(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。例えば、X軸方向及びY軸方向は相互に直交する水平方向をそれぞれ示しており、Z軸方向はこれらに直交する鉛直方向(重力方向)を示している。
【0019】
図1(a)及び
図1(b)は、本実施形態に係る真空ポンプを示す概略断面図である。
図1(a)は、真空ポンプ1を上からみた断面であり、
図1(b)は、
図1(a)のA1−A2線に沿った断面が示されている。
【0020】
図1(a)、(b)に例示される真空ポンプ1としては、一例として、メカニカルブースタポンプが示されている。本実施形態に係る真空ポンプは、メカニカルブースタポンプに限らず、スクリューポンプ、ロータリポンプ等であってもよい。
【0021】
図1(a)に示すように、真空ポンプ1は、ポンプ本体10と、駆動部20と、制御ユニット30とを備える。
【0023】
ポンプ本体10は、ハウジング131、132、141、142と、ポンプロータ11、12と、軸受部材151、152、161、162と、潤滑油掻揚プレート170とを有する。
【0024】
ハウジング131は、筒状の容器であり、ハウジング132、141は、隔壁板である。ハウジング132、141のそれぞれは、X軸方向においてハウジング131に固定される。ハウジング131、132、141によって、ポンプ室P1が形成され、ポンプ室P1の気密性が確保される。ポンプロータ11、12は、ポンプ室P1に収容されている。
【0025】
ポンプロータ11、12は、Y軸方向に相互に対向して配置される。ポンプロータ11は、X軸方向に平行なロータ軸110を有する。ポンプロータ12は、X軸方向に平行なロータ軸120を有する。ロータ軸110の一端部111側は、ハウジング132に固定された軸受部材151に回転可能に支持される。ロータ軸110の他端部112側は、ハウジング141に固定された軸受部材161に回転可能に支持される。ロータ軸120の一端部121側は、ハウジング132に固定された軸受部材152に回転可能に支持される。ロータ軸120の他端部122側は、ハウジング141に固定された軸受部材162に回転可能に支持される。また、ポンプロータ11とポンプロータ12との間、及び、ポンプロータ11、12と、ポンプ室P1の内壁との間には所定の隙間が形成されており、それぞれに非接触で回転するように構成される。
【0026】
また、一端部111、121とハウジング132との間、及び他端部112、122とハウジング141との間は、ポンプ室P1外から液状の潤滑油がポンプ室P1に入らないように、オイル進入防止機構(不図示)が設けられている。
【0027】
軸受部材151、152は、図示しないシールリング部材を介して、ボルト締めによってカバー153により覆われる。また、軸受部材161、162は、図示しないシールリング部材を介して、ボルト締めによってカバー163により覆われる。軸受部材161、162がカバー163により覆われることで、供給口165、166のそれぞれは、空間部S1に通じる経路が確保される。
【0028】
真空ポンプ1においては、例えば、軸受部材151、152は、スラスト方向で固定され、軸受部材161、162は、スラスト方向で移動可能に配置されている。Z軸方向において、軸受部材161の上方には、軸受部材161に潤滑油を供給することが可能な供給口165が設けられている。同様に、軸受部材162の上方には、軸受部材162に潤滑油を供給することが可能な供給口166が設けられている。供給口165、166のそれぞれは、例えば、ハウジング141に形成される。供給口165、166のそれぞれは、空間部S1の底部に通じている。
【0029】
ハウジング142は、ハウジング131と反対側においてハウジング141に取り付けられる。ハウジング142は、ハウジング141とともに、潤滑油180を貯留する空間部S1を形成する。潤滑油180は、空間部S1の底部に貯留されている。ハウジング141には、ロータ軸110の他端部112と、ロータ軸120の他端部122とが貫通している。これらの他端部112、122は、空間部S1にまで到達している。さらに、他端部112には、潤滑油掻揚プレート170が取り付けられる。潤滑油掻揚プレート170は、空間部S1に収容される。
【0030】
図1(b)に示すように、潤滑油掻揚プレート170の下側は、潤滑油180に浸漬されている。潤滑油掻揚プレート170には、複数の切り欠き部171が設けられている。ロータ軸110の回転によって潤滑油掻揚プレート170が回転すると、潤滑油180が切り欠き部171によって油面180sから持ち上げられ、潤滑油180が油面180sより上方に掻き揚げられる。掻き揚げられた潤滑油180は、空間部S1の上方に向けて飛散する。
【0031】
空間部S1の上方に向けて飛散した潤滑油180は、ハウジング142の内壁に当たる。例えば、油面180sから上方に位置した内壁上部142wuに潤滑油180が当たる。そして、真空ポンプ1では、内壁上部142wuに、潤滑油180を供給口165、166上まで移動させることが可能な凹部190が設けられている。凹部190は、凹部191と、Y軸方向において凹部191の両側に設けられた凹部192a、192bとを有する。また、内壁上部142wuと、内壁上部142wuより下側の内壁下部142wdとは、曲面となって構成されている。内壁上部142wuに設けた凹部190の構成、作用の詳細については後述する。
【0032】
また、潤滑油掻揚プレート170は、ロータ軸120の他端部122に取り付けてもよい。さらに、潤滑油掻揚プレート170は、他端部112、122の双方に取り付けてもよい。この場合、他端部112、122同士に取り付けた潤滑油掻揚プレート170が互いに接触しないように取り付けられる。例えば、2つの潤滑油掻揚プレート170がX軸方向に相互にずらして設置される。
【0033】
また、本実施形態では、ハウジング141を第1ハウジングとし、ハウジング142を第2ハウジングとする場合がある。また、凹部191を第1凹部とし、凹部192a、192bをまとめて第2凹部とする場合がある。
【0035】
駆動部20は、モータ21と、同期ギア22、23と、ハウジング24と、カバー25とを有する。
【0036】
ポンプロータ11のロータ軸110の一端部111及びポンプロータ12のロータ軸120の一端部121は、ハウジング132を貫通する。ロータ軸110の一端部111には、モータ21が固定される。さらに、一端部111には、モータ21と軸受部材151との間に同期ギア22が固定される。ロータ軸120の一端部121には、同期ギア22と噛み合う同期ギア23が固定されている。
【0037】
モータ21及び同期ギア22、23は、ハウジング24、132に収容される。モータ21とハウジング24との間は、気密性が保たれている。換言すれは、真空ポンプ1は、いわゆるCanned Motor Pumpである。ギア室Gには、同期ギア22、23及び軸受部材151、161を潤滑するための潤滑油が収容されている。潤滑油の成分は、潤滑油180と同じであってもよく、異なってもよい。
【0038】
ハウジング24の先端は、カバー25で被覆されている。カバー25には外気と連通可能な通孔が設けられており、駆動部20に隣接して配置された、図示しない空冷式、または、水冷式よってモータ21を冷却することができる。
【0039】
モータ21の駆動により、ポンプロータ11、12は、同期ギア22、23を介して相互に逆方向に回転する。例えば、回転数は、500rpm以上5000rpm以下である。これにより、ポンプ本体10の上側に設けられている吸気口E1から、ポンプ本体10の下側に設けられている排気口E2へ気体が移送される。吸気口E1には、図示しない真空チャンバの内部と連絡する吸気管が接続され、排気口E2には、図示しない排気管あるいは補助ポンプの吸気口と接続される。
【0040】
また、駆動部20においても、軸受部材151、161を潤滑するための供給口や、ハウジング132の内壁上部に供給口までに潤滑油を移動させる凹部を形成してもよい。この場合、同期ギア22、23が掻き揚げプレートの機能を兼ね備える。さらに、潤滑油を掻き揚げる手段としては、一端部111、121の少なくともいずれかに潤滑油掻揚プレートを取り付けてもよい。
【0042】
制御ユニット30は、ハウジング24に設置された金属製のケース内に収容された回路基板、その上に搭載された各種電子部品で構成される。回路基板には、例えば、インバータ回路等が配置されている。制御ユニット30によって、例えば、ポンプロータ11、12の回転数が制御される。
【0043】
ハウジング131、132、141、24は、例えば、鋳鉄、ステンレス鋼等の鉄系材料で構成されている。ハウジング142は、例えば、アルミニウム合金等の非鉄材料で構成される。これらのハウジングは、図示しないシールリング部材を介してボルト締めによって相互に結合されている。また、ポンプロータ11、12は、鋳鉄等の鉄系材料からなるマユ型ロータで構成される。
【0044】
また、潤滑油としては、真空ポンプ1として要求されるポンプP1の到達圧力を満たすために、その蒸気圧が低いことが好ましい。例えば、80℃における潤滑油の蒸気圧は、1×10
−2Pa以下であることが好ましい。具体的な潤滑油として、フッ素オイル(動粘度:97mm
2/s(40℃)、13mm
2/s(100℃))、鉱物油(動粘度:57mm
2/s(40℃)、3mm
2/s(100℃))、密度:0.88g/cm
3(15℃)、引火点:250℃以上、流動点:−12.5℃以下、全酸価:0.05mgKOH/g)、合成油(ISO粘度グレード:100、動粘度:94.7mm
2/s(40℃)、12.6mm
2/s(100℃))、ASTM色:L1.0、密度:0.90g/cm
3(15℃)、引火点:250℃以上、流動点:−10℃以下、全酸価:0.30mgKOH/g)のいずれかが適用される。なお、これら潤滑油の物性値は、一例であり、これらの値に限らない。
【0046】
図2(a)及び
図2(b)は、真空ポンプのハウジングを示す概略斜視図である。
図3は、真空ポンプのハウジングを示す概略断面図である。
図2(a)には、ハウジング142内の概略斜視図が示され、
図2(b)には、
図2(a)のB1−B2線に沿ってX−Z平面でハウジング142を切断した断面斜視図が示されている。また、
図3には、ハウジング142をY−Z軸平面で切断した切断面が示されている。例えば、
図3には、
図2(b)のD1−D2線に沿った端面が示されている。
【0047】
ハウジング142においては、潤滑油180の油面180sと対向する内壁上部142wuに、凹部191が設けられている。凹部192a、192bのそれぞれは、ロータ軸110(または、ロータ軸120)の軸方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)において凹部191に並ぶ。凹部191は、Y軸方向において、凹部192a、192bの間に設けられる。凹部192aは、供給口165の上方に位置し、凹部192bは、供給口166の上方に位置している。
【0048】
例えば、凹部191は、ハウジング142の端面142eとは反対側から端面142eの側に向けて、空間部S1の天井面142cの高さよりも高い位置から天井面142cの高さまで下る傾斜面となっている。凹部192a、192bのそれぞれは、凹部191の両側に設けられ、さらに天井面142cの両側に設けられている。空間部S1の奥から延びる凹部192a、192bのそれぞれは、端面142eにまで到達し、端面142cの一部を切り欠いている。
【0049】
また、ハウジング142においては、凹部191と凹部192aとがなす鋭角の先端を持った角部192acが構成され、凹部191と凹部192bとがなす鋭角の先端を持った角部192abが構成される。
【0050】
凹部191の深さd1は、潤滑油掻揚プレート170から軸受部材161、162に向かうにつれ徐々に浅くなっている。凹部191の内面191wと、X軸方向とがなす角θ
1(°)は、例えば、3度(°)以上20度以下に設定されている。角度θ
1が3度よりも小さいと、潤滑油180が凹部191に沿って移動しにくく、潤滑油180が内面191wから垂下してしまい好ましくない。一方、角度θ
1が20度よりも大きくなると、X−Z面における凹部191の傾斜が急峻になり、ハウジング142上部の肉厚をより厚く構成する必要が生じ、ハウジング142のコンパクト化が実現できない。
【0051】
凹部191の内面191wは、凹部191の深さ方向に凸の曲面となるように構成されている。内面191wについては、潤滑油180をより多く付着させる観点から、内面191wの面積はより大きく設計されることが好ましい。例えば、内面191wは、曲面で構成される。例えば、凹部191の内面191wのY−Z軸平面における曲率R(半径)は、ロータ軸110の中心軸とロータ軸120の中心軸との間の距離をL(mm)とした場合、L/2(mm)以上に設定される。曲率RがL/2(mm)よりも小さいと、ハウジング142上部の肉厚を厚く構成する必要が生じるので好ましくない。一方、内面191wが平坦状になるほど、潤滑油180が凹部191に沿って移動しにくく、潤滑油180が内面191wから垂下してしまい好ましくない。例えば、曲率Rは、300mm以上350mm以下に設定されるが、この範囲に限らない。
【0052】
凹部192aの内面192awは、凹部192aの深さ方向に凸の曲面となるように構成されている。また、凹部192bの内面192bwは、凹部192bの深さ方向に凸の曲面となるように構成されている。凹部192a、192bのそれぞれのY軸方向に沿った幅は、凹部191のY軸方向に沿った幅よりも小さい。凹部192aと凹部192bとは、例えば、B1−B2線を基準に線対称になっている。
【0053】
凹部192aと凹部192bとは、B1−B2線を基準に非線対称に配置されてもよい。例えば、凹部192a及び凹部192bの断面形状が異なってもよく、凹部192a及び凹部192bのそれぞれの曲率が異なってもよく、凹部192a及び凹部192bの断面形状が同じで、それぞれの凹部191中心からの距離が異なってもよい。本実施形態の図では、一例として、凹部192aと凹部192bとがB1−B2線を基準に線対称になった構成が例示されている。
【0054】
例えば、凹部192a、192bのそれぞれの内面192aw、192bwは、凹部192a、192bの深さ方向に凸の曲面となるように構成されている。例えば、内面192aw、192bwのY−Z軸平面における曲率R(半径)は、4mm以上6mm以下である。内面192aw、192bwのY−Z軸平面における曲率R(半径)は、互いに同じでもよく異なってもよい。また、内面191aw、191bwと、X軸方向とがなす角は、角度θ
1(°)と同じでもよく異なってもよい。内面191awとX軸方向とがなす角と、191bwとX軸方向とがなす角とは、同じでもよく異なってもよい。
【0055】
凹部191の内面191wは、凹部192aの内面192awと、凹部192bの内面とに192bwに連設されている。ここで、Y−Z平面における内面191wと内壁上部142wuとの間の幅Wは、6mm以上に設定されている。Y−Z平面における内面191wと内壁上部142wuとの間の幅Wが6mmより狭いと、凹部191の内面191wに沿って流れる潤滑油180が凹部192a、192bによって止められなくなり好ましくない。
【0056】
さらに、凹部191の内面191wと、凹部192aの内面192awとの境界において、内面191wと内面192awとがなす角θ
21(°)は、90°以下に設定されている。また、凹部191の内面191wと、凹部192bの内面192bwとの境界において、内面191wと内面192bwとがなす角θ
22(°)は、90°以下に設定されている。角度θ
21、θ
22のそれぞれが90°より大きいと、角度θ
21、θ
22が鈍角になり、凹部191の内面191wに沿って流れる潤滑油180が凹部192a、192bによって止められなくなり好ましくない。
【0057】
(軸受部材161、162の周辺の構成)
【0058】
図4(a)は、真空ポンプの軸受部材の周辺を示す概略斜視図である。
図4(a)には、
図1(a)のC1−C2線に沿った断面が示されている。
図4(b)は、ハウジングに設けられた凹部を透視する概略上面図である。
図4(b)には、ハウジング142に設けられた凹部191、192a、192bが上面から透視された状態が描かれている。
【0059】
図4(a)に示すように、軸受部材161の上方には、スリット状の供給口165が設けられ、軸受部材162の上方には、スリット状の供給口166が設けられる。
【0060】
例えば、潤滑油180が供給口165の上方から供給口165に滴下された場合は、潤滑油180は、自重によって供給口165を介して軸受部材161に到達する。この後、潤滑油180は、軸受部材161を浸漬し、さらに軸受部材161の下方に配置された戻り口167を介して空間部S1に戻される。
【0061】
同様に、潤滑油180が供給口166の上方から供給口166に滴下された場合は、潤滑油180は、自重によって供給口166を介して軸受部材162に到達し、軸受部材162を浸漬した後、軸受部材162の下方に配置された戻り口(図示しない)を介して空間部S1に戻される。
【0062】
また、
図4(b)に示すように、凹部191と凹部192aとによって構成される角部192acの一部は、供給口165の直上に位置し、凹部191と凹部192bとによって構成される角部192bcの一部は、供給口166の直上に位置している。例えは、角部192ac、192bcが最も低くなる部分が供給口165、166の直上に位置する。また、X軸方向における潤滑油掻揚プレート170と凹部191の端との間の距離d2は、潤滑油掻揚プレート170の厚みよりも長い。これにより、内面191に、潤滑油掻揚プレート170によって掻き揚げられる潤滑油180が効率よく当たることになる。
【0064】
図5(a)〜
図6は、真空ポンプの動作を示す模式断面図である。
図5(a)〜
図6には、潤滑油180が移動する方向が模式的に矢印で示されている。
【0065】
図5(a)に示すように、潤滑油掻揚プレート170が回転すると、潤滑油180が切り欠き部171によって油面180sから持ち上げられ、潤滑油180が所定の運動エネルギーを持ったまま、空間部S1の上方に向けて飛散する。また、潤滑油180は、所定の粘性を有するとともに、ハウジング142を構成する金属材料に対して所定の濡れ性を有する。このため、空間部S1の内壁(内壁上部142wu、内壁下部142wd)には、潤滑油180による油膜が形成され、油膜表面(油膜が空間部S1に対向する面)は、入射する油滴の運動エネルギー、油膜表面の表面張力、及び油膜の自重による位置エネルギーが調和された形状を保持する。そして、空間部S1の内壁に付着した潤滑油180は、油膜表面の表面張力を保ちつつ、油膜の位置エネルギーを駆動力として、空間部S1の内壁に沿って下方へ流れ落ちる。
【0066】
例えば、内壁上部142wuに付着した後の潤滑油180の移動について、Y−Z軸平面と、X−Z軸平面とに分けて説明する。本実施形態では、潤滑油180がY−Z軸平面において移動し、さらにX−Z軸平面においても移動する。
【0067】
まず、Y−Z軸平面における潤滑油180の移動について説明する。
図5(b)には、Y−Z軸平面における空間部S1での潤滑油180の移動が示されている。
【0068】
空間部S1の上方に向けて絶えず飛散する潤滑油180の油滴は、例えば、潤滑油掻揚プレート170の遠心力と、潤滑油掻揚プレート170の回転方向に働く力とが合成された運動エネルギーを有する。このため、空間部S1の右側の内壁に付着した油膜は、上記の油滴から空間部S1の右側に移動する力(運動エネルギー)を受け、空間部S1の左側の内壁に付着した油膜は、上記の油滴から空間部S1の左側に移動する力を受ける。そして、潤滑油180は、上記の運動エネルギーを受けつつ、油膜表面の表面張力に支えられながら、その位置エネルギーが減少する方向に動こうとする。
【0069】
従って、凹部192a、192bから下側の内壁上部142wu(空間部S1の横の部分)に当たった潤滑油180は、内壁上部142wuが曲面となって構成されていることから、即座に垂下せず、油膜表面の表面張力を保ちつつ、位置エネルギーが減少することにより、内壁上部142wuに沿って流れ落ちる。さらに、内壁上部142wu下の内壁上部142wdも曲面となって構成されていることから、潤滑油180は、内壁下部142wdに沿って流れ落ち、空間部S1の底部に再び戻る。
【0070】
一方、凹部192a、192bから上側の内壁上部142wu、すなわち凹部191に当たった潤滑油180のうち、凹部191の中心から右側に当たった潤滑油180は、油滴による運動エネルギーから空間部S1の右側に移動する力を受け、凹部191の中心から左側に当たった潤滑油180は、油滴による運動エネルギーから空間部S1の左側に移動する力を受ける。そして、凹部191の内面191wが上に凸の曲面で構成されていることから、潤滑油180は、油膜表面の表面張力を保ちつつ、自らの位置エネルギーを減少させながら、内面191wから即座に垂下せず、内面191wに沿って凹部192aまたは凹部192bに向かって流れ落ちる。
【0071】
しかしながら、凹部191の内面191wが凹部192a、192bの存在によって途切れているため、潤滑油180は、続けて内壁上部142wuに沿って流れ下ることができず、潤滑油180の流れが凹部192a、192bで途切れる。
【0072】
例えば、内面191wと内壁上部142wuとは、凹部192a(または、凹部192b)の存在により、Z−Y平面では6mm以上の幅Wを隔てて配置され、内面191wと内面192awとがなす角θ
21(°)及び内面191wと内面192bwとがなす角θ
22(°)は、90°以下に設定されている。
【0073】
これにより、潤滑油180の粘度が温度上昇により極端に低くなった場合、または、潤滑油掻揚プレート170の回転数が速くなって内面191wに当たる潤滑油180の運動エネルギーが極端に高くなった場合でも、内面191wに付着した潤滑油180が凹部192a(または、凹部192b)を超えて、内壁上部142wuまで到達する現象が確実に防止される。
【0074】
例えば、内面191wと内壁上部142wuとのZ−Y平面における幅Wが6mmより狭い場合、または、角度θ
21、θ
22が90°よりも大きい場合には、内面191wに沿って、その自重によって、凹部192a、192bに集積した潤滑油180は、集積に拠る油膜の厚みの増大も起因の1つと想定されるが、油滴による運動エネルギーを受けることにより、油膜が間隙(凹部192a、192b)を超え、接続してしまい、内壁上部142wuまで移動可能となってしまう。従って、供給口165、166に供給する潤滑油180の量を稼ぐことができない。
【0075】
これに対し、本実施形態では、内面191wと内壁上部142wuとのZ−Y平面における幅Wが6mm以上に設定され、角度θ
21、θ
22を90°以下に設定されている。これにより、内面191wに沿って流れる潤滑油180は、凹部192a、192bによって、その流れが止められ、角部192acの手前、及び角部192abの手前で停止する。換言すれば、内面191wに沿って流れ下った潤滑油180は、角部192ac、192bc付近で捕捉される。
【0076】
特に、凹部192a、192bのそれぞれの内面192aw、192bwは、内面192aw、192bwのY−Z軸平面における曲率R(半径)が4mm以上6mm以下に設定されている。つまり、凹部192a、192bは、潤滑油180の流れを停止させる適切な深さを有する。
【0077】
例えば、内面191wに沿って流れ落ちる潤滑油180が連続体となって、内面192aw(または内面192bw)にまで流れたとき、内面192aw(または内面192bw)の曲率R(半径)が4mmよりも小さくなると、凹部192a(または凹部192b)の深さが8mm以下と浅く構成されていることから、潤滑油180は連続体を維持したまま、内面192aw(または内面192bw)にも沿って流れ、内壁上部142wu及び内壁下部142wdを経由して空間部S1の底部に到達してしまう。
【0078】
これに対し、本実施形態では、内面192aw、192bwが曲率R(半径)4mm以上6mm以下を有し、凹部192a、192bの深さが8mm以上12mm以下と深く構成されている。このため、潤滑油180が内面191wから運動エネルギーを保持したまま、内面192aw(または内面192bw)に跳ね上がろうとしても、跳ね上がる運動エネルギーと、凹部192a(または凹部192b)における潤滑油180の自重とが拮抗し、その跳ね上がりが止められる。すなわち、潤滑油180は、角部192ac、192bc付近で確実に捕捉される。
【0079】
特に、
図6に示すように、Z軸方向に沿った法線V1と、角部192acの凹部192a側の接線T1とがなす角θが0度より大きく構成されている。このため、内面191wに沿って流れ、凹部192aの内面192awを遡ろうとする潤滑油180の運動エネルギーと、自重によって凹部192aの内面192awに沿って流れ落ちる潤滑油180の運動エネルギーとが拮抗して、角部192ac付近で潤滑油180が捕捉される。
【0080】
さらに、本実施形態では、空間部S1において、潤滑油掻揚プレート170によって掻き揚げられる潤滑油180の量が左右によって異なる場合には、凹部192a及び凹部192bをB1−B2線を基準に非線対称に配置して、内面191wの左右に沿って流れる潤滑油180の量を均等に調整することも可能である。
【0081】
次に、X−Z軸平面における潤滑油180の移動について説明する。
図7(a)、(b)には、Y−Z軸平面における空間部S1での潤滑油180の移動が示されている。
図7(a)、(b)には、凹部192a、192bのうち、凹部192b側が示されているが、凹部192a側でも同様の現象が起こり得る。
【0082】
図7(a)に示すように、凹部192bの角部192bc付近で捕捉された潤滑油180は、凹部191が軸受部材162に向かって下り斜めに構成されているため、角部192bcの表面に沿って軸受部材162側に向かって流れ下る。すなわち、潤滑油180は、X軸方向において凹部191ないし凹部192bに沿って移動し、ハウジング142の供給口166上に導かれる。
【0083】
次に、供給口166上に到達した潤滑油180は、
図7(b)に示すように、自重によって供給口166に垂下し、軸受部材162を浸す。この後、潤滑油180は、軸受部材162下の戻り口168を経由して空間部S1の底部に戻される。
【0084】
真空ポンプ1では、この一連の潤滑油180の移動が繰り返され、軸受部材161、162に効率よく潤滑油180が供給される。
【0085】
ここで、
図8は、比較例に係る真空ポンプの動作を示す模式断面図である。
【0086】
比較例に係る真空ポンプ500の内壁上部142wuには、凹部191、192a、192bが形成されていない。このような真空ポンプ500では、潤滑油掻揚プレート170によって掻き揚げられた潤滑油180が内壁上部142wuに当たると、油面180sに対向する内壁上部142wuが平坦であるために、潤滑油180が内壁上部142wuに濡れ広がるよりも、表面張力が優勢となって自重により落下しやすくなる。これにより、潤滑油180は、内壁上部142wuに沿って移動せず、平坦部分142wpから即座に空間部S1の底部に垂下する。
【0087】
従って、比較例では、供給口165、166上に到達する潤滑油180の量が減り、軸受部材161、162に潤滑油180を供給する効率が低下する。
【0088】
これに対して、本実施形態に係る真空ポンプ1では、ハウジング142の内壁上部142wuに潤滑油180を供給口165、166上まで移動させる凹部190(凹部191、192a、192b)が設けられている。これにより、潤滑油掻揚プレート170によって掻き揚げられた潤滑油180は、内壁上部142wuに当たった後、凹部190を介して供給口165、166上に効率よく導かれる。この結果、真空ポンプ1では、軸受部材161、162に効率よく潤滑油180が供給される。
【0089】
特に、真空ポンプ1では、潤滑油180を供給口165、166上に導く部材(例えば、オイルガイド部材)を供給口165、166上に取り付ける必要がなくなり、ハウジング142に設けた簡便な機構(凹部190)によって効率よく潤滑油180を軸受部材161、162に供給することができる。
【0090】
また、潤滑油180が効率よく軸受部材161、162に供給されることから、潤滑油180による軸受部材161、162の冷却効果が増す。
【0091】
また、ハウジング142は、専用の型を用いれば、鋳込みによって一体物として形成することができる。専用の型を用いれば、凹部190を形成することに関し、複雑な加工を要しない。すなわち、ハウジング142は、簡便に形成され得る。
【0092】
(凹部191、192a、192bの変形例)
【0093】
図9(a)及び
図9(b)は、凹部の変形例を示す概略断面図である。
【0094】
凹部191の内面191wは、深さ方向に凸の多角面で構成されてもよい。例えば、
図9(a)に示す真空ポンプ2の例では、Y−Z軸平面における内面191wの断面形状が三角形状になっている。このような構成でも、凹部191の内面191wが下り傾斜となって構成されていることから、潤滑油180は、内面191wから即座に垂下せず、内面191wに沿って流れ落ちる。潤滑油180は、この後、供給口165、166の上方に移動する。
【0095】
また、凹部192a、192bの内面192aw、192bwは、深さ方向に凸の多角面で構成されてもよい。例えば、
図9(b)に示す真空ポンプ3の例では、Y−Z軸平面における内面192aw、192bwの断面形状が矩形状になっている。このような構成でも、角度θ
21、θ
22が90°以下になり、凹部191の内面191wに沿って流れる潤滑油180が角部192ac、192bc付近で捕捉されることになる。
【0096】
図10は、凹部の変形例を示す概略断面図である。
【0097】
図10に示す凹部192aは、潤滑油180を捕捉する捕捉部192tを有する。捕捉部192tは、凹部192aと同様に供給口165に向かって下がるように傾斜する。これにより、凹部191の内面191wに沿って流れる潤滑油180が凹部192aの内面192awに遡り、上部内壁142wuに流れようとしても、潤滑油180が捕捉部192tによって捕捉される。これにより、供給口165に供給できる潤滑油180の量がささらに増加する。このような加工は、ハウジング142が鋳物で構成されていることから、簡便に成し得る。凹部192bにおいても同じ機能を有する捕捉部192tが設けられてよい。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合させることができる。
【解決手段】真空ポンプは、第1ハウジングと、第2ハウジングと、ロータ軸と、潤滑油掻揚プレートと、軸受部材とを具備する。上記第2ハウジングは、上記第1ハウジングに取り付けれ、上記第1ハウジングとともに潤滑油を貯留する空間部を形成する。上記ロータ軸は、上記第1ハウジングを貫通する。上記潤滑油掻揚プレートは、上記空間部に収容され、上記ロータ軸に取り付けられる。上記軸受部材は、上記第1ハウジングに固定され、上記ロータ軸を回転可能に支持する。上記第1ハウジングには、上記軸受部材に上記潤滑油を供給することが可能な供給口が設けられている。上記第2ハウジングは、上記潤滑油掻揚プレートによって掻き揚げられた上記潤滑油が当たる内壁上部を有する。上記第2ハウジングは、上記内壁上部には上記潤滑油を上記供給口上まで移動させることが可能な凹部が設けられている。