特許第6468384号(P6468384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 栗田工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6468384-水処理装置 図000005
  • 特許6468384-水処理装置 図000006
  • 特許6468384-水処理装置 図000007
  • 特許6468384-水処理装置 図000008
  • 特許6468384-水処理装置 図000009
  • 特許6468384-水処理装置 図000010
  • 特許6468384-水処理装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6468384
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20190204BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20190204BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20190204BHJP
   B01D 61/42 20060101ALI20190204BHJP
   C02F 1/469 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   C02F1/44 A
   B01D61/04
   B01D61/58
   B01D61/42
   C02F1/469
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-46832(P2018-46832)
(22)【出願日】2018年3月14日
【審査請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳一
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−104787(JP,A)
【文献】 特開2008−121929(JP,A)
【文献】 特開2003−136065(JP,A)
【文献】 特開2003−001255(JP,A)
【文献】 特開2001−149950(JP,A)
【文献】 特開2004−149899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00− 71/82
C02F 1/44
C02F 1/46− 1/48
C02F 1/58− 1/64
C02F 5/00− 5/14
F22D 1/00− 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系からの水を受け入れて透過処理する、有用成分非透過性の選択性透過膜を有した選択性透過膜装置と、
該選択性透過膜装置の透過水を脱イオン処理する脱イオン装置と、
前記選択性透過膜装置の非透過水と該脱イオン装置の脱イオン水とを前記水系に戻す手段と
を有する水処理装置。
【請求項2】
前記水系の水は、防錆剤、スケール防止剤及びスライム防止剤の少なくとも1種を含んでいることを特徴とする請求項1の水処理装置。
【請求項3】
前記水系は冷却水系、水処理装置、もしくは水処理装置に供給する補給水系であることを特徴とする請求項1又は2の水処理装置。
【請求項4】
前記選択性透過膜はNF膜であり、前記脱イオン装置はRO装置又は電気脱イオン装置であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系からの水を処理して該水系に戻す水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
開放循環式冷却システムにあっては、冷却塔ブロー水を処理し、処理水を冷却塔に戻す処理が行われている(特許文献1等)。
【0003】
最近は、水の使用量削減や回収が求められており、水処理を実施している系、例えば冷却水やボイラ等においても、その系外への排出ブロー水を回収することが求められている。しかし、従来の水回収技術は、水処理に有効な成分も除去してしまう。過剰に水中の成分を除去するため、エネルギーや薬品の無駄があった。
【0004】
冷却塔ブロー水を回収するプロセスでは、前処理ろ過(砂ろ過、活性炭、MF膜等)とRO膜やEDR(極性転換方式電気透析装置)との組合せの処理が行われる。従来のブロー水回収プロセスでは、ブロー水の全量を前処理膜やMF膜等で処理した後にRO膜へ供給する。このRO膜等により、水処理薬品や溶存塩類等が濃縮水中に濃縮されて系外に排出され、RO膜等の透過水が回収水として回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−1255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の回収プロセスでは、水処理に有効な成分であるカルシウム、亜鉛、ポリマー、りん酸や、ホスホン酸等の薬剤の成分など、原水中に含まれる各種の有用成分も全て濃縮水に含まれて系外に排出されてしまう。また、従来の回収プロセスでは、RO膜等で、亜鉛やりん酸、有機物(TOC,COD)等も濃縮されるため、RO膜等のファウリングが起きやすくなる。また、濃縮水を排出するに際しては、亜鉛やりん酸、COD,BOD等を除去処理する必要がある。
【0007】
本発明は、有用成分が回収され、系外へ排出する水の処理が容易であり、装置の運転トラブルも防止される水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水処理装置は、水系からの水を受け入れて透過処理する、有用成分非透過性の選択性透過膜を有した選択性透過膜装置と、該選択性透過膜装置の透過水を脱イオン処理する脱イオン装置と、前記選択性透過膜装置の非透過水と該脱イオン装置の脱イオン水とを前記水系に戻す手段とを有する。
【0009】
本発明の一態様では、前記水系の水は、防錆剤、スケール防止剤及びスライム防止剤の少なくとも1種を含んでいる。
【0010】
本発明の一態様では、前記水系は冷却水系、水処理装置、もしくは水処理装置に供給する補給水系(防錆剤やスケール防止剤等の薬剤が入っているもの)である。
【0011】
本発明の一態様では、前記選択性透過膜はNF膜であり、前記脱イオン装置はRO装置又は電気脱イオン装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、水系からの水を、選択性透過膜(2価以上のイオンの排除率が高い膜、有機物を排除する膜等)で処理し、この選択性透過膜の透過水をRO膜やEDR等の脱イオン装置で処理する。そして、選択性透過膜の非透過水を水系に返送して有用成分を回収する。また、脱イオン装置の脱イオン水を水系に返送して水を回収する。このようにして、有用成分及び水が回収される。
【0013】
また、本発明では、脱イオン装置への給水は選択性透過膜で有用成分が除去されているため、脱イオン装置からの排水には有用成分が含まれておらず、脱イオン装置の排水の処理が容易となる。また、脱イオン装置への給水は、選択性透過膜で処理されているため、不純物濃度が低減されており、脱イオン装置の安定運転が可能となる。
【0014】
なお、選択性透過膜として、中空糸タイプの低圧型NF膜を用いる場合、従来の前処理膜の役割を代替することができ、装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係る水処理装置のブロック図である。
図2】実施例で用いた試験装置のブロック図である。
図3】実施例で用いた試験装置のブロック図である。
図4】比較例で用いた試験装置のブロック図である。
図5】試験結果を示すグラフである。
図6】試験結果を示すグラフである。
図7】試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1を参照して実施の形態について説明する。なお、図1では水系は循環冷却水系であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、有用成分を含む水を保持した各種水系の処理に適用することができる。
【0017】
図1の水処理装置では、水系1の水の一部は、ポンプ2によって前処理膜(例えばMF膜や砂濾過、多層濾過(MMF)、2層濾過(DMF)、カートリッジフィルターなど)やストレーナ等よりなる前処理装置3に供給され、粒径の大きな固形物質が除去された後、選択性透過膜装置としてのNF装置4に供給される。NF装置4の非透過水(濃縮水)は、配管5を介して水系1へ返送される。なお、非透過水の一部は、必要に応じ、配管6から系外に排出される。
【0018】
NF装置の透過水は、配管7、ポンプ8を介して脱イオン装置としてのRO装置9に供給される。なお、RO装置の代りにEDRなどの電気透析装置が用いられてもよい。RO装置9の透過水は、配管10を介して水系1に返送される。RO装置9の非透過水(濃縮水)は、配管11から系外に排出されるが、水回収率向上のために、その一部は、配管12を介してRO装置への給水配管7へ返送され、再度RO処理される。
【0019】
この実施の形態では、冷却水系1には、防錆剤、スケール防止剤、スライム防止剤などの水処理薬剤が添加されており、水系1からの水中には、各種有用成分(ポリマー、りん酸塩、有機りん酸化合物、亜鉛イオン、カルシウムイオン等)が含まれているが、これらの有用成分はNF装置4で非透過水に回収され、水系1に戻される。また、RO装置9からの脱イオン水も配管10を介して水系1に回収されるので、水が有効利用され、補給水量が少なくなる。
【0020】
RO装置9の濃縮水には、水処理上不要であったり、その成分によっては水処理の上限が決められてしまうような成分(塩化物イオンやシリカ等)が含まれているが、濃縮水を排出することにより、これらの成分が系外に排出される。このように、塩化物やシリカ等の、水処理上問題を引き起こす可能性のある成分を選択的に除去できるため、このような成分の水系中での濃度を低下させることができる。
【0021】
なお、水系1において有用成分が過剰に濃縮しないように水系1からブローすることも必要に応じて実施するが、図1の場合、NF装置の濃縮水の一部を配管6から系外に排出することにより、水系からのブロー量を削減することができる。
【0022】
本発明は、冷却水系以外にも、防錆剤やスケール防止剤などの薬剤を添加している各種水系にも適用可能である。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
<処理1>
実機循環冷却水系から採取したサンプル水を、図2に示すNF膜モジュールを用いた循環処理装置によってNF膜ろ過して濃縮処理した。
【0024】
図2では、タンク20内のサンプル水がポンプ21、配管22を介してNF膜モジュール23へ供給される。ポンプ21の吐出水の一部は配管29でタンク20へ返送される。NF膜モジュール23の濃縮水は、定流量弁25を有した配管24を介してタンク20へ返送される。NF膜モジュール23の透過水は、配管26から透過水槽27へ導入され、重量測定器28で水量が測定される。
【0025】
この装置の運転を継続することにより、タンク20内の水が徐々に濃縮される。
【0026】
NF膜としてはDe.MEM社製のもの(中空糸タイプNF膜)を用いた。入口圧力0.25〜0.3MPaにて、50%回収の条件で膜濾過した。タンク20にサンプル水を5L取り入れ、透過水の水量が2.5Lとなった時点で、通水を終了した。
【0027】
<処理2>
上記処理1で得られた透過水に対してスケール防止剤(栗田工業社製Kuriverter N−500)を10mg/L添加し、図3に示した、RO膜(Hydranautics社製、PA膜ES−20)を有するROシステムを用いて、透過水の回収率70%、一定透過水量で運転を実施し、膜間差圧(TMP,Trans Membrane Pressure)および、溶液電気伝導率をモニタリングし、溶液浸透圧を補正した膜間差圧0.75MPa、25℃条件の規格化透過流束Normalized Flux(m/m/day)を算出した。
【0028】
図3のROシステムでは、前記タンク20内の濃縮されたサンプル水を給水としてポンプ30、配管31を介してROユニット32のベッセル33に供給する。ベッセル33内は、平膜よりなるRO膜34によって1次室35と2次室36とに区画されている。ベッセル33は、循環ポンプ38及びヒータ39を備えたウォーターバス37内に配置されている。1次室35内は、マグネチックスターラ40によって撹拌される。1次室35を通液した非透過水(濃縮水)は、配管41、定圧弁42及び電気伝導度計43を経て濃縮水槽44に流入する。濃縮水槽44は重量測定器45上に設置されており、濃縮水槽44に流入する濃縮水量が測定され、そのデータがロガー46に記録される。
【0029】
RO膜34を透過した2次室36内の透過水は、配管50、電気伝導度計51を経て透過水槽52に流入する。透過水槽52は重量測定器53上に設置されており、透過水槽52に流入する透過水量が測定され、そのデータがロガー54に記録される。
【0030】
前記配管31,50には圧力センサ60,61が設けられており、水圧データがロガー62に記録される。
【0031】
前記サンプル水と、図2のNF膜濃縮水及び透過水と、図3のRO膜透過水及び濃縮水の水質の分析結果を表1に示した。表1には、上記NF膜及びRO膜のリジェクト率も示した。
【0032】
【表1】
【0033】
<考察>
冷却水の水処理において防食やスケール防止に重要となるカルシウム硬度、亜鉛、りん酸イオンやホスホン酸、ポリマー等は、図2のNF膜モジュール23の処理により、65〜100%の高い率でリジェクトされた。一方で、腐食やスケールの因子となる塩化物イオンやシリカのNF膜排除率(リジェクト率)は−1〜11%と低く、NF膜を通過している。
【0034】
図3のROシステムでは、RO膜の閉塞を引き起こす有機物成分は、RO膜処理によってそのほとんどが除去されている。図5に平膜試験によるRO膜の評価試験の結果として、Normalized Fluxの推移を示した。RO膜の透過流束は安定しており、スケールや有機物等のファウリングによる閉塞は確認されなかった。この結果より、RO膜により、不要なイオンが濃縮され、系外へ安定的に排出されることが認められた。
【0035】
薬品成分(Zn,T−PO,Polymer等)や有機物は、表1の通り、NF膜をほとんど透過せず、系内で再循環されるため、薬品の使用量を削減でき、RO濃縮水中のZn,P,BODを低減できた(Zn=0.7,P=1.3,BOD<20)。このことにより、環境負荷を低減すると共に、追加の処理を必要とせず排水することも可能となる。
【0036】
[比較例1]
<実験条件>
実施例1と同じ実機実冷却水をサンプル水とし、これを図4に示すようにMF膜(クラレ社、PVDF製 孔径0.02μm)を用いて、入口圧力0.25〜0.3MPaの条件にて全量濾過した。図4では、タンク70内のサンプル水がポンプ71、配管72、NF膜モジュール73、配管74の順に流れ、濾過水槽75に導入され、重量測定器76で水量が計測される。ポンプ71の吐出水の一部は配管77でタンク70へ返送される。
【0037】
この濾過水にスケール防止剤(栗田工業社製Kuriverter N−500)を10mg/L添加した検水Aと、硫酸(1N)を3.4mL/L添加しpHを5.6に調整した検水Bを調製した。
【0038】
各検水A,Bを前記図3に示したROシステム(RO膜は前記のものと同一)を用いて、透過水の回収率70%、30℃、一定透過水量で運転を実施し、膜間差圧(TMP,Trans Membrane Pressure)および溶液電気伝導率をモニタリングし、溶液浸透圧を補正した膜間差圧0.75MPa、25℃条件のNormalized Flux(m/m/day)を演算した。
【0039】
<結果・考察>
検水Aを用いたときの水質分析結果および平膜試験装置によるNormalized Fluxの推移の観察結果をそれぞれ、表2、図6にそれぞれ示した。また、検水Bを用いたときの水質分析結果および平膜試験装置によるNormalized Fluxの推移の観察結果をそれぞれ、表3、図7に示した。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表2、図5の通り、MF膜透過水にスケール防止剤を添加しただけの検水Aでは、カルシウム濃度も高くまた有機物も多く残存していることから、スケール防止剤を添加してMF及びRO処理しても、RO膜に明確なNormalized Fluxの閉塞傾向が確認された。pHを硫酸により調整した検水Bの場合は、スケール傾向が出ないためにFluxの低下は確認されず安定運定が可能となった。
【0043】
硫酸によるpH調整はRO膜の運転の安定には効果的ではあるが、1mのサンプルを処理するためには、90%硫酸として185gの添加が必要となり、例えば時間10mの装置であれば、1ヶ月当たり1,300kg強の消費になることから、タンクや保管場所の管理が課題となる。
【0044】
また、ROの濃縮水には、薬品成分(亜鉛、りん酸、ポリマー等)が含まれる事から、その排出先の基準を満たす事が困難となり、追加の処理もしくは、産廃への排出、回収率の低減等を検討する必要が生じる。
【符号の説明】
【0045】
1 水系
4 NF装置
9 RO装置
【要約】
【課題】有用成分が回収され、系外へ排出する水の処理が容易であり、装置の運転トラブルも防止される水処理装置を提供する。
【解決手段】水系1からの水を受け入れて透過処理する、有用成分非透過性の選択性透過膜(NF膜)を有したNF膜モジュール4と、該NF膜モジュール4の透過水を脱イオン処理するRO装置9と、前記NF膜モジュール4の非透過水と該RO装置9の透過水を前記水系1に戻す手段とを有する水処理装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7