特許第6474563号(P6474563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474563
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】食肉又は魚肉製品の品質改良剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/70 20160101AFI20190218BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20190218BHJP
【FI】
   A23L13/70
   A23L17/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-167725(P2014-167725)
(22)【出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-42805(P2016-42805A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 朋実
(72)【発明者】
【氏名】茂木 和之
(72)【発明者】
【氏名】池田 憲司
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−055776(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0106296(US,A1)
【文献】 特開2012−239392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00 〜 17/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清ミネラルを有効成分とし、該乳清ミネラルを固形分として0.01〜2質量%含有する食肉又は魚肉製品の肉質改良用浸漬液であって、
前記乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が2質量%未満であり、
すりつぶし又はミンチ加工していない状態の食肉又は魚肉を加熱処理するために使用される、肉質改良用浸漬液。
【請求項2】
乳清ミネラルを有効成分とし、該乳清ミネラルを固形分として0.01〜2質量%含有する浸漬液の存在下で、すりつぶし又はミンチ加工していない状態の食肉又は魚肉を加熱処理する肉質改良方法であって、
前記乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が2質量%未満であることを特徴とする、食肉又は魚肉製品の肉質改良方法。
【請求項3】
前記浸漬液中に、すりつぶし又はミンチ加工していない状態の食肉又は魚肉を浸漬した後、加熱処理することを特徴とする、請求項2記載の食肉又は魚肉製品の肉質改良方法。
【請求項4】
請求項1記載の肉質改良用浸漬液を使用して得られた食肉又は魚肉製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬い肉質の食肉又は魚肉を使用しても、軟らかくて口溶けのよい食肉又は魚肉製品とすることができる、食肉又は魚肉製品の品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉又は魚肉を使用した食肉製品や魚肉製品は様々なものがあり、その調理方法も焼成、蒸し、フライ、煮る、炒めなど様々であるが、食肉製品及び魚肉製品に一貫して求められる食感は軟らかさである。
食肉製品及び魚肉製品は、食肉や魚肉自体、筋が多いなどの理由から、もともと噛み切りにくい食感になりやすい場合が多い上に、食肉や魚肉の加熱調理により、肉質が硬く締まり肉汁や脂肪が流出する上、調理後時間が経つにつれさらに硬い食感になってしまう。とくに焼肉やステーキなどの焼成調理の場合はこの傾向が顕著である。
このため、古来、軟らかい食感の食肉製品や魚肉製品を得るため、様々は工夫や研究が行われてきた。
【0003】
軟らかい食感の食肉製品や魚肉製品を得るための一般的な方法としては、食用油脂や乳化油脂をピックルする方法(たとえば特許文献1〜3参照)、乳化剤を使用する方法(たとえば特許文献4〜6参照)、アルカリ性塩類を使用する方法(たとえば特許文献7〜8参照)、麹やパパイン等のたんぱく質分解酵素を使用する方法(たとえば特許文献9〜10参照)などが開示されている。
【0004】
しかし、食用油脂や乳化油脂をピックルする方法では、食肉又は魚肉製品が本来もっている脂肪組織の風味や食感と異なるものを付与するものであるため、調理時に油脂の流出が多く、軟らかさの改良効果も大きくはないという問題があった。また、乳化剤を使用する方法では、食肉製品や魚肉製品がねとりのある食感となるおそれがあり、アルカリ性塩類を使用する方法では、食肉製品や魚肉製品の焼色に影響がでたり、食肉製品や魚肉製品が粘りのある食感になってしまう問題などがあった。
たんぱく質分解酵素を使用する方法を用いた場合には、食肉製品及び魚肉製品は確実に軟らかい食感になるが、酵素作用の温度や時間の調節が難しいため、食肉製品及び魚肉製品を一定の品質とすることは難かしく、また、食肉製品及び魚肉製品にある程度の苦味や異味の発生が見られる問題もあった。
【0005】
なお、最近、乳清ミネラルの食味や食感に対する様々な作用が明らかにされつつあり、ハム・ソーセージやハンバーグ等の畜肉加工食品や、つみれ・かまぼこ等の魚肉加工食品に対して乳清ミネラルを使用すると、これらの食品が柔らかくて口溶けの良い食感になることが開示されている。(特許文献11参照)
しかし、特許文献11の実施例は、畜肉や魚肉を練製品として使用した畜肉加工食品や魚肉加工食品の改良効果の開示のみであり、焼肉やステーキなどの肉そのものの直接的な品質改良効果についての開示はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−41467号公報
【特許文献2】特開昭58−89161号公報
【特許文献3】特開平03−277250号公報
【特許文献4】特開昭54−62356号公報
【特許文献5】特開平07−170942号公報
【特許文献6】特開平08−140629号公報
【特許文献7】特開昭61−239862号公報
【特許文献8】特開平04−36167号公報
【特許文献9】特開平05−252911号公報
【特許文献10】特開平07−50982号公報
【特許文献11】特開2011−55776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、硬い肉質の食肉又は魚肉を使用しても、軟らかくて口溶けのよい食肉又は魚肉製品とすることができる食肉又は魚肉製品の品質改良剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、ある特定の乳製品は、食肉や魚肉の筋繊維に作用し、食肉又は魚肉製品の食感を直接的に改善し、柔らかくて口溶けの良い食感とすることができることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、乳清ミネラルを有効成分とする食肉又は魚肉製品の品質改良剤を提供するものである。
【0009】
また本発明は、乳清ミネラルの存在下で、食肉又は魚肉を加熱処理することを特徴とする、食肉又は魚肉製品の品質改良方法を提供するものである。
【0010】
さらに本発明は、乳清ミネラルを含有する溶液中に、食肉又は魚肉を浸漬した後、加熱処理することを特徴とする、食肉又は魚肉製品の品質改良方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤を使用することにより、硬い肉質の食肉又は魚肉であっても軟らかくて口溶けのよい食肉又は魚肉製品とすることができる。
また、本発明の肉質改良方法によれば、硬い肉質の食肉又は魚肉であっても軟らかくて口溶けのよい食肉又は魚肉製品とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤の対象となる食肉の種類としては牛、豚、鶏、羊、馬、鹿、兎、猪、熊等の畜肉や獣肉を挙げることができ、魚肉の種類としてはサケ、スケトウダラ、ホキ、タイ、マグロ、カジキ、イワシ、サバ、アジ、サンマ、ウナギ、ハモ、タチウオ、コイ、フナなどの魚類をはじめ、アザラシ、鯨等の海獣類等の海産魚介類、タコ、イカ等の軟体動物類、オキアミ、イセエビ、エビ等の海産甲殻類等を挙げることができる。
【0013】
上記食肉又は魚肉の形態としては、ブロック、スライス、切り身、サイの目、ミンチ、スティック、細切、スリ身その他の肉塊や骨付きの肉塊等が挙げられるが、高い品質改良効果が得られる点から、ブロック、スライス、サイの目、スティック、細切であることが好ましく、特に好ましくは、表面から内部まで均質な品質改良効果が得られる点で、スライス品を使用する。
また、上記食肉又は魚肉は、生肉に限られず、冷凍品、冷凍解凍品、冷蔵品、チルド品であってもよく、また、成形肉や脂肪注入肉であってもよい。また、上記食肉又は魚肉は、2種以上の食肉又は魚肉を混合したものでもよい。
【0014】
なお、上記食肉又は魚肉製品としては、上記食肉又は魚肉を使用したものであれば特に制限されず、刺身、寿司、塩辛、干物、生ハム、焼肉、ステーキ、煮肉、蒸肉、から揚げ、竜田揚げ、素揚げ、くんせい、豚の角煮、ローストビーフ、ハンバーグ、ミートボール、肉団子、ミートローフ、ミートパテ、チキンナゲット、ミートコロッケ、メンチカツ、チキン南蛮、シュウマイの具、餃子の具、肉まんの具、牛丼の具、つくね、ハム、ハムステーキ、ソーセージ、焼き魚、煮魚、魚フライ、かまぼこ、つみれ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージ、佃煮、珍味等があげられるが、本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤は、食肉や魚肉の繊維に直接作用し、その肉質を改良することから、食肉又は魚肉製品は、例えば、刺身、寿司、塩辛、干物、生ハム、焼肉、ステーキ、煮肉、蒸肉、から揚げ、竜田揚げ、素揚げ、くんせい、豚の角煮、ローストビーフ、チキンナゲット、チキン南蛮、牛丼の具、ハム、ハムステーキ、焼き魚、煮魚、魚フライ、佃煮、珍味等の、すりつぶしやミンチ加工していない状態の食肉又は魚肉を使用した食肉又は魚肉製品であることが好ましい。
また、本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤は、殺菌処理や加熱調理などの加熱処理による食肉や魚肉の硬化を抑制する効果が高いことから、食肉又は魚肉製品は、上記食肉又は魚肉製品の中でも、焼肉、ステーキ、煮物、蒸物、から揚げ、竜田揚げ、素揚げ、くんせい、豚の角煮、ローストビーフ、ハンバーグ、ミートボール、肉団子、ミートローフ、ミートパテ、チキンナゲット、ミートコロッケ、メンチカツ、チキン南蛮、シュウマイの具、餃子の具、肉まんの具、牛丼の具、つくね、ハムステーキ、ソーセージ、焼き魚、煮魚、魚フライ、かまぼこ、つみれ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージ、佃煮等の加熱処理する工程を経て得られるものであることが好ましく、なかでも、強い硬化が発生する焼成工程を有する、焼肉、ステーキ、ローストビーフ、ハンバーグ、ミートボール、肉団子、ミートローフ、ミートパテ、チキンナゲット、餃子の具、ハムステーキ、焼き魚、ちくわ等の焼成する工程を経て得られるものであることが特に好ましい。
すなわち、本発明の品質改良剤を使用する食肉又は魚肉製品は、焼肉、ステーキ、焼き魚のいずれかであることが特に好ましい。
【0015】
次に、本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤の有効成分である乳清ミネラルについて詳述する。
乳清ミネラルとは、乳又はホエー(乳清)から、可能な限りタンパク質や乳糖を除去したものであり、そのため、高濃度に乳の灰分(ミネラル)を含有し、且つ、固形分に占める灰分の割合が極めて高いという特徴を有する。そして、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエー中のミネラル組成に近い比率となる。
【0016】
本発明で使用する乳清ミネラルとしては、本発明の品質改良効果が高い点、及びまた、水溶性と口溶けの点で、純度が高いこと、即ちタンパク質や乳糖等の不純物含量が低いことが好ましい。即ち、本発明においては、固形分に占める灰分含量が30%以上である乳清ミネラルを使用することが好ましく、固形分に占める灰分含量が50%以上である乳清ミネラルを使用することがより好ましい。尚、該灰分含量は高いほど好ましい。
【0017】
また、本発明で使用する乳清ミネラルとしては、特に本発明の品質改良効果が高く、また沈殿や濁りを生じにくい点、さらには加熱殺菌や加熱調理などの加熱処理による褐変やコゲが生じにくい点で、固形分中のカルシウム含量が、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.5質量%未満の乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含量は低いほど好ましい。
【0018】
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が5質量%以上である。上記カルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、乳又はホエーから、膜分離及び/又はイオン交換、更には冷却により、乳糖及びタンパク質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエーを用いる方法、或いは、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得ることができるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用する脱カルシウムの方法としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0019】
上記乳清ミネラルは、流動状、ペースト状、粉末状等、どのような形態であってもよい。
【0020】
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤は、上記乳清ミネラルを有効成分として含有するものである。本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤は、上記乳清ミネラルをそのまま単独で使用してもよく、また、各種の添加剤と混合して、常法により粉体、顆粒状、錠剤、液剤等の形状に製剤化して用いてもよい。
【0021】
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤が粉体、顆粒状、錠剤等の固形状である場合、本発明の品質改良剤における上記乳清ミネラルの好ましい含有量は、少量の添加で食肉又は魚肉の品質改良剤効果を呈するという目的及び保存中の吸湿を避けるために、乳清ミネラルの固形分として5〜80質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることが更に好ましい。
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤を上記粉体、顆粒状、錠剤等の形状に製剤化するための添加剤としては、ペクチン、海藻多糖類、カルボキシメチルセルロース等の増粘多糖類や、でんぷん、二酸化ケイ素等の賦形剤、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、ステビア等の甘味料、微粒二酸化ケイ素、炭酸マグネシウム、リン酸二ナトリウム、酸化マグネシウム等の固結防止剤、ビタミン類、香料、酸化防止剤、光沢剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上のものが適宜選択して用いられる。本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤中における上記各種添加剤の含有量は、添加剤によって異なるが、好ましくは99質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
【0022】
また、本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤が液剤の形状である場合、本発明の品質改良剤における上記乳清ミネラルの好ましい含有量は、少量の添加で食肉又は魚肉の品質改良剤効果を呈するという目的及び保存中の結晶の析出を避けるために、乳清ミネラルの固形分として1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることが更に好ましい。
液剤の形状に製剤化する場合は、上記乳清ミネラル及び上記各種添加剤等を、液体に溶解又は分散させればよい。そのような液体としては、水、エタノール、プロピレングリコール等が挙げられる。本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤中における上記液体の含有量は、好ましくは99質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。
【0023】
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤は、上記乳清ミネラルに加え、本発明の効果を阻害しない範囲において、上記製剤化のための添加剤以外に、他の品質改良剤や添加剤と併用することができる。
これらの例としては各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂等の油脂;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン等の乳化剤、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、リポキシシゲナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ等の酵素、酢酸、クエン酸、グルコン酸等の酸、重炭安等のアルカリ、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料類、コンソメ、ブイヨン等の植物及び動物エキス、着香料、調味料、酒類、糖類や糖アルコール類、甘味料、デキストリン、オリゴ糖、ゲル化剤や増粘安定剤、卵類、上記乳清ミネラル以外の乳や乳製品、pH調整剤、塩類、食品保存料、日持ち向上剤、果汁、香辛料、ハーブ等が挙げられる。
ただし、酵素、とくにプロテアーゼについては、酵素作用の温度や時間の調節が難しいため食肉又は魚肉製品を一定の品質とすることが難かしく、また、ある程度の苦味や異味の発生が見られる問題もあるため、使用しないことが好ましい。
【0024】
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤が油脂を含有する場合は、上記乳清ミネラルを、ショートニング等の油脂や、マーガリン等のW/O型乳化物、クリーム、マヨネーズ等のO/W型乳化物中に添加分散又は溶解した形態とすることもできる。
【0025】
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良剤を製造する際の混合方法は特に制限されず、粉体等の固体原料、液体原料等を任意に混合することができる。また、一度水溶液とした後に溶媒を留去し、均一に調製することももちろん可能である。
【0026】
次に、本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良方法について述べる。
本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良方法は、食肉又は魚肉を使用して食肉又は魚肉製品を製造する際の加工時、調理時、飲食時等に、食肉又は魚肉に対し、上述の乳清ミネラルを有効成分として含有する品質改良剤を混合、散布、噴霧、注入、塗布、浸漬等、任意の手段により接触させるものであるが、均質な品質の食肉又は魚肉製品を安定して生産可能な点で浸漬が好ましい。なお接触の際、スライス、切り身、サイの目、ミンチ、スティック、細切、スリ身その他の形態に加工した食肉や魚肉を使用する場合は、該形状への加工前に接触させても加工後に接触させてもよい。
【0027】
なお、本発明の食肉又は魚肉製品の品質改良方法は、上述の乳清ミネラルを有効成分として含有する品質改良剤の存在下で、食肉又は魚肉を加熱処理することが好ましい。
【0028】
上記加熱処理としては、インジェクション式、インフュージョン式、マイクロ波等の直接加熱殺菌、又は、バッチ式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱殺菌、レトルト殺菌等の加熱殺菌や、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼き、煮る、炒める等の加熱調理が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができる。
【0029】
上記品質改良剤の存在下で、食肉又は魚肉を加熱処理する方法としては、加熱処理時に食肉又は魚肉と乳清ミネラルが接触した条件下で加熱処理する方法であればよく、具体的には、本発明の品質改良剤を、乳清ミネラルを固形分として0.001〜5質量%、好ましくは0.01〜2質量%含有するように溶解させた溶液中に、食肉又は魚肉を浸漬した後、加熱処理する方法や、品質改良剤を、乳清ミネラルを固形分として0.001〜5質量%、好ましくは0.005〜2質量%含有するように溶解した溶液中で、食肉又は魚肉を加熱処理する方法、あるいは、本発明の品質改良剤を、乳清ミネラルを固形分として0.001〜5質量%、好ましくは0.2〜4質量%含有するように溶解させた溶液を、食肉又は魚肉に対し、塗布、散布、あるいは噴霧した後、加熱処理する方法等を挙げることができる。
なお、品質改良剤を溶解した溶液中で加熱処理する方法の場合は、あらかじめ、乳清ミネラルを溶解させた溶液中に浸漬した食肉又は魚肉を使用することもできる。
【0030】
また、本発明の品質改良剤と食肉又は魚肉との接触時間は、好ましくは1分〜24時間であり、より好ましくは10分〜2時間である。接触時間が24時間を超えると品質改良剤の効果が減じられてしまうおそれがある。
【0031】
また、上記加熱処理条件としては、例えば煮る場合50〜100℃、焼成の場合60〜300℃、フライの場合110〜250℃、レトルト処理の場合100〜130℃など、通常の加熱温度や加熱時間であればよく、要は上記各種食肉又は魚肉製品の製造に適した加熱方法や加熱時間を用いれば良い。
【0032】
上記品質改良剤を溶解させる溶液としては、水(湯を含む)、乳又は乳製品(牛乳、クリーム、濃縮乳、脱脂乳、ヨーグルト、発酵乳等)、酒類(ワイン、日本酒、焼酎等)、飲料(茶、紅茶、珈琲、果汁飲料等)、だし汁、調味液、バッター液等を挙げることができる。
最後に本発明の食肉又は魚肉製品について述べる。
【0033】
本発明の食肉又は魚肉製品は食肉又は魚肉に対し上記品質改良剤を使用して得られたものであり、軟らかくて口溶けがよいという特徴を有する。
なお、食肉又は魚肉製品の種類としては上述のとおりである。
【実施例】
【0034】
<乳清ミネラルの製造>
〔製造例1〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーをナノ濾過膜分離した後、更に逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、これを更にエバポレーターで濃縮し、スプレードライ法により、固形分98質量%の乳清ミネラルAを得た。得られた乳清ミネラルAの固形分中の灰分含量は35質量%、カルシウム含量は2.2質量%であった。
【0035】
〔製造例2〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーをナノ濾過膜分離した後、更に逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、80℃、20分の加熱処理をして生じた沈殿を遠心分離して除去し、これを更にエバポレーターで濃縮し、スプレードライ法により、固形分98質量%の乳清ミネラルBを得た。得られた乳清ミネラルBの固形分中の灰分量は55質量%、カルシウム含量は0.4質量%であった。
【0036】
以上の製法によって製造された乳清ミネラルを使用して、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1及び実施例2〕
<食肉又は魚肉製品の品質改良剤の製造>
製造例1及び2で得られた乳清ミネラル1及び乳清ミネラル2を、水で溶解し、固形分10質量%溶液とし、それぞれ食肉又は魚肉製品の品質改良剤A及び品質改良剤Bとした。
得られた品質改良剤を下述の評価試験1(焼き魚)、評価試験2(ステーキ)に供した。
【0038】
<魚肉製品の製造・評価>
[評価試験1]
鯖の切り身を、上記品質改良剤A及び品質改良剤Bをそれぞれ乳清ミネラル含量が固形分として0.5質量%となる量を水に溶解した浸漬液に2時間浸漬したのち、常法により塩焼きした。なお、浸漬液を使用せずに塩焼きしたものも比較のために用意した。
得られた鯖の塩焼きを室温で30分放冷したあと喫食し、食感を評価した。評価は11人のパネラーに対し、浸漬液を使用せずに塩焼きしたものと比較して、どちらが食感(軟らかさ・口溶け)が良かったかを「品質改良剤を使用したものが明らかに良好」「品質改良剤を使用したものがやや良好」「品質改良剤を使用したものと差がない」「品質改良剤を使用したものが悪い」の4段階評価してもらい、下記の評価基準にしたがって数値化した点数を表1に記載した。
【0039】
(評価基準)
「品質改良剤を使用したものが明らかに良好」=5点、「品質改良剤を使用したものがやや良好」=3点、「品質改良剤を使用したものと差がない」=1点、「品質改良剤を使用したものが悪い」=−1点とし、11人のパネラーの合計点数を下記の評価基準にあてはめた。
◎=45点以上
○+=34点以上44点以下
○=23点以上33点以下
○−=12点以上22点以下
△=1点以上11点以下
×=0点以下
【0040】
【表1】
【0041】
[評価試験2]
アメリカ産ステーキ用牛肉に、上記品質改良剤A及び品質改良剤Bそれぞれ10質量部、食酢(穀物酢)15質量部、水75質量部を混合した浸漬液(pH3.5)に2時間浸漬したのち、常法によりフライパンに油をひいてソテーした。なお、品質改良剤を含有しない食酢水溶液(pH3.5に調整)を使用して焼成したものも比較のために用意した。
得られた牛肉のステーキを室温で30分放冷したあと喫食し、食感を評価した。評価は15人のパネラーに対し、浸漬液を使用せずにソテーしたものと比較して、どちらが食感(軟らかさ・口溶け)が良かったかを「品質改良剤を使用したものが明らかに良好」「品質改良剤を使用したものがやや良好」「品質改良剤を使用したものと差がない」「品質改良剤を使用したものが悪い」の4段階評価してもらい、下記の評価基準にしたがって数値化した点数を表3に記載した。
【0042】
(評価基準)
「品質改良剤を使用したものが明らかに良好」=5点、「品質改良剤を使用したものがやや良好」=3点、「品質改良剤を使用したものと差がない」=1点、「品質改良剤を使用したものが悪い」=−1点とし、15人のパネラーの合計点数を下記の評価基準にあてはめた。
◎=61点以上
○+=46点以上60点以下
○=31点以上45点以下
○−=16点以上30点以下
△=1点以上15点以下
×=0点以下
【0043】
【表2】
【0044】
〔実施例3〕
鶏胸肉に包丁を入れて2つに開いて平板状とし上記品質改良剤B5質量部を水95質量部に溶解した浸漬液に10分浸漬した。その後、「マキシマム」(中村食品製)を少量振ったあと、片栗粉をまぶし、溶き卵にくぐらせ、再度片栗粉をまぶした。180℃に加温したナタネ油でフライしたのち、甘酢をくぐらせ、本発明の食肉製品であるチキン南蛮を得た。なお、浸漬液を使用せずにフライしたものも比較のために用意した。
得られたチキン南蛮を室温で30分放冷したあと喫食し、食感を評価したところ、本発明の品質改良剤を使用したチキン南蛮は、品質改良剤を使用しなかったチキン南蛮に比べて肉質が軟らかくて口溶けのよいものであった。
【0045】
[実施例4]
市販のモツ鍋スープ100質量部に上記品質改良剤A0.05質量部を添加、溶解した(PH=5.5)。この品質改良剤を含有するモツ鍋スープ750gを鍋に入れ、鳥モツのぶつ切り400g、キャベツ500g、ニラ300g、たまねぎ200gを入れて15分間煮込んだ。ここで鳥モツを引上げ食したところ、軟らかく口どけのよい食感であった。
【0046】
〔実施例5〕
鶏胸肉300gに包丁を入れて2つに開いて平板状とし上記品質改良剤B0.5質量部、塩2.5質量部、醤油40質量部、料理酒38質量部、ごま油12質量部、おろし生姜7質量部を混合した浸漬液(pH4.5)に3時間浸漬した。その後、小麦粉:片栗粉=4:1の混合物をまぶし、180℃に加温したナタネ油でフライし、本発明の食肉製品である鶏のから揚げを得た。なお、品質改良剤Bを添加していない浸漬液を使用してフライしたものも比較のために用意した。
得られた鶏のから揚げは室温で30分放冷したあと喫食し、食感を評価したところ、本発明の品質改良剤を使用した鶏のから揚げは、品質改良剤を使用しなかった鶏のから揚げに比べて肉質が軟らかくて口溶けのよいものであった。
【0047】
[実施例6]
牛こまぎれ肉150g及びくし型切りにしたたまねぎ400gを、上記品質改良剤A1質量部、砂糖10質量部、醤油50質量部を、水200質量部に溶解した浸漬液(pH4.9)に投入し、弱火で5分間煮た後、水分を切り、本発明の食肉製品である牛丼の具を得た。なお、これを直ちに丼ご飯の上に積置し、牛丼を得た。なお、品質改良剤Aを添加していない浸漬液を使用して煮たものも比較のために用意した。
得られた牛丼を喫食し、食感を評価したところ、本発明の品質改良剤を使用した牛丼の具は、品質改良剤を使用しなかった牛丼の具に比べて肉質が軟らかくて口溶けのよいものであった。
【0048】
[実施例7]
水100質量部に、上記品質改良剤B2質量部、全卵(正味)60質量部、小麦粉100質量部を添加、溶解し、クエン酸でpH5となるように調整し、バッター液を得た。ここにサケの切り身を5分間浸漬後、パン粉を付着させ、180℃に加温したナタネ油でフライし、本発明の魚肉製品であるサケフライを得た。なお、品質改良剤を含有しないバッター液を使用したものも比較のために用意した。
得られたサケフライを喫食し、食感を評価したところ、本発明の品質改良剤を使用したサケフライは、品質改良剤を使用しなかったサケフライに比べて肉質が軟らかくて口溶けのよいものであった。
【0049】
[実施例8]
市販のプレーンヨーグルト100質量部に上記品質改良剤B50質量部を添加、混合溶解した(PH=4.9)。鶏の胸肉100gに対しこの品質改良剤を含有するプレーンヨーグルト5gを塗布し、袋に入れて5℃で10時間静置した。オリーブオイルを張ったフライパンにおろしにんにく1.5gを加えて熱し、ここに上記プレーンヨーグルトを塗布して10時間静置した鶏の胸肉を置きソテーし、本発明の食肉製品である鶏のガーリックソテーを得た。なお、品質改良剤を含有しないプレーンヨーグルトを使用したものも比較のために用意した。
得られた鶏のガーリックソテーを喫食し、食感を評価したところ、本発明の品質改良剤を使用した鶏のガーリックソテーは、品質改良剤を使用しなかった鶏のガーリックソテーに比べて肉質が軟らかくて口溶けのよいものであった。