特許第6471821号(P6471821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6471821リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6471821
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20190207BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-35176(P2018-35176)
(22)【出願日】2018年2月28日
【審査請求日】2018年6月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100204043
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 美和
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
(72)【発明者】
【氏名】山屋 竜太
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/158566(WO,A1)
【文献】 特開2012−248378(JP,A)
【文献】 特開2012−234766(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/073652(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146168(WO,A1)
【文献】 特開2015−060799(JP,A)
【文献】 特開2014−179291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含み、
前記炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)と、前記電極活物質の結晶子径B(nm)との比A/Bが1以上2.5以下であり、
前記電極活物質の結晶子径B(nm)が30nm以上150nm以下であり、
前記炭素質被覆電極活物質の炭素含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、前記炭素質被膜の被覆率が80%以上であり、前記炭素質被膜の膜厚が0.8nm以上5.0nm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項2】
前記電極活物質が、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1)で表わされることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項3】
前記炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積が6m/g以上25m/g以下であことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項4】
前記炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上60μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項5】
前記炭素被覆電極活物質のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いた吸油量が50ml/100g以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電極材料を用いてなるリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項7】
請求項に記載の電極を用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛電池、ニッケル水素電池よりもエネルギー密度、出力密度が高く、スマートフォンなどの小型電子機器をはじめ、家庭用バックアップ電源、電動工具など、様々な用途に利用されている。また、太陽光発電、風力発電など、再生可能エネルギー貯蔵用として、大容量のリチウムイオン二次電池の実用化が進んでいる。
リチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液及びセパレータを備える。正極を構成する電極材料としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)やマンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するリチウム含有金属酸化物が用いられ、電池の高容量化、長寿命化、安全性の向上、低コスト化など、様々な観点から改良が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、表面を炭素質被膜により被覆されたリン酸鉄リチウム粒子からなる電極材料が開示されている。
リン酸鉄リチウム顆粒中のカーボンは、カーボンコートとして一次粒子の表面を被覆しているものと、一次粒子間に単離カーボンとして存在しているものとがある。リン酸鉄リチウム顆粒中のカーボンは電子伝導性を向上させるがリチウムの拡散を阻害してしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−157260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボンの単離量が多い顆粒について、BET法により求めた比表面積を評価した場合、カーボンの多孔性から比表面積が増加し、そこから算出される粒子径は微小化する。また、カーボンコートにクラックが多く存在するような顆粒も同様に比表面積が増加する。そのような比表面積が大きい顆粒は電子伝導性が低くなってしまう。
上述の特許文献1では、カーボンコートの厚さ及び総カーボン量に関して規定しているが、カーボンコートの状態や、単離カーボン量に関しては十分に検討されていない。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電子伝導性とリチウム拡散性とを両立したリチウムイオン二次電池用電極材料、該リチウムイオン二次電池用電極材料を用いた電極、及び該電極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
[1]電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含み、前記炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)と、前記電極活物質の結晶子径B(nm)との比A/Bが1以上2.5以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極材料。
[2]前記電極活物質が、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1)で表わされることを特徴とする上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
[3]前記炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積が6m/g以上25m/g以下であり、前記電極活物質の結晶子径が30nm以上150nm以下であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
[4]前記炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上60μm以下であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
[5]前記炭素質被覆電極活物質の炭素含有量が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、前記炭素質被膜の被覆率が80%以上であり、前記炭素質被膜の膜厚が0.8nm以上5.0nm以下であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
[6]前記炭素被覆電極活物質のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いた吸油量が50ml/100g以下であることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の電極材料を用いてなるリチウムイオン二次電池用電極。
[8]上記[7]に記載の電極を用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電子伝導性とリチウム拡散性とを両立したリチウムイオン二次電池用電極材料、該リチウムイオン二次電池用電極材料を用いた電極、及び該電極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[リチウムイオン二次電池用電極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料(以下、単に電極材料ともいう)は、電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含み、前記炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)と、前記電極活物質の結晶子径B(nm)との比A/Bが1以上2.5以下であることを特徴とする。
本発明者らは、電極活物質を被覆する炭素質被膜の状態の改善として、微細なナノクラックの生成抑制と、炭素質被覆電極活物質から単離した炭素量の低減を行うことにより、炭素質被覆電極活物質の比表面積を低減させることができることを見出した。比表面積が低減した炭素質被覆電極活物質は、単結晶を主とする粒子から成るために炭素質被覆電極活物質の比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)が、電極活物質の結晶子径B(nm)に近い値となる。これにより、電子伝導性とリチウム拡散性とを両立したリチウムイオン二次電池用電極材料とすることができる。
【0010】
本実施形態で用いられる電極活物質は、一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子で構成される。電極活物質の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。電極活物質が球状であることで、造粒された顆粒体の内部がより緻密となるため、電極の密度が向上しやすい。また、顆粒体とすることで、本実施形態の電極材料を用いて電極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、電極形成用ペーストの集電体への塗工も容易となる。なお、電極形成用ペーストは、例えば、本実施形態の電極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。
【0011】
本実施形態の電極材料で用いられる電極活物質は、オリビン構造の遷移金属リン酸リチウム化合物からなることが好ましい。オリビン構造の遷移金属リン酸リチウム化合物としては、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1)で表わされる電極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度の観点から好ましい。
【0012】
ここで、Aについては、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種であり、中でも、Mn、及びFeが好ましく、Feがより好ましい。
Dについては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種であり、中でも、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが好ましい。電極活物質がこれらの元素を含む場合、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合材層とすることができる。また、資源量が豊富であるため、選択する材料として好ましい。
【0013】
電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜は、該炭素質被膜の原料となる有機物を炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。有機物としては、電極活物質の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、2価アルコール、3価アルコール等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
前記炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積(BET比表面積)から試算される平均一次粒子径A(nm)と、前記電極活物質の結晶子径B(nm)との比A/Bは、1以上2.5以下である。比A/Bが1未満では、炭素質被覆電極活物質のBET比表面積が大きくなり過ぎてしまい、電子伝導性の低下を招くおそれがあり、2.5を超えると一次粒子の焼結が生じていると考えられ、焼結による炭素質被膜の破壊によって、炭素質被覆電極活物質のイオン拡散性や電子伝導性が低くなるおそれがある。このような観点から、比A/Bは、好ましくは1.1以上2.0以下、より好ましくは1.2以上2.0以下、更に好ましくは1.2以上1.8以下である。
【0015】
上記平均一次粒子径Aは、粒子を球形と仮定した場合、下記式(1)より算出することができる。
平均一次粒子径A(nm)=6/〔(炭素質被覆電極活物質の真比重(g/m))×(炭素質被覆電極活物質のBET比表面積(m/g))〕×10 (1)
ここで、真比重とは物質自身が占める体積から算出した密度のことである。
また、上記結晶子径Bは、X線回折装置(例えば、RINT2000、RIGAKU製)により測定し、得られる粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出することができる。
【0016】
前記平均一次粒子径Aは、好ましくは30nm以上380nm以下、より好ましくは50nm以上300nm以下、更に好ましくは50nm以上250nm以下である。平均一次粒子径Aが上記範囲内であると比A/Bを上述の範囲内とすることができる。また、平均一次粒子径Aが30nm以上であると、比表面積が大きくなりすぎることによる炭素量の増加を抑制することができ、380nm以下であると比表面積の大きさから電子伝導性とイオン拡散性を向上させることができる。
【0017】
前記電極活物質の結晶子径Bは、好ましくは30nm以上150nm以下、より好ましくは50nm以上120nm以下、更に好ましくは50nm以上100nm以下である。結晶子径Bが上記範囲内であると比A/Bを上述の範囲内とすることができる。また、結晶子径Bが30nm以上であると電極活物質表面を炭素質被膜で十分に被覆するために必要な炭素量が多くなりすぎず、また、結着剤の量を抑えることができる。これにより、電極中の活物質量を高めることができ、電池の容量を高めることができる。また、十分な結着力が得られ、膜剥離を生じにくくすることができる。一方、150nm以下であると電極活物質の内部抵抗が抑えられ、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を大きくすることができる。
【0018】
また、電極活物質の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは10nm以上500nm以下、より好ましくは20nm以上400nm以下、更に好ましくは20nm以上300nm以下、より更に好ましくは30nm以上200nm以下である。電極活性物質の一次粒子の平均粒子径が10nm以上であると電極活物質の一次粒子の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量の増加を抑制し、電極材料単位質量当たりの充放電容量が低減することを抑制できる。また、電極活物質の一次粒子の表面を炭素質被膜で均一に被覆しやすくなる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量が大きくなり、十分な充放電性能を実現することができる。一方、500nm以下であると電極活物質の一次粒子の内部におけるリチウムイオン拡散抵抗や電子の移動抵抗が大きくなることを抑制できる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
ここで、一次粒子の平均粒子径とは、個数平均粒子径のことである。本実施形態の電極活物質の一次粒子の平均粒子径は、無作為に100個の一次粒子を選び出して、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)にて個々の一次粒子の長径及び短径を測定し、その平均値として求めることができる。
【0019】
前記炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上60μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下、更に好ましくは1μm以上10μm以下である。上記二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であると、電極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合して、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際の導電助剤、及び結着剤の配合量を抑えることができ、リチウムイオン二次電池用正極合材層の単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。一方、上記二次粒子の平均粒子径が60μm以下であると、正極合材層中の導電助剤や結着剤の分散性、均一性を高めることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
ここで、二次粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。上記二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0020】
前記炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積は、好ましくは6m/g以上25m/g以下、より好ましくは10m/g以上20m/g以下、更に好ましくは12m/g以上18m/g以下である。比表面積が上記範囲内であると、比A/Bを上述の範囲内とすることができる。また、比表面積が6m/g以上であると、電極材料内のリチウムイオンの拡散速度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、25m/g以下であると、電子伝導性を高めることができる。
なお、上記比表面積は、BET法により、比表面積計(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:BELSORP−mini)を用いて測定することができる。
【0021】
炭素質被覆電極活物質中に含まれる単離した炭素量が多くなると、炭素質被覆電極活物質の比表面積は増大する。また、電極活物質を被覆する炭素質被膜にクラックが多数存在すると炭素質被覆電極活物質の比表面積は増大する。そのため、炭素質被覆電極活物質中に含まれる単離した炭素量を低減させることが好ましく、炭素質被膜へのクラックの発生を抑制することが好ましい。
【0022】
前記炭素質被覆電極活物質に含まれる炭素含有量は、好ましくは0.5質量%以上2.5質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上1.3質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以上1.2質量%以下である。炭素含有量が上記範囲内であると比A/Bを上述の範囲内とすることができる。また、炭素含有量が、0.5質量%以上であると電子伝導性を十分に高めることができ、2.5質量%以下であると電極密度を高めることができる。
なお、上記炭素含有量は、炭素分析計(例えば、株式会社堀場製作所製、炭素硫黄分析装置EMIA−810W)を用いて測定することができる。
【0023】
前記電極活物質を被覆する炭素質被膜の厚み(平均値)は、好ましくは0.8nm以上5.0nm以下、より好ましくは1.0nm以上4.0nm以下である。炭素質被膜の厚みが0.8nm以上であると、炭素質被膜の厚みが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成することができなくなることを抑制できる。そして、電極材料としての導電性を確保することができる。一方、炭素質被膜の厚みが5.0nm以下であると、電極材料の単位質量あたりの電池容量が低下することを抑制できる。
また、炭素質被膜の厚みが上記範囲内であると、電極材料を最密充填しやすくなるため、単位体積あたりのリチウムイオン二次電池用電極材料の充填量が多くなる。その結果、電極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0024】
前記電極活物質に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が充分に得られる。
なお、上記炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定することができる。
【0025】
炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度は、好ましくは0.3g/cm以上1.5g/cm以下、より好ましくは0.4g/cm以上1.0g/cm以下である。炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度とは、炭素質被膜が炭素のみから構成されると想定した場合に、炭素質被膜の単位体積当たりの質量である。
炭素質被膜の密度が0.3g/cm以上であれば、炭素質被膜が充分な電子伝導性を示す。一方、炭素質被膜の密度が1.5g/cm以下であれば、炭素質被膜における層状構造からなる黒鉛の微結晶の含有量が少ないため、Liイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、電荷移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0026】
前記炭素質被覆電極活物質のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いた吸油量(NMP吸油量)は、好ましくは50ml/100g以下であり、より好ましくは48ml/100g以下であり、更に好ましくは45ml/100g以下である。NMP吸油量が50ml/100g以下であると、電極ペーストの増粘を抑制でき、かつ導電助剤や結着剤の分散が容易となる。なお、NMPを用いた吸油量の下限値は特に限定されないが、例えば20ml/100gである。
なお、上記NMP吸油量は、JIS K5101−13−1(精製あまに油法)に則った手法にて、あまに油をNMPに代えて測定することができる。
【0027】
本実施形態の電極材料の50MPaの圧力で成形した圧粉体の抵抗率は、好ましくは1MΩ・cm以下、より好ましくは3kΩ・cm以下、更に好ましくは1000Ω・cm以下、より更に好ましくは500Ω・cm以下である。1MΩ・cm以下であれば、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を高めることができる。
なお、上記圧粉体の抵抗率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
(リチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は、例えば、電極活物質及び電極活物質前駆体の製造工程と、電極活物質及び電極活物質前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の電極活物質原料と、炭素源となる有機物とを含む混合物スラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒し造粒物を得る造粒工程と、前記工程で得られた造粒物に、非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する熱処理工程とを有する。
【0029】
(電極活物質及び電極活物質前駆体の製造工程)
電極活物質及び電極活物質前駆体(以下、電極活物質及び電極活物質前駆体を電極活物質原料と呼ぶ場合がある)の製造工程としては、特に限定されず、例えば、電極活物質原料が前記一般式LiPOで表される場合、固相法、液相法、気相法等の従来の方法を用いることができる。このような方法で得られたLiPOとしては、例えば、粒子状のもの(以下、「LiPO粒子」と言うことがある。)が挙げられる。
LiPO粒子は、例えば、Li源と、A源と、P源と、水と、必要に応じてD源と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成して得られる。水熱合成によれば、LiPOは、水中に沈殿物として生成する。得られた沈殿物は、LiPOの前駆体であってもよい。この場合、LiPOの前駆体を焼成することで、目的のLiPO粒子が得られる。
この水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
【0030】
ここで、Li源としては、酢酸リチウム(LiCHCOO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩及び水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらの中でも、Li源としては、酢酸リチウム、塩化リチウム及び水酸化リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0031】
A源としては、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、LiPOにおけるAがFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、硫酸鉄(II)(FeSO)等の2価の鉄塩が挙げられる。これらの中でも、Fe源としては、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)及び硫酸鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0032】
D源としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。
【0033】
P源としては、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物が挙げられる。これらの中でも、P源としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0034】
(造粒工程)
本工程は、電極活物質原料と、炭素源となる有機物とを含む混合物スラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒し造粒物を得る工程である。
電極活物質原料及び有機物としては、それぞれ上述したものを用いることができる。
また、上記電極活物質原料及び有機物含む混合物スラリーに高吸水性高分子を加えることが好ましい。これにより、後述する熱処理工程において電極活物質の粒子成長、及び焼結を起こしにくくすることができる。ここで、本明細書において高吸水性高分子とは、35℃、相対湿度100%で48時間放置した際に、少なくとも自重の数倍から数十倍の水を吸水して膨潤する性質を有する高分子材料のことを意味する。
本実施形態では、電極活物質の粒子成長、及び焼成を抑制する観点から、上記高吸水性高分子は、自重の10倍以上の水を吸収する高分子であることが好ましく、自重の100倍以上の水を吸収する高分子であることがより好ましい。
【0035】
前記高吸水性高分子としては、特に限定されず、例えば、ポリアクリル酸塩系、ポリアルギン酸塩系、ポリビニルアルコール−アクリル酸塩系、アクリル酸塩−アクリルアミド系、ポリアセタールカルボキシレート系、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール系、カルボキシメチルセルロース系、ポリアクリロニトリル系架橋体等が挙げられる。これらの高吸水性高分子は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
有機物と、電極活物質原料との配合比は、電極活物質原料から得られる活物質100質量部に対して、有機物から得られる炭素重量で0.5質量部以上2.5質量部以下であることが好ましい。実際の配合量は加熱炭化による炭化量(炭素源の種類や炭化条件)により異なるが、おおむね0.7重量部から6重量部程度である。有機物の配合量を上記範囲内とすることで、比A/Bを上述の範囲内とすることができる。
【0037】
また、高吸水性高分子と、電極活物質原料との配合比〔高吸水性高分子/電極活物質原料〕は、好ましくは0.1/100〜10/100、より好ましくは0.2/100〜5/100である。上記範囲内とすることで、電極活物質の結晶子径を前述の範囲内とすることができる。
【0038】
有機物と、電極活物質原料と、必要に応じて高吸水性高分子を水に溶解又は分散させて、混合物スラリーを調製する。有機物と、電極活物質原料と、高吸水性高分子とを水に溶解又は分散させる方法としては、特に限定されないが、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の分散装置を用いることができる。
【0039】
また、有機物と、電極活物質原料と、高吸水性高分子とを水に溶解又は分散する際には、電極活物質原料を水に分散させた後、有機物と、高吸水性高分子とを添加し撹拌することが好ましい。
【0040】
得られた混合物スラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒する。該混合物スラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥する際のスラリー濃度を適宜調整することで、炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径を調整することができる。
混合物スラリー濃度としては、好ましくは2〜65質量%、より好ましくは10〜50質量%である。スラリー濃度を上記範囲内とすることで、炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径を前述の範囲内とすることができる。また、比A/Bを上述の範囲内とすることができる。
【0041】
上記で得られた造粒物(混合物)が高吸水性高分子を含む場合、該造粒物を加湿することが好ましい。該造粒物を加湿すると、該造粒物中の高吸水性高分子が膨潤するため、電極活物質原料の粒子間隙が拡大し、該電極活物質原料の粒子間で物質移動が抑制される。これにより、後述する熱処理の際に、高温で加熱しても該粒子の成長、及び焼結が起こりにくくなり、電極活物質の結晶子径を前述の範囲内とすることができる。
【0042】
上記加湿は、温度25℃〜40℃、相対湿度75%〜100%で30分〜48時間行うことが好ましく、温度25℃〜35℃、相対湿度85%〜100%で1〜12時間行うことがより好ましい。
【0043】
(熱処理工程)
本工程は、造粒工程で得られた造粒物を非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する工程である。
非酸化性雰囲気としては、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H)等の還元性ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気が好ましい。また、熱処理時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去する目的で、酸素(O)等の支燃性または可燃性ガスを不活性雰囲気中に導入してもよい。
【0044】
熱処理は、600℃以上1000℃以下、好ましくは700℃以上900℃以下の範囲内の温度で、1〜24時間、好ましくは1〜6時間行う。
熱処理温度が600℃未満では、有機物の炭化が不十分となり、電子伝導性を高めることができないおそれがあり、1000℃超過では、活物質の分解が生じたり、粒子成長を抑制できないおそれがある。
また、昇温速度は、好ましくは10℃/分以上、より好ましくは20℃/分以上で行う。
【0045】
ここで、焼成温度を600℃以上とすることにより、造粒物に含まれる有機物の分解及び反応が充分に進行し易く、有機物の炭化を充分に行い易い。その結果、得られた粒子中に高抵抗の有機物の分解物が生成することを防止し易い。一方、焼成温度を1000℃以下とすることにより、電極活物質原料中のリチウム(Li)が蒸発し難く、また、電極活物質が目的の大きさ以上に粒成長することが抑制される。その結果、本実施形態の電極材料を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池を作製した場合に、高速充放電レートにおける放電容量が低くなることを防止でき、充分な充放電レート性能を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0046】
[リチウムイオン二次電池用電極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極(以下、単に電極ともいう)は、上述の電極材料を用いてなる。
本実施形態の電極を作製するには、上述の電極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、電極形成用塗料又は電極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤を添加してもよい。
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
電極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、電極材料100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部〜30質量部、好ましくは3質量部〜20質量部とする。
【0047】
電極形成用塗料又は電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
次いで、電極形成用塗料又は電極形成用ペーストを、金属箔の一方の面に塗布し、その後、乾燥し、上記の電極材料とバインダー樹脂との混合物からなる塗膜が一方の面に形成された金属箔を得る。
次いで、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、金属箔の一方の面に電極材料層を有する集電体(電極)を作製する。
このようにして、直流抵抗を低下させ、放電容量を高めることができる電極を作製することができる。
【0049】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上述の電極からなる正極を備える。
このリチウムイオン二次電池は、上述の電極材料を用いて電極を作製することにより、電極の内部抵抗を小さくすることができる。したがって、電池の内部抵抗を低く抑えることができ、その結果、電圧が著しく低下するおそれもなく、高速の充放電を行うことができるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、電解液、セパレーター等は特に限定されない。例えば、負極としては、金属Li、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いることができる。また、電解液とセパレーターの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態の電極からなる正極を備えるため、高い放電容量を有する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0051】
<製造例1:電極活物質(LiFePO)の製造>
LiFePOの合成は以下のようにして水熱合成で行った。
Li源としてLiOH、P源としてNHPO、Fe源(A源)としてFeSO・7HOを用い、これらを物質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように純水に混合して200mlの均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃で12時間、水熱合成を行った。この反応後に室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。この沈殿物を蒸留水で複数回、十分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持しケーキ状物質とした。このケーキ状物質を若干量採取し、70℃で2時間真空乾燥させて得られた粉末をX線回折で測定したところ、単相のLiFePOが形成されていることが確認された。
【0052】
<製造例2:電極活物質(LiMnPO)の製造>
A源として、FeSO・7HOの代わりにMnSO・HOを用いた以外は、製造例1と同様にしてLiMnPOを合成した。
【0053】
<製造例3:電極活物質(Li[Fe0.25Mn0.75]PO)の製造>
A源として、FeSO・7HO:MnSO・HO=25:75(物質量比)の混合物を用いた以外は、製造例1と同様にしてLi[Fe0.25Mn0.75]POを合成した。
【0054】
<実施例1>
製造例1で得られたLiFePO(電極活物質)20gと、炭素源としてポリビニルアルコール(PVA)0.73gと、高吸水性高分子としてポリアクリル酸ナトリウム0.05gとを総量で100gとなるように水に混合し、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を高湿度環境(30℃、相対湿度100%RH)で1時間静置し、ポリアクリル酸ナトリウム(高吸水性高分子)を膨潤させた後、窒素(N)雰囲気下、昇温速度20℃/分で昇温し、温度770℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0055】
<実施例2>
高吸水性高分子として、ポリアクリル酸ナトリウムの代わりにポリアルギン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0056】
<実施例3>
実施例1と同様にして造粒物を得た。該造粒物を100cmの矩形容器に均一に広げた後、該造粒物に重量の1%相当の水を霧吹きでかけることで、高吸水性高分子を膨潤させた。次いで、窒素(N)雰囲気下、昇温速度20℃/分で昇温し、温度770℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0057】
<実施例4>
LiFePOの代わりに、LiMnPO19gと、炭化触媒として、LiFePO1g相当の炭酸Li−酢酸鉄(II)−リン酸(Li:Fe:P=1:1:1)混合溶液とを用い、炭素源としてポリビニルアルコール(PVA)1.1g、高吸水性高分子としてポリアクリル酸ナトリウム0.05gを用いた以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0058】
<実施例5>
LiFePOの代わりに、Li[Fe0.25Mn0.75]POを用いた以外は実施例1と同様にして炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0059】
<実施例6>
製造例1で得られたLiFePO20gと炭素源としてグルコース0.8gとを総量80gとなるように水に混合し、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を窒素(N)雰囲気下、昇温速度20℃/分で昇温し、温度770℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0060】
<実施例7>
炭素源となるグルコース量を0.4gとした以外は実施例6と同様に造粒し、造粒物を作製した。次いで、PVA0.4gを添加、撹拌した後に窒素(N)雰囲気下、昇温速度20℃/分で昇温し、温度770℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0061】
<実施例8>
水の混合量を増やし、総量を150gとした以外は実施例7と同様にして炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0062】
<実施例9>
熱処理温度を700℃にした以外は実施例7と同様にして炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0063】
<実施例10>
炭素源をグルコース0.4gとPVA0.4gとした以外は実施例6と同様にして炭素質被覆電極活物質を含む電極材料を得た。
【0064】
<比較例1>
炭素源としてPVAを3g用いた以外は実施例1と同様にして比較例1の電極材料を得た。
【0065】
<リチウムイオン二次電池の作製>
実施例及び比較例で得られた電極材料と、導電助材としてアセチレンブラック(AB)と、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、電極材料:AB:PVdF=90:5:5の重量比で、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に混合し、正極材料ペーストとした。得られたペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔上に塗布、乾燥後、所定の密度となるように圧着して電極板とした。
得られた電極板を3×3cm(塗布面)+タブしろの板状に打ち抜き、タブを溶接して試験電極を作製した。
一方、対極には同様にLiTi12を塗布した塗布電極を用いた。セパレーターとしては、多孔質ポリプロピレン膜を採用した。また、非水電解液(非水電解質溶液)として1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)溶液を用いた。なお、このLiPF溶液に用いられる溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積%で1:1に混合し、添加剤として炭酸ビニレン2%を加えたものを用いた。
そして、以上のようにして作製した試験電極、対極および非水電解液を用いて、ラミネート型のセルを作製し、実施例および比較例のリチウムイオン二次電池とした。
【0066】
〔電極材料の評価〕
実施例及び比較例で得られた電極材料、及び該電極材料が含む成分について物性を評価した。評価方法は、以下の通りである。なお、結果を表1に示す。
【0067】
(1)炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径
ポリビニルピロリドン0.1%を水に溶解した分散媒に電極材料を懸濁させて、レーザー回折式粒度分析装置(株式会社堀場製作所製、LA−950V2)を用いて測定した。
【0068】
(2)電極活物質の一次粒子の平均粒子径
電極活物質の一次粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した200個以上の一次粒子の粒子径を個数平均することで求めた。
【0069】
(3)炭素質被覆電極活物質の炭素含有量
炭素分析計(株式会社堀場製作所製、炭素硫黄分析装置EMIA−810W)を用いて、炭素質被覆電極活物質の炭素含有量(質量%)を測定した。
【0070】
(4)炭素質被覆電極活物質の比表面積
比表面積計(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:BELSORP−mini)を用いて、炭素質被覆電極活物質の比表面積を、窒素(N)吸着によるBET法により測定した。
【0071】
(5)炭素質被覆電極活物質の平均一次粒子径Aは、下記式(1)より算出した。
平均一次粒子径A(nm)=6/〔(炭素質被覆電極活物質の真比重(g/m))×(炭素質被覆電極活物質のBET比表面積(m/g))〕×10 (1)
なお、炭素質被覆電極活物質の真比重は3600000g/mとする。
【0072】
(6)電極活物質の結晶子径B
電極活物質の結晶子径Bは、X線回折測定(X線回折装置:RINT2000、RIGAKU製)により測定した粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出した。
【0073】
(7)比A/Bの算出
上記(5)で算出した平均一次粒子径A及び上記(6)で算出した結晶子径Bから比A/Bを算出した。
【0074】
(8)NMP吸油量
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いた吸油量は、JIS K5101−13−1(精製あまに油法)に則った手法にて、あまに油をNMPに代えて測定した。
【0075】
(9)電極材料の圧粉体抵抗
電極材料を金型に投入して50MPaの圧力にて成形し、試料を作製した。低抵抗率計(三菱化学株式会社製、商品名:Loresta−GP)を用いて、25℃にて四端子法により、試料の粉体抵抗値(Ω・cm)を測定した。
【0076】
〔電極及びリチウムイオン二次電池の評価〕
実施例及び比較例で得られたリチウムイオン二次電池を用いて放電容量と充放電の直流抵抗(DCR)を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
(1)放電容量
環境温度0℃にて、実施例1、2、3、6、7、8、9、10及び比較例1の電池では、カットオフ電圧を1−2V(vsLiTi12)とし、実施例4、5の電池では、カットオフ電圧を1.2−3V(vsLiTi12)とし、充電電流を1C、放電電流を3Cとして定電流充放電により放電容量を測定した。
【0078】
(2)充放電の直流抵抗(DCR)
リチウムイオン二次電池について、環境温度0℃にて0.1Cの電流で5時間充電し、充電深度を調整した(充電率(SOC)50%)。SOC50%に調整した電池に、第1サイクルとして「1C充電を10秒→休止10分→1C放電を10秒→休止10分」、第2サイクルとして「3C充電を10秒→休止10分→3C放電を10秒→休止10分」、第3サイクルとして「5C充電を10秒→休止10分→5C放電を10秒→休止10分」、第4サイクルとして「10C充電を10秒→休止10分→10C放電を10秒→休止10分」を、この順で実施し、その際の各充電、放電時10秒後の電圧を測定した。各電流値を横軸に、10秒後の電圧を縦軸にプロットして近似直線を描き、近似直線における傾きをそれぞれ充電時の直流抵抗(充電DCR)、放電時の直流抵抗(放電DCR)とした。
【0079】
【表1】
【0080】
(結果のまとめ)
炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)と、電極活物質の結晶子径B(nm)との比A/Bが1以上2.5以下を満たす電極材料を用いた実施例1〜10では、いずれもリチウムイオン二次電池の放電容量が増加し、直流抵抗の低減が確認できた。一方、比A/Bが上記範囲を満たさない比較例1の電極材料は、実施例と比較して比表面積が大きいことが確認できた。また、比較例1では、圧粉体抵抗が大きく、直流抵抗も大きくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、リチウムイオン二次電池の正極として有用である。
【要約】
【課題】電子伝導性とリチウム拡散性とを両立したリチウムイオン二次電池用電極材料、該リチウムイオン二次電池用電極材料を用いた電極、及び該電極を用いたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含み、
前記炭素質被覆電極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される一次粒子径A(nm)と、前記電極活物質の結晶子径B(nm)の比A/Bが1以上2.5以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極材料。
【選択図】なし