(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471040
(24)【登録日】2019年1月25日
(45)【発行日】2019年2月13日
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用組成物
(51)【国際特許分類】
A21D 2/36 20060101AFI20190204BHJP
A21D 13/064 20170101ALI20190204BHJP
A21D 13/047 20170101ALI20190204BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20190204BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D13/064
A21D13/047
A21D2/16
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-103104(P2015-103104)
(22)【出願日】2015年5月20日
(65)【公開番号】特開2016-214157(P2016-214157A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 剛
(72)【発明者】
【氏名】山本 英二
(72)【発明者】
【氏名】長田 貞男
【審査官】
川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−039477(JP,A)
【文献】
特開平01−157348(JP,A)
【文献】
特開2012−090581(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/027975(WO,A1)
【文献】
特開2012−249613(JP,A)
【文献】
特開2005−151880(JP,A)
【文献】
もっちり大麦食パン,クックパッド, [online],2015年3月18日,レシピID 3074472,[2018年8月7日検索], インターネット,<https://cookpad.com/recipe/3074472>
【文献】
食品用乳化剤の市場動向,食品と開発 9月号,2005年 9月 1日,第40巻,第9号,43〜47
【文献】
竹内枝穂、外1名,品種の異なる大麦粉の食パンへの利用,日本調理科学会誌,2003年,Vol.36,No.1,p.23−31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類、ならびにステアロイル乳酸ナトリウム及びステアロイル乳酸カルシウムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を含有する、ベーカリー食品用組成物であって、
該穀粉類は、その総量中に、もち大麦粉及び/又は大麦粉5〜50質量%、ならびに小麦グルテンを乾燥物換算で0.5〜20質量%含み、かつ該穀粉類は、該もち大麦粉及び/又は大麦粉ならびに小麦グルテン以外の、他の穀粉類をさらに含み、
該組成物中における該乳化剤の含有量が、該穀粉類100質量部に対して0.05〜2.0質量部である、
ベーカリー食品用組成物。
【請求項2】
前記他の穀粉類が強力粉である、請求項1記載のベーカリー食品用組成物。
【請求項3】
前記穀粉類の総含有量が50〜99.95質量%である、請求項1又は2記載のベーカリー食品用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のベーカリー食品用組成物を用いたベーカリー食品生地の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法で製造されたベーカリー食品生地を焼成することを含むベーカリー食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品用組成物、及びそれを用いて製造したベーカリー食品に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の味の嗜好や健康志向に応じて、小麦以外の穀類の粉を原料とするパンや菓子が製造されている。例えば、特許文献1には、パン生地の主原料に小麦粉、大麦粉、米粉、澱粉からなる群から選ばれる一種以上の穀物粉を用いることが記載されている。特許文献2には、大麦粉と玄米粉又は玄米粒を含有し、実質的に小麦粉を含有しないパン又は菓子用大麦玄米組成物を用いて、ミネラル及び食物繊維が豊富でかつ風味及び食感に優れたパン又は菓子を製造する方法が記載されている。特許文献3には、粥状の大麦にイーストを添加して発酵させた元種10〜40重量%、米粉1〜40重量%、小麦粉1〜40重量%及び水を必須成分として含有するパン生地用組成物を用いて、老化速度の遅いパンを製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−333962号公報
【特許文献2】特開2010−022271号公報
【特許文献3】特開2011−055739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生地にしたときの作業性が良く、かつ大麦の旨味と食感を有するベーカリー食品を製造することができる、ベーカリー食品用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、もち大麦粉及び/又は大麦粉5〜50質量%と小麦グルテン0.5〜20質量%とを含む穀粉類、ならびにステアロイル乳酸ナトリウム及びステアロイル乳酸カルシウムからなる群より選択される1種以上の乳化剤を含有する、ベーカリー食品用組成物を提供する。
また本発明は、上記ベーカリー食品用組成物を用いたベーカリー食品生地の製造方法を提供する。
また本発明は、上記ベーカリー食品生地を焼成することを含むベーカリー食品の製造方法を提供する。
また本発明は、上記ベーカリー食品用組成物を用いて製造されたベーカリー食品を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のベーカリー食品用組成物は、生地にしたときの作業性が良く、かつ大麦の旨味と食感を有するベーカリー食品を製造することができる組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のベーカリー食品用組成物は、ベーカリー食品の製造のための原料粉として使用される。本明細書において、ベーカリー食品とは、穀粉を主原料とし、これに必要に応じてイーストや膨張剤(ベーキングパウダー等)、水、食塩、砂糖などの副材料を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼く、揚げる、蒸す等の加熱処理を行って得られる食品をいう。ベーカリー食品の例としては、ドーナツ、パン類、ケーキ類、及びワッフル、シュー、ビスケット等の焼き菓子などが挙げられる。本発明の組成物は、好ましくは発酵生地から得られるベーカリー食品の製造に使用され、より好ましくはパン類の製造に使用される。
【0008】
本発明のベーカリー食品用組成物は、もち大麦粉及び/又は大麦粉を含有する。もち大麦は、もち麦とも呼ばれる、いわゆるもち種の大麦である。本発明で使用されるもち大麦粉とは、もち大麦の粉をいい、一方、本発明で使用される大麦粉とは、もち大麦ではない大麦(例えばうるち麦)の粉をいう。本発明のベーカリー食品用組成物においては、もち大麦粉と大麦粉はいずれか単独で使用されても、併用されてもよいが、好ましくはもち大麦粉が使用される。
【0009】
本発明のベーカリー食品用組成物はまた、小麦グルテンを含有する。小麦グルテンとしては、生グルテンを使用しても、粉末グルテン(活性グルテン)を使用してもよい。
【0010】
本発明のベーカリー食品用組成物は、上述したもち大麦粉及び/又は大麦粉、ならびに小麦グルテン以外の他の穀粉類をさらに含有する。他の穀粉類としては、例えば、小麦粉、ライ麦粉、米粉、トウモロコシ粉などが挙げられ、このうち、小麦粉が好ましい。小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉などが挙げられる。これらの他の穀粉類は、いずれか単独で使用されても、いずれか2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0011】
本発明のベーカリー食品用組成物における、上記もち大麦粉及び/又は大麦粉、小麦グルテン、ならびに他の穀粉類を含めた穀粉類の総含有量は、好ましくは50〜99.95質量%、より好ましくは75〜99.9質量%である。該穀粉類の総量中における該もち大麦粉及び/又は大麦粉の含有量は、合計で、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%である。また、該穀粉類の総量中における該小麦グルテンの含有量は、乾燥物(粉末グルテン)換算で、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは2〜10質量%である。
【0012】
本発明のベーカリー食品用組成物はさらに、ステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)及びステアロイル乳酸カルシウム(CSL)からなる群より選択される1種以上の乳化剤を必須成分として含有する。本発明のベーカリー食品用組成物において、当該SSL及びCSLは、いずれか一方のみを使用しても、両方を使用してもよい。本発明のベーカリー食品用組成物における当該SSL及びCSLの合計含有量は、上記穀粉類100質量部に対して、好ましくは0.05〜2.0質量部、より好ましくは0.1〜1.0質量部である。
【0013】
本発明のベーカリー食品用組成物はさらに、ベーカリー食品の原料粉に使用され得るその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめ、麦芽糖、乳糖などの糖類;馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシースターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉等の澱粉や、それらにα化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化などの処理を施した加工澱粉;卵粉、卵白粉、大豆蛋白などの蛋白素材;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエイ粉末などの乳製品;ショートニングやバター、マーガリンやその他の動植物油などの粉末油脂;イースト、重曹、ベーキングパウダーなどの膨張剤;モルト粉末やモルトエキス;イーストフード;食塩などの無機塩類;グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼなどの酵素類;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、サポニン、ユッカフォーム、ステロール、コール酸などのSSL又はCSL以外の乳化剤;食物繊維;増粘剤、酸化防止剤、酸味料、香料、香辛料、着色料等の添加物、などを挙げることができる。本発明のベーカリー食品用組成物における上記その他の成分の含有量は、50質量%以下であればよく、好ましくは25質量%以下である。
【0014】
上記本発明のベーカリー食品用組成物を使用してベーカリー食品を製造する場合、原料粉として該本発明のベーカリー食品用組成物を使用すること以外は、基本的に定法に従えばよい。すなわち、基本的には、本発明のベーカリー食品用組成物を原料粉として用い、これを水分と混捏して生地を製造する。上記生地には、本発明のベーカリー食品用組成物及び水分の他に、卵、乳、油脂、イースト、その他の成分などの、従来ベーカリー食品生地の製造に使用されている各種材料を添加してもよい。次いで、必要に応じて発酵、成形等の工程を経た後、得られた生地を焼成、揚げ、蒸しなど加熱処理することによって、ベーカリー食品を製造することができる。
【0015】
例えば、本発明におけるベーカリー食品の製造には、通常の製パン方法、例えば、直捏法、中種法(発酵種法)、湯種法、ノータイム法などを採用することができる。例えば、直捏法の場合、通常の手順に従って原料粉から生地を調製し、該生地を発酵させ、必要に応じてさらに成形及び二次発酵させ、次いで焼成することにより、ベーカリー食品を製造することができる。中種法としては、慣用される70%中種法の他、100%中種法(フルフレーバー法)、加糖中種法、オーバーナイト中種法などを採用することができる。中種法の場合、通常の手順に従って、原料粉の一部、イースト、水分、及び必要に応じて他の材料を混捏、発酵させて中種を調製する。この中種に残りの原料粉及び必要に応じて他の材料や水分を加え、通常の手順に従って混捏、成形、二次発酵、次いで焼成することにより、ベーカリー食品を製造することができる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0017】
(実施例1)
以下の配合及び手順に従ってパン生地を調製し、食パンを製造した。得られたパン生地は、まとまりがよく作業性に優れていた。また製造された食パンは、大麦の旨味と食感を有する好ましいものであった。
(配合:質量部)
強力粉 78
もち大麦粉 18
小麦グルテン 4
乳化剤組成物
*1 0.5
添加剤
*2 0.15
食塩 2
砂糖 6
脱脂粉乳 2
生イースト 2.5
マーガリン 5
水 80
(*1)USL(オリエンタル酵母(株));乳化剤として、ステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)を50質量%含有する。
(*2)Cオリエンタルフード(オリエンタル酵母(株));酸化剤・酵素含有組成物
【0018】
(手順)
ミキシング 低速4分→中速4分→高速1分
→マーガリン添加→低速2分→中速3分→高速1分
捏上 27℃
発酵 90分(27℃75%)
生地分割 235gごとに分割
ベンチタイム 20分
生地成形 分割した生地6個を3斤型にU字同方向詰め
ホイロ 50分(38℃85%)
焼成 約35分(210℃)
【0019】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、下記配合にてパン生地を調製し、食パンを製造した。得られたパン生地は、まとまりがよく作業性に優れていた。また製造された食パンは、大麦の旨味と食感を有する好ましいものであった。
(配合:質量部)
強力粉 78
大麦粉 18
小麦グルテン 4
乳化剤組成物
*1 0.5
添加剤
*2 0.15
食塩 2
砂糖 6
脱脂粉乳 2
生イースト 2.5
マーガリン 5
水 75
(*1)USL(オリエンタル酵母(株));乳化剤として、ステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)を50質量%含有する。
(*2)Cオリエンタルフード(オリエンタル酵母(株));酸化剤・酵素含有組成物
【0020】
(試験1)
下記表1の配合に従って、実施例1と同様の手順で食パンを製造した。製造中の生地の作業性、及び得られた食パンの食味・食感を、下記基準にて10人のパネラーによって評価し、平均点を求めた。結果を表1に示す。
<生地作業性>
3点:適度な生地感で作業性が良い
2点:生地がややべたつくもしくは硬く、やや作業性が悪い
1点:生地がべたつくもしくは硬く、作業性が悪い。
<食味・食感>
3点:大麦の旨味と食感がある
2点:やや大麦の旨味と食感がある
1点:大麦の旨味と食感が感じられない
【0021】
【表1】
【0022】
(試験2)
穀粉類の配合を表2のとおり変更した以外は上記表1の配合4に従い、かつ試験1と同様の手順で食パンを製造して食感を評価した。結果を表2に示す。なお、表2には配合4の結果を再掲する。
【0023】
【表2】
【0024】
(試験3)
乳化剤の量を表3のとおり変更した以外は上記表1の配合4に従い、かつ試験1と同様の手順で、食パンを製造して食感を評価した。結果を表3に示す。なお、表3には配合4の結果を再掲する。
【0025】
【表3】