特許第6471816号(P6471816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6471816
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】pH・酸化還元電位調整水の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/68 20060101AFI20190207BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20190207BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20190207BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20190207BHJP
   B01D 19/00 20060101ALI20190207BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20190207BHJP
   B01F 1/00 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C02F1/68 530L
   H01L21/304 647Z
   C02F1/68 510A
   C02F1/68 520B
   C02F1/68 520G
   C02F1/68 530A
   C02F1/68 530K
   C02F1/68 540H
   C02F1/68 540Z
   C02F1/58 H
   C02F1/20 A
   B01D19/00 101
   B01D61/00
   B01F1/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-23682(P2018-23682)
(22)【出願日】2018年2月14日
(62)【分割の表示】特願2017-68981(P2017-68981)の分割
【原出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-171610(P2018-171610A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2018年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】顔 暢子
(72)【発明者】
【氏名】藤村 侑
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/178289(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/045975(WO,A1)
【文献】 特開平10−128254(JP,A)
【文献】 特開2000−183015(JP,A)
【文献】 特開2001−157879(JP,A)
【文献】 特開2010−240641(JP,A)
【文献】 特開2003−205299(JP,A)
【文献】 特開2005−019876(JP,A)
【文献】 特開2000−216130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/68
C02F 1/20
C02F 1/58
C02F 9/00− 9/14
B01D 19/00
B01D 61/00−71/82
B01F 1/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが9〜13で酸化還元電位が0〜1.7Vであるコバルトが露出した半導体材料の洗浄用のpH・酸化還元電位調整水の製造装置であって、
超純水供給ラインに、過酸化水素除去機構と、超純水にpH調整剤を添加するpH調整剤注入装置及び酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整剤注入装置とを順次設け、
前記pH調整剤注入装置及び前記酸化還元電位調整剤注入装置の後段にpH計測手段及び酸化還元電位計測手段と、
前記pH計測手段及び前記酸化還元電位計測手段の測定値に基づいて、前記pH調整剤注入装置におけるpH調整剤の添加量及び前記酸化還元電位調整剤注入装置における酸化還元電位調整剤の添加量を該pH・酸化還元電位調整水のpHが9〜13で酸化還元電位が0〜1.7Vとなるように制御する制御手段とを備える、
pH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項2】
前記pH調整剤が、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びTMAHから選ばれた1種又は2種以上である、請求項1に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項3】
前記酸化還元電位調整剤が、過酸化水素水、オゾンガス及び酸素ガスから選ばれた1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項4】
前記酸化還元電位調整剤が過酸化水素水であり、
前記pH調整剤注入装置及び前記酸化還元電位調整剤注入装置の後段で、前記pH計測手段及び前記酸化還元電位計測手段の前段に膜式脱気装置を備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【請求項5】
前記膜式脱気装置の後段に不活性ガス溶解装置を備える、請求項4に記載のpH・酸化還元電位調整水の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子産業分野等で使用されるpH・酸化還元電位調整水の製造装置に関し、特にコバルト等の遷移金属が露出している半導体ウエハの帯電を防止しつつ腐食溶解を最小限化することの可能なpH・酸化還元電位調整水の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の電子部品の製造工程では、微細構造を有する被処理体を処理する工程が繰り返される。そして、ウエハや基板等の処理体表面に付着している微粒子、有機物、金属、自然酸化皮膜等の除去を目的とした洗浄を行い、高度な清浄度を達成、維持することは製品の品質保持や歩留まり向上にとって重要である。この洗浄は、例えば、硫酸・過酸化水素水混合液、フッ酸溶液等の洗浄液を用いて行われ、該洗浄後に超純水を用いたリンスが行われる。このリンス工程等で供給される超純水や薬液には高い純度が要求される。また、近年では、半導体デバイスの微細化、材料の多様化、プロセスの複雑化により、洗浄回数が多くなっている。
【0003】
一般的に、超純水の製造には、前処理システム、一次純水システム、二次純水システム(サブシステム)で構成される超純水製造装置が用いられている。このような超純水製造装置で製造された超純水を用いたウエハ製造等でのリンス工程においては、超純水はその純度が高いほど比抵抗値が高くなるが、比抵抗値の高い超純水を用いることで、洗浄時に静電気が発生しやすくなり、絶縁膜の静電破壊や微粒子の再付着を招くといった問題があることが知られている。そのため、近年では、超純水に炭酸ガスなどを溶解した希薄な薬液をリンス水とすることでpH調整を行い、静電気を低減して上述したような問題に取り組んでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、超純水に炭酸ガスなどを溶解したリンス水は酸性を示すため、一面あるいは全面に銅やコバルトなどの遷移金属が露出しているウエハを洗浄すると、露出している遷移金属が微量ではあっても腐食されてしまい、半導体性能が低下する、という問題点があった。この対策として、アンモニアを溶解させたアルカリ性の希薄溶液を酸性のリンス液の代替として用いているが、同じ濃度のアンモニア水を用いてリンスしても、十分な遷移金属の腐食抑制効果が得られる場合と、得られない場合とがあることがわかった。
【0005】
そこで、本発明者がウエハなどの洗浄における露出している遷移金属のリンス水による腐食の発生要因について検討した結果、遷移金属の腐食にはリンス水のpHだけでなく、酸化還元電位も大きく影響することがわかった。したがって、銅やコバルトなどの遷移金属が露出しているウエハの洗浄水は、その洗浄対象となる遷移金属に応じてpHと酸化還元電位を正確に調整できることが望ましいが、従来これらを両方正確に調整可能な希釈薬液の製造装置はなかった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、pH及び酸化還元電位を正確に調整可能な高純度のpH・酸化還元電位調整水の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑み、本発明は、超純水供給ラインに、過酸化水素除去機構と、超純水にpH調整剤を添加するpH調整剤注入装置及び酸化還元電位調整剤を添加する酸化還元電位調整剤注入装置とを順次設け、前記pH調整剤注入装置及び前記酸化還元電位調整剤注入装置の後段にpH計測手段及び酸化還元電位計測手段と、前記pH計測手段及び前記酸化還元電位計測手段の測定値に基づいて、前記pH調整剤注入装置におけるpH調整剤の添加量及び前記酸化還元電位調整剤注入装置における酸化還元電位調整剤の添加量を制御する制御手段とを備える、pH・酸化還元電位調整水の製造装置を提供する(発明1)。
【0008】
かかる発明(発明1)によれば、超純水供給ラインから超純水を過酸化水素除去機構に通水することにより、超純水中に微量含まれる過酸化水素を除去し、続いて所望とするpH及び酸化還元電位となるようにpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を添加してpH・酸化還元電位調整水を調製した後、pH計測手段及び酸化還元電位計測手段の測定結果に基づいて、pH及び酸化還元電位が所望とするものとなるように制御手段によりpH調整剤及び酸化還元電位調整剤の添加量を制御することで、原水中の溶存過酸化水素の影響を排除して、所望とするpH及び酸化還元電位の調整水を製造することができる。
【0009】
上記発明(発明1)においては、前記pH調整剤が、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びTMAHから選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい(発明2)。
【0010】
かかる発明(発明2)によれば、pH・酸化還元電位調整水のpHをアルカリ側に調整することができる。
【0011】
上記発明(発明1、2)においては、前記酸化還元電位調整剤が、過酸化水素水、オゾンガス及び酸素ガスから選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい(発明3)。
【0012】
かかる発明(発明3)によれば、これらを適宜選択することで、pH・酸化還元電位調整水の酸化還元電位をプラスあるいはマイナスに調整することができる。
【0013】
上記発明(発明1〜3)においては前記酸化還元電位調整剤が過酸化水素水であり、前記pH調整剤注入装置及び前記酸化還元電位調整剤注入装置の後段で、前記pH計測手段及び前記酸化還元電位計測手段の前段に膜式脱気装置を備えることが好ましい(発明4)。
【0014】
かかる発明(発明4)によれば、膜式脱気装置によりpH・酸化還元電位調整水に溶存する酸素などの溶存ガスを効果的に脱気し、得られるpH・酸化還元電位調整水の溶存酸素濃度を低減することができるので、所望とするpH及び酸化還元電位を反映した高純度の調整水を製造することができる。
【0015】
上記発明(発明4)においては、前記膜式脱気装置の後段に不活性ガス溶解装置を備えることが好ましい(発明5)。
【0016】
かかる発明(発明5)によれば、高純度の調整水に不活性ガスを溶解することで、得られる調整水にガス成分を再度溶解しにくくし、所望とするpH及び酸化還元電位を長時間維持した高純度の調整水を製造することができる。
【0017】
上記発明(発明1〜5)においては、pHが9〜13で酸化還元電位が0〜1.7VであるpH・酸化還元電位調整水を製造することが好ましい(発明6)。
【0018】
かかる発明(発明6)によれば、上記範囲内でpH・酸化還元電位を調整することで、洗浄対象に応じた調整水を製造する装置とすることができる。
【0019】
そして、上記発明(発明1〜6)においては、前記pH・酸化還元電位調整水が、少なくとも一部に遷移金属が露出した半導体材料の洗浄用であることが好ましい(発明7)。
【0020】
かかる発明(発明7)によれば、露出したコバルトなどの遷移金属の種類に応じて、pH及び酸化還元電位を該遷移金属の腐食を抑制可能なものに調整することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のpH・酸化還元電位調整水の製造装置によれば、超純水中に微量含まれる過酸化水素を除去し、続いてpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を注入してpH・酸化還元電位調整水を調製した後、pH計測手段及び酸化還元電位計測手段の測定結果に基づいて、得られる調整水が所望とするpH及び酸化還元電位となるように制御することにより、所望とするpH及び酸化還元電位のpH・酸化還元電位調整水を製造することができる。これにより、コバルトなど被処理部材を構成する遷移金属の腐食を生じないpH及び酸化還元電位を維持した調整水を安定的に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態によるpH・酸化還元電位調整水の製造装置を示す概略図である。
図2】試験例1におけるコバルトの溶解速度を示すグラフである。
図3】試験例2における過酸化水素濃度とコバルトの溶解速度との関係を示すグラフである。
図4】試験例3におけるコバルトの溶解速度を示すグラフである。
図5】比較例1のpH・酸化還元電位調整水の製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のpH・酸化還元電位調整水の製造装置の一実施形態について添付図面を参照にして詳細に説明する。
【0024】
〔pH・酸化還元電位調整水の製造装置〕
図1は、pH・酸化還元電位調整水の製造装置を示しており、図1において当該調整水の製造装置は、超純水Wの供給ライン1に過酸化水素除去機構たる白金族金属担持樹脂カラム2を設け、この後段にpH調整剤注入装置3Aと酸化還元電位調整剤注入装置3Bとを備えた構成を有し、本実施形態においては、pH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3Bの後段に膜式脱気装置4と、ガス溶解膜装置5とを順次備える。この膜式脱気装置4の気相側には不活性ガス源6が接続しているとともに、ガス溶解膜装置5の気相側にも不活性ガス源7が接続していて、ガス溶解膜装置5には排出ライン8が連通している。なお、符号9は膜式脱気装置4及びガス溶解膜装置5のドレンタンクである。そして、本実施形態においては、排出ライン8の途中に、pH計測手段としてのpH計10Aと酸化還元電位計測手段としてのORP計10Bとが設けられていて、これらpH計10A及びORP計10Bは、パーソナルコンピュータなどの制御装置11に接続している。一方、制御装置11は、pH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3Bにも接続していて、これらの装置3A,3Bからの薬剤等の注入量を制御可能となっている。
【0025】
<超純水>
本実施形態において、原水となる超純水Wとは、例えば、抵抗率:18.1MΩ・cm以上、微粒子:粒径50nm以上で1000個/L以下、生菌:1個/L以下、TOC(Total Organic Carbon):1μg/L以下、全シリコン:0.1μg/L以下、金属類:1ng/L以下、イオン類:10ng/L以下、過酸化水素;30μg/L以下、水温:25±2℃のものが好適である。
【0026】
<過酸化水素除去機構>
本実施形態においては、過酸化水素除去機構として白金族金属担持樹脂カラム2を使用する。
【0027】
(白金族金属)
本実施形態において、白金族金属担持樹脂カラム2に用いる白金族金属担持樹脂に担持する白金族金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金を挙げることができる。これらの白金族金属は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもでき、2種以上の合金として用いることもでき、あるいは、天然に産出される混合物の精製品を単体に分離することなく用いることもできる。これらの中で白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物は、触媒活性が強いので好適に用いることができる。また、これらの金属のナノオーダーの微粒子も特に好適に用いることができる。
【0028】
(担体樹脂)
白金族金属担持樹脂カラム2において、白金族金属を担持させる担体樹脂としては、イオン交換樹脂を用いることができる。これらの中で、アニオン交換樹脂を特に好適に用いることができる。白金族金属は、負に帯電しているので、アニオン交換樹脂に安定に担持されて剥離しにくいものとなる。アニオン交換樹脂の交換基は、OH形であることが好ましい。OH形アニオン交換樹脂は、樹脂表面がアルカリ性となり、過酸化水素の分解を促進する。
【0029】
<pH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3B>
本実施形態において、注入装置は特に制限はなく、一般的な薬注装置を用いることができる。pH調整剤または酸化還元電位調整剤が液体の場合には、ダイヤフラムポンプなどのポンプを用いることができる。また、密閉容器にpH調整剤または酸化還元電位調整剤をNガスなどの不活性ガスとともに入れておき、不活性ガスの圧力によりこれらの剤を押し出す加圧式ポンプも好適に用いることができる。また、pH調整剤または酸化還元電位調整剤が気体の場合には、気体透過膜モジュールやエゼクター等の直接的な気液接触装置を用いることができる。
【0030】
<pH調整剤>
本実施形態において、pH調整剤注入装置3Aから注入するpH調整剤としては特に制限はなく、pH7未満に調整する場合には、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸などを用いることができる。また、pH7以上に調整する場合には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はTMAH等を用いることができる。pH・酸化還元電位調整水を銅やコバルトなどの遷移金属が露出しているウエハの洗浄水として用いる場合には、アルカリとするのが好ましいが、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属溶液は、金属成分を含有するため適当でない。したがって、本実施形態においては、アンモニアを用いることとする。
【0031】
<酸化還元電位調整剤>
本実施形態において、酸化還元電位調整剤注入装置3Bから注入する酸化還元電位調整剤としては特に制限はないが、フェリシアン化カリウムやフェロシアン化カリウムなどは、金属成分を含有するため好ましくない。したがって、酸化還元電位を正側に調整するには、過酸化水素水などの液体やオゾンガス、酸素ガスなどのガス体を用いることができる。また、酸化還元電位を負側に調整するにはシュウ酸などの液体や水素などのガス体を用いることが好ましい。例えば、銅やコバルトなどの遷移金属が露出しているウエハの洗浄水として用いる場合には、これらの材料の溶出を抑制するために酸化還元電位は正に調整するのが好ましいが、本実施形態のように後段の膜式脱気装置4で溶存酸素などを除去する場合にはガス体は適当でないことから、過酸化水素水を用いることとする。
【0032】
<膜式脱気装置>
本実施形態において、膜式脱気装置4としては、脱気膜の一方の側(液相側)に超純水Wを流し、他方の側(気相側)を真空ポンプで排気することで、溶存酸素を、膜を透過させて気相室側に移行させて除去するようにしたものを用いることができる。なお、この膜の真空側(気相側)には窒素等の不活性ガス源6を接続し、脱気性能を向上させることが好ましい。脱気膜は、酸素、窒素、蒸気等のガスは通過するが水は透過しない膜であれば良く、例えば、シリコンゴム系、ポリテトラフルオロエチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系等がある。この脱気膜としては市販の各種のものを用いることができる。
【0033】
<ガス溶解膜装置>
本実施形態において、ガス溶解膜装置5は、ガス透過膜の一方の側(液相側)に超純水Wを流し、他方の側(気相側)にガスを流通させて液相側にガスを移行させて溶解させるものであれば特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサンブロック共重合体、ポリビニルフェノール−ポリジメチルシロキサン−ポリスルホンブロック共重合体、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)、ポリテトラフルオロエチレンなどの高分子膜などを用いることができる。この水に溶解させるガスとしては、本実施形態においては窒素などの不活性ガスを用い、この不活性ガスは不活性ガス源7から供給する。
【0034】
〔pH・酸化還元電位調整水の製造方法〕
前述したような構成を有する本実施形態のpH・酸化還元電位調整水の製造装置を用いた高純度の調整水の製造方法について以下説明する。
【0035】
まず、原水としての超純水Wを供給ライン1から白金族金属担持樹脂カラム2に供給する。この白金族金属担持樹脂カラム2では白金族金属の触媒作用により、超純水W中の過酸化水素を分解除去する、すなわち過酸化水素除去機構として機能する。ただし、ここでは超純水W中の溶存酸素は、過酸化水素の分解によりわずかに増加傾向を示す場合がある。
【0036】
次に、この超純水Wに対しpH調整剤注入装置3AからpH調整剤を注入するとともに、酸化還元電位調整剤注入装置3Bから酸化還元電位調整剤を注入して調整水W1を調製する。pH調整剤及び酸化還元電位調整剤の注入量(流量)は、得られる調整水W1が所望とするpH及び酸化還元電位となるように超純水Wの流量に応じて、図示しない制御手段によりその注入量を制御すればよい。例えば、銅やコバルトなどの遷移金属が露出しているウエハの洗浄水として用いる場合には、pH9〜13で酸化還元電位が0〜1.7Vとなるように注入量を制御すればよい。ここで、この調整水W1中には超純水Wの溶存酸素と、pH調整剤及び酸化還元電位調整剤から持ち込まれた溶存酸素とが含まれることになる。
【0037】
続いて、この調整水W1を膜式脱気装置4に供給する。膜式脱気装置4では、疎水性気体透過膜により構成された液相室及び気相室の液相室側に調整水W1を流すとともに、気相室を図示しない真空ポンプで減圧することにより、調整水W1中に含まれる溶存酸素等の溶存ガスを、疎水性気体透過膜を通して気相室に移行させることで除去する。このとき気相室側に発生する凝縮水はドレンタンク9に回収する。本実施形態においては、膜式脱気装置4の気相室にスイープガスとして不活性ガスを不活性ガス源6から減圧下で供給しているが、これにより、脱気効果が高まり調整水W1の溶存酸素除去効果が更に高くなる点で望ましい。不活性ガスとしては、特に限定されず希ガスや窒素ガスなどを用いることができる。特に、窒素は容易に入手でき、かつ高純度レベルでも安価であるため、好適に用いることができる。これにより調整水W1の溶存酸素濃度を非常に低いレベルにまで低減することができる。このようにpH調整剤及び酸化還元電位調整剤を直接脱気せずに調整水W1とした後脱気することにより、これらの薬剤を真空脱気する際の薬液漏えいなどのリスクを低減することができる。
【0038】
そして、本実施形態においては、この脱気した調整水W1をガス溶解膜装置5に供給する。ガス溶解膜装置5では、疎水性気体透過膜により構成された液相室及び気相室の液相室側に調整水W1を流すとともに、気相室側の圧力が液相室側より高くなる条件下で不活性ガス源7から気相室に不活性ガスを供給することにより、液相室側に不活性ガスを移行させて調整水W1に溶解し、最終的な調整水(清浄調整水)W2を得ることができる。このとき気相室側に発生する凝縮水はドレンタンク9に回収する。この不活性ガスの溶解により清浄調整水W2へのガス種の再溶解を抑制することができ、清浄調整水W2を溶存酸素が低減された状態に維持することができる。不活性ガスとしては、特に限定されず希ガスや窒素ガスなどを用いることができる。特に、窒素は容易に入手でき、かつ高純度レベルでも安価であるため、好適に用いることができる。このようなガス溶解膜モジュールを用いる方法であれば、水中に容易に不活性ガスを溶解させることができ、また、溶存ガス濃度の調整、管理も容易に行うことができる。
【0039】
この清浄調整水W2は、本実施形態においてはpH計10AによりpHが計測されるとともに、ORP計10Bにより酸化還元電位が測定され、所望とするpH及び酸化還元電位であるか否かを監視される。そして、超純水Wの供給量のわずかな変動によってもpH及び酸化還元電位が変動するので、清浄調整水W2が所望とするpH及び酸化還元電位となるように制御装置11によりpH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3Bによる注入量を制御可能となっている。このpH及び酸化還元電位は、PI制御やPID制御などのフィードバック制御の他、周知の方法により制御することができる。
【0040】
上述したような本実施形態により製造される清浄調整水W2は、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板あるいはフォトマスク用石英基板などの電子材料の洗浄機に供給される。このような清浄調整水W2は、上述したように所望とするpH及び酸化還元電位を有するのみならず、過酸化水素濃度1ppb以下、清浄溶存酸素濃度100ppb以下と非常に低いレベルとすることが可能で、清浄調整水W2へのガス種の再溶解を抑制して低い状態を維持することが可能であり、清浄調整水W2を洗浄に好適な状態に維持することが可能となっている。
【0041】
以上、本発明について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は前記実施形態に限らず種々の変更実施が可能である。例えば、流量計、温度計、圧力計、気体濃度計等の計器類を任意の場所に設けることができる。また、必要に応じて、pH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3Bに薬液流量調整バルブを設けたり、不活性ガス源6及び不活性ガス源7に気体流量調整バルブ等の制御機器を設けたりしてもよい。さらに、膜式脱気装置4及びガス溶解膜装置5は、要求される調整水の水質によっては必ずしも設けなくてもよく、この場合には、pH調整剤及び酸化還元電位調整剤としてはガス体を用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0043】
(酸化還元電位の影響確認試験1)
[試験例1−1]
300mmΦのELD用Co膜付きウエハから10mm×45mmの角形の試験片を切り出した。この試験片をアンモニア水(アンモニア濃度:1ppm、pH9.4、酸化還元電位0.2V)100mLに室温にて20分浸漬した後の処理液中のコバルトの濃度をICP−MSにより分析し、コバルトの溶解速度を算出した。結果を図2に示す。
【0044】
[試験例1−2]
試験例1−1と同じ試験片を過酸化水素添加アンモニア水(アンモニア濃度:1ppm、過酸化水素濃度10ppm、pH10.0、酸化還元電位0.4V)100mLに室温にて20分浸漬した後の処理液中のコバルトの濃度をICP−MSにより分析し、コバルトの溶解速度を算出した。結果を図2にあわせて示す。
【0045】
図2から明らかな通り、同じ濃度のアンモニア水であっても過酸化水素水を添加することにより、コバルトの溶解速度が約1/4と大幅に低下することが確認された。これは、
Co+H → CoO+H
の反応によりウエハ表面に酸化コバルト(CoO)が形成され、この酸化コバルトがアルカリ条件下では安定な不動態皮膜として働くためであると考えられる。
【0046】
(酸化還元電位の影響確認試験2)
[試験例2]
300mmΦのELD用Co膜付きウエハから10mm×45mmの角形の試験片を切り出した。この試験片を過酸化水素添加アンモニア水(アンモニア濃度:1ppm、過酸化水素濃度0.001ppm〜1000ppm、酸化還元電位0.2V〜1.6V)100mLに室温にて20分浸漬した後の処理液中のコバルトの濃度をICP−MSにより分析し、コバルトの溶解速度を算出した。結果を図3にあわせて示す。
【0047】
図3から明らかな通り、同じ濃度のアンモニア水であっても過酸化水素水の添加料によりコバルトの溶解速度が大きく変動し、1000ppmでは1ppmアンモニア濃度の場合(試験例1−1)と比較して約30倍と大幅に大きくなった。これによりアルカリ環境下における酸化還元電位の変化により、コバルトの溶解速度が大きく変動することがわかった。
【0048】
これは過酸化水素濃度100ppm(酸化還元電位0.5V以下)の場合は、
Co+H → CoO+HO ・・・(1)
の反応によりウエハ表面に酸化コバルト(CoO)が形成され、この酸化コバルトがアルカリ条件下では安定な不動態皮膜として働くためであると考えられる。
【0049】
一方、過酸化水素濃度1000ppm(酸化還元電位1.6V)の場合は、豊富な過酸化水素により下記反応式が順次進行し、コバルトがイオン化して溶出すると考えられる。
Co+H → CoO+HO ・・・(1)
3CoO+H → Co+HO ・・・(2)
2Co+H → 3Co+HO ・・・(3)
2Co+5H → 4CoO2−+5H ・・・(4)
【0050】
(酸化還元電位の影響確認試験3)
[試験例3−1]
300mmΦのELD用Co膜付きウエハから10mm×45mmの角形の試験片を切り出した。また、300mmΦのELD用Cu膜付きウエハから10mm×45mmの角形の試験片を切り出した。これら2枚の試験片を電気的に接続し、アンモニア水(アンモニア濃度:1ppm、pH9.4、酸化還元電位0.2V)100mLに室温にて20分浸漬した後の処理液中のコバルトの濃度をICP−MSにより分析し、コバルトの溶解速度を算出した。結果を図4に示す。
【0051】
[試験例3−2]
試験例3−1と同じ試験片を過酸化水素添加アンモニア水(アンモニア濃度:1ppm、過酸化水素濃度10ppm、pH10.0、酸化還元電位0.4V)100mLに室温にて20分浸漬した後の処理液中のコバルトの濃度をICP−MSにより分析し、コバルトの溶解速度を算出した。結果を図4にあわせて示す。
【0052】
図4から明らかな通り、異種金属(コバルトと銅)が電気的に接続した状態では、試験例3−1は、試験例1−1と比較してコバルトの溶解速度が大幅に上昇している。なお、銅の溶出はほとんど認められなかった。これは、両者の酸化還元電位の相違から異種金属腐食が発生し、酸化還元電位の低いコバルトが溶解しやすくなるためであると考えられる。これに対し同じ濃度のアンモニア水であっても過酸化水素水を添加することにより、コバルトの溶解速度が大幅に低下することが確認された。これは、過酸化水素により、コバルト及び銅両方の表面に酸化物による不動態皮膜が形成されるためであると考えられる。
【0053】
これら試験例1〜試験例3から明らかなとおり、コバルトなどの遷移金属が露出した被処理部材を洗浄した際の該被処理部材からの遷移金属の溶出には、洗浄水のpH及び酸化還元電位を制御することが有効であることがわかった。
【0054】
[実施例1]
図1に示す構成で調整水製造装置を構成し、供給ライン1から超純水Wを3L/分の流量で供給し、白金族金属として白金を担持した白金族金属担持樹脂カラム2に流通した後、pH9.5〜10.2の範囲内となるようにpH調整剤注入装置3Aからアンモニア水溶液(濃度28重量%)を供給するとともに、過酸化水素濃度10ppmで酸化還元電位0.4Vとなるように酸化還元電位調整剤注入装置3Bから過酸化水素水(濃度5重量%)を供給して調整水W1を調製した。この調整水W1を膜式脱気装置4及びガス溶解膜装置5で処理して清浄調整水W2を製造した。この清浄調整水W2のpHをpH計10Aで測定するとともにORP計10Bで酸化還元電位を計測し、超純水Wの流量変動などによるpH及び酸化還元電位の変動に追従して制御装置11によりpH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3Bからの薬注量をPID制御した。さらに過酸化水素濃度計で過酸化水素(H)濃度を測定した。結果を清浄調整水W2の溶存酸素濃度とともに表1にあわせて示す。
【0055】
なお、膜式脱気装置4としては、リキセル(セルガード社製)を用い、スイープガスとして窒素ガスを10L/分の流量で流通した。また、ガス溶解膜装置5としては、三菱レイヨン製「MHF1704」を用い、窒素ガスを0.1L/分の流量で供給した。
【0056】
[比較例1]
図5に示すように、図1に示す装置においてガス溶解膜装置5の後段で、pH9.5〜10.2の範囲内となるようにpH調整剤注入装置3Aからアンモニア水溶液(濃度28重量%)を供給するとともに、過酸化水素濃度10ppmで酸化還元電位0.4Vとなるように酸化還元電位調整剤注入装置3Bから過酸化水素水(濃度5重量%)を供給して清浄調整水W2を調製した以外は同様にして調整水製造装置を構成した。この調整水製造装置により実施例1と同じ条件で清浄調整水W2を製造し、清浄調整水W2を製造した。この調整水W1を膜式脱気装置4及びガス溶解膜装置5で処理して清浄調整水W2を製造した。この清浄調整水W2のpHをpH計10Aで測定するとともにORP計10Bで酸化還元電位を計測し、超純水Wの流量変動などによるpH及び酸化還元電位の変動に追従して制御装置11によりpH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3Bからの薬注量をPID制御した。さらに過酸化水素濃度計で過酸化水素(H)濃度を測定した。結果を清浄調整水W2の溶存酸素濃度とともに表1にあわせて示す。
【0057】
[比較例2]
比較例1において、図5の装置でpH調整剤注入装置3Aから過酸化水素濃度を供給せずにpH7.4〜9.5の範囲内となるようにpH調整剤注入装置3Aからアンモニア水溶液(濃度28重量%)を供給し、酸化還元電位調整剤注入装置3Bから過酸化水素水を供給しなかった以外は同様にして清浄調整水W2を製造した。この調整水W1を膜式脱気装置4及びガス溶解膜装置5で処理して清浄調整水W2を製造した。この清浄調整水W2のpHをpH計10Aで測定するとともにORP計10Bで酸化還元電位を計測し、超純水Wの流量変動などによるpH及び酸化還元電位の変動に追従して制御装置11によりpH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3Bからの薬注量をPID制御した。さらに過酸化水素濃度計で過酸化水素(H)濃度を測定した。結果を清浄調整水W2の溶存酸素濃度とともに表1にあわせて示す。なお、比較のために参考例として超純水WのpH及び酸化還元電位及び溶存酸素濃度を表1にあわせて示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなとおり、実施例1のpH・酸化還元電位調整水製造装置では、溶存酸素濃度が100ppb未満で、pHが目標とする範囲内で、かつORP及び過酸化水素濃度も目標とする値に非常に近似した値に制御することができた。これに対し、比較例1の調整水製造装置では、過酸化水素は目標値に近いものの溶存酸素濃度は1ppm以上であり、これに起因してpHは目標値より小さかった。これはpH調整剤注入装置3A及び酸化還元電位調整剤注入装置3Bから供給されるアンモニア水溶液及び過酸化水素水に溶解している溶存酸素の影響であると考えられる。また、比較例2では過酸化水を添加していないものであるが、溶存酸素濃度は1ppm以上であり、やはりpHは目標値より小さかった。
【符号の説明】
【0060】
1 供給ライン
2 白金族金属担持樹脂カラム(過酸化水素除去機構)
3A pH調整剤注入装置
3B 酸化還元電位調整剤注入装置
4 膜式脱気装置
5 ガス溶解膜装置
6 不活性ガス源
7 不活性ガス源
8 排出ライン
9 ドレンタンク
10A pH計(pH計測手段)
10B ORP計(酸化還元電位計測手段)
11 制御装置
W 超純水
W1 調整水
W2 清浄調整水
図1
図2
図3
図4
図5