特許第6473970号(P6473970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越半導体株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6473970-貼り合わせSOIウェーハの製造方法 図000003
  • 特許6473970-貼り合わせSOIウェーハの製造方法 図000004
  • 特許6473970-貼り合わせSOIウェーハの製造方法 図000005
  • 特許6473970-貼り合わせSOIウェーハの製造方法 図000006
  • 特許6473970-貼り合わせSOIウェーハの製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473970
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】貼り合わせSOIウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20190218BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20190218BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20190218BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   H01L27/12 B
   H01L21/324 X
   H01L21/02 B
   H01L21/265 Q
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-211730(P2015-211730)
(22)【出願日】2015年10月28日
(65)【公開番号】特開2017-84963(P2017-84963A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2017年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】横川 功
【審査官】 佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/009386(WO,A1)
【文献】 特開2012−129347(JP,A)
【文献】 特開2009−027124(JP,A)
【文献】 特開2007−317988(JP,A)
【文献】 特開平09−064321(JP,A)
【文献】 特開2006−270039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/265
H01L 21/324
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶からなるボンドウェーハの表面から水素イオン又は希ガスイオンのうち少なくとも1種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハの前記イオン注入した表面と、シリコン単結晶からなるベースウェーハの表面とをシリコン酸化膜を介して貼り合わせた後、前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離することにより、前記ベースウェーハ上にBOX層とSOI層とを有する貼り合わせSOIウェーハを作製し、該貼り合わせSOIウェーハに対してアルゴンガス含有雰囲気で平坦化熱処理を行った後、前記SOI層の膜厚を調整する犠牲酸化処理を行う貼り合わせSOIウェーハの製造方法において、
前記剥離により作製された貼り合わせSOIウェーハにおける前記BOX層の膜厚を500nm以上とし、
前記平坦化熱処理後に前記SOI層の最外周部がオーバーハング状に残っている貼り合わせSOIウェーハに対し、前記犠牲酸化処理を施す前記SOI層の膜厚(t)と、前記犠牲酸化処理において形成する犠牲酸化膜の膜厚(d)との関係が、0.9d>t>0.45dを満たすように前記犠牲酸化膜を形成することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記アルゴンガス含有雰囲気を100%Arガスとすることを特徴とする請求項1に記載の貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記ベースウェーハに500nm以上のシリコン酸化膜を形成し、該シリコン酸化膜を形成したベースウェーハと、前記ボンドウェーハの前記イオン注入した表面とを貼り合わせた後、前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離することにより、前記BOX層の膜厚が500nm以上である前記貼り合わせSOIウェーハを作製することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記犠牲酸化処理後の前記SOI層の表面にエピタキシャル層を形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り合わせSOIウェーハの製造方法に関し、特に、イオン注入剥離法を用いたSOIウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SOI(Silicon on Insulator)ウェーハの製造方法、特に先端集積回路の高性能化を可能とする薄膜SOIウェーハの製造方法として、イオン注入したウェーハを貼り合わせ後に剥離してSOIウェーハを製造する方法(イオン注入剥離法:スマートカット法(登録商標)とも呼ばれる技術)が注目されている。
【0003】
このイオン注入剥離法は、二枚のシリコンウェーハのうち、少なくとも一方に酸化膜を形成すると共に、一方のシリコンウェーハ(ボンドウェーハ)の上面から水素イオンまたは希ガスイオン等のガスイオンを注入し、該ウェーハ内部にイオン注入層(微小気泡層又は封入層とも呼ぶ)を形成する。その後、イオンを注入した方の面を、酸化膜を介して他方のシリコンウェーハ(ベースウェーハ)と密着させ、その後熱処理(剥離熱処理)を加えて微小気泡層を劈開面として一方のウェーハ(ボンドウェーハ)を薄膜状に剥離して貼り合わせSOIウェーハを製造する技術である。また、剥離後のSOIウェーハに対し、熱処理(結合熱処理)を加えて強固に結合する方法がある(特許文献1参照)。
【0004】
この段階では、劈開面(剥離面)がSOI層の表面となっており、SOI膜厚が薄くてかつ均一性も高いSOIウェーハが比較的容易に得られている。しかし、剥離後のSOIウェーハ表面にはイオン注入によるダメージ層が存在し、また、表面粗さが通常のシリコンウェーハの鏡面に比べて大きなものとなっている。したがって、イオン注入剥離法では、このようなダメージ層と表面粗さを除去することが必要になる。
【0005】
このSOI層表面の表面粗さやダメージ層を除去する方法の一つとして、アルゴン含有雰囲気で高温熱処理を行うアニール法がある。このアニール法によれば、SOI層表面を平坦化しつつ、イオン注入剥離法により得られたSOI層の膜厚均一性を高く維持することができる(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表公報 WO2003/009386号
【特許文献2】再公表公報 WO2011/027545号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
イオン注入剥離法によって、ベースウェーハ上にBOX層(埋め込み酸化膜層)とSOI層とを有する貼り合わせSOIウェーハを作製し、アルゴンガス含有雰囲気での熱処理(以下、単にArアニールともいう)により剥離面の平坦化を行うと、SOI/BOX界面、及び、BOX/ベースウェーハ界面のエッチングが進行し、SOI層の最外周部において下地のBOX層が消失してしまうため、Arアニール直後には、SOI層の最外周部がオーバーハング状に残ってしまう場合があった。
【0008】
その結果、その後のSOIウェーハ製造工程(洗浄、熱処理など)やデバイス製造工程等において、オーバーハング部が容易に剥がれ、パーティクルを発生させるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、貼り合わせSOIウェーハの製造において、アルゴンガス含有雰囲気での平坦化熱処理によってオーバーハング状に残ったSOI層の最外周部からのパーティクルの発生を、未然に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコン単結晶からなるボンドウェーハの表面から水素イオン又は希ガスイオンのうち少なくとも1種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハの前記イオン注入した表面と、シリコン単結晶からなるベースウェーハの表面とをシリコン酸化膜を介して貼り合わせた後、前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離することにより、前記ベースウェーハ上にBOX層とSOI層とを有する貼り合わせSOIウェーハを作製し、該貼り合わせSOIウェーハに対してアルゴンガス含有雰囲気で平坦化熱処理を行った後、前記SOI層の膜厚を調整する犠牲酸化処理を行う貼り合わせSOIウェーハの製造方法において、前記剥離により作製された貼り合わせSOIウェーハにおける前記BOX層の膜厚を500nm以上とし、
前記犠牲酸化処理を施す前記SOI層の膜厚(t)と、前記犠牲酸化処理において形成する犠牲酸化膜の膜厚(d)との関係が、0.9d>t>0.45dを満たすように前記犠牲酸化膜を形成することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0011】
このように、BOX層の膜厚が500nm以上である貼り合わせSOIウェーハに対してアルゴンガス含有雰囲気で平坦化熱処理を行った後、犠牲酸化処理を行う直前のSOI層の膜厚(t)と、犠牲酸化処理において形成する犠牲酸化膜の膜厚(d)との関係が、0.9d>t>0.45dを満たすように犠牲酸化膜を形成することで、SOI層のオーバーハング状の最外周部が完全に犠牲酸化膜に変化するため、その後の酸化膜除去によって完全に除去することができる。そのため、Arアニール後にオーバーハング状に残ったSOI層の最外周部からのパーティクルの発生を未然に防止することができる。
【0012】
またこの場合、前記アルゴンガス含有雰囲気を100%Arガスとすることが好ましい。
【0013】
このように平坦化熱処理を100%Arガス雰囲気で行った場合には、より顕著にSOI層の最外周部がオーバーハング状に残るため、本発明による貼り合わせSOIウェーハの製造方法をより効果的に利用できる。
【0014】
また、本発明においては、前記ベースウェーハに500nm以上のシリコン酸化膜を形成し、該シリコン酸化膜を形成したベースウェーハと、前記ボンドウェーハの前記イオン注入した表面とを貼り合わせた後、前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離することにより、前記BOX層の膜厚が500nm以上である前記貼り合わせSOIウェーハを作製することが好ましい。
【0015】
剥離用のイオン注入を行うボンドウェーハにこのような厚い酸化膜を形成する場合、高電圧のイオン注入が可能なイオン注入装置が必要となる。そのため、BOX層となる500nm以上のシリコン酸化膜は、ベースウェーハ側に形成することが好ましい。また、このようにベースウェーハ側に500nm以上のシリコン酸化膜を形成した場合、熱酸化界面(BOX層とベースウェーハとの界面)での剥がれが特に大きくなるため、より顕著にSOI層の最外周部がオーバーハング状に残る。そのため、本発明による貼り合わせSOIウェーハの製造方法をより効果的に適用できる。
【0016】
また、本発明においては、犠牲酸化処理後のSOI層の表面にエピタキシャル層を形成することもできる。
【0017】
本発明のようにイオン注入剥離法で貼り合わせSOIウェーハを製造する場合、SOI層の膜厚はイオン注入装置の加速電圧の大きさに依存するため、通常は、1μmよりも薄い薄膜SOI層に制限される。そのため、数μmからそれ以上の厚い膜厚で、かつ、膜厚均一性の高いSOI層を有する貼り合わせSOIウェーハを製造するためには、イオン注入剥離法で作製した薄膜SOI層の表面にエピタキシャル層を追加形成する必要がある。このような場合においても、本発明であれば、SOI層の最外周部からのパーティクルの発生を未然に防止することができ、エピタキシャル層形成時の欠陥発生も抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Arアニール後の犠牲酸化処理において、SOI層のオーバーハング状の最外周部が完全に犠牲酸化膜に変化するように犠牲酸化膜厚を調整することで、Arアニール後にオーバーハング状に残ったSOI層の最外周部からのパーティクルの発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法の一例を示した工程フロー図である。
図2】Arアニール後にSOI層の最外周部がオーバーハング状に残るメカニズム及びパーティクルの発生メカニズムの説明図である。
図3】本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法の一例を示した説明図である。
図4】(A)薄膜(SOI+BOX)が幅広く剥がれた状態の貼り合わせSOIウェーハのSEM像、(B)SOI/BOX界面での侵食が進行した様子のSEM像、(C)BOX/ベースウェーハ界面での侵食が進行した様子のSEM像である。
図5】本発明における、犠牲酸化処理を施すSOI層の膜厚(t)と、犠牲酸化処理において形成する犠牲酸化膜の膜厚(d)との関係を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、アルゴンガス含有雰囲気での平坦化熱処理により、SOI層の最外周部がオーバーハング状に残ってしまう原因について図2を参照しながら説明する。
【0021】
イオン注入剥離法により、貼り合わせSOIウェーハを製造する際、剥離後のSOI層11とベースウェーハ12との貼り合わせ界面の結合力を高めるために、酸化性雰囲気にて結合熱処理を行う場合がある。この結合熱処理により、剥離後のSOI層11の表面に結合熱処理による表面酸化膜13が形成される(図2(a))。その後、結合熱処理で形成された表面酸化膜13を、例えばフッ酸などにより除去する(図2(b))。この酸化膜形成と酸化膜除去によって、剥離面に残留するイオン注入時に発生した注入ダメージが除去できる。その際、SOI層11/BOX層14の界面15にフッ酸による侵食が生ずる。
【0022】
その後、剥離面を平坦化するために、表面酸化膜13が除去された貼り合わせSOIウェーハに対し、アルゴン含有雰囲気下で高温熱処理(Arアニール)を行う(図2(c))。この高温のArアニールにより、SOI層11の表面のシリコン原子にマイグレーションが生じ、SOI層11の表面が平坦化されるのと同時に、Si/SiO界面(SOI/BOX界面15、及び、BOX/ベースウェーハ界面16)において、SiOが気化する(Si+SiO→2SiO)ことで界面の侵食が進行する。このため、薄膜(SOI+BOX)が幅広く剥がれた状態が形成されてしまい、SOI層11の最外周部がオーバーハング状に残ってしまう。
【0023】
Arアニール後、SOI層の膜厚を調整するための犠牲酸化処理(犠牲酸化膜17形成(図2(d))+酸化膜除去(図2(e)))が行われる。この形成した犠牲酸化膜17の膜厚が不十分な厚さであると、酸化膜除去後にSOI層の外周部がオーバーハング状に薄く残ってしまうため、その薄いSOI層の外周部が、洗浄などの後工程で剥がれてパーティクルとなってしまう。
【0024】
これに対して本発明者は、BOX層の厚さが500nm以上になると、薄膜(SOI+BOX)の剥がれ具合が顕著となり、より幅広なオーバーハング形状が形成され、パーティクルの発生も顕著となることを発見した。そして、BOX層の厚さが500nm以上である貼り合わせSOIウェーハに対し、Arアニール後の犠牲酸化において、SOI層のオーバーハング状の外周部が完全に酸化膜に変化するように犠牲酸化膜厚を調整することで、オーバーハング状に残ったSOI層の最外周部からのパーティクル発生を未然に防止することができることを見出した。
【0025】
図1に本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法の一例を示した工程フロー図を示す。また、図3に本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法の一例の説明図を示す。
【0026】
まず、シリコン単結晶からなるボンドウェーハの表面から水素イオン又は希ガスイオンのうち少なくとも1種類のガスイオンをイオン注入して、ボンドウェーハの所定深さにイオン注入層を形成する(図1(A))。
【0027】
次いで、後にBOX層(膜厚500nm以上)となるシリコン酸化膜を、ボンドウェーハ及び/又はベースウェーハに形成する。ボンドウェーハにこのような厚い酸化膜を形成すると、イオン注入の加速電圧を極めて高くする必要があるため、高電圧のイオン注入が可能なイオン注入装置が必要となる。従って、本発明においては、ベースウェーハに500nm以上のシリコン酸化膜を形成することが好ましい(図1(B))。もちろん、ボンドウェーハとベースウェーハの両方にシリコン酸化膜を形成し、それらの厚さの合計が500nm以上となるようにしても良い。
【0028】
その後、シリコン酸化膜を形成したベースウェーハとボンドウェーハのイオン注入した表面とを貼り合わせる(図1(C))。この貼り合わせは、例えば、常温の清浄な雰囲気下でボンドウェーハとベースウェーハとを接触させることにより、接着剤等を用いることなくウェーハ同士が接着する。
【0029】
次いで、剥離熱処理を行ってイオン注入層でボンドウェーハを剥離することにより、ベースウェーハ上に、500nm以上の膜厚を有する埋め込み酸化膜層(BOX層)と、SOI層とを有する貼り合わせSOIウェーハを作製する(図1(D))。この剥離熱処理としては、例えば、Ar等の不活性ガス雰囲気下、通常400℃以上700℃以下、30分以上熱処理を加えればボンドウェーハをイオン注入層で剥離することができる。また、貼り合わせ面にあらかじめプラズマ処理を施すことによって、熱処理を加えずに(あるいは、剥離しない程度の温度で熱処理を加えた後)、外力を加えて剥離することもできる。
【0030】
その後、剥離後のSOI層とベースウェーハとの貼り合わせ界面の結合力を高めるために、酸化性雰囲気での結合熱処理を行い、その後、形成された表面酸化膜を除去する処理を行っても良い。この酸化膜形成と酸化膜除去によって、剥離面に残留するイオン注入時に発生した注入ダメージを除去することができる。
【0031】
次いで、作製した貼り合わせSOIウェーハに対してアルゴンガス含有雰囲気で平坦化熱処理を行う。このとき、貼り合わせSOIウェーハには、SOI層とBOX層との界面と、BOX層とベースウェーハとの界面に、それぞれSi/SiO界面が存在する。
【0032】
例えば、上述したように、ベースウェーハ2に熱酸化膜3を形成し(図3(A))、酸化膜のないボンドウェーハと貼り合わせ、イオン注入剥離法により貼り合わせSOIウェーハを作製する場合(図3(B))、SOI層1とBOX層3との界面Aは貼り合わせ界面となり、BOX層3とベースウェーハ2との界面Bは熱酸化膜界面となる。この場合、図3(C)に示すように、ベースウェーハ2に形成した熱酸化膜3(BOX層)の内部には圧縮歪が保存されている。そのため、SiOの気化反応(Si+SiO→2SiO)により界面Bがひとたび切断されるとBOX層3中の内部応力が開放され、薄膜(SOI+BOX)が剥がれる方向に力が掛るため剥がれが助長される(図3(D)、(E))。
【0033】
BOX層3中の内部応力はBOX層3の厚さが厚いほど大きくなるので、BOX層3の厚さが厚いほど剥がれが助長されやすくなる。そして、本発明のようにBOX層3の厚さが500nm以上であると、薄膜(SOI+BOX)の剥がれ具合が顕著となり、より幅広なオーバーハング形状が形成される。
【0034】
また、このような現象は、アルゴン含有雰囲気(例えば、アルゴンと水素の混合ガス雰囲気や100%Arガス雰囲気など)で発生し、特に、100%Arガス雰囲気で、1150℃以上の高温長時間(30分以上)の熱処理で顕著に発生する。
【0035】
BOX層3:膜厚1000nm、SOI層1:膜厚750nmを有する貼り合わせウェーハに対し、Arアニールを行った際の、薄膜(SOI+BOX)が幅広く剥がれた状態の貼り合わせSOIウェーハのSEM像を図4(A)に示す。また、SOI/BOX界面Aでの侵食が進行した様子のSEM像を図4(B)に、BOX/ベースウェーハ界面Bでの侵食が進行した様子のSEM像を図4(C)に示す。
【0036】
その後、SOI層1の膜厚を調整する犠牲酸化処理(犠牲酸化膜4形成+酸化膜除去)を行う(図1(F)、図3(F)、図3(G))。
【0037】
ここで、本発明においては、SOI層1のオーバーハング状の外周部が完全に犠牲酸化膜4に変化するように犠牲酸化条件を調整して犠牲酸化膜厚を調整する。
【0038】
具体的には、図5に示すように、SOI層のオーバーハング状の部分は上下面で同時に熱酸化膜が形成されるので、膜厚(t)であるSOI層のオーバーハング状の部分を完全に酸化膜に変化させるためには、片面に形成される犠牲酸化膜厚(d)との関係が、2×0.45d>tを満たすように、犠牲酸化膜厚(d)を調整すればよい。
【0039】
一方、オーバーハング状の部分以外のSOI層は表面のみに犠牲酸化膜が形成されるので、犠牲酸化後にSOI層を残存させるためには、t>0.45dを満たす必要がある。
【0040】
従って、0.9d>t>0.45dを満たすように犠牲酸化膜厚(d)を形成するための犠牲酸化条件(酸化温度、酸化時間など)を調整することによって、SOI層のオーバーハング状の部分に起因するパーティクルの発生を抑制することが可能となる。
【0041】
尚、犠牲酸化熱処理の条件は、膜厚が0.9d>t>0.45dを満たすような犠牲酸化膜を形成することができる条件であれば特に制限されないが、例えば900〜950℃程度の温度で犠牲酸化熱処理を行うことにより、OSF(酸化誘起積層欠陥)を発生させることなく剥離面(SOI層表面)のダメージを十分に除去するのと同時に貼り合わせ界面結合強度を強化することができる。
【0042】
次いで、犠牲酸化処理において形成した犠牲酸化膜を除去する(図3(G))。これにより、Arアニール後にオーバーハング状となっていたSOI層の外周部が完全に除去される。酸化膜除去方法としては、例えば15%のHF洗浄、および、必要に応じて、RCA洗浄を行う方法がある。
【0043】
このような本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法によれば、Arアニール後の犠牲酸化処理において、SOI層のオーバーハング状の最外周部が完全に酸化膜に変化するように犠牲酸化膜厚を調整することで、Arアニール後にオーバーハング状に残ったSOI層の最外周部からのパーティクル発生を未然に防止することができる。
【0044】
また、本発明においては、前記犠牲酸化処理後のSOI層の表面に、さらに、エピタキシャル層を形成することによって、比較的厚いSOI層膜厚を有する貼り合わせSOIウェーハとすることもできる。
【0045】
この場合、エピタキシャル成長を行う前のSOIウェーハの外周テラス部のベースウェーハ表面に酸化膜が残存している場合には、この酸化膜を除去してからエピタキシャル成長を行うことが好ましいが、そのテラス部の酸化膜を除去する工程や、その前に行われた犠牲酸化処理工程の酸化膜除去によって、BOX層がSOI層に比べて若干内側までエッチングされるため、BOX層の端面がSOI層の端面より凹んだ構造となる。
【0046】
そのため、BOX層の外周部がSOI層の端面より突出した状態(すなわち、BOX層の最外周部が露出した状態)でエピタキシャル成長を行った場合に発生するポリシリコン成長や、段差(SOI層の端面から成長したエピタキシャル層とテラス部から成長したエピタキシャル層との間に生ずる渓谷状の段差)などの欠陥発生を防止することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
下記表1の製造条件により、イオン注入を行ったボンドウェーハと、600nmの膜厚を有するシリコン酸化膜付きベースウェーハとを貼り合わせ、イオン注入層でボンドウェーハを剥離することにより、貼り合わせSOIウェーハを作製した。その後、結合熱処理及び結合熱処理で形成された酸化膜を除去し、その後、100%Arガス雰囲気で平坦化熱処理を行った。Arアニール後のSOI膜厚は、それぞれ490nm(実施例)、415nm(比較例)であった。
【0049】
この際、実施例、比較例のいずれのSOIウェーハも、Arアニール直後には、図3(E)の図に示したようなオーバーハング形状が残っていることをSEM観察により確認した。
【0050】
その後、SOI層を調整する犠牲酸化処理(犠牲酸化膜形成+酸化膜除去)を表1に記載された条件でそれぞれ行った後、別々の洗浄槽でSC1洗浄(80℃、3分)を行って乾燥し、パーティクルカウンター(KLA Tencor社製SP2)を用いて、表面に付着したパーティクル(直径0.25μm以上)を測定して比較した。
【0051】
【表1】
【0052】
その結果、実施例では、犠牲酸化処理後の洗浄工程において、比較例に対してパーティクルの発生を大幅に低減する効果が得られた。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0054】
1,11…SOI層、 2,12…ベースウェーハ、 3,14…BOX層(シリコン酸化膜)、 4,17…犠牲酸化膜、 13…表面酸化膜、 15…SOI/BOX界面、 16…BOX/ベースウェーハ界面。
図1
図2
図3
図4
図5