特許第6473322号(P6473322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6473322硬化性樹脂組成物、ディスペンス用ダイアタッチ材、および半導体装置
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  • 特許6473322-硬化性樹脂組成物、ディスペンス用ダイアタッチ材、および半導体装置 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473322
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、ディスペンス用ダイアタッチ材、および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20190207BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20190207BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20190207BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08K3/22
   C08K5/521
   H01L21/52 E
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-236178(P2014-236178)
(22)【出願日】2014年11月21日
(65)【公開番号】特開2016-98312(P2016-98312A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148219
【弁理士】
【氏名又は名称】渡會 祐介
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 淳
(72)【発明者】
【氏名】水村 宜司
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−077172(JP,A)
【文献】 特開2009−231250(JP,A)
【文献】 特開2012−072305(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/102589(WO,A1)
【文献】 特開2005−038821(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/118091(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00 −63/10
C08K 3/22
C08K 5/521
H01L 21/52
C08G 59/00 −59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)粒度分布において、最頻粒径が0.1〜10μmであり、アルミナを含む無機充填材、および(C)一般式(1):
【化4】
(式中、Rは、同一でも異なってもよく、C2q+1−CHO−(CHCHO)−CHCHO−であり、pは8〜10、qは12〜16、xは1〜3の整数である)で示されるリン酸エステル基を有する分散剤を含み、(B)成分が、粒度分布において、0.1μm以上1μm未満と、1μm以上10μm以下の範囲内に、それぞれ頻度極大ピークを有し、硬化性樹脂組成物(溶剤を除く):100質量部に対して、(A)成分が1.5〜15質量部であり、(B)成分が、70〜90質量部であることを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(C)成分が、硬化性樹脂組成物100質量部(溶剤を除く)に対して、0.5〜5質量部である、請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
揺変指数が、3〜6である、請求項1または2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
回転式粘度計で、25℃、5rpmでの粘度が、10〜40Pa・sである、請求項1〜のいずれか1項記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項記載の硬化性樹脂組成物を用いる、ディスペンス用ダイアタッチ材。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項記載の硬化性樹脂組成物の硬化体を有する、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、ディスペンス用ダイアタッチ材、および半導体装置に関し、特に、放熱性に優れ、信頼性の高い半導体装置を形成可能な硬化性樹脂組成物、およびディスペンス用ダイアタッチ材、ならびにこのディスペンス用ダイアタッチ材により製造される半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板とダイ、またはダイ同士を接着・接続するために、ダイアタッチ材が用いられている。近年、このダイアタッチ材には、放熱性の観点から、高熱伝導性が求められている。一般に、高熱伝導性を達成するためには、フィラーを高密度に充填することが行われる。しかし、フィラーを高密度に充填すると、ダイアタッチ材の粘度が高くなり、ディスペンスでの作業性が低下する、という問題が生じてしまう。
【0003】
ディスペンスでの作業性を良くするためには、ダイアタッチ材が、低粘度、高揺変指数であることが望ましい。一方、ダイアタッチ材が低粘度になると、フィラーは沈降し易くなり、均一な組成物が得られなくなる。
【0004】
熱伝導性無機粉末を多量に含有させても、粘度が低く、流動性に優れる硬化性組成物が開示されている(特許文献1)。この硬化性組成物は、所望の場所(被適用物)又は型に注入し、加熱硬化させる(特許文献1の第0075段落)ことを想定しているため、ディスペンス用途や、揺変指数について考慮されていない。本願発明の発明者らが、この特許文献の実施例に記載されているビックケミー製分散剤(商品名:DISPERBYK−111)を使用して硬化性組成物を作製したが、作製した硬化性組成物の揺変指数が低くなってしまい、ディスペンス時に硬化性組成物の切れが悪い、隣のパターンまで糸を引いてしまう、パターンがだれる等の問題がある。
【0005】
また、一般式(1)で示されるリン酸エステル基を有する分散剤を使用する樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。しかし、この樹脂組成物では、スクリーン印刷を考慮しているため(特許文献2の第0005段落)、エポキシ樹脂を使用せずに(特許文献2の第0003、0005段落)、アクリルモノマーやスチレンモノマーを使用して粘度を低下させており(特許文献2の第0030、0031段落)、揺変指数(チキソトロピー値)が低く、上述のようなディスペンス時の問題に加えて、ボイドが発生しやすく、さらに、硬化物の耐熱性や耐水性が悪くなる、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−133454号公報
【特許文献2】特開2011−132367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低粘度でありながら、揺変指数が高く、硬化後に熱伝導率が高い硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。この硬化性樹脂組成物は、基板とダイ、またはダイ同士を接着・接続するダイアタッチ材、発熱材と放熱材とを接続する放熱材料(Thermal Interface Material:TIM)として好適に用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決した硬化性樹脂組成物、ディスペンス用ダイアタッチ材、および半導体装置に関する。
〔1〕(A)エポキシ樹脂、(B)粒度分布において、最頻粒径が0.1〜10μmである無機充填材、および(C)一般式(1):
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Rは、同一でも異なってもよく、C2q+1−CHO−(CHCHO)−CHCHO−であり、pは8〜10、qは12〜16、xは1〜3の整数である)で示されるリン酸エステル基を有する分散剤を含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
〔2〕(C)成分が、硬化性樹脂組成物100質量部に対して、0.5〜5質量部である、上記〔1〕記載の硬化性樹脂組成物。
〔3〕(B)成分が、粒度分布において、0.1μm以上1μm未満と、1μm以上10μm以下の範囲内に、それぞれ頻度極大ピークを有する、上記〔1〕または〔2〕記載の硬化性樹脂組成物。
〔4〕(B)成分が、アルミナを含む、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の硬化性樹脂組成物。
〔5〕(B)成分が、硬化性樹脂組成物100質量部に対して、70〜90質量部である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の硬化性樹脂組成物。
〔6〕揺変指数が、3〜6である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の硬化性樹脂組成物。
〔7〕回転式粘度計で、25℃、5rpmでの粘度が、10〜40Pa・sである、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか記載の硬化性樹脂組成物。
〔8〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれか記載の硬化性樹脂組成物を用いる、ディスペンス用ダイアタッチ材。
〔9〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれか記載の硬化性樹脂組成物の硬化体を有する、半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明〔1〕によれば、低粘度でありながら、揺変指数が高く、硬化後に熱伝導率が高い硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0012】
本発明〔8〕によれば、低粘度でありながら、揺変指数が高く、硬化後に熱伝導率が高い硬化性樹脂組成物を用いる、ディスペンス用ダイアタッチ材を提供することができる。本発明〔9〕によれば、熱伝導性が高いディスペンス用ダイアタッチ材の硬化体により、高信頼性の半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】掻き取り塗布の方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔硬化性樹脂組成物〕
本発明の硬化性樹脂組成物(以下、硬化性樹脂組成物という)は、(A)エポキシ樹脂、(B)粒度分布において、最頻粒径が0.1〜10μmである無機充填材、および(C)一般式(1):
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、Rは、同一でも異なってもよく、C2q+1−CHO−(CHCHO)−CHCHO−であり、pは8〜10、qは12〜16、xは1〜3の整数である)で示されるリン酸エステル基を有する分散剤を含むことを特徴とする。この硬化性樹脂組成物は、低粘度でありながら、高い揺変指数を有し、硬化後に熱伝導率が高い。これは、(C)成分が(B)成分である無機充填材表面に作用し、(B)成分である平均粒子径の小さいフィラー間で牽引力が生じ、フィラーが連続した構造を形成するためである、と考えられる。
【0017】
(A)成分であるエポキシ樹脂は、硬化性樹脂組成物に、接着性、硬化性を付与し、硬化後の硬化性樹脂組成物に、耐久性、耐熱性を付与する。(A)成分としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ベンゼン環を多数有した多官能型であるテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型又はトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ポリブタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ化ポリブタジエン)、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、シリコーンエポキシ樹脂等が挙げられる。ビスフェノールAエチレンオキシド付加物のジグリシジルエーテル、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエステル、p−キシリレングリコールと1−クロロ−2,3−エポキシプロパンの反応生成物等も使用することができる。
【0018】
中でも、硬化物の柔軟性確保の点からポリブタジエン型エポキシ樹脂が好ましく、また、組成物の粘度と硬化物の強度及び柔軟性確保の点から、25℃での粘度が3Pa・s以下である、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のジグリシジルエーテル(BPA−POタイプ)のエポキシ樹脂が好ましい。また、(A)成分であるエポキシ樹脂は、低粘度化の観点から、液状であることが好ましい。市販品としては、DIC製ビスフェノールA型/ビスフェノールF型混合型エポキシ樹脂(品名:EXA835LV)、モメンティブ・パフォーマンス製シロキサン系エポキシ樹脂(品名:TSL9906)、新日鉄住金化学製1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(品名:ZX1658GS)、ADEKA製エポキシ樹脂(品名:EP−4000S)、ADEKA製ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のジグリシジルエーテル(品名:BPA−PO4000S)等が挙げられる。(A)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0019】
(B)成分は、硬化後の硬化性樹脂組成物に、高熱伝導性を付与する。(B)成分は、粒度分布において、最頻粒径が0.1〜10μmであり、すなわち、0.1〜10μmの範囲内に少なくとも1つの頻度極大ピークを有する。(B)成分の最頻粒径が、0.1μm未満だと、硬化性樹脂組成物の粘度が上昇して、ディスペンス作業性が低下する。10μm超だと、硬化性樹脂組成物中での充填密度が低下し、硬化後の硬化性樹脂組成物の熱伝導率が低下してしまう。ここで、無機充填材の最頻粒径や頻度極大ピークは、平均粒径(粒状でない場合は、その平均最大径)を測定後、そのデータを解析することで得られる。平均粒径(粒状でない場合は、その平均最大径)は、レーザー回折法によって測定した体積基準のメジアン径をいい、例えば、レーザー散乱回析法粒度分布測定装置:LS13320(ベックマンコールター社製、湿式)により測定できる。
【0020】
(B)成分は、0.1μm以上1μm未満と、1μm以上10μm以下の範囲内に、それぞれ頻度極大ピークを有すると、硬化性樹脂組成物の低粘度化、硬化性樹脂組成物中での(B)成分の高密度充填化の観点から好ましい。0.1μm以上1μm未満の範囲内に頻度極大ピークを有する無機充填材と、1μm以上10μm以下の範囲内に頻度極大ピークを有する無機充填材の割合については、1μm以上10μm以下の範囲内に頻度極大ピークを有する無機充填材が、(B)成分100質量部に対して、60〜90質量部であると好ましく、65〜80質量部であると、より好ましい。この0.1μm以上1μm未満と、1μm以上10μm以下の範囲内に、それぞれ頻度極大ピークを有する無機充填材は、例えば、平均粒径が0.1μm以上1μm未満の無機充填材と、平均粒径が1μm以上10μm以下の無機充填材を混合して作製することができる。
【0021】
(B)成分は、硬化後の硬化性樹脂組成物の高熱伝導化の観点から、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素を含むと好ましく、硬化後の硬化性樹脂組成物中での耐湿性の観点から、アルミナを含むと、より好ましい。各材料の熱伝導率測定結果の一例としては(単位は、W/m・K)、Alは30、MgOは37、BNは30である。また、(B)成分が、シリカを含むと、シリカの添加量により硬化性樹脂組成物の揺変指数を制御することができ、ディスペンス用途での作業性向上の観点から、好ましい。(B)成分の市販品としては、昭和電工製アルミナ(Al)粉末(品名:CBP05)、電気化学工業製アルミナ(Al)粉末(品名:DAW−03、ASFP−20)、住友化学製アルミナ(Al)粉末(品名:AA−3)、堺化学工業製酸化マグネシウム粉末(品名:SMO−5、SMO−1、SMO−02、SMO−2)が挙げられる。(B)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0022】
(C)成分は、一般式(1):
【0023】
【化3】
【0024】
(式中、Rは、同一でも異なってもよく、C2q+1−CHO−(CHCHO)−CHCHO−であり、pは8〜10、qは12〜16、xは1〜3の整数である)で示されるリン酸エステル基を有する分散剤であり、硬化性樹脂組成物を高揺変指数にすることができる。(C)成分の市販品としては、楠本化成株式会社製ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル分散剤(一般式(1)において、p=約9、q=約13、x=約3のリン酸エステル基を有する分散剤、品名:ED151)が挙げられる。(C)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0025】
(A)成分は、硬化性樹脂組成物(溶剤を除く):100質量部に対して、1.5〜15質量部であると好ましく、2〜10質量部であると、より好ましい。
【0026】
(B)成分は、硬化性樹脂組成物の接着性、硬化後の硬化性樹脂組成物の熱膨張係数、絶縁性の観点から、硬化性樹脂組成物100質量部(溶剤を除く)に対して、70〜90質量部であると好ましく、80〜87質量部であると、より好ましい。
【0027】
(C)成分は、硬化性樹脂組成物100質量部(溶剤を除く)に対して、0.5〜5質量部であると好ましく、0.6〜2.5質量部であると、より好ましい。(C)成分が0.5質量部以上であると、硬化性樹脂組成物を高揺変指数にし易く、2.5質量部以下であると、硬化時のボイド発生を抑制し易い。
【0028】
硬化性樹脂組成物は、さらに、(D)硬化剤を含む、と好ましい。(D)成分としては、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、ヒドラジド化合物、ジシアンジアミド等を使用することができる。硬化性樹脂組成物の接着性の観点から、フェノール系硬化剤がより好ましく、また、硬化性樹脂組成物の流動性、接着性の観点から、酸無水物系硬化剤がより好ましい。硬化性樹脂組成物の保存安定性の観点からは、アミン系硬化剤のうちイミダゾール系硬化剤がより好ましい。接着性と保存安定性の観点からは、ジシアンジアミドがより好ましい。
【0029】
フェノール樹脂系硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として公知のフェノール樹脂を用いることができ、例えば、レゾール型又はノボラック型フェノール樹脂を用いることができ、アルキルレゾール型、アルキルノボラック型、アラルキルノボラック型のフェノール樹脂、キシレン樹脂、アリルフェノール樹脂等が挙げられる。数平均分子量としては、220〜1000であることが好ましく、220〜500がより好ましい。アルキルレゾール型又はアルキルノボラック型フェノール樹脂の場合、アルキル基としては、炭素数1〜18のものを用いることができ、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシルのような炭素数2〜10のものが好ましい。フェノール樹脂系硬化剤として市販されているものとしては、明和化成株式会社製フェノール樹脂系硬化剤(品名:MEH8005)等が挙げられる。
【0030】
酸無水物系硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として公知の酸無水物を用いることができ、無水フタル酸、無水マレイン酸、ドデセニル無水コハク酸、トリメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。酸無水物系硬化剤として市販されているものとしては、三菱化学株式会社製酸無水物系硬化剤(品名:YH307)等が挙げられる。
【0031】
アミン系硬化剤には、脂肪族アミン、芳香族アミンの他、イミダゾール類も包含される。
脂肪族アミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン等の脂肪族ポリアミン、イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン等の脂環式ポリアミン、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジン等のピペラジン型のポリアミンが挙げられる。芳香族アミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエート等の芳香族ポリアミン等が挙げられる。トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデンセン−7等の3級アミン等も使用することができる。
【0032】
また、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物も使用することができる。
【0033】
変性イミダゾール系硬化剤も使用することができ、エポキシ−イミダゾールアダクト系化合物やアクリレート−イミダゾールアダクト化合物が挙げられる。エポキシ−イミダゾールアダクト系化合物として市販されているものとしては、味の素ファインテクノ社製硬化剤(品名:アミキュアPN−23、アミキュアPN−40)、旭化成イーマテリアルズ社製硬化剤(品名:ノバキュアHX−3721)、富士化成工業社製硬化剤(品名:フジキュアFX−1000)等が挙げられる。また、アクリレート−イミダゾールアダクト系化合物として市販されているものとしては、例えば、ADEKA社製硬化剤(品名:EH2021)等が挙げられる。(D)成分は、これら品名に限定されるものではない。(D)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0034】
(D)成分は、硬化性樹脂組成物の保存安定性、硬化性の観点から、硬化性樹脂組成物(溶剤を除く):100質量部に対して、0.1〜10質量部であると好ましい。
【0035】
なお、硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル樹脂、ラジカル重合発生剤、カップリング剤、消泡剤等の添加剤や、有機溶剤を含むことができる。アクリル樹脂の市販品としては、共栄社化学株式会社製アクリル樹脂(品名:ライトエステルNP)、ラジカル重合発生剤の市販品としては、日油株式会社製ラジカル重合開始剤1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(品名:パーオクタO)が挙げられ、カップリング材の市販品としては、信越化学工業株式会社製3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(品名:KBM−403)が挙げられる。
【0036】
硬化性樹脂組成物の回転式粘度計で、25℃、5rpmでの粘度は、ディスペンス用途での作業性の観点から、10〜40Pa・sであると好ましい。ここで、硬化性樹脂組成物の粘度は、ブルックフィールド社製回転式粘度計HB―DVII+P(コーンプレート型、スピンドル:CP51)を用い、25℃、5rpmで測定する。
【0037】
硬化性樹脂組成物の揺変指数は、ディスペンス用途での作業性の観点から、3〜6であると好ましく、より好ましくは4〜6である。ここで、硬化性樹脂組成物の揺変指数は、粘度を、ブルックフィールド社製回転式粘度計HB―DVII+P(コーンプレート型、スピンドル:CP51)を用い、25℃で、0.5rpmと5rpmで測定し、〔(0.5rpmの粘度)/(5rpmの粘度)〕から求める。
【0038】
硬化後の硬化性樹脂組成物の熱伝導率は、接合されるダイ、基板等を含む半導体装置の放熱性の観点から、1W/m・K以上であると好ましく、2W/m・K以上であると、より好ましい。
【0039】
上述の硬化性樹脂組成物は、(A)〜(C)成分等を含む原料を、分散させることにより、硬化性樹脂組成物を得ることができる。これらの原料の分散の装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0040】
このように、本発明の硬化性樹脂組成物は、低粘度でありながら、適切な揺変指数を有するので、ディスペンス用ダイアタッチ材として最適である。
【0041】
〔半導体装置〕
本発明の半導体装置は、上述の硬化性樹脂組成物が硬化された硬化体を有する。熱伝導性に優れた硬化性樹脂組成物の硬化体により、高信頼性の半導体装置を提供することができる。半導体装置としては、ダイ(シリコンチップ等の半導体素子)、モジュール、電子部品などの発熱体と、基板などの受熱体とを、硬化性樹脂組成物の硬化物で接着したものや、発熱体からの熱を受熱した基板の熱と、この基板から更に受熱する放熱板などとを上述の硬化性樹脂組成物の硬化物で接着したものが、挙げられる。
【0042】
硬化性樹脂組成物をダイ、基板等に塗布する方法は、特に限定されないが、低粘度、高揺変指数である硬化性樹脂組成物の特性、生産性の観点から、ディスペンスが好ましい。
【0043】
硬化性樹脂組成物は、例えば、130〜180℃で、30〜120分間、熱硬化させて、被接着物を接着することができる。発熱体である被接着物と、受熱体である被接着物とを接着する場合、硬化した硬化性樹脂組成物は、発熱体である被接着物からの熱を受熱体である被接着物側へ逃がし、受熱体である被接着物側で放熱させる伝熱の役割を果たす。さらに、硬化した硬化性樹脂組成物は、発熱体である被接着物と受熱体である被接着物との間の熱膨張率の差に起因する応力を緩和する役割を果たす。
【実施例】
【0044】
本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。また、(B)成分の平均粒径は、レーザー散乱回析法粒度分布測定装置:LS13320(ベックマンコールター社製、湿式)で測定し、その結果から最頻粒径や頻度極大ピークを算出した。
【0045】
〔実施例1〜9、比較例1〜4〕
表1に示す配合で、(A)〜(D)成分等の原料を、3本ロールを用いて分散した後、真空撹拌を30分行い、硬化性樹脂組成物を作製した。
【0046】
〔硬化性樹脂組成物の評価方法〕
1.粘度の評価
作製した硬化性樹脂組成物の粘度を、ブルックフィールド社製回転式粘度計HB―DVII+P(コーンプレート型、スピンドル:CP51)を用い、25℃、5rpmで測定した。粘度が10〜40Pa・sの範囲に入るものが合格であり、それ以外は不合格である。表1に、結果を示す。
【0047】
2.揺変指数の評価
硬化性樹脂組成物の揺変指数は、粘度を、ブルックフィールド社製回転式粘度計HB―DVII+P(コーンプレート型、スピンドル:CP51)を用い、25℃で、0.5rpmと5rpmで測定し、〔(0.5rpmの粘度)/(5rpmの粘度)〕から求めた。揺変指数が3〜6の範囲に入るものが合格であり、それ以外は不合格である。表1に、結果を示す。
【0048】
3.熱伝導率の評価
硬化性樹脂組成物を、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを貼り付けたガラス板上に、乾燥後の膜厚が200〜400μmになるように掻き取り塗布した。図1に、掻き取り塗布の方法を説明するための模式図を示す。まず、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを貼り付けたガラス板上に、適切な厚さとなるように、2列にスペーサーを重ねた後、粘着テープで貼付する(図1(A))。ポリテトラフルオロエチレンフィルムを貼り付けたガラス板上に、硬化性樹脂組成物を適量注ぐ(図1(B))。スライドガラスをスペーサー上に置き、硬化性樹脂組成物を掻き取って塗布する(図1(C)〜(E))。次に、塗布した硬化性樹脂組成物を、十分乾燥した後、得られた硬化性樹脂組成物のフィルムを、室温(25℃)から150℃まで30分で昇温し、150℃のオーブン中に30分間保持して硬化して、厚さ250μmのフィルム状の硬化物を作製した。このフィルム状の硬化物を、10×10mmに裁断し、熱伝導率測定用試験片を作製した。作製した熱伝導率測定用試験片の熱伝導率を、NETZSCH社製熱伝導率計(Xeフラッシュアナライザー、型番:LFA447Nanoflash)で測定した。表1に、結果を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1からわかるように、実施例1〜10の全てで、粘度と揺変指数が適正な範囲内であり、かつ熱伝導率が高かった。特に、(B)成分が、79.9質量部以上である実施例1〜7、9、10では、熱伝導率が2.0W/m・K以上と高かった。また、(C)成分が0.8質量部以上である実施例1、3〜10では、揺変指数が4.0以上と特に優れていた。これに対して、(C)成分を含有しない比較例1は、粘度が高く、揺変指数が低かった。(C)成分の代わりに、酸性リン酸基を有する分散剤を使用した比較例2と、アルキロールアンモニウム塩分散剤を使用した比較例3は、いずれも揺変指数が低かった。
【0051】
上記のように、本発明は、低粘度でありながら、揺変指数が高く、硬化後に熱伝導率が高い硬化性樹脂組成物を提供することができる。
図1