【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23−28年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究事業「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」の「多様な水源に対応できるロバストRO/NF膜の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記耐熱性高分子支持体がポリスルホン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン及びこれらの誘導体からなる群から選択される高分子化合物から形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離フィルタの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1のプラズマCVD法による製膜では、製膜原料であるBTESEにおけるSi−C−C−Si結合が消失してしまい、30%程度しか残っていない。即ち、Si−C−C−Si結合が酸素原子を介する結合で形成される細孔の形成が不十分であるという問題がある。また、プラズマCVD法では、高価な装置を必要とするので、分離膜の製造コストが高いという問題もある。
【0007】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、製膜原料のSi−X−Si結合(Xは直鎖状飽和アルキル鎖或いは直鎖状不飽和アルキル鎖)が維持され、また、製造コストの安い分離フィルタの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る分離フィルタの製造方法は、
(RO)
3Si−X−Si(OR)
3で表される化合物と水を含む溶媒とを混合してポリマーゾルを調製するポリマーゾル調製工程と、
前記ポリマーゾルを膜状又は中空状の多孔質から構成され
細孔径が1〜3nmの耐熱性高分子支持体上に塗布する塗布工程と、
焼成して前記耐熱性高分子支持体上に−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド膜を形成する焼成工程と、を含む、
ことを特徴とする。
(上記Xは、1つ以上の水素が置換されていてもよい直鎖状飽和炭化水素鎖又は直鎖状不飽和炭化水素鎖を表し、Rはアルキル基を表す。)
【0009】
前記耐熱性高分子支持体がポリスルホン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン及びこれらの誘導体からなる群から選択される高分子化合物から形成されていることが好ましい。
【0010】
また、100℃より高く400℃より低い温度で焼成することが好ましい。
【0011】
また、100℃以上200℃以下で焼成することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る分離フィルタの製造方法では、製膜原料のSi−X−Si結合が維持され、Si−X−Si結合が酸素原子を介する結合で形成される細孔が十分に形成される。また、高価な装置を用いずに分離フィルタを製造できることから、製造コストが安いという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係る分離フィルタの製造方法は、基材である高分子支持体上に分離層として機能する無機有機ハイブリッド膜を形成する方法であり、
図1の工程図に示すように、ポリマーゾル調製工程と、塗布工程と、焼成工程と、から構成される。
【0015】
(ポリマーゾル調製工程)
(RO)
3SiXSi(OR)
3で表される化合物と水を含む溶媒とを混合してポリマーゾルを調製する。上式中、Rはアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0016】
また、上式中、Xは、1つ以上の水素が置換されていてもよい直鎖状飽和炭化水素鎖又は直鎖状不飽和炭化水素鎖を表し、Xは直鎖状飽和炭化水素残基、直鎖状オレフィン系炭化水素残基又は直鎖状アセチレン系炭化水素残基であることが好ましい。例えば、−C
nH
2n−で表される直鎖状飽和炭化水素残基や、−C
nH
(2n−2)−で表される直鎖状オレフィン系炭化水素残基、−C
nH
(2n−4)−で表される直鎖状アセチレン系炭化水素残基が挙げられる。この場合、直鎖状飽和炭化水素残基のn、即ち、炭素数は1以上6以下であることが好ましく、より好ましくは1以上4以下である。また、直鎖状オレフィン系炭化水素残基及び直鎖状アセチレン系炭化水素残基のnは2以上6以下であることが好ましく、より好ましくは、炭素数が2以上4以下である。炭化水素鎖が長いと折れ曲がった構造になり、形成される無機有機ハイブリッド膜の細孔径が不均一になりやすく、分離フィルタとして機能しなくなるおそれがあるためである。
【0017】
(RO)
3SiXSi(OR)
3で表される化合物の具体例としては、例えば、ビストリエトキシシリルエタン、ビストリエトキシシリルブタン、ビストリエトキシシリルオクタン、ビストリエトキシシリルエチレン、ビストリエトキシシリルアセチレン等が挙げられる。
【0018】
(RO)
3SiXSi(OR)
3で表されると水を含む溶媒とを混合することで、アルコキシ基(OR)が加水分解され、脱水縮合により、隣接する化合物同士がSi−O−Si結合で重合する。より具体的には、上記化合物を、水を含む溶媒(エタノール、プロピルアルコール等)に溶解し、触媒として酸(塩酸、硝酸等)又は塩基(アンモニア等)を添加して、加水分解と縮重合反応に十分な時間攪拌することで、ポリマーゾルが調製できる。
【0019】
(塗布工程)
上述のように調製されたポリマーゾルを耐熱性高分子支持体上に塗布する。ポリマーゾルの塗布は、スピンコーティング法、ディップコーティング法のほか、不織布をポリマーゾルに浸して耐熱性高分子支持体上に塗布するなど、種々の方法により行い得る。
【0020】
耐熱性高分子支持体は、複数の微細孔を有する多孔質から構成され、後の焼成工程にて焼成温度に耐え得る耐熱性を有するものが用いられる。耐熱性高分子支持体は、膜状や中空糸膜等の中空状のものが用いられる。耐熱性高分子支持体は、100℃以上の耐熱性を有する膜であることが好ましく、200℃以上の耐熱性を有することがより好ましい。耐熱性高分子支持体として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、これらの誘導体が挙げられる。耐熱性高分子支持体は、市販されているもの(例えば、膜状の耐熱性高分子支持体としてNTR−7450(製品番号):日東電工株式会社)をそのまま用いてもよい。
【0021】
(焼成工程)
塗布したポリマーゾルを乾燥した後、焼成を行う。焼成を行うことにより、脱水縮合がより進行し、ネットワークが緻密になる。焼成温度は、後述の実施例から、100℃より高い温度とすることが好ましい。また、400℃以上で焼成すると、Si−X−Siのアルキル鎖が分解されてしまい、細孔が形成されなくなってしまうため、400℃より低い温度で焼成することが好ましい。更に、100℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0022】
以上のようにして、耐熱性高分子支持体上に、−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド膜が形成された分離フィルタが得られる。
図2に、無機有機ハイブリッド膜の模式図(図では、Si−X−Si結合がSi−C
2H
4−Si結合)を示しているが、脱水縮合により形成された細孔(
図2に示すpore)が、混合物の一方の物質を透過させる一方で他方の物質の透過を阻止する機能を果たす。
【0023】
上述した分離フィルタの製造方法では、プラズマCVD法のように高価な製膜装置が不要である。このため、分離フィルタの製造コストが安いという利点がある。
【0024】
焼成温度をSi−X−Si結合が消失しない程度の低温で行うことにより、形成される無機有機ハイブリッド膜では、−Si−X−Si−O−結合による細孔が十分に形成される。
【0025】
得られた分離フィルタでは、基材である耐熱性高分子支持体と無機有機ハイブリッド膜の積層構造である。耐熱性高分子支持体は高分子であるゆえ、柔軟性を備える。無機有機ハイブリッド膜も有機成分を備えることから、柔軟性に優れる。いずれも柔軟性を備えているので、分離フィルタも柔軟性に優れている。また、分離フィルタは、無機系分離膜に比べて軽量である。このため、膜状の耐熱性高分子支持体を用いて形成された平板状の分離フィルタの場合、これを巻き回して、スパイラル型モジュール等に利用することが可能である。
【実施例1】
【0026】
(分離フィルタの作製)
【0027】
BTESE(ビストリエトキシシリルエタン)を水に加えて撹拌し、ポリマーゾル(BTESEゾル)を調製した。なお、BTESEの重量%濃度は、5wt%であり、BTESEゾルの分子量は、Zetasizer Nano(Malverm社製)により測定したところ、5000〜20000wt/molであった。
【0028】
SPES(sulfonated polyethersulfone)多孔膜(NaCl阻止率50%,推定細孔径1nm、NTR−7450HG(製品番号)、日東電工株式会社)をメタノール、塩酸で30分間洗浄し、イオン交換水で洗浄して乾燥した。BTESEゾルをSPES多孔膜にスピンコーティング法で塗布した。そして、窒素雰囲気下、100℃で30分間焼成した。塗布及び焼成は2回行った。このようにしてSPES多孔膜の表面に無機有機ハイブリッド膜を形成し、分離フィルタを作製した。この分離フィルタをNTR7450−BTESE100と記す。
【0029】
また、150℃で焼成する以外、上記と同様の手法で分離フィルタを作製した。この分離フィルタをNTR7450−BTESE150と記す。
【0030】
また、200℃で焼成する以外、上記と同様の手法で分離フィルタを作製した。この分離フィルタをNTR7450−BTESE200と記す。
【0031】
また、参照例として、5%BTESEゾルの塗布を行わずに、SPEF多孔膜を上記と同様に100℃、150℃、200℃でそれぞれ焼成を行ったものを準備した。これらをそれぞれNTR7450−100、NTR7450−150、NTR7450−200と記す。
【0032】
SPES多孔膜の表面のSEM写真、作製したNTR7450−BTESE150の表面のSEM写真をそれぞれ
図3(A)、(B)に示す。また、SPES多孔膜の断面のSEM写真、NTR7450−BTESE150の断面のSEM写真を
図4(A)、(B)にそれぞれ示す。BTESEゾルのコーティング及び焼成により、SPES多孔膜の表面上に無機有機ハイブリッド膜が形成されていることがわかる。
【0033】
続いて、
図5に示す装置を用い、作製した分離フィルタの分離能について検証した。
【0034】
真空ポンプの吸引圧を−95kPaとし、フィードタンクに充填した90wt%イソプロピルアルコール水溶液(以下、IPA水溶液)を吸引して、分離フィルタにIPA水溶液を透過させた。そして、液体窒素を用いたコールドトラップで分離フィルタを透過したIPA及び水を捕集した。なお、オーブン温度105℃で加温し、分離フィルタの温度が103℃の状態で行った。
【0035】
そして、分離フィルタを透過したIPA及び水の流量及びモル濃度を測定するとともに、分離係数(セパレーションファクター)を算出した。分離係数は数値が高いほど分離する目的物質の選択性が高いことを示す。なお、分離係数は、以下の式により決定した。
分離係数=(Y
W/Y
A)/(X
W/X
A)
上式中、Y
W、Y
Aは、それぞれ分離フィルタの下流側の水のモル濃度、IPAのモル濃度を表し、X
W、X
Aは、それぞれ分離フィルタの上流側の水のモル濃度、IPAのモル濃度を表す。
【0036】
図6に分離係数と焼成温度との関係を示すとともに、表1に流量及び分離係数を示す。また、
図7(A)、(B)にNTR7450−150における流量の経時変化、分離係数の経時変化をそれぞれ示す。また、
図8(A)、(B)にNTR7450−BTESE150における流量の経時変化、分離係数の経時変化をそれぞれ示す。また、
図9(A)、(B)にNTR7450−200における流量の経時変化、分離係数の経時変化を、
図10(A)、(B)にNTR7450−BTESE200における流量の経時変化、分離係数の経時変化をそれぞれ示す。
【0037】
【表1】
【0038】
NTR7450−BTESE100、NTR7450−BTESE150、NTR7450−BTESE200では、NTR7450−100、NTR7450−150、NTR7450−200に比べて、いずれもそれぞれ分離係数が大きくなっており、IPAの透過を阻止しており、選択性が大幅に向上していることがわかる。BTESEを塗布して焼成したことで、緻密なネットワークの無機有機ハイブリッド膜が形成されたためである。なお、NTR7450−200でも分離係数が向上しているが、焼成によりSPES自身に形成されている孔が小さくなったものと考えられる。
【0039】
また、
図7〜
図10の分離フィルタを通過する水、IPAの流量並びに分離係数の経時変化を見ても、時間による変化はさほどなく、ほぼ一定の値で推移している。したがって、長時間の使用においても一定の分離能を発揮する耐性を備えていることがわかる。
【実施例2】
【0040】
耐熱性高分子支持体として、NTR−7450HGに代えて、NTR−7410HG(製品番号、日東電工株式会社;NaCl阻止率10%,推定細孔径2−3nm)を用い、実施例1と同様にして分離フィルタを作製した。なお、焼成温度は100℃、150℃とした。この分離フィルタをNTR7410−BTESE100、NTR7410−BTESE150と記す。
【0041】
また、参照例として、5%BTESEゾルの塗布を行わずに、NTR7410を実施例1と同様にして100℃、150℃でそれぞれ焼成を行ったものを準備した。これらをそれぞれNTR7410−100、NTR7410−150と記す。
【0042】
作製したそれぞれの分離フィルタの分離能について、実施例1と同様、上述した
図5の装置、IPA水溶液を用い、上記と同様の条件にてIPAの分離を行った。表2に、それぞれの流量及び分離係数を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
NTR7410−BTESE100、NTR7410−BTESE150では、NTR7410−100、NTR7410−150に比べて、それぞれ分離係数が大きくなっていることから、IPAの透過を阻止しており、選択性が大幅に向上していることがわかる。
【実施例3】
【0045】
また、耐熱性高分子支持体として、PSf(polysulfone)多孔膜(pore size:30−40nm)を準備し、メタノール、塩酸で30分間洗浄し、イオン交換水で洗浄して乾燥した。BTESEゾルをPSf多孔膜にスピンコーティング法で塗布した。そして、窒素雰囲気下、150℃で20分間焼成した。塗布及び焼成は5回行った。このようにして分離フィルタを作製した。この分離フィルタをPSf−BTESE150と記す。
【0046】
PSf多孔膜の表面のSEM写真、PSf−BTESE150の表面のSEM写真をそれぞれ
図11(A)、(B)に示す。また、PSf多孔膜の断面のSEM写真、PSf−BTESE150の断面のSEM写真を
図12(A)、(B)にそれぞれ示す。PSf多孔膜の表面上に無機有機ハイブリッド膜が形成されていることがわかる。
【0047】
作製した分離フィルタの分離能について、上述した
図5の装置、IPA水溶液を用い、上記と同様の条件にてIPAの分離を行った。
【0048】
表3に、PSf150及びPSf−BTESE150の流量及び分離係数を示す。また、
図13(A)、(B)にPSf−BTESE150における水及びIPAの流量の経時変化、分離係数の経時変化をそれぞれ示す。
【0049】
【表3】
【0050】
PSf150では、分離係数が1であり、IPAを分離できていなかった。一方、PSf−BTESE150では、分離係数が762と向上しており、PSf多孔膜上に無機有機ハイブリッド膜を形成することで選択性が大幅に向上していることがわかる。また、経時変化を見ても、分離係数、流量ともにほぼ一定に推移しており、長時間の使用においても一定の分離能を発揮する耐性を備えていることがわかる。
【実施例4】
【0051】
NTR−7450HG、NTR−7410HGを用い、焼成時間を15分間とした以外、実施例1と同様にして分離フィルタをそれぞれ作製した。なお、焼成温度は150℃とした。作製した分離フィルタをそれぞれNTR7450−BTESE150−2、NTR7410−BTESE150−2と記す。
【0052】
また、参照例として、5%BTESEゾルの塗布を行わずに、上記と同様にしてNTR7450、NTR7410を実施例1と同様に150℃でそれぞれ焼成した。これをそれぞれNTR7450−150−2、NTR7410−150−2と記す。
【0053】
作成したそれぞれの分離フィルタについて、25℃、フィード圧1.5MPaの条件でNaCl水溶液(2000ppm)を流し、水透過係数及びNaClの阻止率を測定した。その結果を表4に示す。また、NTR7410−150−2の水透過係数及びNaClの阻止率の経時変化を
図14に、NTR7410−BTESE150−2の水透過係数及びNaClの阻止率の経時変化を
図15に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
NTR7450−BTESE150−2、NTR7410−BTESE150−2では、NTR7450−150−2、NTR7410−150−2に比べ、NaClの阻止率が大幅に向上しており、逆浸透膜としても利用できることを確認した。