特許第6470952号(P6470952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6470952
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】木工用ホットメルト接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/10 20060101AFI20190204BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20190204BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20190204BHJP
   C08F 10/06 20060101ALI20190204BHJP
   C08F 210/06 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
   C09J123/10
   C09J123/08
   C09J11/08
   C08F10/06
   C08F210/06
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-241681(P2014-241681)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102162(P2016-102162A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢司
(72)【発明者】
【氏名】藤波 弘樹
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−540867(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129301(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/091289(WO,A1)
【文献】 特開2013−64055(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0350155(US,A1)
【文献】 特開2014−208812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00−201/10
C08F 10/06,210/06
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)及び(b)成分を含み、(a)成分の含有量が、(a)成分及び(b)成分の合計量100質量%に対して70〜85質量%である、木工用ホットメルト接着剤。
(a)引張試験機を用いJIS K 7113に準拠して測定された引張弾性率が10〜150MPaであり、かつ示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られたガラス転移温度(Tg)が−8℃以上であるプロピレン系重合体(A)
(b)示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られたガラス転移温度(Tg)が−10℃以下であるオレフィン系重合体(B)
【請求項2】
前記プロピレン系重合体(A)を構成するモノマーの70モル%以上がプロピレンモノマーである、請求項に記載の木工用ホットメルト接着剤。
【請求項3】
前記プロピレン系重合体(A)が下記(1)を満たす、請求項1又は2に記載の木工用ホットメルト接着剤。
(1)[mmmm]=20〜80モル%
【請求項4】
前記プロピレン系重合体(A)が下記(2)〜(5)の少なくとも1つを満たす、請求項1〜のいずれか一項に記載の木工用ホットメルト接着剤。
(2)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(3)[rmrm]≧2.5モル%
(4)[mm]×[rr]/[mr]2≦2.0
(5)分子量分布(Mw/Mn)<4.0
【請求項5】
前記プロピレン系重合体(A)が下記(6)を満たす、請求項1〜のいずれか一項に記載の木工用ホットメルト接着剤。
(6)示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃
【請求項6】
前記オレフィン系重合体(B)が、エチレン及び炭素数3〜20のα−オレフィンから選ばれる1種以上のモノマーを重合してなるオレフィン系共重合体(P)である、請求項1〜のいずれか一項に記載の木工用ホットメルト接着剤。
【請求項7】
前記オレフィン系共重合体(P)を構成するモノマーの10モル%以上がエチレンモノマーである、請求項に記載の木工用ホットメルト接着剤。
【請求項8】
前記オレフィン系重合体(P)が下記(p1)〜(p3)の少なくとも1つを満たす、請求項に記載の木工用ホットメルト接着剤。
(p1)エチレンの構成単位が10モル%以上、20モル%以下で含まれる。
(p2)1−ブテンの構成単位が20モル%以上、30モル%以下で含まれる。
(p3)プロピレンの構成単位が50モル%以上、70モル%以下で含まれる。
【請求項9】
前記プロピレン系重合体(A)を二種以上含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の木工用ホットメルト接着剤。
【請求項10】
更に、粘着付与樹脂(C)を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の木工用ホットメルト接着剤。
【請求項11】
少なくとも1種の木工基材を用い、請求項1〜10のいずれか一項に記載の木工用ホットメルト接着剤を溶融し、木工基材又は他の基材に塗布する工程、及び塗布された該ホットメルト接着剤に木工基材又は他の基材を接着する工程を含む、木工基材の接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木工用ホットメルト接着剤、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、無溶剤の接着剤であり、加熱溶融することで被着体に塗工後、冷却することで固化して接着性を発現するので、瞬間接着及び高速接着が可能であるという特徴を有し、幅広い分野で使用されている。ホットメルト接着剤で接着される被着材もそれらの使用条件も様々であり、現在、各種用途向けに種々のホットメルト接着剤が開発され、市場に供給されている。使用条件についても、低温から高温までの様々な使用温度が想定され、近年、耐熱性に優れるホットメルト接着剤が求められている。
例えば、特許文献1には、木材加工及び家具加工に用いるホットメルト接着剤として、異なるメタロセン触媒を用いて製造されたメルトフローインデックスが異なる2つのコポリマーを特定の混合比で混合した混合物と、少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の樹脂及び/又は少なくとも1つのワックス、並びに添加剤を含有するホットメルト接着剤が開示されている。
また、特許文献2には、エチレン系重合体100質量部に対して、特定の立体規則性を満たすプロピレン系重合体を1〜30質量部含むホットメルト接着剤が開示されている。
また、特許文献3には、メタロセン触媒を用いてプロピレンを重合して得られた融点が100℃以下のプロピレンホモポリマーと、エチレン系共重合体とを含むホットメルト接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8,366,865号明細書
【特許文献2】国際公開第2014/077258号
【特許文献3】特開2013−64055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、特許文献1のように、メタロセン触媒を用いて得られた異なるメルトフローインデックスであるコポリマーの混合物と、追加のポリマー(好ましくは非晶質ポリ−α−オレフィン、熱可塑性ポリウレタン、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン/ビニルアセテート共重合体、及びそれらの混合物から選ばれるポリマー)とを使用して得られるホットメルト接着剤の場合、耐熱性及び凝集力が十分でないという課題がある。
また、特許文献2で得られたホットメルト接着剤は耐熱性に優れ、適度なオープンタイムを有することが記載されているが、木工用に用いた場合の接着性の更なる向上が要求されている。
また、特許文献3に開示されているホットメルト接着剤を木工用途に用いることができるかは不明である。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、本発明の課題は、溶融時の流動性が高く、優れた接着強度を有する木工用ホットメルト接着剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の引張弾性率及び特定のガラス転移温度(以下、単に「Tg」ともいう)を有するオレフィン系重合体(A)である(a)成分、及び特定のTgを有するオレフィン系重合体(B)である(b)成分を含み、(a)成分の含有量が、(a)成分及び(b)成分の合計量100質量%に対して31〜95質量%である、木工用ホットメルト接着剤を用いることで、前記課題が解決することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明によれば、以下の木工用ホットメルト接着剤及び接着方法が提供される。
[1]下記(a)及び(b)成分を含み、(a)成分の含有量が、(a)成分及び(b)成分の合計量100質量%に対して31〜95質量%である、木工用ホットメルト接着剤。
(a)引張試験機を用いJIS K 7113に準拠して測定された引張弾性率が1〜600MPaであり、かつ示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られたガラス転移温度(Tg)が−10℃を越えるプロピレン系重合体(A)
(b)示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られたガラス転移温度(Tg)が−10℃以下であるオレフィン系重合体(B)
[2]前記(a)成分の含有量が、前記(a)及び(b)成分の合計量100質量%に対して35〜95質量%である上記[1]に記載の木工用ホットメルト接着剤。
[3]前記プロピレン系重合体(A)を構成するモノマーの70モル%以上がプロピレンモノマーである、上記[1]又は[2]に記載の木工用ホットメルト接着剤。
[4]前記プロピレン系重合体(A)が下記(1)を満たす、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の木工用ホットメルト接着剤。
(1)[mmmm]=20〜80モル%
[5]前記プロピレン系重合体(A)が下記(2)〜(5)の少なくとも1つを満たす、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の木工用ホットメルト接着剤。
(2)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(3)[rmrm]≧2.5モル%
(4)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(5)分子量分布(Mw/Mn)<4.0
[6]前記プロピレン系重合体(A)が下記(6)を満たす、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の木工用ホットメルト接着剤。
(6)示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃
[7]前記オレフィン系重合体(B)が、エチレン及び炭素数3〜20のα−オレフィンから選ばれる1種以上のモノマーを重合してなるオレフィン系共重合体(P)である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の木工用ホットメルト接着剤。
[8]前記オレフィン系共重合体(P)を構成するモノマーの10モル%以上がエチレンモノマーである、上記[7]に記載の木工用ホットメルト接着剤。
[9]前記オレフィン系重合体(P)が下記(p1)〜(p3)の少なくとも1つを満たす、上記[7]に記載の木工用ホットメルト接着剤。
(p1)エチレンの構成単位が10モル%以上、20モル%以下で含まれる。
(p2)1−ブテンの構成単位が20モル%以上、30モル%以下で含まれる。
(p3)プロピレンの構成単位が50モル%以上、70モル%以下で含まれる。
[10]前記プロピレン系重合体(A)を二種以上含む、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の木工用ホットメルト接着剤。
[11]更に、粘着付与樹脂(C)を含む、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の木工用ホットメルト接着剤。
[12]少なくとも1種の木工基材を用い、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の木工用ホットメルト接着剤を溶融し、木工基材又は他の基材に塗布する工程、及び塗布された該ホットメルト接着剤に木工基材又は他の基材を接着する工程を含む、木工基材の接着方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶融時の流動性が高く、優れた接着強度を有する木工用ホットメルト接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を説明する。なお、本明細書において、数値の記載に関する「〜」という用語は、その下限値以上、上限値以下を示す用語である。
また、本明細書中において、(a)成分とプロピレン系重合体(A)、(b)成分とオレフィン系重合体(B)、(c)成分と粘着付与樹脂(C)とは同義である。
【0009】
[木工用ホットメルト接着剤]
本発明の木工用ホットメルト接着剤は、下記(a)及び(b)成分を含み、(a)成分の含有量が、(a)成分及び(b)成分の合計量100質量%に対して31〜95質量%である、木工用ホットメルト接着剤である。
(a)引張試験機を用いJIS K 7113に準拠して測定された引張弾性率が1〜600MPaであり、かつ示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られたガラス転移温度(Tg)が−10℃を越えるプロピレン系重合体(A)
(b)示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られたガラス転移温度(Tg)が−10℃以下であるオレフィン系重合体(B)
(a)成分の含有量が、(a)成分及び(b)成分の合計量100質量%に対して31質量%未満であると、ホットメルト接着剤の凝集力が低下し、木工用途として、十分な接着力が得られない。また、(a)成分の含有量が、(a)成分及び(b)成分の合計量100質量%に対して95質量%を越えると低温での接着強度に劣る。このような観点から、(a)成分及び(b)成分の合計量100質量%に対する(a)成分の含有量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
以下、本発明に用いられる各成分、製造方法について順次説明する。
【0010】
<プロピレン系重合体(A)>
本発明に用いられる(a)成分であるプロピレン系重合体(A)は、引張試験機を用いJIS K 7113に準拠して測定された引張弾性率が1〜600MPaである。
接着性の観点から、具体的には、該引張弾性率は、好ましくは5MPa以上、より好ましくは10MPa以上である。
被着体として木工基材を用いる場合、被着体への木工用ホットメルト接着剤の追随性の観点や、被着体表面の凹凸への密着性の観点から、該木工用ホットメルト接着剤には適度な流動性と柔軟性が必要とされる。このような観点から、当該引張弾性率は低い方が好ましく、プロピレン系重合体(A)の23℃における引張弾性率は、600MPa以下であり、好ましくは350MPa以下、より好ましくは300MPa以下、更に好ましくは250MPa以下、より更に好ましくは200MPa以下、より更に好ましくは150MPa以下である。
本発明に用いられる(a)成分であるプロピレン系重合体(A)は、示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られたガラス転移温度(Tg)が−10℃を超える。
ガラス転移温度(Tg)が−10℃以下の場合、凝集力が劣り、木工用ホットメルト接着剤の接着強度が低下する。
凝集力の観点から、該ガラス転移温度は、好ましくは−8℃以上、より好ましくは−5℃以上である。そして、低温での接着強度の観点から好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下である。
該引張弾性率及びガラス転移温度(Tg)は、プロピレン系重合体(A)の重合条件(反応温度、反応時間、触媒、助触媒)を変動させたり、添加剤を添加したりすることで、所望の範囲内に調節することができる。
該引張弾性率及びガラス転移温度(Tg)は、具体的には、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0011】
本発明で用いるプロピレン系重合体(A)は、プロピレン単位が主成分であるプロピレン系重合体であり、プロピレン単独重合体又は該プロピレン系重合体を構成するモノマーの50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは95モル%以上がプロピレンモノマーであるプロピレン共重合体である。また、プロピレン系重合体(A)は、プロピレン単独重合体1種のみで用いてもよく、分子量や立体規則性等が異なる2種以上のプロピレン単独重合体の混合物として用いてもよく、プロピレン単独重合体1種以上とプロピレン共重合体1種以上との混合物として用いてもよい。
プロピレン系共重合体におけるプロピレン以外のコモノマーとしては、エチレン及び炭素数4以上のα−オレフィン(好ましくは炭素数4〜24、より好ましくは炭素数4〜12、更に好ましくは炭素数4〜8のα−オレフィン)が挙げられる。α−オレフィンの具体例としては、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。本発明においては、これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。
該プロピレン系共重合体を構成するプロピレン以外のコモノマーは5モル%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明のプロピレン系重合体(A)は、好ましくは下記(1)を満たすプロピレン系重合体であり、より好ましくは更に下記(2)〜(5)の少なくとも1つを満たし、更に好ましくは更に下記(6)を満たす。
(1)[mmmm]=20〜80モル%
(2)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(3)[rmrm]≧2.5モル%
(4)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(5)分子量分布(Mw/Mn)<4.0
(6)示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0〜120℃
上記において、[mmmm]はメソペンタッド分率、[rmrm]はラセミメソラセミメソペンタッド分率を表す。
【0013】
本発明において、メソペンタッド分率[mmmm]及びラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠して求めたものであり、13C−NMRスペクトルのメチル基のシグナルにより測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのメソ分率及びラセミメソラセミメソ分率である。
【0014】
13C−NMRスペクトルの測定は、下記の装置及び条件にて行った。
装置:日本電子(株)製、JNM−EX400型13C−NMR装置
方法:プロトン完全デカップリング法
濃度:220mg/ml
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10,000回
<計算式>
M=m/S×100
R=γ/S×100
S=Pββ+Pαβ+Pαγ
S:全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度
Pββ:19.8〜22.5ppm
Pαβ:18.0〜17.5ppm
Pαγ:17.5〜17.1ppm
γ:ラセミペンタッド連鎖:20.7〜20.3ppm
m:メソペンタッド連鎖:21.7〜22.5ppm
【0015】
また、本発明において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、下記の装置及び条件で測定したポリスチレン換算のものであり、分子量分布(Mw/Mn)は、これらの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)より算出した値である。
<GPC測定装置>
カラム :TOSO GMHHR−H(S)HT
検出器 :液体クロマトグラム用RI検出器 WATERS 150C
<測定条件>
溶媒 :1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃
流速 :1.0ミリリットル/分
試料濃度 :2.2mg/ミリリットル
注入量 :160マイクロリットル
検量線 :Universal Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0016】
(1)メソペンタッド分率[mmmm]
メソペンタッド分率[mmmm]は、立体規則性を表す指標であり、メソペンタッド分率[mmmm]が大きくなると、立体規則性が高くなる。
プロピレン系重合体(A)のメソペンタッド分率[mmmm]が20モル%以上であれば、ホットメルト接着剤の凝集力に優れる。また、[mmmm]が80モル%以下であれば、ホットメルト接着剤が被着体に対して良好な濡れ性を示す。ホットメルト接着剤の被着体に対する濡れ性の観点からは、プロピレン系重合体(A)のメソペンタッド分率[mmmm]は好ましくは20〜80モル%、より好ましくは30〜70モル%、更に好ましくは40〜70モル%、より更に好ましくは40〜60モル%である。
一方、ホットメルト接着剤の凝集力と適度な被着体に対する濡れ性のとのバランスの観点からは、メソペンタッド分率[mmmm]は、好ましくは60モル%を超え80モル%以下、より好ましくは60モル%を超え75モル%以下、更に好ましくは60モル%を超え72モル%以下である。
モノマー濃度や反応圧力を調整することで、メソペンタッド分率を制御することが可能である。
【0017】
(2)[rrrr]/(1−[mmmm])
[rrrr]/(1−[mmmm])の値は、メソペンタッド分率[mmmm]及びラセミペンタッド分率[rrrr]から求められ、ポリプロピレンの規則性分布の均一さを示す指標である。[rrrr]/(1−[mmmm])のこの値が大きくなると既存触媒系を用いて製造される従来のポリプロピレンのように高立体規則性ポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンの混合物となり、プロピレン系重合体(A)のべたつきの原因となる。なお、上記における[rrrr]及び[mmmm]の単位は、モル%である。
プロピレン系重合体(A)における[rrrr]/(1−[mmmm])の値は、べたつきの観点から、好ましくは0.1以下であり、より好ましくは0.001〜0.05、更に好ましくは0.001〜0.04、より更に好ましくは0.01〜0.04である。
【0018】
ここで、メソペンタッド分率[mmmm]、ラセミペンタッド分率[rrrr]、及び後述するラセミメソラセミメソペンダッド分率[rmrm]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠し、13C−NMRスペクトルのメチル基のシグナルにより測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのメソ分率、ラセミ分率、及びラセミメソラセミメソ分率である。メソペンタッド分率[mmmm]が大きくなると、立体規則性が高くなる。また、後述するトリアッド分率[mm]、[rr]及び[mr]も上記方法により算出される。
【0019】
(3)ラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]
ラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]は、ポリプロピレンの立体規則性のランダム性を表す指標であり、値が大きいほどポリプロピレンのランダム性が増加する。
ラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]が2.5モル%以上であることにより、ランダム性が増し、ホットメルト接着剤が良好な凝集力を示す。このような観点から、プロピレン系重合体(A)のラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]は、好ましくは2.5モル%以上、より好ましくは2.6モル%以上、更に好ましくは2.7モル%以上である。その上限は、通常、好ましくは10モル%程度であり、より好ましくは7モル%、更に好ましくは5モル%、特に好ましくは4モル%である。
【0020】
(4)[mm]×[rr]/[mr]
トリアッド分率[mm]、[rr]及び[mr]から算出される[mm]×[rr]/[mr]の値は、重合体のランダム性の指標を表し、1に近いほどランダム性が高くなる。プロピレン系重合体(A)は、上式の値が好ましくは2以下、より好ましくは1.8〜0.5、更に好ましくは1.5〜0.5の範囲である。なお、上記における[mm]及び[rr]の単位は、モル%である。
【0021】
(5)分子量分布(Mw/Mn)
プロピレン系重合体(A)の分子量分布が4未満であれば、ホットメルト接着剤の塗工性に優れる。このような観点から、プロピレン系重合体(A)の分子量分布は、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.4以下、更に好ましくは2.2以下である。メタロセン系触媒を用いることにより、分子量分布(Mw/Mn)を4未満に調整することができる。
【0022】
(6)融点(Tm−D)
プロピレン系重合体(A)の融点(Tm−D)は、流動性の観点から、好ましくは0〜120℃、より好ましくは20〜110℃、更に好ましくは40〜100℃である。
なお、本発明では、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC−7)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップを融点(Tm−D)とする。
融点(Tm−D)は、モノマー濃度や反応圧力を適宜調整することで制御可能である。
【0023】
また、本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)は、後述する190℃での溶融粘度が、好ましくは1.5Pa・s以上、100Pa・s以下である。当該粘度範囲であることで、プロピレン系重合体(A)を用いたホットメルト接着剤を、より適度な流動性と良好な接着性のバランスに優れたホットメルト接着剤とすることができる。
該190℃での溶融粘度とは、具体的には、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0024】
(プロピレン系重合体(A)の製造方法)
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)の製造方法としては、メタロセン触媒を用いて、プロピレンを単独重合してプロピレン単独重合体を製造する方法や、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4以上のα−オレフィンとを共重合してプロピレン共重合体を製造する方法が挙げられる。
メタロセン系触媒としては、特開昭58−19309号公報、特開昭61−130314号公報、特開平3−163088号公報、特開平4−300887号公報、特開平4−211694号公報、特表平1−502036号公報等に記載されるようなシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基等を1又は2個配位子とする遷移金属化合物、及び該配位子が幾何学的に制御された遷移金属化合物と助触媒を組み合わせて得られる触媒が挙げられる。
【0025】
本発明においては、メタロセン触媒のなかでも、配位子が架橋基を介して架橋構造を形成している遷移金属化合物からなる場合が好ましく、なかでも、2個の架橋基を介して架橋構造を形成している遷移金属化合物と助触媒を組み合わせて得られるメタロセン触媒を用いる方法がさらに好ましい。
具体的に例示すれば、(i)一般式(I)で表される遷移金属化合物、及び(ii)(ii−1)該(i)成分の遷移金属化合物又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物及び(ii−2)アルミノキサンから選ばれる成分を含有する重合用触媒の存在下、プロピレンを単独重合させる方法又はプロピレンとエチレン及び/又は炭素数4以上のα−オレフィンとを共重合させる方法が挙げられる。
【0026】
【化1】
【0027】
〔式中、Mは周期律表第3〜10族又はランタノイド系列の金属元素を示す。E及びEはそれぞれ置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ヘテロシクロペンタジエニル基、置換ヘテロシクロペンタジエニル基、アミド基、ホスフィド基、炭化水素基及び珪素含有基の中から選ばれた配位子であって、A及びAを介して架橋構造を形成しており、またそれらは互いに同一でも異なっていてもよい。Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX、E、E又はYと架橋していてもよい。Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のY、E、E又はXと架橋していてもよい。A及びAは二つの配位子を結合する二価の架橋基であって、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、珪素含有基、ゲルマニウム含有基、スズ含有基、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−Se−、−NR−、−PR−、−P(O)R−、−BR−又は−AlR−を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基又は炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。qは1〜5の整数で〔(Mの原子価)−2〕を示し、rは0〜3の整数を示す。〕
【0028】
上記一般式(I)において、Mは周期律表第3〜10族又はランタノイド系列の金属元素を示し、具体例としてはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、コバルト、パラジウム及びランタノイド系金属などが挙げられる。これらの中ではオレフィン重合活性などの点から周期律表第4族の金属元素が好ましく、特にチタン、ジルコニウム及びハフニウムが好適である。
【0029】
及びEはそれぞれ、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ヘテロシクロペンタジエニル基、置換ヘテロシクロペンタジエニル基、アミド基(−N<)、ホスフィン基(−P<)、炭化水素基〔>CR−、>C<〕及び珪素含有基〔>SiR−、>Si<〕(但し、Rは水素又は炭素数1〜20の炭化水素基あるいはヘテロ原子含有基である)の中から選ばれた配位子を示し、A及びAを介して架橋構造を形成している。また、E及びEは互いに同一でも異なっていてもよい。このE及びEとしては、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基及び置換インデニル基が好ましい。置換基としては、炭素数1〜20の炭化水素基、珪素含有基などが挙げられる。
【0030】
また、Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX、E、E又はYと架橋していてもよい。該Xの具体例としては、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアミド基、炭素数1〜20の珪素含有基、炭素数1〜40のホスフィド基、炭素数1〜20のスルフィド基、炭素数1〜20のアシル基などが挙げられる。
【0031】
ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1〜20の炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアリールアルキル基;フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、フェナントニル基等のアリール基等が挙げられる。なかでもメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基やフェニル基等のアリール基が好ましい。
【0032】
炭素数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、フェニルメトキシ基、フェニルエトキシ基等が挙げられる。炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基等が挙げられる。炭素数1〜20のアミド基としては、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、ジプロピルアミド基、ジブチルアミド基、ジシクロヘキシルアミド基、メチルエチルアミド基等のアルキルアミド基や、ジビニルアミド基、ジプロペニルアミド基、ジシクロヘキセニルアミド基等のアルケニルアミド基;ジベンジルアミド基、フェニルエチルアミド基、フェニルプロピルアミド基等のアリールアルキルアミド基;ジフェニルアミド基、ジナフチルアミド基等のアリールアミド基が挙げられる。
炭素数1〜20のケイ素含有基としては、メチルシリル基、フェニルシリル基等のモノ炭化水素置換シリル基;ジメチルシリル基、ジフェニルシリル基等のジ炭化水素置換シリル基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、トリトリルシリル基、トリナフチルシリル基等のトリ炭化水素置換シリル基;トリメチルシリルエーテル基等の炭化水素置換シリルエーテル基;トリメチルシリルメチル基等のケイ素置換アルキル基;トリメチルシリルフェニル基等のケイ素置換アリール基等が挙げられる。なかでもトリメチルシリルメチル基、フェニルジメチルシリルエチル基等が好ましい。
【0033】
炭素数1〜40のホスフィド基としては、ジメチルホスフィド基、ジエチルホスフィド基、ジプロピルホスフィド基、ジブチルホスフィド基、ジヘキシルホスフィド基、ジシクロヘキシルホスフィド基、ジオクチルホスフィド基等のジアルキルホスフィド基;ジビニルホスフィド基、ジプロペニルホスフィド基、ジシクロヘキセニルホスフィド基等のジアルケニルホスフィド基;ジベンジルホスフィド基、ビス(フェニルエチル)ホスフィド基、ビス(フェニルプロピル)ホスフィド基等のビス(アリールアルキル)ホスフィド基;ジフェニルホスフィド基、ジトリルホスフィド基、ビス(ジメチルフェニル)ホスフィド基、ビス(トリメチルフェニル)ホスフィド基、ビス(エチルフェニル)ホスフィド基、ビス(プロピルフェニル)ホスフィド基、ビス(ビフェニル)ホスフィド基、ビス(ナフチル)ホスフィド基、ビス(メチルナフチル)ホスフィド基、ビス(アントラセニル)ホスフィド基、ビス(フェナントニル)ホスフィド基等のジアリールホスフィド基が挙げられる。
【0034】
炭素数1〜20のスルフィド基としては、メチルスルフィド基、エチルスルフィド基、プロピルスルフィド基、ブチルスルフィド基、ヘキシルスルフィド基、シクロヘキシルスルフィド基、オクチルスルフィド基等のアルキルスルフィド基;ビニルスルフィド基、プロペニルスルフィド基、シクロヘキセニルスルフィド基等のアルケニルスルフィド基;ベンジルスルフィド基、フェニルエチルスルフィド基、フェニルプロピルスルフィド基等のアリールアルキルスルフィド基;フェニルスルフィド基、トリルスルフィド基、ジメチルフェニルスルフィド基、トリメチルフェニルスルフィド基、エチルフェニルスルフィド基、プロピルフェニルスルフィド基、ビフェニルスルフィド基、ナフチルスルフィド基、メチルナフチルスルフィド基、アントラセニルスルフィド基、フェナントニルスルフィド基等のアリールスルフィド基が挙げられる。
炭素数1〜20のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、パルミトイル基、テアロイル基、オレオイル基等のアルキルアシル基、ベンゾイル基、トルオイル基、サリチロイル基、シンナモイル基、ナフトイル基、フタロイル基等のアリールアシル基、シュウ酸、マロン酸、コハク酸等のジカルボン酸からそれぞれ誘導されるオキサリル基、マロニル基、スクシニル基等が挙げられる。
【0035】
一方、Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のYやE1、E2又はXと架橋していてもよい。このYのルイス塩基の具体例としては、アミン類、エーテル類、ホスフィン類、チオエーテル類等を挙げることができる。
アミンとしては、炭素数1〜20のアミンが挙げられ、具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、メチルエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、メチルエチルアミン等のアルキルアミン;ビニルアミン、プロペニルアミン、シクロヘキセニルアミン、ジビニルアミン、ジプロペニルアミン、ジシクロヘキセニルアミン等のアルケニルアミン;フェニルアミン、フェニルエチルアミン、フェニルプロピルアミン等のアリールアルキルアミン;ジフェニルアミン、ジナフチルアミン等のアリールアミンが挙げられる。
【0036】
エーテル類としては、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、n−アミルエーテル、イソアミルエーテル等の脂肪族単一エーテル化合物;メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、メチル−n−アミルエーテル、メチルイソアミルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチル−n−アミルエーテル、エチルイソアミルエーテル等の脂肪族混成エーテル化合物;ビニルエーテル、アリルエーテル、メチルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルビニルエーテル、エチルアリルエーテル等の脂肪族不飽和エーテル化合物;アニソール、フェネトール、フェニルエーテル、ベンジルエーテル、フェニルベンジルエーテル、α−ナフチルエーテル、β−ナフチルエーテル等の芳香族エーテル化合物、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化トリメチレン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン等の環式エーテル化合物が挙げられる。
【0037】
ホスフィン類としては、炭素数1〜30のホスフィンが挙げられる。具体的には、メチルホスフィン、エチルホスフィン、プロピルホスフィン、ブチルホスフィン、ヘキシルホスフィン、シクロヘキシルホスフィン、オクチルホスフィン等のモノ炭化水素置換ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジプロピルホスフィン、ジブチルホスフィン、ジヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ジオクチルホスフィン等のジ炭化水素置換ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン等のトリ炭化水素置換ホスフィン等のアルキルホスフィンや、ビニルホスフィン、プロペニルホスフィン、シクロヘキセニルホスフィン等のモノアルケニルホスフィンやホスフィンの水素原子をアルケニルが2個置換したジアルケニルホスフィン;ホスフィンの水素原子をアルケニルが3個置換したトリアルケニルホスフィン;ベンジルホスフィン、フェニルエチルホスフィン、フェニルプロピルホスフィン等のアリールアルキルホスフィン;ホスフィンの水素原子をアリール又はアルケニルが3個置換したジアリールアルキルホスフィン又はアリールジアルキルホスフィン;フェニルホスフィン、トリルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリメチルフェニルホスフィン、エチルフェニルホスフィン、プロピルフェニルホスフィン、ビフェニルホスフィン、ナフチルホスフィン、メチルナフチルホスフィン、アントラセニルホスフィン、フェナントニルホスフィン;ホスフィンの水素原子をアルキルアリールが2個置換したジ(アルキルアリール)ホスフィン;ホスフィンの水素原子をアルキルアリールが3個置換したトリ(アルキルアリール)ホスフィン等のアリールホスフィンが挙げられる。チオエーテル類としては、前記のスルフィドが挙げられる。
【0038】
次に、A及びAは二つの配位子を結合する二価の架橋基であって、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、珪素含有基、ゲルマニウム含有基、スズ含有基、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−Se−、−NR−、−PR−、−P(O)R−、−BR−又は−AlR−を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。このような架橋基としては、例えば下記一般式(II)で表されるものが挙げられる。
【0039】
【化2】

(Dは炭素、ケイ素又はスズ、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基で、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、また互いに結合して環構造を形成していてもよい。eは1〜4の整数を示す。)
【0040】
その具体例としては、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、シクロヘキシリデン基、1,2−シクロヘキシレン基、ビニリデン基(CH=C=)、ジメチルシリレン基、ジフェニルシリレン基、メチルフェニルシリレン基、ジメチルゲルミレン基、ジメチルスタニレン基、テトラメチルジシリレン基、ジフェニルジシリレン基などを挙げることができる。これらの中で、エチレン基、イソプロピリデン基及びジメチルシリレン基が好適である。
【0041】
qは1〜5の整数で〔(Mの原子価)−2〕を示し、rは0〜3の整数を示す。
【0042】
一般式(I)で表される遷移金属化合物の具体例としては、WO02/16450に記載の具体例が本発明においても好適な例として挙げられる。
より好ましい具体例としては、(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)ビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)(インデニル)(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライド、(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライド等が挙げられる。
【0043】
次に、(ii)成分のうちの(ii−1)成分としては、上記(i)成分の遷移金属化合物と反応して、イオン性の錯体を形成しうる化合物であれば、いずれのものでも使用できるが、次の一般式(III)、(IV)で表されるものを好適に使用することができる。
(〔L−R10k+ (〔Z〕 ・・・(III)
(〔Lk+(〔Z〕 ・・・(IV)
(ただし、LはM、R1112、R13C又はR14である。)
【0044】
前記一般式(III)及び(IV)中、Lはルイス塩基を示し、〔Z〕は、非配位性アニオン〔Z及び〔Zを示す。
〔Zは複数の基が元素に結合したアニオンすなわち〔M・・・Gを示す。ここで、Mは周期律表第5〜15族元素、好ましくは周期律表第13〜15族元素を示す。G〜Gはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜40のジアルキルアミノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜40のアルキルアリール基、炭素数7〜40のアリールアルキル基、炭素数1〜20のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1〜20のアシルオキシ基、有機メタロイド基、又は炭素数2〜20のヘテロ原子含有炭化水素基を示す。G〜Gのうち2つ以上が環を形成していてもよい。fは〔(中心金属Mの原子価)+1〕の整数を示す。
〔Zは、酸解離定数の逆数の対数(pKa)が−10以下のブレンステッド酸単独又はブレンステッド酸及びルイス酸の組合せの共役塩基、あるいは一般的に超強酸と定義される酸の共役塩基を示す。また、ルイス塩基が配位していてもよい。
また、R10は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示す。
11及びR12はそれぞれシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基又はフルオレニル基を示す。
13は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示す。
14はテトラフェニルポルフィリン、フタロシアニン等の大環状配位子を示す。kは〔L−R10〕、〔L〕のイオン価数で1〜3の整数、aは1以上の整数、b=(k×a)である。Mは、周期律表第1〜3、11〜13、17族元素を含むものであり、Mは、周期律表第7〜12族元素を示す。
【0045】
ここで、Lの具体例としては、アンモニア、メチルアミン、アニリン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルアニリン、ジフェニルアミン、N,N−ジメチルアニリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、メチルジフェニルアミン、ピリジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、p−ニトロ−N,N−ジメチルアニリンなどのアミン類、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィンなどのホスフィン類、テトラヒドロチオフェンなどのチオエーテル類、安息香酸エチルなどのエステル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類などを挙げることができる。
【0046】
10の具体例としては水素、メチル基、エチル基、ベンジル基、トリチル基等を挙げることができ、R11、R12の具体例としては、シクロペンタジエニル基、メチルシクロペンタジエニル基、エチルシクロペンタジエニル基、ペンタメチルシクロペンタジエニル基等を挙げることができる。R13の具体例としては、フェニル基、p−トリル基、p−メトキシフェニル基等を挙げることができ、R14の具体例としてはテトラフェニルポルフィン、フタロシアニン、アリル、メタリル等を挙げることができる。また、Mの具体例としては、Li、Na、K、Ag、Cu、Br、I、I等を挙げることができ、Mの具体例としては、Mn、Fe、Co、Ni、Zn等を挙げることができる。
【0047】
また、〔Z、すなわち〔M・・・G〕において、Mの具体例としてはB、Al、Si、P、As、Sbなど、好ましくはB及びAlが挙げられる。また、G、G〜Gの具体例としては、ジアルキルアミノ基としてジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基など、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基としてメトキシ基、エトキシ基、n−ブトキシ基、フェノキシ基など、炭化水素基としてメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−オクチル基、n−エイコシル基、フェニル基、p−トリル基、ベンジル基、4−t−ブチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基など、ハロゲン原子としてフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヘテロ原子含有炭化水素基としてp−フルオロフェニル基、3,5−ジフルオロフェニル基、ペンタクロロフェニル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基など、有機メタロイド基としてペンタメチルアンチモン基、トリメチルシリル基、トリメチルゲルミル基、ジフェニルアルシン基、ジシクロヘキシルアンチモン基、ジフェニル硼素などが挙げられる。
【0048】
また、非配位性のアニオンすなわちpKaが−10以下のブレンステッド酸単独又はブレンステッド酸及びルイス酸の組合せの共役塩基〔Zの具体例としてはトリフルオロメタンスルホン酸アニオン(CFSO、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ベンジルアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、過塩素酸アニオン(ClO、トリフルオロ酢酸アニオン(CFCO、ヘキサフルオロアンチモンアニオン(SbF、フルオロスルホン酸アニオン(FSO、クロロスルホン酸アニオン(ClSO、フルオロスルホン酸アニオン/5−フッ化アンチモン(FSO/SbF、フルオロスルホン酸アニオン/5−フッ化砒素(FSO/AsF、トリフルオロメタンスルホン酸/5−フッ化アンチモン(CFSO/SbFなどを挙げることができる。
【0049】
このような前記(i)成分の遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成するイオン性化合物、すなわち(ii−1)成分化合物の具体例としては、テトラフェニル硼酸トリエチルアンモニウム、テトラフェニル硼酸トリ−n−ブチルアンモニウム、テトラフェニル硼酸トリメチルアンモニウム、テトラフェニル硼酸テトラエチルアンモニウム、テトラフェニル硼酸メチル(トリ−n−ブチル)アンモニウム、テトラフェニル硼酸ベンジル(トリ−n−ブチル)アンモニウム、テトラフェニル硼酸ジメチルジフェニルアンモニウム、テトラフェニル硼酸トリフェニル(メチル)アンモニウム、テトラフェニル硼酸トリメチルアニリニウム、テトラフェニル硼酸メチルピリジニウム、テトラフェニル硼酸ベンジルピリジニウム、テトラフェニル硼酸メチル(2−シアノピリジニウム)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリエチルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリ−n−ブチルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリフェニルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸テトラ−n−ブチルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸テトラエチルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ベンジル(トリ−n−ブチル)アンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルジフェニルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリフェニル(メチル)アンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルアニリニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルアニリニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリメチルアニリニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルピリジニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ベンジルピリジニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチル(2−シアノピリジニウム)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ベンジル(2−シアノピリジニウム)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチル(4−シアノピリジニウム)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリフェニルホスホニウム、テトラキス〔ビス(3,5−ジトリフルオロメチル)フェニル〕硼酸ジメチルアニリニウム、テトラフェニル硼酸フェロセニウム、テトラフェニル硼酸銀、テトラフェニル硼酸トリチル、テトラフェニル硼酸テトラフェニルポルフィリンマンガン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(1,1’−ジメチルフェロセニウム)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸デカメチルフェロセニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸銀、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリチル、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸リチウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ナトリウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸テオラフェニルポルフィリンマンガン、テトラフルオロ硼酸銀、ヘキサフルオロ燐酸銀、ヘキサフルオロ砒素酸銀、過塩素酸銀、トリフルオロ酢酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀などを挙げることができる。
(ii−1)は一種用いてもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
一方、(ii−2)成分のアルミノキサンとしては、一般式(V)
【化3】

(式中、R15は炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基などの炭化水素基あるいはハロゲン原子を示し、wは平均重合度を示し、通常2〜50、好ましくは2〜40の整数である。なお、各R15は同じでも異なっていてもよい。)
で示される鎖状アルミノキサン、及び一般式(VI)
【0051】
【化4】

(式中、R15及びwは前記一般式(V)におけるものと同じである。)
で示される環状アルミノキサンを挙げることができる。
【0052】
前記アルミノキサンの製造法としては、アルキルアルミニウムと水などの縮合剤とを接触させる方法が挙げられるが、その手段については特に限定はなく、公知の方法に準じて反応させればよい。例えば、
(1)有機アルミニウム化合物を有機溶剤に溶解しておき、これを水と接触させる方法、
(2)重合時に当初有機アルミニウム化合物を加えておき、後に水を添加する方法、
(3)金属塩などに含有されている結晶水、無機物や有機物への吸着水を有機アルミニウム化合物と反応させる方法、
(4)テトラアルキルジアルミノキサンにトリアルキルアルミニウムを反応させ、さらに水を反応させる方法
等がある。なお、アルミノキサンとしては、トルエン不溶性のものであってもよい。
これらのアルミノキサンは一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(i)触媒成分と(ii)触媒成分との使用割合は、(ii)触媒成分として(ii−1)化合物を用いた場合には、モル比で好ましくは10:1〜1:100、より好ましくは2:1〜1:10の範囲が望ましく、上記範囲を逸脱する場合は、単位質量ポリマーあたりの触媒コストが高くなり、実用的でない。また(ii−2)化合物を用いた場合には、モル比で好ましくは1:1〜1:1000000、より好ましくは1:10〜1:10000の範囲が望ましい。この範囲を逸脱する場合は単位質量ポリマーあたりの触媒コストが高くなり、実用的でない。また、触媒成分(ii)としては(ii−1)、(ii−2)を単独又は二種以上組み合わせて用いることもできる。
【0054】
上記製造方法における重合用触媒は、上記(i)成分及び(ii)成分に加えて(iii)成分として有機アルミニウム化合物を用いることができる。
ここで、(iii)成分の有機アルミニウム化合物としては、一般式(VII)
16 AlJ3−v ・・・(VII)
〔式中、R16は炭素数1〜10のアルキル基、Jは水素原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基又はハロゲン原子を示し、vは1〜3の整数である〕
で示される化合物が用いられる。
前記一般式(VII)で示される化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジメチルアルミニウムフルオリド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムヒドリド、エチルアルミニウムセスキクロリド等が挙げられる。
これらの有機アルミニウム化合物は一種用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0055】
上記製造方法においては、上述した(i)成分、(ii)成分及び(iii)成分を用いて予備接触を行なうこともできる。予備接触は、(i)成分に、例えば、(ii)成分を接触させることにより行なうことができるが、その方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。これら予備接触により触媒活性の向上や、助触媒である(ii)成分の使用割合の低減など、触媒コストの低減に効果的である。また、さらに、(i)成分と(ii−2)成分を接触させることにより、上記効果と共に、分子量向上効果も見られる。また、予備接触温度は、通常−20℃〜200℃、好ましくは−10℃〜150℃、より好ましくは、0℃〜80℃である。予備接触においては、溶媒の不活性炭化水素として、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などを用いることができる。これらの中で特に好ましいものは、脂肪族炭化水素である。
前記(i)触媒成分と(iii)触媒成分との使用割合は、モル比で好ましくは1:1〜1:10000、より好ましくは1:5〜1:2000、さらに好ましくは1:10ないし1:1000の範囲が望ましい。該(iii)触媒成分を用いることにより、遷移金属当たりの重合活性を向上させることができるが、あまり多いと有機アルミニウム化合物が無駄になるとともに、重合体中に多量に残存し、好ましくない。
【0056】
本発明においては、触媒成分の少なくとも一種を適当な担体に担持して用いることができる。該担体の種類については特に制限はなく、無機酸化物担体、それ以外の無機担体及び有機担体のいずれも用いることができるが、特に無機酸化物担体あるいはそれ以外の無機担体が好ましい。
無機酸化物担体としては、具体的には、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、Fe、B、CaO、ZnO、BaO、ThOやこれらの混合物、例えばシリカアルミナ、ゼオライト、フェライト、グラスファイバーなどが挙げられる。これらの中では、特にSiO、Alが好ましい。なお、上記無機酸化物担体は、少量の炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などを含有してもよい。
一方、上記以外の担体として、MgCl、Mg(OCなどで代表される一般式MgR17で表されるマグネシウム化合物やその錯塩などを挙げることができる。ここで、R17は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基又は炭素数6〜20のアリール基、Xはハロゲン原子又は炭素数1〜20のアルキル基を示し、xは0〜2、yは0〜2であり、かつx+y=2である。各R17及び各Xはそれぞれ同一でもよく、また異なってもいてもよい。
また、有機担体としては、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリエチレン、ポリ1−ブテン、置換ポリスチレン、ポリアリレートなどの重合体やスターチ、カーボンなどを挙げることができる。
上記製造方法において用いられる担体としては、MgCl、MgCl(OC)、Mg(OC、SiO、Alなどが好ましい。また担体の性状は、その種類及び製法により異なるが、平均粒径は通常1〜300μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは20〜100μmである。
粒径が小さいと重合体中の微粉が増大し、粒径が大きいと重合体中の粗大粒子が増大し嵩密度の低下やホッパーの詰まりの原因になる。
また、担体の比表面積は、通常1〜1000m/g、好ましくは50〜500m/g、細孔容積は通常0.1〜5cm/g、好ましくは0.3〜3cm/gである。
比表面積又は細孔容積のいずれかが上記範囲を逸脱すると、触媒活性が低下することがある。なお、比表面積及び細孔容積は、例えばBET法に従って吸着された窒素ガスの体積から求めることができる。
さらに、上記担体が無機酸化物担体である場合には、通常150〜1000℃、好ましくは200〜800℃で焼成して用いることが望ましい。
【0057】
触媒成分の少なくとも一種を前記担体に担持させる場合、(i)触媒成分及び(ii)触媒成分の少なくとも一方を、好ましくは(i)触媒成分及び(ii)触媒成分の両方を担持させるのが望ましい。
該担体に、(i)成分及び(ii)成分の少なくとも一方を担持させる方法については、特に制限されないが、例えば
(1)(i)成分及び(ii)成分の少なくとも一方と担体とを混合する方法、
(2)担体を有機アルミニウム化合物又はハロゲン含有ケイ素化合物で処理したのち、不活性溶媒中で(i)成分及び(ii)成分の少なくとも一方と混合する方法、
(3)担体と(i)成分及び/又は(ii)成分と有機アルミニウム化合物又はハロゲン含有ケイ素化合物とを反応させる方法、
(4)(i)成分又は(ii)成分を担体に担持させたのち、(ii)成分又は(i)成分と混合する方法、
(5)(i)成分と(ii)成分との接触反応物を担体と混合する方法、
(6)(i)成分と(ii)成分との接触反応に際して、担体を共存させる方法
などを用いることができる。
なお、上記(4)、(5)及び(6)の反応において、(iii)成分の有機アルミニウム化合物を添加することもできる。
【0058】
前記の(i)成分、(ii)成分、(iii)成分を接触させる際に、弾性波を照射させて触媒を調製してもよい。弾性波としては、通常音波、特に好ましくは超音波が挙げられる。具体的には、周波数が1〜1000kHzの超音波、好ましくは10〜500kHzの超音波が挙げられる。
このようにして得られた触媒は、いったん溶媒留去を行って固体として取り出してから重合に用いてもよいし、そのまま重合に用いてもよい。
また、本発明においては、(i)成分及び(ii)成分の少なくとも一方の担体への担持操作を重合系内で行うことにより触媒を生成させることができる。例えば(i)成分及び(ii)成分の少なくとも一方と担体とさらに必要により前記(iii)成分の有機アルミニウム化合物を加え、エチレンなどのオレフィンを常圧〜2MPa(gauge)加えて、−20〜200℃で1分〜2時間程度予備重合を行い触媒粒子を生成させる方法を用いることができる。
本発明においては、(ii−1)成分と担体との使用割合は、質量比で好ましくは1:5〜1:10000、より好ましくは1:10〜1:500とするのが望ましく、(ii−2)成分と担体との使用割合は、質量比で好ましくは1:0.5〜1:1000、より好ましくは1:1〜1:50とするのが望ましい。(ii)成分として二種以上を混合して用いる場合は、各(ii)成分と担体との使用割合が質量比で上記範囲内にあることが望ましい。また、(i)成分と担体との使用割合は、質量比で、好ましくは1:5〜1:10000、より好ましくは1:10〜1:500とするのが望ましい。
(ii)成分〔(ii−1)成分又は(ii−2)成分〕と担体との使用割合、又は(i)成分と担体との使用割合が上記範囲を逸脱すると、活性が低下することがある。このようにして調製された重合用触媒の平均粒径は、通常2〜200μm、好ましくは10〜150μm、特に好ましくは20〜100μmであり、比表面積は、通常20〜1000m/g、好ましくは50〜500m/gである。平均粒径が2μm未満であると重合体中の微粉が増大することがあり、200μmを超えると重合体中の粗大粒子が増大することがある。比表面積が20m/g未満であると活性が低下することがあり、1000m/gを超えると重合体の嵩密度が低下することがある。また、触媒において、担体100g中の遷移金属量は、通常0.05〜10g、特に0.1〜2gであることが好ましい。遷移金属量が上記範囲外であると、活性が低くなることがある。
このように担体に担持することによって工業的に有利な高い嵩密度と優れた粒径分布を有する重合体を得ることができる。
【0059】
プロピレン系重合体(A)としては、上述した重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合してプロピレン単独重合体を製造したり、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4以上のα−オレフィンとを共重合してプロピレン共重合体を製造することができる。
この場合、重合方法は特に制限されず、スラリー重合法、気相重合法、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法などのいずれの方法を用いてもよいが、スラリー重合法、気相重合法が特に好ましい。また、反応の制御が容易という観点から溶液重合法が特に好ましい。
重合条件については、重合温度は通常−100〜250℃、好ましくは−50〜200℃、より好ましくは0〜130℃である。また、反応原料に対する触媒の使用割合は、原料モノマー/上記(i)成分(モル比)が好ましくは10〜10、特に10〜10となることが好ましい。さらに、重合時間は通常5分〜10時間、反応圧力は好ましくは常圧〜3MPa(gauge)、より好ましくは常圧〜2.5MPa(gauge)、さらに好ましくは常圧〜2MPa(gauge)である。反応圧力を調整することで、メソペンタッド分率を制御することが可能である。
重合体の分子量の調節方法としては、各触媒成分の種類、使用量、重合温度の選択、さらには水素存在下での重合などがある。
【0060】
重合溶媒を用いる場合、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素などを用いることができる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上のものを組み合わせてもよい。また、α−オレフィンなどのモノマーを溶媒として用いてもよい。なお、重合方法によっては無溶媒で行うことができる。
重合に際しては、前記重合用触媒を用いて予備重合を行うことができる。予備重合は、固体触媒成分に、例えば、少量のオレフィンを接触させることにより行うことができるが、その方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。予備重合に用いるオレフィンについては特に制限はなく、例えばエチレン、炭素数3〜20のα−オレフィン、あるいはこれらの混合物などを挙げることができるが、該重合において用いるオレフィンと同じオレフィンを用いることが有利である。
また、予備重合温度は、通常−20〜200℃、好ましくは−10〜130℃、より好ましくは0〜80℃である。予備重合においては、溶媒として、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、モノマーなどを用いることができる。これらの中で特に好ましいのは脂肪族炭化水素である。また、予備重合は無溶媒で行ってもよい。
予備重合においては、予備重合生成物の極限粘度[η](135℃デカリン中で測定)が0.2デシリットル/g以上、特に0.5デシリットル/g以上、触媒中の遷移金属成分1ミリモル当たりに対する予備重合生成物の量が1〜10000g、特に10〜1000gとなるように条件を調整することが望ましい。
【0061】
なお、プロピレン系重合体(A)の含有量は、上述のとおり、接着強度の観点から、プロピレン系重合体(A)及び後述するオレフィン系重合体(B)の合計量100質量%に対して、31質量%以上であり、好ましくは35質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは70質量%であり、そして、低温での接着強度の観点から、95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
また、プロピレン系重合体(A)の含有量は、接着強度の観点から、ホットメルト接着剤100質量%に対して、好ましくは31質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0062】
<オレフィン系重合体(B)>
本発明に用いられる(b)成分であるオレフィン系重合体(B)は、示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られたガラス転移温度(Tg)が−10℃以下である。
低温での接着強度の観点から、該ガラス転移温度は、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−30℃以下である。
該ガラス転移温度は、オレフィン系重合体(B)の重合条件(反応温度、反応時間、触媒、助触媒)を変動させたり、共重合比率を調整したり、添加剤を添加したりすることで、所望の範囲内に調節することができる。
該ガラス転移温度(Tg)は、具体的には、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0063】
本発明に用いられるオレフィン系重合体(B)は、具体的には、エチレン−プロピレン共重合体、又はエチレン及び炭素数3〜20のα−オレフィンから選ばれる1種以上のモノマーを重合してなるオレフィン系共重合体(P)が好ましく、エチレンとプロピレンと1−ブテンからなる共重合体であることがより好ましい。
炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン及び1−イコセン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは炭素数3〜12のα−オレフィン、より好ましくは炭素数3〜6のα−オレフィン、更に好ましくは炭素数3〜5のα−オレフィン、より更に好ましくは炭素数3〜4のα−オレフィンである。これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。
【0064】
また、オレフィン系共重合体(P)は、(p1)エチレンを含有する共重合体の場合には、エチレンモノマーの構成単位が、好ましくは10モル%以上、より好ましくは10モル%を超え、20モル%以下である。(p2)また、1−ブテンを含有する共重合体の場合には、1−ブテン含有量が、好ましくは0モル%を超え、より好ましくは20モル%以上、30モル%以下である。(p3)また、プロピレンを含有する共重合体の場合には、プロピレンモノマーの構成単位が、好ましくは50モル%以上であり、そして、好ましくは70モル%以下である。
オレフィン系共重合体(P)は、好ましくは要件(p1)〜(p3)の少なくとも1つ以上を満たし、より好ましくは(p1)〜(p3)の全てを満たす。
なお、上記の重合体は、石油・石炭由来のモノマーを用いた重合体でもよいし、バイオマス由来のモノマーを用いた重合体でもよい。
【0065】
本発明に用いられるオレフィン系重合体(B)は、後述する190℃での溶融粘度が、好ましくは1Pa・s以上、より好ましくは3Pa・s以上、更に好ましくは5Pa・s以上であり、そして、好ましくは150Pa・s以下である。当該粘度範囲であることで、オレフィン系重合体(B)を用いたホットメルト接着剤を、より適度な流動性と良好な接着性のバランスに優れたホットメルト接着剤とすることができる。
該190℃での溶融粘度とは、具体的には、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0066】
本発明に用いられるオレフィン系重合体(B)の市販品としては、「Exact」シリーズ(エクソン・モービル社製)、「Affinity polymer」シリーズ(ダウ・ケミカル社製)、「VESTOPLAST」シリーズ(EVONIK社製)等があり、より好ましくは、「VESTOPLAST」シリーズ(EVONIK社製)が挙げられる(いずれも登録商標)。
【0067】
オレフィン系重合体(B)の含有量は、低温での好ましい接着強度を得る観点から、上記プロピレン系重合体(A)の合計量100質量%に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは150質量%以下、より好ましくは100質量%以下、更に好ましくは80質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下である。
オレフィン系重合体(B)の含有量は、低温での好ましい接着強度を得る観点から、上記プロピレン系重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)の合計量100質量%に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは69質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、より更に好ましくは40質量%以下である。
また、オレフィン系重合体(B)の含有量は、低温での好ましい接着強度を得る観点から、ホットメルト接着剤100質量%に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは13質量%以上であり、そして、好ましくは69質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0068】
なお、プロピレン系重合体(A)とオレフィン系重合体(B)は、後述する他の成分と混合する前に、事前に溶融混合して用いてもよく、後述する他の成分と同時に溶融混合してもよい。溶融混合する方法は、後述する木工用ホットメルト接着剤の製造方法と同様の方法を用いることができる。
また、本発明のホットメルト接着剤中の成分として、プロピレン系重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)との混合物を「ベースポリマー」ともいう。ベースポリマーの含有量は、接着強度の観点から、ホットメルト接着剤100質量%に対して、好ましくは36質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0069】
<粘着付与剤(C)>
本発明の木工用ホットメルト接着剤は、粘着付与樹脂(C)を含有してもよい。
粘着付与樹脂(C)としては、例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂などからなる常温で固体、半固体あるいは液状のもの等を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明では、ベースポリマーとの相溶性を考慮して、水素添加物を用いることが好ましい。中でも、熱安定性に優れる石油樹脂の水素化物がより好ましい。
粘着付与樹脂(C)の市販品としては、アイマーブP−125、P−100、P−90(以上、出光興産(株)製、「アイマーブ」は登録商標)、ユーメックス1001(三洋化成工業(株)製、「ユーメックス」は登録商標)、ハイレッツT1115(三井化学(株)製、「ハイレッツ」は登録商標)、クリアロンK100(ヤスハラケミカル(株)製、「クリアロン」は登録商標)、ECR227、エスコレッツ2101(以上、トーネックス(株)製、「エスコレッツ」は登録商標)、アルコンP100(荒川化学(株)製、「アルコン」は登録商標)、Regalrez 1078(ハーキュレス(Hercules)社製、「Regalrez」は登録商標)、Eastotac H−130R(イーストマン・ケミカル社製、「Eastotac」は登録商標)等を挙げることができる(いずれも商品名)。
粘着付与樹脂(C)の含有量は、接着強度の観点から、上記プロピレン系重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)の合計量100質量%に対して、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは150質量%以下、より好ましくは120質量%以下、更に好ましくは100質量%以下、より更に好ましくは80質量%以下である。
また、粘着付与樹脂(C)の含有量は、接着強度の観点から、ホットメルト接着剤100質量%に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
また、粘着付与樹脂(C)の含有量は、接着強度の観点から、オレフィン系重合体(A)100質量%に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。
また、粘着付与樹脂(C)の含有量は、接着強度の観点から、オレフィン系重合体(B)100質量%に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは150質量%以上、更に好ましくは200質量%以上であり、そして、好ましくは300質量%以下、より好ましくは250質量%以下である。
【0070】
<ワックス(D)>
本発明の木工用ホットメルト接着剤は、ワックス(D)を含有してもよい。
ワックス(D)としては、例えば、動物ワックス、植物ワックス、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、木蝋、蜜蝋、鉱物ワックス、石油ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、高級脂肪酸ワックス、高級脂肪酸エステルワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられる。
本発明の木工用ホットメルト接着剤がワックス(D)を含有する場合、柔軟性向上、粘度低下による濡れ性の向上の観点から、ワックス(D)含有量は、ホットメルト接着剤100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0071】
<添加剤>
また、本発明の木工用ホットメルト接着剤は、必要に応じて可塑剤、無機フィラー、酸化防止剤等の各種添加剤を含有してもよい。
可塑剤としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、脂肪酸エステル類、グリコール類、エポキシ系高分子可塑剤などを例示できる。
無機フィラーとしては、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、ウォラストナイト、シリカ、雲母、カオリン、酸化チタン、ケイソウ土、尿素系樹脂、スチレンビーズ、澱粉、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、石英粉末などを例示できる。
酸化防止剤としては、トリスノニフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、アデカスタブ1178((株)ADEKA製、「アデカスタブ」は登録商標)、スミライザーTNP(住友化学(株)製、「スミライザー」は登録商標)、イルガフォス168(BASF社製、「イルガフォス」は登録商標)、SandostabP−EPQ(サンド社製、「Sandostab」は登録商標)、等のリン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、スミライザーBHT(住友化学(株)製)、イルガノックス1010(BASF社製、「イルガノックス」は登録商標)等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、スミライザーTPL(住友化学(株)製)、ヨシノックスDLTP(吉富製薬(製)、「ヨシノックス」は登録商標)アンチオックスL(日油(株)製、「アンチオックス」は登録商標)等のイオウ系酸化防止剤などを例示できる。
【0072】
<木工用ホットメルト剤の特性>
(木工用ホットメルト剤の溶融粘度)
本発明の木工用ホットメルト剤は、より適度な流動性と良好な接着性のバランスに優れた効果が得られる観点から、180℃での溶融粘度が、好ましくは5Pa・s以上、より好ましくは7Pa・s以上、更に好ましくは8Pa・s以上であり、そして、好ましくは13.5Pa・s以下、より好ましくは13Pa・s以下である。
該180℃での溶融粘度とは、具体的には、実施例に記載の方法で測定される値である。
(木工用ホットメルト剤の軟化点)
本発明の木工用ホットメルト剤は、低温での使用時においても、より優れた流動性と良好な接着性のバランスに優れた効果が得られる観点から、軟化点が、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、そして、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下である。
該180℃での溶融粘度とは、具体的には、実施例に記載の方法で測定される値である。
また、木工用ホットメルト接着剤は木材の表面に模様が描かれた紙等を貼り合わせて家具や建材等に利用されるため、被着体の面積が大きくなる。そのため、木工用ホットメルト接着剤はオープンタイムが長いことや塗布面積が大きくなることから少ない塗布量で十分な接着強度があることが求められる。木工用ホットメルト接着剤に凝集力が強い上記プロピレン系重合体(A)を用いることで被着体である木材にホットメルト接着剤が染み込み、アンカー効果が得られやすく接着強度が向上することが予想される。したがって、本発明の木工用ホットメルト接着剤は少ない塗布量でも十分な接着強度を示すことが考えられる。
【0073】
<木工用ホットメルト接着剤の製造方法>
本発明木工用ホットメルト接着剤は、上述したプロピレン系重合体(A)と、オレフィン系重合体(B)と、必要に応じて粘着付与樹脂(C)、ワックス(D)及び各種添加剤とをヘンシェルミキサー等を用いてドライブレンドし、ステンレス等からなる耐熱性容器中で回転翼等の攪拌翼を使用して行う加熱攪拌、単軸又は2軸押出機、プラストミルやバンバリーミキサー等により溶融混練することで製造することができる。
【0074】
[木工用ホットメルトを用いた接着方法]
本発明の木工用ホットメルト接着剤は、流動性が高く、塗布性に優れる。ダンボール等の包装用の接着剤や、木工用の接着剤として好適に使用することができる。
本発明の木工用接着方法は、木工基材の接着方法であり、上述した本発明の木工用ホットメルト接着剤を溶融し、木工基材、又は他の基材に塗布する工程、及び塗布された該ホットメルト接着剤に木工基材、又は他の基材を接着する工程を含む。ただし、用いる基材の少なくとも1種が木工基材である。
ここで、木工基材とは、木工用の材料であれば特に制限されないが、例えば、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)、パイン材等の各種木材、パルプ等から製造される紙、フラッシュパネル、集成材、ツキ板、化粧板、合板、木を原料とする製品に限られず、各種の植物に由来する材料(例えば、紙の原料となるパルプとして使用されるアバカ、バナナ、サトウキビ等のセルロース骨格(またはそれに類似する骨格を有する天然の材料に由来するもの))、及びそれらを一部分又は全部に使用した材料から選ばれる1種以上が挙げられ、本発明の木工用ホットメルトにより接着される面が木工用途に用いるもので構成されていればよい。
また、本発明の木工用ホットメルト接着剤は、流動性が高く、塗布性に優れることから、低圧成形用等の成形法にも好適に用いることができる。したがって、その他の基材としては、特に制限されないが、上述の各材料用に用いられるプラスチック材料や金属材料等が挙げられる。
【実施例】
【0075】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0076】
[オレフィン系重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)の評価]
以下に、実施例及び比較例で用いたオレフィン系重合体(A)、オレフィン系重合体(B)の測定方法について説明する。
〔引張弾性率の測定〕
試料をプレス成形して試験片を作成し、JIS K 7113に準拠して、下記条件にて引張弾性率を測定した。
・試験片(2号ダンベル) 厚み:1mm
・クロスヘッド速度:100mm/min
・ロードセル:100N
・測定温度:23℃
〔DSC測定〕
<ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm−D)>
示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC−7)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから、ガラス転移温度Tgとして求めた。また、得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップから融点(Tm−D)を求めた。
(ガラス転移温度(Tg))
得られた融解吸熱カーブ中で、吸熱方向に対して該吸熱カーブが2回以上変化した場合において、最初に吸熱方向にベースラインのシフトが発生した箇所において、元のベースラインの延長線と、元のベースラインとシフト後のベースラインとをつなぐカーブ上の変曲点(上に凸のカーブが下に凸のカーブに変わる点)での接線との交点が得られる位置に相当する温度を読み取り、ガラス転移温度(Tg)とした。
ただし、当該最初に吸熱方向へのシフトが確認されたベースラインの変化が、下記に示す融点(Tm−D)に相当する場合(吸熱方向へのカーブの動きが一度のみ、かつ吸熱ピークとして観測された場合)は除く。
(融点(Tm−D))
得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップから融点(Tm−D)を求めた。
【0077】
〔立体規則性の測定:NMR測定〕
以下に示す装置及び条件で、13C−NMRスペクトルの測定を行った。なお、ピークの帰属は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案された方法に従った。
装置:日本電子(株)製JNM−EX400型13C−NMR装置
方法:プロトン完全デカップリング法
濃度:220mg/ml
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10,000回
【0078】
<計算式>
M=m/S×100
R=γ/S×100
S=Pββ+Pαβ+Pαγ
S:全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度
Pββ:19.8〜22.5ppm
Pαβ:18.0〜17.5ppm
Pαγ:17.5〜17.1ppm
γ:ラセミペンタッド連鎖:20.7〜20.3ppm
m:メソペンタッド連鎖:21.7〜22.5ppm
【0079】
メソペンタッド分率[mmmm]、ラセミペンタッド分率[rrrr]及びラセミメソラセミメソペンダッド分率[rmrm]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠して求めた。
【0080】
〔重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)の測定〕
ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)法により、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。測定には、下記の装置及び条件を使用し、ポリスチレン換算の重量平均分子量を得た。
<GPC測定装置>
カラム :東ソー(株)製「TOSO GMHHR−H(S)HT」
検出器 :液体クロマトグラム用RI検出 ウォーターズ・コーポレーション製「WATERS 150C」
<測定条件>
溶媒 :1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃
流速 :1.0ml/分
試料濃度 :2.2mg/ml
注入量 :160μl
検量線 :Universal Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0081】
〔極限粘度[η]の測定〕
粘度計((株)離合社製、商品名:「VMR−053U−PC・F01」)、ウベローデ型粘度管(測時球容積:2〜3ml、毛細管直径:0.44〜0.48mm)、溶媒としてテトラリンを用いて、0.02〜0.16g/dLの溶液を135℃にて測定した。
〔軟化点の測定:Ring and Ball法〕
JAI7−1991に準拠して、Ring and Ball法により測定した。
〔溶融粘度〕
JIS K−6862に準拠して、190℃において、TVB−15型ブルックフィールド回転粘度計(M2のローター使用)を用いて測定した。
【0082】
以下に、実施例及び比較例で使用したプロピレン系重合体(A)の製造例について説明する。
<プロピレン系重合体(A)>
プロピレン系重合体(A)として、以下の重合体を用いた。
製造例1及び製造例2(プロピレン系重合体A1及びプロピレン系重合体A2の製造)
攪拌機付きの内容積20Lのステンレス製反応器に、n−ヘプタンを20L/hr、トリイソブチルアルミニウムを15mmol/hr、さらに、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライド、トリイソブチルアルミニウム及びプロピレンを質量比1:1:2:20で、事前に接触させて得られた触媒成分を、ジルコニウム換算で6μmol/hrで連続供給した。
反応器内の全圧を1.0MPa・Gに保つようプロピレンと水素とを連続供給し、重合温度を適宜調整し、下記表1に記載の所望の分子量を有する重合溶液を得た。
得られた重合溶液に、酸化防止剤をその含有割合が1000質量ppmになるように添加し、次いで溶媒を除去することにより、それぞれ、プロピレン系重合体A1、プロピレン系重合体A2を得た。
【0083】
以下に、実施例及び比較例で使用したオレフィン系重合体(B)の製造例について説明する。
<オレフィン系重合体(B)>
オレフィン系重合体(B)として、以下の重合体を用いた。
(オレフィン系重合体B1)
「VESTOPLAST 828」(商品名、「VESTOPLAST」は登録商標、EVONIK社製、チーグラーナッタ触媒で重合して得られたエチレン(C2)/プロピレン(C3)/ブテン(C4)共重合体)
(オレフィン系重合体B2)
「VESTOPLAST 750」(商品名、EVONIK社製、チーグラーナッタ触媒で重合して得られたエチレン(C2)/プロピレン(C3)/ブテン(C4)共重合体)
(オレフィン系重合体B3)
「VESTOPLAST 891」(商品名、EVONIK社製、チーグラーナッタ触媒で重合して得られたエチレン(C2)/プロピレン(C3)/ブテン(C4)共重合体)
【0084】
オレフィン系重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)について、上述の測定を行った。結果を、以下の表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
以下に、実施例及び比較例で使用した粘着付与樹脂(C)について説明する。
<粘着付与樹脂(C)>
「アイマーブ P−125」(商品名、「アイマーブ」は登録商標、出光興産(株)製、水添石油樹脂)
【0087】
実施例1〜4及び比較例1〜5
下記表2に示す割合(質量部)で、(A)〜(C)成分を配合して容積1Lのステンレス製容器に入れ、マントルヒーターを用いて180℃で30分間加熱して溶融させた。溶融後、回転翼で十分に攪拌してホットメルト接着剤を製造した。得られた各ホットメルト接着剤について、以下の評価を行った。
【0088】
〔溶融粘度〕
JIS K−6862に準拠して、180℃において、TVB−15型ブルックフィールド型回転粘度計(M2のローター使用)を用いて測定した。
〔軟化点の測定:Ring and Ball法〕
JAI7−1991に準拠して、Ring and Ball法により測定した。
【0089】
〔接着性能評価〕
各ホットメルト接着剤の接着性能を評価する目的で貼り合わせ試験片を作成し、以下に示す条件で180°剥離試験を行った。
破壊形態としては、材料破壊(被着体が破壊)となるものを○、一部材料破壊となるものを△、凝集破壊となるものを×とした。
なお、ホットメルト接着剤塗布量が60g/mの場合(破壊形態 at 60g/m)、及びホットメルト接着剤塗布量が30g/mの場合(破壊形態 at 30g/m)のそれぞれについて3回ずつ評価した。
<貼り合わせ試験片の作成>
ホットロールバーコーターを170℃に加熱し、得られたホットメルト接着剤を60g/m又は30g/mとなるようにPPフィルム積層体(50mm×100mm)に塗布した。その後、ホットメルト接着剤の塗布されたPPフィルム積層体をMDF(中密度繊維板、形状:50mm×80mm×5.5mm)と接着させ、5kgの重りを乗せて室温で10秒間冷却させて接着試験片を作製した。重りを外し、接着試験片を23℃、湿度50%の環境下で24時間静置し、測定用試験片を作製した。
<180°剥離試験>
180°剥離試験には(株)島津製作所製オートグラフAGS-Xを用い、剥離速度100mm/min、剥離長さ100mmで剥離試験を行った。上述の測定用試験片を用いて、剥離方向180°でMDFから、ホットメルト接着剤で接着されたPPフィルム積層体を剥離した際の被着体の破壊形態を確認した。
破壊形態としては、材料破壊(被着体が破壊)となるものを○、一部材料破壊となるものを△、凝集破壊となるものを×とした。剥離試験及び破壊形態の確認は1つの例あたり3回行い、3回中最も多く確認された破壊形態をその例の評価結果とした。結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
表2から明らかなように、実施例1〜4の木工用ホットメルト接着剤は、比較例1〜5と比べて溶融粘度が低く(流動性が高く)、接着力に優れていることが分かる。
ここで、オレフィン系重合体(B)を用いていない比較例1は、溶融粘度が高く、接着力が劣っている。また、プロピレン系重合体(A)を用いていない比較例2は、比較例1よりも、更に溶融粘度が高く、接着力が劣る結果となった。
また、プロピレン系重合体(A)とオレフィン系重合体(B)の合計100質量%に対して、プロピレン系重合体(A)の含有量が31質量%未満(30.8質量%)である比較例3〜5でも、溶融粘度が高く、接着力が劣る結果となった。
それに対して、プロピレン系重合体(A)とオレフィン系重合体(B)の合計100質量%に対して、プロピレン系重合体(A)の含有量が31〜95質量%の範囲である実施例1〜4では、高い流動性と優れた接着性を両立した木工用ホットメルト接着剤を得ることができたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の木工用ホットメルト接着剤は、木工基材に対する接着性に優れており、塗布量を削減することが可能であることから、木工基材同士の接着用途、又は木工基材と、例えばプラスチック材料、金属材料等、種々の材料との接着用途に好適に使用することができる。