【文献】
J. Power Sources,2012年12月19日,Vol.244,p.679-683
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CuKα線を線源としたX線粉末回折パターンにおいて、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°の位置(いずれも誤差±0.5°)に少なくともピークを有し、前記2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピークの強度を100としたとき、前記2θ=14.0°のピーク以外に強度が20以上であるピークが10.0°≦2θ≦20.0°の間に観察されない、請求項1に記載のチタン酸化合物。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の技術的構成及びその作用効果は、以下の通りである。
【0034】
本発明は、窒素吸着によるBET一点法で測定した比表面積が10〜30m
2/gであり、異方性形状を有し、電子顕微鏡法で測定した長軸径Lについて、0.1<L≦0.9μmである粒子が個数基準で60%以上を占めるチタン酸化合物である。
【0035】
本発明のチタン酸化合物とは、TiとHとOとで結晶格子が構成される化合物であり、結晶水や吸着水をもつ二酸化チタンとは明確に異なる。
【0036】
本発明のチタン酸化合物は好ましくは下記の組成式を有する。
H
xTi
yO
z (1)
(式中、x/yは0.06〜4.05、z/yは1.95〜4.05である。)
式(1)を満たす化合物として具体的には、一般式として、HTiO
2、HTi
2O
4、H
2TiO
3、H
2Ti
3O
7、H
2Ti
4O
9、H
2Ti
5O
11、H
2Ti
6O
13、H
2Ti
8O
17、H
2Ti
12O
25、H
2Ti
18O
37、H
4TiO
4又はH
4Ti
5O
12で表せるチタン酸化合物が挙げられる。これらの化合物の存在は、X線粉末回折測定のピーク位置により確認できる。
【0037】
これらの中でもX線粉末回折測定(CuKα線使用)において、2θが少なくとも14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°の位置(いずれも誤差±0.5°)に特有のピークを示すチタン酸化合物が好ましく、前記2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピークの強度を100としたとき、前記2θ=14.0°のピーク以外に強度が20以上であるピークが10.0°≦2θ≦20.0°の間に観察されないチタン酸化合物がより好ましい。このようなX線回折パターンを示すチタン酸化合物として、一般式H
2Ti
12O
25で表されるチタン酸化合物が挙げられる。
【0038】
本発明においては、前述のような一般式で代表されるものであれば、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損又は過剰となる非化学量論組成のものでもよい。また、他の元素が、水素やチタン,酸素の一部を置換していてもよいし、格子間に侵入していてもよい。そのような元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウムといったアルカリ金属元素が挙げられ、これらの含有量は、アルカリ金属酸化物に換算した質量で、チタン酸化合物中0.4質量%以下であると好ましい。含有量は、例えば、蛍光X線分析により算出することができる。
【0039】
また、他の結晶構造に由来するX線粉末回折ピークを有するもの、すなわち、主相としての前記チタン酸化合物のほかに副相を有するものも本発明の範囲に含まれる。副相を有する場合、主相のメインピークの強度を100としたとき、副相に帰属するメインピークの強度が30以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、更に、副相のメインピークが観察されない、すなわち単一相であることが好ましい。副相としては例えばアナターゼ型,ルチル型又はブロンズ型の酸化チタンが挙げられる。また、複数のチタン酸化合物相が存在していてもよい。
【0040】
本発明のチタン酸化合物は、窒素吸着によるBET一点法で測定した比表面積が10〜30m
2/gである。測定は、試料管を液体窒素で冷却しながら窒素ガスを試料に吸着させる、一般的な窒素吸着によるBET一点法で行えばよい。
【0041】
また、本発明のチタン酸化合物は、その粒子形状が異方性形状を有する。異方性形状とは、板状、針状、棒状、柱状、紡錘状、繊維状などの形状を指す。複数の一次粒子が集合して二次粒子を形成している場合は、一次粒子の形状をさす。一次粒子の形状は電子顕微鏡写真で確認することができる。チタン酸化合物のすべての粒子が異方性形状を有する必要があるわけでは無く、一部に等方性形状の粒子や不定形形状の粒子が含まれていてもよい。
【0042】
更に、本発明のチタン酸化合物は、電子顕微鏡法で測定した長軸径Lが0.1<L≦0.9μmの範囲である粒子を個数基準で60%以上含む。
【0043】
電子顕微鏡法による長軸径のLの分布は次のようにして求める。まず、走査型電子顕微鏡で10000倍の写真を撮り、その写真を倍率スケール1cmが0.5μmに対応するように拡大する。その写真上での形状(すなわち粒子の投影像)を粒子が内接するような長方形又は正方形に近似し、短辺が1mm以上の一次粒子を少なくとも100個ランダムに選び、選んだ各粒子の長辺、短辺を計測する。次いで、得られた長辺及び短辺の計測値を前記拡大倍率で除して各粒子の長軸径L及び短軸径Sとする。このようにして求めた長軸径Lについて、Lの階級幅0.1μm間隔(階級上限値を階級内に含む)で該当する粒子数をカウントし、総粒子数で除してLの個数基準累積相対度数分布を求める。このようにして求めたLの個数基準累積相対度数分布をもとに、L=0.9μmの累積率(%)からL=0.1μmの累積率(%)を引いて、0.1<L≦0.9μmである粒子の個数基準での占有率(%)を算出できる。
【0044】
本発明の効果が得られるためには、このように、特定範囲の比表面積を持たせ、かつ、特定範囲の長軸径を有する粒子を特定量以上含むことが必要である。比表面積が30m
2/gを超えると、粒径が0.1μm以下の超微粒子が多くなりすぎるためと推測されるが、初回Li挿入容量は著しく高くなるものの、Li脱離容量の向上はそれより小さく(充放電効率が低下する)、更に、充放電サイクル進行に伴うLi脱離容量の低下が著しくなる。一方、比表面積が10m
2/g未満だと、Li脱離容量やレート特性の向上が見られない。また、比表面積が10〜30m
2/gの範囲であったとしても、長軸径Lについて、0.1<L≦0.9μmである粒子が個数基準で60%未満であると、超微粒子と粗大な粒子をそれぞれ多く含んだ状態となるため、充放電効率が低下し、レート特性の向上も見られず、充放電サイクル時のLi脱離容量が低く推移する。長軸径Lが0.1<L≦0.9μmの範囲である粒子が個数基準で60%以上含まれるとは、長軸径が比較的揃った状態を表し、Li脱離容量とサイクル特性、レート特性を高次元にバランスすることができる。
【0045】
比表面積は、10〜25m
2/gの範囲とするのが好ましく、12〜25m
2/gの範囲とするのがより好ましい。長軸径Lが0.1<L≦0.9μmの範囲である粒子が個数基準で65%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましい。また、長軸径Lについて、0.1<L≦0.6μmである粒子が個数基準で35%以上であるのが好ましく、50%以上であるのがより好ましい。
【0046】
本発明のチタン酸化合物は、電子顕微鏡法で各粒子の長軸径Lと短軸径Sを測定して算出したアスペクト比L/Sが1.0<L/S≦4.5の範囲である粒子を個数基準で60%以上含むことが好ましい。チタン酸化合物粒子が異方性を持つと、要因は不明であるが、Li脱離容量が高くなる傾向が認められる。一方、アスペクト比が大きくなりすぎると、レート特性の低下が認められ、また、電極を作製する際に充填密度を高くし難くなる。1.0<L/S≦4.5の範囲である粒子が個数基準で60%以上含まれるようにすることにより、高Li脱離容量と電極高充填密度を両立できるとともに、最適な比表面積や長軸径を達成し易くなる。
【0047】
電子顕微鏡法によるアスペクト比L/Sの分布は次のようにして求める。前述の方法で求めた各粒子の長軸径L及び短軸径Sから各粒子のL/Sを算出する。このようにして求めたL/Sについて、階級幅0.5間隔(階級上限値を階級内に含む)で該当する粒子数をカウントし、総粒子数で除してL/Sの個数基準累積相対度数分布を求める。このようにして求めたL/Sの個数基準累積相対度数分布をもとに、L/S=4.5の累積率(%)からL/S=1.0の累積率(%)を引いて、1.0<L/S≦4.5である粒子の個数基準での占有率(%)を算出できる。
【0048】
アスペクト比L/Sについて、1.0<L/S≦4.5の範囲である粒子が個数基準で65%以上含まれるのが好ましく、70%以上含まれるのがより好ましい。また、1.5<L/S≦4.0の範囲である粒子が個数基準で55%以上含まれるのが好ましく、60%以上含まれるのがより好ましい。
【0049】
本発明のチタン酸化合物は、硫黄元素を含有させることもでき、その量としては後述の換算方法で0.1〜0.5質量%とすることができる。チタン酸化合物に硫黄元素を含有させると、チタン酸化合物の一次粒子が異方性形状(板状、棒状、角柱状、針状)を取り易くなるため、Li脱離容量を高めることができる。0.1質量%未満だと一次粒子が異方性形状を取りづらく、0.5質量%を超えるとLi脱離容量が逆に減少し易くなる。
【0050】
上記硫黄元素の含有量は、蛍光X線法で測定したチタン酸化合物中の硫黄の質量%を、SO
3に換算した値として求める。
【0051】
また、本発明のチタン酸化合物は、これを作用極の活物質として用い、対極として金属Liを用いたコイン型電池のLi脱離側の電圧V−容量Q曲線をVで微分して求めた電圧VとdQ/dVの曲線において、電圧Vが1.5〜1.7V間のdQ/dVの最大値h
1と1.8〜2.0V間の最大値h
2の比h
2/h
1が0.05以下となるチタン酸化合物であると好ましい。
【0052】
前記電圧VとdQ/dVの曲線は次のようにして求める。まず、後述の実施例1に記載の通り、チタン酸化合物を作用極に用い、対極として金属Liを用いたコイン型電池を作製する。このコイン電池を1Vまで充電(Li挿入)した後、0.1Cで3Vまで放電(Li脱離)する。このとき、Li脱離側の電圧V−容量Qデータを、電圧変化量5mV間隔及び/又は120秒間隔で取得する。こうして取得したデータをもとにV−Q曲線を描く。
次いで、取得した電圧Vと容量Qのデータを、それぞれ単純移動平均法で平滑化する。具体的には、時系列に並んだ2n+1個(nは任意であるが、n=2でよい)のデータについて、中央のn+1番目のデータをこの2n+1個のデータの平均値で置き換える。
次に、これらの平滑化処理したデータについて、以下のようにしてi番目の点でのQ
iをVで微分した値を求める。即ち、その点と前後の点の計3点(V
i−1,Q
i−1)、(V
i,Q
i)、(V
i+1,Q
i+1)を通るVの2次関数を求め、これをVで微分しV=V
iを代入して微分値を求める。3点を通る2次関数を求めるにはラグランジュの補間公式を用いると計算が容易である。(参考文献:長嶋秀世著「数値計算法(改訂2版)」(槇書店))
【0053】
チタン酸化合物は、前記条件でLi脱離側の微分曲線を描いたとき、1.5〜1.7V間に少なくとも2つのピークを有するが、1.8〜2.0V間にもピークが認められる場合がある。そこで、本発明のように、各電位範囲の最大値の関係を上記のようにすると、Li脱離容量が高く、レート特性に優れ、特にサイクル特性に優れたチタン酸化合物となる。h
2/h
1は0.02以下とするとより好ましい。1.8〜2.0V間の最大値h
2は、酸化チタンや非晶質相などの副相が一定量以上存在する場合に現れることがわかっている。
【0054】
また、本発明のチタン酸化合物は、その結晶性が高いことが好ましい。具体的には、CuKα線を線源としたX線粉末回折パターンにおいて、2θ=24.8°(誤差±0.5°)の最大ピーク強度I
1と2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピーク強度I
2のピーク強度比I
2/I
1が1.5以上であると好ましく、2〜5であるとより好ましい。これは2θ=24.8°に帰属される結晶面が著しく発達していることを示しており、このようなチタン酸化合物は、要因は不明であるが、Li脱離容量が高くなるとともに優れたサイクル特性を示す。
【0055】
本発明においては、X線粉末回折測定は以下の通り行う。線源にCuKα線を用い、スキャンスピードを5°/分に設定して、2θ=5〜70°の角度範囲を測定する。前記ピーク強度比の算出には、ピーク強度の測定値からバックグラウンドの強度を引いた値を用いる。バックグラウンド除去は、フィッティング方式(簡易ピークサーチを行い、ピーク部分を取り除いた後、残りのデータに対して多項式をフィッティングする)にて行う。
【0056】
本発明のチタン酸化合物は、一次粒子が集合した二次粒子、一次粒子及び/又は二次粒子がさら集合した凝集体の形状を有することができる。本発明における二次粒子とは、一次粒子同士が強固に結合した状態にあり、ファンデルワース力等の粒子間の相互作用で凝集したり、機械的に圧密化されたものではなく、通常の混合、解砕、濾過、水洗、搬送、秤量、袋詰め、堆積等の工業的操作では容易に崩壊せず、ほとんどが二次粒子として残るものである。一次粒子は異方性形状を有するが、二次粒子の形状は特に制限は受けず、様々な形状のものを用いることができる。二次粒子の平均粒子径(レーザー散乱法によるメジアン径)は、1〜50μmの範囲にあるのが好ましい。前記のとおり、二次粒子形状も、制限は受けず、様々な形状のものを用いることができるが、球状とすると流動性が高まるため好ましい。一方、凝集体は、二次粒子とは異なり、上記の工業的操作により崩壊するものである。その形状は、二次粒子と同様、特に制限は受けず、様々な形状のものを用いることができる。
【0057】
次に、本発明は、窒素吸着によるBET一点法で測定した比表面積が5〜15m
2/gであり、異方性形状を有し、電子顕微鏡法で測定した長軸径Lが0.1<L≦0.9μmの範囲である粒子を個数基準で60%以上含むチタン酸アルカリ金属化合物である。比表面積、粒子形状、長軸径分布は前述の方法で求めることができる。
【0058】
本発明のチタン酸アルカリ金属化合物は、電極活物質として用いることができ、また、チタン酸化合物の原料としても用いることができる。特にチタン酸化合物の原料として用いると、本発明のチタン酸化合物の製造に好適である。
【0059】
チタン酸アルカリ金属化合物は、好ましくは、下記の組成式を有する。
M
xTi
yO
z (2)
(式中、Mはアルカリ金属元素から選択される1種又は2種、x/yは0.05〜2.50、z/yは1.50〜3.50である。Mが2種の場合、xは2種の合計を示す)
【0060】
式(2)を満たす化合物として、より具体的には、MTiO
2、MTi
2O
4、M
2TiO
3、M
2Ti
3O
7、M
2Ti
4O
9、M
2Ti
5O
11、M
2Ti
6O
13、M
2Ti
8O
17、M
2Ti
12O
25、M
2Ti
18O
37又はM
4Ti
5O
12(式中Mは、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムから選択される1種又は2種以上)等のX線回折パターンを示す化合物が挙げられる。
【0061】
更に好ましくは、NaTiO
2、NaTi
2O
4、Na
2TiO
3、Na
2Ti
6O
13、Na
2Ti
3O
7、Na
4Ti
5O
12等のチタン酸ナトリウム化合物、K
2TiO
3、K
2Ti
4O
9、K
2Ti
6O
13、K
2Ti
8O
17等のチタン酸カリウム化合物、Cs
2Ti
5O
11等のチタン酸セシウム化合物に特有のX線回折パターンを示す化合物が挙げられる。特にNa
2Ti
3O
7が好ましい。
【0062】
本願明細書において、MTiO
2等のX線回折パターンを示すチタン酸アルカリ金属化合物には、MTiO
2等の化学量論組成を有するもののだけでなく、一部の元素が欠損又は過剰となり、非化学量論組成を有するものであってもMTiO
2等のそれぞれの化合物に特有のX線回折パターンを示すものであればその範囲に含まれる。
【0063】
例えば、Na
2Ti
3O
7のX線回折パターンを示すチタン酸ナトリウム化合物には、化学両論組成のNa
2Ti
3O
7の他、Na
2Ti
3O
7化学量論組成は有さないが、X線粉末回折測定(CuKα線使用)において2θが10.5°、15.8°,25.7°,28.4°,29.9°,31.9°,34.2°、43.9°、47.8°,50.2°,66.9°の位置(いずれも誤差±0.5°)のNa
2Ti
3O
7特有のピークを有するものが含まれる。
【0064】
また、他の結晶構造に由来するピークを有するもの、すなわち、主相のほかに副相を有するものも本発明の範囲に含まれる。副相を有する場合、主相のメインピークの強度を100としたとき、副相に帰属するメインピークの強度が30以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、更に、副相を含まない単一相であることが好ましい。
【0065】
本発明のチタン酸アルカリ金属化合物は、電子顕微鏡法で各粒子の長軸径Lと短軸径Sを測定して算出したアスペクト比L/Sが1.0<L/S≦4.5の範囲である粒子を個数基準で60%以上含むことが好ましい。このようなチタン酸アルカリ金属化合物は本発明のチタン酸化合物の製造用原料として特に好適である。アスペクト比の分布は前述の方法で求めることができる。アスペクト比L/Sが1.0<L/S≦4.5の範囲である粒子が個数基準で65%以上含まれるのが好ましく、70%以上含まれるのがより好ましい。また、1.5<L/S≦4.0の範囲である粒子が個数基準で55%以上含まれるのが好ましく、60%以上含まれるのがより好ましい。
【0066】
次に、本発明は、チタン酸アルカリ金属化合物を、比表面積が10m
2/g以上になるまで粉砕する工程(工程1)、得られた粉砕物をアニールする工程(工程2)、を有するチタン酸アルカリ金属化合物の製造方法である。チタン酸アルカリ金属化合物に本発明の方法を行うことにより、窒素吸着によるBET一点法で測定した比表面積が5〜15m
2/gであり、異方性形状を有し、電子顕微鏡法で測定した長軸径Lが0.1<L≦0.9μmの範囲である粒子を個数基準で60%以上含む前記のチタン酸アルカリ金属化合物が得られる。
【0067】
前記の方法により本発明のチタン酸アルカリ金属化合物を簡便に製造することができる。
【0068】
前記粉砕に供されるチタン酸アルカリ金属化合物(以後、「粉砕前体」と記載することもある)は、上述のチタン酸アルカリ金属化合物を主相として含むものであり、副相を含んでいてもよい。副相を有する場合、主相のメインピークの強度を100としたとき、副相に帰属するメインピークの強度が50以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、更に、副相を含まない単一相であることが好ましい。
【0069】
本発明においては、工程1として、チタン酸アルカリ金属化合物(粉砕前体)を、その比表面積が10m
2/g以上になるまで粉砕するとともに、工程2として、得られた粉砕物をアニールする工程を有する。一般にチタン酸アルカリ金属化合物の合成には原料混合物を高温で焼成することが必要であるため、粒子成長や粒子同士の焼結が起こり粗大粒子が多く比表面積の小さなチタン酸アルカリ金属化合物が得られる。従って、それを原料として製造されるチタン酸化合物も粗大粒子が多く比表面積が小さくなる。そこで、本工程1を行うことにより、粗大な粒子を減少させ比表面積を大きくすることができる。しかし、工程1を行ったのみでは、粉砕物に超微粒子が多く含まれること及びチタン酸アルカリ金属化合物の結晶性の低下や副相の形成に起因して、最終的に製造されるチタン酸化合物を電極活物質として用いたときの初期の充放電効率やサイクル特性が低下する。そこで本工程2を行うことにより、超微粒子は他の粒子に吸収されて消滅し、結晶性が回復する一方、粒子成長や粒子同士の焼結はあまり起こらないため、チタン酸化合物の製造に好適な比表面積を持ち、粒度分布の揃ったチタン酸アルカリ金属化合物が製造できる。
【0070】
粉砕は、チタン酸アルカリ金属化合物の比表面積が10m
2/g以上になるまで行えばよく、13m
2/g以上となるまで行うのが好ましい。粉砕条件を適宜設定し、1回又は複数回粉砕を行って、目標の比表面積まで達すればよい。この範囲まで粉砕を行えば本発明の効果は得られるため、特に比表面積の上限は無いが、粉砕にはエネルギーを要するため、30m
2/g以下とすれば充分である。比表面積は前述の窒素吸着によるBET一点法にて測定する。粉砕の目安としてメジアン径を指標としてもよい。この時のメジアン径は、例えば1.0μm以下とすることができ、0.6μm以下とすると好ましい。前述の比表面積との相関を求め、それを根拠に狙いとするメジアン径を設定するのが好ましい。
【0071】
粉砕には公知の粉砕機を用いることができ、次の機器が挙げられる。例えば、ハンマーミル、ピンミル、遠心粉砕機等の衝撃粉砕機、フレットミル、ローラーミル等の摩砕粉砕機、フレーククラッシャ、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の圧縮粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を用いて乾式で行なってもよく、サンドミル、ボールミル、ダイノミル等を用いて湿式で行ってもよい。効率的な粉砕の観点から、湿式粉砕、又は、乾式粉砕であれば摩砕粉砕機を用いることが好ましく、湿式粉砕が特に好ましい。
【0072】
湿式粉砕で用いる分散媒には特に制限は無く、公知の物を用いることができる。分散媒としては、例えば水、エタノール、エチレングリコールなどの極性溶媒が挙げられる。また、粉砕には公知のメディアを用いてもよく、メディアとしては、例えば、ジルコニア、チタニア、ジルコン、アルミナなどが挙げられる。スラリーの粘度調整や、噴霧乾燥時に造粒し難い場合や、粒子径の制御を容易にするために、有機系バインダーを添加して粉砕してもよい。用いる有機系添加剤としては、例えば、(1)ビニル系化合物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)、(2)セルロース系化合物(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等)、(3)タンパク質系化合物(ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等)、(4)アクリル酸系化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等)、(5)天然高分子化合物(デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等)、(6)合成高分子化合物(ポリエチレングリコール等)等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、ソーダ等の無機成分を含まないものは、乾燥、アニール、加熱により分解、揮散し易いので更に好ましい。
【0073】
工程1を湿式粉砕で行った場合、湿式粉砕工程の後、チタン酸アルカリ金属化合物を分散媒と濾過分離することなく乾燥を行うことが好ましく、特に分散媒として水を用いる場合は本製法が好ましい。Na
2Ti
3O
7はじめチタン酸アルカリ金属化合物は一般にイオン交換性が高く、容易にアルカリ金属が脱離する。アルカリ金属が脱離してしまうと材料として用いたチタン酸アルカリ金属化合物とは組成がずれてしまい、引き続いて行う工程2のアニールの際に副相が形成され、最終的に製造されるチタン酸化合物を電極活物質として用いたときのLi脱離容量やサイクル特性が低下するためである。乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、蒸発乾固、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられ、中でも噴霧乾燥が工業的に好ましい。
【0074】
噴霧乾燥するのであれば、用いる噴霧乾燥機は、ディスク式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、三流体ノズル式、四流体ノズル式など、スラリーの性状や処理能力に応じて適宜選択することができる。二次粒子径の制御は、例えば、スラリー中の固形分濃度を調整する、あるいは、上記のディスク式ならディスクの回転数を、圧力ノズル式、二流体ノズル式、三流体ノズル式、四流体ノズル式等ならば、噴霧圧やノズル径を調整する等して、噴霧される液滴の大きさを制御することにより行える。二流体ノズル式は例えば、大川原化工機社製のツインジェットノズルを用いることができ、また、三流体ノズル式、四流体ノズル式は例えば、藤崎電機社製のトリスパイアノズル、マイクロミストスプレードライヤーを用いることができる。乾燥温度としては入り口温度を150〜250℃の範囲、出口温度を70〜120℃の範囲とするのが好ましい。スラリーの粘度が低く、造粒し難い場合や、粒子径の制御を更に容易にするために、有機系バインダーを用いてもよい。用いる有機系バインダーとしては、例えば、(1)ビニル系化合物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)、(2)セルロース系化合物(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等)、(3)タンパク質系化合物(ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等)、(4)アクリル酸系化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等)、(5)天然高分子化合物(デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等)、(6)合成高分子化合物(ポリエチレングリコール等)等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、ソーダ等の無機成分を含まないものは、乾燥、アニール、加熱により分解、揮散し易いので更に好ましい。
【0075】
粉砕物のアニール(工程2)は、例えば、粉砕物を加熱炉に入れ、所定の温度に昇温し、一定時間保持し、冷却することで行うことができ、一般に焼きなましといわれる工程である。加熱炉には公知の加熱装置、例えば、流動炉、静置炉、ロータリーキルン、トンネルキルン等を用いることができる。アニール時の雰囲気としては、目的に応じて任意に設定してよく、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの非酸化性雰囲気、水素ガス、一酸化炭素ガスなどの還元性雰囲気、大気、酸素ガスなどの酸化性雰囲気とすればよい。
【0076】
アニールは、チタン酸アルカリ金属化合物の比表面積が粉砕後の比表面積に対して20〜80%に減少するまで行うことが好ましい。減少率がこの範囲より小さいと、超微粒子の他の粒子への吸収や結晶性の向上が不十分であり、この範囲より大きいと、粒子成長や粒子同士の焼結が起こり、粉砕の効果が減殺されてしまう。更に好ましい範囲は、25〜70%である。アニール後のチタン酸アルカリ金属化合物の比表面積としては、5〜15m
2/gの範囲になるようにするのが特に好ましい。これを達成するためのアニール温度としては、400〜800℃の範囲が好適である。更に好ましい範囲は、450〜750℃である。反応を促進し、かつ生成物の焼結を抑制するために、アニールを2回以上繰り返して行うこともできる。アニール時間は適宜設定することができるが、上記温度範囲であれば、1〜10時間程度が適当である。昇温速度、冷却速度も適宜設定することができる。アニール後には必要に応じてチタン酸アルカリ金属化合物を解砕工程に供してもよい。
【0077】
前記粉砕前体は、酸化チタンとアルカリ金属化合物を少なくとも含む混合物を焼成して得られ、硫黄元素の含有量がSO
3に換算して好ましくは0.1〜1.0質量%、より好ましくは0.2〜1.0質量%である酸化チタンを用いて製造されたものであると好ましい。酸化チタンに前記範囲の硫黄元素を含有させると、最終的に得られるチタン酸化合物の一次粒子が異方性形状を形成し易くなるため、Li脱離容量を高めることができる。一方、0.2質量%未満、特に0.1質量%未満であると一次粒子が異方性形状を形成し難く、1.0質量%を超えるとNaと反応してNa
2SO
4等の別相が生成しNa
2Ti
3O
7等のチタン酸アルカリ金属化合物が単相で得られ難くなるため、Li脱離容量が逆に減少し易くなる。硫黄元素の含有量は、前述のチタン酸化合物中の硫黄元素の含有量測定と同様、蛍光X線法で求めることができる。また、ここで製造するチタン酸アルカリ金属化合物の比表面積を10m
2/g以下とすると、引き続き行う粉砕工程(工程1)とアニール工程(工程2)を組み合わせた効果が発現し易いため好ましい。
【0078】
前記酸化チタンとしては、TiO、Ti
4O
7、Ti
3O
5、Ti
2O
3、TiO
2等の酸化チタン、TiO(OH)
2、TiO
2・xH
2O(xは任意)等で表される酸化チタン水和物や含水酸化チタンが含まれる。酸化チタン水和物や含水酸化チタンとしては、TiO(OH)
2又はTiO
2・H
2Oで表されるメタチタン酸やTiO
2・2H
2Oで表されるオルトチタン酸、あるいはそれらの混合物などを用いることができる。酸化チタンとしては、結晶性酸化チタンや非晶質酸化チタンが挙げられ、結晶性酸化チタンの場合は、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、それらの混晶型や混合物を用いることができる。
【0079】
前記酸化チタンは、窒素吸着によるBET一点法で測定した比表面積が80〜350m
2/gであると好ましい。この範囲の比表面積の酸化チタンを用いると、その後の焼成時の酸化チタンとアルカリ金属化合物との反応性が高まり、前記粉砕前体中のチタン酸アルカリ金属以外の副相のメインピークの強度を減少させることができるため好ましい。
【0080】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属を含有する化合物(アルカリ金属化合物)であれば特に制限されない。例えば、アルカリ金属がNaの場合には、Na
2CO
3、NaNO
3等の塩類、NaOH等の水酸化物、Na
2O、Na
2O
2等の酸化物等が挙げられる。また、アルカリ金属がKの場合には、K
2CO
3、KNO
3等の塩類、KOH等の水酸化物、K
2O、K
2O
2等の酸化物等が挙げられる。中でも、コストや工程でのハンドリング、潮解抑制の点から、ナトリウム化合物を用いるのが好ましい。
【0081】
混合は、任意の方法で行うことができる。例えば、アルカリ金属化合物と酸化チタンを乾式や湿式で混合する方法が挙げられる。乾式混合は、例えば、流体エネルギー粉砕機、衝撃粉砕機等の乾式粉砕機や、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー等の高速撹拌機、サンプルミキサー等の混合機等を用い、両者を撹拌、混合することで行うことができる。湿式混合は、例えば、両化合物をスラリーに分散させ、サンドミル、ボールミル、ポットミル、ダイノミルなどの湿式粉砕機を通して混合してもよい。このとき、スラリーを加温してもよい。場合によっては、混合後のスラリーをスプレードライなどの噴霧乾燥機で噴霧乾燥してもよい。混合を粉砕機で行ったり、噴霧乾燥により行うと、その後の焼成時の酸化チタンとアルカリ金属化合物との反応性が高まるため好ましい。
【0082】
アルカリ金属化合物と酸化チタンの配合比は、目的とするチタン酸アルカリ金属化合物の組成に合わせればよい。例えば、Na
2Ti
3O
7を製造する場合には、Na/Tiがモル比で0.67〜0.72となるように配合する。なお、アルカリ金属化合物は、チタン酸アルカリ金属化合物の化学量論比から算出されるアルカリ金属化合物の配合量よりも若干多め、例えば1〜6モル%多く配合することが好ましい。
【0083】
次いで、酸化チタンとアルカリ金属化合物を少なくとも含む混合物を焼成し、反応させ、粉砕前体を得る。焼成は、例えば、原料を加熱炉に入れ、所定の温度に昇温し、一定時間保持して行う。加熱炉や雰囲気は、前述のアニール工程と同様のものを用いることができる。
【0084】
焼成温度は700〜1000℃の範囲が好ましく、主相比率の高い粉砕前体が得られ易くなる。この温度範囲より低いとチタン酸アルカリ金属化合物の生成反応が進み難く、この温度範囲より高いと生成物同士の強固な焼結が生じ易い。更に好ましい範囲は、750〜900℃である。反応を促進し、かつ生成物の焼結を抑制するために、焼成を2回以上繰り返して行うこともできる。焼成時間は適宜設定することができ、1〜100時間程度が適当である。昇温速度、冷却速度も適宜設定することができる。冷却は、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。なお、チタン酸アルカリ金属化合物が生成する温度では、粒子成長は避けられないため、ミクロンオーダーの粗大な粒子が形成される。
【0085】
次に、本発明は、前述の製造方法によって得られた、窒素吸着によるBET一点法で測定した比表面積が5〜15m
2/gであり、異方性形状を有し、電子顕微鏡法で測定した長軸径Lが0.1<L≦0.9μmの範囲である粒子を個数基準で60%以上含むチタン酸アルカリ金属化合物を酸性水溶液と接触させて、チタン酸アルカリ金属化合物中のアルカリ金属カチオンの少なくとも一部をプロトンに置換する工程(工程3)を有するチタン酸化合物の製造方法であり、チタン酸アルカリ金属化合物のプロトン置換体であるチタン酸化合物(以降、「プロトン置換体」と記載することもある)が得られる。このプロトン置換体を電極活物質として用いてもよく、後述の加熱工程を経て得られるチタン酸化合物の原料としてもよい。
【0086】
具体的な方法としては、チタン酸アルカリ金属化合物を分散媒に分散させた分散液を準備し、該分散液に酸性水溶液を加える方法が挙げられる。分散媒としては例えば水を用いることができる。酸性水溶液は酸性化合物を水に溶解させたものを用いることができる。
【0087】
酸性化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸、又はこれらの混合物が挙げられる。これらを用いると反応が進み易く、塩酸、硫酸であれば工業的に有利に実施できるので好ましい。
【0088】
酸性化合物の量や濃度には特に制限は無いが、前記チタン酸アルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属の反応当量以上で、遊離酸の濃度を2規定以下にするのが好ましい。反応温度に特に制限は無いが、生成するこれらのプロトン置換体の構造が変化し難い100℃未満の範囲の温度で行うのが好ましい。処理時間としては、1時間から7日間、好ましくは、2時間から1日間である。また、処理時間を短縮するために、適宜溶液を新しいものと交換してもよい。
【0089】
本工程においては、プロトン置換体中のアルカリ金属の含有量を可能な限り減少させるのが好ましく、酸性化合物と反応させる工程で得られるプロトン置換体中のアルカリ金属(M)の含有量が、Mの酸化物に換算して1.0質量%以下となるように、酸性化合物と反応させるのが好ましい。具体的には、(1)酸性化合物との反応温度を40℃以上とする、(2)酸性化合物との反応を2回以上繰り返して行う、(3)3価のチタンイオンの存在下で酸性化合物と反応させる等が挙げられ、これらの方法を2種以上組み合わせて反応させてもよい。(1)の方法では、反応温度は前記のように100℃未満とするのが好ましい。(3)の方法は、具体的には、酸性化合物又はその溶液中に、三塩化チタン等の3価の可溶性チタン化合物を添加したり、硫酸チタニル、四塩化チタン等の4価の可溶性チタン化合物を還元して3価のチタンイオンを存在させる等の方法が挙げられる。酸性化合物又はその溶液中の3価のチタンイオン濃度は、0.01〜1質量%の範囲が好ましい。
【0090】
本発明の製造方法では、前記のプロトン置換体中のアルカリ金属含有量を1.0質量%以下、更には0.5質量%以下とすることができ、また、当該工程3の所要時間を著しく短縮できる。これは本発明の製造方法のチタン酸アルカリ金属化合物が、結晶性が高いと推測されること及び粗大な粒子が少ないことに起因すると考えられる。このように、プロトン置換体中のアルカリ金属含有量が低減できるため、その後の加熱工程での組成の制御が容易になり、電池特性に優れる活物質が得られ易くなる。
【0091】
得られた、プロトン置換体は、必要に応じて洗浄、固液分離した後、乾燥する。洗浄は、水、酸性水溶液などを用いることができる。固液分離には公知の濾過方法を用いることができる。乾燥も公知の乾燥方法を用いることができるが、温度によっては構造が変化するため乾燥温度は適宜設定する。
【0092】
プロトン置換体の具体例としては、H
2Ti
3O
7、H
2Ti
4O
9又はH
2Ti
5O
11等が挙げられる。これらの比表面積は、13〜35m
2/gとすると好ましい。
【0093】
次に、本発明は、上記工程3で得られたプロトン置換体を加熱する工程(工程4)を更に有するチタン酸化合物の製造方法である。プロトン置換体を加熱すると、プロトン置換体の構成元素のうち、一部の水素原子及び酸素原子が結晶格子から脱離して該格子の組み換えが起こるとともに、脱離した酸素と水素が結合して水として放出され、チタン酸化合物が得られる。加熱は、例えば、プロトン置換体を加熱炉に入れ、所定の温度に昇温し、一定時間保持する。加熱炉や雰囲気は、前述のアニール工程と同様のものを用いることができる。
【0094】
加熱温度は、プロトン置換体の種類と目的とするチタン酸化合物の種類に応じて適宜設定する。例えば、プロトン置換体としてH
2Ti
3O
7を用いて、チタン酸化合物としてH
2Ti
12O
25を合成する場合、HとOの脱離を伴って、目的とするチタン酸化合物H
2Ti
12O
25が得られる。この場合、加熱の温度は、150℃から350℃、好ましくは250℃から350℃の範囲である。プロトン置換体としてH
2Ti
3O
7を用い、チタン酸化合物としてH
2Ti
12O
25を合成する場合、従来は、特許文献1に記載の通り、好適な加熱温度は200℃から270℃の範囲であり、プロセスタイムやバラツキなどの工業的な側面を考慮すると現実的には260℃前後で加熱を行う必要があった。しかし、本発明の方法を採用したチタン酸アルカリ金属化合物を原料とすることにより、加熱の許容温度範囲を拡大することができ、製造条件管理を緩和することが可能となり、工業的に有利となる。
【0095】
また、プロトン置換体としてH
2Ti
4O
9を用いて、チタン酸化合物としてH
2Ti
12O
25を合成する場合は、250〜650℃の範囲の温度で加熱するとよく、300〜400℃の範囲がより好ましい。プロトン置換体としてH
2Ti
5O
11を用いて、チタン酸化合物としてH
2Ti
12O
25を合成する場合は、200〜600℃の範囲の温度で加熱するとよく、350〜450℃の範囲がより好ましい。
【0096】
加熱時間は、通常0.5から100時間、好ましくは1から30時間であり、加熱温度が高い程、加熱時間を短くすることができる。
【0097】
このようにして得られたチタン酸化合物は、超微細な粒子が少なく、粒子径が特定範囲で比較的揃った特定の比表面積のものとなる。これにより、電極活物質として用いたときに、Li脱離容量が大きく、充放電効率が高く、充放電サイクルに伴うLi脱離容量の低下速度も低減でき、レート特性に優れるチタン酸化合物が得られる。このようなチタン酸化合物は、単純にチタン酸化合物を粉砕して微粒子化しただけでは得られない。
【0098】
本発明のチタン酸化合物及びチタン酸アルカリ金属化合物は、Li脱離容量、充放電効率、サイクル特性、レート特性のいずれにも優れている。したがって、かかる化合物を電極活物質として含有する電極を構成部材として用いた蓄電デバイスは、高容量で、かつ可逆的なリチウム等のイオンの挿入・脱離反応が可能であり、高い信頼性が期待できる蓄電デバイスである。
【0099】
本発明の蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム二次電池、ナトリウム二次電池、マグネシウム二次電池、カルシウム二次電池、キャパシタ等が挙げられ、これらは本発明のチタン酸化合物を電極活物質として含有する電極、対極及びセパレーターと電解液から構成される。
【0100】
すなわち、電極材料活物質として本発明のチタン酸化合物及び/又はチタン酸アルカリ金属化合物を用いる以外は、公知のリチウム二次電池、ナトリウム二次電池、マグネシウム二次電池、カルシウム二次電池、キャパシタの電池要素をそのまま採用することができ、コイン型、ボタン型、円筒型、ラミネート型、全固体型等、いずれのタイプの電池であってもよい。
図1は、本発明の蓄電デバイスの一例であるリチウム二次電池を、コイン型リチウム二次電池に適用した1例を示す模式図である。このコイン型電池1は、負極端子2、負極3、(電解質、又はセパレーター+電解液)4、絶縁パッキング5、正極6、正極缶7により構成される。
【0101】
上記本発明のチタン酸化合物及び/又はチタン酸アルカリ金属化合物を含む活物質に、必要に応じて導電剤、結着剤等を配合して電極合材を調製し、これを集電体に圧着することにより電極が作製できる。集電体としては、好ましくは銅メッシュ、ステンレスメッシュ、アルミメッシュ、銅箔、アルミ箔等を用いることができる。導電剤としては、好ましくはアセチレンブラック、ケッチェンブラック等を用いることができる。結着剤としては、好ましくはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等を用いることができる。
【0102】
電極合材におけるチタン酸化合物及び/又はチタン酸アルカリ金属化合物を含む活物質、導電剤、結着剤等の配合も特に限定的ではないが、通常は導電剤が1〜30質量%(好ましくは5〜25質量%)、結着剤が0〜30質量%(好ましくは3〜10質量%)とし、残部を本発明のチタン酸化合物及び/又はチタン酸アルカリ金属化合物を含む活物質となるようにすればよい。該活物質にはチタン酸化合物又はチタン酸アルカリ金属化合物以外の公知の活物質を含んでもよいが、チタン酸化合物及び/又はチタン酸アルカリ金属化合物が電極容量の50%以上を占めることが好ましく、80%以上であるとより好ましい。
【0103】
本発明の蓄電デバイスのうちで、リチウム二次電池においては、上記電極に対する対極としては、正極として機能し、リチウムを吸蔵・放出可能な公知のものを採用することができる。そのような活物質として、種々の酸化物及び硫化物を用いることができ、例えば、二酸化マンガン(MnO
2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLi
xMn
2O
4又はLi
xMnO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLi
xNiO
2)、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLi
xNi
1−yCo
yO
2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(Li
xMn
yCo
1−yO
2)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(Li
xNi
yMn
zCo
1−y−zO
2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(Li
xMn
2−yNi
yO
4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(Li
xFePO
4、Li
xFe
1−yMn
yPO
4、Li
xCoPO
4、Li
xMnPO
4など)やリチウムケイ酸化物(Li
2xFeSiO
4など)、硫酸鉄(Fe
2(SO
4)
3)、バナジウム酸化物(例えばV
2O
5)、xLi
2MO
3・(1−x)LiM’O
2(M、M’は同種又は異種の1種又は2種以上の金属)で表される固溶体系複合酸化物などを用いることができる。これらを混合して用いてもよい。なお、上記においてx,y,zはそれぞれ0〜1の範囲であることが好ましい。また、正極活物質としてポリアニリンやポリピロールなどの導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料、硫黄(S)、フッ化カーボンなどの有機材料及び無機材料を用いることもできる。
【0104】
また、本発明の蓄電デバイスのうちで、リチウム二次電池においては、上記電極に対する対極としては、例えば金属リチウム、リチウム合金、及び黒鉛、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)等の炭素系材料など、負極として機能し、リチウムを吸蔵・放出可能な公知のものを採用することができる。
【0105】
本発明の蓄電デバイスのうちで、ナトリウム二次電池においては、上記電極に対する対極としては、例えばナトリウム鉄複合酸化物、ナトリウムクロム複合酸化物、ナトリウムマンガン複合酸化物、ナトリウムニッケル複合酸化物等のナトリウム遷移金属複合酸化物など、正極として機能し、ナトリウムを吸蔵・放出可能な公知のものを採用することができる。
【0106】
また、本発明の蓄電デバイスのうちで、ナトリウム二次電池においては、上記電極に対する対極としては、例えば金属ナトリウム、ナトリウム合金、及び黒鉛等の炭素系材料など、負極として機能し、ナトリウムを吸蔵・放出可能な公知のものを採用することができる。
【0107】
本発明の蓄電デバイスのうちで、マグネシウム二次電池、カルシウム二次電池においては、上記電極に対する対極としては、例えばマグネシウム遷移金属複合酸化物、カルシウム遷移金属複合酸化物など、正極として機能し、マグネシウム、カルシウムを吸蔵・放出可能な公知のものを採用することができる。
【0108】
また、本発明の蓄電デバイスのうちで、マグネシウム二次電池、カルシウム二次電池においては、上記電極に対する対極としては、例えば金属マグネシウム、マグネシウム合金、金属カルシウム、カルシウム合金、及び黒鉛等の炭素系材料など、負極として機能し、マグネシウム、カルシウムを吸蔵・放出可能な公知のものを採用することができる。
【0109】
また、本発明の蓄電デバイスのうちで、キャパシタにおいては、上記電極に対する対極としては、黒鉛等の炭素材料を用いた非対称型キャパシタとすることができる。
【0110】
また、本発明の蓄電デバイスにおいて、セパレーター、電池容器等も公知の電池要素を採用すればよい。
【0111】
また、本発明の蓄電デバイスにおいて、非水電解質には、非水系有機溶媒に電解質を溶解した液体状非水電解質(非水電解液)、高分子材料に非水溶媒と電解質を含有した高分子ゲル状電解質、リチウムイオン伝導性を有する高分子固体電解質や無機固体電解質等を用いることができる。
【0112】
前記非水系有機溶媒は、リチウム電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割を行う。このような非水系有機溶媒の例としては、カーボネート系、エステル系、エーテル系、ケトン系、あるいはその他の非プロトン性の溶媒、又はアルコール系の溶媒を用いることができる。
【0113】
前記カーボネート系溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などを用いることができる。
【0114】
前記エステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、n−プロピルアセテート、ジメチルアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン(GBL)、デカノリド(decanolide)、バレロラクトン、メバロノラクトン(mevalonolactone)、カプロラクトン(caprolactone)などを用いることができる。
【0115】
前記エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラグライム、ジグライム、ジメトキシエタン、2ーメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0116】
前記ケトン系溶媒としては、シクロヘキサノンなどを用いることができる。
【0117】
前記アルコール系溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどを用いることができる。
【0118】
前記その他の非プロトン性溶媒としては、R−CN(Rは、C
2−C
20の直鎖状、分枝状又は環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環又はエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3ージオキソランなどのジオキソラン類、スルホラン(sulfolane)類、などを用いることができる。
【0119】
前記非水系有機溶媒は、単一物質からなるか、二種以上の溶媒の混合物であってよい。前記非水系有機溶媒が二種以上の溶媒の混合物である場合、前記二種以上の溶媒間の混合比は、電池の性能によって適切に調節され、例えば、EC及びPCのような環状カーボネート、又は、環状カーボネートと環状カーボネートより低粘度の非水溶媒との混合溶媒を主体とする非水溶媒などを用いることができる。
【0120】
前記電解質としては、アルカリ塩が用いることができ、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩の例には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF
4)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF
3SO
2)
2、LiTSFI)及びトリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)が含まれる。これらは、単独で用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0121】
非水溶媒中の電解質の濃度は、0.5〜2.5モル/リットルであることが好ましい。0.5モル/リットル以上であることにより、電解質の抵抗を低下させ、充放電特性を向上させることができる。一方、2.5モル/リットル以下であることにより、電解質の融点や粘度の上昇を抑制し、常温で液状とすることができる。
【0122】
前記液体状非水電解質(非水電解液)は、リチウム電池の低温特性などを向上させることができる添加剤を更に含むことができる。前記添加剤の例として、カーボネート系物質、エチレンサルファイト(ES)、ジニトリル化合物又はプロパンスルトン(Propane sultone、PS)を用いることができる。
【0123】
例えば、前記カーボネート系物質は、ビニレンカーボネート(VC)、ハロゲン(例えば、−F、−Cl、−Br、−Iなど)、シアノ基(CN)及びニトロ基(−NO
2)からなる群から選択された一つ以上の置換基を有するビニレンカーボネート誘導体、ハロゲン(例えば、−F、−Cl、−Br、−Iなど)、シアノ基(−CN)及びニトロ基(−NO
2)からなる群から選択された一つ以上の置換基を有するエチレンカーボネート誘導体からなる群から選択することができる。
【0124】
前記添加剤は、一種の物質のみでもよく、二種以上の物質の混合物であってもよい。具体的には、前記電解液は、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルファイト(ES)、スクシノニトリル(SCN)及びプロパンスルトン(PS)からなる群から選択された一つ以上の添加剤を更に含ませることができる。
【0125】
前記電解液は、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)、電解質としてリチウム塩を含むことが好ましい。添加剤としてビニレンカーボネート(VC)、エチレンサルファイト(ES)、スクシノニトリル(SCN)及びプロパンスルトン(PS)から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの溶媒、添加剤は負極のチタン酸化合物に皮膜を形成する作用をもつと推測され、高温環境下でのガス発生抑制効果が向上する。
【0126】
前記添加剤の含有量は、前記非水系有機溶媒と電解質との総量100質量部当たり10質量部以下とするのがこのましく、0.1〜10質量部とするとより好ましい。この範囲であると電池の温度特性を向上させることができる。前記添加剤の含有量は、1〜5質量部とすると更に好ましい。
【0127】
高分子ゲル状電解質を構成する高分子材料には公知の材料を用いることができる。例えば、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びポリエチレンオキシド(PEO)のような単量体の重合体、又は、他の単量体との共重合体を用いることができる。
【0128】
高分子固体電解質の高分子材料には公知の材料を用いることができる。例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びポリエチレンオキシド(PEO)のような単量体の重合体、又は、他の単量体との共重合体を用いることができる。
【0129】
無機固体電解質としては公知の材料を用いることができる。例えば、リチウムを含有したセラミック材料を用いることができる。Li
3N又はLi
3PO
4−Li
2S−SiS
2ガラスが好適に用いられる。
【実施例】
【0130】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
各試料の物性値の測定方法について説明する。
【0131】
(比表面積の測定)
試料の比表面積は、比表面積測定装置(Monosorb MS−22:Quantachrome社製)を用いて、窒素ガス吸着によるBET一点法により測定した。
【0132】
(X線回折測定)
試料のX線粉末回折は、X線粉末回折装置Ultima IV高速一次元検出器D/teX Ultra(ともにリガク社製)を取り付けて測定した。X線源:CuーKα、2θ角度:5〜70°、スキャンスピード:5°/分で測定した。化合物の同定はPDFカード又は公知文献との対比により行った。ピーク強度は、測定後のデータからバックグラウンド除去(フィッティング方式:簡易ピークサーチを行い、ピーク部分を取り除いた後、残りのデータに対して多項式をフィッティングして、バックグラウンド除去を行う。)したものを用いる。ピーク強度比I
2/I
1は、バックグラウンド除去した2θ=14.0°のピーク強度I
1と2θ=24.8°のピーク強度I
2をX線回折チャートから読み取り、求めた。
【0133】
(電子顕微鏡法)
試料の長軸径Lと短軸径Sの測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)(S−4800:日立ハイテクノロジーズ社製)により10000倍の視野で観察を行い、これを1cmが0.5μmになるように印刷し、100個の短辺が1mm以上の粒子を無作為に選び、計測することで求めた。その結果からアスペクト比L/Sを求めた。これらのデータからL及びL/Sの個数基準累積相対度数分布を作成した。試料の形状も前記走査型電子顕微鏡を用いて確認した。
【0134】
(組成分析)
試料の硫黄及びナトリウム濃度は、波長分散型蛍光X線分析装置(RIX−2100:リガク社製)を用いて測定した。試料中のS及びNaの量からSO
3及びNa
2Oの質量を計算し、試料の質量で除して硫黄及びナトリウムの含有量とした。
【0135】
(メジアン径)
メジアン径は、レーザー回折/散乱法により測定した。具体的には、粒度分布測定装置(LA−950:堀場製作所社製)を用いて測定した。分散媒には純水を使用し、屈折率は2.5に設定した。
【0136】
実施例1
アナターゼ型二酸化チタン(比表面積SSA=90m
2/g、硫黄元素含有量=SO
3換算で0.3質量%、石原産業製)2000gと、炭酸ナトリウム820gを、ヘンシェルミキサー(MITSUI HENSCHEL FM20C/I:三井鉱山株式会社製)を用いて1800rpmで10分混合した。この混合物のうち2400gを匣鉢に仕込み、電気炉を用いて、大気中で800℃の温度で6時間焼成して粉砕前体(試料A1)を得た。試料A1の比表面積は8.2m
2/gであり、X線粉末回折測定により、良好な結晶性を有するNa
2Ti
3O
7の単一相であることを確認した。
【0137】
(工程1)
得られた試料A1 1000gを純水4000gに加えて、固液分20質量%のスラリーを調製した。このスラリーを湿式粉砕機(MULTI LAB型:シンマルエンタープライズ社製)を用いて、φ0.5mmのジルコンビーズを80%充填し、ディスク周速10m/s、スラリーフィード量120ミリリットル/分の条件で粉砕した。粉砕後の試料のメジアン径は0.31μmであった。このスラリーを噴霧乾燥機(モデルL−8i型:大川原化工機社製)を用いて、入口温度190℃、出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し、試料A2を得た。試料A2の比表面積は21.0m
2/gであった。
【0138】
(工程2)
得られた試料A2を、電気炉で、大気中で700℃で5時間アニールして試料A3を得た。試料A3の比表面積は8.2m
2/gであり、アニールによる比表面積の減少率は61%となった。また、X線粉末回折により、良好な結晶性を有するNa
2Ti
3O
7の単一相であることを確認した。
【0139】
試料A3の粒子形状を走査型電子顕微鏡により調べたところ、棒状であった。また、粒子の長軸径、短軸径、アスペクト比を前述の方法で求めた結果、長軸径Lについて0.1μm<L≦0.9μmの割合が85%であり、0.1μm<L≦0.6μmの割合が53%であった。アスペクト比については1<L/S≦4.5の割合が83%であり、1.5<L/S≦4.0の割合が68%であった。
【0140】
(工程3)
この試料A3 1000gを、純水3437gに70%硫酸563gを加えた水溶液に浸漬し、撹拌しながら60℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗し、120℃で乾燥した。乾燥した粉体のうち830gを、純水3260gに70%硫酸60gを加えた水溶液に浸漬し、撹拌しながら70℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗し、120℃で12時間乾燥してプロトン置換体(試料A4)を得た。この試料A4の比表面積は16.9m
2/gであった。
【0141】
得られた試料A4について、蛍光X線測定により、化学組成を分析したところ、ナトリウムはNa
2O換算で0.087質量%検出され、Na除去率は99.9%となり、ほぼ完全にプロトン交換されたH
2Ti
3O
7の化学式で妥当であった。更に、X線粉末回折により、良好な結晶性を有するH
2Ti
3O
7の単一相であることが明らかとなった。
【0142】
(工程4)
得られた試料A4 780gを電気炉で、大気中、260℃で15時間加熱脱水し、チタン酸化合物(試料A5)を得た。この試料A5の比表面積は16.1m
2/gであった。
【0143】
試料A5の走査型電子顕微鏡写真を
図2に示す。試料A5の粒子形状は、出発原料である試料A3の形状が保持された棒状であった。また、粒子の長軸径、短軸径、アスペクト比を前述の方法で求めた結果、長軸径Lについて0.1μm<L≦0.9μmの割合が85%であり、0.1μm<L≦0.6μmの割合が53%であった。アスペクト比については1.0<L/S≦4.5の割合が83%であり、1.5<L/S≦4.0の割合が68%であった。なお、個数平均値(100個の粒子の平均値)は、長軸径L=0.68μm、短軸径S=0.21μm、アスペクト比L/S=3.24であった。
【0144】
試料A5のCuKα線を用いたX線粉末回折図を
図3に示す。得られた試料A5は、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°の位置(いずれも誤差±0.5°)に少なくともピークを有し、2θ=10〜20°の間のピークは一つであり、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示した。また、2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピーク強度I
1と2θ=24.8°(誤差±0.5°)のピーク強度I
2の強度比はI
2/I
1=2.95であった。また、前記2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピークの強度を100としたとき、前記2θ=14.0°のピーク以外に強度が20以上であるピークは10.0°≦2θ≦20.0°の間に観察されなかった。
【0145】
蛍光X線分析により試料A5の化学組成を分析したところ、硫黄元素の含有量がSO
3換算して0.27質量%であった。また、ナトリウムの含有量はNa
2O換算で0.092質量%であった。
【0146】
実施例2
粉砕前体として試料A1を用い、工程1の粉砕条件を強化してメジアン径が0.24μmになるまで湿式粉砕し、実施例1と同条件で噴霧乾燥して試料B2を得た。試料B2の比表面積は24.3m
2/gであった。
【0147】
続いて実施例1と同条件でアニール(工程2)を行って試料B3を得た。試料B3の比表面積は8.1m
2/gであり、アニールによる比表面積の減少率は67%であった。試料B3の粒子形状を走査型電子顕微鏡により調べたところ、棒状であった。また、粒子の長軸径については、0.1μm<L≦0.9μmの割合が81%であり、0.1μm<L≦0.6μmの割合が64%であった。アスペクト比については1.0<L/S≦4.5の割合が75%であり、1.5<L/S≦4.0の割合が66%であった。また、X線粉末回折により、良好な結晶性を有するNa
2Ti
3O
7の単一相であることを確認した。
【0148】
続いて実施例1と同条件でプロトン置換(工程3)を行ってプロトン置換体(試料B4)を得た。試料B4の比表面積は18.0m
2/gであった。また、X線粉末回折により、良好な結晶性を有するH
2Ti
3O
7の単一相であることを確認した。
【0149】
続いて実施例1と同条件で加熱(工程4)を行ってチタン酸化合物(試料B5)を得た。試料B5の比表面積は16.4m
2/gであった。
【0150】
試料B5を走査型電子顕微鏡で観察した結果、その粒子形状は、出発原料である試料B3の形状が保持された棒状であった。また、粒子の長軸径については、0.1μm<L≦0.9μmの割合が81%であり、0.1μm<L≦0.6μmの割合が64%であった。アスペクト比については1.0<L/S≦4.5の割合が75%であり、1.5<L/S≦4.0の割合が66%であった。なお、個数平均値は、長軸径L=0.62μm、短軸径S=0.20μm、アスペクト比L/S=3.46であった。
【0151】
試料B5のX線粉末回折を行った結果、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°の位置(いずれも誤差±0.5°)に少なくともピークを有し、2θ=10〜20°の間のピークは一つであり、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示した。また、2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピーク強度I
1と2θ=24.8°(誤差±0.5°)のピーク強度I
2の強度比はI
2/I
1=3.48であった。また、前記2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピークの強度を100としたとき、前記2θ=14.0°のピーク以外に強度が20以上であるピークは10.0°≦2θ≦20.0°の間に観察されなかった。
【0152】
蛍光X線分析により試料B5の化学組成を分析したところ、硫黄元素の含有量がSO
3換算にして0.28質量%であった。また、ナトリウムの含有量はNa
2O換算で0.059質量%であった。
【0153】
実施例3
粉砕前体として試料A1を用い、工程1の粉砕条件を緩和してメジアン径が0.53μmになるまで湿式粉砕し、実施例1と同条件で噴霧乾燥して試料C2を得た。試料C2の比表面積は16.0m
2/gであった。
【0154】
続いて実施例1と同条件でアニール(工程2)を行って試料C3を得た。試料C3の比表面積は7.0m
2/gであり、アニールによる比表面積の減少率は56%であった。試料C3の粒子形状を走査型電子顕微鏡により調べたところ、棒状であった。また、粒子の長軸径については、0.1μm<L≦0.9μmの割合が69%であり、0.1μm<L≦0.6μmの割合が36%であった。アスペクト比については1<L/S≦4.5の割合が67%であり、1.5<L/S≦4.0の割合が59%であった。また、X線粉末回折により、良好な結晶性を有するNa
2Ti
3O
7の単一相であることを確認した。
【0155】
続いて実施例1と同条件でプロトン置換(工程3)を行ってプロトン置換体(試料C4)を得た。試料C4の比表面積は14.2m
2/gであった。また、X線粉末回折により、良好な結晶性を有するH
2Ti
3O
7の単一相であることを確認した。
【0156】
続いて実施例1と同条件で加熱(工程4)を行ってチタン酸化合物(試料C5)を得た。試料C5の比表面積は12.9m
2/gであった。
【0157】
試料C5を走査型電子顕微鏡で観察した結果、その粒子形状は、出発原料である試料C3の形状が保持された棒状であった。また、粒子の長軸径については、0.1μm<L≦0.9μmの割合が69%であり、0.1μm<L≦0.6μmの割合が36%であった。アスペクト比については1.0<L/S≦4.5の割合が67%であり、1.5<L/S≦4.0の割合が59%であった。なお、個数平均値は、長軸径L=0.86μm、短軸径S=0.22μm、アスペクト比L/S=4.23であった。
【0158】
試料C5のX線粉末回折を行った結果、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°の位置(いずれも誤差±0.5°)に少なくともピークを有し、2θ=10〜20°の間のピークは一つであり、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示した。また、2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピーク強度I
1と2θ=24.8°(誤差±0.5°)のピーク強度I
2の強度比はI
2/I
1=2.82であった。また、前記2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピークの強度を100としたとき、前記2θ=14.0°のピーク以外に強度が20以上であるピークは10.0°≦2θ≦20.0°の間に観察されなかった。
蛍光X線分析により試料C5の化学組成を分析したところ、硫黄元素の含有量がSO
3換算にして0.20質量%であった。また、ナトリウムの含有量はNa
2O換算で0.12質量%であった。
【0159】
実施例4
工程4の加熱温度を350℃とした以外は実施例1と同様にしてチタン酸化合物(試料D5)を得た。試料D5のX線粉末回折を行った結果、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°の位置(いずれも誤差±0.5°)に少なくともピークを有し、2θ=10〜20°の間のピークは一つであり、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示した。また、前記2θ=14.0°(誤差±0.5°)のピークの強度を100としたとき、前記2θ=14.0°のピーク以外に強度が20以上であるピークは10.0°≦2θ≦20.0°の間に観察されなかった。このことから、本発明の方法を採用したチタン酸アルカリ金属化合物を原料とすることにより、工程4の加熱の許容温度範囲を拡大できることがわかった。
【0160】
比較例1
粉砕前体として試料A1を用い、工程1(粉砕)と工程2(アニール)を行わず、実施例1と同条件でプロトン置換(工程3)を行ってプロトン置換体(試料E4)を得た。試料E4の比表面積は16.7m
2/gであった。続いて実施例1と同条件で加熱(工程4)を行ってチタン酸化合物(試料E5)を得た。試料E5の比表面積は14.9m
2/gであった。
【0161】
試料E5の走査型電子顕微鏡写真を
図4に示す。その粒子は棒状粒子を主体とし、粗大な粒子が多く存在していた。また、粒子の長軸径については、0.1μm<L≦0.9μmの割合が31%であり、0.1μm<L≦0.6μmの割合が10%であった。アスペクト比については1.0<L/S≦4.5の割合が51%であり、1.5<L/S≦4.0の割合が43%であった。なお、個数平均値は、長軸径L=1.31μm、短軸径S=0.30μm、アスペクト比L/S=4.88であった。
【0162】
試料E5のX線粉末回折を行った結果、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°付近に少なくともピークを有し、2θ=10〜20°の間のピークは一つであり、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示した。また、2θ=14.0°のピーク強度I
1と2θ=24.8°のピーク強度I
2の強度比はI
2/I
1=1.49であった。
【0163】
蛍光X線分析により試料E5の化学組成を分析したところ、硫黄元素の含有量がSO
3換算にして0.24質量%であった。また、ナトリウムの含有量はNa
2O換算で0.31質量%であった。
【0164】
比較例2
粉砕前体として試料A1を用い、実施例1と同様の湿式粉砕(工程1)を行った前記試料A2を用いた。試料A2に、アニール(工程2)を行わず、実施例1と同条件でプロトン置換(工程3)を行ってプロトン置換体(試料F4)を得た。試料F4の比表面積は61.9m
2/gであった。続いて実施例1と同条件で加熱(工程4)を行ってチタン酸化合物(試料F5)を得た。試料F5の比表面積は46.8m
2/gであった。
【0165】
試料F5の走査型電子顕微鏡写真を
図5に示す。試料F5の粒子形状は、棒状粒子や比較的小さな等方角状粒子が主体であるが、それらの粒子表面に超微粒子が存在していることがわかる。
【0166】
試料F5のCuKα線を用いたX線粉末回折図を
図6に示す。得られた試料F5は、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°付近に少なくともピークを有し、2θ=10〜20°の間のピークは一つであり、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示した。また、2θ=14.0°のピーク強度I
1と2θ=24.8°のピーク強度I
2の強度比はI
2/I
1=2.65であった。
【0167】
蛍光X線分析により試料F5の化学組成を分析したところ、硫黄元素の含有量がSO
3換算にして0.46質量%であった。また、ナトリウムの含有量はNa
2O換算で0.063質量%であった。
【0168】
比較例3
粉砕前体として試料A1を用い、実施例2と同様の湿式粉砕(工程1)を行った前記試料B2を用いた。試料B2に、アニール(工程2)を行わず、実施例1と同条件でプロトン置換(工程3)を行ってプロトン置換体(試料G4)を得た。試料G4の比表面積は81.5m
2/gであった。続いて実施例1と同条件で加熱(工程4)を行ってチタン酸化合物(試料G5)を得た。試料G5の比表面積は61.4m
2/gであった。
【0169】
試料G5を走査型電子顕微鏡で観察した結果、その粒子形状は、棒状粒子や比較的小さな等方角状粒子が主体であるが、それらの粒子表面に超微粒子が存在していることがわかった。超微粒子の量は試料F5よりも更に多く存在しているのが観察された。
【0170】
試料G5のX線粉末回折を行った結果、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°付近に少なくともピークを有し、2θ=10〜20°の間のピークは一つであり、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示した。また、2θ=14.0°のピーク強度I
1と2θ=24.8°のピーク強度I
2の強度比はI
2/I
1=3.44であった。
【0171】
蛍光X線分析により試料G5の化学組成を分析したところ、硫黄元素の含有量がSO
3換算にして0.79質量%であった。また、ナトリウムの含有量はNa
2O換算で0.091質量%であった。
【0172】
比較例4
ルチル型二酸化チタン(SSA=6.2m
2/g、硫黄元素含有量=SO
3換算で0.0質量%、石原産業製)2000gと、炭酸ナトリウム820gを、ヘンシェルミキサー(MITSUI HENSCHEL FM20C/I:三井鉱山株式会社製)を用いて1800rpmで10分混合した。この混合物のうち2400gを匣鉢に仕込み、電気炉を用いて、大気中で800℃の温度で6時間焼成して粉砕前体(試料H1)を得た。試料H1の比表面積は1.2m
2/gであり、X線粉末回折測定により、良好な結晶性を有するNa
2Ti
3O
7の単一相であることを確認した。
【0173】
粉砕前体として試料H1を用いた以外は比較例1と同様にしてチタン酸化合物(試料H5)を得た。試料H5の比表面積は5.6m
2/gであった。
【0174】
試料H5を走査型電子顕微鏡で観察した結果(
図7)、その粒子は板状粒子が多く、粗大な粒子が多く存在していた。また、粒子の長軸径については、0.1μm<L≦0.9μmの割合が1%であり、0.1μm<L≦0.6μmの割合が0%であった。アスペクト比については1.0<L/S≦4.5の割合が94%であり、1.5<L/S≦4.0の割合が73%であった。
【0175】
試料H5のX線粉末回折を行った結果、2θ=14.0°,24.8°,28.7°,43.5°,44.5°,48.6°付近に少なくともピークを有し、2θ=10〜20°の間のピークは一つであり、過去の報告にあるようなH
2Ti
12O
25に特徴的な回折図形を示した。また、2θ=14.0°のピーク強度I
1と2θ=24.8°のピーク強度I
2の強度比はI
2/I
1=1.65であった。
【0176】
蛍光X線分析により試料H5の化学組成を分析したところ、硫黄元素の含有量がSO
3換算にして0.30質量%であった。また、ナトリウムの含有量はNa
2O換算で0.26質量%であった。
【0177】
表1に実施例及び比較例の各試料の比表面積並びにチタン酸化合物の長軸径Lが0.1<L≦0.9μmの粒子の割合(%)を示す。
【0178】
【表1】
【0179】
実施例1〜3,比較例1及び4(試料A5,B5,C5,E5及びH5)について、
図8に長軸径Lの、
図9にアスペクト比L/Sの、個数基準累積相対度数分布をそれぞれ示す。粉砕(工程1)及びアニール(工程2)を行った試料A5,B5及びC5は、粉砕(工程1)及びアニール(工程2)を行っていない試料E5及びH5と比較して長軸径が小さく、中程度のアスペクト比を持つことがわかる。
【0180】
電池特性評価1:Li脱離容量、充放電効率及びサイクル特性の評価
【0181】
試料A5〜C5,E5〜H5を電極活物質として用いて、リチウム二次電池を調製し、その充放電特性を評価した。電池の形態や測定条件について説明する。
【0182】
上記各試料と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン樹脂を質量比5:4:1で混合し、乳鉢で練り合わせ、シート状に引き伸ばし、直径10mmの円形に成型してペレット状とした。ペレットの質量がほぼ10mgとなるように厚さを調整した。このペレットを直径10mmに切り出した2枚のアルミニウム製のメッシュで挟み、9MPaでプレスして作用極とした。
【0183】
この作用極を220℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−60℃以下のアルゴンガス雰囲気のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型評価用セルに作用極として組み込んだ。評価用セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。対極には厚み0.5mmの金属リチウムを直径12mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPF
6を溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0184】
作用極は評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。更にその上に対極と、厚み調整用の1mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封した。
【0185】
充放電容量の測定は、電圧範囲を1.0〜3.0Vに、充放電電流を0.11mAに設定して、室温下、定電流で11サイクル行った。
図10に代表例として実施例1と比較例2の1サイクル目の充放電曲線を示す。
この時の1サイクル目のLi脱離容量を初期容量とした。
また、1サイクル目のLi挿入容量との比(1サイクル目Li脱離容量/1サイクル目Li挿入容量)×100を充放電効率とした。この値が大きい程、充放電効率が高いと言える。
12サイクル目からは充放電電流を0.22mAに設定して、室温下、定電流で59サイクル行い、サイクル特性を評価した。合計70サイクル行い、この70サイクル目のLi脱離容量から(70サイクル目のLi脱離容量/1サイクル目のLi脱離容量)×100をサイクル特性とした。この値が大きい程、サイクル特性が優れている。
【0186】
電池特性評価2:V−dQ/dV
前記微分曲線V−dQ/dVは次のようにして求めた。前記評価セルを1Vまで充電(Li挿入)した後、0.1Cで3Vまで放電(Li脱離)する。このとき、Li脱離側の電圧V−容量Qデータを、電圧変化量5mV間隔及び/又は120秒間隔で取得する。こうして取得したデータをもとにV−Q曲線を描く。2サイクル目のLi脱離曲線を用いて、まず、微分値を計算する前に、取得した電位Vと容量Qのデータを、それぞれ単純移動平均法で平滑化する。具体的には時系列に並んだ5個のデータについて、中央の3番目のデータをこの5個のデータの平均値で置き換える。この処理を全データについて行い、平滑化V−Q曲線を描く。
次に微分値を計算する。前記平滑化処理したデータについて、以下のようにしてi番目の点でのQiをVで微分した値を求める。即ち、その点と前後の点の計3点(V
i−1,Q
i−1)、(V
i,Q
i)、(V
i+1,Q
i+1)を通るVの2次関数を求め、これをVで微分しV=V
iを代入して微分値を求める。3点を通る2次関数を求めるにはラグランジュの補間公式を用いて求めた。
図11に代表例として実施例1と比較例2のV−dQ/dV曲線を示す。
次いで、電圧Vが1.5〜1.7V間のdQ/dVの最大値h
1と1.8〜2.0V間の最大値h
2を読み取り、その比h
2/h
1を算出した。
【0187】
電池特性評価3:レート特性(Li挿入側)
試料A5〜C5,E5〜H5を電極活物質として用いて、リチウム二次電池を調製し、その充放電特性を評価した。電池の形態や測定条件について説明する。
【0188】
上記試料と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液とを固形分の質量比で83:10:7となるよう混合し、更に固形分が35w%となるようにNMPを添加した。これを自転・公転ミキサー(泡とり練太郎AREー310:シンキー社製)で混錬してペーストを作製した。作製したペーストは、アルミ箔上に塗布して80℃で20分乾燥し、直径12mmの円形に打ち抜き10MPaでプレスして電極とした。この12mmに切り抜いた電極の活物質質量が9mgとなるように塗布量(塗布厚)を調整した。
【0189】
この作用極を120℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−60℃以下のアルゴンガス雰囲気のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型評価用セルに正極として組み込んだ。評価用セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウムを直径14mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPF
6を溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0190】
作用極は評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。更にその上に負極と、厚み調整用の1mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封した。
【0191】
充放電容量の測定は、電圧範囲を1.0〜3.0Vに、放電(Li脱離)電流を0.33mAに固定し、充電(Li挿入)電流は0.33あるいは8.25mAとして、室温下、定電流で行った。ここで、電流値0.33mAのときの容量と8.25mAのときの容量から、(8.25mAのLi挿入容量/0.33mAのLi挿入容量)×100をレート特性とした。この値が大きい程、レート特性が優れている。
【0192】
以上の電池特性評価結果をまとめて表2に示す。比表面積が30m
2/gより大きい比較例2,3は初期容量は高いものの、充放電効率が低く、サイクル特性も低いことがわかる。また、h
2/h
1も0.05より大きかった。このことから、副相の生成が示唆される。長軸径Lが0.1<L≦0.9μmの粒子の割合が60%未満である比較例1も初期容量が低い。また、いずれの実施例も比較例よりレート特性が高いことがわかる。以上より、本発明のチタン酸化合物を蓄電デバイスの電極活物質として用いると、従来よりも高容量で、充放電効率が高く、充放電サイクルに伴うLi脱離容量の低下速度も低減され、レート特性にも優れた蓄電デバイスが得られることがわかる。
【0193】
【表2】