(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473483
(24)【登録日】2019年2月1日
(45)【発行日】2019年2月20日
(54)【発明の名称】壊食防止構造およびこれを用いたポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/16 20060101AFI20190207BHJP
F04D 29/42 20060101ALI20190207BHJP
F04D 29/44 20060101ALI20190207BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20190207BHJP
【FI】
F04D29/16
F04D29/42 F
F04D29/44 E
F04D29/66 B
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-157059(P2017-157059)
(22)【出願日】2017年8月16日
(62)【分割の表示】特願2013-59677(P2013-59677)の分割
【原出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-203462(P2017-203462A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-76215(P2012-76215)
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100137039
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 靖子
(72)【発明者】
【氏名】菊田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】能見 基彦
(72)【発明者】
【氏名】早房 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】中本 浩章
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典夫
(72)【発明者】
【氏名】石堂 徹
(72)【発明者】
【氏名】福田 清治
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 和久
(72)【発明者】
【氏名】片山 広樹
【審査官】
所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04867638(US,A)
【文献】
特開平06−299991(JP,A)
【文献】
特開平11−223391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/16
F04D 29/42
F04D 29/44
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用後のポンプへの壊食防止構造の施工方法であって、
前記ポンプは、第1のケーシング部と第2のケーシング部からなるケーシングと、前記第1のケーシング部と前記第2のケーシング部との間で回転自在に支持されている回転軸と、この回転軸に装着されたインペラと、を備え、前記第1のケーシング部及び前記第2のケーシング部が、それぞれ、前記ケーシング内部に吸込側流路と吐出側流路を隔てる隔壁を備える、両吸込渦巻きポンプであり、
前記隔壁の一部分であって前記インペラと摺動する部位の近傍を切削加工する工程と、
前記切削加工する工程の後、少なくとも前記吸込側流路の側における前記隔壁の表面に、複数層からなるFRPライニングを形成する工程と、
前記FRPライニングの一部を前記隔壁とケーシングライナとの間に挟み込むように、前記隔壁の切削加工後の面に前記ケーシングライナを取り外し可能に固定する工程と、
前記ケーシングライナの内側に、前記インペラと摺動する摺動ライナを設置する工程と、
を有する、壊食防止構造の施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の施工方法であって、前記切削加工する工程は、前記隔壁の前記インペラと摺動する部位の近傍を半円状に切削することを含む、施工方法。
【請求項3】
請求項1に記載の施工方法であって、前記ケーシングライナは複数の部材から形成される、施工方法。
【請求項4】
請求項3に記載の施工方法であって、前記ケーシングライナは半円形状を有する、施工方法。
【請求項5】
請求項1に記載の施工方法であって、前記ケーシングライナは、前記回転軸に沿う方向に延びる第1の部分と、前記第1の部分から、前記第1の部分に対して垂直方向に延びる
第2の部分と、を含む断面形状を有する、施工方法。
【請求項6】
請求項5に記載の施工方法であって、前記第2の部分は、前記第2の部分の先端部の厚さが徐々に小さくなるように形成される、施工方法。
【請求項7】
請求項1に記載の施工方法であって、前記FRPライニングを形成する工程は、前記FRPライニングの端面を前記隔壁の表面に対して斜めに形成することを含む、施工方法。
【請求項8】
請求項1に記載の施工方法であって、前記FRPライニングを形成する工程は、前記FRPライニングの少なくとも2つの層を異なる色の材料で形成することを含む、施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、壊食防止構造およびこれを用いたポンプに係り、特に、ポンプ内に生じるキャビテーションやジェット噴流による壊食を防止できる壊食防止構造およびこれを用いたポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ、特に、ポンプ全揚程が著しく高いポンプの場合、通常のポンプの連続運転範囲では、キャビテーションやジェット噴流(以下、「キャビテーション等」という)は発生せず問題とならないが、ポンプの起動および停止時にポンプ流路内にキャビテーション等が発生する場合がある。これは、ポンプの起動・停止時の少水量域での運転によるもので、羽根車に一旦入った水の一部が旋回を伴って高流速で逆流し、その逆流はジェット噴流となり羽根車入口部のケーシングまで到達する。このジェット噴流とキャビテーションとの複合的要因により、ポンプ羽根車入口付近の吸込ケーシングに壊食が発生すると考えられる。すなわち、
図9に示した「ポンプの始動時(締切運転)」における少水量域運転が壊食の原因となる。
【0003】
図12は、一般的な両吸込渦巻きポンプ101の例を示す断面図である。この
図12に示す渦巻きポンプ101は、上ケーシング103と、下ケーシング105と、これら両ケーシング103,105の中間に設置される回転軸107と、当該回転軸107に設けられるインペラ109とを備えている。そして両ケーシング103,105内には、インペラ109の前後に吸込側流路111と吐出側流路113とが形成されている。
【0004】
図13は、
図12の領域Aにおける拡大図を示す。この拡大図において、下ケーシング105の隔壁115の端部には摺動ライナ119が設けられ、一方インペラ109の端部にはインペラリング110が設けられている。そして、摺動ライナ119は隔壁115に固定されており、インペラリングはインペラと一体的に回転するため、摺動ライナとインペラリングとの間の隙間が摺動部となっている。この摺動部は、液体の逆流を防止するために狭く設定されているが、上述したポンプの起動・停止時に液体の逆流が発生する場所である。液体の逆流によるジェット噴流が発生すると、この摺動部付近の吸込側流路で急激な圧力低下が起こり、キャビテーション等が発生する。キャビテーション等が発生すると、最悪の場合、
図13(B)に示すように、摺動ライナ119と隔壁115の一部が損傷を受ける。
【0005】
上記のような渦巻きポンプ101のキャビテーション等による壊食防止対策としては、キャビテーション等が発生しやすい場所への塗装や、ポンプケーシング自体の交換等の手法が実用的に用いられてきた。
【0006】
また、
図14(
図12における領域Bの拡大図)は、キャビテーション等による壊食対策を施した従来のポンプを示す図である。この図に示すように、ケーシング156の端部(図では下端)にライナリング155を装着すると共に、吸入側流路161内のケーシング端部近傍に、リング状の入口部材157が装着されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭61−19697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前者の従来手法は、対症療法的な対策であって、塗装には経年劣化があることから定期的な塗装が必要となるため、ランニングコストの観点から、必ずしも得策とは言うことはできない。一方、ポンプケーシング交換は、壊食防止の効果は最も高いが、コスト面では顕著に高くなるため、この手法も長期的なランニングコストの観点から有利とは言い難い。
【0009】
また、後者の手法に関しては、入口部材の付加によりここを流れる液体の流れ特性を変化させてしまうことが考えられる。すなわち、
図14の入口部材157は、ケーシングの表面等に装着されるものであり、図から明らかなように、ケーシングの表面と入口部材157(図における上端部)との間に段差がある。当該入口部材157が装着される領域はキャビテーション等が発生しやすい部位であるので、液体の流れ特性を変化させる可能性のある部材を装着することは、更にキャビテーション等の発生を増大させてしまうことが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ポンプ内で壊食が進行しても迅速に初期状態に戻すことができる壊食防止構造を提供することを目的とし、その目的達成のために、ケーシングと、このケーシングによって回転自在に支持されている回転軸と、この回転軸に装着されたインペラと、前記ケーシング内部に形成される液体流路とを備えるポンプに用いられる壊食防止構造であって、前記ケーシングの一部分であって前記インペラと摺動する部位の近傍に、少なくとも2つの部材からなるライナを設け、前記ライナは、ケーシングに接合されるケーシングライナと、このケーシングライナに接合されて前記インペラと摺動する摺動ライナとからなり、前記ケーシングの表面とケーシングライナあるいは摺動ライナとの間に段差が形成されないようにした、という構成を採っている。
【0011】
以上のように、ライナを特殊な二重構造としたことで、本願発明は以下のように作用する。すなわち、ケーシングライナはキャビテーション等が発生しやすい部位に設置されるものであり、仮に壊食が発生した場合でも、容易に交換して初期形状に復元することが可能である。それと同時に、摺動ライナをケーシングライナとは別個に設けていることから、ケーシングライナの材料とは異なり摺動特性に優れた材料を選択することが可能となる。これは、ライナを特殊な二重構造としたことにより得られる効果である。また、ケーシングの表面とケーシングライナ又は摺動ライナとの間には、段差が形成されないため、液体の流れ特性を新品時の滑らかな状態に戻すことができる。
【0012】
また、他の手段として、使用後のポンプへの壊食防止構造の施工方法であって、前記ポンプは、ケーシングと、このケーシングによって回転自在に支持されている回転軸と、この回転軸に装着されたインペラと、前記ケーシング内部に形成される液体流路とを備えるものであり、前記ケーシングの一部分であって前記インペラと摺動する部位の近傍を切削加工し、前記ケーシングを初期形状に復元するための、少なくとも2つの部材からなるライナであり、ケーシングに接合されるケーシングライナと、このケーシングライナに接合されて前記インペラと摺動する摺動ライナからなるライナを前記切削加工された部位に固定する、という構成を採っている。
【0013】
上記構成を採ることで、既設のポンプ機場(以下「機場」という)の場合であっても、予めケーシングライナと摺動ライナを製作しておき、機場においてはケーシングの切削加工をするだけで、初期形状への復元が可能となる。このことは、ケーシング全体を交換する場合と比べて、作業量およびそれに伴うコストを著しく軽減でき、ポンプの耐用年数を飛躍的に延ばすことを可能にする。特に、運搬が困難或いは不可能な大型のポンプについて、大きなメリットを有する施工方法である。
【発明の効果】
【0014】
既設の機場においては、現地交換が可能な着脱式のケーシングライナをケーシングに装着することにより、ポンプの壊食を効果的に防止すると共に、壊食が進行した場合でも一部の構成部品の交換によって初期の形状に容易に復元することが可能である。
また、新設の機場の場合であっても、予めケーシングライナ(
図8参照)を装備することで、壊食が発生した場合でも、迅速に修理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本願発明の一実施形態に係る壊食防止構造を具備するポンプの全体断面図である。
【
図3】
図1に開示した実施形態において、ケーシングにケーシングライナが装着された状態を示す写真であり、
図3(A)は隔壁の方向に沿って見た状態であり、
図3(B)は隔壁の側方から見た図である。
【
図4】
図3の関連写真であり、隔壁における壊食が発生した部位を示す写真である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る壊食防止構造の施工方法を説明する概念図であり、
図5(A)は壊食が進行したケーシングを示し、
図5(B)は壊食部分を切削加工により切除した状態を示し、
図5(C)は切削加工した部位にケーシングライナを装着した状態を示し、
図5(D)は、ケーシングライナの内側に摺動ライナを配置した状態を示す図である。
【
図6】ケーシングライナの変形例を示す図であり、
図6(A)は4分割の例である。
【
図7】ケーシングの一部表面に壊食対策のFRPライニングを被覆した図を示し、
図7(A)はFRPライニングの一部がケーシングとケーシングライナの間に挟まれている状態の断面図であり、
図7(B)はFRPライニングの断面構造を示す概略図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る壊食防止構造を示す断面図である。
【
図9】各運転範囲とキャビテーションとの関係を説明する概略図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る壊食防止構造であって、形状を改良したケーシングライナと摺動ライナを示す断面図である。
【
図11】
図10に開示したケーシングライナを2分割した例を示す断面図である。
【
図13】
図12に開示したポンプの領域Aの拡大断面図であり、
図13(A)は新品当時の状態を示し、
図13(B)は壊食後の状態を示す。
【
図14】
図12に開示したポンプの領域Bの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照しながら、本願発明の一実施形態について説明する。
【0017】
[全体概要]
図1は、本実施形態のポンプ1の全体概要を示す断面図である。このポンプ1は、両吸込渦巻きポンプと呼ばれる形式のものである。ポンプ1は、上ケーシング3と、下ケーシング5と、これら両ケーシング3,5の間に設置される回転軸7と、当該回転軸7に設けられるインペラ9とを備えている。そして両ケーシング3,5内には、インペラ9の前後に吸込側流路11と吐出側流路13とが形成されている。
【0018】
[ケーシング]
本実施形態のケーシングは、吐出側流路13を中心として両側から液体を吸い込む形式の両吸込渦巻きポンプである。このため、吸込側流路11と吐出側流路13を隔てる隔壁
15が設けられている。本実施形態が着目するのは、このケーシング3,5の隔壁15の端部であって、インペラ9と摺動する部位の近傍である。その摺動する部位を、
図1においては、領域Aとして示している。領域Aを重要視するのは、この領域でキャビテーション等が多く発生し、壊食が進行しやすいからである。
【0019】
[回転軸]
ポンプ1の回転軸7には、図示しない電動モータなどの原動機が係合されており、この原動機の駆動力によりインペラ9を回転させるようになっている。本実施形態のポンプ1では、回転軸7が水平方向に設けられているため、インペラ9は回転軸7の垂直方向に回転することとなる。ただし、本実施形態における水平方向の回転軸は一例であって、垂直方向やそれ以外の角度方向に設置してもよい。回転軸7は、軸封部7aを介して上ケーシング3と下ケーシング5の間に挟まれている。この軸受7aは、基本的にポンプ内部の吸込側流路11と外部環境との境界となっているため、内部の液体が漏れないようにシール構造(図示略)が設けられている。
【0020】
[インペラ]
インペラ9は、吸込側流路11に面している吸込側縁部9aと、吐出側流路13に面している吐出側縁部9bを具備している。本実施形態のポンプ1は両吸込渦巻きポンプであるので、吸込側縁部9aが図における左右にそれぞれ1つ(合計2つ)あり、吐出側縁部9bは1つ存在する。また、インペラ9の端部であって後述するライナリング19に接触する部位には、インペラリング10が装着されている。なお、本願発明は、両吸込渦巻きポンプにしか適用できないものではなく、片吸込渦巻きポンプのような構造にも適用可能である。
【0021】
[ケーシングライナと摺動ライナ]
図2は、
図1における領域Aを拡大した図である。この図に示すように、本実施形態に係るポンプでは、インペラ9とインペラライナ10については従来のものとほぼ同様ではあるが、ケーシング側の構造が異なっている。すなわち、摺動ライナ19と各ケーシング3,5の隔壁15の端部との間にケーシングライナ17を設けている点が特徴である。具体的な装着例は、
図3及び4の写真に示されている。これらの図では、下ケーシング5におけるインペラ9と摺動する部位の近傍に、半円形状のケーシングライナ17が設置されている。因みに、
図4から明らかであるが、下ケーシング5の隔壁15が多孔質状になっている。これは、摺動ライナ19の直近部であって、壊食が進行した跡であり、長期間にわたって使用された後の下ケーシング5である。
【0022】
吸込側流路11の摺動ライナ19の直近部は、キャビテーション等に起因するエネルギにより塗装剥離等が懸念される。このため、本実施形態のケーシングライナ17及び摺動ライナ19は、無塗装状態で使用できる材質として、耐壊食性能を有するステンレス鋼鋳鋼(18Cr8Niが好ましい)とした。ただし、少なくとも上及び下ケーシング3,5の材質であるねずみ鋳鉄(FC250)より耐壊食性の高い材料であれば、ステンレス鋼鋳鋼でなくともよい。なお、本実施形態のケーシングライナ17は、ネジ21を用いた固定手段によって各ケーシング3,5の隔壁15に固定されている。このため、取り外し及び交換が可能である。このように、簡単に取り外しおよび交換ができれば、点検や修復にかかるコストや手間を著しく低減することが可能となる。
【0023】
ケーシングライナ17とケーシング3,5の隔壁15との密着性を保つために、ケーシングライナ17とケーシング3,5の隔壁15とは凹凸加工により、接合面積を大きくする構造とすることが好ましい。本実施形態では、
図2に示すように、ケーシングライナ17の外周面に凸形状が形成されており、一方、ケーシングの隔壁15の厚さ方向の略中央部に凹形状が形成されている。また、ケーシングライナ17と摺動ライナ19との接合面
についても、上記と同様に凹凸加工することが好ましい。本実施形態では、摺動ライナ19の外周面の左端と右側中間領域に凸形状が形成され、ケーシングライナ17の内周面がこれらの凸形状に合致するように形成されている。
【0024】
更に、本実施形態では、ケーシングライナ17の強度が低下しないように、上記凸形状を工夫している。すなわち、
図2に示すように、隔壁15とケーシングライナ17との間の凹凸形状と、ケーシングライナ17と摺動ライナ19との間の凹凸形状を、隔壁15の幅方向に沿って位置をずらして設けることが良い。ただし、これは本願発明に必須な要件ではなく、ケーシングライナ17や摺動ライナ19に長期間にわたる十分な強度が確保されるものであれば、凹凸の位置は注意する必要はない。また、ケーシングライナ17や摺動ライナ19の固定は、特にネジに限定されるものではなく、圧入や焼嵌めなどの手法を用いてもよい。
【0025】
[施工方法]
次に、本実施形態に係る壊食防止構造の施工方法について説明する。
図5は、施工方法を説明する概略図である。
図5(A)は、長期間にわたって使用されたポンプの下ケーシング5の一部を示す図であり、特にインペラと摺動する部位の近傍を示している(
図3に相当)。インペラとの摺動部近傍は、キャビテーション等に起因する壊食によって、所定範囲(点線で示した部分)において、表面に損傷が生じている。そこで、切削加工により、下ケーシング5の隔壁15の摺動部近傍を半円状に切削する(
図5(B))。
【0026】
次に、下ケーシング5の摺動部近傍のうち、インペラと対向する半円状の面にネジ穴(図示略)を形成する。その上で、半円形状に加工されたケーシングライナ17をネジ(図示略)によって切削加工後の面に固定する(
図5(C))。そして、最終的には、摺動ライナ19がケーシングライナ17の更に内側に設置される(
図5(D))。なお、隔壁15の切削加工は、強度保持の観点から最小限の範囲にとどめておくことが望ましい。
【0027】
以上のように、本実施形態に係る壊食防止構造では、ケーシングライナは工場などで製作するものの、施工の大部分は既設機場において行えるため、移動が困難あるいは不可能な大型のポンプについても適用することが可能である。また、
図2に示すように、本願発明の壊食防止構造では、初期形状から形を変えずに、隔壁15と摺動ライナ19との間にケーシングライナ17を設置している。ここでいう初期形状とは、隔壁15と摺動ライナ19とによって形成される、新品時のケーシングの外形である。このため、壊食防止構造の施工後であっても、液体の流れ特性に影響を与えることはない。
【0028】
また、上記実施形態では、ケーシングライナは半円形状のものを説明した。しかしながら、本願発明はこれに限定されるものではない。例えば、
図6(A)に示すように、ケーシングライナ17を1/4部分円形状の4つの部材から形成してもよい。
【0029】
図7は、
図2に示されたケーシング3,5の隔壁15の表面に、FRPライニング23を形成した構造を示す図である。
図7(A)に示すように、FRPライニング23は、隔壁15の表面のうち吸込側流路11側の表面に被覆されている。FRPライニング23の具体的な構成は
図7(B)に示されており、隔壁15の表面に下地処理(Sa2
1/2のサ
ンドブラスト処理)を施した後に、下地処理層22上へ下から順に#6Rプライマー、ガラスフレーク、第1ガラスマット、第2ガラスマット、サーフェスマット、トップコート#6Rの6層を被覆したものである。また、
図7(A)に示すように、FRPライニング23の少なくとも一部を、隔壁15とケーシングリング17の間に挟み込むように構成することで、FRPライニング23の剥離を防止することが可能となる。加えて、FRPライニング23の各層は異なる色の材料から構成されていることが望ましい。なぜなら、壊食が進行した場合に、各層の厚さと色の対応関係が分かっていれば、ポンプを分解したと
きに目視でFRPライニング23の劣化度合いを確認することが可能だからである。
【0030】
隔壁15の表面に形成された上述のFRPライニングは、隔壁15のうち、吸込側流路11側の表面に被覆されているが、新設の機場で予め壊食箇所(部位)が想定できる場合においては、FRPライニングではなく、
図8に示すように、第2のケーシングライナ67をネジ68で取り付ける構造としてもよい。第2のケーシングライナ67の取り付け構造は、ネジ止めや焼嵌め、圧入など、第1の実施形態と同様の手法を用いることが可能である。この第2のケーシングライナ67は、
図8に示すように、損傷の程度に応じて現地で交換可能なように、二重構造としてもよい。因みに、本実施形態に係る第2のケーシングライナ67は、二重構造のケーシングライナが上下に2組に分割されており、結果として、4つのケーシングライナ部材67a、67b、67c、67dから構成されている。このため、壊食の進行に応じて、特定のケーシングライナだけを交換することも可能である。また、当該部位は、上述の第2のケーシングライナ67の他、摺動ライナ19とケーシングライナ17を組み合わせて構成されている。このため、何れかの部材で壊食が進行した場合にも、その部材だけを交換することも可能である。
【0031】
また、第2のケーシングライナ67は、初期の表面と同一面となるように、ケーシング内に埋め込むように設置することが望ましい。こうすることで、従来技術で見られた段差による影響を無くし、流路内の流れ特性を変化させることがない。
【0032】
図10は、
図7(A)に示すケーシングに改良を加えた構造を示す断面図である。隔壁15とFRPライニング23の構造は
図7(A)のものと同じであるが、ケーシングライナ17Aの断面形状が異なっている。すなわち、ケーシングライナ17Aは吸込側流路11の側に張り出し、その張り出した部分が垂直下方に向かって延びている。これにより、ケーシングライナ17Aの断面形状は、全体として水平部分と垂直部分からなるL字型形状となっている。但し、水平部分と垂直部分は一体的に構成されており、別部材から構成されているものではない。
【0033】
ケーシングライナ17Aは、水平部分に形成された貫通穴にボルト20が通され、このボルト20によって隔壁15に固定されるようになっている。このため、
図10に示すように、ケーシングライナ17Aが、FRPライニング23が施された隔壁15の角の部分を覆うようにされている。このように構成することにより、摺動ライナ19Aに沿って逆流してきたジェット噴流による隔壁15の角のFRPライニング23への直撃を防ぎ、当該部位の損傷を未然に防ぐことができる。なお、本実施形態に係るケーシングライナ17Aは、垂直部分の下端部の厚さが除々に薄くなるように形成され、ケーシングライナ17Aの外表面がFRPライニング23の外表面と滑らかに接続されるようになっている。
【0034】
図10に示された摺動ライナ19Aも、その断面形状が
図7に示された摺動ライナ19のそれとは異なっている。すなわち、摺動ライナ19Aの一部が、ケーシングライナ17Aと同様に吸込側流路11の側に張り出すと共に、その張り出した部分が垂直上方に延びている。そして、この垂直上方に延びた部分は更にインペラ9に覆い被さるように湾曲している。このため、摺動ライナ19Aとインペラ9との摺動部から吹き出すジェット噴流は、摺動ライナ19Aの湾曲部に沿って曲げられ、吸込側流路11に向かう速度成分が弱められる。この結果、隔壁15の角部の壊食を更に抑制することが可能となる。なお、ケーシングライナ17Aと摺動ライナ19Aとの接合面には所定の凹凸形状が形成され、接合強度を向上させている。
【0035】
図11は、
図10に示すケーシングライナ17Aを更に改良したケーシングライナ18Aを示した断面図である。このケーシングライナ18Aは、水平部分18A1と垂直部分18A2からなる二分割構造が特徴である。このように二分割構造にするのは、壊食の程
度に応じてそれぞれの部分を個別に現地で交換することを可能にするためである。特に、垂直部分18A2は摺動ライナ19Aを取り外さずに交換することが可能であるので、現地での作業効率が向上する。それぞれ水平部分18A1と垂直部分18A2とは、別個のボルト20aと20bによって固定される。但し、固定構造はボルトに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本願発明は、液体を扱うポンプの壊食対策に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ポンプ
3 上ケーシング
5 下ケーシング
7 回転軸
9 インペラ
11 吸込側流路
13 吐出側流路
15 ケーシングの隔壁
17 ケーシングライナ
19 摺動ライナ
21 ネジ
23 FRPライニング
67 第2のケーシングライナ