【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1〜13 及び比較例1〜10]
以下の通りにして、シリカ粒子を得た。なお、
図1は、実施例1における中空シリカ粒子の製造方法について手順を示すフローチャートである。
超純水に、二鎖型カチオン界面活性剤であるジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)及び一鎖型カチオン界面活性剤であるドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(DTAB)を全濃度で60mMとなるように添加して混合し(DDABとDTABとのモル比DDAB/DTAB=9/1)、25gの界面活性剤混合水溶液を調製した。調製した界面活性剤混合水溶液にアンモニア水を添加して、界面活性剤混合水溶液のpHを表1及び2における「ベシクル形成時のpH」欄に記載の値に調整した。この界面活性剤混合水溶液に対して、28kHzの超音波照射(300W)を2時間行い、ベシクルを含有する第一水性分散液を得た。
【0040】
第一水性分散液に対して、表1及び2に記載のシリカ前駆体を添加し、25℃、500rpmで2時間撹拌を行い、上記ベシクルと上記シリカ前駆体とを含有する第二水性分散液を得た。なお、表1及び2において、TMOSはテトラメチルオルソシリケートを、TEOSはテトラエチルオルソシリケートを、TPOSはテトラプロピルオルソシリケートを、TBOSはテトラブチルオルソシリケートを表す。また、TMOSの添加量は1.5g、TEOSの添加量は2.0g、TPOSの添加量は2.5g、TBOSの添加量は3.1gであった。これらの添加量は、いずれのシリカ前駆体についても9.6mmolに相当する。
【0041】
第二水性分散液に塩酸を添加して、第二水性分散液のpHを表1及び2における「変更後のpH」欄に記載の値に調整した。ただし、比較例5、8、及び9では、塩酸の添加を行わず、pH値を保持した。
【0042】
その後、第二水性分散液を25℃、500rpmで撹拌した。撹拌時間は、表1及び2に記載の通りであった。なお、実施例3では、撹拌時間が0時間であった。即ち、実施例3では、撹拌を行わず、pH調整後、直ちに下記の水熱反応を行った。
【0043】
その後、オートクレーブを用いて、第二水性分散液を水熱反応に付した。水熱反応の温度及び時間は、表1及び2に記載の通りであった。なお、比較例10では、水熱反応の時間が0時間であった。即ち、比較例10では、水熱反応を行わず、pH変更後の撹拌後、直ちに下記の吸引濾過を行った。
【0044】
水熱反応の生成物を吸引濾過により濾別し、得られた粒子を水洗した。次いで、この粒子を電気炉により120℃で24時間乾燥し、粉状物を得た。
【0045】
[評価]
得られた粉状物0.05gを超純水10mlに分散させて測定用分散液を調製した。この測定用分散液を用いて、以下の観察又は測定を行った。
【0046】
(TEM観察)
測定用分散液を試料としてTEM観察を行い、下記の基準で中空シリカ粒子形成の成否及びシリカ粒子の分散性を評価した。結果を表1及び2に示す。また、実施例1及び2並びに比較例5及び9については、TEM写真を
図2に示す。
・中空シリカ粒子形成の成否(表1及び2では「中空粒子」欄に記載)
○:良好な中空シリカ粒子が形成された。
△:中空シリカ粒子が形成されたが、中空構造が崩壊したシリカ粒子が混在していた。
×:中空シリカ粒子が形成されなかった。
・シリカ粒子の分散性(表1及び2では「分散性」欄に記載)
○:シリカ粒子が良好に分散していた。
△:シリカ粒子が部分的に凝集していた。
×:シリカ粒子が全体にわたり凝集していた。
【0047】
(目視観察)
測定用分散液を目視で観察し、下記の基準でシリカ粒子の分散状態を評価した。結果を表1及び2に示す。
○:測定用分散液は均一に白濁していた。
×:測定用分散液では、シリカ粒子の沈殿が観察された。
【0048】
(粒子径分布の測定)
測定用分散液について、動的光散乱測定法(DLS)により粒子径分布(数基準)を測定し、凝集したシリカ粒子に対応するピーク(200〜500nm程度に出現。以下、「凝集ピーク」という。)について下記の基準で評価した。結果を表1及び2に示す。また、実施例1については、上記粒子径分布を
図3に示す。
○:凝集ピークが観察されなかったか、粒子径分布において、凝集ピークの占める割合が相対的に低かった。
×:粒子径分布において、凝集ピークの占める割合が相対的に高かった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1及び2に示す通り、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法により、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子が得られることが確認された。一方、比較例1〜9では、ベシクル形成時のpH又はpH調整工程における変更後のpHが、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法において規定されるpHの範囲を満たしておらず、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子が得られなかった。また、水熱反応を行わなかった比較例10でも、水性溶媒への分散性に優れる中空シリカ粒子が得られなかった。
【0052】
[実施例14及び比較例11]
水熱処理の時間を6時間から48時間に変更した以外は実施例1と同様にして、粉状物を得た。この粒状物について、
29Si−NMR測定を行った(実施例14)。
一方、比較例10において水熱反応を行わずに得た粒状物について、
29Si−NMR測定を行った(比較例11)。
結果を
図4に示す。
図4において、Q
3及びQ
4は下記の構造を表す。
Q
3:Si(OSi)
3(OH)
Q
4:Si(OSi)
4
【0053】
図4において、Q
4に対応するピークの面積とQ
3に対応するピークの面積との面積比Q
4/Q
3を計算したところ、実施例14では1.8であったのに対し、比較例11では0.58であった。このことから、加水分解及び重縮合反応後もQ
3中に残存していたシラノール基の間で、水熱処理により重縮合反応が促進され、Q
4が増加したと考えられる。即ち、水熱処理には、中空シリカ粒子を乾燥させた後も、中空構造を保持することができる強固なシリカ膜を形成させる働きがあることが示唆される。
【0054】
[実施例15及び16並びに比較例12及び13]
実施例1において第二水性分散液のpHを11.5から8.0に調整して得た粒状物について、FT−IR測定を行った(実施例15)。結果を
図5(a)に示す。
一方、比較例5において第二水性分散液のpHを11.5に保持して得た粒状物について、FT−IR測定を行った(比較例12)。結果を
図5(a)に示す。
また、実施例1で得た粉状物を電気炉により500℃で6時間焼成した。焼成後の粉状物について、FT−IR測定を行った(実施例16)。結果を
図5(b)に示す。
同様に、比較例5で得た粉状物を電気炉により500℃で6時間焼成した。焼成後の粉状物について、FT−IR測定を行った(比較例13)。結果を
図5(b)に示す。
【0055】
図5(a)において、IRスペクトルの帰属は、以下の通りである。
3440cm
−1:O−H伸縮振動、又は、表面吸着水によるO−H振動
1630cm
−1:O−H変角振動(即ち、末端Si−OHに水素結合した水によるO−H変角振動)
1100〜1000cm
−1:Si−O−SiにおけるSi−O伸縮振動
960cm
−1:O−H非対称振動(Si−OH)
【0056】
図5(a)から明らかな通り、実施例15では、比較例12と比較して、1100〜1000cm
−1における吸収が増加するとともに、960cm
−1における吸収が減少し、また、1630cm
−1における吸収が増加した。これらの結果から、第二水性分散液のpHを11.5から8.0に変更し、水熱処理に付することによって、シリカ粒子上に存在するシラノール基同士が脱水縮合により架橋されて当該シラノール基が減少し、また、残存するシラノール基は水和した状態になっていることが確認された。このように、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法で得られる中空シリカ粒子では、シラノール基の残存量が少なく、残存するシラノール基は水和した状態になっているため、粒子間でシラノール基同士の重縮合反応が抑制されやすく、水性溶媒への分散性が向上しやすいと考えられる。
【0057】
図5(b)において、IRスペクトルの帰属は、以下の通りである。
3750cm
−1:O−H伸縮振動(Si−OH単独ピーク)
3650〜3300cm
−1:O−H伸縮振
動
2960cm
−1、2870cm
−1:C−H対称・非対称振動
1460cm
−1:C−H変角振動(CH
3−、CH
2−)
【0058】
図5(b)から明らかな通り、実施例16及び比較例13では、2960cm
−1、2870cm
−1、及び1460cm
−1における吸収が観察されなかった。このことから、焼成により界面活性剤が除去されたことが確認された。また、実施例16では、比較例13と比較して、3750cm
−1における吸収が減少した。これらの結果から、第二水性分散液のpHを11.5から8.0に変更することによって、シリカ粒子上に単独で存在するシラノール基が減少していることが確認された。このように、本発明に係る中空シリカ粒子の製造方法で得られる中空シリカ粒子では、単独で存在するシラノール基の残存量が少ないため、粒子間でシラノール基同士の重縮合反応が抑制されやすく、水性溶媒への分散性が向上しやすいと考えられる。
【0059】
なお、DDABとDTABとのモル比DDAB/DTABを9/1から12/1に変更する以外は、上記実施例及び上記比較例と同様に実験を行ったところ、同様の結果が得られた。