特許第6468716号(P6468716)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6468716リソグラフィー用洗浄液、及び基板のエッチング加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6468716
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】リソグラフィー用洗浄液、及び基板のエッチング加工方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/32 20060101AFI20190204BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20190204BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20190204BHJP
   C11D 7/34 20060101ALI20190204BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   G03F7/32 501
   H01L21/304 647A
   C11D7/32
   C11D7/34
   C11D7/50
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-78034(P2014-78034)
(22)【出願日】2014年4月4日
(65)【公開番号】特開2015-201484(P2015-201484A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】原口 高之
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 智弥
(72)【発明者】
【氏名】上野 直久
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−119783(JP,A)
【文献】 特開2009−194049(JP,A)
【文献】 特開2006−114872(JP,A)
【文献】 特開2004−103771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F7/32
H01L21/304
C11D7/32
C11D7/34
C11D7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性化合物と、水溶性有機溶剤と、水と、LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物とを含有し、
タングステン、コバルト、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなる金属領域を備え、前記金属領域の少なくとも一部が表面に露出した基板の洗浄に用いられるリソグラフィー用洗浄液。
【請求項2】
前記多価メルカプタン化合物が2価メルカプタン化合物、3価メルカプタン化合物、又はこれらの組み合わせである請求項1に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項3】
前記多価メルカプタン化合物中の炭素数が3〜8である請求項1又は2に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項4】
前記多価メルカプタン化合物が少なくとも1個の水酸基を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項5】
前記多価メルカプタン化合物が1,3−ジメルカプトプロパノール、ジチオトレイトール、及びトリメルカプトペンタエリスリトールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1から4のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項6】
タングステン、コバルト、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなる金属領域を備える基板の表面に、所定のパターンのエッチングマスク層を形成するエッチングマスク層形成工程と、
前記エッチングマスク層より露出する前記基板をエッチングするエッチング工程と、
請求項1から5のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液を用いて、エッチングされた前記基板を洗浄する洗浄工程とを含み、
前記洗浄工程において、前記基板の表面には前記金属領域の少なくとも一部が露出している、基板のエッチング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィー用洗浄液、及びこのリソグラフィー用洗浄液を用いた基板のエッチング加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスは、シリコンウェーハ等の基板上に金属配線層、低誘電体層、絶縁層等を積層して形成されるものであり、このような半導体デバイスは、レジストパターンをマスクとしてエッチング処理を施すリソグラフィー法により、上記各層を加工して製造されている。
【0003】
上記リソグラフィー法において用いられるレジスト膜、一時的積層膜(犠牲膜ともいう)、更にはエッチング工程において生じた金属配線層や低誘電体層由来の残渣物は、半導体デバイスの支障とならないよう、また、次工程の妨げとならないよう、洗浄液を用いて除去される。
【0004】
従来、このような半導体デバイス製造工程において使用されるリソグラフィー用洗浄液として、4級アンモニウム水酸化物を主成分とした洗浄液が提案されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。このような4級アンモニウム化合物を主成分としたリソグラフィー用洗浄液は、それ以前の洗浄液に比べて、各種残渣物に対して除去性能が大きく改善され、易腐食性材料に対する腐食抑制機能に優れたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−357908号公報
【特許文献2】特開2004−103771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、半導体デバイスの高密度化、高集積化に伴い、ダマシン法を用いた配線形成方法が採用されている。このような配線形成方法においては、半導体デバイスの金属配線層を構成する金属配線材料として、銅や銅合金等が採用されている。また、タングステン及びコバルトも、単体又は合金の形態で、半導体デバイスにおける金属配線材料として採用されている。金属配線材料として用いられるこれらの金属は、リソグラフィー用洗浄液により腐食しやすいという問題がある。そのため、銅、タングステン、コバルト、及びこれらの各々の合金に対する腐食抑制機能に優れ、基板の洗浄時にこれらの金属を腐食させにくいリソグラフィー用洗浄液が求められている。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属に対する腐食抑制機能に優れたリソグラフィー用洗浄液、及びこのリソグラフィー用洗浄液を用いた基板のエッチング加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、リソグラフィー用洗浄液に特定の多価メルカプタン化合物を添加することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明の第一の態様は、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤と、水と、LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物とを含有するリソグラフィー用洗浄液である。
【0010】
本発明の第二の態様は、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなる金属領域を備える基板の表面に、所定のパターンのエッチングマスク層を形成するエッチングマスク層形成工程と、上記エッチングマスク層より露出する上記基板をエッチングするエッチング工程と、上記リソグラフィー用洗浄液を用いて、エッチングされた上記基板を洗浄する洗浄工程とを含み、上記洗浄工程において、上記基板の表面には上記金属領域の少なくとも一部が露出している、基板のエッチング加工方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属に対する腐食抑制機能に優れたリソグラフィー用洗浄液、及びこのリソグラフィー用洗浄液を用いた基板のエッチング加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る基板のエッチング方法を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<リソグラフィー用洗浄液>
本発明に係るリソグラフィー用洗浄液は、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤と、水と、LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物とを含有する。本発明に係るリソグラフィー用洗浄液は、例えば、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなる金属領域を備え、上記金属領域の少なくとも一部が表面に露出した基板の洗浄に用いられる。上記基板としては、シリコンウェーハ等の基板上に金属配線層、低誘電体層、絶縁層等を積層して半導体デバイスが形成された基板が挙げられる。本発明に係るリソグラフィー用洗浄液は、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属に対する腐食抑制機能に優れる。そのため、上記基板の洗浄時に、本発明に係るリソグラフィー用洗浄液が上記金属領域に接触しても、上記金属領域の腐食は良好に抑制される。
【0014】
上記金属領域としては、例えば、半導体デバイスが形成された基板における金属配線層、プラグ、その他の金属構造物が挙げられる。なお、タングステン、コバルト、及び銅のいずれかの合金としては、タングステン、コバルト、及び銅の少なくとも1種と、他の遷移元素及び典型元素(例えば、リン、ホウ素、ケイ素等)の少なくとも1種との合金が挙げられ、具体的には、CoWPB等のリン及び/又はホウ素含有合金や、CoSi、WSi等のシリサイドが例示される。
以下、本発明に係るリソグラフィー用洗浄液の各成分を詳細に説明するが、特に断らない限り、上記成分としては市販のものを用いることができる。
【0015】
[塩基性化合物]
塩基性化合物としては、エッチング処理後に残存する残渣物を除去することができるものであれば、特に限定されない。塩基性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
塩基性化合物としては、例えば、第4級アンモニウム水酸化物を用いることができる。第4級アンモニウム水酸化物としては、下記一般式(a1)で表される化合物が好ましい。
【0017】
【化1】
【0018】
上記一般式(a1)中、Ra1〜Ra4は、それぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基、炭素数7〜16のアラルキル基、又は炭素数1〜16のヒドロキシアルキル基を示す。
【0019】
上記一般式(a1)で表される化合物の中でも、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、テトラプロピルアンモニウム水酸化物、テトラブチルアンモニウム水酸化物、メチルトリプロピルアンモニウム水酸化物、メチルトリブチルアンモニウム水酸化物、エチルトリメチルアンモニウム水酸化物、ジメチルジエチルアンモニウム水酸化物、ベンジルトリメチルアンモニウム水酸化物、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水酸化物、及び(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが、入手しやすさの点から特に好ましい。更に、テトラメチルアンモニウム水酸化物及びテトラエチルアンモニウム水酸化物が、エッチング処理後に残存する残渣物に対する溶解性が高い点から好ましい。
【0020】
また、塩基性化合物としては、アルカノールアミンを用いることができる。アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0021】
また、塩基性化合物としては、例えば、無機塩基を第4級アンモニウム水酸化物と併用してもよい。無機塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。
【0022】
塩基性化合物の含有量は、リソグラフィー用洗浄液全量に対し、第4級アンモニウム水酸化物については、0.05〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましく、アルカノールアミンについては、0.05〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。このような含有量とすることにより、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属の腐食を抑えながら、エッチング処理後に残存する残渣物を効果的に除去することができる。なお、無機塩基を第4級アンモニウム水酸化物と併用する場合、無機塩基の含有量は、リソグラフィー用洗浄液全量に対し、0.1質量ppm〜1質量%であることが好ましく、1質量ppm〜1000質量ppmであることがより好ましい。このような含有量とすることにより、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属の腐食を抑えながら、エッチング処理後に残存する残渣物に対する除去性能を高めることができる。
【0023】
[水溶性有機溶剤]
水溶性有機溶剤としては、当該分野で慣用される化合物を用いることができる。水溶性有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
水溶性有機溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類;N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシメチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン等のラクタム類;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート等のグリコールエステル系溶剤を挙げることができる。
【0025】
中でも好ましい水溶性有機溶剤として選択されるのは、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0026】
水溶性有機溶剤の含有量は、リソグラフィー用洗浄液全量に対し、1〜82質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましく、30〜50質量%であることが更により好ましい。このような含有量とすることにより、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属の腐食を抑えながら、エッチング処理後に残存する残渣物を効果的に除去することができる。
【0027】
[水]
水の含有量は、リソグラフィー用洗浄液全量に対し、10〜80質量%であることが好ましく、35〜70質量%であることがより好ましく、55〜80質量%であることが更により好ましい。このような含有量とすることにより、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属の腐食を抑えながら、エッチング処理後に残存する残渣物を効果的に除去することができる。
【0028】
[LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物]
本発明に係るリソグラフィー用洗浄液は、LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物を含有し、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属に対する腐食抑制機能に優れる。上記多価メルカプタン化合物は、優れた溶解性により、本発明に係るリソグラフィー用洗浄液中で安定に存在するとともに、高い酸化防止作用により、上記金属に対して優れた腐食抑制機能を発揮する。上記多価メルカプタン化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記多価メルカプタン化合物のLogP値は、0.5以下であり、好ましくは−0.4〜0.3であり、より好ましくは−0.35〜0.25である。上記LogP値が0.5以下であると、本発明に係るリソグラフィー用洗浄液において、上記多価メルカプタン化合物の溶解性が良好に維持されやすく、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属の腐食を抑えながら、エッチング処理後に残存する残渣物を効果的に除去することができる。
【0030】
logP値は、オクタノール/水分配係数を意味し、Ghose,Pritchett,Crippenらのパラメータを用い、計算によって算出することができる(J.Comp.Chem.,9,80(1998)参照)。この計算は、CAChe 6.1(富士通株式会社製)のようなソフトウェアを用いて行うことができる。
【0031】
LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物は、特に限定されないが、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属に対する腐食抑制機能の点で、2価メルカプタン化合物、3価メルカプタン化合物、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0032】
上記多価メルカプタン化合物中の炭素数としては、特に限定されないが、1〜8であることが好ましく、2〜6であることがより好ましく、3〜5であることが更により好ましい。また、上記多価メルカプタン化合物は、少なくとも1個の水酸基を有することが好ましく、1〜3個の水酸基を有することがより好ましく、1又は2個の水酸基を有することが更により好ましい。
【0033】
上記多価メルカプタン化合物の具体例としては、1,3−ジメルカプトプロパノール、ジチオトレイトール等の2価メルカプタン化合物、トリメルカプトペンタエリスリトール等の3価メルカプタン化合物が挙げられる。
【0034】
LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物の含有量は、リソグラフィー用洗浄液全量に対し、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.2〜5質量%であることがより好ましく、0.25〜3質量%であることが更により好ましい。このような含有量とすることにより、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属の腐食を抑えながら、エッチング処理後に残存する残渣物を効果的に除去することができる。
【0035】
[その他の成分]
本発明に係るリソグラフィー用洗浄液には、防食剤、界面活性剤等の、その他の成分が添加されてもよい。防食剤としては、特に限定されず、例えば、イミダゾール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物以外のメルカプト基含有化合物等が挙げられる。界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0036】
<基板のエッチング加工方法>
本発明に係る基板のエッチング加工方法は、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなる金属領域を備える基板の表面に、所定のパターンのエッチングマスク層を形成するエッチングマスク層形成工程と、上記エッチングマスク層より露出する上記基板をエッチングするエッチング工程と、本発明に係るリソグラフィー用洗浄液を用いて、エッチングされた上記基板を洗浄する洗浄工程とを含むものであり、上記洗浄工程において、上記基板の表面には上記金属領域の少なくとも一部が露出している。
以下、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る基板のエッチング加工方法について説明する。
【0037】
[エッチングマスク層形成工程]
エッチングマスク層形成工程では、図1(a)及び図1(b)に示されるように、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなる金属領域11を備える基板10の表面に、所定のパターンのエッチングマスク層12を形成する。エッチングマスク層12の材料は特に限定されない。エッチングマスク層12の好適な材料としては、例えば、種々のレジスト材料や、SiOやSiN等の無機ケイ素化合物が挙げられる。エッチングマスク層12がレジスト材料からなる場合、エッチングマスク層12は、従来公知のフォトリソグラフィー法により形成される。エッチングマスク層12が無機ケイ素化合物である場合、エッチングマスク層12は、基板10の表面に無機ケイ素化合物の薄膜を形成した後、無機ケイ素化合物の薄膜上にエッチングマスク層12の開口部に相当する箇所に開口を有するレジストパターンを形成し、レジストパターンの開口部から露出する無機ケイ素化合物の薄膜をエッチングにより剥離させ、次いで、レジストパターンを除去することにより形成することができる。また、エッチングマスク層12は、エッチングマスク層12に相当する箇所に開口を有するレジストパターンを形成した後、CVD法により無機ケイ素化合物をレジストパターンの開口部に堆積させ、次いで、レジストパターンを除去する方法によっても形成することができる。
【0038】
[エッチング工程]
エッチング工程では、図1(b)及び図1(c)に示されるように、エッチングマスク層12より露出する基板10をエッチングして凹部13を形成する。凹部13の形成により、基板10の表面には金属領域11の少なくとも一部が露出する。エッチング工程において、エッチングマスク層12より露出する基板10をエッチングする方法としては、特に限定されず、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチングが挙げられる。
【0039】
[洗浄工程]
洗浄工程では、図1(d)に示されるように、本発明に係るリソグラフィー用洗浄液14を用いて、エッチングされた基板10を洗浄する。この際、金属領域11の少なくとも一部は、基板10の表面に露出しており、リソグラフィー用洗浄液14と接触する。リソグラフィー用洗浄液14は、タングステン、コバルト、銅、及びこれらのいずれかの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属に対する腐食抑制機能に優れる。そのため、リソグラフィー用洗浄液14が金属領域11に接触しても、金属領域11の腐食は良好に抑制される。よって、洗浄工程を経ることにより、金属領域11の腐食を抑えながら、エッチング処理後に残存する残渣物を効果的に除去することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を示し、本発明について更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0041】
(材料)
TMAH:テトラメチルアンモニウム水酸化物
溶剤1:3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール
化合物1:1,3−ジメルカプトプロパノール(HS−CH−CH(OH)−CH−SH、2価メルカプタン化合物、LogP値:0.092)
化合物2:ジチオトレイトール(HS−CH−CH(OH)−CH(OH)−CH−SH、2価メルカプタン化合物、LogP値:−0.316)
化合物3:トリメルカプトペンタエリスリトール(HO−CH−C(CH−SH)、3価メルカプタン化合物、LogP値:0.206)
比較化合物1:チオグリセロール(HO−CH−CH(OH)−CH−SH、1価メルカプタン化合物、LogP値:0.168)
比較化合物2:ヘプタンチオール(n−C15−SH、1価メルカプタン化合物、LogP値:2.7)
比較化合物3:メルカプトエトキシエトキシエタノール(HS−(CHCHO)−CHCH−OH、1価メルカプタン化合物、LogP値:−0.451)
比較化合物4:テトラメルカプトペンタエリスリトール(C(CH−SH)、4価メルカプタン化合物、LogP値:0.793)
【0042】
(リソグラフィー用洗浄液の調製)
表1に示す材料を表1に示す量(単位:質量%)で混合し、リソグラフィー用洗浄液を調製した。なお、各試薬については、特に記載の無いものに関しては、一般に市販されている試薬を用いた。また、実施例及び比較例(比較例1を除く。)の間でメルカプト基のモル数が等しくなるように、メルカプタン化合物の量を調整した。
【0043】
(タングステン層又はコバルト層のエッチング速度の評価)
タングステン又はコバルトをシリコン基板上に成膜し、100nmのタングステン層又はコバルト層を備えたシリコン基板を得た。このシリコン基板を、50℃に加温した上記リソグラフィー用洗浄液に60分浸漬させた。浸漬終了後、シリコン基板を純水でリンスし、タングステン層又はコバルト層の膜厚を測定して、浸漬前後の膜厚の差からタングステン層又はコバルト層のエッチング速度を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
(エッチング後におけるコバルト層の表面状態の評価)
上記エッチング後、コバルト層を備えたシリコン基板上のコバルト層の表面状態をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
良好:コバルト層の表面は滑らかであり、荒れは生じていなかった。
不良:コバルト層の表面に荒れが生じていた。
【0045】
【表1】
1)メルカプタン化合物の添加量については、実施例及び比較例(比較例1を除く。)の間でメルカプト基が等モルとなるように調整。
2)メルカプタン化合物が洗浄液組成に溶解しなかったため、評価不能であった。
【0046】
表1から分かるように、LogP値が0.5以下である多価メルカプタン化合物を含有する実施例1〜3のリソグラフィー用洗浄液は、タングステン及びコバルトに対する腐食抑制機能に優れることが確認された。
一方、1価メルカプタン化合物を含有する比較例2及び4のリソグラフィー用洗浄液は、メルカプタン化合物を含有しない比較例1のリソグラフィー用洗浄液と比較して、タングステン層のエッチング速度が遅かったが、依然として、タングステンに対する腐食抑制機能に劣っていた。また、比較例2及び4のリソグラフィー用洗浄液は、比較例1のリソグラフィー用洗浄液と比較して、コバルト層のエッチング速度が著しく上昇しており、むしろコバルトに対する腐食が促進されていた。
比較例3では、LogP値が0.5超である1価メルカプタン化合物が本願の洗浄液組成に溶解しなかったため、リソグラフィー用洗浄液を評価することができなかった。
比較例5で用いたメルカプタン化合物は、多価であるものの、LogP値が0.5超であり、本願の洗浄液組成に溶解しなかったため、リソグラフィー用洗浄液を評価することができなかった。
【符号の説明】
【0047】
10 基板
11 金属領域
12 エッチングマスク層
13 凹部
14 本発明に係るリソグラフィー用洗浄液
図1