しても良い。本発明に係る剤に使用されるヨウ素は化学的に合成されたもの、天然由来のもののいずれであってもよく、ヨウ素を豊富に含む海藻をヨウ素源として用いることもできる。
【0016】
ヨウ素含有成分は、他の物質、例えば担体、安定剤、溶媒、賦形剤、希釈剤などの補助的成分と組み合わせることもできる。形態も粉末、顆粒、錠剤、カプセルなど、いずれの形態で摂取させてもよいが、経口的に投与されることが好ましい。経口的に投与する場合は、飼料にヨウ素を添加又は混合して投与するのが好ましい。化合物の味や臭いに敏感な魚の場合は、コーティングなどの方法により、飼料の嗜好性の低下を防止し、ヨウ素が漏出しにくくすることもできる。
【0017】
本発明の方法では、1日あたり0.1mg/kg体重以上のヨウ素を養殖魚に摂取させる。0.1mg/kg体重よりも少ない量では、効果が十分でない。摂取量の上限は、魚の摂餌等、他の悪影響がなければ特にないが、1日あたり0.1〜100mg/kg体重、好ましくは、0.1〜50mg/kg体重、0.1〜20mg/kg体重、あるいは0.2〜15mg/kg体重、さらに好ましくは0.2〜10mg/kg体重の範囲であり、より好ましくは0.2〜8mg、さらに0.2〜5mgの範囲である。飼料にヨウ素を添加又は混合する場合、魚の種類、サイズによって、1日の摂餌量はほぼ決まっているので、上記の用量となるよう換算した量のヨウ素を飼料に添加又は混合する。ヨウ素は1日量を1回で投与しても、数回に分けて投与してもかまわない。
【0018】
本発明の実施に用いる飼料は、飼料1kgあたりヨウ素を10mg以上1000mg未満含む養殖魚用飼料である。飼料1kgあたり10mgのヨウ素含量とは、通常の飼料に含まれるヨウ素量より十分に高い濃度である。魚種や魚の年齢、摂餌量によって、ヨウ素の添加量を調節する。養殖魚用飼料1kg当りに含まれるヨウ素は好ましくは10〜900mg(10mg以上900mg以下の意味)、又は20〜800mgであり、より好ましくは40〜400mgであり、特に好ましくは60〜300mgである。本発明においては、それぞれの魚種用に必要とする栄養成分や物性が考慮された飼料を用いるのが好ましい。通常、魚粉、でんぷん、ミネラル、ビタミン、魚油などを混合してペレット状に成形したもの、又は、魚粉やビタミンなどを混合した粉末飼料(マッシュ)とイワシなどの冷凍魚とを混合した練り餌などが使用されている。特に、マグロでは餌に対する嗜好性が高いので、WO2010/110326に開示される「蛋白質及び/又は澱粉の加熱ゲルによって構築された外層と魚粉と油脂を必須成分とする栄養成分を含む組成物からなる内層からなることを特徴とする養魚用飼料」のような、マグロの嗜好性にあった飼料にヨウ素含有成分を添加して用いるのが好ましい。
【0019】
本発明の方法において、ヨウ素を摂取させる期間は、魚種や商品化する魚の年齢により、適宜調節することができる。実施例に示すように比較的短期間の投与で効果を発揮するので、水揚げ直前の1か月間に少なくとも3日以上、好ましくは10日以上摂取させることにより効果が得られる。あるいは、ヨウ素を添加した飼料を養殖魚の育成期間中ずっと摂取させることもできる。ヨウ素添加用の特別の飼料を製造するよりも、通常の飼料に常にヨウ素を強化して、その飼料で生育させることにより、安定した赤色の魚肉を有する養殖魚に育てることができる。
【0020】
魚肉の食感に対する効果は、ヨウ素を10日以上摂取させることにより、効果を示すので、食感改善が目的の場合、水揚げ直前の1か月間に10日以上、20日以上、あるいは30日以上摂取させるのが好ましい。この場合も、ヨウ素を添加した飼料を養殖魚の育成期間中長く摂取させることもできる。
ヨウ素の摂取は連日でもよいし、間隔をあけてもよい。魚種によって、飼料の給餌頻度や間隔は異なるので、給餌実態に合わせる。
ヨウ素の摂取を開始する時期は、特に制限されない。仔魚期や稚魚期に本発明に係る剤を投与し、あらかじめミオグロビン含量を増加させたり、破断強度を向上させておいてもよい。あるいは育成期間や、その後、例えば出荷の数ヶ月前から投与を開始してもよい。
本発明は、特に、年齢の若い魚を商品として提供する場合に、赤色を強化するのに有効である。その場合、仔稚魚用の飼料にヨウ素を添加しても良い。
【0021】
海藻をヨウ素源として用いる場合、ヨウ素を豊富に含む海藻粉末や海藻の熱水抽出物を本発明に係る剤や養魚用飼料に添加又は混合し、ヨウ素が上記の用量となるように調整することもできる。用いることができる海藻は特に限定されるものではないが、例えば褐藻類、緑藻類、紅藻類であり、褐藻類としてはワカメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、ハバノリ、ヒバマタなどが例示できる。緑藻類としてはアオサ、シオグサなどが例示できる。紅藻類としてはスサビノリ、オゴノリ、テングサなどが例示できる。
【0022】
本発明にかかる剤を非経口的に投与する場合は、薬浴、静脈注射、筋肉内注射、皮下注射、腹腔内注射などの注射により投与することが可能である。
【0023】
本発明において、養殖魚は、海産魚、淡水魚のいずれの魚種をも含むが、特に肉にミオグロビンを多く含む赤い色調が商品価値に与える影響の大きいスズキ目の養殖魚である。具体的にはブリ類、マグロ類、カツオ類が挙げられ、より具体的にはブリ(
Seriola quinqueradiata)、カンパチ(
Seriola dumerili)、ヒレナガカンパチ(
Seriola rivoliana)、ヒラマサ(
Seriola lalandi)、シマアジ(
Pseudocaranx dentex)、クロマグロ(
Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(
Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(
Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(
Thunnus obesus)、キハダマグロ(
Thunnus albacares)、ビンナガマグロ(
Thunnus alalunga)、カツオ(
Katsuwonus pelamis)、ヒラソウダ(
Auxis thazard)、マルソウダ(
Auxis rochei)、スマ(
Euthynnus affinis)、メカジキ(
Xiphias gladius)、マカジキ(
Kajikia audax)マアジ(
Trachurus japonicus)、マサバ(
Scomber japonicus)、スズキ(
Lateolabrax japonicus)、マダイ(
Pagrus major)、であり、特にブリ(
Seriola quinqueradiata)、カンパチ(
Seriola dumerili)、ヒラマサ(
Seriola lalandi)、シマアジ(
Pseudocaranx dentex)、クロマグロ(
Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(
Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(
Thunnus maccoyii)に於いて効果的である。
非引用文献3によれば、マダイなどでは、普通肉のミオグロビン+ヘモグロビン含量が6mg/100g程度であるのに対し、カツオでは139〜173mg/100g、ホンマグロでは490〜590mg/100gである。また、ブリの血合い肉では、400〜800mg/100gである。本発明の方法はこれらのミオグロビン含有量が100mg/100gあるような魚種に有効である。
【0024】
スズキ目の養殖魚においては養殖魚の肉の赤い色調が淡色になるのを防ぐことができることに加えて魚肉が適度な歯応えとなる。スズキ目では前述の魚種に加え、マダイ(
Pagrus major)、ヨーロッパヘダイ(
Sparus aurata)などが例示される。スズキ目に加え、サケ目、カレイ目又はフグ目などの養殖魚においても、歯ごたえが好ましいものとなるという点において本発明は効果的である。サケ目の魚としてはニジマス(
Oncorhynchus mykiss)、ギンザケ(
Oncorhynchus kisutsh)、タイセイヨウサケ(
Salmo salar)、カラフトマス(
Oncorhynchus gorbuscha)、ベニザケ(
Oncorhynchus nerka)、マスノスケ(
Oncorhynchus tshawytscha)、シロザケ(
Oncorhynchus keta)、カラフトマス(
Oncorhynchus gorbuscha)などが、カレイ目の魚としてはヒラメ(
Paralichthys olivaceus)、マツカワ(
Verasper moseri)、ホシガレイ(
Verasper variegatus)などが、フグ目の魚としてはトラフグ(
Takifugu rubripes)などが養殖魚として例示できる。
【0025】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
ヨウ素を含有する飼料の製造
ヨウ素を含有する飼料の製造方法を示す。ヨウ素として飼料添加物のヨウ化カリウムを用いた。原料粉末の配合を表1に示す。これら原料をミキサー(マイティ50、株式会社愛工舎製作所)にて均一に攪拌し、ディスクペレッター(ディスクペレッター、株式会社ダルトン)を用いてペレットを造粒した。造粒時には粉体の30%量の水を加水し、直径5mmのペレットに成形した。ペレットは乾燥機にて水分含量がおよそ6%程度のドライペレット(DP)とし、試験飼料として用いた。
対照飼料としてはヨウ化カリウムを添加していない飼料を作製した。対照飼料に含まれているヨウ素は、4.6mg/kg飼料であった。ヨウ素含量の分析は財団法人日本食品分析センターに委託し、ガスクロマトグラフィー法により行った。
飼料原料1kg当り0.013g又は0.026gのヨウ化カリウムを添加して上記のとおり製造した飼料は、最終的に飼料1kg中にヨウ素を100mg又は200mg含有する飼料となった。
【0027】
【表1】
【0028】
ブリを用いた飼育試験方法
平均体重450gのブリ(
Seriola quinqueradiata)、10ヶ月齢を水量1.5tの角型水槽に5尾ずつ収容した。ブリに対して1日当たり体重の1.25%の飼料を投与した。対照飼料を投与する試験区を「対照区」と、ヨウ素を100mg/kg含有する飼料を投与する試験区を「ヨウ素100mg/kg飼料区」と、ヨウ素を200mg/kg飼料を投与する試験区を「ヨウ素200mg/kg飼料区」とした。
投与は1日1回、連続5日間行い、最終投与から24時間後に試験魚を水揚げした。水揚げ後はヘパリン処理を施したシリンジにて採血し、血液を回収した。採血後、直ちに包丁にてエラと延髄を切断し、氷冷海水にて放血させた。十分に放血させた後、クラッシュアイスを詰めた発泡スチロールにいれて冷蔵保存した。冷蔵保存48時間後に各種分析に供した。
【0029】
ブリのヨウ素摂取量
摂餌記録をもとに、ブリが1日に摂取したヨウ素量を、次式により計算した。
{(1日あたりの平均給餌量×飼料中ヨウ素含量)/試験区内の平均体重}。
例えば、ブリの1日あたりの給餌量は体重の1.25%としたので、平均体重450gの場合、1日あたりの平均給餌量は0.45kg×0.0125=5.625gとなる。ブリは体重が360g〜580gの個体を用いた。各試験区の1日あたりの給餌量を1.25%と設定し、上記の式をもとに各試験区のヨウ素摂取量を算出した。表2に計算結果を示す。この摂取量において成長性、摂餌性などに対する悪影響は見られなかった。
【0030】
【表2】
【0031】
血合筋の色調の評価
上述の通りに処理したブリから血合筋を含む切り身を調製した。これを加湿・密閉した容器にて4℃で冷蔵保存した。血合筋の色調値を色彩色差計(CR-300、コニカミノルタオプティクス製)を用いて経時的に測定した。測定した色調値はa*値とb*値であった。L
*a
*b
*表色系とは国際照明委員会(CIE)で規格化された色を表す方法である。L
*a
*b
*表色系では、明度をL*値、色度をa*値、b*値で表わしている。L*値がプラスの場合は明るさが強く、マイナスの場合は暗くなることを表している。a*値の場合、プラスは赤方向、マイナスは緑方向を示している。また、b*値がプラスでは黄方向、マイナスでは青方向を示している。
測定時間は切り身を調製してから0時間、3時間、9時間後とした。測定した色調値をもとに、赤色の強さを示すa*値、対照区との色差としてΔa*値、色合いを示す色相角度の3つの指標を比較した。色差Δa*は試験区のa*値から対照区のa*値を減じることで求めた。色相とは色合いのことであるが、それを数値化するために角度として表した色相角度を、表計算ソフトを用いて以下の式により算出した。
Degrees(atan(b*/a*))
【0032】
血合筋の色への影響
血合筋のa*値変化を
図1に、保存9時間後の対照区に対する試験区の血合筋のΔa*値を
図2に、保存9時間後の血合筋の色相角度を表3に示す。
ヨウ素100mg/kg飼料区の血合筋a*値は、切り身調製直後から対照区よりも高値を維持していた。ヨウ素200mg/kg飼料区も、直後と9時間後で対照区よりも高値であった。
色相角度は値が小さいほど赤色の色合いが強いことを示すが、対照区と比較して、ヨウ素100mg/kg飼料区、ヨウ素200mg/kg飼料区のほうが血合筋の色相角度が小さかった。
【0033】
【表3】
【0034】
ミオグロビン含量の測定
血合筋に含まれるミオグロビン含量をMeat Science (1982)、Volume 7 Issue 1、p29-36に記載の方法に倣って測定した。すなわち、血合筋を10倍量の0.04Mリン酸緩衝液中(pH6.8)にてホモジナイズした(Polytron PT1600, kinematica社)。これを15000回転、4℃にて10分間遠心分離し、上清を採取した。この上清を用いて吸光光度計(U-3010、株式会社日立ハイテクノロジーズ)にて525nm、730nmの吸光度を測定した。非特許文献3には、ブリの血合筋では4〜8mg/g肉程度のミオグロビンが含まれているとされている。
ミオグロビン含量の測定結果を
図3に示す。対照区よりもヨウ素100mg/kg飼料区やヨウ素200mg/kg飼料区は血合筋ミオグロビン含量が高かった。ミオグロビンは赤色を呈する色素タンパク質であるため、この結果はヨウ素100mg/kg飼料区、ヨウ素200mg/kg飼料区の血合筋a*値が高かったことや、見た目の赤色が強かったことを支持している。
【0035】
甲状腺ホルモンの測定
実施例1の対照区とヨウ素100mg/kg飼料区の魚から採取した血液を遠心分離器を用いて5000回転、4℃、10分間の遠心分離処理を行い、上層の血漿を採取した。血漿を用いて甲状腺ホルモンのうちT3の濃度を測定した。T3の測定はオリエンタル酵母長浜ライフサイエンスラボラトリーに委託し、電気化学発光免疫測定法により行った。
結果を
図4に示す。ヨウ素100mg/kg飼料区において血漿中のT3濃度が増加した。ヨウ素の投与によって血漿中のT3濃度が増加したことが、血合筋のミオグロビン含量が増加した一因であると解される。
【実施例2】
【0036】
ニジマスを用いた飼育試験方法
養殖魚の普通筋の破断強度に対する本発明にかかる剤の効果を検証するため、ヨウ化カリウム(和光純薬工業株式会社製、純度99.5%以上)をヨウ素として添加した飼料を調製し、ニジマスを用いて投与試験を行った。対照飼料には実施例1の対照飼料を粉砕したものを用いた。ヨウ化カリウム添加飼料はヨウ素含量として166.7mg/kg飼料となるようにヨウ化カリウムを添加したものを用いた(表4)。飼料の製造やヨウ素含量の分析は、実施例1と同様の方法により行った。
平均体重125.6gのニジマスを、両試験区ともに16尾ずつ水量200Lのパンライト水槽に収容した。循環ろ過系にて水質管理を行い、飼育期間中の水温を13℃に維持した。
投与は1日1回、一週間あたり6日の頻度で、飽食に達するまで行い、合計投与日数は23日だった。投与した翌日に両試験区から8尾ずつ試験魚を水揚げした。水揚げ後、直ちに包丁にて延髄を切断し放血させた後、クラッシュアイスを詰めた発泡スチロールにいれて一晩保存した。保存後、ニジマスからフィレーを調製し、フィレーから厚さ6mmの刺し身を調製して破断強度を測定した。
【0037】
【表4】
【0038】
ニジマス体重あたり、1日あたりのヨウ素摂取量
飼料1kgあたりのヨウ素含量は、対照飼料では3.3mg、ヨウ化カリウム添加飼料では166.7mgであった。実施例1と同様に計算したところ、23日の給餌期間におけるニジマス1尾あたり体重1kgあたり、1日あたりのヨウ素摂取量は、対照区が0.08mg/kg体重、ヨウ素添加飼料区は3.8mg/kg体重であった。成長性、摂餌性などに対する悪影響は見られなかった。
【0039】
破断強度の測定
破断強度の測定は以下の方法により行った。すなわち、YAMADEN RHEONER II CREEP MATER RE-2 3305S(株式会社山電)により、接触面積30mm
2の楔形プランジャーを刺し身の普通筋の部分に約80%押し込んだときの最大荷重の値を破断強度として測定した。
破断強度の測定結果を
図5に示す。ヨウ素の投与によってニジマスの普通筋の破断強度が向上したことが確認された。
【実施例3】
【0040】
WO2010/110326に記載の方法により、以下のとおりマグロ用飼料を製造した。ヨウ素の添加量はわずかであり、飼料の物性等に影響はなく、マグロが好む物性の飼料とすることができた。
タピオカ澱粉18重量%、ワキシー澱粉4重量%、豆澱粉1重量%、分離大豆タンパク粉体3重量%、オキアミミール3重量%、小麦粉3重量%、グルテン1重量%、カラギーナン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.5重量%、卵白3重量%、魚粉20重量%、水あめ3重量%、魚油2重量%、水38重量%を、サイレントカッターを用いて混合し、外層用組成物とした。
魚粉60重量%、魚油32重量%、硬化油1.2重量%、オキアミミール3重量%、ビタミン1.5重量%、ミネラル0.97重量%、リン酸カルシウム1.2重量%、有機酸0.1重量%、及びヨウ素0.03重量%を、ミキサーを用いて混合し、内包組成物とした。
外層用組成物、内層用組成物は包餡機(コバード社製、ロボセブンシリーズ AR-800)にそれぞれ投入し、外層用組成物と内層の組成物の重量比が4:6で、平均の長さ11cm、外層の断面直径約23mm、内包部分の断面直径約20mmのソーセージのような形状になるように内包組成物の周囲を外層用組成物で包み成型した後、蒸機にて95℃で100秒間蒸し、冷却した。