(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低温で保管しても可塑剤のブリードが発生せず、かつ水と接した場合であっても成分の抽出による問題が発生せず、合わせガラス用中間膜として使用した場合に優れた遮音性能を発現するポリビニルアセタール組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば上記目的は、
[1]平均残存水酸基量15〜50モル%のポリビニルアセタール100質量部に対して、化合物(I)をX質量部ならびに式1で表される化合物および式2で表される化合物から選ばれる1種類以上のジエステル化合物(II)をY質量部含有し、前記化合物(I)は炭素数12〜20の不飽和脂肪族カルボン酸と炭素数1〜12の1〜3価アルコールとのエステル化合物(以下単に不飽和カルボン酸エステル化合物と表記することがある)、ポリエステル系アルコール化合物およびビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物から選択される化合物であり、かつX=3〜100、Y=5〜60、X+Y=42〜120である組成物を提供することで達成される。
【化1】
(式1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立してエーテル結合を有していてもよい炭素数5〜16の有機基であり、nは1〜10である。
【化2】
(式2)中、R
3およびR
4はそれぞれ独立してエーテル結合を有していてもよい炭素数4〜16の有機基であり、R
5は炭素数2〜10の炭化水素基である。
また、上記目的は好適には
[2]X<Yである、[1]の組成物;
[3]化合物(I)の水酸基価が15〜450mgKOH/gである、[1]または[2]の組成物;
[4]化合物(I)が、ポリエステル系アルコール化合物である、[1]〜[3]のいずれかの組成物;
[5]ポリエステル系アルコール化合物が、多価カルボン酸と多価アルコールの縮重合体を含む、[4]の組成物;
[6]前記多価カルボン酸が炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸である、[5]の組成物;
[7]前記多価アルコールが炭素数2〜12の脂肪族ジオールである、[5]の組成物。
[8]前記多価カルボン酸1分子あたりの炭素数と前記多価アルコール1分子あたりの炭素数の合計が10〜20である、[5]〜[7]のいずれかの組成物;
[9]ポリエステル系アルコール化合物が、ヒドロキシカルボン酸またはラクトン化合物の重合体を含む、[4]の組成物;
[10]前記ヒドロキシカルボン酸又はラクトン化合物の炭素数が2〜10である、[9]の組成物。
[11]ポリエステル系アルコール化合物が、炭酸化合物と多価アルコールとの縮重合体を含む、[4]の組成物。
[12]前記多価アルコールが炭素数2〜12の脂肪族ジオールである、[11]の組成物;
[13]化合物(I)が、ビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物である[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物;
[14]ビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物が、ビスフェノールエーテル化合物である、[13]の組成物;
[15]ビスフェノールエーテル化合物が式3の化学構造を含む化合物である、[14]の組成物;
【化3】
(式3)においてR
6、R
7はそれぞれ独立してアルキル置換基を有していても良いジメチレン基、アルキル置換基を有していても良いトリメチレン基、アルキル置換基を有していても良いテトラメチレン基から選ばれる基を表す。R
8、R
9はそれぞれ独立して水素原子、アシル基、アルキル基から選ばれる基であり、R
10、R
11はそれぞれ独立して水素原子、有機基から選ばれる基であり、またR
12、R
13はそれぞれ独立して有していても有していなくても良い任意の置換基である。k、lは任意の自然数であり、第一の可塑剤に含まれる化合物1分子あたりの(k+l)の平均は2〜50である。
[16]ビスフェノールエーテル化合物に含まれるR
6、R
7の50〜100モル%がアルキル置換基を有していても良いジメチレン基である、[15]の組成物;
[17] ビスフェノールエーテル化合物に含まれるR
8、R
9の5〜100質量%が、水素原子である、[15]または[16]に記載の組成物。
[18]ビスフェノールエーテル化合物に含まれるR
10、R
11がメチル基である、[15]〜[17]のいずれかの組成物。
[19]化合物(I)が、炭素数12〜20の不飽和脂肪族カルボン酸と炭素数1〜12の1〜3価アルコールとのエステル化合物である、[1]〜[3]のいずれかの組成物;
[20]前記炭素数1〜12の1〜3価アルコールが炭素数2〜12の2価または3価のアルコールである、[19]の組成物;
[21]化合物(I)の水酸基価に基づく数平均分子量が200〜2500である、[1]〜[20]のいずれかの組成物;
[22]化合物(I)X質量部と、ジエステル化合物(II)Y質量部との混合物が、80℃において均一な液体である、[1]〜[21]のいずれかの組成物;
[23][1]〜[22]のいずれかの組成物であって、当該組成物を厚さ0.8mm×縦5cm×横5cmのシートに成形し、92.5℃±2.5℃の熱水に2時間浸漬した際の重量減少が2質量%未満である組成物;
[24][1]〜[23]のいずれかの組成物からなるシート;
[25][24]のシートからなる合わせガラス用中間膜;
[26][24]のシートを少なくとも一層含む合わせガラス用多層中間膜;
[27]二枚のガラス板に、[25]の合わせガラス用中間膜又は請求項26に記載の合わせガラス用多層中間膜を挟んでなる合わせガラス;
によっても達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温で保管しても可塑剤のブリードが発生せず、かつ水と接した場合であっても成分の抽出による問題が発生せず、合わせガラス用中間膜として使用した場合に優れた遮音性能を発現するポリビニルアセタール組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物に含有される化合物(I)は、炭素数12〜20の不飽和脂肪族カルボン酸と炭素数1〜12の1〜3価アルコールとのエステル化合物、ポリエステル系アルコール化合物およびビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物から選択される化合物である。
【0010】
まず、ポリエステル系アルコール化合物について説明する。
ポリエステル系アルコール化合物はポリエステル構造を有し、さらにヒドロキシル基を1分子あたり少なくとも1つ有する化合物であれば特に限定されない。例えば、多価カルボン酸と多価アルコールの縮重合体であるポリエステル系アルコール化合物(以下、縮重合ポリエステル系アルコール化合物と称する)、ヒドロキシカルボン酸またはラクトン化合物の重合体であるポリエステル系アルコール化合物(以下、ヒドロキシカルボン酸ポリエステル系アルコール化合物と称する)、炭酸化合物と多価アルコールとの縮重合体であるポリエステル系アルコール化合物(以下、炭酸ポリエステル系アルコール化合物と称する)などが挙げられる。以下、これら化合物について順に説明する。
【0011】
縮重合ポリエステル系アルコール化合物は多価カルボン酸と多価アルコールを多価アルコール過剰下で縮合重合させることにより得られる。多価カルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸などの脂肪族トリカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸などの芳香族トリカルボン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。中でも炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸、好ましくは炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸、より好ましくは炭素数6〜8の脂肪族ジカルボン酸が、得られるポリエステルの耐熱性やポリビニルアセタールとの相溶性、およびポリビニルアセタールに対する可塑化効果に優れるため、好適である。また多価アルコールとしてはエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール;グリセリンなどの脂肪族トリオール;エリトリトール、ペンタエリトリトールなどの脂肪族テトラオールなどが挙げられるが、これらに限定されない。中でも炭素数2〜12の脂肪族ジオール、好ましくは炭素数3〜10の脂肪族ジオール、より好ましくは炭素数4〜8の脂肪族ジオールが、縮重合ポリエステル系アルコール化合物の耐侯性やポリビニルアセタールとの相溶性、およびポリビニルアセタールとジエステル化合物との相溶性を向上させる観点で好適である。また多価カルボン酸と多価アルコールの組み合わせは特に限定されないが、多価カルボン酸1分子あたりの炭素数と多価アルコール1分子あたりの炭素数の合計が10〜20、好ましくは10〜16、より好ましくは10〜14であると、ポリビニルアセタールとの相溶性の観点から好ましい。
【0012】
本発明で使用する縮重合ポリエステル系アルコール化合物を具体的に例示すると、アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールとの縮合重合で得られるポリエステルジオール、セバシン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールとの縮合重合で得られるポリエステルジオール、アジピン酸と1,8−ノナンジオールとの縮合重合で得られるポリエステルジオールなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0013】
縮重合ポリエステル系アルコール化合物は、従来公知の方法で製造することができる。例えば多価カルボン酸および多価アルコールを、必要に応じて適切な溶剤に溶解し、適当量の触媒を添加して縮合重合反応させる。触媒としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸;チタン酸、テトラアルコキシチタン、チタンテトラカルボキシレートなどのチタン化合物、スズ化合物などのルイス酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;トリエチルアミン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、酢酸ナトリウムなどの有機塩基が挙げられる。反応の際に発生する水を留去したり、適宜反応温度を変化させたりしてもよい。反応終了後、触媒を失活させることで、縮重合ポリエステル系アルコール化合物が得られる。多価カルボン酸と多価アルコールのモル比は、通常、100/100.5〜100/150が好ましく、100/101〜100/115のモル比がより好ましい。
【0014】
ヒドロキシカルボン酸ポリエステル系アルコール化合物は、ヒドロキシカルボン酸を縮合重合させることにより得られる。ヒドロキシカルボン酸としてはグリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシブタン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、リシノール酸などが挙げられる。またこれらヒドロキシカルボン酸が分子内縮合したラクトン化合物も原料として使用できる。ラクトン化合物としては、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチル−δ−バレロラクトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。ラクトン化合物を用いる場合は開環重合によりヒドロキシカルボン酸ポリエステル系アルコール化合物を得ることができる。これらヒドロキシカルボン酸またはラクトン化合物の中でも特に、炭素数6〜10のヒドロキシカルボン酸またはラクトン化合物が、ポリエステル系アルコール化合物の耐熱性、ポリビニルアセタールへの相溶化および可塑化効果の観点から好ましく、中でも6−ヒドロキシカルボン酸またはε−カプロラクトンが好ましい。
【0015】
本発明で使用するヒドロキシカルボン酸ポリエステル系アルコール化合物は前記ヒドロキシカルボン酸、ラクトン化合物以外に1価アルコール、多価アルコールを原料として使用可能である。1価アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、2−エチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノールなどが使用可能であり、また多価アルコールとしては、前記縮重合ポリエステル系アルコール化合物の原料として使用可能な多価アルコールとして例示したものと同じものが挙げられる。
【0016】
本発明で使用するヒドロキシカルボン酸ポリエステル系アルコール化合物を具体的に例示すると、エチレングリコールにε−カプロラクトンを付加開環重合させて得られるポリε−カプロラクトンジオール、プロピレングリコールにε−カプロラクトンを付加開環重合させて得られるポリε−カプロラクトンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールにε−カプロラクトンを付加開環重合させて得られるポリε−カプロラクトンジオール、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0017】
ヒドロキシカルボン酸ポリエステル系アルコール化合物は、従来公知の方法で製造できる。すなわち、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン化合物、場合によりさらに1価アルコールまたは多価アルコールを必要に応じて適切な溶剤に溶解し、適当量の触媒を添加して反応させる。触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸;チタン酸、テトラアルコキシチタン、チタンテトラカルボキシレートなどのチタン化合物、スズ化合物などのルイス酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;トリエチルアミン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、酢酸ナトリウムなどの有機塩基があげられる。反応の際発生する水を留去したり、適宜反応温度を変化させたりしてもよい。反応終了後、触媒を失活することで、ヒドロキシカルボン酸ポリエステル系アルコール化合物が得られる。
【0018】
炭酸ポリエステル系アルコール化合物は、多価アルコールと炭酸エステル化合物を多価アルコール過剰下で縮合重合させることにより得られる。多価アルコールとしては、縮重合ポリエステル系アルコール化合物の原料として例示した多価アルコールが挙げられるが、とりわけポリビニルアセタールへの相溶化および可塑化効果の観点から炭素数2〜12の多価アルコール、好ましくは炭素数4〜10の多価アルコール、さらに好ましくは炭素数6〜8の多価アルコールが好ましい。また炭酸エステル化合物としては、例えばエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。
【0019】
本発明で使用する炭酸ポリエステル系アルコール化合物を具体的に例示すると、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとジエチルカーボネートの反応により得られるポリカーボネートジオールなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0020】
炭酸ポリエステル系アルコール化合物は、従来公知の方法で製造できる。すなわち多価アルコールおよび炭酸エステル化合物を、必要に応じて適切な溶剤に溶解し、適当量の触媒を添加して縮合重合反応させる。触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸;チタン酸、テトラアルコキシチタン、チタンテトラカルボキシレートなどのチタン化合物、スズ化合物などのルイス酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;トリエチルアミン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、酢酸ナトリウムなどの有機塩基があげられる。反応の際に、炭酸エステル化合物と多価アルコールとのエステル交換反応で生成するアルコールを留去したり、適宜反応温度を変化させたりしてもよい。反応終了後、触媒を失活させることで、炭酸ポリエステル系アルコール化合物が得られる。
【0021】
次に、ビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物について説明する。ビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物は、ポリビニルアセタールとの相溶性、ポリビニルアセタールへの可塑化効果を有する化合物であって、ビスフェノール化合物に含まれる任意の水素原子を任意の官能基に置き換えた化合物であれば特に限定されない。ここでビスフェノール化合物とは、2個のフェノール性水酸基を有する従来公知のビスフェノール化合物が挙げられ、例えばビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールB(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン)、ビスフェノールF(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールAP(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン)、ビスフェノールAF(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)、ビスフェノールBP(ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン)、ビスフェノールC(2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールC(ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−ジクロロエチレン)、ビスフェノールE(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン)、ビスフェノールG(2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン)、ビスフェノールM(1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン)、ビスフェノールS(ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン)、ビスフェノールP(1,4−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン)、ビスフェノールPH(5,5’−(1−メチルエチリデン)−ビス(1,1’−(ビスフェニル)−2−オール)プロパン)、ビスフェノールTMC(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン)、ビスフェノールZ(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0022】
本発明で使用するビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物は、ビスフェノール化合物に含まれる任意の水素原子を任意の官能基に置き換えた化合物であるが、それらの中でも特にポリビニルアセタールとの相溶性、ポリビニルアセタールとジエステル化合物との相溶性を向上させる観点から、ビスフェノール化合物中の芳香環を構成する炭素に直接結合する酸素原子に隣接する水素原子が任意の官能基に置換された化合物が好ましい。任意の官能基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基などのアルキル基が挙げられる。ビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物としては、中でも、ビスフェノールエーテル化合物が好ましい。ビスフェノールエーテル化合物とは、ビスフェノール化合物が有する2つの水酸基を、それぞれ1分子のアルコール化合物と反応させた場合に得られる化合物と同一の化学構造を有する化合物を指す。そのようなビスフェノールエーテル化合物の中でも、特に式3の化学構造を有する化合物が好ましい。
【0023】
【化3】
式3においてR
6、R
7はそれぞれ独立してアルキル置換基を有していても良いジメチレン基、アルキル置換基を有していても良いトリメチレン基、アルキル置換基を有していても良いテトラメチレン基から選ばれる基を表す。ジメチレン基とは−CH
2−CH
2−で表される基であり、アルキル置換基を有するジメチレン基とは、ジメチレン基に含まれる任意の水素原子1個以上、好ましくは1個をアルキル基、より好ましくは炭素数1〜20のアルキル基で置換したジメチレン基を表す。トリメチレン基とは−CH
2−CH
2−CH
2−で表される基であり、アルキル置換基を有するトリメチレン基とは、トリメチレン基に含まれる任意の水素原子1個以上、好ましくは1個をアルキル基、より好ましくは炭素数1〜20のアルキル基で置換したトリメチレン基を表す。テトラメチレン基とは−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−で表される基であり、アルキル置換基を有するテトラメチレン基とは、テトラメチレン基に含まれる任意の水素原子1個以上、好ましくは1個をアルキル基、より好ましくは炭素数1〜20のアルキル基で置換したテトラメチレン基を表す。これらの中でも特にアルキル置換基を有していても良いジメチレン基が好ましく、ジメチレン基、メチル置換基を1個有するジメチレン基すなわち−CH
2−CH(−CH
3)−が、ポリビニルアセタールとビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物との相溶性、ポリビニルアセタールとジエステル化合物の相溶性の観点で好ましい。
【0024】
また本発明のビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物としてビスフェノールエーテル化合物を使用する場合、ポリビニルアセタールとビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物の相溶性、ポリビニルアセタールとジエステル化合物の相溶性の観点から、ビスフェノールエーテル化合物のうち好ましくは50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%のビスフェノール化合物に含まれるR
6およびR
7のいずれか又は両方がアルキル置換基を有していてもよいジメチレン基であることが好ましい。
【0025】
式3において、R
8、R
9はそれぞれ独立して水素原子、アシル基、アルキル基から選ばれる基である。アシル基としては炭素数2〜20のアシル基が好ましく、2〜8のアシル基がより好ましい。例えばアセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、3−ペンチルカルボニル基、3−ヘプチルカルボニル基などが挙げられる。アルキル基としては炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基(2−エチルヘキシル基等の分岐アルキル基も含む)などが挙げられる。これらのアルキル基は直鎖状、分岐状のいずれでも構わない。R
8、R
9はこれらの中から任意に選択可能であるが、本発明の組成物においてポリビニルアセタールとビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物との相溶性、またポリビニルアセタールとジエステル化合物の相溶性を高める観点では、ビスフェノールエーテル化合物に含まれるR
8とR
9の合計量の5〜100モル%が水素原子であることが好ましく、10〜100質量%が水素原子であることがより好ましく、30〜100質量%が水素原子であることがさらに好ましく、50〜100質量%が水素原子であることがいっそう好ましく、80〜100質量%が水素原子であることが特に好ましく、90〜100質量%が水素原子であることが最適である。
【0026】
式3において、R
10、R
11はそれぞれ独立して水素原子、任意の有機基から選ばれる基である。R
10、R
11は直接結合し、環状の構造を形成しているものでもかまわないが、第一の可塑剤の可塑化効果の観点からは環状の構造を形成していないものが好ましい。R
10、R
11としては水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、トリフルオロメチル基などの脂肪族基、フェニル基などの芳香族基などが挙げられるが、これらの中でもメチル基が、ポリビニルアセタールとビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物との相溶性、ポリビニルアセタールとジエステル化合物との相溶性の観点で好ましい。
【0027】
式3において、R
12、R
13はそれぞれ独立して有していても有していなくても良い任意の置換基である。R
12、R
13を有している場合、芳香環上におけるその結合位置や数は限定されず、2つ以上の基を有している場合にはそれらは同一であっても異なっていても良い。R
12、R
13を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの脂肪族基;フェニル基などの芳香族基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子が挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
式3においてk、lは任意の自然数であり、ポリビニルアセタールとビスフェノール骨格を有する可塑剤化合物との相溶性およびポリビニルアセタールとジエステル化合物との相溶性の観点からは、ビスフェノールエーテル化合物1分子あたりのk+lの平均は2〜50であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜15であることがさらに好ましい。また得られる組成物の遮音性能、すなわち合わせガラス用中間膜として使用した場合に、コインシデンス効果による遮音性能の低下を抑制する観点では、k+lの平均は2〜10であることが好ましく、2〜8であることがより好ましく、2〜4であることがさらに好ましい。なおk+lの平均が50を超える場合には、ビスフェノールエーテル化合物が水に溶解しやすくなることがあり、後述する、本発明の組成物を厚さ0.8mm×縦5cm×横5cmのシートに成形し、92.5±2.5℃の熱水に2時間浸漬した際の重量減少を少なくする観点で好ましくない。
【0029】
3番目に、不飽和カルボン酸エステル化合物について説明する。不飽和カルボン酸エステル化合物は、典型的には炭素−炭素二重結合を含む炭素数12〜20の脂肪族カルボン酸と炭素数1〜12の1〜3価アルコールとのエステル化合物である。かかる炭素−炭素二重結合を含む炭素数12〜20の脂肪族カルボン酸は、少なくとも1個、好ましくは1個の炭素−炭素二重結合を含み、炭素数が12〜20、好ましくは16〜20の脂肪族カルボン酸であれば特に限定されず、例えばオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸などが挙げられる。中でも特に熱安定性の観点からオレイン酸、リシノール酸が好適である。また炭素数1〜12の1〜3価アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノールなどの1価アルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどの2価アルコール、グリセリンなどの3価アルコールが挙げられるがこれらに限定されない。炭素数1〜12の1〜3価アルコールとして2価または3価のアルコールを使用する場合、当該アルコール1分子と反応させる炭素−炭素二重結合を含む炭素数12〜20の脂肪族カルボン酸は1分子であってもよいし、2分子以上であってもよく、また炭素−炭素二重結合を含む炭素数12〜20の脂肪族カルボン酸を少なくとも1分子反応させていれば、炭素−炭素二重結合を含む炭素数12〜20の脂肪族カルボン酸以外のカルボン酸と反応させてもよい。
本発明の組成物を長期間使用した際の不飽和カルボン酸エステル化合物の揮発による損失を防ぐ観点からは、炭素数1〜12の1〜3価アルコールとしては、炭素数2〜12の2価もしくは3価のアルコールを使用することが好ましく、炭素数3〜12の3価のアルコールを使用することがより好ましい。一方、ポリビニルアセタールへの可塑化効果の観点からは、炭素数1〜12の1〜3価アルコールとしては、1価のアルコールを使用することが好ましい。また脂肪族カルボン酸エステルの揮発による損失とポリビニルアセタールへの可塑化効果をバランスよく発現させる観点からは、炭素数1〜12の1〜3価アルコールの炭素数は、1〜8が好ましく、2〜6がより好ましい。
【0030】
本発明で使用する不飽和カルボン酸エステル化合物を具体的に例示すると、リシノール酸メチル、リシノール酸ブチル、エチレングリコールモノリシノレート、プロピレングリコールモノリシノレート、トリエチレングリコールモノリシノレート、トリエチレングリコールジリシノレート、グリセリンジリシノレート、グリセリントリリシノレート、トリエチレングリコールモノオレアート、グリセリンジオレアートなど、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステル化合物;トリエチレングリコールジオレアートなど、水酸基を有さない不飽和カルボン酸エステル化合物などが挙げられる。中でもポリビニルアセタールとジエステル化合物との相溶性を向上する観点からは、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましい。
【0031】
本発明で使用する化合物(I)の水酸基価は特に限定されないが、15〜450mgKOH/gであることが好ましく、50〜350mgKOH/gであることがより好ましく、80〜330mgKOH/gであることが、本発明の組成物に含まれるポリビニルアセタールと化合物(I)の相溶性、ポリビニルアセタールとジエステル化合物(II)の相溶性の観点で好ましい。本発明で使用する化合物(I)の水酸基価は、JIS K1557−1に準じて求められる。
【0032】
化合物(I)の水酸基価に基づく数平均分子量は特に限定されないが、200〜2500であることが好ましく、300〜1500であることがより好ましく、400〜1000であることがさらに好ましい。水酸基価に基づく数平均分子量が上記範囲内であると、本発明の組成物を長期間使用した場合に化合物(I)が揮発しにくく、さらにポリビニルアセタールとの相溶性およびポリビニルアセタールの可塑化効果にも優れる。なお水酸基価に基づく数平均分子量は、(化合物(I)1分子あたりの水酸基の数)/(化合物(I)1gあたりの水酸基の物質量[mol/g])=1000×(化合物(I)1分子あたりの水酸基の数)/((化合物(I)の水酸基価)/56)で得られる値である。
【0033】
本発明の組成物において、ポリビニルアセタール100質量部に対する化合物(I)の含有量をX質量部とすると、X=3〜100であり、5〜80であることが好ましく、7〜50であることがさらに好ましく、7〜40であることが特に好ましく、7〜35であることがことさらに好ましく、7〜30であることが最も好ましい。なお、前記範囲は上限および下限の好ましい値をそれぞれ示したものであり、各上限と各下限を自由に組み合わせてよい。本明細書中の数値範囲を示した他の箇所も同様である。Xが3より小さいと、本発明の組成物を低温(例えば5℃以下)で取り扱った場合に成分のブリードが発生することがあり、また本発明の組成物を合わせガラス用中間膜として使用した場合に遮音性能が不十分となることがある。一方Xが100より大きいと、本発明の組成物が水と接した場合に、成分の抽出が発生することがある。
【0034】
本発明の組成物が含有するジエステル化合物(II)について説明する。ジエステル化合物(II)は下記式1で表される化合物および下記式2で表される化合物から選ばれる1種以上であり、ポリビニルアセタールとの相溶性とポリビニルアセタールへの可塑化効果とのバランスに優れ、組成物を吸水しにくくさせ、組成物が水と接した場合にも抽出されにくく、本発明の組成物を長期間使用した場合でも物性変化を抑制する作用を有する。
【0036】
(式1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立してエーテル結合を有していてもよい炭素数5〜16の有機基であり、nは1〜10である。
【0037】
R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数5〜16の炭化水素基または前記炭化水素基の炭素−炭素結合の間に酸素原子が挿入された構造のエーテル結合を含む基であることが好ましく、炭素数5〜16のアルキル基または前記アルキル基の炭素−炭素結合の間に酸素原子が挿入された構造のエーテル結合を含む基であることがより好ましい。R
1およびR
2としては、ペンチル基、3−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、3−ヘプチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基またはこれらの炭素−炭素結合の間に酸素原子が挿入された構造のエーテル結合を含む基(例えばブトキシメチル基)などが挙げられる。中でも特に炭素数7〜11の有機基がより好ましく、炭素数7〜8の有機基がさらに好ましい。nは3〜8であることが好ましく、3〜4であることがより好ましい。このようなジエステル化合物(II)を具体的に例示すると、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート(3G8)、テトラエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート(4G8)、トリエチレングリコールジデカノエートなどが挙げられ、3G8、4G8がより好ましく、3G8が安価に入手可能でポリビニルアセタールへの可塑化効果、ポリビニルアセタールとの相溶性に優れるので最適である。
【0039】
(式2)中、R
3およびR
4はそれぞれ独立してエーテル結合を有していてもよい炭素数4〜16の有機基であり、R
5は炭素数2〜10の炭化水素基である。
【0040】
R
3およびR
4はそれぞれ独立して、炭素数4〜16の炭化水素基もしくは前記炭化水素基の炭素−炭素結合の間に酸素原子が挿入された構造のエーテル結合を含む基であることが好ましく、炭素数4〜16のアルキル基もしくは前記アルキル基の炭素−炭素結合の間に酸素原子が挿入された構造のエーテル結合を含む基であることがより好ましい。例えばブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、2−ブトキシエチル基、2−(2−ブトキシ)エトキシエチル基などが挙げられる。これらの中でも特に炭素数5〜11の有機基がより好ましく、炭素数6〜8の有機基がさらに好ましい。R
5としては炭素数2〜10のアルキレン基またはシクロアルキレン基が好ましい。R
5を具体的に例示すると1,4−ブチレン基、1,6−ヘキシレン基、1,8−オクチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキシレン基などが挙げられる。中でも炭素数4〜6の炭化水素基が好ましい。このようなジエステル化合物(II)を具体的に例示するとアジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2−ブトキシエチル)、アジピン酸ジ(2−(2−ブトキシエトキシ)エチル)、アジピン酸ジノニル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジノニルなどが挙げられ、とりわけアジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2−ブトキシエチル)、アジピン酸ジ(2−(2−ブトキシエトキシ)エチル)が好適である。
【0041】
ジエステル化合物(II)はポリビニルアセタールとの相溶性と、ポリビニルアセタールへの可塑化効果とのバランスに優れるが、ポリビニルアセタールと比較的多量のジエステル化合物(II)を含む組成物を低温(例えば5℃以下)で取り扱うと、ジエステル化合物(II)がブリードする問題が発生することがある。本発明の組成物は化合物(I)を必須成分として含有していることにより、ジエステル化合物(II)を多量に含有する場合であっても、低温でのブリードが発生しにくい。
【0042】
また本発明の組成物において、ポリビニルアセタール100質量部に対するジエステル化合物(II)の含有量をY質量部とした場合、Y=5〜60であり、10〜55であることが好ましく、20〜50であることがさらに好ましい。Yが5より小さいと、本発明の組成物を合わせガラス用中間膜として使用した場合に遮音性能が不十分となることがあり、またYが60より大きいと、本発明の組成物を低温(例えば5℃以下)で保管した場合に、成分のブリードが発生することがある。
【0043】
本発明の組成物においてはX<Yであることが好ましく、さらにX<YかつXとYの差は5より大きいことがより好ましく、XとYの差は10より大きいことがさらに好ましい。XがY以上であると、本発明の組成物が水に接した場合に、成分の抽出が発生することがあり、また本発明の組成物を合わせガラス用中間膜として使用した場合に、十分な遮音性能が発現しないことがある。
【0044】
また本発明の組成物においてはX+Y=42〜120であり、X+Y=44〜100であることが好ましく、X+Y=46〜85であることがより好ましい。X+Yが42未満であると、本発明の組成物を合わせガラス用中間膜として使用した場合に遮音性能が不十分となることがあり、また120を超えると、本発明の組成物の力学強度が不十分となることがある。
【0045】
本発明の組成物を押出機等の溶融混練機を使用して製造する場合、化合物(I)とジエステル化合物(II)はあらかじめ混合したものを押出機に供給することが好ましい。押出機に供給する際に、化合物(I)とジエステル化合物(II)が均一に混合していると、それら化合物の押出機への供給比率が安定する。例えば、可塑剤化合物X質量部とジエステル化合物(II)Y質量部との混合物が、80℃において均一な液体であることが好ましく、20℃において均一な液体であることがさらに好ましく、0℃において均一な溶液であることが特に好ましい。80℃において均一な液体であれば、混合した液体を80℃以上で押出機に供給することで、安定した比率で供給可能であるので好適である。
【0046】
本発明の組成物は、当該組成物を厚さ0.8mm×縦5cm×横5cmのシートに成形し、92.5℃±0.5℃の熱水に2時間浸漬した際の重量減少が2質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましく、0.6質量%未満であることがさらに好ましい。当該重量減少が2質量%を超えると、本発明の組成物を合わせガラス用中間膜として使用した合わせガラスを屋外で長期間使用し、合わせガラス用中間膜が水と接触した場合に、本発明の組成物に含まれる成分が水抽出され、合わせガラス端部で気泡が発生したり、ガラスと中間膜との剥離が発生したりすることがあり、さらに前記抽出が発生した後の組成物が低温にさらされた場合に、ジエステル化合物(II)のブリードが発生することがある。
【0047】
次に、本発明の組成物が含有するポリビニルアセタールについて説明する。本発明で使用するポリビニルアセタールは通常、ポリビニルアルコールを原料として製造される。ポリビニルアルコールは従来公知の手法、すなわち酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル化合物を重合し、得られた重合体をけん化することによって得ることができる。カルボン酸ビニルエステル化合物を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、従来公知の方法を適用できる。重合開始剤としては、重合方法に応じてアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などを適宜選択できる。けん化反応は、従来公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いた加アルコール分解反応、加水分解反応などを適用できる。
【0048】
また、前記ポリビニルアルコールは本発明の主旨に反しない限り、カルボン酸ビニルエステル化合物と他の単量体とを共重合させた共重合体をけん化したものであってもよい。他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン、その塩およびその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミドおよびその誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン、その塩およびその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミドおよびその誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸エステルまたはマレイン酸無水物、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル、などが挙げられるがこれらに限定されない。これらの他の単量体を共重合させる場合には、通常、カルボン酸ビニルエステル化合物に対して10モル%未満の割合で用いられる。
【0049】
本発明に用いられるポリビニルアセタールの原料となるポリビニルアルコールの粘度平均重合度は特に限定されず、用途に応じて適宜選択されるが、150〜3500のものが好ましく、200〜2500のものがより好ましく、1500〜2500であるものがさらに好ましい。粘度平均重合度が150未満では本発明の組成物の力学強度が不十分となることがあり、3500を超えると溶剤への溶解性や溶融加工時の加工性が低下することがある。
【0050】
本発明に用いられるポリビニルアセタールは、例えば次のような方法によって得ることができるが、これに限定されない。まず濃度3〜30質量%のポリビニルアルコール水溶液を80〜100℃の温度範囲で保持した後、その温度を10〜60分かけて徐々に冷却する。温度が−10〜30℃まで低下したところでアルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら30〜300分間アセタール化反応を行う。その後反応液を30〜200分かけて20〜80℃の温度まで昇温し、その温度を30〜300分保持する。次に反応液を、必要に応じてアルカリなどの中和剤を添加して中和し、樹脂を水洗、乾燥することにより、本発明で用いるポリビニルアセタールが得られる。
【0051】
アセタール化反応に用いる酸触媒としては特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれでも使用可能であり、例えば酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。中でも塩酸、硫酸、硝酸が好ましく用いられる。
【0052】
アセタール化反応に用いるアルデヒドは特に限定されないが、炭素数1〜8のアルデヒドを用いることが好ましい。炭素数1〜8のアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。これらの中でも炭素数2〜5のアルデヒド、特にn−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド等炭素数4のアルデヒドが入手容易であり、アセタール化反応後に残存するアルデヒドの水洗や乾燥による除去が容易で、また得られるポリビニルアセタールの力学特性に優れるため、好ましく用いられる。
【0053】
本発明で使用するポリビニルアセタールの平均残存水酸基量は15〜50モル%であり、17〜42モル%であることが好ましく、23〜35モル%であることがより好ましく、23〜33モル%であることがさらに好ましく、25〜33モル%であることが特に好ましく、26〜33モル%であることが最も好ましい。平均残存水酸基量が15モル%未満であると、本発明の組成物の力学強度が不十分となったり、化合物(I)やジエステル化合物(II)との相溶性が低下したりすることがあり、50モル%を超えると、本発明の組成物が吸水しやすくなったり、化合物(I)やジエステル化合物(II)との相溶性が低下することがある。
【0054】
本発明で使用するポリビニルアセタールの平均アセタール化度は特に限定されないが、40〜84モル%であることが好ましく、45〜80モル%であることがより好ましく、50〜76モル%であることがさらに好ましく、60〜74モル%であることが特に好ましく、66〜73モル%であることがさらに好ましい。ポリビニルアセタールの平均アセタール化度が40モル%未満となると、化合物(I)やジエステル化合物(II)との相溶性が低下することがあり好ましくなく、84モル%を超えるものは工業的に安価に生産することが困難であり、また得られる組成物の力学強度が低下することがある。
【0055】
本発明で使用するポリビニルアセタールの平均残存ビニルエステル基量は特に限定されないが、0.1〜15モル%であることが好ましく、0.1〜10モル%であることがより好ましく、0.1〜5モル%であることがさらに好ましい。平均残存ビニルエステル基量が0.1モル%未満のものは工業的に安価に生産することが困難であり、15モル%を越えるものは、長期間使用した場合に着色して外観が損なわれる場合がある。
【0056】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、その他添加剤をさらに含有していてもよい。
【0057】
本発明の組成物を合わせガラス用中間膜など、ガラスとの接着性を適切に調節して使用する用途に用いる場合には、接着性改良剤(接着性調整剤)をさらに添加しても良い。かかる接着性改良剤としては酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酪酸マグネシウムなどのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩といった、従来公知の接着性改良剤を使用できる。接着性改良剤の添加量は特に限定されず、例えばパンメル試験により得られるパンメル値が目的に応じた値になるように添加量を調節することができる。
【0058】
本発明の組成物は、ポリビニルアセタール、化合物(I)、ジエステル化合物(II)、必要に応じてその他成分を従来公知の方法で混合することにより得られる。混合方法としては、例えばミキシングロール、プラストミル、押出機などを用いた溶融混練、あるいは各成分を適当な有機溶剤に溶解した後、溶剤を留去する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。混合方法のうち、溶融混練が組成物を安価に製造できる点で好ましい。
【0059】
本発明のポリビニルアセタール組成物を成形(例えば押出成形、プレス成形など)して得られるシートは、特に合わせガラス用中間膜用途に好適に使用される。
【0060】
本発明のシートを少なくとも一層および熱可塑性樹脂を含有する他の層を少なくとも一層有する合わせガラス用多層中間膜も好適である。熱可塑性樹脂を含有する他の層は、熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタールまたはその他樹脂を含有するものであってもよいし、可塑剤を含有するものであってもよい。可塑剤は、本発明のポリビニルアセタール組成物に含有される可塑剤であってもよいし他の可塑剤であってもよい。
【0061】
前記シートの厚さは特に限定されないが、通常、0.01〜5mmの範囲が好ましく、0.05〜3mmの範囲がより好ましく、0.1〜1.6mmの範囲がさらに好ましい。また本発明の合わせガラス用多層中間膜の厚さは、その下限は0.1mm、好ましくは0.2mm、より好ましくは0.3mm、さらに好ましくは0.4mm、特に好ましくは0.5mm、いっそう好ましくは0.6mm、特別好ましくは0.7mm、最適には0.75mmである。またその上限は5mm、好ましくは4mm、より好ましくは2mm、さらに好ましくは1.6mm、特に好ましくは1.2mm、いっそう好ましくは1.1mm、特別好ましくは1mm、最適には0.79mmである。
【0062】
本発明のシートを合わせガラス用中間膜又は合わせガラス用多層中間膜として使用する場合、本発明の合わせガラス用中間膜又は合わせガラス用多層中間膜と積層させるガラスは特に限定されず、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、熱線吸収板ガラスなどの無機ガラス;ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどの従来公知の有機ガラス等を制限なく使用できる。これらは無色または有色のいずれであってもよい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。またガラスの厚みは特に限定されないが、通常、100mm以下であることが好ましい。
【0063】
本発明のシートを合わせガラス用中間膜として又は合わせガラス用多層中間膜に使用する場合、シートの表面又は合わせガラス用多層中間膜の表面の形状は特に限定されないが、凹凸構造を形成させたシート又は合わせガラス用多層中間膜であると、当該シート又は合わせガラス用多層中間膜とガラスとを熱圧着する際の泡抜け性に優れるため好ましい。
【0064】
本発明の合わせガラス用中間膜又は合わせガラス用多層中間膜を用いて得られる合わせガラスもまた本発明を構成する。かかる合わせガラスは従来公知の方法で製造できる。例えば真空ラミネーター装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、ニップロールを用いる方法等が挙げられる。また上記方法により仮圧着した後に、オートクレーブに投入して本接着する方法も挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例等により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0066】
(製造例1)
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた5リットルガラス容器に、イオン交換水4000g、ポリビニルアルコール(粘度平均重合度1700、けん化度99モル%)400gを仕込み、95℃に昇温してポリビニルアルコールを完全に溶解させた。得られた溶液を120rpmで攪拌下、10℃まで約30分かけて徐々に冷却後、ブチルアルデヒド226gおよび20質量%塩酸水溶液200mLを添加した。その後、60分かけて65℃まで昇温し、65℃にて120分間保持した後、室温まで冷却した。得られた樹脂をイオン交換水で洗浄後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して残存する酸を中和し、さらに過剰のイオン交換水で洗浄、乾燥してポリビニルブチラール(PVB−1)を得た。PVB−1をJIS K6728に従って分析したところ、平均ブチラール化度(平均アセタール化度)は68モル%、平均残存ビニルエステル基量は1モル%であり、平均残存水酸基量は31モル%であった。
【0067】
(製造例2)
製造例1において、ブチルアルデヒドの使用量を240gにした以外は同様にしてポリビニルブチラール(PVB−2)を得た。PVB−2をJIS K6728に従って分析したところ、平均ブチラール化度(平均アセタール化度)は72モル%、平均残存ビニルエステル基量は1モル%であり、平均残存水酸基量は27モル%であった。
【0068】
(製造例3)
製造例1において、ブチルアルデヒドの使用量を213gにした以外は同様にしてポリビニルブチラール(PVB−3)を得た。PVB−3をJIS K6728に従って分析したところ、平均ブチラール化度(平均アセタール化度)は64モル%、平均残存ビニルエステル基量は1モル%であり、平均残存水酸基量は35モル%であった。
【0069】
(製造例4)
製造例1において、ブチルアルデヒドの使用量を270gにした以外は同様にしてポリビニルブチラール(PVB−4)を得た。PVB−4をJIS K6728に従って分析したところ、平均ブチラール化度(平均アセタール化度)は78モル%、平均残存ビニルエステル基量は1モル%であり、平均残存水酸基量は21モル%であった。
【0070】
(実施例1)
PVB−1を100質量部、PEs−1(3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸の縮合重合で得られる縮重合ポリエステル系アルコール化合物、水酸基価220mgKOH/g、水酸基価に基づく数平均分子量=510)を15質量部、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート(3G8)を45質量部、酸化防止剤としてBHT(2,6−ジt−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)を0.08質量部および紫外線吸収剤として2-(3,5-ジ-tert-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:チヌビン328;チバ社製)を0.15質量部ビーカー内で撹拌して粗混合した後、ラボプラストミルで溶融混練(150℃、7分)して、組成物−1を得た。組成物−1を150℃、50kg/cm2、30分プレスして厚さ0.8mmのシート−1を作製した。シート−1を300mm×300mm×3mmのフロートガラス2枚に挟み、ニップロールで仮接着後、オートクレーブ中で140℃、1.2MPa、30分処理して合わせガラス−1を得た。
【0071】
(ヘイズ測定)
前記合わせガラス−1を5cm×5cmの大きさに切断し、スガ試験機社製、ヘーズメーター(HZ−1)を使用し、合わせガラス−1のヘイズを測定したところ0.2%であった。
【0072】
(損失係数測定)
合わせガラス−1を2.5cm×30cmの大きさに切断し、20℃雰囲気下で加振機(EMIC社製、小型振動発生機512−A)により加振し、その際の周波数応答関数をFFTアナライザー(小野測器社製、DS−2100)にて検出し、サーボ解析ソフト(小野測器社製、DS−0242)を使用して3000Hzにおける損失係数を算出した。損失係数の大きいものほど合わせガラスの遮音性能が優れることを表す。
【0073】
(低温ブリード試験)
シート−1を含水率0.5%に調湿後、5℃で1週間保管した。保管後のシート表面をティッシュペーパーで軽く拭い、ティッシュペーパーへの可塑剤の付着有無を目視で評価した。可塑剤が付着していたものを可塑剤ブリード「有り」とし、付着していなかったものを可塑剤ブリード「無し」とした。
【0074】
(熱水浸漬(シート))
シート−1を5cm×5cmに切断し(重さ約2g)、デシケーター内で乾燥してその含水率を0.1%未満とした(このときのシート−1の質量を試験前質量とする)。92.5±2.5℃の温水500mLに2時間浸漬し(92.5±2.5℃を保持)、デシケーター内で乾燥して、試験後シート−1を得た(このときの質量をシート−1の試験後質量とする)。試験前後の重量減少の割合=((試験前質量−試験後質量)/試験前質量)を計算した。
さらに試験後シート−1を、前記低温ブリード試験と同様の方法で試験して、可塑剤ブリードの有無を判断した。
【0075】
(熱水浸漬(合わせガラス))
合わせガラス−1を10cm×10cmに切断し、92.5±2.5℃の温水50mLに2時間浸漬した(92.5±2.5℃を保持)。処理後合わせガラス中に発生した気泡の様子を目視で確認した。
【0076】
(化合物(I)とジエステル化合物(II)との相溶性)
化合物(I)X質量部、ジエステル化合物(II)Y質量部を、全量が50gになるようにフラスコにいれ、回転子およびマグネティックスターラーを使用して80℃、または20℃で30分攪拌した。攪拌直後の液体が均一な透明液体になっているか否かを目視で確認し、均一な透明溶液になっているものを「均一」とし、均一な透明液体になっていないものを「不均一」とした。
【0077】
(実施例2〜29、比較例1〜6)
表1に記載のポリエステル系アルコール化合物(PEs−1〜7)を使用し、表2または表3に記載の組成とした以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表2または表3に示す。
【0078】
(実施例30〜46、比較例7〜10)
化合物(I)として表4に記載のビスフェノールエーテル骨格を有する可塑剤化合物(BP−1〜7)を使用し、表4に記載の組成とした以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表5に示す。
【0079】
(実施例47〜64、比較例11〜16)
化合物(I)として表6に記載の不飽和カルボン酸エステル化合物(CEs−1〜6)を使用し、表7または表8に記載の組成とした以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表7または表8に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
表2〜3、5、7〜8の結果より、本発明の規定を満たす組成物は、低温で保管しても可塑剤のブリードが発生せず、かつ水と接した場合であっても成分の抽出による問題が発生しないことが分かる。また本発明の規定を満たす組成物からなるシートを合わせガラス用中間膜として用いると、遮音性に優れた合わせガラスが得られることが分かる。