【実施例】
【0020】
以下本発明の一実施例による地下水の淡水利用判定方法について説明する。
図1は本実施例による地下水の淡水利用判定方法に用いる判定装置を示す写真である。
本実施例による判定装置は、空気などの流体の導入によって少なくとも径方向に膨出する填隙手段1と、填隙手段1に流体を導出するポンプ2と、ポンプ2と填隙手段1とを接続するホース3と、ホース3の填隙手段1側の端部に配置した収納ケース4とを備えている。填隙手段1にはパッカーを用いることができる。
収納ケース4には、塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段5と、水位を検出する水位計6とを備えている。
ホース3の一端には填隙手段1を接続し、ホース3の他端には開閉バルブ7を接続し、ポンプ2は開閉バルブ7に接続されている。開閉バルブ7は、ポンプ2との接続を開閉する第1バルブ7aと、ホース3内の流体を放出する第2バルブ7bとからなる。
ホース3には、ホース3内の圧力を計測する圧力計8と、ホース3を吊すケーブルグリップ9を設けている。
本実施例によれば、塩分濃度測定手段5をホース3の填隙手段1側の端部に配置しているので、填隙手段1の設置深度の変更に伴い塩分濃度測定手段5の深度も変更でき、揚水後の地下水の塩分濃度を計測するよりも井戸10の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくできる。
また、本実施例によれば、水位計6をホース3の填隙手段1側の端部に配置しているので、填隙手段1の設置深度の変更に伴い塩分濃度測定手段5の深度も変更でき、井戸10の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくでき、更に利用可能な淡水量を予測できる。
【0021】
図2は本実施例による地下水の淡水利用判定方法を説明する装置概念図である。
井戸10は、異なる深度から揚水できるストレーナーを備えている。
填隙手段1は、井戸10の特定の深度に設置され、流体の導入によって膨出して井戸10の上下方向の地下水流を遮断する。ホース3は井戸10入口にケーブルグリップ9によって吊り下げる。
填隙手段1より上部には地下水を揚水する揚水口21が配置され、揚水口21には、揚水ホース22の一端が接続されている。揚水ホース22の他端には揚水ポンプ23が接続され、揚水ポンプ23には、切替器24を介して吐水用ホース25が接続されている。
切替器24にはエア抜き器26が接続されている。切替器24は、吐水用ホース25とエア抜き器26とを切り替える。
揚水ポンプ23はバッテリー27によって駆動される。揚水ポンプ23はモータスピードコントローラ28によって揚水量を可変することができる。
【0022】
図3は本実施例による地下水の淡水利用判定方法の処理流れを示すフロー図である。
本実施例による地下水の淡水利用判定方法は、深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層での淡水の利用を判定するものである。
填隙手段1を井戸10に降下させ(ステップ1)、水位計6によって揚水が可能か否かを判断し(ステップ2)、揚水が可能な特定の深度で填隙手段1を停止する(ステップ3)。
填隙手段1の降下を停止した後に、ポンプ2からエアを供給して填隙手段1を膨出させる(ステップ4)。填隙手段1を膨出させることで、填隙手段1を井戸10に設置し、井戸10の上下方向の地下水流を遮断する。
填隙手段1を井戸10に設置した後に、所定時間揚水ポンプ23を駆動する(ステップ5)。揚水口21は填隙手段1より上部に配置しているため、揚水ポンプ23の駆動によって、填隙手段1より上部の地下水が揚水される。
揚水ポンプ23の駆動後に、填隙手段1より上部の井戸10にある地下水の塩分濃度を塩分濃度測定手段5で計測する(ステップ6)。
ステップ6の計測の結果、ステップ7において所定値以上の塩分濃度を計測すると利用不可と判断する(ステップ8)。
ステップ7において、所定値未満の塩分濃度であれば、更に填隙手段1の降下が必要か否かを判断する(ステップ9)。ステップ9における降下の判断は、塩分濃度や水位から判断する。
ステップ9において、降下が必要と判断すると、第2バルブ7bを開放して填隙手段1からエアを抜き(ステップ10)、再び填隙手段1を降下させる(ステップ1)。
【0023】
ステップ9において、降下が必要なければ、この時点の填隙手段1の設置深度が、淡水を利用できる利用深度であると判断する(ステップ11)。
このように、填隙手段1の設置深度を変更して地下水の塩分濃度を計測することで、淡水を利用できる利用深度を判定することができる。
填隙手段1の設置深度を、その帯水層に含まれる地下水の上面境界が大気圧状態にある不圧帯水層とすることで、震災によって地下水が塩水化した後に、降雨によって浅層に形成された淡水層を利用することができる。
なお、塩水を揚水してしまうと淡水層に塩水が混合してしまうため、塩分濃度の計測を、浅い深度から順に行うことで、塩水を揚水することを防止し、淡水層を塩水で汚染させることなく判定を行うことができる。
【0024】
ステップ11における利用深度の判定後に、所定量の淡水を揚水し(ステップ12)、ステップ12における所定量の淡水の揚水後に、再び塩分濃度を塩分濃度測定手段5で計測する(ステップ13)。ステップ12における淡水の揚水量をモータスピードコントローラ28によって変更することで、利用可能な揚水量を推定することができる。
ステップ13による計測の結果、淡水か否かを判断し(ステップ14)、淡水であれば継続使用の可能性を判定できる(ステップ15)。ステップ14によって塩水と判断されると、利用深度の見直しを含めて再判定を行う(ステップ16)。
なお、ステップ11における利用深度の判定、又はステップ15における利用深度の判定の後は、塩分濃度を経時的に計測して監視することが好ましい。地下水流の変化による影響を監視することで、継続使用が可能となるとともに、淡水地下水の回復状況の変化に応じて揚水方法を変更することが可能となる。
【0025】
以上のように本実施例による地下水の淡水利用判定方法によれば、井戸10を填隙手段1の設置深度と同じ深さの井戸10に見立てることができ、填隙手段1の設置深度を変えて利用深度の判定を行うことで、1つの井戸10で複数の深度の井戸10を想定した判定を行うことができるので、淡水利用判定の労力が大幅に削減でき、定期的な判定によって地下水の回復状況を明らかにすることができる。
【0026】
図4及び
図5は揚水試験結果を示すグラフである。
填隙手段1の中心設置深度は地下水の電気伝導度(EC)が70mS/mとなる地点とし、揚水時間を2時間(
図5(a)のみ4.5時間)、揚水量を10L/min弱とした。填隙手段1の長さは0.58mとした。
【0027】
図4は沿岸から離れた近接する2つの地点の結果であり、
図4(a)に示す地点は、平均揚水量が8L/min、水位低下量が1.66m、揚水前井戸内ECが60mS/m、揚水開始時ECが57mS/m、揚水終了時ECが49mS/mであり、
図4(b)に示す地点は、平均揚水量が9L/min、水位低下量が0.47m、揚水前井戸内ECが51mS/m、揚水開始時ECが47mS/m、揚水終了時ECが40mS/mであった。
図4(a)に示す地点と
図4(b)に示す地点では、揚水翌日には揚水前の状態にほぼ戻る点で共通するが、EC上昇傾向には差異が生じた。
【0028】
図5は沿岸付近で近接する2つの地点の結果であり、
図5(a)に示す地点は、平均揚水量が9L/min、水位低下量が0.53m、揚水前井戸内ECが73mS/m、揚水開始時ECが87mS/m、揚水終了時ECが87mS/mであり、
図5(b)に示す地点は、平均揚水量が10L/min、水位低下量が0.76m、揚水前井戸内ECが104mS/m、揚水開始時ECが97mS/m、揚水終了時ECが89mS/mであった。
図5(a)に示す地点と
図5(b)に示す地点では、揚水によるEC上昇が顕著であり、揚水量の増加は難しいと判断された。
【0029】
次に、本発明の一実施例による地下水の淡水利用揚水装置について
図1及び
図2を用いて説明する。
本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、淡水利用判定方法に用いる機具を利用することができ、井戸10の特定の深度に設置して井戸10の上下方向の地下水流を遮断する填隙手段1と、填隙手段1に一端を接続するホース3と、ホース3の他端に接続する開閉バルブ7と、填隙手段1より上部に配置する揚水口21と、揚水口21に一端を接続する揚水ホース22とを備える。
そして、本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、揚水口21が淡水を揚水する利用深度に填隙手段1を設置することで、井戸10の深度を変更することなく、深度によって地下水の塩分濃度が異なる帯水層から淡水を揚水することができる。
本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、更に塩分濃度を計測する塩分濃度測定手段5を備え、塩分濃度測定手段5をホース3の一端側に配置することが好ましい。塩分濃度測定手段5をホース3の一端側に配置することで、填隙手段1の設置深度の変更に伴い塩分濃度測定手段5の深度も変更でき、井戸10の深度に応じた判定をタイムリーに行え、塩水を揚水してしまうことを少なくできる。
また本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、更に開閉バルブ7に接続するポンプ2と、揚水ホース22の他端に接続する揚水ポンプ23とを備えることで、ポンプ2を用いて填隙手段1の設置深度の変更を容易に行え、地下水流の変化に応じて填隙手段1の設置深度を変更でき、継続的な淡水利用ができる。
また本実施例による地下水の淡水利用揚水装置は、更に水位を検出する水位計6を備え、水位計6をホース3の一端側に配置することで、利用可能な淡水量を予測できる。
【0030】
本発明の地下水の淡水利用判定方法によれば、津波被災地において、震災前に設置され、掘削深度が深いために利用できない井戸10について、井戸10の深度を浅くして揚水量を絞ることで再利用することができる。
また、本発明の地下水の淡水利用判定方法によれば、津波被災地以外においても、塩淡境界を持つ帯水層に対しては、最適な井戸10の深度や揚水量を求めることができる。