特許第6474048号(P6474048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474048
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】エピタキシャルウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20190218BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20190218BHJP
   C23C 16/02 20060101ALI20190218BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20190218BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C30B29/06 A
   C30B29/06 504E
   C23C16/02
   C23C16/24
   H01L21/20
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-252936(P2015-252936)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-117974(P2017-117974A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】丹波 佑太
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−260711(JP,A)
【文献】 特開昭62−226891(JP,A)
【文献】 特開昭47−019784(JP,A)
【文献】 特開平08−236458(JP,A)
【文献】 特開2000−100737(JP,A)
【文献】 特開2004−339003(JP,A)
【文献】 特開2004−091234(JP,A)
【文献】 特開2011−216780(JP,A)
【文献】 特開平05−347256(JP,A)
【文献】 特開平10−247731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02、21/18−21/20、21/205、
21/31、21/34−21/36、21/365、
21/469、21/84−21/86、
C23C 16/00−16/56、
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法線が[100]軸に対して[001]又は[00−1]方向に角度θ、かつ、[100]軸に対して[010]又は[0−10]方向に角度φ、傾斜する主表面を有するシリコン単結晶基板を準備する工程と、
前記シリコン単結晶基板にエピタキシャル層を成長する工程と、
を備え、
前記準備する工程は、前記角度θ又は前記角度φの一方が20´を超え、かつ、30´未満であり、他方が30´未満である前記シリコン単結晶基板を準備し、
前記エピタキシャル層の成長速度が1μm/minより大きいことを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記準備する工程は、前記角度θ又は前記角度φの少なくとも一方が21´以上25´以下である前記シリコン単結晶基板を準備する請求項1に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
ウェーハ高さをウェーハの半径方向の長さで2階微分した指標をZDDとして、
前記シリコン単結晶基板に前記エピタキシャル層を成長させて得られるエピタキシャルウェーハの表面の、中心から半径方向に148mmの位置における前記ZDDの値から、前記エピタキシャル層を成長する前の前記シリコン単結晶基板の表面の、中心から半径方向に148mmの位置における前記ZDDの値を減算した値であるΔZDDが−80nm/mmよりプラス方向側の値である請求項1または2に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
法線が[100]軸に対して[011]又は[0−1−1]方向に角度α、かつ、[100]軸に対して[0−11]又は[01−1]方向に角度β、傾斜する主表面を有するシリコン単結晶基板を準備する工程と、
前記シリコン単結晶基板にエピタキシャル層を成長する工程と、
を備え、
前記準備する工程は、前記角度α又は前記角度βの一方が20´を超え、かつ、30´未満であり、他方が30´未満である前記シリコン単結晶基板を準備し、
前記エピタキシャル層の成長速度が2μm/min以上、かつ3μm/min以下であることを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
ウェーハ高さをウェーハの半径方向の長さで2階微分した指標をZDDとして、
前記シリコン単結晶基板に前記エピタキシャル層を成長させて得られるエピタキシャルウェーハの表面の、中心から半径方向に148mmの位置における前記ZDDの値から、前記エピタキシャル層を成長する前の前記シリコン単結晶基板の表面の、中心から半径方向に148mmの位置における前記ZDDの値を減算した値であるΔZDDが−40nm/mmよりプラス方向側の値である請求項4に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記成長する工程は、ドーパントをドープして前記エピタキシャル層を成長する請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記準備する工程は、導電型がP型である前記シリコン単結晶基板を準備し、
前記成長する工程は、導電型がN++型の前記エピタキシャル層を成長する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記シリコン単結晶基板に前記エピタキシャル層を成長させて得られるエピタキシャルウェーハは貼り合わせSOIウェーハのベース基板として用いられる請求項1ないし7のいずれか1項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能の半導体デバイス用のウェーハとして、次のウェーハが知られる。例えば、2つのシリコンウェーハの一方に酸化膜を形成し、その形成した酸化膜を挟んでシリコンウェーハを接合し、その後に素子を作製する側のシリコンウェーハを薄膜化させた、SOI(Silicon On Insulator)層が形成された貼り合わせSOIウェーハが知られる。
【0003】
ところで、特許文献1には、貼り合わせSOIウェーハのベース基板等に用いるエピタキシャルウェーハが開示されている。このエピタキシャルウェーハには、エピタキシャル層を成長させる成長用の基板として、エピタキシャル層を成長させる表面が、(100)面に対して僅かな角度だけ傾斜したシリコン単結晶基板が使用されている。また、これと同じようなシリコン単結晶基板が特許文献2〜5に開示されている。
【0004】
特許文献1のようなシリコン単結晶基板を用いて作製される貼り合わせSOIウェーハでは、貼り合わされるウェーハの貼り合わせ面の外周部は貼り合わせ時に結合せず、歩留まりを低下させる領域となる。このような歩留まりを低下させる貼り合わせ面の外周部の幅はテラス幅と呼ばれる。
【0005】
このような貼り合わせSOIウェーハのベース基板としては、例えば、P型のシリコン単結晶基板にN++型のシリコンエピタキシャル層を成長させたエピタキシャルウェーハが使用される。このようなウェーハでは、貼り合わせSOIウェーハのテラス幅を低減させるために次に示すような規格が要求されている。
【0006】
ウェーハ表面の曲率の指標として、ウェーハ表面のZDD(Front ZDD)がある。ZDDとは、ウェーハの高さをウェーハの半径方向の長さで2回微分をしたものであり、いわば、ウェーハの表面変位量(nm)をウェーハの半径方向の位置変化(mm)で微分した値である。貼り合わせSOIウェーハのベース基板として使用されるP型のシリコン単結晶基板にN++型のシリコンエピタキシャル層を成長させたエピタキシャルウェーハでは、テラス幅を低減させるために次の規格が要求されている。
【0007】
型シリコン単結晶基板では、基板の中心から半径方向に148mmの位置におけるFront ZDD(以下、「ZDD値」とする)を現在、−25〜20nm/mmにすることが要求されている。また、この基板にN++型のエピタキシャル層を成長させたエピタキシャルウェーハでは、ZDD値を−55nm/mmよりプラス方向にすることが要求されている。このためにはシリコン単結晶基板にエピタキシャル層を成長したエピタキシャルウェーハのZDD値からエピタキシャル層を成長する前のシリコン単結晶基板のZDD値を減算した値(以下、「ΔZDD」とする。)が、マイナス方向に、あまり大きくならないようにする必要がある。
【0008】
このΔZDDを算出する元になるエピタキシャルウェーハのZDD値を調整するパラメーターとして、次の3つのパラメーターがある。1つ目がエピタキシャル成長する際における反応炉の反応温度であり、2つ目がエピタキシャル成長する際における反応炉の上下のランプの出力比であり、3つ目がエピタキシャル成長の成長速度である。例えば、ΔZDDをマイナス方向に大きくしないためには、エピタキシャルウェーハのエピタキシャル成長時における反応温度又はランプの出力比の少なくとも一方を増加させるか、エピタキシャル成長の成長速度を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−216780号公報
【特許文献2】特開平5−347256号公報
【特許文献3】特開2000−260711号公報
【特許文献4】特開2004−91234号公報
【特許文献5】特開2004−339003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、反応温度、出力比を増加させると、シリコン単結晶基板に発生するスリップを抑えることが困難になる。また、成長速度を低下させると、エピタキシャルウェーハのヘイズレベルが悪化する。よって、スリップの発生を抑制するとともに、ヘイズレベルの悪化を抑制し、更にはΔZDDをマイナス方向に大きくさせないとの条件を満たすには3つのパラメーター(反応温度、出力比、成長速度)を厳密に制御する必要がある。
【0011】
そのため、現状では、3つのパラメーターを調整できる範囲が狭くなり、要求される規格を満たすエピタキシャルウェーハを安定して製造することに課題がある。
【0012】
本発明の課題は、ΔZDDが良好なエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0013】
本発明の第1のエピタキシャルウェーハの製造方法は、
法線が[100]軸に対して[001]又は[00−1]方向に角度θ、かつ、[100]軸に対して[010]又は[0−10]方向に角度φ、傾斜する主表面を有するシリコン単結晶基板を準備する工程と、
前記シリコン単結晶基板にエピタキシャル層を成長する工程と、
を備え、
前記準備する工程は、前記角度θ又は前記角度φの一方が20´を超え、かつ、30´未満であり、他方が30´未満である前記シリコン単結晶基板を準備し、
前記エピタキシャル層の成長速度が1μm/minより大きいことを特徴とする。
【0014】
本発明の第1のエピタキシャルウェーハの製造方法では、上記の角度θ、角度φのシリコン単結晶基板を準備するため、ΔZDDをマイナス方向に大きくさせないためにエピタキシャル成長の成長速度を低下させてもヘイズレベルが悪化するのを抑制できる。よって、スリップを発生させるおそれのあるエピタキシャル成長時の反応温度及びランプの出力比を調整しなくてもΔZDDがマイナス方向に大きくならないようにすることができる。その結果、スリップの発生を抑制するとともに、ヘイズレベルの悪化を抑制し、更にはΔZDDが良好なエピタキシャルウェーハを提供することが可能となる。なお、上記の角度θ又は角度φの少なくとも一方が21′以上25′以下であると、より効果的である。
【0015】
本発明の第2のエピタキシャルウェーハの製造方法は、
法線が[100]軸に対して[011]又は[0−1−1]方向に角度α、かつ、[100]軸に対して[0−11]又は[01−1]方向に角度β、傾斜する主表面を有するシリコン単結晶基板を準備する工程と、
前記シリコン単結晶基板にエピタキシャル層を成長する工程と、
を備え、
前記準備する工程は、前記角度α又は前記角度βの一方が20´を超え、かつ、30´未満であり、他方が30´未満である前記シリコン単結晶基板を準備し、
前記エピタキシャル層の成長速度が2μm/min以上、かつ3μm/min以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2のエピタキシャルウェーハの製造方法では、上記の角度α、角度βの基板を備えることで、ΔZDDがマイナス方向に大きくならないようにすることができる。なお、上記の角度α又は角度βの少なくとも一方が20′を超え、かつ、25′以下であると、より効果的である。
【0017】
第1、第2のエピタキシャルウェーハの製造方法における実施態様では、成長する工程は、ドーパントをドープしてエピタキシャル層を成長する。具体的には、準備する工程は、導電型がP型であるシリコン単結晶基板を準備する。そして、成長する工程は、導電型がN++型のエピタキシャル層を成長する。本明細書では、導電型がP型のシリコン単結晶基板とは、低濃度にドーパントがドープされ、抵抗率が、例えば、0.1Ω・cm以上であるシリコン単結晶基板を意味する。同様に導電型がN++型のエピタキシャル層とは、高濃度にドーパントがドープされ、抵抗率が、例えば、2mΩ・cm以下のエピタキシャル層を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】シリコン単結晶基板の主表面の傾きを説明する説明図1
図2】シリコン単結晶基板の主表面の傾きを説明する説明図2
図3】作製したエピタキシャルウェーハの成長速度(μm/min)と作製したエピタキシャルウェーハのヘイズレベル(ppm)との関係を示す実施例1、2及び比較例1、2のグラフ。
図4】作製したエピタキシャルウェーハの成長速度(μm/min)とΔZDD(nm/mm)との関係を示す実施例1、2及び比較例1、2のグラフ。
図5】作製したエピタキシャルウェーハの成長速度(μm/min)とΔZDD(nm/mm)との関係を示す実施例3及び比較例3〜5のグラフ。
図6】作製したエピタキシャルウェーハの成長速度(μm/min)と作製したエピタキシャルウェーハのヘイズレベル(ppm)との関係を示す実施例3及び比較例1、3〜5のグラフ。
図7】ΔZDD(μm/mm)とエピタキシャル成長時におけるドーパントガスの流量(slm)との関係を示す比較例1及び3のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一例として、シリコン単結晶基板(以下、「基板W」とする。)にシリコンエピタキシャル層を成長してシリコンエピタキシャルウェーハを製造する製造方法を説明する。以下の説明においては、基板Wの元になるシリコン単結晶インゴットを育成する周知の引き上げ装置と、その引き上げ装置により育成したインゴットから切り出した基板Wにエピタキシャル成長を施す周知の気相成長装置を使用した製造方法を説明する。
【0025】
最初に周知の引き上げ装置を用いて基板Wのもとになるシリコン単結晶インゴットを作製する。引き上げ装置は、例えば、石英るつぼを備える。先ず、この石英るつぼに多結晶シリコンと抵抗率を調整するドーパントを入れて溶融させると、溶融液が石英るつぼ内に貯留する。そして、貯留した溶融液の液面に種結晶シリコン棒を漬けて引き上げ、シリコン単結晶インゴットを作製する。
【0026】
次に、作製したシリコン単結晶インゴットを所定の厚さに切り出した後、切り出したウェーハに粗研磨、エッチング、研磨などを施して表面に鏡面加工がされた状態(ポリッシュドウェーハの状態)の基板Wを準備する。
【0027】
基板Wは、図1に示すように(100)面に対して特定の方向に僅かに傾いた傾斜角(以下、「オフアングル」とする。)を有する主表面Waを備える。図1には、(100)面内にO点が図示され、(100)面内でO点を通る結晶軸[100]、[010]、[0−10]、[001]及び[00−1]が図示される。更に、O点を基点に3つの辺が[010][00−1]及び[100]軸に沿って位置する直方体1が図示される。直方体1は、O点の対角線上に位置する頂点Aを含む矩形の上面1aを有する。上面1aは、頂点Aに隣接する頂点B、頂点Cを有する。ここで、O点と頂点Bを結ぶ線分OBと[100]軸がなす角度θとし、O点と頂点Cを結ぶ線分OCと[100]軸がなす角度φとする。更に、O点と頂点Aを結ぶ線分OAを主表面Waの法線とすると、主表面Waは、法線が[100]軸に対して[00−1]方向に角度θ、かつ、法線が[100]軸に対して[010]方向に角度φ、傾斜したオフアングルを有するものと定義される。ただし、角度θ又は角度φの少なくとも一方が20′を超え、かつ、30′未満である。好ましくは、角度θ又は角度φの少なくとも一方が21′以上25′以下である。
【0028】
また、基板Wは、図2に示すように(100)面に対して特定の方向に僅かに傾いたオフアングルを有する主表面Waを備えてもよい。図2には、(100)面内にO点が図示され、(100)面内でO点を通る結晶軸[100]、[011]、[0−1−1]、[01−1]、及び[0−11]が図示される。更に、O点を基点に3つの辺が[011][01−1]及び[100]軸に沿って位置する直方体10が図示される。直方体10は、O点の対角線上に位置する頂点Aを含む矩形の上面10aを有する。上面10aは、頂点Aに隣接する頂点B、頂点Cを有する。ここで、O点と頂点Bを結ぶ線分OBと[100]軸がなす角度αとし、O点と頂点Cを結ぶ線分OCと[100]軸がなす角度βとする。更に、O点と頂点Aを結ぶ線分OAを主表面Waの法線とすると、主表面Waは、法線が[100]軸に対して[011]方向に角度α、かつ、法線が[100]軸に対して[01−1]方向に角度β、傾斜したオフアングルを有するものと定義される。ただし、角度α又は角度βの少なくとも一方が20′を超え、かつ、30′未満である。好ましくは、角度α又は角度βの少なくとも一方が20′を超え、かつ、25′以下である。
【0029】
このようにして準備された基板Wは、周知の気相成長装置に搬送され、基板Wの主表面Waにシリコンエピタキシャル層を気相成長することで、シリコンエピタキシャルウェーハが製造される。
【0030】
以上のように製造されるエピタキシャルウェーハは、図1に示す角度θ又は角度φの少なくとも一方が20′を超え、かつ、30′未満である。この場合には、後述する実施例に示すようにΔZDDをマイナス方向に大きくさせない(プラス方向に変化させる)ためにエピタキシャル層の成長速度を低下させてもヘイズレベルが悪化するのを抑制できる。よって、スリップを発生させるおそれのあるエピタキシャル成長時の反応温度及びランプの出力比のパラメーターを調整しなくてもΔZDDがマイナス方向に大きくならないようにする(プラス方向に変化させる)ことができる。それ故、スリップの発生を抑制するとともに、ヘイズレベルの悪化を抑制し、更にはΔZDDが良好なエピタキシャルウェーハを提供することが可能となる。また、図2の角度α又は角度βの少なくとも一方が20′を超え、かつ、30′未満である基板Wを有するエピタキシャルウェーハの場合には、後述する実施例に示すようにΔZDDをマイナス方向に大きくさせない(プラス方向に変化させる)こと可能となる。
【実施例】
【0031】
本発明の効果を確認するために以下に示す実験を行った。以下において、実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0032】
先ず、ドーパントを添加したシリコン単結晶インゴットを複数作製した。次に作製したインゴット毎にオフアングルを変えてウェーハを切り出し、切り出したウェーハに粗研磨、エッチング、研磨等を施してオフアングルが異なる複数の基板W(導電型がP型)を作製した。そして、KLA−Tecоr社製のWafer Sightを使用して各基板WのZDD値(基板Wの中心から半径方向に148mmの位置のFront ZDD)を測定した。その後、各基板Wを周知の気相成長装置に搬送し、基板Wにシリコンエピタキシャル層(導電型がN++型)を成長してエピタキシャルウェーハを作製した。作製したエピタキシャルウェーハについても同様にZDD値を測定してΔZDD(エピタキシャル成長後のZDD値からエピタキシャル成長前の基板WにおけるZDD値を減算した値)を取得した。また、作製された各エピタキシャルウェーハのヘイズレベル(ppm)をパーティクルカウンターにより評価した。
【0033】
(実施例)
実施例1は、図1の角度θが21′、角度φが1′となるオフアングルの基板Wを複数作製し、作製した各基板Wに成長速度を変える以外は同じ条件でエピタキシャル層を成長したエピタキシャルウェーハを使用した。具体的には、エピタキシャル層の成長速度を0.5〜2.5μm/minの範囲において、偏りがないように8つ選択して作製したエピタキシャルウェーハを使用した。
【0034】
実施例2は、図1の角度θが25′、角度φが0′となるオフアングルの基板Wを使用する以外は、実施例1と同じように作製したエピタキシャルウェーハを使用した。
【0035】
実施例3は、図2の角度αが25′、角度βが6′となるオフアングルの基板Wを複数作製し、作製した各基板Wに成長速度を変える以外は同じ条件でエピタキシャル層を成長したエピタキシャルウェーハを使用した。具体的には、エピタキシャル層の成長速度がおおよそ等間隔になるように2〜3μm/minの範囲で3つの成長速度を選択して作製したエピタキシャルウェーハを使用した。
【0036】
(比較例)
比較例1は、図1の角度θが15′、角度φが−2′となるオフアングルの基板Wを使用する以外は、実施例1と同じように作製したエピタキシャルウェーハを使用した。
【0037】
比較例2は、図1の角度θが18′、角度φが−2′となるオフアングルの基板Wを使用する以外は、実施例1と同じように作製したエピタキシャルウェーハを使用した。
【0038】
比較例3は、図2の角度αが13′、角度βが3′となるオフアングルの基板Wを複数作製し、作製した各基板Wに成長速度を変える以外は同じ条件でエピタキシャル層を成長したエピタキシャルウェーハを使用した。具体的には、エピタキシャル層の成長速度を2〜3μm/minの範囲において、偏りがないように5つ選択して作製したエピタキシャルウェーハを使用した。
【0039】
比較例4は、図2の角度αが18′、角度βが0′となるオフアングルの基板Wを複数作製し、作製した各基板Wに成長速度を変える以外は同じ条件でエピタキシャル層を成長したエピタキシャルウェーハを使用した。具体的には、エピタキシャル層の成長速度を1.5μm/minの近傍〜3μm/minの範囲において、偏りがないように8つ選択して作製したエピタキシャルウェーハを使用した。
【0040】
比較例5は、図2の角度αが20′、角度βが0′となるオフアングルの基板Wを複数作製し、作製した各基板Wに成長速度を変える以外は同じ条件でエピタキシャル層を成長したエピタキシャルウェーハを使用した。具体的には、エピタキシャル層の成長速度を2〜3μm/minの範囲において、偏りがないように5つ選択して作製したエピタキシャルウェーハを使用した。
【0041】
図3は、実施例1、2及び比較例1、2において作製したエピタキシャルウェーハの成長速度とヘイズレベルの関係を示す。比較例1(角度θ=15′)は、成長速度が1.8μm/min付近以下から急激にヘイズが悪化した。それに対して、比較例2(角度θ=18′)、実施例1(角度θ=21′)、実施例2(角度θ=25′)の順に角度θが増加すると、ヘイズレベルの悪化が抑制された。特に、エピタキシャル層の成長速度が1〜2μm/minの範囲において、比較例1、2よりも実施例1、2におけるヘイズレベルが大幅に減少した。
【0042】
図4は、実施例1、2及び比較例1、2において作製したエピタキシャルウェーハの成長速度とΔZDDとの関係を示し、成長速度が低下すると、ΔZDDがプラス方向に変化することが分かる。よって、貼り合わせSOIウェーハのベース基板に適したΔZDDとなるエピタキシャルウェーハを作製する場合は、エピタキシャル層の成長速度をできる限り低くするのが望ましい。しかし、図3に示す比較例1及び2においては、エピタキシャル層の成長速度が1.8μm/min付近以下になるとヘイズレベルが悪化するため、比較例1、2では成長速度が2μm/min近傍が下限値となる。それに対し、実施例1、2(角度θ=21′、25′)では、0.5〜2μm/minの成長速度においてもヘイズレベルの悪化が抑制される。よって、ヘイズレベルの悪化を抑制しつつ、ΔZDDをプラス方向に変化させることができる。
【0043】
図5は、実施例3及び比較例3〜5において作製したエピタキシャルウェーハの成長速度とΔZDDとの関係を示す。比較例3(角度α=13′)、比較例4(角度α=18′)、比較例5(角度α=20′)、実施例3(角度α=25′)の順に角度αが増加すると、比較例3〜5及び実施例3の各プロットがΔZDDのプラス方向に移動することが分かる。
【0044】
図6は、実施例3及び比較例1、3〜5において作製したエピタキシャルウェーハの成長速度とヘイズレベルとの関係を示す。ここで、例えば、比較例5(角度α=20′)で使用した基板Wを用いてΔZDD=−40nm/mmとなるエピタキシャルウェーハを作製しようとすると、図5からエピタキシャル層の成長速度を約2.7μm/minにする必要がある。この場合、図6に示すようにヘイズレベルは0.05ppm未満となり、問題のないレベルになる。よって、比較例5のように成長速度に応じて適切なオフアングルを選択すると、成長速度が速くてもヘイズレベルを改善でき、エピタキシャルウェーハの生産性を向上させることが可能となる。
【0045】
図7は、比較例1(角度θ=15′)及び比較例3(角度α=13′)においてエピタキシャルウェーハを作製する際に使用したドーパントガスの流量とΔZDDとの関係を示す。ノンドープのエピタキシャル層を成長させた場合には、ΔZDDは同等であるのに対し、ドーパント流量が増加するに従って比較例3の方においてΔZDDがプラス方向に変化した。よって、比較例3でのΔZDDがプラス方向に変化する現象は、高濃度ドーパント流量領域において顕著に現れることが分かった。
【0046】
以上から、基板Wのオフアングルである図1の角度θが20′を超え、かつ、30′未満であると、エピタキシャルウェーハのヘイズレベルを改善でき、ΔZDDをプラス方向に変化させることができる。なお、角度θは、21′以上25′以下であると、より効果的である。また、その他のオフアングルとしては、図2の角度αが20´を超え、かつ、30′未満であると、ヘイズレベルを改善でき、ΔZDDをプラス方向に変化させることができる。なお、角度αは、20′を超え、かつ、25′以下であると、より効果的である。
【0047】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその具体的な記載に限定されることなく、例示した構成等を技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせて実施することも可能であるし、またある要素、処理を周知の形態に置き換えて実施することもできる。
【符号の説明】
【0048】
W シリコン単結晶基板
Wa 主表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7