(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474059
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】地盤固化方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20190218BHJP
A01M 21/00 20060101ALI20190218BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20190218BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20190218BHJP
C04B 22/16 20060101ALI20190218BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20190218BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20190218BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20190218BHJP
C04B 28/08 20060101ALI20190218BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20190218BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20190218BHJP
C09K 17/08 20060101ALI20190218BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20190218BHJP
C09K 17/44 20060101ALI20190218BHJP
G21F 9/00 20060101ALI20190218BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20190218BHJP
G21F 9/30 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
E02D3/12 103
A01M21/00 Z
C04B22/08 Z
C04B22/10
C04B22/16 A
C04B24/06 A
C04B24/38 Z
C04B28/02
C04B28/08
C09K17/02 P
C09K17/06 P
C09K17/08 P
C09K17/10 P
C09K17/44 P
G21F9/00 C
G21F9/28 Z
G21F9/30 515A
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-210737(P2013-210737)
(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公開番号】特開2015-74896(P2015-74896A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月29日
【審判番号】不服2018-3298(P2018-3298/J1)
【審判請求日】2018年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】寺島 勲
(72)【発明者】
【氏名】奥山 康二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 晃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】原口 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃介
【合議体】
【審判長】
前川 慎喜
【審判官】
有家 秀郎
【審判官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−330114(JP,A)
【文献】
特開2000−239056(JP,A)
【文献】
特開2013−205273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D3/12, E02D17/20, A01M21/00, C04B22/08-28/08, C09K17/02-17/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及び/又は高炉スラグ粉末100質量部と、CaO/Al2O3モル比1.7〜3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10〜50質量部とを配合し、前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計100質量部に対して、凝結調整剤0〜1質量部を配合した固化材を、圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で、固化材100質量部に対して、70〜300質量部の水を供給して、連続スラリー化し、20℃における固化時間が5〜40秒である固化材スラリーを調製し、調製した固化材スラリーを吐出管ホースより農地表面に吹付け、地盤を固化させることを特徴とする地盤固化方法。
【請求項2】
前記凝結調整剤が、アルカリ金属炭酸塩、オキシカルボン酸又はその塩、リン酸塩、及びデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の凝結調整剤であることを特徴とする請求項1に記載の地盤固化方法。
【請求項3】
前記吐出管ホースより吹付ける前記固化材スラリーの吐出量が0.1〜4m3/hrであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の地盤固化方法。
【請求項4】
前記吐出管ホースの長さが1〜2mであること特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の地盤固化方法。
【請求項5】
前記固化材を大気圧換算で2〜7m3/minの圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で、水又は水と空気を加えて、連続スラリー化し、固化材スラリーを調製することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の地盤固化方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の地盤固化方法を用いて、地盤の表面を固化させて雑草の繁殖を抑制することを特徴とする抑草工法。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の地盤固化方法を用いて、放射性物質で汚染された地盤の表面に、前記固化材スラリーを吹付けて、地盤を固化させることを特徴とする除染工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荒れた地盤の表面を固化して安定化させる技術であり、荒れた地盤の降雨による浸食防止や、雑草の繁殖抑制、及び地盤に堆積した放射性物質が拡散しないように防止するため、固化材スラリーを地盤、特に農地の表面に吹付けて安定化させるために用いる地盤固化方法に関する。ここで、農地とは畦畔や法面も含む。
【背景技術】
【0002】
地盤改良方法としては、地盤表面から30cm程度の土壌と、セメント又は弱アルカリ性固化材を、スタビライザーで撹拌混合して転圧する方法(特許文献1)や、セメントを地盤に注入して固結する方法が一般的に行われているが、これらは地盤を改良する方法であり、本発明のように地盤の表面を固化させる方法ではない。
【0003】
セメントミルクやセメントモルタルを圧送し、法面や斜面に吹付けして地盤を安定化させる方法が広く行われている。
セメントミルクやセメントモルタルは、現地プラント又は別のプラントでバッチ練りしているため、練混ぜ作業、ポンプで吹付ける作業、及び作業後プラントやポンプの掃除が必要のため、かなりの労力がかった。
【0004】
また、セメント、カルシウムアルミネート、及び石膏を含有する急硬材、並びに、凝結遅延剤を含有し、可使時間を調整したモルタルを法面に吹付ける方法が提案されている(特許文献2)。
しかしながら、本発明のように、セメントや高炉スラグ粉末に、カルシウムアルミネート粉末を配合した固化材を、空気圧送し、固化材供給管の先端で、加水して連続スラリー化して法面に吹付けた例はない。
【0005】
一方、抑草効果を目的に、モルタルを地盤に吹付ける方法がある(特許文献3)。
しかしながら、本発明のようにセメントや高炉スラグ粉末にカルシウムアルミネート粉末を配合した固化材を空気圧送し、固化材供給管の先端で、加水して連続スラリー化して抑草を目的に用いた例はない。
【0006】
地盤表面を固化させる方法としては、マグネシウム系固化材を現地プラントで水と練混ぜてスラリー化し、荒れた地盤を安定化させるために、そのスラリーをポンプで地盤に散布することが提案されている(特許文献4)。
しかしながら、プラントでバッチ練りしているため、練混ぜ作業、ポンプで散布する作業、及び作業後プラントやポンプの掃除が必要のため、かなりの労力がかった。
【0007】
また、マグネシウム系固化材は、完全に固化するまでに少なくとも3〜7日程度必要とするため、散布前の地盤に水溜まりがある場合や、養生期間中に降雨が発生した場合には、固化材が希釈されて固化しないで、さらに養生期間が長くなるため、地盤が安定しないで浸食されることがあった。
さらには、地盤がうねっていたり、傾斜している場合には、スラリーの固化時間が長いため、地盤低部にスラリーが溜まってしまい、全体を一定の厚さで固化させることができないため、設計以上の固化材スラリーが必要になり、経済的でなかった。特に、冬期は低温になるため、さらに、スラリーの固化時間が長くなった。
また、固化材スラリーを急結・急硬性にする方法はあるが、現状設備がバッチ練りであるため数時間硬化しない材料しか練混ぜることができず、これに替わる方法も提案されていない。また、途中で急結剤を添加する方法も考えられるが、全体のシステムが煩雑となるため現実的ではない。
【0008】
放射性廃棄物の固化方法としては、放射性廃棄物をアルカリで処理した後、高炉スラグを混合し、必要に応じて硬化速度を速めるために、12CaO・7Al
2O
3や11CaO・7Al
2O
3・CaX
2などのカルシウムアルミネートを混合して固化させる方法が提案されている(特許文献5)。
【0009】
また、放射性廃棄物を含有する汚染水の固化処理方法としては、カルシウムアルミネートと石膏、さらにベントナイト又はゼオライトを含有する固化材で固化して、埋設処理する方法が提案されている(特許文献6)。
上記の方法は、カルシウムアルミネートを主成分としているが、高炉スラグを含有しない固化材で、放射性廃棄物を含む汚染水を固化させる方法である。
【0010】
特許文献5や特許文献6のいずれの技術も、本発明のように、セメントや高炉スラグ粉末にカルシウムアルミネート粉末を配合した固化材を加水して連続スラリー化し、そのスラリーを地盤の表面に吹付けして表層のみを固化させる技術と異なり、また、カルシウムアルミネートの最適CaO/Al
2O
3モル比も示されていない。
【0011】
セメントを用いない固化材としては、カルシウムアルミネートとスラグを主成分とする懸濁型固化材を水ガラスや水溶性シリカ化合物と併用して地盤に注入して固結する工法が提案されている(特許文献7、特許文献8)。
上記の工法は、カルシウムアルミネートとスラグの混合物を使用しているが、水ガラスや水溶性シリカ化合物を必須としており、カルシウムアルミネートの最適CaO/Al
2O
3モル比も示されていない点で本発明と異なる。
【0012】
高炉スラグ、石膏、及びポルトランドセメントを含む超微粒子注入材とポリカルボン酸系分散剤でスラリー状にした注入材が提案されている(特許文献9)。
しかしながら、上記の注入材にはカルシウムアルミネートが使用されておらず、本発明のようにスラリーを使用して短時間で地盤の表面に吹付け、地盤を固化させる技術とは異なる。
【0013】
カルシウムアルミネートを主成分とする粉体急結剤をスラリー化して(特許文献10、11)、セメントコンクリートに添加する急結剤(特許文献12)がトンネル現場で用いられている。
しかしながら、特許文献10〜特許文献12は、カルシウムアルミネートを主成分とする急結剤を、必ずコンクリートに添加して、コンクリート吐出量10〜15m
3/hrで、掘削した地山に吹付ける技術であり、地盤の表面に、カルシウムアルミネートを配合した固化材スラリーを吹付けて、地盤を固化させる本発明とは規模が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−241154号公報
【特許文献2】特開平11−278902号公報
【特許文献3】特開2011−026165号公報
【特許文献4】特許第5181110号公報
【特許文献5】特開昭62−238499号公報
【特許文献6】特開2013−007599号公報
【特許文献7】特開2002−060748号公報
【特許文献8】特開2003−217054号公報
【特許文献9】特開2007−238925号公報
【特許文献10】特開2002−332798号公報
【特許文献11】特開2003−081669号公報
【特許文献12】特開2009−270282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、地盤に水溜まりがあっても、うねりがあっても、冬期であっても、地盤を短時間に固化させると共に、固化材スラリーを一定の厚さに吹付けして地盤、特に農地を安定化させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)セメント及び/又は高炉スラグ粉末100質量部と、CaO/Al
2O
3モル比1.7〜3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10〜50質量部
とを
配合し、前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計100質量部に対して、凝結調整剤0〜1質量部を
配合した固化材を、圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で、固化材100質量部に対して、70〜300質量部の水を供給して、連続スラリー化し、
20℃における固化時間が5〜40秒である固化材スラリーを調製し、調製した固化材スラリーを吐出管ホースより農地表面に吹付け、地盤を固化する地盤の固化方法である。
(2)前記凝結調整剤が、アルカリ金属炭酸塩、オキシカルボン酸又はその塩、リン酸塩、及びデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の凝結調整剤である前記(1)の地盤固化方法である。
(3)前記吐出管ホースより吹付ける前記固化材スラリーの吐出量が0.1〜4m
3/hrである前記(1)又は(2)の地盤固化方法である。
(4)前記吐出管ホースの長さが1〜2mである前記(1)〜(3)のいずれか1つの地盤固化方法である。
(5)前記固化材を、大気圧換算で2〜7m
3/minの圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で、水又は水と空気を加えて、連続スラリー化し、固化材スラリーを調製する前記(1)〜(4)のいずれか1つの地盤固化方法である。
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1つの地盤固化方法を用いて地盤の表面を固化させて雑草の繁殖を抑制する抑草工法である。
(7)前記(1)〜(5)のいずれか1つの地盤固化方法を用いて、放射性物質で汚染された地盤の表面に、前記固化材スラリーを吹付けて、地盤を固化させる除染工法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、固化材スラリーを連続して製造し、同時に地盤の表面に吹付けることができるため、効率的な作業ができ、しかも、マグネシウム系固化材のように固化時間が長くなく、固化材スラリーが短時間に固化するため、地盤に水溜まりがあっても、降雨時でも固化することができる。また、地盤がうねっていても、傾斜していても、全体を一定の厚さに吹付けることができ、短期間で地盤を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明で用いる固化材スラリーの製造装置の一例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明する。
なお、本発明で使用する部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0020】
本発明を図面に基づいて説明する。
固化材をスラリー化するために使用する水4は、水ポンプ2で、水圧送管8から水供給管9を経由して、水又は水と空気として、固化材供給管7の先端で、固化材スラリー化装置1に導入し、固化材供給管Aの周囲から水又は水と空気を添加する方法で、連続して固化材をスラリー化することができる。
【0021】
固化材は、固化材添加機3で空気圧送する。その圧縮空気の流量は、安定してスラリー化する面から、大気圧換算で2〜7m
3/minが好ましい。
【0022】
水を圧送する圧力は、安定してスラリー化する面から、固化材を空気圧送する圧力より最大0.3MPa高くすることが好ましく、0.1〜0.3MPa高くすることがより好ましい。
水を空気と共に圧送する時の水の圧送圧力は、安定してスラリー化する面から、空気の圧送圧より最大0.3MPa高くすることが好ましく、0.1〜0.3MPa高くすることがより好ましい。
【0023】
本発明で使用する固化材スラリー化装置1は、空気と水を供給する水供給管Cと、固化材供給管Aと、水が合流する吐出管Bからなり、固化材を安定してスラリー化する面から、固化材供給管Aの内径/吐出管Bの内径比(d/D)は0.3〜0.95が好ましい。
【0024】
固化材スラリー化装置1で製造された固化材スラリーは、吐出管ホース6を通り、排出され、地盤の表面に吹付けされる。
吐出管ホース6の長さは、固化材スラリー化装置1を地面に置いて、作業員が取り回しできる長さであれば良く、安定して施工ができる面で、1〜2mが好ましい。
【0025】
本発明では、0.1〜4m
3/hrの吐出量で固化材スラリーを吹付けることが、効果を得る面から好ましい。
【0026】
本発明で使用する固化材とは、セメント及び/又は高炉スラグ粉末100部に対して、CaO/Al
2O
3モル比1.7〜3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10〜50部と、必要に応じ、凝結遅延剤を含有した組成物である。
【0027】
本発明で使用するセメントは特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、及び低熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末、又はシリカを混合した各種混合セメント、いずれも使用可能である。
【0028】
本発明で使用する高炉スラグ粉末は、銑鉄を製造するときに発生する鉄鋼スラグを粉砕して製造される、一般的な高炉セメントやコンクリート用混和材として用いられているものである。
高炉スラグ粉末の粉末度は、固化材スラリーの固化時間や強度発現性の確保の面で、ブレーン比表面積(以下、ブレーン値という)で3,500cm
2/g以上が好ましく、4,000cm
2/g以上がより好ましく、5,000cm
2/g以上が最も好ましい。
【0029】
セメントと高炉スラグ粉末を併用する場合、高炉スラグ粉末の使用量は、セメント100部に対して40〜50部が好ましい。なお、セメントとして高炉セメントを使用する場合は、高炉セメント中の高炉スラグの量も含まれる。
【0030】
本発明で使用する非晶質カルシウムアルミネート粉末は、カルシア原料とアルミナ原料等を混合して、キルンで焼成し、あるいは、電気炉で溶融し、急冷して得られるCaOとAl
2O
3とを主成分とする水和活性を有する物質の総称である。
固化材スラリーの瞬結性や強度発現性の面から、CaOとAl
2O
3とのモル比(CaO/Al
2O
3モル比)は、1.7〜3.0が好ましく、2.0〜2.5がより好ましい。
さらに、本発明では、非晶質カルシウムアルミネート粉末のCaOやAl
2O
3の一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAl
2O
3とを主成分とするものに、これらが少量固溶した化合物も使用できる。
【0031】
非晶質カルシウムアルミネート粉末のガラス化率は、反応活性の面で70%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0032】
非晶質カルシウムアルミネート粉末の粒度は、急結性や初期強度発現性の面で、ブレーン値3,000cm
2/g以上が好ましく、5,000cm
2/g以上がより好ましい。
【0033】
非晶質カルシウムアルミネート粉末の使用量は、セメントと併用する場合は、セメント100部に対して、CaO/Al
2O
3モル比1.7〜3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10〜50部が好ましく、20〜30部がより好ましい。非晶質カルシウムアルミネート粉末の使用量が範囲より少ないと固化材スラリーの固化時間や強度発現性が低下する場合があり、範囲より多いと急激に固化するため、固化材スラリー化装置1内でスケーリングして固化し、閉塞する場合があり、材料コストが高くなり経済的でない。強度発現性が低いと、地盤が安定化しない場合がある。
【0034】
また、高炉スラグ粉末と併用する場合、非晶質カルシウムアルミネート粉末の使用量は、高炉スラグ粉末100部に対して、CaO/Al
2O
3モル比1.7〜3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10〜50部が好ましく、20〜40部がより好ましい。非晶質カルシウムアルミネート粉末の使用量が範囲より少ないと固化材スラリーの固化時間や強度発現性が低下する場合があり、範囲より多いと急激に固化するため、固化材スラリー化装置1内でスケーリングして固化し、閉塞する場合があり、材料コストが高くなり経済的でない。強度発現性が低いと、地盤が安定化しない場合がある。
【0035】
本発明で使用する凝結調整剤は、吹付けた固化材スラリーの固化時間を遅延して、地盤の雑草の根元等の地盤の表面まで到達させるようにするものであり、夏期の施工では固化時間が短くなるため、凝結調整剤を配合すると有効であるが、冬期に使用すると固化時間が長くなるため最低限の量に調整する必要がある。
【0036】
本願発明で使用する凝結調整剤は、アルカリ金属炭酸塩(炭酸アルカリ)、オキシカルボン酸又はその塩、リン酸塩、及びデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の凝結調整剤が使用可能である。
炭酸アルカリとしては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウムなどが挙げられる。これらの中では、初期凝結促進の面で、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0037】
オキシカルボン酸又はその塩とは、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、及びリンゴ酸、又はこれらの塩が挙げられ、これらの一種又は二種以上が使用可能である。これらの中では、硬化時間の調整と初期強度発現性が良い面で、クエン酸とグルコン酸又はこれらの塩が好ましい。
【0038】
炭酸アルカリとオキシカルボン酸を併用した場合の各材料割合は、硬化時間の調整や強度発現性の面から、炭酸アルカリ100部に対して、オキシカルボン酸10〜40部が好ましい。
【0039】
リン酸塩とは、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、トリポリリン酸塩、及びヘキサメタリン酸塩が挙げられ、これらの一種又は二種以上が使用可能である。これらの中では、硬化時間の調整と初期強度発現性が良い面から、第一リン酸塩とトリポリリン酸塩が好ましい。
【0040】
デキストリンとは、ジャガイモやトウモロコシのデンプンを原料として加熱・酵素処理し、消化されにくいデンプン分解物を精製・分離した水溶性食物繊維であり、市販品が使用可能である。
【0041】
凝結調整剤の使用量は、温度と固化時間の面から、固化材100部に対して、0〜1部が好ましく、0.01〜0.5部がより好ましい。凝結調整剤を配合しないと、夏期で高温になると固化時間が短いため、地盤の雑草の根元等地盤の表面までスラリーが到達しないため、地盤を固化できない場合があり、固化材スラリー化装置ではスケーリングして固化し閉塞する場合がある。凝結調整剤の使用量が多いと、固化時間が長くなるため、地盤のうねった場所や傾斜のある場所では、一定の厚さに吹付けることができない場合があり、冬期の低温時では顕著に固化時間が長くなるため適正量に調整する必要がある。
【0042】
固化材スラリーの固化時間は、地盤の雑草の根元等地盤の表面までスラリーが到達するのに必要な時間であり、固化材スラリーの固化や、全体を一定の厚さに吹付ける面から、5〜30秒が好ましく、10〜20秒がより好ましい。
【0043】
常温での固化時間が5〜30秒の場合、高温の30℃では2〜15秒になり、低温の5℃では15〜180秒になる場合がある。そのため、夏期では凝結調整剤を配合してスラリーの固化時間を遅延する必要がある。また、冬期では凝結調整剤を少なくするか、配合しない場合がある。
【0044】
本発明では、冬期の施工や傾斜の強い地盤を吹付けするときには、固化時間を短縮して強度発現性を高めるために、連続スラリー化した後で、硬化促進剤を併用することが可能である。
【0045】
本発明で使用する硬化促進剤としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アルミン酸ソーダ、及び硫酸アルミニウムの一種又は二種以上を液状にして、固化材供給管の先端で添加する水に添加して併用することが可能である。
硬化促進剤の使用量は、固化時間を短縮させる面から、固化材100部に対して、1〜10部が好ましい。
【0046】
本発明で使用する固化材スラリー中の水量は、固化材100部に対して、70〜300部が好ましく、100〜200部がより好ましい。70部未満では固化材スラリーを均一に吹付けできない場合があり、経済的でなく、固化材スラリーの粘度が上昇して吐出管内でスケーリングして固化し閉塞する場合がある。300部を超えると固化材スラリーの固化時間が遅れて固化せず、強度発現性が低下し、地盤を固化する効果が低下する場合がある。
【実施例】
【0047】
以下、実験例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
実験例1
セメント100部と非晶質カルシウムアルミネート粉末αを表1に示す量配合して、セメントと非晶質カルシウムアルミネート粉末の合計100部に対して、凝結調整剤aを0.1部配合した固化材100部に対して、水150部を加えて練混ぜて、固化材スラリーを調製した。調製した固化材スラリーの固化時間と圧縮強度を測定した。結果を表1に併記する。
【0049】
<使用材料>
セメントa:普通ポルトランドセメント、市販品、ブレーン値3,200cm
2/g、比重3.15
セメントb:高炉B種セメント、市販品、高炉スラグ45%含有、ブレーン値3,800cm
2/g、比重3.04
非晶質カルシウムアルミネート粉末α:CaO/Al
2O
3モル比2.2、ブレーン比表面積5,000cm
2/g、ガラス化率98%
凝結調整剤a:クエン酸、市販品
【0050】
<測定方法>
固化時間 :固化材スラリーを200ccの容器にいれ、固化材スラリーの流動性がなくなった時間
圧縮強度 :JIS R 5201に準じて測定した。材齢1日までは20℃気乾養生、以降は標準養生とした。
【0051】
【表1】
【0052】
実験例2
高炉スラグ粉末100部に対して、非晶質カルシウムアルミネート粉末αを表2に示す量配合して、高炉スラグ粉末と非晶質カルシウムアルミネート粉末の合計100部に対して、凝結調整剤a0.03部を配合したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0053】
<使用材料>
高炉スラグ粉末:市販の高炉スラグ粉末、ブレーン比表面積6,000cm
2/g
【0054】
【表2】
【0055】
実験例3
普通ポルトランドセント100部に対して、表3に示すCaO/Al
2O
3モル比の非晶質カルシウムアルミネート粉末を30部配合したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0056】
【表3】
【0057】
実験例4
高炉スラグ粉末100部に対して、表4に示すCaO/Al
2O
3モル比の非晶質カルシウムアルミネート粉末を30部配合して、凝結調整剤a0.03部を配合した固化材100部に対して水150部を加えて練混ぜて、固化材スラリーの固化時間と圧縮強度を測定した。
なお、使用材料は実験例2、測定方法は実験例1と同様とした。結果を表4に併記する。
【0058】
【表4】
【0059】
実験例5
高炉スラグ粉末100部と非晶質カルシウムアルミネート粉末α30部を配合して、高炉スラグ粉末と非晶質カルシウムアルミネート粉末の合計100部に対して、表5に示す凝結調整剤を配合した固化材100部に対して、水150部を加えて練混ぜて、固化材スラリーを調製した。調製した固化材スラリーの5℃、20℃、及び30℃の固化時間と、20℃の圧縮強度を測定した。なお、使用材料は実験例2、測定方法は実験例1と同様とした。結果を表5に併記する。
【0060】
<使用材料>
凝結調整剤b:グルコン酸ソーダ、市販品
凝結調整剤c:第一リン酸ソーダ、市販品
凝結調整剤d:重炭酸ソーダ、市販品
凝結調整剤e:炭酸ソーダ、市販品
凝結調整剤f:デキストリン、市販品
【0061】
【表5】
【0062】
実験例6
固化材の添加機3として、デンカNATMクリートを使用し、それに、配管口径1Bの固化材供給管(ホース)を40m取付け、固化材スラリー化装置1まで0.4MPaの圧力と5m
3/minの空気量で空気輸送した。固化材スラリー化装置1に、2m
3/minの空気を輸送し、水ポンプ2で水4を、0.6MPaの圧力で圧入した。固化材スラリー化装置1の吐出管の内径/供給管の内径比(d/D)は0.7とし、固化材スラリー化装置1からの、配管口径1.25Bの吐出管ホース6の長さを1.5mとした。
【0063】
固化材は、高炉スラグ粉末100部に対して、非晶質カルシウムアルミネート粉末αを30部配合して、高炉スラグ粉末と非晶質カルシウムアルミネート粉末の合計100部に対して、凝結調整剤aを表6に示す量配合した。固化材を10kg/minで圧送し、スラリー化する水は固化材100部に対して、150部として、15リットル/minの割合で加水し、固化材スラリーを調製した。調製した固化材スラリーを、23℃で1m
3/hrの吐出量で圧送し、型枠に吹付けし、固化時間と圧縮強度を測定した。また、1m×1mの面積で雑草を刈り取った地盤にも吹付けして土の付着量を測定した。固化材スラリー化装置のスケーリング状態は、デンカNATMクリートの圧送圧で評価した。圧送圧が上がった場合は、固化材スラリー化装置内でスケーリングしたと評価した。なお、使用材料は実験例2、測定方法は実験例1と同様とした。結果を表6に併記する。
【0064】
<使用材料>
地盤 :草刈りして地面より1cm程度雑草を残した。
【0065】
<測定方法>
圧送圧 :デンカNATMクリートの圧送圧ゲージで測定
土の付着量:地盤に吹付けして一日後に、硬化した固化材の10cm×10cmの面積をヘラで剥ぎ取った。その固化体に付着した土の質量を測定した。
【0066】
【表6】
【0067】
実験例7
固化材は、セメント又は高炉スラグ粉末100部に対して、非晶質カルシウムアルミネート粉末α30部を配合し、セメント又は高炉スラグ粉末と非晶質カルシウムアルミネート粉末の合計100部に対して、凝結調整剤aは、セメントの場合は0.1部、高炉スラグ粉末の場合は0.03部配合した。固化材をスラリー化する水は固化材100部に対して150部にして吹付けした。なお、使用材料は、実験例6と同様とした。
【0068】
<測定方法>
吹付けした地盤と、吹付けしていない地盤を三ヶ月後に、観察した。
【0069】
三ヶ月後に観察した結果、吹付けしていない地盤からは多くの雑草が生えていたが、吹付けした地盤からは雑草が生えていなかった。
【0070】
実験例8
固化材は、セメント又は高炉スラグ粉末100部に対して、非晶質カルシウムアルミネート粉末α30部、セメント又は高炉スラグ粉末と非晶質カルシウムアルミネート粉末αの合計100部に対して、凝結調整剤aは、セメントの場合は0.1部、高炉スラグ粉末の場合は0.03部配合した。固化材をスラリー化する水は固化材100部に対して表7に示す量変えて、バットに詰めた土の上と、型枠に吹付けた。
なお、使用材料は、土以外は実験例1と2、測定方法は、山中式土壌硬度計による強度測定以外は実験例6と同様とした。結果を表7に併記する。
【0071】
<使用材料>
土 :粘性土、含水比50%
模擬土 :バットに詰めた粘性土
【0072】
<測定方法>
土の強度 :341×480×82mmのステンレスバットに、土を約75mm詰め、その土の表面に固化材スラリーを吹付けし、7日間養生後、山中式土壌硬度計で土の強度を測定した。
【0073】
【表7】
【0074】
実験例9
凝結調整剤aを高炉スラグ粉末100部に対して0.03部配合して、固化材を空気圧送する圧縮空気量を表8に示す量に変えたこと以外は実験例6と同様に試験した。結果を表8に併記する。
【0075】
<測定方法>
粉じん量:吹付場所から風下5mの場所で、デジタル粉塵計P5Lで、1分間の粉じん量を測定した。
【0076】
【表8】
【0077】
実験例10
固化材は、セメント又は高炉スラグ粉末100部に対して、表9に示した量に変えて非晶質カルシウムアルミネート粉末αを配合し、セメント又は高炉スラグ粉末と非晶質カルシウムアルミネート粉末αの合計100部に対して、セメントの場合は0.1部の、高炉スラグ粉末の場合は0.03部の凝結調整剤aを配合した。固化材をスラリー化する水は固化材100部に対して150部にして吹付けた。なお、使用材料は、土以外は実験例1と2、測定方法は、ヨウ素の分析以外は実験例6と同様とした。結果を表9に併記する。
【0078】
<使用材料>
土 :粘性土、含水比50%
ヨウ化ナトリウム水溶液:水100部にヨウ化ナトリウム試薬1部溶解
模擬汚染土:バットに詰めた水田の土の表面にヨウ化ナトリウムを散布して室内で一日乾燥
【0079】
<測定方法>
ヨウ素量 :341×480×82mmのステンレスバット二枚に、水田の土を約75mm詰め、一枚には、ヨウ化ナトリウ水溶液を均一に散布して室内で一日乾燥し、その土の表面に固化材スラリーを吹付けし、7日間養生後、硬化した固化材をヘラで剥ぎ取った。その下の土を表面から10mm程度採取し、乾燥させた土中のヨウ素量をICPで分析した。
【0080】
【表9】
【0081】
実験例11
固化材は、高炉スラグ粉末100部に対して、非晶質カルシウムアルミネート粉末αを30部配合し、高炉スラグ粉末と非晶質カルシウムアルミネート粉末αの合計100部に対して、0.03部の凝結調整剤aを配合した。固化材をスラリー化する水は固化材100部に対して、150部にして、表10に示した量の吐出量で吹付け、圧送圧を測定したこと以外は実験例6と同様とした。なお、吐出量が3.0m
3/hrと4.0m
3/hrの場合は、40mの固化材供給管(ホース)の配管口径は1.25Bとした。結果を表10に併記する。
【0082】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、荒れた地盤を安定化するために、固化材スラリーを地盤に吹付けして短時間に固化することで、降雨による地盤の浸食や、雑草の繁殖を抑制することができる。また、放射能汚染された地盤から再び放射性物質が拡散しないように防止するために、固化材スラリーを地盤に吹付けし、放射性物質を封じ込め、または、短時間に固化することで表層土を削り取るための養生期間を必要とせず、放射性物質を再拡散させずに除染作業を速やかに行えるようになる。
【符号の説明】
【0084】
1 固化材スラリー化装置
2 水ポンプ
3 固化材添加機
4 水
5 コンプレッサー
6 吐出管ホース
7 固化材供給管
8 水圧送管
9 水供給管
A 固化材供給管
B 吐出管
C 水供給管