特許第6471567号(P6471567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6471567光学フィルムの製造方法及び光学フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471567
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法及び光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/88 20190101AFI20190207BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20190207BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20190207BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20190207BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20190207BHJP
【FI】
   B29C47/88 Z
   G02B5/30
   B29C47/92
   B29L7:00
   B29L11:00
【請求項の数】4
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-61234(P2015-61234)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-179608(P2016-179608A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】葛西 亮
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大士
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−307533(JP,A)
【文献】 特開2001−079929(JP,A)
【文献】 特開2010−111060(JP,A)
【文献】 特開2009−197178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度Tg(℃)の熱可塑性樹脂を溶融状態で押出し、溶融樹脂フィルムを連続的に成形する溶融樹脂フィルム成形工程、及び
前記溶融樹脂フィルムをキャストロールに連続的に導き、前記キャストロールの回転により前記溶融樹脂フィルムを前記キャストロール周面上の搬送経路に沿って搬送し、前記溶融樹脂フィルムを冷却することにより硬化フィルムを形成し、形成された前記硬化フィルムを前記キャストロールから離脱させる冷却工程
を含む、光学フィルムの製造方法であって、
前記冷却工程は、
前記溶融樹脂フィルムの表面の一部の領域Aを前記キャストロールに付着させて、前記溶融樹脂フィルムを拘束する工程(i)、及び
前記硬化フィルムを前記キャストロールから離脱させる前に、前記拘束を解除する工程(ii)
を含み、
前記冷却工程はさらに、前記硬化フィルムの離脱に際しての硬化フィルムの温度がTg以下となるよう、前記冷却工程における条件を制御することを含
前記工程(ii)を、前記溶融樹脂フィルムの温度が前記熱可塑性樹脂の位相差発現温度Tx以上の温度である時点において行う、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の光学フィルムの製造方法であって、
前記工程(ii)が、前記領域A、前記領域Aの近傍、又はこれらの両方において、前記溶融樹脂フィルムを加熱することを含む、製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法であって、
前記工程(ii)が、前記領域A、前記領域Aの近傍、又はこれらの両方において、前記溶融樹脂フィルムを切断することを含む、製造方法。
【請求項4】
請求項に記載の光学フィルムの製造方法であって、
前記工程(ii)が、前記溶融樹脂フィルムと前記キャストロールとの空隙に空気を送入し、それにより前記拘束を解除することを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法及び光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムの製造方法の一つに、溶融押出法がある。溶融押出法では、通常、溶融した熱可塑性樹脂をダイから押し出すことにより、溶融樹脂をフィルム状に成形する。その後、成形されたフィルム状の溶融樹脂を冷却して硬化させることにより、所望のフィルムを製造する。溶融押出法によれば、長尺のフィルムを効率的に製造することができる。
【0003】
このような溶融押出法を、光学フィルムの製造に適用することについても、従来より検討がなされている(特許文献1〜3)。例えば、偏光板保護フィルム、及び従来より用いられるガラス基板の代替としての樹脂フィルム基板等の構成要素として、液晶表示装置等の表示装置において用いることが検討されている。
【0004】
溶融押出法における溶融樹脂フィルムの冷却は、一般的には、溶融樹脂フィルムをキャストロール等の支持体の周面に押し出し、溶融樹脂フィルムから支持体へ熱を伝え、溶融樹脂フィルムの温度を徐々に下げることにより行われる。また、溶融樹脂フィルムをキャストロールの周面に沿って搬送させる際には、ピニングと呼ばれる操作を行うことが一般的である。ピニングとは、溶融樹脂フィルムの表面の一部の領域をキャストロールに付着させて、溶融樹脂フィルムを拘束する操作である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−99097号公報
【特許文献2】特開2009−166325号公報
【特許文献3】特開2008−302524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学フィルムを製造する際には、得られる光学フィルムの厚さ及び位相差等の特性を厳密に制御することが求められる。特に、偏光板保護フィルム、樹脂フィルム基板等のある種の用途に用いる光学フィルムは、その面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの両方を、非常に小さく且つ均一な値にすることが求められる場合がある。そのような光学フィルムを、溶融押出法により製造する場合、Re及びRthの両方を所望の小さく且つ均一な値とし、且つフィルムの厚さを均質なものとすることは困難である。特に、製造ラインの速度を速めて効率的な製造を行うことが求められる場合、Re、Rth及び厚さを均質なものとすることは、特に困難である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの両方が小さく且つ均一であり、且つ厚さが均一なフィルムの効率的な製造を可能とする、光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記課題を解決するべく検討し、特に、溶融樹脂フィルムをキャストロールの周面上において冷却する工程に着目して検討した。その結果、キャストロール上での溶融樹脂の寸法拘束により、複屈折性が生じやすいことを見出し、特に、溶融樹脂フィルムがある特定の温度領域において寸法拘束により位相差が発現することを見出した。本発明者はさらに、キャストロール上の特定の領域においてピニングによる拘束を解除することで、冷却時の複屈折性の発生を低減することができ、その結果、面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの両方が小さく且つ均一となり、さらに厚さも均一なフィルムを、製造ラインの速度を速めても製造することができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕 ガラス転移温度Tg(℃)の熱可塑性樹脂を溶融状態で押出し、溶融樹脂フィルムを連続的に成形する溶融樹脂フィルム成形工程、及び
前記溶融樹脂フィルムをキャストロールに連続的に導き、前記キャストロールの回転により前記溶融樹脂フィルムを前記キャストロール周面上の搬送経路に沿って搬送し、前記溶融樹脂フィルムを冷却することにより硬化フィルムを形成し、形成された前記硬化フィルムを前記キャストロールから離脱させる冷却工程
を含む、光学フィルムの製造方法であって、
前記冷却工程は、
前記溶融樹脂フィルムの表面の一部の領域Aを前記キャストロールに付着させて、前記溶融樹脂フィルムを拘束する工程(i)、及び
前記硬化フィルムを前記キャストロールから離脱させる前に、前記拘束を解除する工程(ii)
を含み、
前記冷却工程はさらに、前記硬化フィルムの離脱に際しての硬化フィルムの温度がTg以下となるよう、前記冷却工程における条件を制御することを含む、光学フィルムの製造方法。
〔2〕 〔1〕に記載の光学フィルムの製造方法であって、
前記工程(ii)を、前記溶融樹脂フィルムの温度が前記熱可塑性樹脂の位相差発現温度Tx以上の温度である時点において行う、製造方法。
〔3〕 〔1〕又は〔2〕に記載の光学フィルムの製造方法であって、
前記工程(ii)が、前記領域A、前記領域Aの近傍、又はこれらの両方において、前記溶融樹脂フィルムを加熱することを含む、製造方法。
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法であって、
前記工程(ii)が、前記領域A、前記領域Aの近傍、又はこれらの両方において、前記溶融樹脂フィルムを切断することを含む、製造方法。
〔5〕 〔1〕又は〔2〕に記載の光学フィルムの製造方法であって、
前記工程(ii)が、前記溶融樹脂フィルムと前記キャストロールとの空隙に空気を送入し、それにより前記拘束を解除することを含む、製造方法。
〔6〕 〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法であって、
前記工程(ii)より後の前記フィルムの温度をTg+25℃以下に制御し、
前記キャストロールから離脱した後の前記硬化フィルムの温度をTg以下に制御する、製造方法。
〔7〕 〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの両方が小さく且つ均一であり、且つ厚さが均一な本発明の光学フィルムを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の光学フィルムの製造方法を実施するための光学フィルム製造装置、及びそれを用いた本発明の光学フィルムの製造方法の操作の第一実施形態を模式的に示す側面図である。
図2図2は、図1に示す光学フィルム製造装置における冷却装置200、及びそれを用いた、本発明の光学フィルムの製造方法における冷却工程の一例を模式的に示す側面図である。
図3図3は、図2に示す冷却装置200の構成要素の位置関係を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、図2に示す冷却装置200の構成要素の位置関係を、図3とは別の角度から模式的に示す斜視図である。
図5図5は、ある熱可塑性樹脂における、温度と、損失係数との関係の例を示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
〔1.概要〕
本発明の光学フィルムの製造方法は、ガラス転移温度Tg(℃)の熱可塑性樹脂を溶融状態で押出し、溶融樹脂フィルムを連続的に成形する溶融樹脂フィルム成形工程、及び溶融樹脂フィルムをキャストロールに連続的に導き、キャストロールの回転により溶融樹脂フィルムをキャストロール周面上の搬送経路に沿って搬送し、溶融樹脂フィルムを冷却することにより硬化フィルムを形成し、形成された硬化フィルムをキャストロールから離脱させる冷却工程を含む。
【0014】
図1は、本発明の光学フィルムの製造方法を実施するための光学フィルム製造装置、及びそれを用いた本発明の光学フィルムの製造方法の操作の第一実施形態を模式的に示す側面図である。図1に示す第一実施形態において、光学フィルム製造装置10は、溶融樹脂フィルム成形装置110、及び溶融樹脂フィルム成形装置110の下流に設けられる冷却装置200を備える。溶融樹脂フィルム成形装置110は押出成形機111及びダイ112を備え、冷却装置200はキャストロール130、冷却条件を調節する調節器(図1において不図示)を備える。光学フィルム製造装置10はさらに、冷却装置200の下流に設けられ、得られた光学フィルムの性状を測定するための自動複屈折計141及び膜厚計142を有し、得られた光学フィルムはロール151として巻き取られる。
【0015】
〔2.溶融樹脂フィルム成形工程〕
光学フィルム製造装置10の操作において、光学フィルムの材料となる樹脂は、押出成形機111において溶融され、必要に応じてポリマーフィルター及びギヤポンプ(不図示)を経て、ダイ112に供給される。ダイ112のリップ部分から樹脂が吐出され、これにより樹脂は溶融樹脂フィルム101として押し出され、溶融樹脂フィルム101が連続的に成形される。押出成形機111の内部の温度及びダイ112の温度は適宜調整することができ、それにより、溶融樹脂フィルム101を所望の温度でダイ112から押し出しうる。溶融樹脂フィルム成形工程においては、複数の層を有する溶融樹脂フィルムを共押出成形することもできるが、通常は一の層を有する溶融樹脂フィルムを押出成形し、単層の光学フィルムを製造する。
【0016】
溶融樹脂フィルムを押し出す際の押出温度は、面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの両方が小さく且つ厚さが均一なフィルムの製造が達成しうる温度に適宜調節しうる。具体的には、押出温度は、好ましくはTg+60℃以上、より好ましくはTg+120℃以上であり、一方好ましくはTg+155℃以下、より好ましくはTg+140℃以下である。
【0017】
〔3.冷却工程〕
溶融樹脂フィルム成形工程で得られた溶融樹脂フィルム101は、連続的に、冷却装置200のキャストロール130に連続的に導かれる。キャストロール130は軸131を中心として回転し、これにより、溶融樹脂フィルム101はキャストロールの周面上の搬送経路に沿って搬送され、同時に、溶融樹脂フィルム101が冷却される。溶融樹脂フィルム101の熱は、その一部は周囲の空気中にも放熱されるが、大部分はキャストロール130へ伝達され、それにより、溶融樹脂フィルム101の冷却が達成される。かかる冷却により、溶融樹脂フィルム101は硬化フィルム102となり、矢印A1方向に搬送される。硬化フィルム102は、必要に応じて自動複屈折計141及び膜厚計142によりその性状を測定した後、巻き取り機により巻き取られ、製品である光学フィルムのロール151とされる。
【0018】
本発明の製造方法においては、溶融した状態で押し出された溶融樹脂フィルムは、冷却工程において徐々に冷却され徐々に硬化する。本願では、説明の便宜上、溶融樹脂フィルムが、冷却の結果、キャストロールから離脱できる程度に硬化したものを「硬化フィルム」と呼び、押し出された直後から、硬化フィルムに至る直前までのフィルムを、区別せず「溶融樹脂フィルム」という。また、溶融樹脂フィルムと、その後の硬化したフィルムとを総称して、単に「フィルム」と呼ぶ場合がある。
【0019】
図2は、図1に示す光学フィルム製造装置における冷却装置200、及びそれを用いた、本発明の光学フィルムの製造方法における冷却工程の一例を模式的に示す側面図であり、図3は、図2に示す冷却装置200の構成要素の位置関係を模式的に示す斜視図である。図4は、図2に示す冷却装置200の構成要素の位置関係を、図3とは別の角度から模式的に示す斜視図である。但し、図示の便宜のため、図3及び図4においては、調節器220及び230は図示していない。
【0020】
図2に示す第一実施形態において、冷却装置200のキャストロール130は、溶融樹脂フィルム101を、その周面上の搬送経路に沿って搬送するよう配置される。本願において、周面上の搬送経路とは、溶融樹脂フィルムの搬送経路のうち、キャストロールがフィルムを受容する位置から、キャストロールからフィルムが離脱する位置までの経路をいい、図2に示す第一実施形態においては、始点位置211から、終点位置214までの経路が、周面上の搬送経路となる。
【0021】
周面上の搬送経路中の2つの位置の距離は、キャストロールの軸に垂直な断面において、一方の位置とキャストロールの軸とを結ぶ線と、他方の位置とキャストロールの軸とを結ぶ線とがなす角度により表現しうる。また、当該角度及びキャストロールの径から、実際の距離を計算しうる。以下の説明においては、ある区域の始点位置と終点位置とについてのこのような角度を単に、当該区域の角度と述べることがある。また、キャストロールの周面上の搬送経路全体の角度は、抱き角と呼ばれる。図2に示す第一実施形態において、キャストロール130の抱き角は、θhで示される角度である。また、周面上の搬送経路中の2つの位置の距離は、溶融樹脂フィルムが当該距離を移動するのに要する時間によっても表現しうる。例えば、溶融樹脂フィルム101はキャストロール130の周面上の搬送経路の始点位置211から終点位置214までを1.3秒で通過する場合、始点位置211から終点位置214までの距離が1.3秒の距離であると表現しうる。また、当該時間とキャストロール周面の移動速度から、実際の距離を計算しうる。
【0022】
〔3.1.工程(i)〕
冷却工程は、さらに、溶融樹脂フィルムの表面の一部の領域Aをキャストロールに付着させて、溶融樹脂フィルムを拘束する工程(i)を含む。このような工程(i)は、ピニングとも呼ばれる。溶融樹脂フィルムのピニングは、静電ピニング、エアピニング、ローラーによるピニング等の既知の方法により行いうる。
【0023】
ピニングは、周面上の搬送経路内の、始点になるべく近い上流側で行うことが好ましい。より上流側でピニングを行うことにより、キャストロールによる動力を溶融樹脂フィルムにより多く伝達し、円滑な搬送を達成しうる。
【0024】
溶融樹脂フィルムの表面の、ピニングによりキャストロールに付着される領域Aは、通常、溶融樹脂フィルムの幅方向端部である。端部のみにおいて付着させることにより、それより内側の領域を、最終的な製品として有効に用いることができる。
【0025】
工程(i)を行う好ましい箇所の具体例は、図3を参照して説明すると、周面上の搬送経路の始点211の線上であって、且つフィルムの端部である、矢印A32で示される位置としうる。当該位置において工程(i)を行うことにより、領域311を、領域Aとすることができる。ただし工程(i)を行う箇所は、これに限られず、例えば始点211より下流側であってもよい。または、ピニングの様式によっては、始点211より上流においてピニングの操作を行い、それにより始点211よりピニングが達成される場合もある。例えば静電ピニングを行う場合は、溶融樹脂フィルム101がキャストロール130に到達するのに先立ち、溶融樹脂フィルムの端部に静電気を付与することにより行いうる。具体的には、図3において矢印A31で示す位置において、溶融樹脂フィルム101の端部に静電気を付与し、それにより、溶融樹脂フィルム101がキャストロール130に近接した際に端部のみが静電気の作用によりキャストロール130に付着するよう操作し、静電ピニングを達成しうる。
【0026】
溶融樹脂フィルム101は、その領域Aにおいてキャストロール130に付着した状態で搬送される。一方、溶融樹脂フィルム101は通常、キャストロール130により搬送される際、周囲の空気を同伴して搬送され、したがってキャストロール130と溶融樹脂フィルム101との間には、矢印A22(図2)で示す方向に空気が流入する。したがって、溶融樹脂フィルム101は、領域A以外の部分においては、その内側の面とキャストロール130の周面とが、空気層を介して離隔した状態で搬送される。本願において、溶融樹脂フィルムの「内側」の表面とは、溶融樹脂フィルムの両面のうち、キャストロール側の面をいい、「外側」の表面とは、キャストロールとは反対側の面をいう。また本願において、別に断らない限り、フィルムの外側の表面における温度を、フィルムの表面温度又は単にフィルムの温度ともいうことがある。
【0027】
〔3.2.工程(ii)〕
冷却工程は、さらに、硬化フィルムを前記キャストロールから離脱させる前に、拘束を解除する工程(ii)を含む。
【0028】
工程(ii)は、周面上の搬送経路の、終点よりは上流であって、且つ工程(i)よりも下流の任意の位置で行いうる。但し、後に述べる理由により、工程(ii)を行う位置と、周面上の搬送経路の終点とは、ある程度以上の距離があることが好ましい。また、冷却装置が、図2において調節器220及び230として示すような、搬送経路において溶融樹脂の外側表面に近接して設けられるチャンバーを含む調節器を備える場合は、温度の制御及び溶融樹脂へのアクセスの観点からは、工程(ii)はかかる調節器の設けられていない箇所において行うことが好ましい。例えば、図2図4に示す冷却装置においては、工程(ii)は、調節器220及び230の間の位置212、又は調節器230の直後の位置213において好ましく行いうる。
【0029】
工程(ii)は、
工程(ii-1):工程(i)における付着を解除するか、又は
工程(ii-2):工程(ii)における付着を維持したまま拘束を解除する
ことにより行いうる。
【0030】
工程(ii-1)は、例えば、溶融樹脂フィルムとキャストロールとの空隙に空気を送入し、それにより付着を解除することにより行いうる。このような空気の送入は、例えばノズルを含む通常の送風装置により行いうる。図2図4の例では、例えば、矢印A34(図3)で示す方向、又は矢印A36(図4)で示す方向に、溶融樹脂フィルムとキャストロールとの空隙に空気を送入し、それにより、領域311における付着を解除することにより、工程(ii-1)を達成しうる。
【0031】
工程(ii-2)は、例えば、領域A、領域Aの近傍、又はこれらの両方において、溶融樹脂フィルムを加熱することにより行いうる。このような加熱は、例えば熱風ノズルを含む熱風発生装置を用い、溶融樹脂フィルムの外側表面に熱風を吹き付けることにより行いうる。加熱を行う位置は、領域A、領域Aの近傍、又はこれらの両方としうるが、好ましくは、領域Aよりもフィルム幅方向の内側としうる。図2図4の例では、例えば、矢印A33(図3)で示す位置、又は矢印A35(図4)で示す位置において加熱を行いうる。かかる加熱を行うことにより、溶融樹脂フィルムの一部が溶融し、容易に延伸する状態となる。例えば、矢印A35で示す位置において加熱を行った場合、それよりも下流の、線312で示す位置における溶融樹脂フィルムが高度に溶融し、容易に延伸する状態となる。それにより、線312よりもフィルム幅方向内側の領域において、拘束が解除され、工程(ii-2)が達成される。
【0032】
工程(ii-2)は、また例えば、溶融樹脂フィルムを切断することによっても行いうる。このような切断は、カッター等の、フィルムの製造において通常用いられるトリミング装置を用いて行いうる。切断を行う位置は、領域A、領域Aの近傍、又はこれらの両方としうるが、好ましくは、領域Aよりもフィルム幅方向の内側としうる。図2図4の例では、例えば、矢印A33(図3)で示す位置、又は矢印A35(図4)で示す位置において切断を行いうる。かかる切断を行うことにより、ピニングによるフィルムの拘束が解除される。例えば、矢印A35で示す位置において切断を行った場合、それよりも下流の、線312で示す位置において切り込みが入る。それにより、線312よりもフィルム幅方向内側の領域において、拘束が解除され、工程(ii-2)が達成される。
【0033】
あるいは、上に述べた熱風ノズルを含む熱風発生装置を用いた熱風の吹き付けを、上に述べた溶融を達成するための温度よりも高い温度により行い、それにより切断を達成することもできる。
【0034】
〔3.3.工程(ii)の温度制御〕
本発明の好ましい態様においては、工程(ii)を、溶融樹脂フィルムの温度が熱可塑性樹脂の位相差発現温度Tx以上の温度である時点において行う。但し、工程(ii)を、溶融樹脂フィルムを加熱することにより行った場合、当該加熱された領域は他の領域より温度が高くなるが、工程(ii)を行う時点での、その領域の温度は、位相差発現温度Tx以上であるか否かの判別において考慮しない。
【0035】
本願でいう位相差発現温度Txは、温度と、当該温度における熱可塑性樹脂の損失係数との関係から求められる。ある温度における熱可塑性樹脂の損失係数は、当該温度における貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’との比(G’’/G’)である。本願において、熱可塑性樹脂の位相差発現温度Txは、当該熱可塑性樹脂のTg以上の温度領域における、温度と熱可塑性樹脂の損失係数との関係のグラフにおいて、損失係数が下降する領域と、転じて損失係数が上昇する領域との境界の温度として規定される。但し、損失係数が上昇する領域が無い場合は、損失係数が下降しきる温度として規定される。本願では、温度と熱可塑性樹脂の損失係数との関係のグラフにおいて、損失係数が「上昇」するとは、温度を横軸、損失係数を縦軸にとった場合における傾きが正であることをいい、損失係数が「下降」するとは、当該傾きが負であることをいう。
【0036】
測定値のばらつき等を排除して規定する観点からは、具体的には、温度と、当該温度における熱可塑性樹脂の損失係数との関係のグラフを、Tg以上の温度領域における低温側から高温側に順次見た場合において、最初に出現する、5℃以上の温度領域において連続する損失係数が下降する領域と、当該領域に次いで出現する、損失係数が上昇する領域との境界の温度を、位相差発現温度Txとして規定しうる。
【0037】
図5は、ある熱可塑性樹脂における、温度と、損失係数との関係の例を示す模式的なグラフである。このグラフをTg以上の温度領域において低温側から高温側に順次見た場合、145℃〜160℃の間の領域R51が、最初に出現する、5℃以上の温度領域において連続する損失係数が下降する領域に相当する。一方、160℃以上の領域R52が、領域R51に次いで出現する、損失係数が上昇する領域に相当する。したがって、領域R51とR52との境界の温度である160℃が、当該熱可塑性樹脂の位相差発現温度Txとして規定される。このような領域R52における損失係数の上昇は、温度が高まるにつれて熱可塑性樹脂中の重合体の流動化が進行することにより、温度の上昇に伴う流動性の上昇が発現していると考えられる。
【0038】
冷却工程においては、通常、フィルムが搬送経路の上流から下流へ移動するに従い冷却され温度が低下する。したがって、工程(ii)を熱可塑性樹脂の位相差発現温度Tx以上の温度において行った場合、工程(ii)を行う位置より上流の経路ではフィルム温度は位相差発現温度Tx以上となり、一方工程(ii)を行う位置より下流のいずれかの位置で、フィルム温度が位相差発現温度Txを下回る。工程(ii)を行った後のフィルム温度は、(Tg+25)℃以下とすることが好ましい。このような温度とすることにより、位相差の発現を低減しうる。
【0039】
本発明者が検討し、実験的に確認したところによれば、冷却工程において、拘束された状態で経時的に冷却されるフィルム状の熱可塑性樹脂は、冷却が、前記の通り規定される位相差発現温度Txを下回る温度まで進行した時点以降において、位相差を発現し始める。したがって、拘束を解除する工程(ii)を、冷却が位相差発現温度Txを下回る温度まで進行するよりも前に行うことにより、拘束による複屈折性の発現を、十分に低減し、その結果、得られる光学フィルムの複屈折性をさらに低減することができる。
【0040】
ある樹脂の、温度と損失係数との関係のグラフは、動的粘弾性試験機(例えば製品名「ARES」、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、以下の条件で温度と、貯蔵弾性率及び損失弾性率との関係を測定することにより求めうる。このように得られた温度と損失係数との関係のグラフを検討することにより、位相差発現温度Txを求めうる。
パラレルプレート型(8mmΦ×t2mm)
歪み : 0.1 %
温度領域 : −100〜 300 ℃
昇温速度 : 5 ℃/分
モード : せん断モード
周波数 : 10 HZ (62.8rad/sec)
【0041】
工程(ii)を行う時点でのフィルム温度は、位相差発現温度Tx以上の高い温度であることが好ましい一方、フィルム離脱時の温度を所望の温度まで円滑に下げる観点からは、位相差発現温度Txよりもあまり高くない温度であることが好ましい。具体的には、工程(ii)を行う時点でのフィルム温度は、好ましくは(Tx+10)℃以下、より好ましくは(Tx+5)℃以下としうる。
【0042】
〔3.4.離脱時の温度制御〕
本発明の製造方法における冷却工程ではさらに、硬化フィルムの離脱に際しての硬化フィルムの温度がTg以下となるよう、冷却工程における条件を制御することを含む。
【0043】
このような条件において冷却工程を行った場合、複屈折性の緩和が十分に達成され、且つ冷却後の複屈折性の発生も低減される。即ち、溶融樹脂フィルム成形工程では、ダイから押し出された溶融樹脂フィルムがキャストロールに搬送されるまでに、引っ張り等の物理的負荷を受け、それにより複屈折性が付与されうるが、その後の冷却工程において、十分長い時間Tg以上の温度に保たれることにより、かかる複屈折性を緩和することができる。しかしながらそのようなTg以上の高い温度のままのフィルムがキャストロールを離れると、その後の搬送の工程において再び負荷を受け、それにより複屈折性が付与されうる。そこで、フィルムがキャストロールから離脱するときにはTgより低い温度となるよう温度を制御することにより、離脱時以降のフィルムを、負荷による影響を受けがたい状態とすることができるので、離脱時以降の複屈折性の発現を抑制することができる。
【0044】
しかしながら、冷却工程においてこのような冷却を行った場合、キャストロール周面上の搬送経路においてフィルムの温度がTg以下の低い温度に冷却されることになる。ここで、従来技術における冷却工程のように、周面上の搬送経路の終点に至るまでピニングによる拘束がなされていた場合、かかる拘束とフィルムの収縮により、不所望な複屈折性が発現しうる。これに対し、本発明では、硬化フィルムをキャストロールから離脱させる前に、拘束を解除する工程(ii)をさらに行うことにより、ピニングによる拘束に起因する複屈折性の発現をも低減することができ、その結果、得られる光学フィルムの複屈折性を、従来の製造方法によるものよりもさらに低減することができる。
【0045】
硬化フィルムの離脱に際しての硬化フィルムの温度は、好ましくは(Tg−10)℃以下、さらに好ましくは(Tg−15)℃以下、さらにより好ましくは(Tg−20)℃以下としうる。硬化フィルムの離脱に際しての硬化フィルムの温度の下限は、特に限定されないが、例えばTg−100℃以上としうる。
【0046】
硬化フィルムの離脱後の硬化フィルムの温度は、Tg以下に制御することが、位相差発現を低減する上で好ましい。通常は、何らかの加熱の操作を行わず室温でフィルムを搬送することにより、離脱後の硬化フィルムの温度を、離脱時の硬化フィルムの温度より低い温度に制御しうる。
【0047】
〔3.5.操作条件、及び温度制御〕
本発明の製造方法においては、フィルムの製造速度は、20m/分以上であることが好ましい。ここで、フィルムの製造速度は、冷却工程を終えてキャストロールから離脱するフィルムの搬送速度をいう。本発明の製造方法では、このように速い速度で製造を行っても、面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの両方が小さく均一であり、且つ厚さが均一な、高品質の光学フィルムを製造することができる。また、光学フィルムの製造の操作に際しては、ダイからの溶融樹脂フィルムの吐出の速度よりも、キャストロールによる搬送速度のほうが早くなり、そのため溶融樹脂フィルムに複屈折性が付与さることがあるが、本発明の製造方法によれば、そのような操作を行った場合であっても、複屈折性を良好に緩和し、高品質の光学フィルムを製造することができる。
【0048】
工程(ii)及びフィルムの離脱に際してのフィルムの温度、及び冷却工程の搬送経路上のその他の位置におけるフィルムの温度は、キャストロールの温度の調節により調節しうる。
冷却工程におけるキャストロールの温度は、溶融樹脂フィルムの温度を、他の操作と協同して所望の範囲とするのに適した範囲に、適宜調節しうる。具体的には、キャストロールの温度は、好ましくはTg−50℃以上、より好ましくはTg−30℃以上であり、一方好ましくはTg−10℃以下、より好ましくはTg−20℃以下である。多くの場合、Tgは冷却装置の周囲温度である室温より高い温度であり、好ましいキャストロールの温度も室温より高い温度となる。したがって、通常冷却工程に際しては、適切な加温装置(不図示)により、キャストロールを加温した状態で操作を行う。
【0049】
加えて、冷却工程の搬送経路上のフィルムの温度の調節には、任意の調節器を用いうる。ここで調節器としては、周面上の搬送経路におけるフィルムの外側の表面に近接する空間を囲繞するチャンバーを備えるものを用いうる。調節器のチャンバーは、周面上の搬送経路の始点位置から終点位置までのうちの一部または全部を覆うものとしうる。また、幅方向の物性が均質な光学フィルムを製造する観点から、調節器のチャンバーは、フィルムの幅方向の全幅を覆うことが好ましい。調節器の個数は特に制限されず、1以上のチャンバーを有する1台以上の調節器を周面上の搬送経路の始点位置から終点位置までの間に配列しうる。
【0050】
調節器のチャンバーに、温度が調節された空気を導入することにより、フィルムの温度の調節を行いうる。また、キャストロールによる冷却の効果は、フィルムとキャストロールとの空隙が少ない程大きくなるので、キャストロールによる冷却の効果が過大である場合には、チャンバーから空気を導出してチャンバー内を減圧し、それによりフィルムとキャストロールとの空隙を広くすることにより、キャストロールによる冷却の効果を緩和することもできる。逆に、チャンバーへ空気を導入してチャンバー内を加圧し、それによりフィルムとキャストロールとの空隙を狭くすることにより、キャストロールによる冷却の効果を高めることもできる。例えば、周面上の搬送経路の始点から工程(ii)を行う位置までの間では、溶融樹脂フィルムを急速に冷却し、工程(ii)におけるフィルム温度を、位相差発現温度Tx以上であるがTxよりもあまり高くない温度とするのが好ましいので、調節器により加圧を行い、フィルムとキャストロールとの空隙を狭くすることが好ましい。フィルムとキャストロールとの空隙は、溶融フィルムに同伴して空隙に流入する空気(図2の例では、矢印A22方向に流入する空気)の量によって変動し、また流入する空気の量は、フィルムの搬送速度によって変動するので、搬送速度によって、調節器の好ましい操作条件は変動しうる。
【0051】
チャンバーへの、温度が調節された空気の導入は、加熱器又は冷却器により加温又は冷却された空気を、チャンバーに連結された送風機で導入することにより行いうる。調節器による温度の調節は、キャストロールと協同して終点位置のフィルム表面温度が所望の程度となるよう適宜行いうる。調節器に導入する空気の温度は、フィルムの表面温度が所望の温度となるよう適宜調節することができ、その範囲に特に制限は無い。急激な冷却が必要な場合、周囲の空気を冷却し、室温より低い温度とした空気を導入することもできるが、多くの場合、Tgは室温より高い温度であり、好ましい空気の温度も、通常は室温より高い温度となる。
【0052】
図2の例では、冷却装置200は、そのような調節器として、調節器220及び230を備える。調節器220及び調節器230はいずれも、溶融樹脂フィルム101に向かって開いた開口を有し、溶融樹脂フィルムの外側の表面に近接する空間を囲繞するチャンバー(221又は231)と、当該空間及びチャンバーの外部の空間に連通する導気管(222又は232)とを備える。調節器220のチャンバー221は、周面上の搬送経路の始点位置211から位置212までの角度θaの区域を、フィルム幅方向のフィルムの幅方向の全幅を覆って囲繞し、調節器230のチャンバー231は、周面上の搬送経路の位置212から位置213までの角度θbの区域を、フィルム幅方向のフィルムの幅方向の全幅を覆って囲繞する。導気管222及び232を介して、矢印A21及びA23の方向に温度が調節された空気を導入することにより、溶融樹脂フィルム101の表面温度を調節することができる。また矢印A21及びA23の方向に空気を導入することにより、溶融樹脂フィルム101とキャストロール130との空隙を狭くし、キャストロール130による冷却の効果を高めることもできる。例えば、工程(ii)を位置212で行う場合は、キャストロール130の温度及び調節器220の操作条件を調節することにより、位置212におけるフィルム温度を工程(ii)に適した温度とし、さらに調節器230の操作条件を調節することにより、位置214におけるフィルム温度をフィルムの離脱に適した温度としうる。特に調節器230で急速に冷却を行うことにより、小径のキャストロールでも高速の光学フィルム製造を行いうる。また例えば、工程(ii)を位置213で行う場合は、キャストロール130の温度、調節器220の操作条件、及び調節器230の操作条件を調節することにより、位置213におけるフィルム温度を工程(ii)に適した温度とし、且つ位置214におけるフィルム温度をフィルムの離脱に適した温度としうる。
【0053】
冷却工程におけるフィルムの温度は、温度センサにより計測しうる。温度センサとしては、具体的には、赤外放射温度計(例えば、キーエンス社製、製品名「IT2−50」)を用いうる。温度センサにより計測された温度を元に、調節器による加熱の程度、調節器による加圧若しくは減圧の程度、及びキャストロールの温度等の条件を適宜調節し、フィルムの温度の制御を行うことができる。
【0054】
冷却工程に用いるキャストロールの直径は、好ましくは350mm〜1200mm、より好ましくは600mm〜900mmとしうる。前記上限以下の径のキャストロールは比較的安価に入手及び設置が可能であり、且つ既存のフィルム製造設備に多く採用されているものであるため、安価な製造を実現することができる。本発明の製造方法では、工程(ii)及びその他の操作を行うため、比較的径が小さいキャストロールを用いても、低位相差のフィルムを容易に高速に製造することが可能となる。また、キャストロールが前記下限以上の直径を有することにより、冷却の時間を容易に確保することができる。
【0055】
また、キャストロール130の表面は、通常、鏡面加工がなされていることが多いが、たとえば、溶融樹脂と接触しない箇所、もしくは凹凸が転写されない温度条件にある場合には、キャストロールの表面に梨地加工等を施してもよく、この場合、樹脂フィルムの熱交換率をより一層向上させることができる。このため、樹脂フィルムの熱交換を調節する要素が増えることにより、樹脂フィルムの製造がより一層簡便になるという効果がある。
【0056】
〔4.冷却工程より後の工程〕
本発明の製造方法では、冷却工程の後に、必要に応じて任意の工程を行いうる。例えば、冷却工程の後であってフィルムの巻き取りの前の任意の段階で、硬化フィルムを、キャストロールに続く1以上のロールに順に外接させて搬送することにより、さらなる冷却、エンボスの付与等の任意の工程を行いうる。また、図1において示した自動複屈折計141及び膜厚計142に加えて又はこれらに代えて、種々の測定装置を搬送経路上に設け、インラインでのフィルムの性状の測定を行うことができる。あるいは、得られた光学フィルムのロール体から光学フィルムを繰り出して、フィルムの一部を切り出し、それをサンプルとして、評価のための測定を行ってもよい。
【0057】
また、冷却工程において、フィルム端部をピニングすることにより、フィルムの端部はその他の部分に比べて比較的急激に冷却され、且つ寸法拘束を受けやすい状態となる。その結果、フィルム端部は、その他の部分に比べて面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthが大きくなる傾向がある。そのようなフィルム端部が工程(ii)においても切断されずに残っている場合は、その後必要に応じて切断し、残りの中央部を製品たる光学フィルムとすることができる。
【0058】
〔5.変形例〕
上述した実施形態は、更に変更して実施してもよい。例えば、調節器は、図2に示したものに限られず、さらなる追加的な構成要素を有するもの、又はこれらとは別の原理の機構に基づくものであってもよい。
【0059】
例えば、調節器として、図2に示した調節器220及び230に加えて又はこれらに代えて、フィルムを外側から、キャストロール側に加圧するタッチロール又はベルトを設けうる。かかるタッチロールを用いて、キャストロールとフィルムとの空隙を狭くすることにより、キャストロールによる冷却の効果を高めることもできる。
【0060】
また例えば、調節器は、溶融樹脂フィルムの外側の表面に近接する発熱体及び/又は吸熱体を備え、温度の調節を、これらによる発熱及び/又は吸熱により行うものであってもよい。
【0061】
発熱体の例としては、通電により抵抗加熱等により発熱する発熱体、及び別の熱源により加温された水又は油等の流体の熱媒体から伝導された熱を発する発熱体が挙げられる。一方、吸熱体の例としては、必要に応じて冷却された水等の流体の冷媒により冷却され周囲の温度を下げる吸熱体が挙げられる。
【0062】
このような発熱体及び/又は吸熱体を備える調節器は、複数の区域のいずれかに対応する範囲を囲繞するチャンバーを有していてもよいが、そのようなチャンバーを有さず、溶融樹脂フィルムの外側の表面に近接する発熱体及び/又は吸熱体のみを備えるものであってもよい。さらなる別の機構の調節器としては、チャンバーを有さず、溶融樹脂フィルムに熱風又は冷風を吹き付けるノズルなどの構造を有する調節器が挙げられる。チャンバーで搬送経路上の区域を囲繞すると、その区域の圧力及び温度を均一に保つことができる一方、チャンバーを有しないノズルや発熱体等の調節器を用いた場合、その付近に圧力又は温度の勾配を設けることができるので、そのような勾配を有する調節が必要な場合には、それらのチャンバーを有しない調節器を好ましく用いうる。
【0063】
さらには、調節器は、上に述べた複数の機構を組み合わせたものであってもよい。例えば、調節器は、空気を導出する機構及び発熱体の両方をチャンバー内に備え、それにより加圧又は減圧と加熱とを同じ区域内において同時に行いうるものであってもよい。
【0064】
〔6.光学フィルムの材料〕
本発明の製造方法において、光学フィルムの材料として用いうる樹脂としては、溶融押出法により成形しうる各種の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0065】
熱可塑性樹脂としては、位相差発現温度Txを有するものが好ましい。上に述べた通り、位相差発現温度Txを有する樹脂としては、Tg以上の温度領域における温度と熱可塑性樹脂の損失係数との関係のグラフにおいて、
(I)損失係数が下降する領域と、転じて損失係数が上昇する領域とがあるもの、及び
(II)損失係数が下降しきった後、損失係数が上昇する領域が無いもの
の2種類があるが、位相差発現温度Tx以上における分子の流動性を良好に有するという観点からは、(I)が好ましい。
【0066】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、脂環式ポリオレフィン樹脂等)、ポリカーボネート樹脂(芳香族ポリカーボネート等)、セルロースエステル樹脂、アクリル樹脂(ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリシクロヘキシルアクリレート、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体等)及びその他の樹脂(ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等)が挙げられる。中でも、(I)の態様の位相差発現温度Txを有しうる樹脂として、アクリル樹脂(ポリメチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリシクロヘキシルアクリレート、特にポリメチルアクリレート)、ポリカーボネート樹脂(特に芳香族ポリカーボネート)、及びポリオレフィン樹脂が好ましく、さらに、表示装置用の光学フィルムに求められる機械特性、耐熱性、透明度といった品質をバランス良く満たしている観点から、ポリオレフィン樹脂がより好ましく、脂環式ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0067】
熱可塑性樹脂として特に好ましい脂環式ポリオレフィン樹脂は、主鎖及び側鎖の片方又は両方に脂環式構造を有する脂環式ポリオレフィン重合体を含む樹脂である。脂環式構造としては、例えば飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、シクロアルカン構造が特に好ましい。
【0068】
脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数が前記の範囲に収まる場合に、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性等の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0069】
脂環式ポリオレフィン重合体における、脂環式構造を有する構造単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記の範囲に収めることにより、光学フィルムの透明性及び耐熱性を良好にできる。
【0070】
脂環式ポリオレフィン重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体は、透明性と成形性が良好なため、好ましい。
【0071】
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と任意の単量体との開環重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と任意の単量体との付加重合体、又はそれらの水素化物;等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。ここで(共)重合体とは、重合体及び共重合体のことをいう。
【0072】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えば、アルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0073】
前記の極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0074】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な任意の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状共役ジエン及びその誘導体;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0075】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、及び、ノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な任意の単量体との開環共重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0076】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な任意の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素原子数2〜20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン;などが挙げられる。これらの単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0077】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、及び、ノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な任意の単量体との付加共重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0078】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能な任意の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能な任意の単量体との付加重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、例えば、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素添加触媒を混合して、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって、得ることができる。
【0079】
ノルボルネン系重合体の中でも、構造単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの構造単位の含有量が、ノルボルネン系重合体の構造単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このようなノルボルネン系重合体を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光学フィルムを得ることができる。
【0080】
脂環式ポリオレフィン重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選定されうる。脂環式ポリオレフィン重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、光学フィルムの機械的強度及び成型加工性が高度にバランスされ、好適である。ここで、前記の重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサン(試料である重合体が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定した、ポリイソプレン又はポリスチレン換算の値である。
【0081】
また、脂環式ポリオレフィン重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.2以上であり、好ましくは10.0以下、より好ましくは4.0以下、特に好ましくは3.5以下である。分子量分布を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合体の生産性を高めてコストを下げることができる。また、上限値以下にすることにより、低分子成分の量を抑制して緩和時間の短い成分を減らすことができるので、高温曝露時の配向緩和を低減させることが可能となる。
【0082】
光学フィルムを構成する樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した重合体以外に任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例を挙げると、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、強化剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、および抗菌剤などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、任意の成分の量は本発明の効果を損なわない範囲であり、重合体100重量部に対して、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。また、下限はゼロである。
【0083】
光学フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されうるものであり、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、好ましくは250℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲にある樹脂のフィルムは、高温下での使用における変形及び応力が生じ難く、耐久性に優れる。
【0084】
〔7.光学フィルム〕
本発明の光学フィルムは、前記本発明の製造方法により得られる。本発明の光学フィルムの厚さは、使用目的に応じて適宜調整でき、好ましくは1μm〜1000μm、より好ましくは1〜40μmとしうる。位相差を低減する観点からは、40μmといった薄いフィルムが好ましい。
【0085】
光学フィルムの寸法は、特に制限はないが、通常は、長尺の光学フィルムとしうる。それにより、効率的な製造を行うことができる。「長尺」とは、幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。光学フィルムの幅方向の寸法は、使用目的に応じて適宜調整でき、好ましくは300〜3000mm、より好ましくは900〜2300mmとしうる。
【0086】
本発明の光学フィルムは、その膜厚のバラツキが小さいものとすることができる。膜厚のバラツキの指標としては、例えば、フィルムの幅方向及び長さ方向に格子状に整列した測定点において膜厚を測定し、その最大値及び最小値の差を採用しうる。かかる格子状の測定点は、フィルム幅方向については、フィルムの幅方向中央部からフィルムの幅の70%程度の範囲にわたり60mm間隔、フィルム長さ方向については、10〜100mm間隔の3か所としうる。当該膜厚のバラツキは、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.1μm以下とすることができる。膜厚の測定は、膜厚計(例えば、明産株式会社製、RC−1 ROTARY CALIPER)を用いて行いうる。
本発明の光学フィルムは、その面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの両方を、小さく均一な値とすることができる。具体的には、Reについては、好ましくは2nm以下、より好ましくは1nm未満とすることができる。また、Rthについては、好ましくは8nm以下、より好ましくは3nm未満とすることができる。Re及びRthは、自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−21ADH)を用いて波長590nmにおいて測定した値を採用しうる。
【0087】
光学フィルムは、好ましくは85%〜100%、より好ましくは90%〜100%の全光線透過率を有する。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0088】
光学フィルムの具体的な用途は、特に制限は無く、低く均一なRe及びRthが求められる各種の用途に用いることができる。例えば、偏光板保護フィルム、及び従来より用いられるガラス基板の代替としての樹脂フィルム基板等の構成要素として、テレビ受像機、携帯電話等の各種機器における液晶表示装置等の表示装置において用いることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例によって限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更しうる。以下に述べる操作は、特に断らない限り、常温常圧の環境において行った。
【0090】
〔位相差発現温度の測定方法〕
光学フィルムの材料の樹脂についての、温度と損失係数(貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’との比(G’’/G’))との関係を、動的粘弾性試験機ARES(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて以下の条件で測定し、得られた測定結果から、位相差発現温度を求めた。
パラレルプレート型(8mmΦ×t2mm)
歪み : 0.1 %
温度領域 : −100〜 300 ℃
昇温速度 : 5 ℃/分
モード : せん断モード
周波数 : 10 HZ (62.8rad/sec)
【0091】
<実施例1>
図1に模式的に示す光学フィルム製造装置(図1に模式的に示す溶融樹脂フィルム成形装置110及び図1図4に模式的に示す冷却装置200を含む)を用いて、光学フィルムの製造を行なった。
【0092】
(1−1.溶融樹脂フィルム成形工程)
光学フィルムの材料の樹脂として、ノルボルネン系重合体(ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物、商品名「ZEONOR1430」、日本ゼオン社製、ガラス転移温度(Tg)は136℃、位相差発現温度は160℃)のペレットを用意した。シリンダー内径が110mm、L/D(長さ/径)が32の単軸押出成形機(日本製鋼所製)111において、このペレットを、バレル温度270℃で溶融させ、溶融樹脂とした。この溶融樹脂を、ポリマーフィルター及びギヤポンプ(不図示)を経て、ダイ温度270℃のTダイ112に供給し、Tダイの内部でフィルム状に広がるように導き、Tダイ112のリップ部分から吐出することにより、幅1000mmの溶融樹脂フィルム101を連続的に成形した。
【0093】
(1−2.冷却工程)
図1図4に模式的に示す冷却装置200を用いて、冷却工程を行った。図2に示す通り、冷却装置200としては、キャストロール130、並びに調節器220及び230を含むものを用いた。キャストロール130としては、直径900mmのものを用いた。調節器220としては、チャンバー221と、当該空間及びチャンバー221の外部の空間に連通する導気管222とを備えるものを用いた。チャンバー221は、始点位置221から位置212までの区域にわたって溶融樹脂フィルム101に向かって開いた開口を有し、溶融樹脂フィルムの外側の表面に近接する空間を囲繞するものとした。調節器230としては、チャンバー231と、当該空間及びチャンバー231の外部の空間に連通する導気管232とを備えるものを用いた。チャンバー231は、位置212から位置213までの区域にわたって溶融樹脂フィルム101に向かって開いた開口を有し、溶融樹脂フィルムの外側の表面に近接する空間を囲繞するものとした。調節器220のチャンバー221及び調節器230のチャンバー231は、いずれも、幅方向の全幅を覆うものとした。始点位置211から位置212までの区域の角度θaは45°、位置212から位置213までの区域の角度θbは135°、位置213から終点位置214までの区域の角度θcは90°とした。したがって抱き角(始点位置211から終点位置214までの角度)θhは270°であった。
【0094】
冷却工程においては、工程(1−1)で得た溶融樹脂フィルム101をキャストロール130に連続的に供給し、キャストロール130を軸131を中心に回転させることにより、溶融樹脂フィルム101を、始点位置211から終点位置214まで、キャストロール130の周面上の搬送経路に沿って搬送した。
【0095】
冷却工程において、キャストロール130の表面温度は100℃に調節した。また、キャストロール130の回転速度(周面の移動速度)は1667mm/秒とした。したがって、溶融樹脂フィルム101は、キャストロール130の周面上の搬送経路の始点位置211から終点位置214までを、約1.3秒で通過した。さらに、調節器220及び230のチャンバー221及び231へ導入する空気の圧力は40mmHOとした。また、導入する空気の温度を適宜調節し、これにより、位置213における溶融樹脂フィルム101の温度が160℃となり、また、位置214における硬化フィルム102の温度が110℃となった。フィルムの温度は、赤外放射温度計(キーエンス社製、製品名「IT2−50」)を用いて測定した。
【0096】
溶融樹脂フィルム101がキャストロール130に到達するのに先立ち、図3の矢印A31で示す端部において静電気を付与した。溶融樹脂フィルム101が位置211に到達した時点で、その端部は、矢印A32で示す位置において静電ピニングされ、領域311がキャストロール130に付着した(工程(i))。
【0097】
さらに、溶融樹脂フィルム101が位置213に達した時点で、フィルムトリミング装置としてカッターを用い、領域311より内側の、矢印A35(図4)で示される位置において、溶融樹脂フィルム101を切断し、切り込み312を設けた(工程(ii))。溶融樹脂フィルム101を切断する位置は、溶融樹脂フィルム両端の端部からおよそ50mmの位置とした。
【0098】
その後さらに冷却を続け、溶融樹脂フィルムを冷却し、硬化フィルムとした。得られた硬化フィルム102及び端部フィルム102eは、矢印A1方向に張力を付与することにより、位置214においてキャストロール130から離脱した。
【0099】
(1−3.巻き取り)
冷却工程においてキャストロール130から離脱した硬化フィルム102を、巻き取り機にて巻き取り、製品たる光学フィルムのロール151を得た。一方端部フィルム102eは硬化フィルム102とは別の経路に搬送し、耳巻き取り機により巻き取った。溶融樹脂フィルムの収縮及びトリミングの結果、得られた光学フィルムの幅は800mmとなった。
【0100】
<実施例2>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、光学フィルムのロールを得た。
・冷却工程において、キャストロール130の回転速度(周面の移動速度)を50m/分(834mm/秒)に変更し、チャンバー圧力を20mmHOに変更した。冷却工程の条件を変更したことにより、位置213における溶融樹脂フィルム101の温度は165℃、位置214における硬化フィルム102の温度は112℃となった。
【0101】
<実施例3>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、光学フィルムのロールを得た。
・冷却工程において、カッターによる溶融樹脂フィルムの切断を行わす、代わりに、ヒートエアノズルを含む熱風発生装置を用い、図4の矢印A35で示される位置において温度236℃の空気を溶融樹脂フィルム101に吹き付けた。それにより、位置213から位置214までの間の区域において、フィルムの線312で示された位置が、切断はされないが溶融した状態となった。
・冷却工程後、巻き取りの前に、硬化フィルムの両端の端部からおよそ50mmの位置をカッターで切断し除去した。
【0102】
<実施例4>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、光学フィルムのロールを得た。
・冷却工程において、カッターによる溶融樹脂フィルムの切断を行わす、代わりに、図4の矢印A36で示される方向から、フィルムとキャストロールとの間に圧縮空気を送入した。それにより、位置213以降において、静電ピニングが外れた状態となった。
・冷却工程後、巻き取りの前に、硬化フィルムの両端の端部からおよそ50mmの位置をカッターで切断し除去した。
【0103】
<比較例1>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、光学フィルムのロールを得た。
・冷却工程において、カッターによる溶融樹脂フィルムの切断を行わなかった。
・冷却工程後、巻き取りの前に、硬化フィルムの両端の端部からおよそ50mmの位置をカッターで切断し除去した。
【0104】
<比較例2>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、光学フィルムのロールを得た。
・冷却工程に先立つ静電気の付与を行わなかった。その結果、領域311はキャストロール130に付着しなかった。
・冷却工程において、カッターによる溶融樹脂フィルムの切断を行わなかった。
・冷却工程後、巻き取りの前に、硬化フィルムの両端の端部からおよそ50mmの位置をカッターで切断し除去した。
【0105】
〔得られたフィルムの評価〕
実施例及び比較例で得られたロールからフィルムを巻出し、以下の方法により、面内方向位相差Re、厚み方向位相差Rth、及び膜厚の測定を行った。
【0106】
Re及びRthは、自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−21ADH)を用いて波長590nmにおいて測定した。膜厚は、膜厚計(明産株式会社製、RC−1 ROTARY CALIPER)を用いて測定した。測定位置は、5列×3行の15の測定点とした。具体的には、得られた幅800mmの光学フィルムの、サンプルの幅方向の一方の縁から、50mmの位置の列(1)、210mmの位置の列(2)、370mmの位置の列(3)、530mmの位置の列(4)及び690mmの位置の列(5)のそれぞれにおいて、サンプルの最後部の行(a)、及び最後部より10mm前の行(b)、及び最後部より100mm前の行(c)において測定を行った。但し、得られた光学フィルムの幅が狭かった例については、適宜比例的に、幅方向の間隔を狭めた測定位置において測定を行った。実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例2における測定結果を、それぞれ表1〜表6に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
実施例1の厚み平均20μm
Re平均0.56nm、σ0.16
Rth平均0.88nm、σ0.15
フィルム幅800mm
【0109】
【表2】
【0110】
実施例2の厚み平均20μm
Re平均0.39nm、σ0.08
Rth平均0.71nm、σ0.13
フィルム幅800mm
【0111】
【表3】
【0112】
実施例3の厚み平均20μm
Re平均0.46nm、σ0.07
Rth平均0.92nm、σ0.07
フィルム幅800mm
【0113】
【表4】
【0114】
実施例4の厚み平均20μm
Re平均0.86nm、σ0.21
Rth平均1.91nm、σ0.18
フィルム幅800mm
【0115】
【表5】
【0116】
比較例1の厚み平均20μm
Re平均6.99nm、σ0.25
Rth平均15.17nm、σ0.22
フィルム幅800mm
【0117】
【表6】
【0118】
比較例2の厚み平均20μm、σ2.68
Re平均2.74nm、σ1.32
Rth平均8.93nm、σ1.35
フィルム幅680mm
【0119】
実施例1と比較例1とを対比すると、冷却工程において溶融樹脂フィルムの切断(工程(ii))を行った実施例1では、比較例1に比べて、得られた光学フィルムの位相差が低くかつ均一であった。また、ピニング自体を行わなかった比較例2に比べると、実施例1で得られた光学フィルムの位相差が低くかつ均一であった。
【0120】
実施例2ではさらに、温度制御により、溶融樹脂フィルム101をフィルム拘束解除まで保温し、拘束解除後は保温解除して急速に冷却し、キャストロール130から離脱する際にはTgより低い温度とした。このような条件において冷却工程を行うことにより、複屈折性の緩和が十分に達成され、且つ冷却後の複屈折性の発生も低減され、位相差の低い光学フィルムが得られた。
【0121】
また、実施例3及び4の結果から、カッターでの切断に代えて、溶融による拘束の解除又は空気の送入によるピニングの解除によっても、本発明の効果が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0122】
10 光学フィルム製造装置
101 溶融樹脂フィルム
102 硬化フィルム
102e 端部フィルム
110 溶融樹脂フィルム成形装置
111 押出成形機
112 ダイ
130 キャストロール
131 軸
141 自動複屈折計
142 膜厚計
151 光学フィルムのロール
200 冷却装置
211 周面上の搬送経路の始点位置
212 周面上の搬送経路上の位置
213 周面上の搬送経路上の位置
214 周面上の搬送経路の終点位置
220 調節器
221 チャンバー
222 導気管
230 調節器
231 チャンバー
232 導気管
311 領域A
312 拘束を解除する位置の線
図1
図2
図3
図4
図5