【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
シマアザミ葉からシマアザミ抽出物を調製し、培養細胞実験を行った。
【0041】
(シマアザミ抽出物の調製)
シマアザミの葉を水で洗った後、次亜塩素酸で殺菌した。その後、水切りを十分行い、予備凍結させた。その後、真空乾燥装置(株式会社マルイ)を用いてシマアザミの葉を凍結乾燥させた。凍結乾燥させた葉を粉砕機で粉砕し、ふるいにかけることで非粉末物を除去して、シマアザミの葉の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末1gに10mLのヘキサンを加え、37℃で2時間浸漬させることで、抽出処理を行った。抽出後、減圧濾過により抽出液を分離し、残渣を10mLのヘキサンで2回洗浄した。この洗浄により生じた液を、先に得た抽出液と合わせ、ヘキサン抽出物とした。
【0042】
先のヘキサンによる洗浄後の残渣を減圧下に置くことで、残存するヘキサンを除去した。ヘキサン除去後の残渣に10mLのクロロホルムを加え、37℃で2時間浸漬させることで、抽出処理を行った。抽出後、減圧濾過により抽出液を分離し、残渣を10mLのクロロホルムで2回洗浄した。この洗浄により生じた液を、先に得た抽出液と合わせ、クロロホルム抽出物とした。
【0043】
先のクロロホルムによる洗浄後の残渣を減圧下に置くことで、残存するクロロホルムを除去した。クロロホルム除去後の残渣に10mLのエタノールを加え、37℃で2時間浸漬させることで、抽出処理を行った。抽出後、減圧濾過により抽出液を分離し、残渣を10mLのエタノールで2回洗浄した。この洗浄により生じた液を、先に得た抽出液と合わせ、エタノール抽出物とした。
【0044】
先のエタノールによる洗浄後の残渣を減圧下に置くことで、残存するエタノールを除去した。エタノール除去後の残渣に10mLの蒸留水を加え、37℃で2時間浸漬させることで、抽出処理を行った。抽出後、減圧濾過により抽出液を分離し、残渣を10mLの蒸留水で2回洗浄した。この洗浄により生じた液を、先に得た抽出液と合わせ、水抽出物とした。
【0045】
以上の調製方法により得られたヘキサン抽出物、クロロホルム抽出物及びエタノール抽出物を減圧乾固し、水抽出物を凍結乾燥した。各抽出物をジメチルスルホキシドに溶解して、各々25mg/mLの溶解液を得た。
【0046】
(マウス線維芽細胞(3T3―L1細胞)の培養)
10%のウシ血清を加えたダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地(DMEM)にて、マウス線維芽細胞(3T3―L1細胞)を、5×10
3細胞/mL/ウェルとなるように24ウェルプレートに播種した。インキュベーター(37℃、5%CO
2)内で、1日おきに培地交換を行いながら、コンフルエントに達するまで培養した。コンフルエントに達した後、さらに2日間の培養を行い、その後、分化誘導を開始させた。
【0047】
(3T3―L1細胞の脂肪細胞への分化誘導)
3T3―L1細胞の脂肪細胞への分化誘導を、10%牛胎児血清(FBS)、50nMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、1μMデキサメタソン(DEX)及び10μg/mLインスリンを混合したDMEMにて、2日間培養することで行った。分化誘導開始後2日目に、培地を10%FBS及び10μg/mLインスリンを混合したDMEMに交換し、その後2日目に同培地の交換を行い、その後4日目まで培養を行った。なお、前述の通り得られたシマアザミの各抽出物を、終濃度50μg/mLとなるように、3T3―L1細胞の分化誘導開始時から実験終了時まで培地に添加した。
【0048】
(脂肪細胞に分化誘導された3T3−L1細胞のオイルレッドO染色及び細胞内中性脂肪(トリグリセリド:TG)濃度測定)
培養終了後の、脂肪細胞に分化誘導された3T3−L1細胞(以下、“培養脂肪細胞”という)内に形成される脂肪滴の数及び細胞内中性脂肪(トリグリセリド:TG)濃度を評価することによって、シマアザミ葉の各抽出物の脂質蓄積抑制効果を評価した。
【0049】
培養脂肪細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄して、ホルマリンで固定した。固定した細胞を、PBSで再度洗浄し、その後、60%イソプロパノールに1分間浸した。その後、60%イソプロパノールに溶解したオイルレッドO(和光純薬工業株式会社)にて、10分間、脂肪滴を染色した(オイルレッドOを用いた実験手法については、食品機能研究法(林琳)p133−136を参照した)。その後、細胞を、60%イソプロパノールにて1回洗浄し、PBSにて2回洗浄して、光学顕微鏡下で細胞内の脂肪滴の形成を目視により評価した。
【0050】
また、ヘキサン抽出物を添加して培養した後の培養脂肪細胞をPBSにて洗浄して、0.1%ラウリル硫酸ナトリウムにて細胞を溶解し、細胞溶解液から脂質を抽出した。この抽出には、Bligh&Dyerの方法(Bligh EG and Dyer WJ,A rapid method of total lipid extraction and purification,Canadian Journal of Biochemistry and Physiology 1959;37(8):911−917)を利用した。抽出した脂質を10%のTriton X−100を含んだイソプロパノールに溶解して、トリグリセライド E−テストワコー(和光純薬工業株式会社製)を用いて中性脂肪(トリグリセリド:TG)濃度を測定した。このTG濃度の値を、細胞溶解液のタンパク質濃度(Qubit Fluorometer(インビトロジェン)を用いて測定)で補正して、細胞内中性脂肪(トリグリセリド:TG)濃度とした。なお、検定方法として、2群間の有意差を検出するためにスチューデントのt検定を用いた。
【0051】
(結果)
オイルレッドO染色の結果を
図1(a)に、細胞内中性脂肪(トリグリセリド:TG)濃度測定の結果を
図1(b)に示す。
図1(a)及び(b)において、「ND」は分化誘導処理を行なっていない3T3−L1細胞(Non−Diffenrentiation、ND)を示し、「Control」は分化誘導処理を行ってジメチルスルホキシドを添加して培養した細胞を示す。シマアザミ葉のヘキサン抽出物を添加して培養した細胞では、クロロホルム抽出物、エタノール抽出物及び水抽出物のそれに比して、形成された脂肪滴の数が明らかに少ないことが示された(
図1(a))。また、シマアザミ葉のヘキサン抽出物を添加して培養した細胞では、コントロールに比して有意に細胞内中性脂肪(トリグリセリド:TG)濃度が低いことが示された(
図1(b))。
【0052】
以上より、本実施例によるシマアザミ葉の抽出物は、培養脂肪細胞の脂質蓄積を抑制することが示された。
【0053】
(脂肪分解促進関連遺伝子及び脂肪合成関連遺伝子の発現に及ぼす影響)
シマアザミ葉のヘキサン抽出物を用いて、培養脂肪細胞の脂肪分解促進関連遺伝子及び脂肪合成関連遺伝子(表1)の発現に及ぼす影響について検討した。
【0054】
3T3―L1細胞の脂肪細胞への分化誘導を、10%FBS、50nM IBMX、1μM DEX及び10μg/mLインスリンを混合したDMEMにて、2日間培養することで行った。分化誘導開始後2日目に、培地を10%FBS及び10μg/mLインスリンを混合したDMEMに交換し、その後2日目に同培地の交換を行い、その後4日目まで培養を行った。なお、前述の通り得られたシマアザミの各抽出物を、終濃度50μg/mLとなるように、3T3―L1細胞の分化誘導開始時から実験終了時まで培地に添加した。
【0055】
培養脂肪細胞をPBSで洗浄して、800μLのTRIzol試薬(Ambion)を加えて細胞溶解液を得た。細胞溶解液に200μLのクロロホルムを混合して室温にて5分間静置し、その後12,000×g、15分間の遠心分離により細胞溶解液を二層に分離した。回収した上層(水層)に等量の70%エタノールを混合して、Pure Link RNA Miniキット(Ambion)を用いてTotal RNAを精製した。High Capacity RNA−to−cDNAキット(Applied Biosystems)を用いて、2μgのTotal RNAからcDNAを合成した。
【0056】
合成したcDNAを鋳型として、Fast SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)及び目的の遺伝子発現を検出するプライマー(表1)を加えて、StepOneリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)にて遺伝子発現解析を行った。内部標準であるハウスキーピング遺伝子(β―アクチン、ACTB)の発現量により各遺伝子発現データを補正して、シマアザミ各抽出物による脂肪分解促進関連遺伝子及び脂肪合成関連遺伝子(表1)の変動を解析した。
【0057】
【表1】
【0058】
(結果)
結果を
図2に示す。
図2において、「ND」及び「Control」については
図1と同様である。シマアザミ葉のヘキサン抽出物を添加して培養した細胞では、コントロールに比して有意に脂肪酸合成酵素(FAS)の発現が低下していた。
【0059】
以上より、本実施例によるシマアザミ抽出物は、脂肪酸合成酵素(FAS)の発現を低下させることにより、脂肪細胞内の脂肪蓄積を抑制させることが示唆された。
【0060】
(実施例2)
シマアザミ葉の凍結乾燥粉末を用いて、動物実験を行った。
【0061】
57BL/6マウス(♂)を購入し、新しい環境に慣らすために1週間の予備飼育を行った。その後、マウスを6匹ずつの3群に分けて、各群のマウスに、高脂肪食(米国国立栄養研究所(AIN)が1977年に発表したげっ歯類を用いた栄養研究のための標準精製飼料(AIN−76)の基本組成に15%のコーン油を配合したもの)に、シマアザミ葉の凍結乾燥粉末(実施例1と同様)を0%、5%又は10%配合した飼料(表2参照)を与えて、4週間飼育した。飼育期間中、各群マウスの摂取エネルギーが同等になるように食餌摂取量を調整した。なお、
図3−6において、「Cntl(=control)」は、シマアザミ葉の凍結乾燥粉末が含まれていない飼料を与えた群(つまり、表2の「0%」の群)を表す。
【0062】
【表2】
【0063】
飼育終了後、マウスの各組織と血液を採取し、各群のマウスの体重及び臓器重量(
図3)、組織重量(
図4)、血中パラメーター(
図5)及び肝臓の各種パラメーター(
図6)を測定した。検定方法としては、対照群と実験群の有意差を検出するために多重検定法であるダネットの方法を用いた。
【0064】
マウスの各種パラメーターは、以下の市販のキットを用いて測定した。
・中性脂肪(
図5):トリグリセライド E−テストワコー(和光純薬工業株式会社)
・総コレステロール(
図5):コレステロールE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)
・遊離脂肪酸(
図5):NEFA C−テストワコー(和光純薬工業株式会社)
・インスリン(
図5):マウスインスリン測定キット(株式会社森永生科学研究所)
・肝障害マーカー(ALT及びAST)(
図6):トランスアミナーゼCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社)
【0065】
マウスの肝臓中性脂肪濃度及び肝臓総コレステロール濃度(
図6)は、以下の通り測定した。飼育終了後のマウスから肝臓を摘出し、Folch氏らの方法(Folch J,Lees M and Sloane Stanley GH,A simple method for the isolation and purification of total lipides from animal tissues;The Journal of Biological Chemistry 1957;226(1):497−509)を用いて肝臓の脂質を抽出した。抽出した肝臓の脂質を、10%のTriton X−100を含んだイソプロパノールに溶解し、脂質抽出液とした。この脂質抽出液中の中性脂肪濃度を、Fletcher氏の方法(Fletcher MJ,A colorimetric method for estimating serum triglycerides;Clinica Chimica Acta 1968;22(3):393−397)を用いて測定した。また、この脂質抽出液中の総コレステロール濃度を、コレステロールE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。
【0066】
(結果)
図3に体重、肝臓重量、脾臓重量及び腎臓重量の測定結果を示す。体重、脾臓重量及び腎臓重量には変化が見られなかった一方で、肝臓重量は、飼料中のシマアザミ葉の含量が多くなるほど有意に低下していた。
【0067】
図4に精巣周辺脂肪組織重量、腎臓周辺脂肪組織重量、腸間膜脂肪組織重量及び皮下脂肪組織重量の測定結果を示す。精巣周辺脂肪組織重量、腎臓周辺脂肪組織重量及び腸間膜脂肪組織重量には変化が見られなかった一方で、皮下脂肪組織重量は、飼料中のシマアザミ葉の含量が多くなるほど有意に低下していた。
【0068】
図5に血中中性脂肪濃度、血中総コレステロール濃度、血中遊離脂肪酸濃度及び血中インスリン濃度の測定結果を示す。血中中性脂肪濃度、血中総コレステロール濃度及び血中インスリン濃度には変化が見られなかった一方で、血中遊離脂肪酸濃度は、飼料中のシマアザミ葉の含量が多くなるほど有意に低下していた。
【0069】
図6に肝臓中性脂肪濃度、肝臓総コレステロール濃度及び肝障害の血中マーカー(AST及びALT)の測定結果を示す。肝臓中性脂肪濃度及び肝臓総コレステロール濃度のみならず、肝障害の血中マーカー(AST及びALT)についても、有意な低下がみられた。
【0070】
(脂肪分解促進関連遺伝子及び脂肪合成関連遺伝子の発現に及ぼす影響)
シマアザミ葉の摂取が、高脂肪食摂取マウスの脂肪細胞及び肝臓における脂肪分解促進関連遺伝子及び脂肪合成関連遺伝子(表3)の発現にどのような影響を及ぼすかについて検討した。
【0071】
前述の飼育終了後のマウスから採取した脂肪組織0.1g及び肝臓0.1gに、800μLのTRIzol試薬(Ambion)を加え、ホモジナイザーにより組織を溶解した。組織溶解液に200μLのクロロホルムを混合して室温にて5分間静置し、その後、12,000×g、15分間の遠心分離により細胞溶解液を二層に分離した。回収した上層(水層)に等量の70%エタノールを混合して、Pure Link RNA Miniキット(Ambion)を用いてTotal RNAを精製した。High Capacity RNA−to−cDNAキット(Applied Biosystems)を用いて、2μgのTotal RNAからcDNAを合成した。
【0072】
合成したcDNAを鋳型として、Fast SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)及び目的の遺伝子発現を検出するプライマー(表3)を加えて、StepOneリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)にて遺伝子発現解析を行った。肝臓の内部標準として18S rRNA量を用いて、及び脂肪組織の内部標準としてACTB発現量を用いて、各遺伝子発現データを補正して、シマアザミ摂取による各組織の脂肪分解促進関連遺伝子及び脂肪合成関連遺伝子(表3)の発現を解析した。
【0073】
【表3】
【0074】
(結果)
図7に皮下白色脂肪組織及び腎臓周辺白色脂肪組織での結果を、
図8に肝臓での結果を示す。なお、
図3−6と同様に、
図7及び
図8の「Control」は、シマアザミ葉の凍結乾燥粉末が含まれていない飼料を与えた群(つまり、表2の「0%」の群)を表す。シマアザミ葉を摂取した高脂肪食摂取マウスでは、皮下白色脂肪組織及び腎臓周辺白色脂肪組織の脂肪酸合成酵素(FAS)発現が用量依存的に低下しており(
図7)、また、肝臓においても、FAS発現が用量依存的に低下していた(
図8)。
【0075】
以上より、本実施例によるシマアザミ葉の凍結乾燥粉末を摂取すると、FASの発現が低下することにより、脂肪細胞及び肝臓における脂肪蓄積を抑制することが示唆された。
【0076】
(実施例3)
シマアザミ葉から得られたヘキサン抽出物及びクロロホルム抽出物の脂肪蓄積抑制効果について、詳細に検証した。
【0077】
(ヘキサン抽出物の調製)
実施例1と同様にシマアザミの葉の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末に10倍量のヘキサンを加え、37℃で2時間振盪浸漬させることで、抽出処理を行った。抽出後、減圧濾過により抽出液を分離し、残渣を凍結乾燥粉末の10倍量のヘキサンで2回洗浄した。この洗浄により生じた液を、先に得た抽出液と合わせ、ヘキサン抽出物とした(
図9)。
【0078】
(クロロホルム抽出物の調製)
先のヘキサンによる洗浄後の残渣を減圧下に置くことで、残存するヘキサンを除去した。ヘキサン除去後の残渣に凍結乾燥粉末の10倍量のクロロホルムを加え、37℃で2時間振盪浸漬させることで、抽出処理を行った。抽出後、減圧濾過により抽出液を分離し、残渣を凍結乾燥粉末の10倍量のクロロホルムで2回洗浄した。この洗浄により生じた液を、先に得た抽出液と合わせ、クロロホルム抽出物とした(
図9)。
【0079】
(ヘキサン抽出物の脂肪蓄積抑制効果の検証)
以上の調製方法により得られたヘキサン抽出物を減圧乾固し、ヘキサンに溶解して、10mg/mLのヘキサン抽出物溶解液を得た(
図10)。
【0080】
前述のヘキサン抽出物溶解液について、プレセップ−Cシリカゲルカラム(和光純薬工業株式会社)を用いた固相抽出を行うことによって、各画分を得た。より具体的には、
図10に示すように、前述のヘキサン抽出物溶解液1mLをプレセップ−Cシリカゲルカラムにアプライし、得られた溶出液を“FT1画分”とした。次いで、ヘキサン5mLを通液し、得られた溶出液を“FT2画分”とした。次いで、ヘキサン:クロロホルム(50:50)5mLを通液し、得られた溶出液を“HC(50/50)画分”とした。次いで、クロロホルム5mLを通液し、得られた溶出液を“HC(0/100)画分”とした。次いで、クロロホルム:メタノール(50:50)5mLを通液し、得られた溶出液を“CM(50/50)画分”とした。次いで、メタノール5mLを通液し、得られた溶出液を“CM(0/100)画分”とした。各画分を、乾固後、1mLのジメチルスルホキシドに溶解した。
【0081】
各画分について、3T3―L1細胞の中性脂肪蓄積に与える影響について評価を行った。3T3―L1細胞の培養、3T3―L1細胞の脂肪細胞への分化誘導については、実施例1と同様に行った。なお、3T3―L1細胞の分化誘導開始時から実験終了時まで、前述の1mLのジメチルスルホキシドに溶解した各画分を0.5%(v/v)となるように加えた培地を用いた。各画分を添加して培養した後の培養脂肪細胞を溶解し、細胞溶解液から脂質を抽出して、細胞内中性脂肪濃度を測定した。培養脂肪細胞の溶解、脂質の抽出、細胞内中性脂肪濃度の測定については、実施例1と同様に行った。
【0082】
(結果)
細胞内中性脂肪濃度測定の結果を
図11に示す。
図11において、「NC」は分化誘導処理を行なっていない3T3−L1細胞を示し、「PC」は分化誘導処理を行ってジメチルスルホキシドを添加して培養した細胞を示す。HC(50/50)画分を添加して培養した細胞では、「PC」に比して有意に細胞内中性脂肪濃度が低いことが示された(
図11)。
【0083】
以上より、本実施例によるシマアザミ葉のヘキサン抽出物は、脂質蓄積を抑制することが示された。特に、ヘキサン抽出物中のHC(50/50)画分は、脂質蓄積抑制効果に優れることが示された。
【0084】
(クロロホルム抽出物の脂肪合成関連遺伝子の発現に及ぼす影響の検証)
上記の調製方法により得られたクロロホルム抽出物を減圧乾固し、クロロホルムに溶解して、100mg/mLのクロロホルム抽出物溶解液を得た(
図12)。
【0085】
前述のクロロホルム抽出物溶解液について、プレセップ−Cシリカゲルカラム(和光純薬工業株式会社)を用いた固相抽出を行うことによって、各画分を得た。より具体的には、
図12に示すように、前述のヘキサン抽出物溶解液1mLをプレセップ−Cシリカゲルカラムにアプライして得られた溶出液と、次いでクロロホルム5mLを通液して得られた溶出液と、を合わせて“CM(100/0)画分”とした。次いで、クロロホルム:メタノール(50:50)5mLを通液し、得られた溶出液を“CM(50/50)画分”とした。次いで、メタノール5mLを通液し、得られた溶出液を“CM(0/100)画分”とした。各画分については、乾固後、1mLのジメチルスルホキシドに溶解した。
【0086】
各画分について、ヒト肝臓がん細胞であるHepG2細胞を用いて脂肪合成関連遺伝子(FAS)の発現に及ぼす影響について評価を行った。3T3―L1細胞の代わりにHepG2細胞を用いたことを除いて、細胞の培養、脂肪細胞への分化誘導については、実施例1と同様に行った。なお、HepG2細胞の分化誘導開始時から実験終了時まで、前述の1mLのジメチルスルホキシドに溶解した各画分を0.5%(v/v)となるように加えた培地を用いた。また、細胞からのTotal RNAの精製、cDNA合成、リアルタイムPCRの方法については、実施例1と同様に行ったが、FAS発現を検出するプライマーについては、以下のものを用いた。
FAS−sense:TCGTGGGCTACAGCATGGT(配列番号33)
FAS−anti−sense:GCCCTCTGAAGTCGAAGAAG(配列番号34)
ACTB−sense:TCACCGAGCGCGGCT(配列番号35)
ACTB−anti−sense:TAATGTCACGCACGATTTCCC(配列番号36)
【0087】
内部標準であるハウスキーピング遺伝子(β―アクチン、ACTB)の発現量により各遺伝子発現データを補正して、各画分で処理した細胞について、脂肪合成関連遺伝子(FAS)のmRNAレベルを評価した。
【0088】
結果を
図13に示す。
図13において、「未処理」はジメチルスルホキシドを加えていない細胞を示し、「溶媒」はジメチルスルホキシドを添加して培養した細胞を示す。クロロホルム抽出物及びCM(50/50)画分を添加して培養した細胞では、「未処理」及び「溶媒」に比して有意に脂肪酸合成酵素(FAS)の発現が低下していた。
【0089】
脂肪酸合成酵素(FAS)発現減少がみられたCM(50/50)画分についてさらに詳細に調べるために、CM(50/50)画分をHPLC(後述)に供し、フラクション1〜10(Fr.01〜10)に分画した(
図14)。
【0090】
HPLCの手法について具体的に説明する。HPLC機器として株式会社島津製作所製の機器を用い、検出器として蒸発光散乱検出器(ELSD−LT、株式会社島津製作所)を用いた。使用したカラムはシリカゲルカラムDevelosil packed column(60−3 8.0/250(NM)、野村化学)であり、クロロホルム及びメタノールを用いたグラジエント分析(流速0.5mL/min)を行った。グラジエント条件は以下の通りである。
・0:00 Start(CHCl3:MeOH=100:0)
・60:00 (CHCl3:MeOH=75:15)
・70:00(CHCl3:MeOH=50:50)
・90:00 stop(CHCl3:MeOH=50:0)
【0091】
HPLCにより得られたフラクション1〜10(Fr.01〜10)について、前述同様にHepG2を用いて脂肪合成関連遺伝子(FAS)の発現に及ぼす影響について評価を行った。
【0092】
結果を
図15に示す。
図15において、「溶媒」はジメチルスルホキシドを添加して培養した細胞を示す。フラクション4(Fr.04)を添加して培養した細胞では、脂肪酸合成酵素(FAS)の発現が最も低下していた。
【0093】
脂肪酸合成酵素(FAS)発現が最も減少したフラクション4(Fr.04)についてさらに詳細に調べるために、前述同様にHepG2を用いて、脂肪合成関連遺伝子(FAS)のmRNAレベルを評価した。
【0094】
結果を
図16に示す。
図16において、「溶媒」はジメチルスルホキシドを添加して培養した細胞を示し、「CM(50/50)画分」は、前述のCM(50/50)画分を添加して培養した細胞を示す。「Fr.04」では「溶媒」に比して有意に脂肪酸合成酵素(FAS)の発現が低下しており、「Fr.04」での脂肪酸合成酵素(FAS)発現減少の度合いは、「CM(50/50)画分」でのそれよりも強かった。
【0095】
以上より、本実施例によるシマアザミ葉のクロロホルム抽出物は、脂肪酸合成酵素(FAS)の発現を低下させることが示唆された。特に、クロロホルム抽出物中のCM(50/50)画分、さらにはCM(50/50)画分中のフラクション4(Fr.04)は、脂肪酸合成酵素(FAS)発現減少効果に優れることが示された。
【0096】
以上より、本実施例によるシマアザミ抽出物は、脂質蓄積を抑制し、脂肪酸合成酵素(FAS)の発現を低下させる効果を有することが示された。
【0097】
なお、本発明は、本発明の広義の精神及び範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0098】
本発明は、2013年8月13日に出願された日本国特許出願2013−168404号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2013−168404号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。