特許第6472148号(P6472148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

特許6472148地下水の淡水利用判定方法、判定装置、及び地下水の淡水利用揚水装置
<>
  • 特許6472148-地下水の淡水利用判定方法、判定装置、及び地下水の淡水利用揚水装置 図000002
  • 特許6472148-地下水の淡水利用判定方法、判定装置、及び地下水の淡水利用揚水装置 図000003
  • 特許6472148-地下水の淡水利用判定方法、判定装置、及び地下水の淡水利用揚水装置 図000004
  • 特許6472148-地下水の淡水利用判定方法、判定装置、及び地下水の淡水利用揚水装置 図000005
  • 特許6472148-地下水の淡水利用判定方法、判定装置、及び地下水の淡水利用揚水装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6472148
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】地下水の淡水利用判定方法、判定装置、及び地下水の淡水利用揚水装置
(51)【国際特許分類】
   E03B 3/12 20060101AFI20190207BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20190207BHJP
   E21B 33/127 20060101ALI20190207BHJP
   E21B 47/09 20120101ALI20190207BHJP
【FI】
   E03B3/12
   E21B43/00 B
   E21B33/127
   E21B47/09
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-148757(P2017-148757)
(22)【出願日】2017年8月1日
(65)【公開番号】特開2019-27181(P2019-27181A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】石田 聡
(72)【発明者】
【氏名】白旗 克志
(72)【発明者】
【氏名】土原 健雄
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−079676(JP,A)
【文献】 特開2013−072230(JP,A)
【文献】 特開2012−246655(JP,A)
【文献】 特開2009−150076(JP,A)
【文献】 特開昭61−019990(JP,A)
【文献】 特開平08−226143(JP,A)
【文献】 特開平06−088327(JP,A)
【文献】 特開平07−207716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03B 3/12
E21B 33/127
E21B 43/00
E21B 47/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる深度から揚水できるストレーナーを備えた井戸を用い、前記深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層での淡水の利用を判定する地下水の淡水利用判定方法であって、
前記井戸の特定の深度に填隙手段を設置して前記井戸の上下方向の地下水流を遮断し、
前記填隙手段より上部の前記井戸から前記地下水を揚水して前記塩分濃度を計測し、
前記填隙手段の設置深度を変更して前記地下水の前記塩分濃度を計測することで、前記淡水を利用できる利用深度を判定する
ことを特徴とする地下水の淡水利用判定方法。
【請求項2】
前記帯水層を不圧帯水層とした
ことを特徴とする請求項1に記載の地下水の淡水利用判定方法。
【請求項3】
前記塩分濃度の計測を、浅い前記深度から順に行う
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の地下水の淡水利用判定方法。
【請求項4】
前記利用深度の判定後に、所定量の前記淡水を揚水し、
所定量の前記淡水の揚水後に、再び前記利用深度を判定する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地下水の淡水利用判定方法。
【請求項5】
前記利用深度の判定後、前記塩分濃度を経時的に計測して監視する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地下水の淡水利用判定方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の地下水の淡水利用判定方法に用いる判定装置であって、
前記地下水を揚水する揚水口と、
前記揚水口を一端に接続した揚水ホースと、
前記揚水ホースの他端に接続した揚水ポンプと
を備え、
前記揚水口は、前記填隙手段に対して上下方向に移動可能に配置でき、
前記揚水口を前記填隙手段より上部に配置した
ことを特徴とする判定装置。
【請求項7】
前記填隙手段に流体を導出するポンプと、
前記ポンプと前記填隙手段とを接続するホースと、
塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段と、
水位を検出する水位計と
を備え、
前記塩分濃度測定手段及び前記水位計を前記ホースの前記填隙手段側の端部に配置した
ことを特徴とする請求項6に記載の判定装置。
【請求項8】
異なる深度から揚水できるストレーナーを備えた井戸に用い、前記深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層での淡水を揚水する地下水の淡水利用揚水装置であって、
前記井戸の特定の深度に設置して前記井戸の上下方向の地下水流を遮断する填隙手段と、
前記填隙手段に一端を接続するホースと、
前記ホースの他端に接続する開閉バルブと、
前記填隙手段に対して上下方向に移動可能に配置できる揚水口と、
前記揚水口に一端を接続する揚水ホースと
を備え、
前記揚水口を前記填隙手段より上部に配置し、
前記揚水口が前記淡水を揚水する利用深度に前記填隙手段を設置する
ことを特徴とする地下水の淡水利用揚水装置。
【請求項9】
前記塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段を備え、
前記塩分濃度測定手段を前記ホースの前記一端側に配置した
ことを特徴とする請求項8に記載の地下水の淡水利用揚水装置。
【請求項10】
前記開閉バルブに接続するポンプと、
前記揚水ホースの他端に接続する揚水ポンプと
を備えた
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の地下水の淡水利用揚水装置。
【請求項11】
水位を検出する水位計を備え、
前記水位計を前記ホースの前記一端側に配置した
ことを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の地下水の淡水利用揚水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層での淡水の利用を判定する地下水の淡水利用判定方法、この方法に用いる判定装置、及び地下水の淡水利用揚水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災で津波によって被災した沿岸域では、津波でもたらされた海水の浸透によって地下水が塩水(塩分濃度が一定値を越える水)化している。沿岸域の地下水は動水勾配が小さく流速が極めて遅いことから、塩水化した地下水が海に流れ去るまでに長い期間を要する。
一方で沿岸域の地下水は安価で、水温の変化が小さく、水質も良好であることから、古くから農業用水として利用されてきている。しかし塩水化によって地下水が使用できなくなり、一部水道水などが代替水源となっているが、水価が高いことから経済的に不利となり、被災地の復興の妨げになっている。
このような状況下、津波によって地下水が塩水化した沿岸域では、その後の降雨により、塩水化した帯水層の上部に厚さ数mの淡水域が形成されていることが調査で明らかになった。今後は水田の復旧も進むことから地下水涵養量の増加が期待され、浅層の淡水域は新たな農業用地下水源として期待される。しかし、帯水層の一部が塩水化している地域で地下水の揚水を行うと、井戸周辺の圧力が低下するため、塩水域から淡水域に向かって塩水が侵入(アップコーニング)し、淡水の揚水が不可能となる。この現象は、井戸の深度が浅いほど、また揚水量が小さいほど、抑えることができるが、淡水域の形成状況は地域によって異なることから、地域に最適な井戸深度と揚水量を明らかにすることが求められている。
特許文献1は、アップコーニングによって淡水に塩水が混じることを防ぐために、填隙手段上部の淡水層と、填隙手段下部の塩水層とから揚水することで、淡水層と塩水層との差圧を生じさせることなく淡水を採取できることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−79676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、アップコーニングによる塩水の混合を防止して淡水を有効に採取できるが、揚水した塩水の廃棄処理の問題がある。
特許文献1のように塩水を揚水することなく、アップコーニングを許容範囲内に抑えて、揚水する地下水の塩分濃度を一定値以下とする揚水深度と揚水量を求める場合には、予め決定した深度の井戸を複数掘削し、揚水量を変化させつつ地下水を揚水する試験を行い、揚水した地下水の塩分濃度と、井戸深度と、揚水量との関係を求めなければならなかった。
【0005】
そこで本発明は、1つの井戸で複数の深度の井戸を想定した判定を行うことができる地下水の淡水利用判定方法を提供することを目的とする。
また本発明は、この地下水の淡水利用判定方法に用いる判定装置を提供することを目的とする。
また本発明は、井戸の深度を変更することなく、深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層から淡水(塩分濃度が一定値以下の水)を揚水することができる地下水の淡水利用揚水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の地下水の淡水利用判定方法は、異なる深度から揚水できるストレーナーを備えた井戸を用い、前記深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層での淡水の利用を判定する地下水の淡水利用判定方法であって、前記井戸の特定の深度に填隙手段を設置して前記井戸の上下方向の地下水流を遮断し、前記填隙手段より上部の前記井戸から前記地下水を揚水して前記塩分濃度を計測し、前記填隙手段の設置深度を変更して前記地下水の前記塩分濃度を計測することで、前記淡水を利用できる利用深度を判定することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の地下水の淡水利用判定方法において、前記帯水層を不圧帯水層としたことを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の地下水の淡水利用判定方法において、前記塩分濃度の計測を、浅い前記深度から順に行うことを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地下水の淡水利用判定方法において、前記利用深度の判定後に、所定量の前記淡水を揚水し、所定量の前記淡水の揚水後に、再び前記利用深度を判定することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地下水の淡水利用判定方法において、前記利用深度の判定後、前記塩分濃度を経時的に計測して監視することを特徴とする。
請求項6記載の本発明の判定装置は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の地下水の淡水利用判定方法に用いる判定装置であって、前記地下水を揚水する揚水口と、前記揚水口を一端に接続した揚水ホースと、前記揚水ホースの他端に接続した揚水ポンプとを備え、前記揚水口は、前記填隙手段に対して上下方向に移動可能に配置でき、前記揚水口を前記填隙手段より上部に配置したことを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載の判定装置において、前記填隙手段に流体を導出するポンプと、前記ポンプと前記填隙手段とを接続するホースと、塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段と、水位を検出する水位計とを備え、前記塩分濃度測定手段及び前記水位計を前記ホースの前記填隙手段側の端部に配置したことを特徴とする。
請求項8記載の本発明の地下水の淡水利用揚水装置は、異なる深度から揚水できるストレーナーを備えた井戸に用い、前記深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層での淡水を揚水する地下水の淡水利用揚水装置であって、前記井戸の特定の深度に設置して前記井戸の上下方向の地下水流を遮断する填隙手段と、前記填隙手段に一端を接続するホースと、前記ホースの他端に接続する開閉バルブと、前記填隙手段に対して上下方向に移動可能に配置できる揚水口と、前記揚水口に一端を接続する揚水ホースとを備え、前記揚水口を前記填隙手段より上部に配置し、前記揚水口が前記淡水を揚水する利用深度に前記填隙手段を設置することを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項8に記載の地下水の淡水利用揚水装置において、前記塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段を備え、前記塩分濃度測定手段を前記ホースの前記一端側に配置したことを特徴とする。
請求項10記載の本発明は、請求項8又は請求項9に記載の地下水の淡水利用揚水装置において、前記開閉バルブに接続するポンプと、前記揚水ホースの他端に接続する揚水ポンプとを備えたことを特徴とする。
請求項11記載の本発明は、請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の地下水の淡水利用揚水装置において、水位を検出する水位計を備え、前記水位計を前記ホースの前記一端側に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の地下水の淡水利用判定方法によれば、井戸を填隙手段の設置深度と同じ深さの井戸に見立てることができ、填隙手段の設置深度を変えて利用深度の判定を行うことで、1つの井戸で複数の深度の井戸を想定した判定を行うことができるので、淡水利用判定の労力が大幅に削減でき、定期的な判定によって地下水の回復状況を明らかにすることができる。そして、農家が保有する既設井戸が、異なる深度から揚水できるストレーナーを備えた井戸であれば、この既設井戸を用いて利用深度の判定ができ、既設井戸の利用可否を判断できる。
また、本発明の地下水の淡水利用判定方法に用いる判定装置によれば、填隙手段の設置深度の変更に伴い塩分濃度測定手段の深度も変更でき、井戸の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくできる。
また、本発明の地下水の淡水利用揚水装置によれば、井戸の深度を変更することなく、深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層から淡水を揚水することができる。そして、農家が保有する既設井戸が、異なる深度から揚水できるストレーナーを備えた井戸であれば、この既設井戸の利用深度に合わせて填隙手段を設置することで、既設井戸を淡水揚水が可能な浅い井戸として有効利用でき、更に利用深度が変わっても填隙手段の設置位置を変更することで淡水揚水を行える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例による地下水の淡水利用判定方法に用いる判定装置を示す写真
図2】本実施例による地下水の淡水利用判定方法を説明する装置概念図
図3】本実施例による地下水の淡水利用判定方法の処理流れを示すフロー図
図4】揚水試験結果を示すグラフ
図5】揚水試験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による地下水の淡水利用判定方法は、井戸の特定の深度に填隙手段を設置して井戸の上下方向の地下水流を遮断し、填隙手段より上部の井戸から地下水を揚水して塩分濃度を計測し、填隙手段の設置深度を変更して地下水の塩分濃度を計測することで、淡水を利用できる利用深度を判定するものである。
本実施の形態によれば、井戸を填隙手段の設置深度と同じ深さの井戸に見立てることができ、填隙手段の設置深度を変えて利用深度の判定を行うことで、1つの井戸で複数の深度の井戸を想定した判定を行うことができるので、淡水利用判定の労力が大幅に削減でき、定期的な判定によって地下水の回復状況を明らかにすることができる。また、農家が保有する既設井戸が、異なる深度から揚水できるストレーナーを備えた井戸であれば、この既設井戸を用いて利用深度の判定ができ、既設井戸の利用可否を判断できる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による地下水の淡水利用判定方法において、帯水層を不圧帯水層としたものである。
本実施の形態によれば、震災によって地下水が塩水化した後に、降雨によって浅層に形成された淡水層を利用することができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による地下水の淡水利用判定方法において、塩分濃度の計測を、浅い深度から順に行うものである。
塩水を揚水してしまうと淡水層に塩水が混合してしまうため、本実施の形態によれば、塩水を揚水することを防止し、淡水層を塩水で汚染させることなく判定を行うことができる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態による地下水の淡水利用判定方法において、利用深度の判定後に、所定量の淡水を揚水し、所定量の淡水の揚水後に、再び利用深度を判定するものである。
本実施の形態によれば、淡水の継続使用の可能性を判定できる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態による地下水の淡水利用判定方法において、利用深度の判定後、塩分濃度を経時的に計測して監視するものである。
本実施の形態によれば、地下水流の変化による影響を監視することで、継続使用が可能となるとともに、淡水地下水の回復状況の変化に応じて揚水方法を変更することが可能となる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第1から第5のいずれかの実施の形態による地下水の淡水利用判定方法に用いる判定装置であって、地下水を揚水する揚水口と、揚水口を一端に接続した揚水ホースと、揚水ホースの他端に接続した揚水ポンプとを備え、揚水口は、填隙手段に対して上下方向に移動可能に配置でき、揚水口を填隙手段より上部に配置したものである。
本実施の形態によれば、井戸の深度を変更することなく、パッカーの設置深度の変更によって揚水する深度を変更でき、淡水判定を行える。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態による判定装置において、填隙手段に流体を導出するポンプと、ポンプと填隙手段とを接続するホースと、塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段と、水位を検出する水位計とを備え、塩分濃度測定手段及び水位計をホースの填隙手段側の端部に配置したものである。
本実施の形態によれば、填隙手段の設置深度の変更に伴い塩分濃度測定手段の深度も変更でき、井戸の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくでき、更に利用可能な淡水量を予測できる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態による地下水の淡水利用揚水装置は、井戸の特定の深度に設置して井戸の上下方向の地下水流を遮断する填隙手段と、填隙手段に一端を接続するホースと、ホースの他端に接続する開閉バルブと、填隙手段に対して上下方向に移動可能に配置できる揚水口と、揚水口に一端を接続する揚水ホースとを備え、揚水口を填隙手段より上部に配置し、揚水口が淡水を揚水する利用深度に填隙手段を設置するものである。
本実施の形態によれば、井戸の深度を変更することなく、深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層から淡水を揚水することができる。また、農家が保有する既設井戸が、異なる深度から揚水できるストレーナーを備えた井戸であれば、この既設井戸の利用深度に合わせて填隙手段を設置することで、既設井戸を淡水揚水が可能な浅い井戸として有効利用でき、更に利用深度が変わっても填隙手段の設置位置を変更することで淡水揚水を行える。
【0017】
本発明の第9の実施の形態は、第8の実施の形態による地下水の淡水利用揚水装置において、塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段を備え、塩分濃度測定手段をホースの一端側に配置したものである。
本実施の形態によれば、揚水後の地下水の塩分濃度を計測するよりも井戸10の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくできる。
【0018】
本発明の第10の実施の形態は、第8又は第9の実施の形態による地下水の淡水利用揚水装置において、開閉バルブに接続するポンプと、揚水ホースの他端に接続する揚水ポンプとを備えたものである。
本実施の形態によれば、ポンプを用いて填隙手段の設置深度の変更を容易に行え、地下水流の変化に応じて填隙手段の設置深度を変更でき、継続的な淡水利用ができる。
【0019】
本発明の第11の実施の形態は、第8から第10のいずれかの実施の形態による地下水の淡水利用揚水装置において、水位を検出する水位計を備え、水位計をホースの一端側に配置したものである。
本実施の形態によれば、利用可能な淡水量を予測できる。
【実施例】
【0020】
以下本発明の一実施例による地下水の淡水利用判定方法について説明する。
図1は本実施例による地下水の淡水利用判定方法に用いる判定装置を示す写真である。
本実施例による判定装置は、空気などの流体の導入によって少なくとも径方向に膨出する填隙手段1と、填隙手段1に流体を導出するポンプ2と、ポンプ2と填隙手段1とを接続するホース3と、ホース3の填隙手段1側の端部に配置した収納ケース4とを備えている。填隙手段1にはパッカーを用いることができる。
収納ケース4には、塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段5と、水位を検出する水位計6とを備えている。
ホース3の一端には填隙手段1を接続し、ホース3の他端には開閉バルブ7を接続し、ポンプ2は開閉バルブ7に接続されている。開閉バルブ7は、ポンプ2との接続を開閉する第1バルブ7aと、ホース3内の流体を放出する第2バルブ7bとからなる。
ホース3には、ホース3内の圧力を計測する圧力計8と、ホース3を吊すケーブルグリップ9を設けている。
本実施例によれば、塩分濃度測定手段5をホース3の填隙手段1側の端部に配置しているので、填隙手段1の設置深度の変更に伴い塩分濃度測定手段5の深度も変更でき、揚水後の地下水の塩分濃度を計測するよりも井戸10の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくできる。
また、本実施例によれば、水位計6をホース3の填隙手段1側の端部に配置しているので、填隙手段1の設置深度の変更に伴い塩分濃度測定手段5の深度も変更でき、井戸10の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくでき、更に利用可能な淡水量を予測できる。
【0021】
図2は本実施例による地下水の淡水利用判定方法を説明する装置概念図である。
井戸10は、異なる深度から揚水できるストレーナーを備えている。
填隙手段1は、井戸10の特定の深度に設置され、流体の導入によって膨出して井戸10の上下方向の地下水流を遮断する。ホース3は井戸10入口にケーブルグリップ9によって吊り下げる。
填隙手段1より上部には地下水を揚水する揚水口21が配置され、揚水口21には、揚水ホース22の一端が接続されている。揚水ホース22の他端には揚水ポンプ23が接続され、揚水ポンプ23には、切替器24を介して吐水用ホース25が接続されている。
切替器24にはエア抜き器26が接続されている。切替器24は、吐水用ホース25とエア抜き器26とを切り替える。
揚水ポンプ23はバッテリー27によって駆動される。揚水ポンプ23はモータスピードコントローラ28によって揚水量を可変することができる。
【0022】
図3は本実施例による地下水の淡水利用判定方法の処理流れを示すフロー図である。
本実施例による地下水の淡水利用判定方法は、深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層での淡水の利用を判定するものである。
填隙手段1を井戸10に降下させ(ステップ1)、水位計6によって揚水が可能か否かを判断し(ステップ2)、揚水が可能な特定の深度で填隙手段1を停止する(ステップ3)。
填隙手段1の降下を停止した後に、ポンプ2からエアを供給して填隙手段1を膨出させる(ステップ4)。填隙手段1を膨出させることで、填隙手段1を井戸10に設置し、井戸10の上下方向の地下水流を遮断する。
填隙手段1を井戸10に設置した後に、所定時間揚水ポンプ23を駆動する(ステップ5)。揚水口21は填隙手段1より上部に配置しているため、揚水ポンプ23の駆動によって、填隙手段1より上部の地下水が揚水される。
揚水ポンプ23の駆動後に、填隙手段1より上部の井戸10にある地下水の塩分濃度を塩分濃度測定手段5で計測する(ステップ6)。
ステップ6の計測の結果、ステップ7において所定値以上の塩分濃度を計測すると利用不可と判断する(ステップ8)。
ステップ7において、所定値未満の塩分濃度であれば、更に填隙手段1の降下が必要か否かを判断する(ステップ9)。ステップ9における降下の判断は、塩分濃度や水位から判断する。
ステップ9において、降下が必要と判断すると、第2バルブ7bを開放して填隙手段1からエアを抜き(ステップ10)、再び填隙手段1を降下させる(ステップ1)。
【0023】
ステップ9において、降下が必要なければ、この時点の填隙手段1の設置深度が、淡水を利用できる利用深度であると判断する(ステップ11)。
このように、填隙手段1の設置深度を変更して地下水の塩分濃度を計測することで、淡水を利用できる利用深度を判定することができる。
填隙手段1の設置深度を、その帯水層に含まれる地下水の上面境界が大気圧状態にある不圧帯水層とすることで、震災によって地下水が塩水化した後に、降雨によって浅層に形成された淡水層を利用することができる。
なお、塩水を揚水してしまうと淡水層に塩水が混合してしまうため、塩分濃度の計測を、浅い深度から順に行うことで、塩水を揚水することを防止し、淡水層を塩水で汚染させることなく判定を行うことができる。
【0024】
ステップ11における利用深度の判定後に、所定量の淡水を揚水し(ステップ12)、ステップ12における所定量の淡水の揚水後に、再び塩分濃度を塩分濃度測定手段5で計測する(ステップ13)。ステップ12における淡水の揚水量をモータスピードコントローラ28によって変更することで、利用可能な揚水量を推定することができる。
ステップ13による計測の結果、淡水か否かを判断し(ステップ14)、淡水であれば継続使用の可能性を判定できる(ステップ15)。ステップ14によって塩水と判断されると、利用深度の見直しを含めて再判定を行う(ステップ16)。
なお、ステップ11における利用深度の判定、又はステップ15における利用深度の判定の後は、塩分濃度を経時的に計測して監視することが好ましい。地下水流の変化による影響を監視することで、継続使用が可能となるとともに、淡水地下水の回復状況の変化に応じて揚水方法を変更することが可能となる。
【0025】
以上のように本実施例による地下水の淡水利用判定方法によれば、井戸10を填隙手段1の設置深度と同じ深さの井戸10に見立てることができ、填隙手段1の設置深度を変えて利用深度の判定を行うことで、1つの井戸10で複数の深度の井戸10を想定した判定を行うことができるので、淡水利用判定の労力が大幅に削減でき、定期的な判定によって地下水の回復状況を明らかにすることができる。
【0026】
図4及び図5は揚水試験結果を示すグラフである。
填隙手段1の中心設置深度は地下水の電気伝導度(EC)が70mS/mとなる地点とし、揚水時間を2時間(図5(a)のみ4.5時間)、揚水量を10L/min弱とした。填隙手段1の長さは0.58mとした。
【0027】
図4は沿岸から離れた近接する2つの地点の結果であり、図4(a)に示す地点は、平均揚水量が8L/min、水位低下量が1.66m、揚水前井戸内ECが60mS/m、揚水開始時ECが57mS/m、揚水終了時ECが49mS/mであり、図4(b)に示す地点は、平均揚水量が9L/min、水位低下量が0.47m、揚水前井戸内ECが51mS/m、揚水開始時ECが47mS/m、揚水終了時ECが40mS/mであった。
図4(a)に示す地点と図4(b)に示す地点では、揚水翌日には揚水前の状態にほぼ戻る点で共通するが、EC上昇傾向には差異が生じた。
【0028】
図5は沿岸付近で近接する2つの地点の結果であり、図5(a)に示す地点は、平均揚水量が9L/min、水位低下量が0.53m、揚水前井戸内ECが73mS/m、揚水開始時ECが87mS/m、揚水終了時ECが87mS/mであり、図5(b)に示す地点は、平均揚水量が10L/min、水位低下量が0.76m、揚水前井戸内ECが104mS/m、揚水開始時ECが97mS/m、揚水終了時ECが89mS/mであった。
図5(a)に示す地点と図5(b)に示す地点では、揚水によるEC上昇が顕著であり、揚水量の増加は難しいと判断された。
【0029】
次に、本発明の一実施例による地下水の淡水利用揚水装置について図1及び図2を用いて説明する。
本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、淡水利用判定方法に用いる機具を利用することができ、井戸10の特定の深度に設置して井戸10の上下方向の地下水流を遮断する填隙手段1と、填隙手段1に一端を接続するホース3と、ホース3の他端に接続する開閉バルブ7と、填隙手段1より上部に配置する揚水口21と、揚水口21に一端を接続する揚水ホース22とを備える。
そして、本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、揚水口21が淡水を揚水する利用深度に填隙手段1を設置することで、井戸10の深度を変更することなく、深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層から淡水を揚水することができる。
本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、更に塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段5を備え、塩分濃度測定手段5をホース3の一端側に配置することが好ましい。塩分濃度測定手段5をホース3の一端側に配置することで、填隙手段1の設置深度の変更に伴い塩分濃度測定手段5の深度も変更でき、井戸10の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくできる。
また本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、更に開閉バルブ7に接続するポンプ2と、揚水ホース22の他端に接続する揚水ポンプ23とを備えることで、ポンプ2を用いて填隙手段1の設置深度の変更を容易に行え、地下水流の変化に応じて填隙手段1の設置深度を変更でき、継続的な淡水利用ができる。
また本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、更に水位を検出する水位計6を備え、水位計6をホース3の一端側に配置することで、利用可能な淡水量を予測できる。
【0030】
本発明の地下水の淡水利用判定方法によれば、津波被災地において、震災前に設置され、掘削深度が深いために利用できない井戸10について、井戸10の深度を浅くして揚水量を絞ることで再利用することができる。
また、本発明の地下水の淡水利用判定方法によれば、津波被災地以外においても、塩淡境界を持つ帯水層に対しては、最適な井戸10の深度や揚水量を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明による地下水の淡水利用判定方法によれば、定期的な判定を行うことで、時系列的な地下水の回復状況を把握できる。
【符号の説明】
【0032】
1 填隙手段
2 ポンプ
3 ホース
4 収納ケース
5 塩分濃度測定手段
6 水位計
7 開閉バルブ
7a 第1バルブ
7b 第2バルブ
8 圧力計
9 ケーブルグリップ
10 井戸
21 揚水口
22 揚水ホース
23 揚水ポンプ
24 切替器
25 吐水用ホース
26 エア抜き器
27 バッテリー
28 モータスピードコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5