(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の潤滑添加剤組成物の(A)成分は一般式(1)で表される有機モリブデン化合物である。一般式(1)において、R
1〜R
4は炭素数1〜18のアルキル基を表す。炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリーブチル基(以下、ターシャリーをt略記する)、イソペンチル基、2級ペンチル基、t−ペンチル基、2級ヘキシル基、2級ヘプチル基、2級オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、分岐デシル基、ドデシル基、トリデシル基、分岐トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、
ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。R
1〜R
4としては、鉱物油や炭化水素系合成油への溶解性が良好で、熱安定性が良好であることから、炭素数6〜16のアルキル基が好ましく、炭素数7〜14のアルキル基が更に好ましい。また、モリブデン化合物の融点が低くなり、モリブデン化合物が析出しにくくなることから直鎖のアルキル基よりも分岐のアルキル基が好ましい。R
1〜R
4は同一の炭化水素基でも、異なる炭化水素基でもよいが、モリブデン化合物の融点が低くなり、モリブデン化合物が析出しにくくなることから、R
1〜R
4のうち、少なくとも一つは異なる基であることが好ましく、工業的な入手が容易であることから、R
1及びR
2が同一であり、R
3及びR
4が同一であり、かつR
1とR
3が異なることが更に好ましい。
【0014】
一般式(1)において、X
1〜X
4は酸素原子又は硫黄原子を表す。潤滑性に優れることから、X
1〜X
4のうち2〜3が硫黄原子で残りが酸素原子であることが好ましい。
【0015】
本発明の潤滑添加剤組成物の(B)成分は一般式(2)で表されるアミン化合物である。一般式(2)において、R
5〜R
6は炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数2〜18のアルケニル基を表す。炭素数1〜18のアルキル基としては、一般式(1)のR
1〜R
4で例示したアルキル基が挙げられる。炭素数2〜18のアルケニル基としては、ビニル基、1−メチルエテニル基、2−メチルエテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ぺンタデセニル基、オクタデセニル基等が挙げられる。R
5とR
6は同一の基でも、異なる基でもよいが、工業的な入手が容易であることからR
5とR
6は同一の基であることが好ましい。
【0016】
一般式(2)でアミン化合物の沸点があまりに低い場合には、使用中に一般式(2)でアミン化合物が揮発して失われてしまうことがあることから、R
5とR
6の炭素数の合計が少なくとも8であることが好ましく、少なくとも12であることが更に好ましい。
【0017】
一般式(2)で表されるアミン化合物の中でも、工業的な入手が容易であることから、ジブチルアミン、ジプロピルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、ジノニルアミン、ジイソノニルアミン、ジデシルアミン、ジ分岐デシルアミン、ジドデシルアミン、ジ分岐トリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジオクタデシルアミンが好ましく、摩擦の低減効果が大きいことからビス(2−エチルヘキシル)アミン、ジノニルアミン、ジイソノニルアミン、ジデシルアミン、ジ分岐デシルアミン、ジドデシルアミン、ジ分岐トリデシルアミンが更に好ましい。
【0018】
本発明において、(A)成分由来のモリブデン原子100質量部に対する(B)成分の含量は1〜20質量部である。(B)成分の含量が1質量部よりも少ない場合には、潤滑性の十分
な効果が得られず、20質量部よりも多い場合には、銅や銅合金に対して腐食が発生する場合がある。(A)成分由来のモリブデン原子100質量部に対する(B)成分の含量は2〜19質量部が好ましく、5〜18質量部が更に好ましく、10〜17質量部が最も更に好ましい。
【0019】
本発明の潤滑添加剤組成物は(A)成分と(B)成分のみであってもよいが、本発明の添加剤組成物を使用する場合の操作性や利便性の点から、基油に溶解されていてもよいし、他の潤滑油添加剤と組み合わせたパッケージであってもよい。本発明の潤滑添加剤組成物が他の成分を含む場合、(A)成分の含量は少なくとも1質量%であることが好ましく、少なくとも20質量%であることが更に好ましい。
【0020】
本発明の潤滑添加剤は、基油に配合して潤滑油組成物として、または基油及び増稠剤に配合してグリース組成物として使用される。本発明では、潤滑油組成物とグリース組成物を合わせて潤滑性組成物という。基油としては、例えば、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油あるいはこれらを水素化精製、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水添脱ろう、接触脱ろう、水素化分解、アルカリ蒸留、硫酸洗浄、白土処理等の精製した精製鉱物油等の鉱物油;ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、GTL(Gas to liquids)基油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の炭化水素系合成油;ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリアルキレングリコール等のエーテル系合成油;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ヒンダードエステル、モノエステル等の等のエステル系合成油;リン酸エステル系合成油、ポリシロキサン系合成油、フッ化炭化水素系合成油が挙げられ、これらの基油は単独でもよいし、2種以上の混合でもよい。本発明の潤滑添加剤組成物が使用される基油としては、(A)成分の潤滑性向上効果が出やすいことから、鉱物油及び炭化水素系合成油が好ましく、パラフィン系の精製鉱物油、ポリ−α−オレフィン、GTL基油が更に好ましい。
【0021】
本発明の潤滑添加剤組成物をグリースに使用する場合の増稠剤としては、石鹸系又はコンプレックス石鹸系増稠剤、有機非石鹸系増稠剤、無機非石鹸系増稠剤等が挙げられる。なお、基油と増稠剤からなり、他の添加剤を含有しないグリースを基グリースという場合がある。本発明の潤滑添加剤組成物が使用されるグリースの稠度は、グリースが使用される用途によって異なり特に限定されないが、通常100〜500程度であり、増稠剤の含量は、基油100質量部に対して、通常、5〜20質量部程度である。
【0022】
石鹸系増稠剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、ゾーマリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸等の高級脂肪酸とリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、バリウム、カルシウム等の塩基を反応させた石鹸や、上記脂肪酸と塩基に更に酢酸、安息香酸、セバシン酸、アゼライン酸、リン酸、ホウ酸等を反応させたコンプレックス石鹸増稠剤等が挙げられる。有機非石鹸系増稠剤としては、例えば、
テレフタレート系増稠剤、ウレア系増稠剤、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロ化エチレン−プロピレン共重合体等のフッ素系等が挙げられる。無機非石鹸系増稠剤としては、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、シリカエアロゲル、窒化ホウ素等が挙げられる。これらの増稠剤の中でも、(B)成分による摩擦低減効果が大きくなることから、ウレア系増稠剤が好ましい。ウレア系増稠剤としては、例えば、モノイソシアネートとモノアミンを反応させたモノウレア系化合物、ジイソシアネートとモノアミンを反応させたジウレア系化合物、ジイソシアネートとモノアミンとモノオールを反応させたウレアウレタン系化合物、ジイソシアネートとジアミンとモノイソシアネートを反応させたテトラウレア系化合物等が挙げられる。
【0023】
本発明の潤滑性組成物において、本発明の(A)成分の含量があまりに少ないと摩擦低減効果が十分でなく、添加量があまりに多いとスラッジや腐蝕の原因になる場合がある。本発明の潤滑性組成物が、潤滑油組成物の場合は、潤滑性組成物全量に対して、(A)成分がモリブデン
原子の量にして50〜2000質量ppmであることが好ましく、70〜1500質量ppmであることがより好ましく、80〜1000質量ppmであることが更に好ましい。また、本発明の潤滑性組成物が、グリース組成物の場合は、グリース等に対して、(A)成分の添加量がモリブデン
原子の量として100質量ppm〜5質量%であることが好ましく、150質量ppm〜3質量%であることがより好ましく、200質量ppm〜2質量%であることが更に好ましい。
【0024】
通常の潤滑性組成物は、必要に応じて、金属系清浄剤、無灰型分散剤、酸化防止剤、油性向上剤、摩耗防止剤、極圧剤、防錆剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、固体潤滑剤等が配合される。
【0025】
〔金属系清浄剤〕
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属ホスホネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属ナフテネート等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。本発明の潤滑性組成物は、(A)成分による摩擦低減効果が大きくなることから、(C)成分としてアルカリ土類金属サリシレートを含有することが好ましく、中でもカルシウムサリシレートが好ましい。
【0026】
金属系清浄剤は、TBN(ASTM D2896に準拠する全塩基価(Total Base Number)が、20〜600mgKOH/gのものが知られているが、TBNが低すぎる場合は、金属系清浄剤を多量に添加する必要があり、TBNが高すぎる場合は、(A)成分の潤滑性に悪影響がでる場合がある。金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、本発明でいう、金属系清浄剤TBNは、軽質潤滑油基油等の希釈剤を含まない純分換算のTBNである。(C)成分のTBNは、50〜500mgKOH/gであることが好ましく、100〜450mgKOH/gであることがさらに好ましい。金属系清浄剤は、通常、アルカリ土類金属の炭酸塩を配合することによりTBNを上げるが、本発明の(C)成分は、炭酸塩の一部がホウ酸塩でもよい。
【0027】
(C)成分の含有量があまりに少ない場合は(C)成分の効果が十分得られず、あまりに多い場合は(A)成分による摩擦低減効果が小さくなることから、本発明の潤滑性組成物の(C)成分の含有量は、潤滑性組成物全量に対して、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がより好ましく、1〜5質量%が更に好ましい。
【0028】
〔無灰型分散剤〕
無灰型分散剤としては、アルケニル無水コハク酸とポリアミン化合物との縮合反応によって得られるコハク酸イミド型分散剤、アルケニル無水コハク酸とポリオール化合物との縮合反応によって得られるコハク酸エステル型分散剤、アルケニル無水コハク酸とアルカノールアミンとの縮合反応によって得られるコハク酸エステルアミド型分散剤、アルキルフェノールとポリアミンをホルムアルデヒドで縮合させて得られるマンニッヒ塩基系分散剤等が挙げられる。本発明の潤滑性組成物は、(A)成分による摩擦低減効果が大きくなることから、(D)成分として、コハク酸イミド型分散剤を含有することが好ましい。コハク酸イミド型分散剤は分子中に、アルケニルコハク酸イミド基を1つ有するモノコハク酸
イミド型分散剤と2つ有するビスコハク酸
イミド型分散剤に分けることができるが、潤滑性の向上効果に優れることからビスコハク酸イミド型分散剤が好ましい。無灰型分散剤の中には、ホウ酸変性した無灰型分散剤(無灰型分散剤にホウ酸を脱水縮合させた化合物)があるが、ホウ素原子として0.1〜5質量%のホウ酸を含有するコハク酸
イミド型分散剤は、(A)成分による摩擦低減効果が大きくなることから特に好ましい。
【0029】
本発明の潤滑性組成物中の(D)成分の含量があまりに少ない場合には、(D)成分の効果が十分得られず、あまりに多い場合には、
含量に見合う増量効果が得られないばかりか、流動性が低下する場合がある。従って、(D)成分の含量は、潤滑性組成物全量に対して、0.5〜10質量%が好ましく、1〜8質量%が更に好ましく、2〜6質量%が最も好ましい。
【0030】
〔酸化防止剤〕
酸化防止剤としては、芳香族アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、亜リン
酸エステル系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。本発明の潤滑性組成物は、高い酸化防止性能を有し、(A)成分の潤滑性向上効果を長期間持続できることから、(E)成分として、フェノール系酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0031】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチルフェノール
、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)サルファイド、トリス{(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル}イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、ビス{2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル}サルファイド、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラフタロイル−ジ(2,6−ジメチル−4−t−ブチル−3−ヒドロキシベンジルサルファイド)、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−リン酸ジエステル、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)サルファイド、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のエステル基を有しないフェノール系酸化防止剤;
【0032】
3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸アルキル、3−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸アルキル、テトラキス{3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオニルオキシメチル}メタン、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸グリセリンモノエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸とグリセリンモノオレイルエーテルとのエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ブチレングリコールジエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸チオジグリコールジエステル、2,2−チオ−{ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)}プロピオネート、ビス{3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド}グリコールエステル等のエステル基を有するフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
【0033】
(E)成分としては、潤滑性向上効果を有することから、エステル基を有するフェノール系酸化防止剤が好ましく、基油への溶解性が高いことから、エステル基を1つ有するフェノール系酸化防止剤がより好ましく、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸アルキル、3−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸アルキルが更に好ましく、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸アルキルが最も好ましい。3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸アルキル、3−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸アルキルのアルキル部分のアルキル基は、基油への溶解性が高いことから、炭素数4〜22のアルキル基が好ましく、炭素数6〜18のアルキル基が更に好ましく、7〜12であることが最も好ましい。
【0034】
本発明の潤滑性組成物中の、(E)成分の含量があまりにも少ない場合には、酸化防止効果が低く、またあまり多い場合には配合量に見合う性能の向上が得られないばかりか、(A)成分の分解を促進する場合があることから、潤滑性組成物全量に対して、(
E)成分の含量が0.01〜1質量%であることが好ましく、0.15〜0.95質量%であることが更に好ましく、0.2〜0.9質量%であることが最も好ましい。なお、内燃機関用潤滑油等では、酸化防止剤として、アミン系酸化防止剤が使用される場合があるが、本発明の潤滑性組成物では、アミン系酸化防止剤は、(B)成分による、(A)成分の摩擦低減効果を低下させることから、含有しないことが好ましく、含有する場合であっても、潤滑性組成物全量に対して、0.3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることが更に好ましい。
【0035】
〔摩耗防止剤〕
摩耗防止剤としては、亜鉛ジチオホスフェート、アルキルリン酸エステル、アリールリン酸エステル、アルキルチオリン酸エステル等が挙げられる。本発明の潤滑性組成物は、摩耗防止効果が大きく、(A)成分の潤滑性の向上効果もあることから、(F)成分として下記の一般式(3)で表される亜鉛ジチオホスフェートを含有することが好ましい。
【0037】
(式中、R
7〜R
10は炭素数3〜14のアルキル基を表す。)
【0038】
一般式(3)において、R
7〜R
10は炭素数3〜14のアルキル基を表す。3〜14のアルキル基としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基等の直鎖1級アルキル基;イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、2−プロピルヘプチル基、2−ブチルオクチル基、2−ペンチルノニル基、3,7−ジメチルオクチル基等の分岐1級アルキル基;イソプロピル基、2級ブチル基、2級ペンチル基、2級ヘキシル基、2級ヘプチル基、2級オクチル基、2級ノニル基、2級デシル基、2級ドデシル基、2級トリデシル基、2級テトラデシル基、1,3−ジメチルブチル基の2級アルキル基;t−ブチル基、t−ペンチル基等の3級アルキル基が挙げられる。R
7〜R
10としては、(A)成分の潤滑性を向上させることから、炭素数4〜14の2級アルキル基が好ましく、炭素数4〜10の2級アルキル基がより好ましく、炭素数4〜8の2級アルキル基が更に好ましい。R
7〜R
10は同一の基でもよいし、異なる基の組合せでもよい。
【0039】
(F)成分の含量があまりにも少ない場合には、十分な酸化防止性向上効果が得られず、またあまりにも多い場合には、添加量に見合う性能の向上が得られないばかりかスラッジが発生する場合がある。(F)成分の含量は、潤滑性組成物全量に対して、(F)成分由来のリン量にして0.001〜3質量%であることが好ましく、0.005〜2質量%であることが更に好ましく、0.01〜1質量%であることが最も好ましい。
【0040】
本発明の潤滑性組成物は、更に摩擦が低減することから、更に、(G)成分として多価アルコール脂肪酸部分エステル、(ポリ)グリセリンアルキルエーテル、アルキルアルカノールアミン、アルケニルアルカノールアミン及び脂肪酸アルカノールアミドからなる群から選択される無灰型摩擦調整剤を含有することが好ましい。
【0041】
多価アルコール脂肪酸部分エステルとしては、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンジミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンジパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ジグリセリンモノオレート、ジグリセリンジオレート、トリメチロールプロパンモノオレート、トリメチロールプロパンジオレート等が挙げられる。
【0042】
(ポリ)グリセリンアルキルエーテルとしては、グリセリンラウリルエーテル、グリセリンミリスチルエーテル、グリセリンパルミチルエーテル、グリセリンステアリルエーテル、グリセリンオレイルエーテル、ジグリセリンオレイルエーテル、トリグリセリンオレイルエーテル等が挙げられる。
アルキルアルカノールアミンとしては、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、ラウリルジプロパノールアミン、ミリスチルジプロパノールアミン、パルミチルジプロパノールアミン、ステアリルジプロパノールアミン等が挙げられる。アルケニル
アルカノールアミンとしては、オレイ
ルジエタノールアミン、オレイ
ルジプロパノールアミン等が挙げられる。
【0043】
脂肪酸アルカノールアミドとしては、ラウリン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、オレイン酸モノエタノールアミド等の脂肪酸モノエタノールアミド;ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド;ラウリン酸N−メチルエタノールアミド、ミリスチン酸N−メチルエタノールアミド、パルミチン酸N−メチルエタノールアミド、ステアリン酸N−メチルエタノールアミド、オレイン酸N−メチルエタノールアミド等の脂肪酸N−メチルエタノールアミド等が挙げられる。
【0044】
(G)成分としては、多価アルコール脂肪酸部分エステル、(ポリ)グリセリンアルキルエーテルが好ましく、多価アルコール脂肪酸部分エステルがより好ましく、グリセリンモノ脂肪酸エステルが更に好ましく、グリセリンモノオレートが最も好ましい。
【0045】
(G)成分の含量があまりにも少ない場合には、十分な効果が得られず、またあまりにも多い場合には、添加量に見合う性能の向上が得られないことから場合がある。(
G)成分の含量は、潤滑性組成物全量に対して、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜2質量%が更に好ましく、0.1〜1質量%が最も好ましい。
【0046】
本発明の潤滑性組成物は、更に、通常、潤滑油に使用される潤滑添加剤を配合することができる。このような潤滑添加剤としては、(H1)リン系耐摩耗剤又はリン系酸化防止剤、(H2)硫黄系極圧剤、(H3)硫黄系酸化防止剤、(H4)チオリン酸系極圧剤、(H5)防錆剤、(H6)粘度指数向上剤、(H7)金属不活性化剤、(H8)消泡剤、(H9)固体潤滑剤等が挙げられる
。
【0047】
(H1)リン系耐摩耗剤又はリン系酸化防止剤としては、例えば、有機ホスフィン、有機ホスフィンオキシド、有機ホスフィナイト、有機ホスホナイト、有機ホスフィネート、有機ホスファイト、有機ホスホネート、有機ホスフェート、有機ホスホロアミデート等が挙げられる。
【0048】
(H2)硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化鉱油、有機モノ又はポリスルフィド、ポリオレフィンの硫化物、1,3,4―チアジアゾール誘導体、チウラムジスルフィド、ジチオカルバミン酸エステル等が挙げられる。
【0049】
(H3)硫黄系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸エステル、チオビス(フェノール)化合物、アルキルチオプロピオン酸の多価アルコールエステル、2−メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリルスルフィド、アミルチオグリコレート等が挙げられる。
【0050】
(H4)チオリン酸系極圧剤としては、例えば、有機トリチオホスファイト、有機チオホスフェート等が挙げられる。
【0051】
(H1)〜(H4)成分の好ましい配合量はそれぞれ、本発明の潤滑性組成物に対して0.01〜2質量%程度であるが、本発明の潤滑性組成物をエンジン油として使用する場合は排ガス浄化触媒を被毒する可能性があることから、潤滑性組成物中の全リン含有量が1000質量ppmを超えない範囲、及び全硫黄含有量が5000質量ppmを超えない範囲で使用することが好ましい。
【0052】
(H5)の防錆剤としては、例えば、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100〜300程度)、ソルビタンモノエステル、ペンタエリスリトールモノエステル、グリセリンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸エステル、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。(H5)成分の好ましい配合量は、防錆効果が充分に発揮される範囲として、潤滑性組成物に対して0.1〜15質量%程度である。
【0053】
(H6)成分の粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1〜18)アルキルメタクリレート、(C1〜18)アルキルアクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ジエチルアミノエチルメタクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、エチレン/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/マレイン酸アミド共重合体、スチレン/ブタジエン水素化共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。平均分子量は10,000〜1,500,000程度である。(H6)成分の好ましい配合量は、潤滑性組成物に対して0.1〜20質量%程度である。
【0054】
(H7)成分の金属不活性化剤としては、例えば、N,N’−サリチリデン−1,2−プロパンジアミン、アリザリン、テトラアルキルチウラムジスルフィド、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、2−アルキルジチオベンゾイミダゾール、2−アルキルジチオベンゾチアゾール、2−(N,N−ジアルキルチオカルバモイル)ベンゾチアゾール、2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(N,N−ジアルキルチオカルバモイル)−1,3,4−チアジアゾール等が挙げられる。(H7)成分の好ましい配合量は、潤滑性組成物に対して0.01〜5質量%程度である。
【0055】
(H8)成分の消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。(H8)成分の好ましい配合量は、潤滑性組成物に対して1〜1000質量ppm程度である。
【0056】
(H9)成分の固体潤滑剤としては、例えば、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、脂肪酸アルカリ土類金属塩、雲母、二塩化カドミウム、二ヨウ化カドミウム、フッ化カルシウム、ヨウ化鉛、酸化鉛、チタンカーバイド、窒化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化アンチモン、フッ化セリウム、ポリエチレン、ダイアモンド粉末、窒化ケイ素、窒化ホウ素
、フッ化炭素、メラミンイソシアヌレート等が挙げられる。(H9)成分の好ましい配合量は、潤滑性組成物に対して0.005〜2質量%程度である。
【0057】
以上の(H1)〜(H9)の各成分は、1種又は2種以上を適宜配合することができる。
【0058】
本発明の潤滑性組成物は、種々の用途の潤滑に使用することができる。例えば、ガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油等のエンジン油、工業用潤滑油、タービン油、マシン油、軸受油、圧縮機油、油圧油、作動油、内燃機関油、冷凍機油、ギヤ油、自動変速機用油(ATF)、連続可変無段変速機用油(CVTF)、トランスアクスル流体、金属加工油等が挙げられる。又、すべり軸受、転がり軸受、歯車、ユニバーサルジョイント、トルクリミッタ、自動車用等速ジョイント(CVJ)、ボールジョイント、ホイールベアリング、等速ギヤ、変速ギヤ等の各種グリースに添加して使用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中、「%」は特に記載が無い限り質量基準である。
【0060】
以下の化合物及び基油を用いて表1に示す組成で実施例1〜10及び比較例1〜6の潤滑性組成物を調製した。なお、表中の組成の値は、潤滑性組成物全量を100質量部とした場合の各化合物の質量部である。
【0061】
(A1)一般式(1)において、R
1〜R
2が2−エチルヘキシル基、R
3〜R
4が分岐トリデシル基、X1〜X2が硫黄原子、X3〜X4が酸素原子である化合物(Mo含量18.1%)
(A2)一般式(1)において、R
1〜R
4が2−エチルヘキシル基、X
1〜X
2が硫黄原子、X
3〜X
4が酸素原子である化合物(Mo含量20.7%)
(B1)一般式(2)において、R
5〜R
6が2−エチルヘキシル基である化合物
(B2)一般式(2)において、R
5〜R
6が分岐トリデシル基である化合物
(C1)カルシウムサリシレート(Ca含量10%、TBN280mgKOH/g)
(C2)ホウ素変性カルシウムサリシレート(Ca含量10%、ホウ素含量0.5%、TBN275mgKOH/g)
(C3)マグネシウムサリシレート(Mg含量6.0%、TBN280mgKOH/g)
(C´1)カルシウムスルホネート(Ca含量11.4%、TBN300mgKOH/g)
(D1)ビスポリアルケニルコハク酸イミド
(D2)ホウ酸化アルケニルコハク酸イミド(ホウ素含量0.34%)
(D’1)マンニッヒ塩基系分散剤
(E1)下記のエステル基を有するフェノール系酸化防止剤
【0062】
【化5】
【0063】
(F1)一般式(3)において、R
7〜R
10が1−メチルプロピル基又は1,3−ジメチルブチル基である化合物
(基油)40℃の動粘度が18.3mm
2/sで粘度指数が126の鉱油系高VI油。
【0064】
実施例1〜10及び比較例1〜6の潤滑性組成物について、下記の方法により摩擦係数、及び銅板腐食性を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
〔摩擦係数測定方法〕
使用試験機:SRV測定試験機(Optimol社製、型式:type3)
評価条件
・シリンダ−オンプレートの線接触条件で摩擦係数を測定する。
・荷重:200N
・温度:80℃
・測定時間:15分
・振幅:1mm
・上部シリンダー:φ15×22mm(材質SUJ−2)
・下部プレート:φ24×6.85mm(材質SUJ−2)
評価方法:5〜15分の摩擦係数の平均値を、本試験の摩擦係数とする。摩擦係数が低いほど潤滑性に優れることを示す。
【0066】
〔銅板腐食性試験方法〕
試験方法:JIS K2513(石油製品−銅板腐食試験方法)に準拠
試験温度:100℃
試験時間:3時間
評価方法:銅板の変色をJIS K2513の銅板腐食標準と比較し、腐食の程度を判定する。番号の小さいほど、同一の番号の場合はa→b→cの順に、腐食が少ないことを示す。なお、表1に銅板腐食標準による腐食の分類を示す。
【0067】
【表1】