(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
延伸前のポリビニルアルコール層; 延伸途上にあるポリビニルアルコール層;および、延伸した後のポリビニルアルコール層から形成された延伸フィルム層;のうちのいずれかに対して二色性色素を接触させる工程を含む、請求項10に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の光学フィルム製造用原反フィルムは、熱可塑性樹脂フィルム層とPVA層とを有する積層型のフィルムである。熱可塑性樹脂フィルム層を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、メタクリル樹脂、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の各種熱可塑性樹脂、およびこれらの熱可塑性樹脂を構成する単量体単位を複数種有する共重合体などが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルム層において、熱可塑性樹脂は1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもどちらでもよい。これらの中でも、高い耐熱性と延伸性を備える点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、非晶性のポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0013】
熱可塑性樹脂フィルム層の厚みは、20μm以上250μm以下の範囲内であることが好ましく、30μm以上230μm以下の範囲内であることがより好ましく、50μm以上200μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂フィルム層の厚みが20μm以上であることにより、PVA層を形成する際に皺が入るのを効果的に防止することができる。一方、熱可塑性樹脂フィルム層の厚みが250μm以下であることにより、光学フィルム製造用原反フィルムを延伸する際の張力が過度に高くなるのを抑制することができる。
【0014】
本発明の光学フィルム製造用原反フィルムが有するPVA層はホウ素化合物を含む。PVA層がホウ素化合物を含むことにより、光学フィルムの製造において、ホウ酸水溶液への浸漬や空中高温延伸といった不溶化処理を行わなくても水と接触する工程においてPVAの溶出を抑制することができて、光学性能に優れる光学フィルムを汎用の光学フィルム製造設備を使用して簡便に製造することができる。
【0015】
PVA層が含むホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩などが挙げられ、本発明の効果がより顕著に奏されることなどからホウ酸が好ましい。PVA層は、1種のホウ素化合物を含んでいても、2種以上のホウ素化合物を含んでいてもどちらでもよい。
【0016】
PVA層は、ホウ素化合物をPVA100質量部に対してホウ素原子換算で0.05質量部以上3質量部以下含むことが好ましい。PVA層がホウ素化合物をPVA100質量部に対してホウ素原子換算で0.05質量部以上含むことにより、光学フィルム製造時の水と接触する工程においてPVAの溶出をより効果的に抑制することができる。また、PVA層がホウ素化合物をPVA100質量部に対してホウ素原子換算で3質量部以下含むことにより、PVA層の形成に使用される原液がゲル化するのをより効果的に防止することができる。このような観点や、さらには得られる光学フィルムの光学性能の観点などから、PVA層は、ホウ素化合物をPVA100質量部に対してホウ素原子換算で0.07質量部以上含むことがより好ましく、0.1質量部以上含むことがさらに好ましく、また、2.5質量部以下含むことがより好ましく、2質量部以下含むことがさらに好ましく、1.5質量部以下含むことが特に好ましく、1質量部以下含むことが最も好ましい。
【0017】
光学フィルム製造用原反フィルムは、枚葉形態やロール形態といった任意の形態で保管ないし輸送されることが多い。そのため、保管時や輸送時におけるブロッキングを防止するなどの観点から、光学フィルム製造用原反フィルムの水分率は、光学フィルムの製造過程にあるフィルムとは異なり、低いレベルにあることが好ましい。具体的には、光学フィルム製造用原反フィルムにおけるPVA層の水分率として、10質量%以下であることが好ましく、9.5質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以下であることがさらに好ましい。PVA層の水分率の下限値に特に制限はないが、当該水分率は例えば1質量%以上とすることができる。
【0018】
PVA層におけるPVAとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVAの製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
上記のポリビニルエステルは、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものであってもよいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0020】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。上記のポリビニルエステルは、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0021】
上記のポリビニルエステルに占める前記した他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下、さらには5モル%以下であってもよい。
特に前記した他の単量体が、(メタ)アクリル酸、不飽和スルホン酸などのように、得られるPVAの水溶性を促進する可能性のある単量体である場合には、光学フィルムの製造過程においてPVAが溶解するのを防止するために、ポリビニルエステルにおけるこれらの単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0022】
上記のPVAは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。PVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位(グラフト変性部分における構造単位)の割合は、PVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0023】
上記のPVAは、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また上記のPVAは、その水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0024】
上記のPVAの平均重合度は1,000以上9,500以下の範囲内であることが好ましく、当該平均重合度は、1,500以上であることがより好ましく、2,000以上であることがさらに好ましく、また、9,200以下であることがより好ましく、6,000以下であることがさらに好ましい。平均重合度が1,000以上であることにより、得られる光学フィルムの光学性能(偏光性能等)が向上する。一方、平均重合度が9,500以下であることにより、PVAの生産性が向上する。なお、PVA層の形成に使用されるPVA(PVA層に含まれるPVA)の平均重合度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0025】
上記のPVAのけん化度は、得られる光学フィルムの耐水性などの観点から、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上であることがさらに好ましい。けん化度が95モル%未満であると、光学フィルムの製造過程でPVAが溶出しやすくなり、溶出したPVAがフィルムに付着して光学フィルムの光学性能(偏光性能等)を低下させる場合もある。なお、本明細書におけるPVAのけん化度とは、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0026】
PVA層は、光学フィルム製造用原反フィルムを延伸する際の延伸性向上の観点から可塑剤を含んでもよい。当該可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールなどを挙げることができ、PVA層はこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらの中でも、延伸性の向上効果の観点からグリセリンが好ましい。
【0027】
PVA層における可塑剤の含有量は、それに含まれるPVA100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下の範囲内であることが好ましい。当該含有量が1質量部以上であることにより、光学フィルム製造用原反フィルムの延伸性をより向上させることができる。一方、当該含有量が15質量部以下であることにより、PVA層が柔軟になり過ぎて取り扱い性が低下するのを防止したり、熱可塑性樹脂フィルム層からPVA層が剥離するのを防止したりすることができる。PVA層における可塑剤の含有量はPVA100質量部に対して2質量部以上であることがより好ましく、4質量部以上であることがさらに好ましく、5質量部以上であることが特に好ましく、また、13質量部以下であることがより好ましく、12質量部以下であることがさらに好ましく、8質量部以下であることが特に好ましい。
なお、本発明の光学フィルム製造用原反フィルムを用いて光学フィルムを製造する場合においては、その製造条件などにもよるが、PVA層に含まれる可塑剤は光学フィルムを製造する際に溶出するなどするため、その全量が光学フィルムに残存するとは限らない。
【0028】
PVA層は、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤、界面活性剤などの成分をさらに含んでいてもよい。
【0029】
PVA層におけるPVAの含有率は、可塑剤の含有量や水分率などにもよるが、所望とする光学フィルムの調製のしやすさなどから、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、85質量%以上であることが特に好ましく、また、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、96質量%以下であることがさらに好ましく、95質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
PVA層の厚みは特に制限されず、例えば100μm以下とすることができるが、薄型の光学フィルムを容易に調製することができることなどからPVA層を薄くすることが好ましく、具体的には、PVA層の厚みは20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。本発明ではPVA層が上記のような特定の構成を有するため、PVA層の厚みを上記のように薄くしても水と接触する工程においてPVAの溶出を抑制することができ、光学性能(偏光性能等)に優れる薄型の光学フィルムを簡便に製造することができる。また、PVA層の厚みが上記のように薄い場合には光学フィルム製造用原反フィルムを延伸する際の張力を低減することも可能となる。なお、PVA層の厚みがあまりに薄すぎると光学フィルム製造用原反フィルムの延伸時に延伸切れが発生しやすくなる傾向があることから、PVA層の厚みは、例えば1μm以上である。
【0031】
本発明の光学フィルム製造用原反フィルムの層構成に特に制限はないが、光学性能に優れる光学フィルムがより簡便に得られることなどから、熱可塑性樹脂フィルム層1層とPVA層1層の2層構造であることが好ましい。
【0032】
光学フィルム製造用原反フィルムの形状は特に制限されないが、より均一な光学フィルム製造用原反フィルムを連続して容易に製造することができると共に、それを用いて光学フィルムを製造する際にも連続して使用することができることから長尺のものであることが好ましい。長尺の光学フィルム製造用原反フィルムの長さ(長尺方向の長さ)は特に制限されず、製造される光学フィルムの用途などに応じて適宜設定することができ、例えば、5m以上30,000m以下の範囲内とすることができる。
【0033】
光学フィルム製造用原反フィルムの幅は特に制限されず、製造される光学フィルムの用途などに応じて適宜設定することができるが、近年、液晶テレビや液晶モニターの大画面化が進行している点から、光学フィルム製造用原反フィルムの幅を0.5m以上、より好ましくは1.0m以上にしておくと、これらの用途に好適である。一方、光学フィルム製造用原反フィルムの幅があまりに広すぎると実用化されている装置で光学フィルムを製造する場合に均一に延伸することが困難になる傾向があることから、光学フィルム製造用原反フィルムの幅は7m以下であることが好ましい。
【0034】
光学フィルム製造用原反フィルムを製造する方法としては、例えば、PVA、ホウ素化合物および必要に応じてさらに他の成分(上記した可塑剤等、PVAおよびホウ素化合物以外の他の成分)が液体媒体中に溶解した原液を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工して乾燥する方法;PVA、ホウ素化合物、液体媒体および必要に応じてさらに他の成分を溶融混練してなる原液を熱可塑性樹脂フィルム上に押し出し、必要に応じてさらに乾燥する方法;PVA、ホウ素化合物および必要に応じてさらに他の成分を含むPVAフィルムを公知の方法で作製してから、熱可塑性樹脂フィルムと貼り合わせる方法などが挙げられる。これらの中でも、薄いPVA層を容易に調製できる点および得られるPVA層の厚みの均一性の点から、PVA、ホウ素化合物および必要に応じてさらに他の成分が液体媒体中に溶解した原液を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工して乾燥する方法が好ましい。
【0035】
上記の液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好ましい。
【0036】
原液の揮発分率(PVA層の形成時に揮発や乾燥などによって除去される液体媒体などの揮発性成分の、原液中における含有割合)は、PVA層の形成方法や形成条件などによっても異なるが、50質量%以上98質量%以下の範囲内であることが好ましく、55質量%以上95質量%以下の範囲内であることがより好ましい。原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、その粘度が高くなり過ぎず、原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われて異物や欠点の少ないPVA層の形成が容易になると共に、塗工性も向上する。一方、原液の揮発分率が98質量%以下であることにより、原液の濃度が低くなり過ぎず、光学フィルム製造用原反フィルムの工業的な製造が容易になる。
【0037】
原液を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工する際の塗工方法としては、例えば、ダイコート法、コンマコート法、ディップコート法などが挙げられる。これらの中でも、得られるPVA層の厚みの均一性の点からダイコート法が好ましい。
【0038】
光学フィルム製造用原反フィルムの製造に使用される熱可塑性樹脂フィルムは、PVA層と接着しやすくなるように、その表面を親水化処理しておくことが好ましい。親水化処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、アンカーコート処理等が挙げられる。これらの中でも、親水性を調整しやすい点からコロナ処理が好ましい。
【0039】
上記の親水化処理によって熱可塑性樹脂フィルムの表面の接触角を55°以上70°以下に調整することが好ましく、当該接触角を57°以上に調整することがより好ましく、59°以上に調整することがさらに好ましく、また、69°以下に調整することがより好ましく、68°以下に調整することがさらに好ましい。当該接触角が55°より低いと熱可塑性樹脂フィルム層とPVA層との接着強度が強くなり過ぎる傾向があり、光学フィルム製造用原反フィルムの延伸後に延伸された熱可塑性樹脂フィルム層を剥離する場合に剥離が困難になることがある。一方、当該接触角が70°より高いと、光学フィルム製造用原反フィルムの延伸中に熱可塑性樹脂フィルム層からPVA層が剥離しやすくなる傾向がある。なお、熱可塑性樹脂フィルムの表面の接触角とは、水の自由表面が熱可塑性樹脂フィルムに接する場所での水面と熱可塑性樹脂フィルムの表面とのなす角(水の内部にある角をとる)をいい、実施例において後述する方法によって測定することができる。
【0040】
原液を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工したり押し出したりした後の乾燥の条件に特に制限はないが、熱可塑性樹脂フィルムに皺が入ることを防ぐため、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度以下の温度で乾燥するのが好ましい。具体的な乾燥温度に特に制限はないが、乾燥効率などを考慮すると、20℃以上95℃以下の範囲内であることが好ましく、当該乾燥温度は、50℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましく、また、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の光学フィルム製造用原反フィルムは、光学フィルムを製造するための原反フィルムとして使用される。光学フィルムの種類としては、例えば、偏光フィルムや位相差フィルムなどが挙げられ、本発明の効果がより顕著に奏されることから偏光フィルムであることが好ましい。このような光学フィルムは、例えば、本発明の光学フィルム製造用原反フィルムを用いる方法であって延伸する工程を有する方法により製造することができ、具体的には、本発明の光学フィルム製造用原反フィルムそのもの、あるいは、後述する膨潤処理等を施すなどして生じた本発明の光学フィルム製造用原反フィルムに由来する積層体(以下、「本発明の光学フィルム製造用原反フィルム」と「本発明の光学フィルム製造用原反フィルムに由来する積層体」をまとめて、単に「積層体」と略称することがある)を延伸する工程を有する方法により製造することができる。
【0042】
本発明の光学フィルム製造用原反フィルムを用いて偏光フィルムを製造する場合、PVA層に予め二色性色素を含有させておけば、積層体を延伸することによって二色性色素が吸着している偏光フィルムを得ることができる。この場合において、PVA層に二色性色素を含有させる方法は特に制限されず、例えば、積層体のPVA層(延伸前のPVA層)に二色性色素を接触させる方法や、PVA層を形成するための上記した原液に予め二色性色素を含有させる方法などを適宜採用することができる。また、PVA層に予め二色性色素を含有させておかない場合には、積層体の延伸中に延伸途上にあるPVA層に二色性色素を接触させたり、あるいは、積層体を延伸した後の、(延伸前の)PVA層から形成された延伸フィルム層に二色性色素を接触させたりすることによって、二色性色素が吸着している偏光フィルムを得ることができる。これらの中でも、延伸前の積層体のPVA層;積層体の延伸中における延伸途上にあるPVA層;および、積層体を延伸した後のPVA層から形成された延伸フィルム層;のうちのいずれか1つまたは2つ以上に対して二色性色素を接触させる工程を含む製造方法によって二色性色素が吸着している偏光フィルムを得ることが、本発明の効果がより顕著に奏されることから好ましい。
【0043】
上記したいずれの方法においても、延伸および二色性色素を接触させる処理(染色)の他に、膨潤処理、架橋処理、固定処理、乾燥などを必要に応じてさらに施すことができる。各処理の順番は必要に応じて適宜変更してもよく、また各処理を2回以上実施してもよく、さらに異なる処理を同時に実施してもよい。また、上記の製造方法によれば、延伸された熱可塑性樹脂フィルム層上に形成された偏光フィルムが得られるが、当該延伸された熱可塑性樹脂フィルムを必要に応じて剥離する工程を含んでいてもよい。
【0044】
上記のとおり、本発明の光学フィルム製造用原反フィルムによれば、ホウ酸水溶液への浸漬や空中高温延伸といった不溶化処理を行わなくても、染色など、偏光フィルム製造時の水と接触する工程においてPVAの溶出を抑制することができる。そのため、このような不溶化処理を行わないで偏光フィルムを製造する場合に本発明の効果がより顕著に奏される。具体的には、延伸前の積層体のPVA層;積層体の延伸中における延伸途上にあるPVA層;および、積層体を延伸した後のPVA層から形成された延伸フィルム層;のうちのいずれか1つまたは2つ以上に対して二色性色素を接触させる工程を含む製造方法によって二色性色素が吸着している偏光フィルムを製造する際に、本発明の光学フィルム製造用原反フィルムを準備してから上記二色性色素を接触させる工程の前までの間において、積層体に対して、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物を含む水溶液と接触させる工程を含まない、および/または、95℃以上の温度で延伸する工程を含まない(より好ましくは50℃以上の温度で延伸する工程を含まない)ことが好ましい。
【0045】
偏光フィルムの製造方法の一例としては、まず二色性色素を含まないPVA層を有する積層体に対して、膨潤処理を施し、次いで二色性色素を接触させることでPVA層に二色性色素を含有させ、必要に応じてさらに架橋処理を施し、得られた積層体を延伸し、必要に応じてさらに固定処理を施し、乾燥し、これらの一連の処理によって、延伸された熱可塑性樹脂フィルム層上に形成された偏光フィルムを得て、当該延伸された熱可塑性樹脂フィルム層を剥離する方法が挙げられる。
【0046】
膨潤処理は、積層体を水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度としては、20℃以上40℃以下の範囲内であることが好ましく、当該温度は、22℃以上であることがより好ましく、25℃以上であることがさらに好ましく、また、38℃以下であることがより好ましく、35℃以下であることがさらに好ましい。当該温度を20℃以上40℃以下の範囲内にすることでPVA層を効率良く膨潤させることができる。また、水に浸漬する時間としては、0.1分間以上5分間以下の範囲内であることが好ましく、0.5分間以上3分間以下の範囲内であることがより好ましい。0.1分間以上5分間以下の範囲内にすることでPVA層を効率良く膨潤させることができる。なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
【0047】
上記したように、延伸前の積層体のPVA層;積層体の延伸中における延伸途上にあるPVA層;積層体を延伸した後のPVA層から形成された延伸フィルム層;などに対して二色性色素を接触させて染色することによって、二色性色素が吸着している偏光フィルムを得ることができる。二色性色素の接触は、延伸前、延伸中、または延伸後の積層体を、二色性色素を含む溶液(特に水溶液)に浸漬することにより行うことができる。二色性色素を含む溶液中における二色性色素の濃度は使用される二色性色素の種類などに応じて適宜設定することができ、例えば0.001質量%以上1質量%以下とすることができるが、二色性色素を含む溶液としてヨウ素−ヨウ化カリウム溶液(特に水溶液)を用いる場合には、ヨウ素系色素を効率良く吸着させることができることから、使用されるヨウ素(I
2)の濃度として0.01質量%以上1.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、使用されるヨウ化カリウム(KI)の濃度として0.01質量%以上10質量%以下の範囲内であることが好ましい。二色性色素を含む溶液の温度は、二色性色素を効率良く吸着させることができることから、20℃以上50℃以下の範囲内、特に25℃以上40℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0048】
上記の二色性色素としては、ヨウ素系色素(I
3−やI
5−等)、二色性有機染料などが挙げられる。ヨウ素系色素は、例えば、ヨウ素(I
2)とヨウ化カリウムとを接触させることにより得ることができる。また、二色性有機染料としては、ダイレクトブラック 17、19、154;ダイレクトブラウン 44、106、195、210、223;ダイレクトレッド 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;ダイレクトブルー 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;ダイレクトバイオレット 9、12、51、98;ダイレクトグリーン 1、85;ダイレクトイエロー 8、12、44、86、87;ダイレクトオレンジ 26、39、106、107などが挙げられる。これらの二色性色素の中でも、取り扱い性、入手性、偏光性能などの観点からヨウ素系色素が好ましい。なお、二色性色素は1種単独であっても2種以上であってもどちらでもよく、例えば、I
3−およびI
5−のように平衡混合物であってもよい。
【0049】
PVA層に対して架橋処理を施すことで、高温で湿式延伸する際にPVAが水へ溶出するのをより効果的に防止することができる。この観点から架橋処理は二色性色素を接触させる処理の後であって延伸の前に行うのが好ましい。架橋処理は、架橋剤を含む水溶液に積層体を浸漬することにより行うことができる。当該架橋剤としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物の1種または2種以上を使用することができる。架橋剤を含む水溶液における架橋剤の濃度は1質量%以上15質量%以下の範囲内であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、また、7質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。架橋剤の濃度が1質量%以上15質量%以下の範囲内にあることで十分な延伸性を維持することができる。架橋剤を含む水溶液はヨウ化カリウム等の助剤を含有してもよい。架橋剤を含む水溶液の温度は、20℃以上50℃以下の範囲内、特に25℃以上40℃以下の範囲内とすることが好ましい。当該温度を20℃以上50℃以下の範囲内にすることで効率良く架橋することができる。
【0050】
積層体を延伸する際の延伸方法に特に制限はなく、湿式延伸法および乾式延伸法のうちのいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合は、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物の1種または2種以上を含む水溶液中で行うこともできるし、上記した二色性色素を含む溶液中や後述する固定処理浴中で行うこともできる。また乾式延伸法の場合は、室温のまま延伸を行ってもよいし、熱をかけながら延伸してもよいし、吸水後に延伸してもよい。これらの中でも、得られる偏光フィルムにおける幅方向の厚みの均一性の点から湿式延伸法が好ましく、ホウ酸水溶液中で延伸することがより好ましい。ホウ酸水溶液中におけるホウ酸の濃度は0.5質量%以上6.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、当該濃度は、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましく、また、5.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。ホウ酸の濃度が0.5質量%以上6.0質量%以下の範囲内にあることで幅方向の厚みの均一性に優れる偏光フィルムが得られる。上記したホウ素化合物を含む水溶液はヨウ化カリウムを含有してもよく、その濃度は0.01質量%以上10質量%以下の範囲内であることが好ましい。ヨウ化カリウムの濃度が0.01質量%以上10質量%以下の範囲内にあることで偏光性能がより良好な偏光フィルムが得られる。
【0051】
積層体を延伸する際の温度は、30℃以上90℃以下の範囲内であることが好ましく、当該温度は、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、また、80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることがさらに好ましい。当該温度が30℃以上90℃以下の範囲内にあることで幅方向の厚みの均一性に優れる偏光フィルムが得られる。
【0052】
積層体を延伸する際の延伸倍率は5.7倍以上であることが好ましく、5.8倍以上であることがより好ましく、5.9倍以上であることがさらに好ましい。積層体の延伸倍率を上記の範囲内にすることで、偏光性能により優れる偏光フィルムが得られる。積層体の延伸倍率の上限は特に制限されないが、8倍以下であることが好ましい。積層体の延伸は一度に行っても、複数回に分けて行ってもどちらでもよいが、複数回に分けて行う場合には各延伸の延伸倍率を掛け合わせた総延伸倍率が上記範囲内にあればよい。なお、本明細書における延伸倍率は延伸前の積層体の長さに基づくものであり、延伸をしていない状態が延伸倍率1倍に相当する。
【0053】
積層体の延伸は、得られる偏光フィルムの性能の観点から一軸延伸が好ましい。長尺の積層体を延伸する場合における一軸延伸の方向に特に制限はなく、長尺方向への一軸延伸や横一軸延伸を採用することができるが、偏光性能により優れる偏光フィルムが得られることから長尺方向への一軸延伸が好ましい。長尺方向への一軸延伸は、互いに平行な複数のロールを備える延伸装置を使用して、各ロール間の周速を変えることにより行うことができる。一方、横一軸延伸はテンター型延伸機を用いて行うことができる。
【0054】
固定処理は、主として、PVA層や延伸フィルム層への二色性色素の吸着を強固にするために行われる。固定処理は、延伸前、延伸中または延伸後の積層体を固定処理浴に浸漬することにより行うことができる。固定処理浴としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物の1種または2種以上を含む水溶液を使用することができる。また、必要に応じて、固定処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理浴として使用されるホウ素化合物を含む水溶液中におけるホウ素化合物の濃度は、一般に2質量%以上15質量%以下の範囲内、特に3質量%以上10質量%以下の範囲内であることが好ましい。当該濃度を2質量%以上15質量%以下の範囲内にすることで二色性色素の吸着をより強固にすることができる。固定処理浴の温度は、15℃以上60℃以下の範囲内、特に25℃以上40℃以下の範囲内であることが好ましい。当該温度を15℃以上60℃以下の範囲内にすることで二色性色素の吸着をより強固にすることができる。
【0055】
乾燥の条件は特に制限されないが、30℃以上150℃以下の範囲内、特に50℃以上130℃以下の範囲内の温度で乾燥を行うのが好ましい。30℃以上150℃以下の範囲内の温度で乾燥することで寸法安定性に優れる偏光フィルムが得られやすい。
【0056】
以上のようにすることで、延伸された熱可塑性樹脂フィルム層上に形成された偏光フィルムが得られる。このような形態の偏光フィルムの使用方法は特に制限されず、例えば、延伸された熱可塑性樹脂フィルム層を剥離せずに、それをそのまま、または所望により偏光フィルム側に光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板としてもよいし、延伸された熱可塑性樹脂フィルム層が位置する側とは反対側に保護膜を貼り合わせた後で、当該延伸された熱可塑性樹脂フィルム層を剥離し、それをそのまま、または所望により剥離面に別の保護膜を貼り合わせて偏光板としてもよい。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどを使用することができる。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などを挙げることができるが、PVA系接着剤が好適である。
【0057】
得られる偏光フィルムの厚みは、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。偏光フィルムがこのような厚みを有することにより、携帯電話などの薄型化への要求が高まっている分野に好適に用いることができる。なお、厚みがあまりに薄い偏光フィルムはその調製が困難であることから、偏光フィルムの厚みは、例えば、1μm以上である。
【実施例】
【0058】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用された各測定または評価方法を以下に示す。
【0059】
熱可塑性樹脂フィルムの表面の接触角の測定
協和界面科学株式会社製「DropMaster500」を使用し、20℃、65%RHの環境下で、内径0.4mmの針から2μLの純水を熱可塑性樹脂フィルムの表面に押し出して接触角を測定した。
【0060】
PVA層の水分率の測定
以下の実施例または比較例で得られた積層体(光学フィルム製造用原反フィルム)から適当な大きさ(例えば200cm
2程度)のサンプルを切り出し、質量を測定した(その質量をAとする)。次に、このサンプルを105℃で12時間乾燥し、質量を測定した(その質量をBとする)。さらに、乾燥後のサンプルを95℃の熱水で6時間煮沸してPVA層を溶解させ、残った熱可塑性樹脂フィルム層を105℃で12時間乾燥し、質量を測定した(その質量をCとする)。PVA層の水分率H(質量%)は、下記式(1)で算出した。
H = 100−100×(B−C)/(A−C) (1)
【0061】
PVA層中のホウ素原子の含有量の測定
PVA層中のホウ素原子の含有量の測定は、ICP発光分析装置「IRIS AP」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて行った。なお、測定サンプルは、積層体(光学フィルム製造用原反フィルム)から剥離したPVA層を10mg秤量後、吸収液にイオン交換水20mLを用いて酸素フラスコ燃焼を行い、0.45μmフィルターでろ過して調製した。
【0062】
偏光フィルムの厚みの測定
デジタルゲージ(マグネスケール社製「DE12BR」)を用いて、偏光フィルムの任意の位置(5箇所)での偏光フィルムの厚みを測定し、その平均値を偏光フィルムの厚みとした。
【0063】
偏光性能の評価
(a)透過率Tsの測定
以下の実施例または比較例で得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの幅方向に2cm×長さ方向に2cmの正方形のサンプルを2枚採取し、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)を用いて、JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚のサンプルについて、長さ方向に対して45°傾けた場合の光の透過率と−45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts1(%)を求めた。もう1枚のサンプルについても同様にして、45°傾けた場合の光の透過率と−45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts2(%)を求めた。下記式(2)によりTs1とTs2を平均し、偏光フィルムの透過率Ts(%)とした。
Ts = (Ts1+Ts2)/2 (2)
【0064】
(b)偏光度Vの測定
上記透過率Tsの測定で採取した2枚のサンプルを、その長さ方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率T‖(%)、長さ方向が直交するように重ねた場合の光の透過率T⊥(%)を、上記「(a)透過率Tsの測定」の場合と同様にして測定し、下記式(3)により偏光度V(%)を求めた。
V = {(T‖−T⊥)/(T‖+T⊥)}
1/2×100 (3)
【0065】
(c)透過率44%時の二色性比の算出
以下の各実施例および比較例において、ヨウ素系色素を含有する水溶液への浸漬時間を1〜2分間の範囲内で1分間から4回変更して同様の操作を行い、各実施例または比較例で製造した偏光フィルムとは二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルムを製造した。これら4枚の偏光フィルムのそれぞれについて上記した方法で透過率Ts(%)および偏光度V(%)を求め、各実施例および比較例毎に、透過率Ts(%)を横軸、偏光度V(%)を縦軸として各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの透過率Ts(%)および偏光度V(%)に基づく1点も含めた合計5点をグラフにプロットして近似曲線を求め、当該近似曲線から、透過率Ts(%)が44%であるときの偏光度V
44(%)を求めた。
得られた偏光度V
44(%)から、下記式(4)により透過率44%時の二色性比を求めて、偏光性能の指標とした。
透過率44%時の二色性比 = log(44/100−44/100×V
44/100)/log(44/100+44/100×V
44/100) (4)
【0066】
[実施例1]
(1)熱可塑性樹脂フィルムの親水化処理
熱可塑性樹脂フィルムとして、非晶性のポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人化成株式会社製 A−PETシート FR 厚み150μm)を用いて、熱可塑性樹脂フィルムの片面に放電量280W・分/m
2(出力280W/m、処理速度1.0m/分)でコロナ処理を行った。コロナ処理後の熱可塑性樹脂フィルムの表面の接触角は60°であった(コロナ処理前の接触角は79°)。
(2)原液の調製
平均重合度2,400、けん化度99.8モル%のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)100質量部、ホウ素化合物としてホウ酸2質量部および水からなるPVA濃度が10質量%の水溶液を調製してPVA層を形成するための原液とした。
(3)積層体の作製
(1)で親水化処理を行った熱可塑性樹脂フィルムのコロナ処理面に(2)で調製した原液をダイコーターを用いて塗工した後、80℃で240秒間乾燥することにより、非晶性のポリエチレンテレフタレートフィルム層と厚みが6μmのPVA層とからなる2層構造の積層体(幅0.5mの長尺の光学フィルム製造用原反フィルム)を作製した。得られた積層体について、PVA層の水分率およびホウ素原子の含有量の測定を行った。結果を表1に示した。
(4)偏光フィルムの製造
(3)で作製した積層体に対して、膨潤処理、染色、一軸延伸、乾燥処理をこの順に施して偏光フィルムを製造した。すなわち、膨潤処理として積層体を蒸留水に1分間浸漬した。次いで、ヨウ素系色素を含有する水溶液(使用されるヨウ素の濃度:0.3質量%、使用されるヨウ化カリウムの濃度:2.1質量%、温度:30℃)に1分間浸漬してPVA層にヨウ素系色素を含有させた。続いて、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:4質量%、ヨウ化カリウム濃度:6質量%、温度:65℃)中で長尺方向に限界まで一軸延伸した。なお、予め同じ方法で延伸して切断する倍率を確認しておき、その切断した倍率から0.20倍低い倍率を上記の限界とした。その後、60℃で1分間乾燥して、延伸された非晶性のポリエチレンテレフタレートフィルム層上に形成された偏光フィルムを得た。これから延伸された非晶性のポリエチレンテレフタレート層を剥離し、得られた偏光フィルムについて、厚みおよび偏光性能の各測定または評価を行った。結果を採用された延伸倍率と共に表1に示した。
【0067】
[実施例2〜4]
原液を調製する際のホウ素化合物の種類および使用量を表1に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得てPVA層の水分率およびホウ素原子の含有量の測定を行うと共に、その積層体から偏光フィルム(延伸された非晶性のポリエチレンテレフタレート層を剥離したもの)を得て、厚みおよび偏光性能の各測定または評価を行った。結果を採用された延伸倍率と共に表1に示した。
【0068】
[実施例5]
積層体を作製する際の乾燥時間を240秒間から220秒間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得てPVA層の水分率およびホウ素原子の含有量の測定を行うと共に、その積層体から偏光フィルム(延伸された非晶性のポリエチレンテレフタレート層を剥離したもの)を得て、厚みおよび偏光性能の各測定または評価を行った。結果を採用された延伸倍率と共に表1に示した。
【0069】
[比較例1]
原液を調製する際にホウ素化合物を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得てPVA層の水分率およびホウ素原子の含有量の測定を行った。また実施例1と同様にして、その積層体から偏光フィルムを作製しようとしたところ、膨潤処理時にPVA層に含まれるPVAが溶出したため、偏光フィルムを作製することができなかった。結果を表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1〜5では、PVA層がホウ素化合物を含んでいたため、ホウ酸水溶液への浸漬や空中高温延伸といった不溶化処理を行わなかったにも拘らず、PVA層に含まれるPVAの溶出を抑制することができて、偏光性能に優れる偏光フィルムを簡便に製造することができた。一方、比較例1では、PVA層がホウ素化合物を含まなかったため、偏光フィルム製造時にPVA層に含まれるPVAが溶出し、偏光フィルムを作製することができなかった。