特許第6470265号(P6470265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6470265メタクリル樹脂組成物、成形体、フィルムおよび偏光板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6470265
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】メタクリル樹脂組成物、成形体、フィルムおよび偏光板
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20190204BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20190204BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190204BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   C08L33/12
   C08L69/00
   C08J5/18CEY
   G02B5/30
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-513649(P2016-513649)
(86)(22)【出願日】2015年4月16日
(86)【国際出願番号】JP2015002102
(87)【国際公開番号】WO2015159552
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2017年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-85965(P2014-85965)
(32)【優先日】2014年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達
(72)【発明者】
【氏名】野本 祐作
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−221386(JP,A)
【文献】 特開2004−083833(JP,A)
【文献】 特開2002−327012(JP,A)
【文献】 特開2014−043562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00−33/26
C08L 69/00
C08J 5/18
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂およびポリカーボネート樹脂を含むメタクリル樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂は、15000より大きく、32000より小さい粘度平均分子量を有しており、
前記メタクリル樹脂100質量部に対する前記ポリカーボネート樹脂の含有量が1質量部以上、4質量部以下であって、
当該メタクリル樹脂組成物に対して前記メタクリル樹脂と前記ポリカーボネート樹脂の合計量を80〜100質量%としており、
前記メタクリル樹脂の三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が、58%以上、85%以下であるメタクリル樹脂組成物。
【請求項2】
前記メタクリル樹脂組成物の分子量分布が1.3〜1.5である請求項1に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項3】
前記メタクリル樹脂が、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が92質量%以上、100質量%以下である請求項1または2に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項4】
前記メタクリル樹脂のメタクリル酸メチル由来の構造単位の含有量が、99質量%以上である請求項1〜3のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項5】
前記メタクリル樹脂組成物の重量平均分子量が70000〜200000である請求項1〜4のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂が、
15000より大きく、18000より小さい粘度平均分子量を有する請求項1〜5のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物からなる成形体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項9】
厚さが10〜50μmである、請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
面積比で1.5〜8倍に二軸延伸された請求項8または9に記載のフィルム。
【請求項11】
偏光子保護フィルムとして用いられる請求項8〜10のいずれかひとつに記載のフィルム。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルムが少なくとも1枚積層された偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル樹脂とポリカーボネート樹脂を含有して成るメタクリル樹脂組成物に関する。また、前記メタクリル樹脂組成物からなるフィルム、成形体、および前記フィルムを具備する偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には各種の樹脂製フィルムが使用されている。このうち偏光子保護フィルムには、トリアセチルセルロースが主に使用されている。トリアセチルセルロースからなるフィルムは透湿度が高いため、薄膜化するにしたがって、偏光子の品質低下を引き起こす傾向がある。偏光子保護フィルムの改良は液晶表示装置の薄型化において課題となっている。
【0003】
そこで、新たな偏光子保護フィルムの材料としてメタクリル樹脂が検討されている。メタクリル樹脂からなるフィルムを延伸処理すると靭性が高まることが知られている(特許文献1参照)。ところが、通常のメタクリル樹脂フィルムを延伸すると位相差が大きくなり、例えばIPS液晶方式では画面の品位低下を引き起こしてしまう。
【0004】
メタクリル樹脂にポリカーボネート樹脂などの樹脂を添加することで、位相差の小さいフィルムを得やすくなることが知られている(特許文献2〜5)。しかしながら、これらのメタクリル樹脂組成物は、延伸性に課題があった。このため、より薄膜に延伸する場合には割れ易くなり、また、延伸後のフィルムの強度を高めるために、より低い温度で延伸する場合には破断しやすくなるといった問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭57−32942号公報
【特許文献2】特開平5−32846号公報
【特許文献3】特開2012−514759号公報
【特許文献4】特開2013−148655号公報
【特許文献5】特開2014−51649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、透明性が高く、厚さ方向の位相差が小さく、延伸しやすいメタクリル樹脂組成物を提供することである。また、厚さが均一で且つ表面平滑性に優れ、生産性が高く、強度の大きいメタクリル樹脂組成物からなるフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を重ねた結果、以下の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0008】
〔1〕:メタクリル樹脂およびポリカーボネート樹脂を含むメタクリル樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂は、15000より大きく、32000より小さい粘度平均分子量を有しており、前記メタクリル樹脂100質量部に対する前記ポリカーボネート樹脂の含有量が1質量部以上、4質量部以下であって、当該メタクリル樹脂組成物に対して前記メタクリル樹脂と前記ポリカーボネート樹脂の合計量を80〜100質量%とするメタクリル樹脂組成物。
〔2〕:前記メタクリル樹脂組成物の分子量分布が1.3〜1.5である〔1〕に記載のメタクリル樹脂組成物。
〔3〕:前記メタクリル樹脂が、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が50%以上であり、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が92質量%以上100質量%以下である〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル樹脂組成物。
〔4〕:前記メタクリル樹脂のシンジオタクティシティ(rr)が、58%以上、85%以下であるメタクリル樹脂である〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
〔5〕:前記メタクリル樹脂のメタクリル酸メチル由来の構造単位の含有量が、99質量%以上であるメタクリル樹脂である〔1〕〜〔4〕のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
〔6〕: 前記メタクリル樹脂組成物の重量平均分子量が70000〜200000である〔1〕〜〔5〕のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
〔7〕:前記ポリカーボネート樹脂が、15000より大きく18000より小さい粘度平均分子量を有する〔1〕〜〔6〕のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物。
【0009】
〔8〕:〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物からなる成形体。
〔9〕:〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載のメタクリル樹脂組成物からなるフィルム。
〔10〕:厚さが10〜50μmである、〔9〕に記載のフィルム。
〔11〕:面積比で1.5〜8倍に二軸延伸された〔9〕または〔10〕に記載のフィルム。
〔12〕:偏光子保護フィルムとして用いられる〔9〕〜〔11〕のいずれかひとつに記載のフィルム。
〔13〕:〔12〕に記載のフィルムが少なくとも1枚積層された偏光板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透明性が高く、厚さ方向の位相差が小さく、且つ延伸しやすいメタクリル樹脂組成物を提供することができる。また、厚さが均一で且つ表面平滑性に優れ、生産性が高く、強度の大きいメタクリル樹脂組成物からなるフィルムを提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る偏光板の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂およびポリカーボネート樹脂を含有するものである。また、本発明のフィルムは、メタクリル樹脂およびポリカーボネート樹脂を含有するメタクリル樹脂組成物からなるフィルムである。
【0013】
本発明に用いられるメタクリル樹脂は、得られるフィルムの耐熱性の観点からメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が、メタクリル樹脂の質量を基準にして、好ましくは92質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、特に好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0014】
本発明に用いられるメタクリル樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位以外の構造単位を含んでいても良く、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−イソボルニル、メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル、メタクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;などの一分子中に重合性の炭素−炭素二重結合を一つだけ有するビニル系単量体に由来する構造単位が挙げられる。メタクリル酸メチルに由来する構造単位以外の構造単位は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0015】
本発明に用いられるメタクリル樹脂は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)の下限が、好ましくは50%、より好ましくは55%、さらに好ましくは58%、よりさらに好ましくは59%、最も好ましくは60%である。該メタクリル樹脂は、製膜性の観点から、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)の上限が、好ましくは99%、より好ましくは85%、さらに好ましくは77%、よりさらに好ましくは65%、最も好ましくは64%である。
【0016】
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(以下、単に「シンジオタクティシティ(rr)」と称することがある。)は、連続する3つの構造単位の連鎖(3連子、triad)が有する2つの連鎖(2連子、diad)が、ともにラセモ(rrと表記する)である割合である。なお、ポリマー分子中の構造単位の連鎖(2連子、diad)において立体配置が同じものをメソ(meso)、逆のものをラセモ(racemo)と称し、それぞれm、rと表記する。
メタクリル樹脂のシンジオタクティシティ(rr)(%)は、重水素化クロロホルム中、30℃で、1H-NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の、0.6〜0.95ppmの領域の面積(X)と0.6〜1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、式:(X/Y)×100にて算出することができる。
【0017】
本発明に用いられるメタクリル樹脂は、重量平均分子量(以下、「Mw」と称することがある。)が、好ましくは70000以上、より好ましくは80000〜200000、さらに好ましくは85000〜160000、さらにより好ましくは90000〜120000である。かかるMwが80000以上で、かつ、シンジオタクティシティ(rr)が50%以上あることで、得られるフィルムは、強度が高く、割れ難く、延伸し易い。そのためフィルムをより薄くすることができる。またMwが200000以下であることで、メタクリル樹脂の成形加工性が高まるので、得られるフィルムの厚さが均一で且つ表面平滑性に優れる傾向となる。
【0018】
本発明に用いられるメタクリル樹脂は、Mwと数平均分子量(以下、「Mn」と称することがある。)の比(Mw/Mn:以下、この値を「分子量分布」と称することがある。)が、好ましくは1.2〜2.0、より好ましくは1.3〜1.7である。分子量分布が1.2以上であることでメタクリル樹脂の流動性が向上し、得られるフィルムは表面平滑性に優れる傾向となる。分子量分布が2.0以下であることで得られるフィルムは耐衝撃性および靭性に優れる傾向となる。なお、MwおよびMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0019】
本発明に用いられるメタクリル樹脂は、JIS K7210に準拠して、230℃、3.8kg荷重の条件において測定される、メルトフローレートが、好ましくは0.1〜5g/10分、さらに好ましくは0.5〜4g/10分、最も好ましくは1.0〜3g/10分である。
【0020】
本発明に用いられるメタクリル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは110℃以上、より好ましくは118℃以上、さらに好ましくは120℃以上、よりさらに好ましくは123℃以上、最も好ましくは124℃以上である。該メタクリル樹脂のガラス転移温度の上限は、通常130℃である。ガラス転移温度は、分子量やシンジオタクティシティ(rr)を調節することによって制御することができる。ガラス転移温度がこの範囲にあると、得られるフィルムの熱収縮などの変形が起こり難い。なお、ガラス転移温度は、実施例に記載の方法で測定した中間点ガラス転移温度である。
【0021】
メタクリル樹脂の製造方法は特に制限されない。例えば、ラジカル重合法、アニオン重合法などの公知の重合法において、重合温度、重合時間、連鎖移動剤の種類や量、重合開始剤の種類や量などを調整することによって、Mw、シンジオタクティシティ(rr)などの特性が所望の範囲を満たすメタクリル樹脂を製造することができる。
【0022】
例えば、ラジカル重合法の場合、重合温度を80℃以下にすることが好ましく、70℃以下にすることがより好ましく、60℃以下にすることがさらに好ましい。このように温度を調整すると、シンジオタクティシティ(rr)を高くすることが容易である。
【0023】
アニオン重合法の場合、重合開始剤として、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウムを用いることが好ましい。また、生産性の観点から、有機アルミニウム化合物を共存させることが好ましい。有機アルミニウムとしては、下記式:
AlR123
(式中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアルコキシル基、置換基を有してもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を表す。R2およびR3は、それぞれが結合してなる、置換基を有していてもよいアリーレンジオキシ基であってもよい。)
で示される化合物が挙げられる。具体的には、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム等が挙げられる。
また、アニオン重合法においては、重合反応を制御するために、エーテルや含窒素化合物などを共存させることもできる。
【0024】
また、メタクリル樹脂をアニオン重合法にて製造する場合、重合反応の途中で重合開始剤の量より少ない量、具体的には、重合開始剤の量に対して、好ましくは1モル%〜50モル%、より好ましくは2モル%〜20モル%、さらに好ましくは5モル%〜10モル%の重合停止剤を添加したり、または重合反応の途中で最初に添加した重合開始剤の量に対して、好ましくは1モル%〜50モル%、より好ましくは2モル%〜20モル%、さらに好ましくは5モル%〜10モル%の重合開始剤を追加添加したりすることによって、重量平均分子量を調整できる。
【0025】
重量平均分子量、シンジオタクティシティ(rr)などが所望の特性を有するメタクリ樹脂を得る第2の方法として、所望の特性を満たすメタクリル樹脂に、所望の特性を満たさないメタクリル樹脂を混合したり、所望の特性を満たさないメタクリル樹脂同士を適宜混合することにより、所望の特性(重量平均分子量、シンジオタクティシティ(rr)などの特性)を有するメタクリル樹脂を得る方法が挙げられる。かかる方法は、工程管理が容易である。複数種のメタクリル樹脂の混合は、公知の方法、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができる。混練時の温度は、使用するメタクリル樹脂の溶融温度に応じて適宜調節することができ、通常150℃〜300℃である。
【0026】
所望の特性を有するメタクリ樹脂を得る第3の製造方法として、所望の特性範囲から外れているメタクリル樹脂の存在下で単量体を重合して、所望の重量平均分子量、シンジオタクティシティ(rr)などの特性が所望の範囲を満たすメタクリル樹脂を製造する方法がある。かかる重合は上述したラジカル重合法やアニオン重合法と同様にして行うことができる。第3の製造方法によれば、第2の製造方法に比べて、メタクリル樹脂に掛かる熱履歴が短くなるので、メタクリル樹脂の熱分解が抑制され、着色や異物の少ないフィルムが得られやすい。
【0027】
上記のようなメタクリル樹脂の製造方法のうち、透明性の高いメタクリル樹脂が容易に製造できるという観点から、アニオン重合法によって特性が所望の範囲を満たすメタクリル樹脂を製造する方法;アニオン重合法で製造されたメタクリル樹脂と、ラジカル重合で製造されたメタクリル樹脂を混合することによって特性が所望の範囲を満たすメタクリル樹脂を製造する方法;およびアニオン重合法で製造されたメタクリル樹脂と、別のアニオン重合法で製造されたメタクリル樹脂とを混合することによって特性が本発明の所望の範囲を満たすメタクリル樹脂を製造する方法が好ましく、アニオン重合法で製造されたメタクリル樹脂と、ラジカル重合で製造されたメタクリル樹脂を混合することによって特性が本発明の所望の範囲を満たすメタクリル樹脂を製造する方法がより好ましい。
【0028】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、多官能ヒドロキシ化合物と炭酸エステル形成性化合物との反応によって得られる重合体である。該ポリカーボネート樹脂は、メタクリル樹脂との相溶性、得られるフィルムの透明性がよいという観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0029】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、得られるメタクリル樹脂組成物からなるフィルムの延伸性が高いという観点から、粘度平均分子量(以下、「Mv」と称することがある)が15000より大きいものを用いる。Mvは、15500より大きいことが好ましく、15800より大きいことがより好ましく、16000より大きいことが最も好ましい。またメタクリル樹脂との相溶性の観点から、Mvは32000より小さいものを用いる。Mvは、22000より小さいことが好ましく、19000より小さいことが更に好ましく、18000より小さいことが最も好ましい。使用するメタクリル樹脂のシンジオタクティシティ(rr)が高いほど、ポリカーボネート樹脂との相溶性が高く、より大きな粘度平均分子量のポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0030】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、キャノン−フェンスケ粘度計やウベローデ粘度計を用いてポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン100mLに溶解した溶液の比粘度ηspを20℃で測定し、下記のSchnellの式を満足する値として、20℃の塩化メチレン溶液の極限粘度[η]から、算出することができる。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2
(但し[η]は極限粘度、上記条件ではc=0.5)
[η]=1.23×10- 4 Mv0 . 8 3
【0031】
また、本発明に用いられるポリカーボネート樹脂の300℃、1.2KgでのMVR(メルトボリュームフローレート)値は、メタクリル樹脂との相溶性の観点から、1cm3/10分より大きいことが好ましく、10cm3/10分より大きいことがより好ましく、20cm3/10分より大きいことが更に好ましく、25cm3/10分より大きいことが最も好ましい。また、得られるメタクリル樹脂組成物の延伸性が高いという観点から、60cm3/10分より小さいことが好ましく、51cm3/10分より小さいことがより好ましく、47cm3/10分より小さいことが更に好ましく、44cm3/10分より小さいことが最も好ましい。
【0032】
また、本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した重量平均分子量(Mw)が、得られるメタクリル樹脂組成物の延伸性が高いという観点から、30800g/モルより大きいことが好ましい。前記Mwは、32100g/モルより大きいことがより好ましく、32800g/モルより大きいことが更に好ましく、33300g/モルより大きいことが最も好ましい。また、メタクリル樹脂との相溶性の観点から、前記Mwは、75000g/モルより小さいことが好ましく、48400g/モルより小さいことがより好ましく、40700g/モルより小さいことが更に好ましく、38200g/モルより小さいことが最も好ましい。
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量、MVR値および重量平均分子量は末端停止剤や分岐剤の量を調整することによって行うことができる。
【0033】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、メタクリル樹脂との相溶性を高め、メタクリル樹脂組成物の透明性を高めるという観点から、15000より大きい粘度平均分子量のポリカーボネート樹脂と、12000より小さい粘度平均分子量のポリカーボネート樹脂を混合することで、上述したように15000より大きく、32000より小さい粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂に調整することもできる。
【0034】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、好ましくは130℃以上、より好ましくは135℃以上、さらに好ましくは140℃以上である。該ポリカーネト樹脂のガラス転移温度の上限は、通常180℃である。
【0035】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されない。例えば、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融重合法(エステル交換法)などが挙げられる。また、本発明に好ましく用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂は、溶融重合法で製造したポリカーボネート樹脂原料に、末端ヒドロキシ基量を調整するための処理を施して成るものであってもよい。
【0036】
ポリカーボネート樹脂を製造するための原料である多官能ヒドロキシ化合物としては、置換基を有していてもよい4,4’−ジヒドロキシビフェニル類;置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン類;置換基を有していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン類;置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類;置換基を有していてもよいジヒドロキシ−p−ターフェニル類;置換基を有していてもよいジヒドロキシ−p−クォーターフェニル類;置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)ピラジン類;置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)メンタン類;置換基を有していてもよいビス〔2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕ベンゼン類;置換基を有していてもよいジヒドロキシナフタレン類;置換基を有していてもよいジヒドロキシベンゼン類;置換基を有していてもよいポリシロキサン類;置換基を有していてもよいジヒドロパーフルオロアルカン類などが挙げられる。
【0037】
これらの多官能ヒドロキシ化合物の中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、α,ω−ビス〔3−(2−ヒドロキシフェニル)プロピル〕ポリジメチルシロキサン、レゾルシン、2,7−ジヒドロキシナフタレンが好ましく、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0038】
炭酸エステル形成性化合物としては、ホスゲンなどの各種ジハロゲン化カルボニルや、クロロホーメートなどのハロホーメート、ビスアリールカーボネートなどの炭酸エステル化合物が挙げられる。この炭酸エステル形成性化合物の量は、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調整すればよい。
【0039】
反応は、通常、酸結合剤の存在下に溶媒中で行われる。酸結合剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩や、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、ジメチルアニリンなどの三級アミン、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどの四級アンモニウム塩、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイドなどの四級ホスホニウム塩などが挙げられる。さらに、所望により、この反応系に亜硫酸ナトリウムやハイドロサルファイドなどの酸化防止剤を少量添加してもよい。酸結合剤の量は、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調整すればよい。具体的には、原料の多官能ヒドロキシ化合物の水酸基1モル当たり、1当量もしくはそれより過剰な量、好ましくは1〜5当量の酸結合剤を使用すればよい。
【0040】
また、反応には、公知の末端停止剤や分岐剤を用いることができる。末端停止剤としては、p−tert−ブチル−フェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−パーフルオロノニルフェノール、p−(パーフルオロノニルフェニル)フェノール、p−(パーフルオロヘキシルフェニル)フェノール、p−tert−パーフルオロブチルフェノール、1−(P−ヒドロキシベンジル)パーフルオロデカン、p−〔2−(1H,1H−パーフルオロトリドデシルオキシ)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル〕フェノール、3,5−ビス(パーフルオロヘキシルオキシカルボニル)フェノール、p−ヒドロキシ安息香酸パーフルオロドデシル、p−(1H,1H−パーフルオロオクチルオキシ)フェノール、2H,2H,9H−パーフルオロノナン酸、1,1,1,3,3,3−テトラフロロ−2−プロパノールなどが挙げられる。
【0041】
分岐剤としては、フロログリシン、ピロガロール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−3−ヘプテン、2,4−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス〔4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパン、2,4−ビス〔2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス〔4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ〕メタン、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌル酸、3,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−オキソ−2,3−ジヒドロインドール、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロモイサチンなどが挙げられる。
【0042】
ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート単位以外に、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルもしくはポリシロキサン構造を有する単位等を含有しているものであってもよい。
【0043】
本発明に用いられるメタクリル樹脂組成物に含有されるポリカーボネート樹脂の量は、前記メタクリル樹脂100質量部に対して1質量部以上、4質量部以下、より好ましくは2質量部以上、4質量部以下、さらに好ましくは、2質量部以上、3質量部以下である。
【0044】
本発明に用いられるメタクリル樹脂組成物に含有されるメタクリル樹脂とポリカーボネート樹脂との合計量は、メタクリル樹脂組成物に対して80〜100質量%、好ましくは90〜100質量%、より好ましくは94〜100質量%、さらに好ましくは96〜100質量%である。
【0045】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてフィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。本発明のメタクリル樹脂組成物に含有し得るフィラーの量は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。
【0046】
本発明のメタクリル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の重合体を含んでいてもよい。他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDMなどのオレフィン系ゴムなどが挙げられる。本発明のメタクリル樹脂組成物に含有され得る他の重合体の量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0047】
本発明のメタクリル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などの添加剤を含有していてもよい。
【0048】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。これらの中、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤/ヒンダードフェノール系酸化防止剤を質量比で0.2/1〜2/1で使用するのが好ましく、0.5/1〜1/1で使用するのがより好ましい。
【0049】
リン系酸化防止剤としては、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA社製;商品名:アデカスタブPEP−36)などが好ましい。
【0050】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)などが好ましい。
【0051】
熱劣化防止剤としては、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。
該熱劣化防止剤としては、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4−ジtert−アミル−6−(3’,5’−ジ−tert−アミル−2’−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などが好ましい。
【0052】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われるものである。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、または波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが100dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0053】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いので、本発明のフィルムを光学用途に適用する場合に用いる紫外線吸収剤として好ましい。ベンゾトリアゾール類としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール](ADEKA社製;LA−31)などが好ましい。
【0054】
また、波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤は、得られるフィルムの変色を抑制できる。このような紫外線吸収剤としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)などが挙げられる。
これら紫外線吸収剤の中、紫外線被照による樹脂劣化が抑えられるという観点からベンゾトリアゾール類が好ましく用いられる。
【0055】
また、波長380nm付近の波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(ADEKA社製;LA−F70)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;TINUVIN477やTINUVIN460)などが挙げられる。
【0056】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値εmaxは、次のようにして測定する。シクロヘキサン1Lに紫外線吸収剤10.00mgを添加し、目視による観察で未溶解物がないように溶解させる。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U−3410型分光光度計を用いて、波長380〜450nm、光路長1cmでの吸光度を測定する。紫外線吸収剤の分子量(MUV)と、測定された吸光度の最大値(Amax)とから次式により計算し、モル吸光係数の最大値εmaxを算出する。
【0057】
εmax=[Amax/(10×10-3)]×MUV
【0058】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類が挙げられる。
【0059】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などが挙げられる。
【0060】
離型剤としては、成形品の金型からの離型を容易にする機能を有する化合物である。離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、高級アルコール類/グリセリン脂肪酸モノエステルの質量比が、2.5/1〜3.5/1の範囲で使用するのが好ましく、2.8/1〜3.2/1の範囲で使用するのがより好ましい。
【0061】
高分子加工助剤としては、通常、乳化重合法によって製造することができる、0.05〜0.5μmの粒子径を有する重合体粒子が挙げられる。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dL/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。高分子加工助剤としては、極限粘度が3〜6dL/gであることが好ましい。具体的には、三菱レイヨン社製メタブレン−Pシリーズやロームアンドハース社製パラロイドシリーズが挙げられる。
【0062】
耐衝撃性改質剤としては、アクリル系ゴムもしくはジエン系ゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤;ゴム粒子を複数包含した改質剤などが挙げられる。
有機色素としては、樹脂に対しては有害とされている紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。
蛍光体として、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
【0063】
これらの添加剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの添加剤は、メタクリル樹脂やポリカーボネート樹脂を製造する際の重合反応液に添加してもよいし、製造されたメタクリル樹脂やポリカーボネート樹脂に添加してもよいし、メタクリル樹脂組成物を調製する際に添加してもよい。本発明のメタクリル樹脂組成物に含有される添加剤の合計量は、フィルムの外観不良を抑制する観点から、メタクリル樹脂とポリカーボネート樹脂の合計量に対して好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0064】
本発明のメタクリル樹脂組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、ポリカーボネート樹脂の存在下にメタクリル酸メチルを含む単量体混合物を重合してメタクリル樹脂を生成させる方法や、メタクリル樹脂およびポリカーボネート樹脂を溶融混練する方法などが挙げられる。これらのうち溶融混練法は工程が単純であるので、好ましい。溶融混練の際に、必要に応じて他の重合体や添加剤を混合してもよいし、メタクリル樹脂を他の重合体および添加剤と混合した後にポリカーボネート樹脂と混合してもよいし、ポリカーボネート樹脂を他の重合体および添加剤と混合した後にメタクリル樹脂と混合してもよい。混練は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合装置または混練装置を使用して行なうことができる。これらのうち、二軸押出機が好ましい。混合・混練時の温度は、使用するメタクリル樹脂およびポリカーボネート樹脂の溶融温度などに応じて適宜調節することができるが、好ましくは110℃〜300℃である。上記のような方法で調製されたメタクリル樹脂組成物は、ペレット、顆粒、粉末などの任意の形態にして、フィルムを含む様々な成形体に成形することができる。
【0065】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、ガラス転移温度が、好ましくは120℃以上、より好ましくは123℃以上、さらに好ましくは124℃以上である。メタクリル樹脂組成物のガラス転移温度の上限は特に制限はないが、通常135℃である。
【0066】
本発明に用いられるメタクリル樹脂組成物をGPCにて測定して決定されるMwは、好ましくは70000〜200000、より好ましくは72000〜160000、さらに好ましくは75000〜120000である。本発明に用いられるメタクリル樹脂組成物をGPCにて測定して決定される分子量分布は、好ましくは1.2〜2.5、より好ましくは1.3〜2.0、さらに好ましくは1.3〜1.5である。Mwや分子量分布がこの範囲にあると、メタクリル樹脂組成物の成形加工性が良好となり、耐衝撃性や靭性に優れた成形体を得易くなる。
【0067】
本発明に用いられるメタクリル樹脂組成物を230℃および3.8kg荷重の条件で測定して決定されるメルトフローレートは、好ましくは0.1〜6g/10分、さらに好ましくは0.5〜5g/10分、最も好ましくは1.0〜3g/10分である。
【0068】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、3.2mm厚さのヘイズが、3.0%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましい。
【0069】
本発明のフィルムは、その製法によって特に限定されない。本発明のフィルムは、例えば、前記メタクリル樹脂組成物を、溶液キャスト法、溶融流延法、押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法などの公知の方法にて製膜することによって得ることができる。これらのうち、押出成形法が好ましい。押出成形法によれば、透明性に優れ、改善された靭性を持ち、取扱い性に優れ、靭性と表面硬度および剛性とのバランスに優れたフィルムを得ることができる。押出機から吐出されるメタクリル樹脂組成物の温度は好ましくは160〜270℃、より好ましくは220〜260℃に設定する。
【0070】
押出成形法のうち、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズのフィルムが得られるという観点から、前記メタクリル樹脂組成物を溶融状態でTダイから押出し、次いでそれを二つ以上の鏡面ロールまたは鏡面ベルトで挟持して成形することを含む方法が好ましい。鏡面ロールまたは鏡面ベルトは、金属製であることが好ましい。一対の鏡面ロールまたは鏡面ベルトの間の線圧は、好ましくは10N/mm以上、より好ましくは30N/mm以上である。
【0071】
また、鏡面ロールまたは鏡面ベルトの表面温度は共に130℃以下であることが好ましい。また、一対の鏡面ロール若しくは鏡面ベルトは、少なくとも一方の表面温度が60℃以上であることが好ましい。このような表面温度に設定すると、押出機から吐出される前記メタクリル樹脂組成物を自然放冷よりも速い速度で冷却することができ、表面平滑性に優れ且つヘイズの低い本発明のフィルムを製造し易い。
【0072】
本発明のフィルムは延伸処理を施したものであってもよい。延伸処理によって、機械的強度が高まり、ひび割れし難いフィルムを得ることができる。延伸方法は特に限定されず、一軸延伸、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法などが挙げられる。延伸時の温度は、均一に延伸でき、高い強度のフィルムが得られるという観点から、100〜200℃が好ましく、120℃〜160℃がより好ましい。また特に強度を大きくしたい場合は、低い温度である方が好ましく、例えば110〜150℃が好ましく、125〜140℃がより好ましい。延伸は、通常長さ基準で100〜5000%/分で行われる。延伸の後、熱固定を施したり、フィルムを弛緩したりすることにより、熱収縮の少ないフィルムとすることもできる。延伸倍率に制限はないが、通常面積比で1.5〜8倍程度とする。
【0073】
本発明のフィルムは、その中に含まれるメタクリル樹脂の量が、透明性や厚さ方向の位相差が小さいという観点から、好ましくは78〜99質量%、より好ましくは85〜97質量%である。
また、本発明のフィルムは、その中に含まれるポリカーボネート樹脂の量が、厚さ方向の位相差が小さいという観点から、好ましくは1〜3.8質量%、より好ましくは2〜2.9質量%である。
【0074】
本発明のフィルムの厚さは、特に制限されないが、光学フィルムとして用いる場合、その厚さは、好ましくは1〜300μm、より好ましくは10〜50μm、さらに好ましくは15〜40μmである。
【0075】
本発明のフィルムは、厚さ50μmにおけるヘイズが、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下である。これにより、表面光沢や透明性に優れる。また、液晶保護フィルムや導光フィルムなどの光学用途においては、光源の利用効率が高まり好ましい。さらに、表面賦形を行う際の賦形精度に優れるため好ましい。
【0076】
本発明のフィルムは、波長590nmの光に対する面内方向位相差Reが、フィルムの厚さ40μmの時に、好ましくは−5nm以上、5nm以下、より好ましくは−4nm以上、4nm以下、さらに好ましくは−3nm以上、3nm以下、特に好ましくは−2nm以上、2nm以下、最も好ましくは−1nm以上、1nm以下である。
本発明のフィルムは、波長590nmの光に対する厚さ方向位相差Rthが、フィルムの厚さ40μmの時に、好ましくは−5nm以上、5nm以下、より好ましくは−4nm以上、4nm以下、さらに好ましくは−3nm以上、3nm以下、特に好ましくは−2nm以上、2nm以下、最も好ましくは−1nm以上、1nm以下である。
面内位相差および厚さ方向位相差がこのような範囲であれば、位相差に起因する画像表示装置の表示特性への影響が顕著に抑制され得る。より具体的には、干渉ムラや3Dディスプレイ用液晶表示装置に用いる場合の3D像の歪みが顕著に抑制され得る。
なお、面内方向位相差Reおよび厚さ方向位相差Rthは、それぞれ、以下の式で定義される値である。
Re=(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
ここで、nxはフィルムの遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルムの進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率であり、d(nm)はフィルムの厚さである。遅相軸は、フィルム面内の屈折率が最大になる方向をいい、進相軸は、面内で遅相軸に垂直な方向をいう。
【0077】
本発明のフィルムは、透明性が高く、耐熱性が高く、位相差が小さく、薄いため、偏光子保護フィルムや後述する各種フィルム、成形体等に好適である。
【0078】
本発明の偏光板は、本発明の偏光子保護フィルムを少なくとも1枚含むものである。好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子と本発明の偏光子保護フィルムが接着剤層を介して積層されてなるものである。
【0079】
本発明の好ましい一実施形態に係る偏光板は、図1に示すように、偏光子11の一方の面に、接着剤層12、易接着層13、および本発明の偏光子保護フィルム14がこの順で積層され、偏光子11のもう一方の面に、接着剤層15、および光学フィルム16がこの順で積層されてなるものである。
【0080】
上記ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性物質(代表的には、ヨウ素、二色性染料)で染色して一軸延伸することによって得られる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を任意の適切な方法(例えば、樹脂を水または有機溶媒に溶解した溶液を流延成膜する流延法、キャスト法、押出法)にて製膜することによって得ることができる。該ポリビニルアルコール系樹脂は、重合度が、好ましくは100〜5000、さらに好ましくは1400〜4000である。また、偏光子に用いられるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚さは、偏光板が用いられるLCDの目的や用途に応じて適宜設定され得るが、代表的には5〜80μmである。
【0081】
偏光子の製造方法としては、目的、使用材料および条件等に応じて任意の適切な方法が採用され得る。代表的には、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、膨潤、染色、架橋、延伸、水洗、および乾燥工程からなる一連の製造工程に供する方法が採用される。乾燥工程を除く各処理工程においては、それぞれの工程に用いられる溶液を含む浴中にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することにより処理を行う。膨潤、染色、架橋、延伸、水洗、および乾燥の各処理の順番、回数および実施の有無は、目的、使用材料および条件等に応じて適宜設定され得る。例えば、いくつかの処理を1つの工程で同時に行ってもよく、特定の処理を省略してもよい。より詳細には、例えば延伸処理は、染色処理の後に行ってもよく、染色処理の前に行ってもよく、膨潤処理、染色処理および架橋処理と同時に行ってもよい。また例えば、架橋処理を延伸処理の前後に行うことが、好適に採用され得る。また例えば、水洗処理は、すべての処理の後に行ってもよく、特定の処理の後のみに行ってもよい。
【0082】
膨潤工程は、代表的には、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水で満たした処理浴(膨潤浴)中に浸漬することにより行われる。この処理により、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄するとともに、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させることで染色ムラ等の不均一性を防止し得る。膨潤浴には、グリセリンやヨウ化カリウム等が適宜添加され得る。膨潤浴の温度は、代表的には20〜60℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、代表的には0.1〜10分程度である。
【0083】
染色工程は、代表的には、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、ヨウ素等の二色性物質を含む処理浴(染色浴)中に浸漬することにより行われる。染色浴の溶液に用いられる溶媒は、水が一般的に使用されるが、水と相溶性を有する有機溶媒が適量添加されていてもよい。二色性物質は、溶媒100質量部に対して、代表的には0.1〜1.0重量部の割合で用いられる。二色性物質としてヨウ素を用いる場合には、染色浴の溶液は、ヨウ化物等の助剤をさらに含有することが好ましい。染色効率が改善されるからである。助剤は、溶媒100質量部に対して、好ましくは0.02〜20質量部、さらに好ましくは2〜10質量部の割合で用いられる。ヨウ化物の具体例としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられる。染色浴の温度は、代表的には20〜70℃ 程度であり、染色浴への浸漬時間は、代表的には1〜
20分程度である。
【0084】
架橋工程は、代表的には、上記染色処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、架橋剤を含む処理浴(架橋浴)中に浸漬することにより行われる。架橋剤としては、任意の適切な架橋剤が採用され得る。架橋剤の具体例としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられる。これらは、単独で、または組み合わせて使用され得る。架橋浴の溶液に用いられる溶媒は、水が一般的に使用されるが、水と相溶性を有する有機溶媒が適量添加されていてもよい。架橋剤は、溶媒100質量部に対して、代表的には1〜10質量部の割合で用いられる。架橋剤の濃度が1重量部未満の場合には、十分な光学特性を得ることができない場合が多い。架橋剤の濃度が10質量部を超える場合には、延伸時にフィルムに発生する延伸力が大きくなり、得られる偏光板が収縮してしまう場合がある。架橋浴の溶液は、ヨウ化物等の助剤をさらに含有することが好ましい。面内に均一な特性が得られやすいからである。助剤の濃度は、好ましくは0.05〜15重量% 、さらに好ましくは0.5〜8.0重量%である。ヨウ化物の具体例は、染色工程の場合と同様である。架橋浴の温度は、代表的には20〜70℃程度、好ましくは40〜60℃ である。架橋浴への浸漬時間は、代表的には1秒〜15分程度、好ましくは5秒〜10分である。
【0085】
延伸工程は、上記のように、いずれの段階で行ってもよい。具体的には、染色処理の後に行ってもよく、染色処理の前に行ってもよく、膨潤処理、染色処理および架橋処理と同時に行ってもよく、架橋処理の後に行ってもよい。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの累積延伸倍率は、5倍以上にすることが必要であり、好ましくは5〜7倍、さらに好ましくは5〜6.5倍である。累積延伸倍率が5倍未満である場合には、高偏光度の偏光板を得ることが困難となる場合がある。累積延伸倍率が7倍を超える場合には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(偏光子)が破断しやすくなる場合がある。延伸の具体的な方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、湿式延伸法を採用した場合には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、処理浴(延伸浴)中で所定の倍率に延伸する。延伸浴の溶液としては、水または有機溶媒(例えば、エタノール)などの溶媒中に、各種金属塩、ヨウ素、ホウ素または亜鉛の化合物を添加した溶液が好適に用いられる。
【0086】
水洗工程は、代表的には、上記各種処理を施されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、処理浴(水洗浴)中に浸漬することにより行われる。水洗工程により、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの不要残存物を洗い流すことができる。水洗浴は、純水であってもよく、ヨウ化物(例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム)の水溶液であってもよい。ヨウ化物水溶液の濃度は、好ましくは0.1〜10質量%である。ヨウ化物水溶液には、硫酸亜鉛、塩化亜鉛などの助剤を添加してもよい。水洗浴の温度は、好ましくは10〜60℃、さらに好ましくは30〜40℃ である。浸漬時間は、代表的には1秒〜1分である。水洗工程は1回だけ行ってもよく、必要に応じて複数回行ってもよい。複数回実施する場合、各処理に用いられる水洗浴に含まれる添加剤の種類や濃度は適宜調整され得る。例えば、水洗工程は、ポリマーフィルムをヨウ化カリウム水溶液(0.1〜10質量%、10〜60℃)に1秒〜1分浸漬する工程と、純水ですすぐ工程とを含む。
【0087】
乾燥工程としては、任意の適切な乾燥方法(例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥)が採用され得る。例えば、加熱乾燥の場合には、乾燥温度は代表的には20〜80℃であり、乾燥時間は代表的には1〜10分である。以上のようにして、偏光子が得られる。
【0088】
本発明の偏光板に設けることができる接着剤層は光学的に透明であれば特に制限されない。接着剤層を構成する接着剤として、例えば、水系接着剤、溶剤系接着剤、ホットメルト系接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤などを用いることができる。これらのうち、水系接着剤および活性エネルギー線硬化型接着剤が好適である。
【0089】
水系接着剤としては、特に限定されないが、例えば、ビニルポリマー系、ゼラチン系、ビニル系ラテックス系、ポリウレタン系、イソシアネート系、ポリエステル系、エポキシ系等を例示できる。このような水系接着剤には、必要に応じて、架橋剤や他の添加剤、酸等の触媒も配合することができる。前記水系接着剤としては、ビニルポリマーを含有する接着剤などを用いることが好ましく、ビニルポリマーとしては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。またポリビニルアルコール系樹脂には、ホウ酸やホウ砂、グルタルアルデヒドやメラミン、シュウ酸などの水溶性架橋剤を含有することができる。特に偏光子としてポリビニルアルコール系のポリマーフィルムを用いる場合には、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する接着剤を用いることが、接着性の点から好ましい。さらには、アセトアセチル基を有するポリビニルアルコール系樹脂を含む接着剤が耐久性を向上させる点からより好ましい。前記水系接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60重量%の固形分を含有してなる。
【0090】
活性エネルギー線硬化型接着剤としては、単官能および二官能以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物やビニル基を有する化合物を硬化性成分として用いる他、エポキシ化合物やオキセタン化合物と光酸発生剤とを主体とする光カチオン型硬化成分を使用することもできる。活性エネルギー線としては、電子線や紫外線を用いることができる。
【0091】
また前記接着剤には、金属化合物フィラーを含有させることができる。金属化合物フィラーにより、接着剤層の流動性を制御することができ、膜厚を安定化して、良好な外観を有し、面内が均一で接着性のバラツキのない偏光板が得られる。
【0092】
接着剤層の形成方法は特に制限されない。例えば、上記接着剤を対象物に塗布し、次いで加熱または乾燥することによって形成できる。接着剤の塗布は本発明の偏光子保護フィルムまたは光学フィルムに対して行ってもよいし、偏光子に対して行ってもよい。接着剤層を形成した後、偏光子保護フィルム若しくは光学フィルムと偏光子とを押し合わせることによって両者を積層することができる。積層においてはロールプレス機や平板プレス機などを用いることができる。加熱乾燥温度、乾燥時間は接着剤の種類に応じて適宜決定される。
接着剤層の厚さは、乾燥状態において、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.03〜5μmである。
【0093】
本発明の偏光板に設けることができる易接着層は、偏光子保護フィルムと偏光子とが接する面の接着性を向上させるものである。易接着層は、易接着処理などによって設けることができる。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、低圧UV処理等の表面処理が挙げられる。また、易接着層は、アンカー層を形成する方法、または前記の表面処理とアンカー層を形成する方法との併用によって設けることができる。これらの中でも、コロナ処理、アンカー層を形成する方法、およびこれらを併用する方法が好ましい。
【0094】
上記アンカー層としては、例えば、反応性官能基を有するシリコーン層が挙げられる。反応性官能基を有するシリコーン層の材料は、特に制限されないが、例えば、イソシアネート基含有のアルコキシシラノール類、アミノ基含有アルコキシシラノール類、メルカプト基含有アルコキシシラノール類、カルボキシ含有アルコキシシラノール類、エポキシ基含有アルコキシシラノール類、ビニル型不飽和基含有アルコキシシラノール類、ハロゲン基含有アルコキシシラノール類、イソシアネート基含有アルコキシシラノール類が挙げられる。これらのうち、アミノ系シラノールが好ましい。シラノールを効率よく反応させるためのチタン系触媒や錫系触媒を上記シラノールに添加することにより、接着力を強固にすることができる。また上記反応性官能基を有するシリコーンに他の添加剤を加えてもよい。他の添加剤としては、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン-フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂などの粘着付与剤;紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤等を挙げることができる。また、アンカー層として、セルロースアセテートブチレート樹脂をケン化させたものからなる層も挙げられる。
【0095】
上記アンカー層は公知の技術により塗工、乾燥して形成される。アンカー層の厚さは、乾燥状態において、好ましくは1〜100nm、さらに好ましくは10〜50nmである。塗工の際、アンカー層形成用薬液を溶剤で希釈してもよい。希釈溶剤は特に制限されないが、アルコール類が挙げられる。希釈濃度は特に制限されないが、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。
【0096】
光学フィルム16は本発明の偏光子保護フィルムであってもよいし、別の任意の適切な光学フィルムであってもよい。用いられる光学フィルムは、特に制限されず、例えば、セルロース樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、メタクリル樹脂等からなるフィルムが挙げられる。
【0097】
セルロース樹脂は、セルロースと脂肪酸のエステルである。このようセルロースエステル系樹脂の具体例としては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネート等が挙げられる。これらのなかでも、セルローストリアセテートが特に好ましい。セルローストリアセテートは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。セルローストリアセテートの市販品の例としては、富士フイルム社製の商品名「UV−50」、「UV−80」、「SH−80」、「TD−80U」、「TD−TAC」、「UZ−TAC」や、コニカミノルタ社製の「KCシリーズ」等が挙げられる。
【0098】
環状ポリオレフィン樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、例えば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報等に記載されている樹脂が挙げられる。具体例としては、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体)、および、これらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、ならびに、それらの水素化物などが挙げられる。環状オレフィンの具体例としては、ノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0099】
環状ポリオレフィン樹脂としては、種々の製品が市販されている。具体例としては、日本ゼオン社製の商品名「ゼオネックス」、「ゼオノア」、JSR社製の商品名「アートン」、ポリプラスチックス社製の商品名「トーパス」、三井化学社製の商品名「APEL」が挙げられる。
【0100】
光学フィルム16等の光学フィルムに用いられるメタクリル樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲内で、任意の適切なメタクリル樹脂を採用し得る。例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリメタクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、脂環族炭化水素基を有する重合体( 例えば、メタクリル酸メチル− メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)が挙げられる。
【0101】
光学フィルム16等の光学フィルムに用いられるメタクリル樹脂の具体例として、例えば、三菱レイヨン社製のアクリペットVHやアクリペットVRL20A 、特開2013−033237やWO2013/005634号公報に記載のメタクリル酸メチルとマレイミド系単量体を共重合したアクリル樹脂、WO2005/108438号公報に記載の分子内に環構造を有するアクリル樹脂、特開2009−197151号公報に記載の分子内に環構造を有するメタクリル樹脂、分子内架橋や分子内環化反応により得られる高ガラス転移温度(Tg)メタクリル樹脂が挙げられる。
【0102】
光学フィルム16に用いるメタクリル樹脂として、ラクトン環構造を有するメタクリル樹脂を用いることもできる。高い耐熱性、高い透明性、二軸延伸することにより高い機械的強度を有するからである。
【0103】
上記ラクトン環構造を有するメタクリル樹脂としては、特開2000−230016号公報、特開2001−151814号公報、特開2002−120326号公報、特開2002−254544号公報、特開2005−146084号公報などに記載の、ラクトン環構造を有するメタクリル樹脂が挙げられる。
【0104】
本発明の偏光板は、画像表示装置に使用することができる。画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置、液晶表示装置が挙げられる。液晶表示装置は、液晶セルと、当該液晶セルの少なくとも片側に配置された上記偏光板とを有する。
【0105】
本発明のメタクリル樹脂組成物によれば、メタクリル樹脂とポリカーボネート樹脂とが均一に相溶するため透明性が高く、また、延伸させても厚さ方向の位相差が小さい。また、これにより得られるフィルムは、延伸性が高い。故に、好適な実施形態においては、薄くて、面内均一性に優れ、表面平滑性の高いフィルムを得ることができる、また、低い温度での延伸が可能となり、強度の大きいフィルムが得られる。さらに、メタクリル樹脂のシンジオタクシティティ(rr)を特定の範囲とすれば、前述した効果に加えて、耐熱性を高くし、熱収縮率の小さいフィルムを提供することもできる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、物性値等の測定は以下の方法によって実施した。
【0107】
(重合転化率)
島津製作所社製ガスクロマトグラフ GC−14Aに、カラムとしてGL Sciences Inc.社製 Inert CAP 1(df=0.4μm、0.25mmI.D.×60m)を繋ぎ、インジェクション温度を180℃に、検出器温度を180℃に、カラム温度を60℃(5分間保持)から昇温速度10℃/分で200℃まで昇温して、10分間保持する条件に設定して、測定を行い、この結果に基づいて重合転化率を算出した。
【0108】
(重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn))
各製造例、実施例および比較例で得られたメタクリル樹脂およびメタクリル樹脂組成物のMwおよび分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて下記の条件でクロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値を算出した。ベースラインはGPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。
GPC装置:東ソー社製、HLC−8320
検出器:示差屈折率検出器
カラム:東ソー社製のTSKgel SuperMultipore HZM−Mの2本とSuperHZ4000を直列に繋いだものを用いた。
溶離剤: テトラヒドロフラン
溶離剤流量: 0.35mL/分
カラム温度: 40℃
検量線:標準ポリスチレン10点のデータを用いて作成
【0109】
(粘度平均分子量(Mv))
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、ウベローデ粘度計を用いてポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン100mLに溶解した溶液の比粘度ηspを20℃で測定し、下記のSchnellの式を満足する値として、20℃の塩化メチレン溶液の極限粘度[η]から、算出した。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2
(但し[η]は極限粘度、上記条件ではc=0.5)
[η]=1.23×10- 4 Mv0 . 8 3
【0110】
(三連子表示のシンジオタクティシティ(rr))
メタクリル樹脂の1H−NMRスペクトルを、核磁気共鳴装置(Bruker社製 ULTRA SHIELD 400 PLUS)を用いて、溶媒として重水素化クロロホルムを用い、室温、積算回数64回の条件にて、測定した。そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の0.6〜0.95ppmの領域の面積(X)と、0.6〜1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、次いで、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)を式:(X/Y)×100にて算出した。
【0111】
(ガラス転移温度Tg)
メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびメタクリル樹脂組成物を、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(島津製作所製、DSC−50(品番))を用いて、230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度とした。
【0112】
(メルトマスフローレート(MFR))
各実施例および比較例でフィルムの製造に用いたメタクリル樹脂組成物の原料であるメタクリル樹脂を、JIS K7210に準拠して、230℃、3.8kg荷重、10分間の条件で測定した。
(メルトボリュームフローレート(MVR))
各実施例および比較例でフィルムの製造に用いたメタクリル樹脂組成物の原料であるポリカーボネート樹脂を、JIS K7210に準拠して、300℃、1.2kg荷重、10分間の条件で測定した。
【0113】
(膜厚安定性)
各実施例および比較例で得られた未延伸フィルムの押出方向と直交する幅方向の中央10mmの平均厚さを中央部の厚さ(TC)とし、端部から15mm離れた位置から25mm離れた位置までの10mm分の平均厚さを一方の端部の厚さとし、両端の端部の厚さの平均値を端部の厚さ(TS)とした。
そして端部の厚さ(TS)と中央部の厚さ(TC)との厚さの差を求め、以下の基準で膜厚安定性を評価した。厚さの測定はマイクロメータを用いた。膜厚を測定し、以下の基準で評価した。
A:端部の厚さ(TS)と中央部の厚さ(TC)との厚さの差が3μm未満である。
B:端部の厚さ(TS)と中央部の厚さ(TC)との厚さの差が3μm以上である。
【0114】
(引張強度)
各実施例および比較例で得られた未延伸フィルムを、JIS K7127に準拠し、試験片タイプ1Bの形状に切り出し、引張速度20mm/minでフィルムの押出方向の引張降伏強度を測定し、以下の基準で評価した。
A:引張降伏強度が70MPa以上である。
B:引張降伏強度が70MPa未満である。
【0115】
(表面平滑性)
各実施例および比較例で得られた二軸延伸フィルムの表面を目視により観察し、以下の基準で表面平滑性を評価した。
A:表面が平滑である。
B:表面に凹凸がある。
【0116】
(加熱収縮率)
各実施例および比較例で得られた二軸延伸フィルムから100mm×30mmの試験片を切り出し、その表面に70mmの長さの直線を記入し、110℃の温度に保たれた強制温風循環式恒温オーブン内で30分間加熱後、記入した直線の長さ(L(mm))をスケールで読取り、下記式により加熱収縮率を求めた。
加熱収縮率(%)=(70−L)/70×100
【0117】
(全光線透過率)
各実施例および比較例で得られた二軸延伸フィルムから50mm×50mmの試験片を切り出し、JIS K7361−1に準じて、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いてその全光線透過率を測定した。またメタクリル樹脂組成物の評価は、1.0mm厚の成形体を熱プレスにて成形し、全光線透過率を測定した。
【0118】
(ヘイズ)
各実施例および比較例で得られた二軸延伸フィルムから50mm×50mmの試験片を切り出し、JISK7136に準拠して、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いてそのヘイズを測定した。またメタクリル樹脂組成物の評価は、1.0mm厚の成形体を熱プレスにて成形し、ヘイズを測定した。
【0119】
(厚さ方向位相差Rthおよび面内方向位相差Re)
各実施例および比較例で得られた二軸延伸フィルムから40mm×40mmの試験片を切り出した。この試験片を、自動複屈折計(王子計測社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、40°傾斜方向の位相差値から3次元屈折率nx、ny、nzを求め、前述した式より厚さ方向位相差Rthおよび面内位相差Reを計算した。試験片の厚さd(nm)は、デジマティックインジケータ(ミツトヨ社製)を用いて測定し、屈折率nは、デジタル精密屈折計(カルニュー光学工業社製 KPR−20)で測定した。
【0120】
(延伸性)
各実施例および比較例で得られた未延伸フィルムを二軸延伸する際、以下の基準で延伸性を評価した。
A:割れやクラックのないフィルムを10サンプル中、5サンプル以上取得できたもの。
B:割れやクラックのないフィルムを10サンプル中、4サンプル以下しか取得できなかったもの。
【0121】
製造例1
撹拌翼と三方コックが取り付けられた5Lのガラス製反応容器内を窒素で置換した。これに、室温下にて、トルエン1600g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン2.49g(10.8mmol)、濃度0.45Mのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムのトルエン溶液53.5g(30.9mmol)、および濃度1.3Mのsec−ブチルリチウムの溶液(溶媒:シクロヘキサン95質量%、n−ヘキサン5質量%)6.17g(10.3mmol)を仕込んだ。撹拌しながら、これに、蒸留精製したメタクリル酸メチル550gを−20℃にて30分間かけて滴下した。滴下終了後、−20℃にて180分間撹拌した。溶液の色が黄色から無色に変わった。この時点におけるメタクリル酸メチルの重合転化率は100%であった。
得られた溶液にトルエン1500gを加えて希釈した。次いで、該希釈液をメタノール100kgに注ぎ入れ、沈澱物を得た。得られた沈殿物を80℃、140Paにて24時間乾燥して、Mwが96100で、分子量分布が1.07で、シンジオタクティシティ(rr)が83%で、ガラス転移温度が133℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が100質量%であるメタクリル樹脂〔PMMA1〕を得た。
【0122】
製造例2
撹拌翼と三方コックが取り付けられた5Lのガラス製反応容器内を窒素で置換した。これに、室温下にて、トルエン1600g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン2.49g(10.8mmol)、濃度0.45Mのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムのトルエン溶液53.5g(30.9mmol)、および濃度1.3Mのsec−ブチルリチウムの溶液(溶媒:シクロヘキサン95%、n−ヘキサン5%)6.17g(10.3mmol)を仕込んだ。撹拌しながら、これに、蒸留精製したメタクリル酸メチル550gを20℃にて30分かけて滴下した。滴下終了後、20℃で90分間撹拌した。溶液の色が黄色から無色に変わった。この時点におけるメタクリル酸メチルの重合転化率は100%であった。
得られた溶液にトルエン1500gを加えて希釈した。次いで、希釈液をメタノール100kgに注ぎ入れ、沈澱物を得た。得られた沈殿物を80℃、140Paにて24時間乾燥して、Mwが81400で、分子量分布が1.08で、シンジオタクティシティ(rr)が73%で、ガラス転移温度が131℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が100質量%であるメタクリル樹脂〔PMMA2〕を得た。
【0123】
製造例3
攪拌機および採取管が取り付けられたオートクレーブ内を窒素で置換した。これに、精製されたメタクリル酸メチル100質量部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)0.0052質量部、およびn−オクチルメルカプタン0.28質量部を入れ、撹拌して、原料液を得た。かかる原料液中に窒素を送り込み、原料液中の溶存酸素を除去した。
オートクレーブと配管で接続された槽型反応器に容量の2/3まで原料液を入れた。温度を140℃に維持して先ずバッチ方式で重合反応を開始させた。重合転化率が55質量%になったところで、平均滞留時間150分となる流量で、原料液をオートクレーブから槽型反応器に供給し、且つ原料液の供給流量に相当する流量で、反応液を槽型反応器から抜き出して、温度140℃に維持し、連続流通方式の重合反応に切り替えた。切り替え後、定常状態における重合転化率は55質量%であった。
【0124】
定常状態になった槽型反応器から抜き出される反応液を、平均滞留時間2分間となる流量で内温230℃の多管式熱交換器に供給して加温した。次いで加温された反応液をフラッシュ蒸発器に導入し、未反応単量体を主成分とする揮発分を除去して、溶融樹脂を得た。揮発分が除去された溶融樹脂を内温260℃の二軸押出機に供給してストランド状に吐出し、ペレタイザーでカットして、ペレット状の、Mwが82000で、分子量分布が1.85で、シンジオタクティシティ(rr)が52%で、ガラス転移温度が120℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が100質量%であるメタクリル樹脂〔PMMA3〕を得た。
【0125】
製造例4
n−オクチルメルカプタンの量を0.225質量部に変更した以外は製造例3と同じ操作を行って、Mwが103600で、分子量分布が1.81で、シンジオタクティシティ(rr)が52%で、ガラス転移温度が120℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が100質量%であるメタクリル樹脂〔PMMA4〕を得た。
【0126】
製造例5
n−オクチルメルカプタンの量を0.30質量部に変更した以外は製造例3と同じ操作を行って、Mwが76400で、分子量分布が1.81で、シンジオタクティシティ(rr)が53%、ガラス転移温度が119℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が100質量%であるメタクリル樹脂〔PMMA5〕を得た。
【0127】
製造例6
メタクリル樹脂〔PMMA2〕57質量部およびメタクリル樹脂〔PMMA4〕43質量部を混ぜ合わせ、二軸押出機(テクノベル社製、商品名:KZW20TW-45MG-NH-600)で250℃にて混練押出してメタクリル樹脂〔PMMA6〕を製造した。
【0128】
スミペックスMHF(住友化学社製)をメタクリル樹脂〔PMMA7〕とした。
【0129】
上記〔PMMA1〕〜〔PMMA7〕の物性を表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
実施例で使用したポリカーボネート樹脂を以下に記載し、物性を表2に記載した。
PC1:帝人社製、パンライトAD−5503(品番)、MVR(300℃、1.2Kg)=54cm3/10分、Mv=15200
PC2:出光興産社製、タフロンLC1700(品番)、MVR(300℃、1.2Kg)=40cm3/10分、Mv=16200
PC3:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンHL4000(品番)、MVR(300℃、1.2Kg)=60cm3/10分、Mv=15100
PC4:住化スタイロンポリカーボネート社製、SD POLYCA SD−2201W(品番)、MVR(300℃、1.2Kg)=115cm3/10分、Mv=13000
PC5:住化スタイロンポリカーボネート社製、SD POLYCA TR−2001(品番)、MVR(300℃、1.2Kg)=200cm3/10分、Mv=11400
PC6:DOW社製、DVD1080(品番)、MVR(300℃、1.2Kg)=80cm3/10分、Mv=14100
PC7:住化スタイロンポリカーボネート社製、CALIBRE 301−22(品番)、MVR(300℃、1.2Kg)=22cm3/10分、Mv=18800
【0132】
【表2】
【0133】
紫外線吸収剤として、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(ADEKA社製;LA−F70)を使用した。
【0134】
<実施例1>
メタクリル樹脂〔PMMA1〕100質量部およびポリカーボネート樹脂〔PC1〕2.6質量部を混ぜ合わせ、二軸押出機(テクノベル社製、商品名:KZW20TW-45MG-NH-600)で250℃にて混練押出してメタクリル樹脂組成物〔1〕を製造した。得られたメタクリル樹脂組成物〔1〕を熱プレス成形して50mm×50mm×1.0mmの板状成形体を成形し、全光線透過率、ヘイズおよびガラス転移温度を測定した。メタクリル樹脂組成物〔1〕の物性を表3に示す。
【0135】
メタクリル樹脂組成物〔1〕を、80℃で12時間乾燥させた。20mmφ単軸押出機(OCS社製)を用いて、樹脂温度260℃にて、メタクリル樹脂組成物〔1〕を150mm幅のTダイから押し出し、それを表面温度85℃のロールにて引き取り、幅110mm、厚さ160μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムについての膜厚安定性と強度の測定結果を表3に示す。
【0136】
前記の手法にて得られた未延伸フィルムを、100mm×100mmに切り出し、パンタグラフ式二軸延伸試験機(東洋精機社製)により、ガラス転移温度+15℃の延伸温度、一方向500%/分の延伸速度、一方向2倍の延伸倍率で逐次二軸延伸し(面積比で4倍)、2分かけて100℃以下に冷却して取り出し、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムについての表面平滑性、加熱収縮率、全光線透過率、ヘイズ、面内位相差Re、厚さ方向位相差Rthおよび未延伸フィルムから延伸フィルムを作製する際の延伸性の測定結果を表3に示す。
【0137】
<実施例2〜9、比較例1〜7>
表3および表4に示す配合とする以外は実施例1と同じ方法でメタクリル樹脂組成物〔2〕〜〔16〕を製造した。得られたメタクリル樹脂組成物〔2〕〜〔16〕を熱プレス成形して50mm×50mm×1.0mmの板状成形体を成形し、全光線透過率、ヘイズおよびガラス転移温度を測定した。メタクリル樹脂組成物〔2〕〜〔16〕の物性を表3および表4に示す。
【0138】
メタクリル樹脂組成物〔1〕の代わりにメタクリル樹脂組成物〔2〕〜〔16〕を用いた以外は実施例1と同じ方法で未延伸フィルム並びに二軸延伸フィルムを得た。評価結果を表3および表4に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
【表4】
【0141】
(偏光子)
平均重合度2400、ケン化度99.9モル%、厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の温水中に60秒間浸漬して膨潤させた。次いで、0.3重量%(重量比:ヨウ素/ヨウ化カリウム=0.5/8)の30℃のヨウ素溶液中で1分間染色しながら、3.5倍まで延伸した。その後、65℃の4重量%のホウ酸水溶液中に0.5分間浸漬しながら総合延伸倍率が6倍まで延伸した。延伸後、70℃のオーブンで3分間乾燥を行い、厚さ22μmの偏光子を得た。
【0142】
<偏光板Xの作製>
実施例7の二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムAとして用いた。
ポリエステルウレタン(第一工業製薬社製、商品名:スーパーフレックス210、固形分:33%)16.8g、架橋剤(オキサゾリン含有ポリマー、日本触媒社製、商品名:エポクロスWS−700、固形分:25%)4.2g、1重量%のアンモニア水2.0g、コロイダルシリカ(扶桑化学工業社製、クォートロンPL−3、固形分:20重量%)0.42gおよび純水76.6gを混合し、易接着剤組成物を得た。
得られた易接着剤組成物を、コロナ放電処理を施した実施例7の二軸延伸フィルムのコロナ放電処理面に、乾燥後の厚さが100nmとなるように、バーコーターで塗布した。その後、フィルムを熱風乾燥機(110℃)に投入し、易接着剤組成物を約5分乾燥させて、実施例7の二軸延伸フィルム上に易接着層を形成した。
【0143】
次に、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド(興人社製)を38.3質量部と、トリプロピレングリコールジアクリレート(商品名:アロニックスM−220,東亞合成社製)を19.1質量部と、アクリロイルモルホリン(興人社製)を38.3部と、光重合開始剤(商品名:KAYACURE DETX−S,ジエチルチオキサントン,日本化薬社製)1.4質量部とを混合して50℃で1時間撹拌して活性エネルギー線硬化型接着剤を得た。
【0144】
上記活性エネルギー線硬化型接着剤を、偏光子保護フィルムAの易接着層側に、乾燥後の厚さが500nmとなるように塗布した。その後、活性エネルギー線硬化型接着剤を介して、前述の偏光子の両側に1枚ずつの偏光子保護フィルムAを、小型ラミネーターを用いて積層した。貼り合わせた偏光子保護フィルムAの両側から、IRヒーターを用いて50℃に加温し、積算照射量1000mJ/cmの紫外線を両面に照射して、活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化させ、偏光子の両面に透明な偏光子保護フィルムAを有する偏光板Xを得た。作製した偏光板Xを80℃90%RHの恒温恒湿機に投入して100時間後の偏光子の劣化の程度を目視にて観察したところ劣化は認められなかった。
【0145】
<偏光板Yの作製>
厚さ40μmのトリアセチルセルロースフィルムを、10%の水酸化ナトリウム水溶液(60℃)に30秒間浸漬してケン化した後、60秒間水洗し、偏光子保護フィルムBを得た。
【0146】
アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%,アセトアセチル基変性度:5モル%)100質量部に対し、メチロールメラミン20質量部を30℃の温度条件下で純水に溶解し、固形分濃度0.5%の水溶液を得た。得られた水溶液を接着剤組成物として、30℃の温度条件下で用いた。
【0147】
偏光子保護フィルムBに、上記接着剤組成物をその調製から30分後に、乾燥後の厚さが50nmとなるように塗布した。その後、接着剤組成物を介して、前述した偏光子の両側それぞれに偏光子保護フィルムBを、小型ラミネーターを用いて積層し、熱風乾燥機(70℃)に投入して5分間乾燥させて、偏光板Yを得た。作製した偏光板Yを80℃90%RHの恒温恒湿機に投入して100時間後の偏光子の劣化の程度を目視にて観察したところ、全面に劣化が認められた。
【0148】
この出願は、2014年4月18日に出願された日本出願特願2014−85965を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、透明性が高く、耐熱性が高く、位相差が小さく、且つ薄く延伸できるため、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、液晶保護板、携帯型情報端末の表面材、携帯型情報端末の表示窓保護フィルム、導光フィルム、銀ナノワイヤーやカーボンナノチューブを表面に塗布した透明導電フィルム、各種ディスプレイの前面板用途などに好適である。特に本発明のフィルムは位相差が小さいため、偏光子保護フィルムに好適である。
本発明のフィルムは透明性、耐熱性が高いため、光学用途以外の用途として、IRカットフィルムや、防犯フィルム、飛散防止フィルム、加飾フィルム、金属加飾フィルム、太陽電池のバックシート、フレキシブル太陽電池用フロントシート、シュリンクフィルム、インモールドラベル用フィルムに使用することができる。
【符号の説明】
【0150】
11 偏光子
12 接着剤層
13 易接着層
14 偏光子保護フィルム
15 接着剤層
16 光学フィルム
図1