【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)穀粉又は澱粉と、油脂を混合し、リパーゼを該穀粉又は澱粉に対して
20〜50%(W/W)の水分含有率並びに
5〜50%(W/W)の油脂含有率の、
粉末の水分がペンジュラー域からキャピラリー域の全体が散ける「擬似粉末状態
」で反応させて、油脂を加水分解することにより、これら反応混合物から構成される
遊離脂肪酸を含有する油脂複合体としての食品素材を製造することを特徴とする該食品素材の製造方法。
(2)穀粉又は澱粉と、油脂と、有機酸を混合し、かつ加熱処理したものを用いる、前記(1)に記載の方法。
(3)更に有機酸含有率が0〜20%(W/W)
(但し、0は0超を表わす。)、かつ加熱処理したものを用いる場合の加熱処理温度が150〜300℃の条件の擬似粉末状態で反応させる、
前記(2)に記載の方法。
(4)穀粉が、米粉、薄力小麦粉、又は中力小麦粉であり、澱粉が、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、粳米澱粉、糯米澱粉、トウモロコシ澱粉、糯トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、又はサゴ澱粉である、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(5)油脂が、液状乃至半固形状の、サラダ油、ナタネ油、大豆油、パーム油、ヤシ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド油、トウモロコシ油、べに花油、オリーブ油、ごま油、又はこめ油である、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(6)有機酸が、クエン酸、イタコン酸、DL−リンゴ酸、L−酒石酸、フマル酸、アジピン酸、グルコノラクトン、グルコン酸、乳酸フィチン酸、又は酢酸である、前記(2)に記載の方法。
(7)加熱処理が、150〜300℃の過熱水蒸気及び伝導伝熱加熱である、前記(2)に記載の方法。
(8)穀粉又は澱粉と、油脂を混合し、
あるいは、更に、有機酸を混合し、かつ加熱処理を行った後に、リパーゼを上記擬似粉末状態で反応させて、乳化能をもつ
油脂複合体としての食品素材を製造する、前記(1)
又は(2)に記載の方法。
(9)穀粉又は澱粉と、油脂と、炭酸カルシウムを混合し、リパーゼを上記擬似粉末状態で反応させて、油脂を加水分解することにより、酸価(AV)を低下させた
油脂複合体としての食品素材とする前記(1)に記載の方法。
(10)前記(1)から(7)のいずれか
一項に記載の方法で製造した
油脂複合体としての食品素材に、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カリウム/カリウム塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニアのアルカリ系素材やカルマグS(商品名 オリエンタル酵母工業社製、原料 ドロマイト:カルシウム、マグネシウム含有物)
の一種以上を添加し、撹拌混合して、酸価(AV)を低下させた食品素材とすることを特徴とする該食品素材の製造方法。
(11)前記(9)又は(10)に記載の方法で酸価(AV)を低下させた
油脂複合体としての食品素材。
(12)前記(1)から(10)のいずれか一項に記載の方法で製造した
油脂複合体としての食品素材を利用したことを特徴とする加工食品。
(13)前記(1)から(10)のいずれか一項に記載の方法で製造した
油脂複合体としての食品素材を利用したことを特徴とするベークド製品。
(14)前記(1)から(10)のいずれか一項に記載の方法で製造した
油脂複合体としての食品素材を利用したことを特徴とする水産練り製品。
(15)前記(1)から(10)のいずれか一項に記載の方法で製造した
油脂複合体としての食品素材を利用したことを特徴とする麺製品。
【0025】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、穀粉又は澱粉と、油脂を混合したもの、又は、油脂と有機酸を混合した後に加熱処理したものに対して、リパーゼを該穀粉又は澱粉に対して所定の水分含有率、油脂含有率、並びに有機酸含有率の擬似粉末状態で反応させて、油脂を加水分解することにより、これら反応混合物から構成される食品素材を製造することを特徴とするものである。
【0026】
本発明において、擬似粉末状態とは、穀粉又は澱粉に対して所定の水分含有率並びに油脂含有率の粉末状態で、全体が散ける(ばらける)状態と定義され(この状態での酵素反応を粉末状酵素反応と呼称する)、非離水状態、又は粉末の水分がペンジュラー域からキャピラリー域の全体が散ける状態(=「擬似粉末状態」)であり、リパーゼを擬似粉末状態で反応させるとは、具体的には、リパーゼを、穀粉又は澱粉に対して水分含有率が20〜50%(W/W)、油脂含有率が5〜50%(W/W)の擬似粉末状態、あるいは、更に、有機酸含有率が0〜20%(W/W)の擬似粉末状態で反応させることを意味する。
【0027】
所定の水分含有率、油脂含有率、並びに有機酸含有率の疑似粉末状態は、穀粉、澱粉、油脂、有機酸などの原材料の種類によって上記範囲内のいずれかの値になるように調整することで形成することができる。本発明では、水分含有率が20〜50%(W/W)で、油脂含有率が5〜50%(W/W)の擬似粉末状態、あるいは、更に有機酸含有率が0〜20%(W/W)かつ加熱処理を用いる場合には、加熱処理が150〜300℃の条件の擬似粉末状態を形成することが重要である。なお、油脂含有率がこれ以上では、全体が散け難く、粉末状態となりにくく、取り扱いが困難となり、更に乾燥処理してもサラサラ状の粉末が得られなくなる。
【0028】
本発明は、穀粉又は澱粉と、油脂を混合し、あるいは、更に、有機酸を混合し、かつ加熱処理を行った後に、リパーゼを上記擬似粉末状態で反応させて、乳化能をもつ食品素材を製造することを特徴とするものである。ここで、乳化能とは、「水中油滴(O/W)型又は、油中水滴(W/O)型エマルションにおいて、互いに溶け合わない(相溶しない)液体からなる分散液を形成する能力」を意味し、該乳化能をもつ特性を「乳化性・均一分散性」と呼称する。
【0029】
これまで、穀粉又は澱粉と、油脂を混合し、あるいは、更に、有機酸を混合し、かつ加熱処理を行った後に、リパーゼを穀粉又は澱粉に対して所定の水分含有率、油脂含有率並びに有機酸含有率の擬似粉末状態で反応させて、油脂を加水分解することにより、これら反応混合物から構成される食品素材を製造する該食品素材の製造例や、穀粉又は澱粉と、油脂の原材料から、リパーゼを作用させて得られる反応混合物を乳化能をもつ食品素材とする応用例は開発例がない。
【0030】
本発明で製造できる素材は、従来使用されてきた既存乳化剤に換えて使用することができるが、O/W型及びW/O型乳化能をもつので、例えば、ベークド製品(パン、ケーキ、クッキーなど)、麺製品(米粉うどん、ラーメン、うどんなど)、フラワーペースト、アイスクリーム、コーヒー飲料、練り製品、チョコレート、羊羹、餡を用いた菓子類、調味料類、錠剤など極めて多岐にわたる食品において、既存乳化剤に換えて使用することができるものと期待される。
【0031】
リパーゼ系酵素の種類は、学術的には極めて多く、EC番号(酵素番号、Enzyme Commission numbers)、EC.3.−(加水分解酵素)、EC.3.1.−(エステル加水分解酵素)、EC.3.1.1.−(カルボン酸エステル加水分解酵素)、EC 3.1.1.3 トリアシルグリセロール リパーゼ[EC 3 Hydrolases、EC 3.1 Acting on Ester Bonds、EC 3.1.1 Carboxylic Ester Hydrolases、EC 3.1.1.3 triacylglycerol lipase]のように分類され、トリアシルグリセロール リパーゼは、各種微生物などに見出され、膨大な数になっている(http://www.brenda−enzymes.info/php/result_flat.php4?ecno=3.1.1.3)。
【0032】
「既存添加物名簿収載品目リスト」には、番号:305 名称:ホスホリパーゼ 品名/別名:ホスファチダーゼ レシチナーゼ 基原・製法・本質:動物のすい臓若しくはアブラナ科キャベツ(
Brassica oleracea LINNE)より、冷時〜室温時水で抽出して得られたもの、又は糸状菌(
Aspergillus oryzae,
Aspergillus niger)、担子菌(
Corticium)、放線菌(
Actinomadura,
Nocardiopsis)若しくは細菌(
Bacillus)の培養液より、冷時〜室温時水で抽出して得られたもの、除菌したもの、冷時〜室温時濃縮したもの、又はこれより含水エタノール若しくは含水アセトンで沈殿又は分画処理して得られたもの、樹脂精製後、アルカリ性水溶液で処理したもの、とある。
【0033】
更に、番号:349 名称:リパーゼ 品名/別名:脂肪分解酵素 簡略名又は類別名:エステラーゼ 基原・製法・本質:動物若しくは魚類の臓器、又は動物の舌下部より、冷時〜微温時水で抽出して得られたもの又は糸状菌(
Aspergillus awamori,
Aspergillus niger,
Aspergillus oryzae,
Aspergillus phoenicis,Aspergillus usamii,
Geotrichum candidum,
Humicola,
Mucor javanicus,
Mucor miehei,
Penicillium camembertii,
Penicillium chrysogenum,
Penicillum roquefortii,
Rhizomucor miehei,
Rhizopus delemar,
Rhizopus japonicus,
Rhizopus miehei,
Rhizopus niveus,
Rhizopus oryzae)、放線菌(
Streptomyces)、細菌(
Alcaligenes,
Arthrobactor,
Chromobacterium viscosum,
Pseudomonas,
Serratia marcescens)又は酵母(
Candida)の培養液より、冷時〜微温時水で抽出して得られたもの、除菌したもの、冷時〜室温時濃縮したもの、又はエタノール、含水エタノール若しくはアセトンで沈殿又は分画処理して得られたものである、とある。
【0034】
市販品に関しては、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 酵素研究ユニットが、2011年6月にアンケートした調査結果がある(http://www.nfri.affrc.go.jp/yakudachi/koso/3_shishitu3_1.index.html)。
【0035】
本発明でリパーゼとして用いられる酵素製剤は、1998年の天野製薬(現天野エンザイム株式会社)製のものと、2010年に製造された以下のL1〜L6であり、本発明者らは、本発明において、これらは、同等の効果を奏することを確認している。
L1:リパーゼF−AP15、1998
L2:リパーゼM「アマノ」10、1998
L3:リパーゼA「アマノ」6、2010 リパーゼ:48.0% 食品素材:52.0%
L4:リパーゼAY「アマノ」30G、2010 リパーゼ:20.0 グアーガム:0.04 食品素材:79.6
L5:リパーゼR「アマノ」、2010 リパーゼ:20.0 食品素材:80.0(原材料の一部にゼラチンを含む)
L6:リパーゼG「アマノ」50、2010 リパーゼ:50.0 食品素材:50.0(原材料の一部にゼラチンを含む)
【0036】
各酵素粉末50mgを秤取り、水を1%(W/W)になるように加えて(5mL)、溶解させたものについて、酵素活性を測定した。なお、リパーゼ活性測定法は、以下のようにした。すなわち、発色試薬溶液として、フェノールフタレイン溶液:1gを、95%(V/V)エタノール100mLに溶解したもの(F液と略称する)、炭酸水素カリウムの飽和溶液(K液と略称する)、を用いた。
【0037】
大豆油50μL+各酵素液50μLと、Refは大豆油50μL+水50μLを撹拌して、45℃、1時間密閉系で反応させ、反応後、エタノール2.5mL+水5mLを加え、F液50μL+K液50μLを加え、ピンク色の発色強度と液表層の油滴の大きさから判定して、高活性から、L4(白濁、油滴ほとんどなし)、L1(白濁、油滴僅かにあり)、L5、L2、L3、L6(油滴はこの順に大きくなり、2.3mmから5.6mmの範囲である)の順とした。この他のリパーゼ製剤についても、本法を用いて、活性を試験・確認した。これらの酵素液を、例えば、L4酵素液のように表記する。
【0038】
分析手法としては、本発明者らが開発した「アスタキサンチン法」(ASSO法と略称)と、酸価(AV)、過酸化物価(POV)測定法を用いた。ASSO法では、ヤマハ発動機(株)製、食品添加物、ヘマトコッカス藻色素製剤、「ピュアスタオイル80」(アスタキサンチン含有量8.0%(W/W)以上)を用い、その100mgをとり、10mLのサラダ油を加えて、振盪撹拌して溶解させたものを、室温保存で使用した。
【0039】
本発明の方法で調製された素材の乳化能は、ASSO法での着色程度を目視で観察して、水、無処理、対照の試験区との比較を行い、乳化能の優劣を判別したが、市販乳化剤との比較の際には、「HLB値が3−6程度では一部が水に分散し、W/O型エマルションの乳化剤、HLB値が10−13程度では水に半透明に溶解、分散し、O/W型エマルションの乳化剤として使用される。」(http://www.mfc.co.jp/product/nyuuka/ryoto_syuga/list.html 三菱化学フーズ株式会社)ことを参考にして、ショ糖ステアリン酸エステル W/O型用として[リョートー シュガーエステル(粉末)シュガーエステルS−370]と[リョートー シュガーエステル(粉末)シュガーエステルS−570]を用い、O/W型用として[リョートー シュガーエステル(粉末)シュガーエステルS−1170]を用いて、本発明で調製した素材と比較検討した。
【0040】
測定手順では、本発明で調製の素材250mg、市販乳化剤50mgを、バイアルに秤取り、蒸留水5mLとASSO 50μLを加えて、手で50回以上激しく振盪撹拌する。1,660×g、10分間遠心分離した後、n−ヘキサン3mLを静かに、加えて、更に1,660×g、10分間遠心分離し、n−ヘキサン層を乱さないようにして水層をピペットで沈殿も分散するように緩やかにかき混ぜ、分散液状水層を3mL静かに取り出して、n−ヘキサン3mLを加えて、50回以上激しく振盪撹拌する。
【0041】
1,660×g、10分間遠心分離した後、n−ヘキサン層2mLを静かに採り、分光光度計で470nmの吸光度を測定する。その実験例を示すと、
図1のようになり、米粉素材では250mg、市販乳化剤は50mgとすると、本発明での米粉素材を1とすると、上新粉で0.35、市販乳化剤.S−170で0.057、S−570で0.16、水では0.088となり、本条件では、本発明の方法で調製した米粉素材で高い乳化能・均一分散性を示した。
【0042】
図1に、各種乳化剤のASSO法で測定した乳化能を示す。
図1において、Bnkは無処理区(セルブランク)で、1は本発明の方法で調製した乳化能をもつ米粉、2は上新粉、3は三菱化学フーズ ショ糖脂肪酸エステルS−170、4は三菱化学フーズ ショ糖脂肪酸エステルS−570の場合であり、(三菱化学フーズ ショ糖脂肪酸エステルS−1170の場合、ゲル化のため測定不能)、[水]は、水の場合である。
【0043】
AV測定法では、試料(粉末状)250mg、油脂の場合は50mg又は50μLを、バイアルにとり、エタノール2.5mLを加えて、振盪撹拌した後、5mLの水を加え、フェノールフタレイン溶液(フェノールフタレイン−エタノール溶液;フェノールフタレイン1gを95%(V/V)エタノール100mLに溶解したもの)を50μL加え、1N 水酸化ナトリウム水溶液(Na液と略記する)を、10μLずつ添加しながら、紫色に発色する量を求めた。
【0044】
なお、発色が微弱である場合は、更に、水酸化ナトリウム水溶液10μLを加えて、明確に発色する量を求め、その中間を発色点とした。また、フェノールフタレイン溶液を加えた時点で発色した場合は、10μLずつ加えて、フェノールフタレイン呈色が消失する量を求めた。AV測定の場合には、通常、水酸化カリウムを用いているので、水酸化ナトリウムでの値を1.4倍すれば、水酸化カリウムでの値に換算できる。なお、酸価が「油脂1g中に存在する遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数」と定義されているので、油脂50mgをとって測定した場合は、Na液の必要量(μL)×1.12で、AVが求められる。
【0045】
次に、試験例を示す。
[試験例1]
(1)糖質の種類による擬似粉末状態での酵素反応の差異について
大豆油と、酵素の種類(酵素液:L4[=リパーゼAY「アマノ」30G]の1%(W/W)蒸留水溶液を使用)、濃度を固定し、糖質の種類を変化させて、擬似粉末状態での酵素反応による乳化能について検討した。糖質としては、単糖、オリゴ糖、糖アルコール系、澱粉、多糖系を用意し、単糖、オリゴ糖系として、グルコース、フルクトース、マルトース・H
2O、トレハロース、スクロース、ラクトース、サンオリゴ5・6を用い、糖アルコール系として、4単糖アルコール(エリスリトール)、6単糖アルコール(ソルビトール)、5単糖アルコール(キシリトール)、6単糖アルコール(マンニトール)を用いた。
【0046】
単糖、オリゴ糖、糖アルコール、各250mgを、バイアルにとり、大豆油50μLと酵素液50μLを加えて、撹拌・混合して、密閉系で一夜(15時間)、45℃で反応させた。密閉系で、105℃、30分間失活処理し、水5mLを添加して観察した。ASSO50μL添加の乳化能を目視測定した結果では、この条件で、乳化能を示す単糖、糖アルコールは見出せなかった。
【0047】
また、澱粉、多糖系として、以下の1〜20のものを用いた。
1.トウモロコシ澱粉αβ DE10(トウモロコシ澱粉分解物)
2.分岐D DE8(糯トウモロコシ澱粉分解物)
3.糯A DE5(糯トウモロコシ澱粉分解物)
4.可溶性澱粉(Starch soluble、MERCK社)
5.アミロースA、トウモロコシ澱粉由来 分子量約2900(ナカライテスク社)
【0048】
6.アミロース 分子量約16,000(ナカライテスク社)
7.アミロペクチン(ナカライテスク社)
8.上新粉
9.小麦粉WFL(薄力小麦粉)
10.WFM(中力小麦粉)
【0049】
11.WFS(強力小麦粉)
12.小麦澱粉
13.糯米澱粉(モチールB)
14.粳米澱粉(ファインスノー)
15.トウモロコシ澱粉
【0050】
16.糯トウモロコシ澱粉
17.タピオカ澱粉
18.甘藷澱粉
19.馬鈴薯澱粉
20.セルロースパウダー(食品添加用)
【0051】
実際の反応物の製造には、原材料の取り扱い易さが求められるので、上記1〜20の澱粉、多糖系の撹拌・混合時の取り扱いの容易さを比較した。特に取り扱いが容易であったのは、6:アミロース、14:粳米澱粉、16:糯トウモロコシ澱粉、20:セルロースパウダーであり、湿潤粉末状によく混合することができた。5:アミロースA、8:上新粉、12:小麦澱粉、13:糯米澱粉、15:トウモロコシ澱粉、17:タピオカ澱粉、19:馬鈴薯澱粉、Ref、Bnkも散けた状態になり、擬似粉末状態での酵素反応には適当と考えられた。これら以外は、付着性、固着性があり、混合しにくかった。すなわち、5、6、8、12、13、14、15、16、17、19、20は、擬似粉末状態での酵素反応の担体として優れていた。
【0052】
澱粉、多糖系、各250mgをバイアルにとり、大豆油50μLと酵素液50μLを加えて撹拌・混合して、密閉系で、一夜(15時間)、45℃で反応させ、密閉系で105℃、30分間失活処理し、水5mLを添加して、液表層、液層、沈殿層を、観察した。ASSO50μL添加の乳化能を目視測定した結果では、乳化能を示すものとしては、
図2Aに示すように、3−8が最も優れた乳化能を示した(3−8は、糖質8:上新粉を意味する。以下同様。)。この3−8では、表層にはASSOの分離層は認められず、沈殿層は着色、液層も着色白濁していたが、これは、乳化能、すなわち、乳化性・均一分散性が最も優れているということを示す。3−9〜20でも乳化能が観察されるが、これらの試料を沸騰水浴中で加熱処理すると、
図2Bのように、3−11、12、19、20では、ASSOが表層に分離し、乳化性・均一分散性は高温処理により消失することを示している。
【0053】
図2Aは、擬似粉末状態での酵素反応、失活処理した後、ASSO法で乳化能を目視観察したものである。ASSO法では、ASSOを添加後、振盪撹拌し、室温で30分間静置した。
図2Bは、
図2Aの試料を密閉系で撹拌しながら、10分間沸騰水浴中で溶解処理し、室温で一夜(15時間)放置したものである。以上の結果を総合すると、3−8、9、10、13、14、15、16、17、18を担体として用いた擬似粉末状態での酵素反応で優れた乳化能の発現を示し、特に3−8が優れていた。
【0054】
更に詳しく説明を加えると、
図2Aにおいて、ASSOの層が液表面にほとんど認められないということは、ASSO、すなわち、アスタキサンチン含有サラダ油が液相に分散し水不溶性相に固定されていることを示している。また、13〜18の澱粉では、加熱処理によりゲル化し、ゲル中にASSOが分散していることを示していて、加水により、ASSOは一部分離するが、ある程度の乳化能は示す。
図2の観察結果からは、8の上新粉は最上位の素材、9の薄力小麦粉、10の中力小麦粉、11の強力小麦粉、12の小麦澱粉は中位の素材、その他の素材は低位の素材と評価される。
【0055】
図3に、トウモロコシ澱粉と大豆油を用いたRef(対照試験区)、Bnk(無処理区)の乳化性・均一分散性を示す。R1は、トウモロコシ澱粉250mg+大豆油50μL、R2は、トウモロコシ澱粉250mg+酵素液50μL、R3は、トウモロコシ澱粉250mg+水50μL、であり、Ref・Bnkとした。3−15は、酵素反応試験区である。全て、45℃で、15時間、密閉系で静置した後に、ASSO法で検討した。
図3の左は、ASSO添加後、振盪撹拌し、室温で30分間放置後の観察結果であり、
図3の右は、密閉系で沸騰水浴中10分間で撹拌溶解処理した後の観察結果である。
【0056】
Ref・Bnkとして、トウモロコシ澱粉±大豆油、トウモロコシ澱粉+酵素液についても同様に処理した結果、
図3に示すように、室温処理・放置した場合の乳化性・均一分散性は、酵素反応試験区で優れていた。
【0057】
小麦粉については、市販薄力、中力、強力小麦粉を用い、Refとして上新粉を用いて検討した。
図4に、3種小麦粉のリパーゼ反応による乳化能をもつ小麦粉への変換可能性を示す。小麦粉のL M S (上新粉を対照にして)、市販薄力小麦粉(L)、中力小麦粉(M)、強力小麦粉(S)、上新粉(R)を、密閉系で45℃、1時間反応させ、密閉系で105℃、30min失活処理した後、ASSO50μLを加えて振盪撹拌し、室温静置一昼夜(15時間)後の呈色を観察した。
【0058】
その結果、
図4に示すように、試験区Expでは、上新粉が極めて優れた乳化能を示し、Refでは、LR薄力小麦粉≒RR米粉がよく、Bnkでは、LB薄力小麦粉がよい、という結果を得た。これは、小麦粉自体もある程度の乳化能を示すが、酵素処理した上新粉よりは劣ることを示す。
【0059】
Bnkは、各試料250mgそのもの、Refは、各試料250mg+米油50μL+水50μL、Expは、各250mg+米油50μL+1%(W/W)に濃度L4酵素溶液50μLである。各試料は、以下の通りである。
【0060】
LB:薄力小麦粉Bnk
MB:中力小麦粉Bnk
SB:強力小麦粉Bnk
RB:上新粉Bnk
【0061】
LR:薄力小麦粉Ref
MR:中力小麦粉Ref
SR:強力小麦粉Ref
RR:上新粉Ref
【0062】
L:薄力小麦粉Exp
M:中力小麦粉Exp
S:強力小麦粉Exp
R:上新粉Exp
【0063】
次に、上新粉を各種条件で擬似粉末状態で酵素反応させた時の乳化能の発現について検討した。
図5に、上新粉の乳化能の発現に関与する要件を示す。すなわち、試料の1、3〜7は、以下の通りである。
1.上新粉250mg+大豆油50μL+1%濃度L4酵素溶液50μL
3.上新粉250mg+大豆油50μL+水50μL
4.上新粉250mg+大豆油50μL
5.上新粉250mg+水50μL+L4酵素液50μL
6.上新粉250mg+水50μL
7.上新粉250mg
【0064】
上記混合物に、水5mLとASSO50μLを添加し、振盪撹拌して、10分間室温放置した。なお、[水]は、水5mLにASSO50μLを添加し、振盪撹拌して、10分間室温放置したものである。その結果、
図5に示すように、1.でのみ優れた乳化能が発現し、乳化能の発現には、大豆油とリパーゼが必須であった。なお、ここでの反応条件は、45℃、密閉系で一夜(15h)静置、その後、密閉系での105℃、30分間失活処理とした。
【0065】
[試験例2]
(2)油脂の種類による擬似粉末状態での酵素反応の差異について
油脂の種類の検討は、市販液状油脂を用いて行った。なお、有機酸成分であるオレイン酸、DHA、EPAは、本発明の範囲には含めないこととした。
【0066】
上新粉250mgに、液状油脂50μLと1%(W/W)濃度のL4酵素溶液50μLを加え、撹拌混合した。密閉系で45℃、15時間反応させて、乳化能を目視観測した。パーム油とヤシ油は、軟弱な固形であったので、スパーテルで50mg取り出して加えた。なお、硬化油など固体状の油脂は、本発明の条件である擬似粉末状態での酵素反応は進行しなかった。
【0067】
各試料は、以下の通りである。
F1:サラダ油
F2:ナタネ油
F3:大豆油
F4:パーム油
F5:ヤシ油
F6:中鎖脂肪酸トリグリセリド油
F9:トウモロコシ油
F10:べに花油
F11:オリーブ油
F12:ごま油
F13:こめ油
【0068】
図6に、各種市販油脂と上新粉の擬似粉末状態での酵素反応による乳化能の発現を示す。
図6において、上段は、反応後、ASSOを加えて振盪撹拌し、30分間、室温で静置したものであり、Refは、油脂の換わりに水50μLを加えて振盪撹拌し、30分間、室温で静置したものである。中段は、反応後、ASSOを加えて振盪撹拌し、一夜、室温で静置したものであり、[水]は、水5mLにASSO50μLを加えて振盪撹拌し、30分間、室温で静置したものである。下段は、中段の試料を沸騰水浴中で、10分間、加熱溶解処理し、放冷して、1,660×g、10分間遠心分離したものであり、[水]は、水5mLにASSO50μLを加えて振盪撹拌し、30分間、室温で静置したものである。
【0069】
結果として、使用した全ての液状油脂(ペースト状も含む)で乳化能を示した。特に乳化能が優れていたものは、F12とF13であり、
図6の下段に示すように、試料を沸騰水浴中で加熱溶解処理した後、遠心分離しても、液表層へのASSOの残存は極僅かであった。
【0070】
[試験例3]
(3)米油と各種澱粉、穀粉による擬似粉末状態での酵素反応の差異について
各種澱粉、穀粉を用いてAVについて検討した結果を、
図7に示す。各試験区は、以下のような成分・素材の組み合わせにした。
【0071】
FL:米油50μL+L4酵素液50μL+水50μL
RP:上新粉+米油50μL+L4酵素液50μL
NGRS:粳米澱粉250mg+米油50μL+L4酵素液50μL
GRS:糯米澱粉250mg+米油50μL+L4酵素液50μL
CS:トウモロコシ澱粉250mg+米油50μL+L4酵素液50μL
WCS:糯トウモロコシ澱粉+米油50μL+L4酵素液50μL
PS:馬鈴薯澱粉+米油50μL+L4酵素液50μL
WFL:薄力小麦粉+米油50μL+L4酵素液50μL
WS:小麦澱粉+米油50μL+L4酵素液50μL
TS:タピオカ澱粉+米油50μL+L4酵素液50μL
CEL:セルロース+米油50μL+L4酵素液50μL
【0072】
これら試験区の成分・素材をミニスパーテルで撹拌混合したとき、混合難易度では、極めて混合し易いものは、RP、WSであり、CS、WCS、CELは混合し易く、NGRSとGRSは嵩高くて混合し難く、PSとTSは付着する傾向が強く混合が難しかった。WFLは完全に生地が形成できた。
【0073】
撹拌混合して、密閉系で45℃、1時間反応させ、105℃、30分で失活処理後、測定し、F液で発色したK液の量(μL)からAVを計算した。
図7に、各種澱粉、穀粉などによる油脂の加水分解反応による酸価(AV)を示す。AVは、上新粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉で高く、粳米澱粉、糯米澱粉、トウモロコシ澱粉、糯トウモロコシ澱粉、小麦澱粉でも比較的高いAVを示した。反応の場としては、米粉が極めて効果的であり、澱粉、穀粉の種類によって、反応効率が大きく異なっていた。(
図3で、馬鈴薯澱粉で乳化能の発現が劣っていたのは、油脂の加水分解は進むが、反応物が乳化能を示す様態になっていないものと推量される)。
【0074】
[試験例4]
(4)擬似粉末状態での酵素反応における水分の影響について
擬似粉末状態での酵素反応における水分の影響については、105℃、2時間乾燥処理したトウモロコシ澱粉250mg+L4酵素粉末1mg+大豆油50μL+水0、5、10、25、50μLを加えた試験区をP0〜P50とし、トウモロコシ澱粉250mg+1%濃度L4酵素溶液50μL+大豆油50μL+水0、50、100、200、500μL、1mL、2.5mL、5mLを加えた試験区をW0〜W5mとし、全量をミニスパーテルでよく撹拌混合してから密栓をして、45℃で、一夜(15時間)反応させ、105℃、30分間失活処理して、AV測定により酵素活性の発現について検討した。
【0075】
図8に、擬似粉末状態での酵素反応における水分の影響を示す。
反応前の試料を撹拌・混合した際の試料の様子を観察した結果は、以下の通りである。
P0〜P50:ペンジュラー状態粉末
W0〜W50:ペンジュラー状態粉末
W100:キャピラリー状態粉末
W200:流動性が低いスラリー状態
W500〜W5m:流動性が高いスラリー状態
W200以上では、添加した油脂の油滴が液表面に浮かんだ状態であった。
【0076】
反応を終了させ、失活処理後、これら試料にエタノール2.5mL添加、水総量が5mLになるように水を加えた。液表面に油滴が認められるものとしてはP0〜P10、W500〜W5mであり、これらの試験区では反応が進んでいないことを示した。各試験区の見かけの水分含有率は、乾燥処理澱粉粉末中の水分含有率を0、乾燥無処理澱粉粉末中の水分含有率を10%(W/W)とし、添加した酵素溶液中の水分量を50μLとして計算すると、P0、P5、P10、P25は、14%(W/W)、15、17、20%(W/W)、W0、W50、W100、W200は、21%(W/W)、30、39、45、50%(W/W)であり、これ以上の水分を含む試験区では懸濁液状となった。AVは水分分含有率20〜50%(W/W)で大きく、特に擬似粉末状態のP25〜W200で酵素反応値は極めて効率的に進むことを示した。
【0077】
本発明の方法で製造される素材には、遊離の脂肪酸が多量に含まれ、したがって、AVは高い。しかし、この素材を長期保存してもPOVはほとんど上がらず、脂肪酸の劣化は進まないものと考察された。遊離脂肪酸は、味、嗜好、機能性にも関与する成分として注目されつつあり、また、食品添加物の中で、指定添加物(平成19年10月26日改定)番号152 品名 脂肪酸類、とされている。
【0078】
一方、「油の酸化に関する法規制」では、即席めん類(油揚げ麺)について、めんに含まれる油脂のAVが3を越え、又は過酸化物価(POV)が30を越えるものであってはならないとされ、油で処理した菓子(油脂分10%(W/W)以上)では、POVが30以下で、かつ、AVが5以下であること、あるいは、AVが3以下で、かつ、POVが50以下であること、とされている。
【0079】
AVが3以下の素材とするには、本発明の方法で製造される素材を、ソーダ灰などの成分、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カリウム/カリウム塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニアなどのアルカリ性素材やカルマグS(商品名 オリエンタル酵母工業社製、原料 ドロマイト:カルシウム、マグネシウム含有物)などを計算量添加して撹拌混合することでAVを低下させることができる。
【0080】
更に、POVの上昇を抑制するには、還元末端をもつ単糖、グルコース、フルクトースなどを撹拌混合すればよく、POV上昇抑制用の単糖の混合率は、澱粉、穀粉の0.1から10%(W/W)程度であり、求める味質により、添加量を加減すればよい。
【0081】
AVを低下又は抑制させる可能性がある食品素材である、アルカリ性素材の添加率は、AVにより加減すればよく、通常の油脂であれば、遊離脂肪酸の分子量(オレイン酸の分子量282)からAVは200ほどであるので、炭酸ナトリウムの場合、その分子量から計算して、完全加水分解油脂g当たり376mgが必要量となる。また、アルカリ性素材を混合した状態で長時間保存する場合は、着色するので、混合してから数週間以内に使い切ることが薦められる。