特許第6474212号(P6474212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6474212中空シリカ粒子の製造方法及び中空シリカ粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474212
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】中空シリカ粒子の製造方法及び中空シリカ粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/143 20060101AFI20190218BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C01B33/143
   C01B33/18
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-166604(P2014-166604)
(22)【出願日】2014年8月19日
(65)【公開番号】特開2016-41643(P2016-41643A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2017年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】大木 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
(72)【発明者】
【氏名】小倉 卓
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/001905(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH9.0〜11.7で、ベシクルの生成能力を備えた界面活性剤を含有する水溶液からベシクルを形成して、前記ベシクルを含有する第一水性分散液を得るベシクル形成工程と、
前記第一水性分散液にシリカ前駆体を添加して、前記ベシクルと前記シリカ前駆体とを含有する第二水性分散液を得るシリカ前駆体添加工程と、
前記第二水性分散液のpHを6.0〜8.5に調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程後に、前記第二水性分散液を水熱反応に付して、中空シリカ粒子を得る水熱処理工程と、
を含む中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
更に、前記pH調整工程と前記水熱処理工程との間に、前記第二水性分散液を撹拌する撹拌工程を含む請求項1に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
更に、前記水熱処理工程で得た中空シリカ粒子を焼成する焼成工程を含む請求項1又は2に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
FT−IRスペクトルにおいて、界面活性剤に由来する吸収ピークが観察され、かつ、O−H変角振動に帰属される吸収ピークが観察される中空シリカ粒子。
【請求項5】
前記界面活性剤に由来する吸収ピークが、波数2960cm−1、2870cm−1、及び1460cm−1における吸収ピークである請求項4に記載の中空シリカ粒子。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の中空シリカ粒子を焼成する焼成工程を含む中空シリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリカ粒子の製造方法及び中空シリカ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、界面活性剤が形成する分子集合体を鋳型として用い、メソポーラス金属酸化物を合成する方法が報告された(非特許文献1)。このようなメソポーラス金属酸化物は、高比表面積であり、均一な細孔を有するため、触媒担体、香粧品等、多岐にわたる分野での利用が期待されている。
【0003】
しかしながら、上記の方法で得られたメソポーラス金属酸化物の形状は、鋳型である界面活性剤が形成する分子集合体の形状に依存するため、使用目的によってはその効果を十分に得ることができないという問題もあった。
【0004】
したがって、従来のメソポーラス金属酸化物とは異なる新しい形状の金属酸化物の製造方法を案出し、これにより得られた生成物の物性を調べ、その利用を図ることが求められていた。このような求めに応じて、新しい形状の金属酸化物の製造方法が報告されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5462770号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chemistry of Materials)」、スタッキー(Stucky)著、アメリカンケミカルソサエティ(AmericanChemical Society)、アメリカ合衆国、1994年、第6巻第8号、p.1176−1191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来の製造方法によれば、例えば、一次粒径が100nm以下の中空シリカナノ粒子を得ることができる。しかし、本発明者らの検討によれば、従来の製造方法で得られた中空シリカナノ粒子は、凝集しやすく、水性溶媒への分散性に劣ることが判明した。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子の製造方法、及びその製造方法により製造し得る中空シリカ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、中空シリカ粒子の製造方法における特定の2工程の各々において、pHを特定の範囲に調整することにより、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
本発明の第1の態様は、pH9.0〜11.7で、ベシクルの生成能力を備えた界面活性剤を含有する水溶液からベシクルを形成して、上記ベシクルを含有する第一水性分散液を得るベシクル形成工程と、上記第一水性分散液にシリカ前駆体を添加して、上記ベシクルと上記シリカ前駆体とを含有する第二水性分散液を得るシリカ前駆体添加工程と、上記第二水性分散液のpHを6.0〜8.5に調整するpH調整工程と、上記pH調整工程後に、上記第二水性分散液を水熱反応に付して、中空シリカ粒子を得る水熱処理工程と、を含む中空シリカ粒子の製造方法である。
本発明の第2の態様は、FT−IRスペクトルにおいて、界面活性剤に由来する吸収ピークが観察され、かつ、O−H変角振動に帰属される吸収ピークが観察される中空シリカ粒子である。
本発明の第3の態様は、第2の態様に係る中空シリカ粒子を焼成する焼成工程を含む中空シリカ粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子の製造方法、及びその製造方法により製造し得る中空シリカ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1における中空シリカ粒子の製造方法について手順を表すフローチャートを示す図である。
図2】一部の実施例又は一部の比較例で得られたシリカ粒子のTEM写真を示す図である。
図3】実施例1で得られた中空シリカ粒子の粒子径分布を示す図である。
図4】水熱処理を行って得たシリカ粒子と水熱処理を省略して得たシリカ粒子とについて、29Si−NMR測定を行って得られたグラフを示す図である。
図5】pHを11.5から8.0に調整して得たシリカ粒子とpHを11.5に保持して得たシリカ粒子とについて、FT−IR測定を行って得られたグラフを示す図である。図5(a)は焼成前、図5(b)は焼成後の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<中空シリカ粒子の製造方法>
本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法は、pH9.0〜11.7で、ベシクルの生成能力を備えた界面活性剤を含有する水溶液からベシクルを形成して、上記ベシクルを含有する第一水性分散液を得るベシクル形成工程と、上記第一水性分散液にシリカ前駆体を添加して、上記ベシクルと上記シリカ前駆体とを含有する第二水性分散液を得るシリカ前駆体添加工程と、上記第二水性分散液のpHを6.0〜8.5に調整するpH調整工程と、上記pH調整工程後に、上記第二水性分散液を水熱反応に付して、中空シリカ粒子を得る水熱処理工程と、を含む。本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法によれば、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子を得ることができる。また、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法によれば、中空シリカ粒子の平均粒子径を100nm以下、好ましくは30〜70nmに調整することが容易である。なお、本明細書において、平均粒子径とは、動的光散乱測定法(DLS)で測定された数平均粒子径をいう。
【0014】
本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法で得られる中空シリカ粒子は、水性溶媒への分散性に優れ、薬物担体、触媒担体、化粧品基、屈折率調整、反射防止フィルムの原料、ドラッグデリバリーシステムのキャリア等として好適に利用することができる。
【0015】
[ベシクル形成工程]
ベシクル形成工程では、pH9.0〜11.7で、ベシクルの生成能力を備えた界面活性剤を含有する水溶液からベシクルを形成して、前記ベシクルを含有する第一水性分散液を得る。ベシクルとは、界面活性剤が形成する二分子膜閉鎖小胞体である。本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法において、ベシクルは、中空シリカ粒子を製造するための鋳型として用いられる。即ち、上記製造方法においては、ベシクルの表面においてシリカ前駆体をシリカに転化することで、ベシクル全体をシリカ膜で被覆して、中空シリカ粒子を製造する。ベシクルの形成に用いられた界面活性剤は、後述の焼成工程で説明する通り、適宜、中空シリカ粒子から除去される。界面活性剤は、ベシクルの生成能力を備える限り、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
ベシクル形成工程におけるpHは、9.0〜11.7であり、好ましくは11.0〜11.7である。上記pHが9.0以上であると、中空シリカ粒子を得やすい。上記pHが11.7以下であると、中空シリカ粒子の平均粒子径が100nm以下になりやすい。また、上記pHが11.0〜11.7であると、平均粒子径100nm以下の中空シリカ粒子を得やすいことに加え、中空構造が崩壊したシリカ粒子の割合を効果的に低く抑えることができる。
【0017】
ベシクルの生成能力を備えた界面活性剤としては、例えば、二鎖型カチオン界面活性剤単独、二鎖型カチオン界面活性剤と一鎖型カチオン界面活性剤との組み合わせ、二鎖型及び/又は一鎖型カチオン界面活性剤とアニオン界面活性剤との組み合わせ等を用いることができ、二鎖型カチオン界面活性剤単独、及び、二鎖型カチオン界面活性剤と一鎖型カチオン界面活性剤との組み合わせが好ましい。二鎖型カチオン界面活性剤と一鎖型カチオン界面活性剤とのモル比は、6/4〜10/0であることが好ましく、8/2〜9/1であることがより好ましい。上記モル比が上記範囲内であると、ベシクルが形成されやすく、また、ベシクルのサイズを調整しやすい。
【0018】
二鎖型カチオン界面活性剤としては、ベシクルの生成能力を備える限り、特に限定されず、従来、ベシクルの製造に用いられている二鎖型カチオン界面活性剤を使用することができる。二鎖型カチオン界面活性剤としては、例えば、炭素原子数12〜20のアルキル基を2個有するものが挙げられ、具体例としては、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムブロマイド等のジアルキルジメチルアンモニウム塩;ポリオキシエチレン付加ジヘキサデシルジメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン付加ジオクタデシルジメチルアンモニウム塩等のポリオキシエチレン付加ジアルキルジメチルアンモニウム塩が挙げられ、アルキル基の炭素原子数が12〜20のジアルキルジメチルアンモニウム塩が好ましい。二鎖型カチオン界面活性剤の具体例において、塩としては、例えば、ブロマイド塩、クロライド塩等が挙げられる。
【0019】
一鎖型カチオン界面活性剤としては、ベシクルの生成能力を備える限り、特に限定されず、従来、ベシクルの製造に用いられている一鎖型カチオン界面活性剤を使用することができる。一鎖型カチオン界面活性剤としては、例えば、炭素原子数12〜20のアルキル基を1個有するものが挙げられ、具体例としては、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(DTAB)、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩;ポリオキシエチレン付加ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン付加オクタデシルトリメチルアンモニウム塩等のポリオキシエチレン付加アルキルトリメチルアンモニウム塩が挙げられ、アルキル基の炭素原子数が12〜20のアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。また、ヘキサデシルピリジニウムブロマイド、オクタデシルピリジウニウムブロマイド等のアルキルピリジニウム塩;ヘキサデシルイミダゾリウムブロマイド、オクタデシルイミダゾリウムブロマイド等のアルキルイミダゾリウム塩等の一鎖型カチオン界面活性剤が挙げられる。一鎖型カチオン界面活性剤の具体例において、塩としては、例えば、ブロマイド塩、クロライド塩等が挙げられる。
【0020】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン付加アルキル硫酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、N−アシルアルキルタウリン酸、α−オレフィンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩等が挙げられる。このうち、アルキル基の炭素原子数が8〜20のアルキル硫酸塩が好ましい。アニオン界面活性剤の例において、塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0021】
ベシクルの生成能力を備えた界面活性剤を含有する水溶液において、界面活性剤の濃度は特に限定されないが、カチオン界面活性剤の濃度は30〜60mMであることが好ましく、アニオン界面活性剤の濃度は、5〜15mMであることが好ましい。
【0022】
より具体的には、ベシクル形成工程において、ベシクルは、例えば、ベシクルの生成能力を備えた界面活性剤を含有する水溶液のpHを9.0〜11.7に調整した後、この水溶液に対して超音波照射を行うことにより、形成することができる。pHの調整には、例えば、アルカリ物質が用いられる。アルカリ物質としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、アンモニアが好ましい。超音波照射に用いられる超音波の周波数は、例えば、20〜200kHzであることが好ましい。また、超音波照射に用いられる超音波の強度は、例えば、75〜600Wであることが好ましい。
【0023】
[シリカ前駆体添加工程]
シリカ前駆体添加工程では、上記第一水性分散液にシリカ前駆体を添加して、上記ベシクルと上記シリカ前駆体とを含有する第二水性分散液を得る。第一水性分散液にシリカ前駆体を添加することで、上記シリカ前駆体の加水分解及び重縮合反応が始まる。特に、上記ベシクルの表面においては、この加水分解及び重縮合反応によりシリカ前駆体がシリカに転化し、ベシクル全体がシリカ膜で被覆され、中空シリカ粒子が形成される。シリカ前駆体は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
シリカ前駆体としては、例えば、Si(OR)(R)4−n(式中、Rは、アルキル基を表し、nは1〜4の整数を表し、Rは同一でも異なっていてもよい。)で表されるアルコキシシランが挙げられる。Rとしては、例えば、炭素原子数1〜10のアルキル基が挙げられ、炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素原子数1〜4のアルキル基がより好ましい。nは、2〜4の整数であることが好ましく、3又は4であることがより好ましく、4であることが更により好ましい。シリカ前駆体の具体例としては、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトラプロピルオルソシリケート、テトラブチルオルソシリケート等が挙げられ、テトラエチルオルソシリケートが好ましい。
【0025】
シリカ前駆体の添加量は、第二水性分散液におけるシリカ前駆体の濃度が0.01〜0.5Mとなる量であることが好ましい。
【0026】
第一水性分散液にシリカ前駆体を添加した後は、例えば、15〜35℃の温度、500〜1000rpmの回転数で撹拌することが好ましい。撹拌時間は、30分〜24時間であることが好ましく、1〜12時間であることがより好ましく、1〜3時間であることが更により好ましい。
【0027】
[pH調整工程]
pH調整工程では、上記第二水性分散液のpHを6.0〜8.5に調整する。pH調整工程において、pHを9.0〜11.7の範囲から6.0〜8.5の範囲に変更することで、ベシクル表面で形成されたシリカ膜上に存在するシラノール基同士が脱水縮合により架橋されて当該シラノール基が減少しやすくなり、また、残存するシラノール基は水和した状態になりやすくなる。その結果、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法で得られる中空シリカ粒子では、シラノール基の残存量が少なく、残存するシラノール基は水和した状態になっているため、粒子間でシラノール基同士の重縮合反応が抑制されやすく、水性溶媒への分散性が向上しやすいと考えられる。
【0028】
pH調整工程において、上記第二水性分散液のpHは、6.0〜8.5に調整され、好ましくは7.0〜8.0に調整される。pH調整工程において、上記pHが上記範囲に調整されると、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子を得やすい。
【0029】
pHの調整には、例えば、酸性物質が用いられる。酸性物質としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられ、塩酸が好ましい。
【0030】
[水熱処理工程]
水熱処理工程では、上記pH調整工程後に、上記第二水性分散液を水熱反応に付して、中空シリカ粒子を得る。水熱処理工程において、第二水性分散液を水熱反応に付することにより、ベシクル表面で形成されたシリカ膜中に残存していたシラノール基の間で、重縮合反応が促進され、結果として、中空シリカ粒子を乾燥させた後も、中空構造を保持することができる強固なシリカ膜を形成しやすくなる。
【0031】
水熱反応は、例えば、80〜190℃、好ましくは110〜160℃の温度条件下、オートクレーブ中で高圧処理することにより行うことができる。水熱反応の時間は、特に限定されず、温度条件に応じて、適宜、設定される。一般的には、例えば、4時間以上、好ましくは5時間以上である。より具体的には、水熱反応の温度が120℃である場合、水熱反応の時間は、例えば、9時間以上、好ましくは11時間以上である。また、水熱反応の温度が150℃である場合、水熱反応の時間は、例えば、4時間以上、好ましくは5時間以上である。水熱反応の時間の上限は、特に限定されず、実用性の観点から、例えば、60時間以下、好ましくは50時間以下に設定される。
【0032】
上記水熱処理工程で得た中空シリカ粒子は、適宜、常法により固液分離及び洗浄を行った後、乾燥する。固液分離としては、例えば、吸引濾過が挙げられる。なお、水熱処理工程後に反応物を常温に戻す際、反応物を静置してもよいし、撹拌してもよいが、撹拌することが好ましい。これにより、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子が更に得やすくなる場合がある。
【0033】
[撹拌工程]
本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法は、更に、上記pH調整工程と上記水熱処理工程との間に、上記第二水性分散液を撹拌する撹拌工程を含んでもよい。撹拌工程において、上記第二水性分散液を撹拌することにより、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子が更に得やすくなる。
【0034】
撹拌工程においては、15〜35℃の温度、500〜1000rpmの回転数で撹拌することが好ましい。撹拌時間は、1〜24時間であることが好ましく、6〜18時間であることがより好ましく、11〜13時間であることが更により好ましい。
【0035】
[焼成工程]
本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法は、更に、上記水熱処理工程で得た中空シリカ粒子を焼成する焼成工程を含んでもよい。焼成工程における焼成により、中空シリカ粒子中の界面活性剤を除去することができる。
【0036】
上記焼成に付される中空シリカ粒子としては、例えば、上記水熱処理工程で得た中空シリカ粒子を常法により固液分離及び洗浄を行った後、乾燥することにより得た中空シリカ粒子を用いることができる。
【0037】
上記焼成は、例えば、400〜600℃程度の温度で、1〜12時間程度、好ましくは4〜8時間程度加熱することにより行うことができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1〜13 及び比較例1〜10]
以下の通りにして、シリカ粒子を得た。なお、図1は、実施例1における中空シリカ粒子の製造方法について手順を示すフローチャートである。
超純水に、二鎖型カチオン界面活性剤であるジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)及び一鎖型カチオン界面活性剤であるドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(DTAB)を全濃度で60mMとなるように添加して混合し(DDABとDTABとのモル比DDAB/DTAB=9/1)、25gの界面活性剤混合水溶液を調製した。調製した界面活性剤混合水溶液にアンモニア水を添加して、界面活性剤混合水溶液のpHを表1及び2における「ベシクル形成時のpH」欄に記載の値に調整した。この界面活性剤混合水溶液に対して、28kHzの超音波照射(300W)を2時間行い、ベシクルを含有する第一水性分散液を得た。
【0040】
第一水性分散液に対して、表1及び2に記載のシリカ前駆体を添加し、25℃、500rpmで2時間撹拌を行い、上記ベシクルと上記シリカ前駆体とを含有する第二水性分散液を得た。なお、表1及び2において、TMOSはテトラメチルオルソシリケートを、TEOSはテトラエチルオルソシリケートを、TPOSはテトラプロピルオルソシリケートを、TBOSはテトラブチルオルソシリケートを表す。また、TMOSの添加量は1.5g、TEOSの添加量は2.0g、TPOSの添加量は2.5g、TBOSの添加量は3.1gであった。これらの添加量は、いずれのシリカ前駆体についても9.6mmolに相当する。
【0041】
第二水性分散液に塩酸を添加して、第二水性分散液のpHを表1及び2における「変更後のpH」欄に記載の値に調整した。ただし、比較例5、8、及び9では、塩酸の添加を行わず、pH値を保持した。
【0042】
その後、第二水性分散液を25℃、500rpmで撹拌した。撹拌時間は、表1及び2に記載の通りであった。なお、実施例3では、撹拌時間が0時間であった。即ち、実施例3では、撹拌を行わず、pH調整後、直ちに下記の水熱反応を行った。
【0043】
その後、オートクレーブを用いて、第二水性分散液を水熱反応に付した。水熱反応の温度及び時間は、表1及び2に記載の通りであった。なお、比較例10では、水熱反応の時間が0時間であった。即ち、比較例10では、水熱反応を行わず、pH変更後の撹拌後、直ちに下記の吸引濾過を行った。
【0044】
水熱反応の生成物を吸引濾過により濾別し、得られた粒子を水洗した。次いで、この粒子を電気炉により120℃で24時間乾燥し、粉状物を得た。
【0045】
[評価]
得られた粉状物0.05gを超純水10mlに分散させて測定用分散液を調製した。この測定用分散液を用いて、以下の観察又は測定を行った。
【0046】
(TEM観察)
測定用分散液を試料としてTEM観察を行い、下記の基準で中空シリカ粒子形成の成否及びシリカ粒子の分散性を評価した。結果を表1及び2に示す。また、実施例1及び2並びに比較例5及び9については、TEM写真を図2に示す。
・中空シリカ粒子形成の成否(表1及び2では「中空粒子」欄に記載)
○:良好な中空シリカ粒子が形成された。
△:中空シリカ粒子が形成されたが、中空構造が崩壊したシリカ粒子が混在していた。
×:中空シリカ粒子が形成されなかった。
・シリカ粒子の分散性(表1及び2では「分散性」欄に記載)
○:シリカ粒子が良好に分散していた。
△:シリカ粒子が部分的に凝集していた。
×:シリカ粒子が全体にわたり凝集していた。
【0047】
(目視観察)
測定用分散液を目視で観察し、下記の基準でシリカ粒子の分散状態を評価した。結果を表1及び2に示す。
○:測定用分散液は均一に白濁していた。
×:測定用分散液では、シリカ粒子の沈殿が観察された。
【0048】
(粒子径分布の測定)
測定用分散液について、動的光散乱測定法(DLS)により粒子径分布(数基準)を測定し、凝集したシリカ粒子に対応するピーク(200〜500nm程度に出現。以下、「凝集ピーク」という。)について下記の基準で評価した。結果を表1及び2に示す。また、実施例1については、上記粒子径分布を図3に示す。
○:凝集ピークが観察されなかったか、粒子径分布において、凝集ピークの占める割合が相対的に低かった。
×:粒子径分布において、凝集ピークの占める割合が相対的に高かった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1及び2に示す通り、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法により、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子が得られることが確認された。一方、比較例1〜9では、ベシクル形成時のpH又はpH調整工程における変更後のpHが、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法において規定されるpHの範囲を満たしておらず、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子が得られなかった。また、水熱反応を行わなかった比較例10でも、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子が得られなかった。
【0052】
[実施例14及び比較例11]
水熱処理の時間を6時間から48時間に変更した以外は実施例1と同様にして、粉状物を得た。この粒状物について、29Si−NMR測定を行った(実施例14)。
一方、比較例10において水熱反応を行わずに得た粒状物について、29Si−NMR測定を行った(比較例11)。
結果を図4に示す。図4において、Q及びQは下記の構造を表す。
:Si(OSi)(OH)
:Si(OSi)
【0053】
図4において、Qに対応するピークの面積とQに対応するピークの面積との面積比Q/Qを計算したところ、実施例14では1.8であったのに対し、比較例11では0.58であった。このことから、加水分解及び重縮合反応後もQ中に残存していたシラノール基の間で、水熱処理により重縮合反応が促進され、Qが増加したと考えられる。即ち、水熱処理には、中空シリカ粒子を乾燥させた後も、中空構造を保持することができる強固なシリカ膜を形成させる働きがあることが示唆される。
【0054】
[実施例15及び16並びに比較例12及び13]
実施例1において第二水性分散液のpHを11.5から8.0に調整して得た粒状物について、FT−IR測定を行った(実施例15)。結果を図5(a)に示す。
一方、比較例5において第二水性分散液のpHを11.5に保持して得た粒状物について、FT−IR測定を行った(比較例12)。結果を図5(a)に示す。
また、実施例1で得た粉状物を電気炉により500℃で6時間焼成した。焼成後の粉状物について、FT−IR測定を行った(実施例16)。結果を図5(b)に示す。
同様に、比較例5で得た粉状物を電気炉により500℃で6時間焼成した。焼成後の粉状物について、FT−IR測定を行った(比較例13)。結果を図5(b)に示す。
【0055】
図5(a)において、IRスペクトルの帰属は、以下の通りである。
3440cm−1:O−H伸縮振動、又は、表面吸着水によるO−H振動
1630cm−1:O−H変角振動(即ち、末端Si−OHに水素結合した水によるO−H変角振動)
1100〜1000cm−1:Si−O−SiにおけるSi−O伸縮振動
960cm−1:O−H非対称振動(Si−OH)
【0056】
図5(a)から明らかな通り、実施例15では、比較例12と比較して、1100〜1000cm−1における吸収が増加するとともに、960cm−1における吸収が減少し、また、1630cm−1における吸収が増加した。これらの結果から、第二水性分散液のpHを11.5から8.0に変更し、水熱処理に付することによって、シリカ粒子上に存在するシラノール基同士が脱水縮合により架橋されて当該シラノール基が減少し、また、残存するシラノール基は水和した状態になっていることが確認された。このように、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法で得られる中空シリカ粒子では、シラノール基の残存量が少なく、残存するシラノール基は水和した状態になっているため、粒子間でシラノール基同士の重縮合反応が抑制されやすく、水性溶媒への分散性が向上しやすいと考えられる。
【0057】
図5(b)において、IRスペクトルの帰属は、以下の通りである。
3750cm−1:O−H伸縮振動(Si−OH単独ピーク)
3650〜3300cm−1:O−H伸縮振
2960cm−1、2870cm−1:C−H対称・非対称振動
1460cm−1:C−H変角振動(CH−、CH−)
【0058】
図5(b)から明らかな通り、実施例16及び比較例13では、2960cm−1、2870cm−1、及び1460cm−1における吸収が観察されなかった。このことから、焼成により界面活性剤が除去されたことが確認された。また、実施例16では、比較例13と比較して、3750cm−1における吸収が減少した。これらの結果から、第二水性分散液のpHを11.5から8.0に変更することによって、シリカ粒子上に単独で存在するシラノール基が減少していることが確認された。このように、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法で得られる中空シリカ粒子では、単独で存在するシラノール基の残存量が少ないため、粒子間でシラノール基同士の重縮合反応が抑制されやすく、水性溶媒への分散性が向上しやすいと考えられる。
【0059】
なお、DDABとDTABとのモル比DDAB/DTABを9/1から12/1に変更する以外は、上記実施例及び上記比較例と同様に実験を行ったところ、同様の結果が得られた。
図1
図2
図3
図4
図5