特許第6474986号(P6474986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6474986-油性成分の抽出方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474986
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】油性成分の抽出方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 11/02 20060101AFI20190218BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   B01D11/02 A
   B01D11/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-205736(P2014-205736)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-73916(P2016-73916A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 潔
(72)【発明者】
【氏名】李 鵬
(72)【発明者】
【氏名】青木 信雄
(72)【発明者】
【氏名】上田 巌
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−240609(JP,A)
【文献】 特開2011−031170(JP,A)
【文献】 特開2011−067160(JP,A)
【文献】 特表2013−523157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/00−12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分及び油性成分を含有する材料からの油性成分の抽出方法であって、
工程(A)容器中で前記材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて処理物を得る工程と、
工程(B)前記処理物に、ペンタン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群から選択される分離溶媒をさらに加える工程と、
工程(C)前記分離溶媒を含む前記処理物中のジメチルエーテルを、気体状態のジメチルエーテルとして除去する工程と、
工程(D)前記油性成分が溶解した前記分離溶媒を選択的に得る工程と、
工程(E)前記油性成分が溶解した前記分離溶媒から前記油性成分を抽出する工程と
を含む、油性成分の抽出方法。
【請求項2】
前記工程(A)が、前記材料と液体状態のジメチルエーテルとの混合液を前記処理物として得る工程であり、
前記工程(C)が、前記分離溶媒を含む前記混合液中のジメチルエーテルを、気体状態のジメチルエーテルとして除去することにより、ジメチルエーテルが除去されておりかつ前記分離溶媒を含む混合液を得る工程である、請求項1に記載の油性成分の抽出方法。
【請求項3】
前記工程(A)が、前記材料と液体状態のジメチルエーテルとを混合し、前記容器中で撹拌する工程である、請求項2に記載の油性成分の抽出方法。
【請求項4】
前記工程(C)が、気体状態として除去されたジメチルエーテルを回収し、回収されたジメチルエーテルを、ジメチルエーテルが除去されておりかつ前記分離溶媒を含む前記混合液に液体状態のジメチルエーテルとして再度供給し、気体状態のジメチルエーテルとして再度除去することにより、ジメチルエーテルが除去されておりかつ前記分離溶媒を含む混合液を得る工程を1回以上繰り返す工程をさらに含む、請求項2又は3に記載の油性成分の抽出方法。
【請求項5】
前記工程(B)が、前記分離溶媒の量を分離溶媒重量と藻濃縮液重量との比が2.0以下となる量として行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の油性成分の抽出方法。
【請求項6】
前記分離溶媒がヘキサンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の油性成分の抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の材料からの油性成分の抽出方法に関し、特に、油性成分を含有する藻類に加え、多量の水分を含有する材料からの油性成分の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、イカダモ等の藻類は、多くの油性成分を生産する能力があり、かつ水中で培養することができることから、このような藻類から油性成分を抽出し、バイオ燃料などの材料として用いることが提案されている。
【0003】
このような油性成分を含有する材料から油性成分を取り出すことを目的として、大量の水分と油性成分とを含む材料をジメチルエーテル(以下、DMEという場合がある。)により処理して油性成分を得る、油性成分の抽出方法が知られている(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】4th International Conference on Algal Biomass, Biofuels and Bioproducts予稿集、New Mexico、P2.38、2014年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、大量の水分と油性成分とを含む材料に対してジメチルエーテルを用い、ジメチルエーテルの気化除去後に、さらに分離溶媒を接触させる油性成分の抽出方法であっても油性成分の回収率は十分であるといえる。しかしながら、かかる抽出方法では多量の分離溶媒が必要であるため分離溶媒と油性成分との分離により大きなエネルギーが必要であり、また処理物と分離溶媒との接触時に気泡が発生してしまうため工程の実施が困難となるという問題がある。
【0006】
よって、本発明の課題は、油性成分に加え、多量の水分を含んだ材料からの油性成分の抽出を、より少量の分離溶媒を用いる簡便な工程でより効率的に行うことができる油性成分の抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を進めたところ、ジメチルエーテルによる処理と、ヘキサン等の分離溶媒による処理とを実施するにあたり、特にジメチルエーテルを除去する工程を分離溶媒を加える工程の後に行うことにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記[1]〜[7]を提供する。
[1] 水分及び油性成分を含有する材料からの油性成分の抽出方法であって、
工程(A)容器中で前記材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて処理物を得る工程と、
工程(B)前記処理物に、分離溶媒をさらに加える工程と、
工程(C)前記分離溶媒を含む前記処理物中のジメチルエーテルを、気体状態のジメチルエーテルとして除去する工程と、
工程(D)前記油性成分が溶解した前記分離溶媒を選択的に得る工程と、
工程(E)前記油性成分が溶解した前記分離溶媒から前記油性成分を抽出する工程と
を含む、油性成分の抽出方法。
[2] 前記工程(A)が、前記材料と液体状態のジメチルエーテルとの混合液を前記処理物として得る工程であり、
前記工程(C)が、前記分離溶媒を含む前記混合液中のジメチルエーテルを、気体状態のジメチルエーテルとして除去することにより、ジメチルエーテルが除去されておりかつ前記分離溶媒を含む混合液を得る工程である、[1]に記載の油性成分の抽出方法。
[3] 前記工程(A)が、前記材料と液体状態のジメチルエーテルとを混合し、前記容器中で撹拌する工程である、[2]に記載の油性成分の抽出方法。
[4] 前記工程(C)が、気体状態として除去されたジメチルエーテルを回収し、回収されたジメチルエーテルを、ジメチルエーテルが除去されておりかつ前記分離溶媒を含む前記混合液に液体状態のジメチルエーテルとして再度供給し、気体状態のジメチルエーテルとして再度除去することにより、ジメチルエーテルが除去されておりかつ前記分離溶媒を含む混合液を得る工程を1回以上繰り返す工程をさらに含む、[2]又は[3]に記載の油性成分の抽出方法。
[5] 前記工程(B)が、前記分離溶媒の量を分離溶媒重量と藻濃縮液重量との比が2.0以下となる量として行われる、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の油性成分の抽出方法。
[6] 前記分離溶媒が、ペンタン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群から選択される、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の油性成分の抽出方法。
[7] 前記分離溶媒がヘキサンである、[6]に記載の油性成分の抽出方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油性成分に加え、多量の水分を含んだ、例えば培養により得られた藻類に由来する材料からの油性成分の抽出をより少量の分離溶媒を用いる簡便な工程で効率的に行うことができる。換言すると、材料から抽出されてジメチルエーテルに含まれる油性成分を直接的に分離溶媒に接触させた状態でジメチルエーテルを気化除去するので、用いられる分離溶媒がより少量であっても効率的に油性成分を得ることができる。また用いられる分離溶媒がより少量であるので、分離溶媒と油性成分との分離をより簡便な工程で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、抽出方法に用いられる装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.抽出方法
まず、抽出方法について説明する。
本発明の実施形態にかかる油性成分の抽出方法は、油性成分に加え、多量の水分を含んだ材料から、油性成分を抽出する方法である。
【0011】
本発明の実施形態にかかる抽出方法は、容器の内外にジメチルエーテル及び/又は分離溶媒を流通(循環)させつつ材料と接触させる流通式の態様、閉鎖系でジメチルエーテル及び/又は分離溶媒と材料とを混合(撹拌)する撹拌式(バッチ式)の態様のいずれにも適用することができる。以下、これら両方の態様について説明する。
【0012】
(材料)
本発明の実施形態にかかる抽出方法が適用される材料としては、油性成分及び水分を含有する任意の材料が用いられ得る。ここで「油性成分」とは、本発明の実施形態にかかる抽出方法により抽出される、1又は2以上の成分を含む物質をいう。抽出される油性成分は、有用な成分であっても、例えば環境や人体に対して有害であるなどの除去されるべき不要な成分であってもよい。油性成分は、材料から抽出して有用な成分として用いられ得る成分であることが好ましい。
【0013】
有用な油性成分を抽出する例としては、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭等を含む石炭、下水汚泥等の含水物質、油性成分を含む生体材料と多量の水分とを含む混合物を材料とし、この材料から油性成分を取り出し、バイオ燃料の原料などの有用な油性材料を製造する例を挙げることができる。
【0014】
前記生体材料の具体例としては、ユーグレナ、イカダモ等の油性成分を産生して含有し得る藻類、ヒマワリ、ゴマ、トウモロコシ等の種子、サトウキビの茎の髄等を挙げることができる。バイオ燃料の原料などの有用な油性材料を効率的に得る観点から、生体材料としてはユーグレナを用いることが好ましい。
【0015】
また、前記生体材料を含む混合物の例としては、これらの生体材料及びその培養に用いられる各種の物質を含む混合物を挙げることができる。例えば、前記生体材料として油性成分を産生して含有し得る藻類等の水界で培養できる生物を用いる場合、前記生体材料を含む混合物の例としては、濾過、遠心分離等の任意好適な処理により収集(濃縮)された生物と水分とを含む混合物を、本発明の抽出方法に供することができる。また、材料の安定供給、保存等の観点から、生体材料に対して凍結、乾燥、破砕等の処理を施した処理物を材料として用いてもよい。
【0016】
前記材料中の水分の含有割合は、より少ないことがエネルギー効率の観点からは好ましい。しかしながら、本発明の抽出方法においては、材料中の水分の含有割合(工程(A)に供する直前の段階における材料の全量に対する水分の割合)は50質量%以上であってよく、さらには90質量%以上であってもよい。特に抽出方法に撹拌式を用いる場合には、材料中の水分の含有割合は95質量%程度であってもよい。このように多量の水分を含む材料であっても、本発明の実施形態にかかる抽出方法では、効率的に油性成分を抽出することができる。従って、本発明の抽出方法に供する前の予備的な脱水処理を軽度にしか行うことができなかった材料、又は予備的な脱水処理を行わなかった材料を用いたとしても、油性成分の抽出を簡便な工程で効率的に行うことができる。
【0017】
本発明の実施形態にかかる抽出方法において、材料が含有する油性成分とは、水以外の物質であり、かつ液体状態のジメチルエーテル及び/又は分離溶媒に、水の飽和溶解度以上の濃度で溶解し得る物質である。好ましくは油性成分のジメチルエーテルへの溶解度は、水のジメチルエーテル及び/又は分離溶媒への溶解度の10倍以上であり、より好ましくは、油性成分はジメチルエーテル及び/又は分離溶媒と任意の割合で相溶する。多くの油性成分は、液体状態のジメチルエーテル及び/又は分離溶媒と任意の割合で相溶するので、これらはいずれも、本発明の抽出方法に適用し得る。
【0018】
本発明の実施形態にかかる抽出方法で抽出され得る油性成分の好適な例としては、上記のような生体材料が含有する有用な油性成分、特に藻類が産生し含有する油性成分を挙げることができる。このような藻類の例としては、ユーグレナ類(Euglenida)、イカダモ属(Scenedesmus)、クロレラ属(Chlorella)、アルスロスピラ属(Arthrospira)、ボツリオコッカス属(Botryococcus)、シュードコリシスチス属(Pseudochoricystis)に属する藻類が挙げられる。
【0019】
用いられ得る藻類は、人為的に培養された藻類であっても、自然環境で採取された藻類であってもよい。
【0020】
このような藻類として例えばユーグレナを培養して材料として用いる場合には、例えば「ユーグレナ 生理と生化学」、学会出版センター(1989)に記載されている従来公知の方法により培養することができる。
【0021】
藻類により産生され、かつ本発明の実施形態にかかる抽出方法により抽出され得る油性成分は特に限定されない。藻類により産生される油性成分に含まれ得る成分の例としては、脂肪族カルボン酸と脂肪族アルコールとがエステル結合した脂肪族エステル化合物、炭素原子数が15〜40程度の範囲の常温で固体状又は液体状である脂肪族炭化水素が挙げられる。脂肪族炭化水素の例としては、直鎖状の脂肪族炭化水素が挙げられる。このような脂肪族炭化水素の具体例としては、ヘプタデセン、エイコサジエンが挙げられる。
【0022】
(工程(A))
本発明の実施形態にかかる抽出方法は、工程(A)容器中で材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて処理物を得る工程を含む。
工程(A)は材料が含有する油性成分をジメチルエーテルに溶解させて抽出する工程である。
【0023】
液体状態のジメチルエーテルは、20℃において水を7.2質量%、30℃では水を7.8質量%含有し得る。またジメチルエーテルは、既に説明したとおり水分を含有した状態であってもさらに多量の油性成分を溶解し得る。さらには液体状態のジメチルエーテルは、水に比べて極性が小さいため、油性成分を溶解するとともに、気体状態では水との分離が容易である。
【0024】
このような特性を有するジメチルエーテルを用いれば、材料として例えば多量の水分を含む藻類を用いた場合であっても、藻類の細胞壁を破壊する工程、すなわち藻類の乾燥工程及び破砕工程、並びに水分を除去する工程を実施することなく、極めて簡便に多量の水分を含む藻類から直接的に油性成分を抽出することができる。
【0025】
工程(A)が撹拌式で行われる場合には、工程(A)は、容器中で材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて処理物として混合液を得る工程である。
【0026】
工程(A)における材料と液体状態のジメチルエーテルとの接触の態様は、特に限定されず、材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて容器中で混合する撹拌式の態様、ジメチルエーテルを容器の内外を流通するように循環させてジメチルエーテルの流れを材料に通す流通式の態様等の、ジメチルエーテルを用いる抽出方法で採用される任意の態様とすることができ、また材料の性状に応じて適宜選択することができる。
【0027】
より具体的には、工程(A)が流通式で行われる場合には、工程(A)は、容器中で材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて処理物として混合液を得る工程であってよいし、処理物として、材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて得た混合物をフィルター等を用いて容器外に固液分離して得た抽出液及び残渣を得る工程であってもよい。
【0028】
工程(A)が流通式で行われる場合には、固液分離により得られた抽出液を容器内に再導入する工程をさらに1回又は2回以上行ってもよい。ジメチルエーテルは多量の油性成分を含有することができるため、このようにすれば油性成分の回収率をより高めることができる。
【0029】
工程(A)に用いられ得るジメチルエーテルの製造方法及び製造装置の例としては、特開平11−130714号公報、特開平10−195009号公報、特開平10−195008号公報、特開平10−182527号公報から特開平10−182535号公報、特開平09−309850号から特開平09−309852号公報、特開平09−286754号公報、特開平09−173863号公報、特開平09−173848号公報、特開平09−173845号公報が挙げられる。
【0030】
より簡便な工程とし、用いられる装置構成をより簡易にする観点から、材料と液体状態のジメチルエーテルとを容器中で撹拌し、材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて混合する撹拌式の態様が好ましい。
【0031】
材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させて混合する撹拌式の態様とすれば、遠心分離工程、フィルタリング工程を行う必要がなくなるため、より簡便な工程とし、用いられる装置構成をより簡易にすることができる。またジメチルエーテルの回収率を高めることができるため、コストをより低減することができる。
【0032】
工程(A)に用いられるジメチルエーテルの量は、実施環境に応じて適切な量を選択することができる。工程(A)に用いられるジメチルエーテルの量が多いほど油性成分の回収率は高くなる。しかしながら、特に経済性の観点から用いられるジメチルエーテルの量は少ないほど有利である。
【0033】
工程(A)が既に説明した撹拌式で実施される場合には、用いられるジメチルエーテルの量は、ジメチルエーテルの質量と水以外の成分(固形分)の質量との比である「ジメチルエーテルの質量/水以外の成分(固形分)の質量」に基づいて決定することができる。この場合の「ジメチルエーテルの質量/水以外の成分(固形分)の質量」に特に制限はなく、ジメチルエーテルは「ジメチルエーテルの質量/水以外の成分(固形分)の質量」が通常は160から200程度となる量として用いられる。
【0034】
また材料が乾燥処理及び破砕処理が行われた藻類等である場合には、液体状態のジメチルエーテルの量は、ジメチルエーテルの重量(DME重量)と絶乾燥状態の材料の重量(絶乾燥重量)との比である「DME重量/絶乾燥重量」に基づいて決定することができる。「DME重量/絶乾燥重量」に特に制限はない。ジメチルエーテルは「DME重量/絶乾燥重量」が通常は160から200程度となる量として用いられる。
【0035】
工程(A)が撹拌式で実施される場合には、撹拌は容器自体を振盪する(揺動させる)か、または容器中の混合物を撹拌翼、撹拌子などの従来公知の攪拌手段を用いて撹拌することにより実施することができる。
【0036】
工程(A)において、材料とジメチルエーテルとを接触させる系には、これら以外の他の物質が混在していてもよい。他の物質としては、例えば、補助的な抽出溶媒が混在していてもよい。このような他の物質としては、ジメチルエーテルと同様に、25℃(常温)、1atm(常圧)で気体である物質であることが好ましい。また、毒性が低い、油性成分を溶解しやすい、容易に入手し得る等の特性の1以上を備える物質であることが好ましい。他の物質の例としては、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブタン及びプロパン等が挙げられる。これらの中でも特に、入手の容易さ(安価さ)、毒性の低さ、取り扱いにおける危険の少なさの観点から、ブタン及びプロパンを好ましく用いることができる。
【0037】
ジメチルエーテルは常温かつ常圧で気体状態であるが、通常、3.5atm(0.35MPa)から5atm(0.51MPa)程度の範囲かつ常温で液体状態である。よって工程(A)は加圧条件下かつ常温で行われるため、工程(A)で用いられる容器及びかかる容器に接続される配管、バルブ等の構成はジメチルエーテルを液体状態で扱うことができる構成とされる。ここで「常温」とは特に温度調節を行っていない温度を意味しており、一般的には0℃〜50℃程度の範囲の温度である。また「常圧」とは特に圧力調節を行っていない圧力(大気圧)を意味している。
【0038】
工程(A)の実施に際して、ジメチルエーテルの飽和蒸気圧の観点から、温度が−10℃〜50℃である場合には容器内の圧力は0.18MPa〜1.14MPaの範囲とすればよく、温度が0℃〜40℃である場合には圧力を0.26MPa〜0.89MPaの範囲とすることがより好ましい。
【0039】
工程(A)が撹拌式で行われる場合の所要時間、すなわち材料と液体状態のジメチルエーテルとを接触させておくべき時間の上限は、油性成分の抽出が確実に行われることを条件として特に限定されない。工程(A)が撹拌式で行われる場合の所要時間は、例えば5分間以内であっても油性成分の抽出には十分であると考えられる。工程(A)の所要時間は、油性成分の確実な抽出と工程の簡便さとを両立させる観点から、例えば5分間〜30分間程度とすることができる。
【0040】
このように工程(A)が撹拌式で行われる場合には、工程(A)に要する時間、ひいては本発明の油性成分の抽出方法の実施に要する時間を短縮することができる。
【0041】
(工程(B))
本発明の実施形態にかかる油性成分の抽出方法は、工程(B)処理物に、分離溶媒をさらに加える工程を含む。
【0042】
工程(B)は、工程(A)により材料から抽出された油性成分を含むジメチルエーテルに分離溶媒を接触(混合)させる工程である。
【0043】
工程(B)に用いられる分離溶媒の量は、実施環境に応じて適切な量を選択することができる。特に経済性の観点から用いられる分離溶媒の量は少ないほど有利である。
【0044】
工程(B)において用いられる分離溶媒の量は、分離溶媒の量を分離溶媒重量と藻濃縮液重量との比である「分離溶媒重量/藻濃縮液重量」に基づいて決定することができる。用いられる分離溶媒の量には特に制限はなく、通常「分離溶媒重量/藻濃縮液重量」が3.0以下となる量で実施することができる。分離溶媒の量は、例えば油性成分の回収率、分離溶媒の使用量の低減によるコストの削減効果等を勘案して、「分離溶媒重量/藻濃縮液重量」が好ましくは2.0以下、より好ましくは1.0以下となる量とすることができる。分離溶媒の量の下限は、本発明の目的を損なわないことを条件として特に限定されるものではなく、回収率、分離溶媒の使用量の低減によるコストの削減効果等を勘案して適宜設定することができ、例えば「分離溶媒重量/藻濃縮液重量」が0.4以上、さらには0.3以上となる量とすることができる。
【0045】
このように工程(B)を実施することができるので、分離溶媒の使用量を極めて少量とすることができる。すなわち油性成分の回収率を、例えばジメチルエーテルを気化除去した後に分離溶媒と接触させる抽出方法と同程度にしようとしたときの分離溶媒の使用量を減少させることができる。また処理物と分離溶媒との接触時における気泡の発生を抑制することができ、さらには層同士の境界がより明瞭となるので工程の実施における操作がより簡便になる。結果としてコストをより抑制することができ、簡便な工程で効率的に油性成分を得ることができる。
【0046】
工程(B)は、常温常圧で分離溶媒を混合物又は抽出液に添加し、容器を振盪するか、又は撹拌翼、撹拌子などを用いて撹拌することにより実施することができる。
【0047】
工程(B)は、2回以上繰り返して実施してもよい。工程(B)を複数回実施することにより、油性成分の回収率をより向上させることができる。
また、流通式の場合には、ジメチルエーテル及び分離溶媒を含む抽出液を分離された固形分(残滓)と再度接触させる工程を2回以上繰り返してもよい。
【0048】
工程(B)で用いられ得る分離溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、ベンゼン、エーテル類、及びトルエンを用いることができる。分離溶媒は、取り扱いの容易さの観点から、ペンタン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群から選択されることが好ましく、ヘキサンを用いることがより好ましい。特に分離溶媒としてヘキサンを用いれば、試料を常温常圧で扱うことができ、さらには油性成分を含むヘキサンの分離が例えば目視で容易に行えるため操作性を向上させ、工程をより簡便にすることができる。
【0049】
本発明の実施形態にかかる抽出方法が、流通式で行われる場合には、固液分離された固形分に対して分離溶媒を加えることにより、不可避的に残存してしまった油性成分を分離する工程をさらに行ってもよい。かかる工程を実施すれば油性成分の回収率をさらに向上させることができる。
【0050】
(工程(C))
本発明の実施形態にかかる油性成分の抽出方法は、工程(C)分離溶媒を含む処理物中のジメチルエーテルを、気体状態のジメチルエーテルとして除去する工程を含む。
【0051】
工程(C)は、ジメチルエーテルに相溶していた油性成分を、ジメチルエーテルを気化して除去することによりジメチルエーテルから分離し、分離された油性成分を分離溶媒に相溶させる工程である。この工程により、工程(B)で材料から抽出された油性成分は、ジメチルエーテルが除去されて分離されることにより分離溶媒に溶解した状態でジメチルエーテルが除去された混合液中に存在することとなる。
【0052】
工程(C)は、工程(B)により液体状態のジメチルエーテルを含む材料と分離溶媒とを十分に接触(混合)させた後に行われる。
【0053】
撹拌式の場合には、工程(C)は、分離溶媒を含む混合液中のジメチルエーテルを、気体状態のジメチルエーテルとして容器外に導出することにより、ジメチルエーテルが除去されておりかつ分離溶媒を含む混合液を得る工程である。
【0054】
流通式の場合には、工程(C)は、混合液中のジメチルエーテルを、気体状態のジメチルエーテルとして容器外に導出することにより、ジメチルエーテルが除去された混合液を得る工程であるか、又は固液分離して得た、ジメチルエーテル及び分離溶媒を含む抽出液を減圧条件下に置くことによりジメチルエーテルが除去された抽出液を得る工程であってもよい。
【0055】
工程(C)は、圧力をジメチルエーテルの少なくとも一部又は全部が気体状態となる圧力まで減圧することにより、気体状態となったジメチルエーテルを配管、バルブ等を介して系外に誘導して可能な限り除去することにより行われる。工程(C)は、突沸を防止する観点から、時間をかけて徐々に減圧する工程とすることが好ましい。
【0056】
工程(C)の実施に際して、ジメチルエーテルを効率的に除去する観点から、減圧後の圧力は、例えば、温度を−10℃〜50℃程度とし圧力を0.18MPa〜1.14MPa程度以下とすることが好ましく、温度を0℃〜40℃程度とし圧力を0.26MPa〜0.89MPa程度以下とすることがより好ましい。
【0057】
より効率的にジメチルエーテルを除去するために、容器内の圧力を大気圧よりも低い圧力にまで減圧してもよいし、容器自体を揺動させるなどしてもよい。
【0058】
工程(C)は、ジメチルエーテルが除去された分離溶媒を含む混合液又は抽出液をさらに加熱して、圧力に応じたジメチルエーテルの沸点以上の温度にする等のさらなる工程を含んでいてもよい。このようなさらなる工程を実施することにより、工程(C)の実施後に分離溶媒を含む混合液又は抽出液に不可避的に残留するジメチルエーテルの残留割合をさらに低減させることができる。
【0059】
ジメチルエーテルは、上記の通り比較的低い圧力条件下かつ常温で液体状態であり、常温かつ常圧で気体状態であることから、液体状態のジメチルエーテルは常温で上記所定の圧力又は常圧まで減圧するのみで気体状態のジメチルエーテルとして分離及び除去することが容易である。よって、本発明の実施形態にかかる抽出方法をより簡便な工程で実施することができ、実施に必要な設備、装置の構成をより簡易にすることができる。
【0060】
工程(C)は、気体状態として除去されたジメチルエーテルを回収し、回収されたジメチルエーテルを、ジメチルエーテルが除去されておりかつ分離溶媒を含む混合液に液体状態のジメチルエーテルとして再度供給し、気体状態のジメチルエーテルとして再度除去することにより、ジメチルエーテルが除去されておりかつ分離溶媒を含む混合液を得る工程を1回以上繰り返す工程(以下、回収及び繰り返し工程という。)をさらに含んでいてもよい。
【0061】
工程(C)において、回収された気体状態のジメチルエーテルを液体状態のジメチルエーテルとする処理は、圧縮(加圧)工程、冷却工程、又はこれらの組み合わせといった当業者に公知の任意好適な方法を従来公知の任意好適な装置を用いて行うことができる。
【0062】
既に説明した「回収及び繰り返し工程」を実施すれば、混合液、すなわち材料からの油性成分の抽出をより効果的に行うことができ、油性成分の回収率をより向上させることができる。
【0063】
(工程(D))
本発明の実施形態にかかる油性成分の抽出方法は、工程(D)油性成分が溶解した分離溶媒を選択的に得る工程を含む。
工程(D)は、油性成分が溶解した分離溶媒を分取する工程である。
【0064】
まず、工程(C)が実施された容器を所定時間、常温で静置する。容器を静置する時間は、分離溶媒と混合液又は抽出液(残滓)とが形成する層(相)の安定化の観点から、20秒間〜3分間であることが好ましく、30秒間〜1分間であることがより好ましい。
【0065】
この静置により、油性成分が溶解した分離溶媒と混合液又は抽出液(残滓)とが層(相)分離する。
【0066】
次いで、層分離した、油性成分が溶解した分離溶媒のみを分取する。この分取工程は、例えば目視による分取といった従来公知の任意好適な分取方法及び装置により行うことができる。
【0067】
(工程(E))
本発明の実施形態にかかる油性成分の抽出方法は、工程(E)油性成分が溶解した分離溶媒から油性成分を抽出する工程を含む。
【0068】
工程(D)の実施後に工程(E)を行うことにより、分取された「油性成分が溶解した分離溶媒」から油性成分を抽出することにより油性成分を得る。
【0069】
工程(E)は、例えば、油性成分が溶解した分離溶媒のうちの分離溶媒のみが気体状態となりかつ油性成分が液体状態となる温度、圧力等の条件とし、気体状態となった分離溶媒のみを除去することにより行うことができる。
【0070】
工程(E)は、例えば、分離溶媒がヘキサンである場合には、真空(減圧)条件とし、温度を40℃程度とすることで分離溶媒であるヘキサンのみを除去して、油性成分を得ることができる。
【0071】
以上の工程(A)から工程(E)を実施することにより、材料からの油性成分の抽出を行うことができる。
【0072】
(その他の工程)
抽出された油性成分は、例えば特定の成分のみを抽出するために従来公知の任意好適な精製工程に供してもよい。
また、抽出された油性成分の用途が燃料(バイオ燃料)である場合には、従来公知の任意好適な工程、例えば水素化脱酸素工程、水素化分解工程、水素化異性化工程、メチルエステル化工程などの改質工程を実施してもよい。
【0073】
(残渣)
各工程が実施された後に生じる残渣は、選択された材料に適した所定の方法により廃棄処理してもよいし、再利用してもよい。
例えば、材料として藻類を用いた場合には、残渣を医薬品、化粧品、食品、健康食品、特定保健用食品、化学品(工業材料)、飼料、肥料、燃料等の用途に用いることができる。
【0074】
2.装置
以下、本発明の実施形態にかかる抽出方法を実施するための装置について図面を参照して説明する。
【0075】
図面は、本発明が理解できる程度に構成要素の形状、大きさおよび配置が概略的に示されているに過ぎない。本発明は以下の図面に基づく説明によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0076】
図1は、本発明の実施形態にかかる抽出方法に用いられる装置の構成を示す図である。
本発明の実施形態にかかる抽出方法に用いられる装置は、水分及び油性成分を含む材料から油性成分を抽出する機能を有している。
【0077】
図1に示されるように、装置10は、材料と、ジメチルエーテル及び/又は分離溶媒とを接触(混合)させることができる容器20を含んでいる。既に説明した上記工程(A)、工程(B)、工程(C)、工程(D)及び工程(E)の一連の工程は、容器20で実施することができる。
【0078】
また、装置10は、ジメチルエーテル及び/又は分離溶媒が貯蔵されている貯蔵槽30と、容器20と貯蔵槽30とを接続しておりジメチルエーテル及び/又は分離溶媒を容器20に導入するための導入配管42とを備えている。
【0079】
装置10は、さらに容器20に一端が接続されており気体状態のジメチルエーテルを容器20外に導出する導出配管44と、導出配管44に設けられており容器20内の圧力を調節するためのバルブ50と、導出配管44の他端に接続されており気体状態のジメチルエーテルを液化して液体状態にする液化器60とを含んでいる。
【0080】
装置10は、さらにまた容器20に一端が接続されており油性成分を含有する分離溶媒及び/又は残滓を含む水性成分を容器20外に導出する分離配管48と、分離配管48の他端に接続されており油性成分を含有する分離溶媒を貯蔵する分離槽70とを含んでいる。分離槽70は加熱処理等により、分離溶媒と油性成分とを分離して、油性成分を抽出することができる構成とされていてもよい。
【0081】
装置10は、液化器60と、容器20及び貯蔵槽30とに接続されており気体状態から液体状態とされたジメチルエーテルを容器20及び/又は貯蔵槽30に再導入する再導入配管46とを含んでいる。再導入配管46は、液体状態のジメチルエーテル(油性成分、水分を含有するジメチルエーテル)を液化器60を介さずに直接的に貯蔵槽30に再導入する配管であってもよい。
【0082】
装置10は、本発明の目的を損なわないことを条件として、図1を参照して説明した前記の構成要素以外の図示されていない構成要素、例えば配管、バルブ等をさらに備えていてもよい。例えば、容器20は、材料を導入するための配管、流通式で実施される場合にジメチルエーテル、又はジメチルエーテル及び分離溶媒を材料に流通させるための配管、これらの流量を制御するためのバルブ、ポンプ、熱交換機、圧縮機、装置10に含まれる各構成要素の動作を制御するための制御装置等をさらに備えていてもよい。
【0083】
容器20と、貯蔵槽30と、導入配管42、導出配管44、再導入配管46及び分離配管48を含む配管40と、バルブ50と、液化器60と、分離槽70とその他図示されていない任意好適な構成は、油性成分を含み得る、液体状態のジメチルエーテル、分離溶媒、ジメチルエーテル及び分離溶媒を含む混合液を用いることができる構成とされる。
【0084】
これら容器20、貯蔵槽30、配管40、バルブ50、液化器60、分離槽70等の形状、サイズ、容量、流量、材質(材料)等は、想定される実施規模に対応できるように、従来公知の任意好適な構成を採用することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されない。
【0086】
<実施例1>
本実施例では、材料として、ユーグレナ(Euglena Gracilis Z株)の藻濃縮液を用いた。
【0087】
(藻濃縮液の調製)
ユーグレナの培養を「ユーグレナ 生理と生化学」、学会出版センター(1989)付録に記載の方法に従って実施した。ユーグレナを面積1.2mのプールを利用して、Cramer−Myers培地を用いて、屋外で太陽光により7日間培養を行った。その後、同書114ページの記載に従って丸1日嫌気処理を行い、更にこれを3000Gで30分間遠心分離し、ユーグレナを実質的に含まない液層のみを除去することによって濃縮液を得た。同じ操作を繰り返すことにより、嫌気処理済みの濃縮液15Lを回収した(以下、得られた濃縮液を藻濃縮液という。)。
【0088】
本実施例で用いられた藻濃縮液の含水率は、3回測定した場合の平均値で91.4質量%であった。
含水率は、藻濃縮液を真空乾燥処理することにより測定した。この真空乾燥処理は、乾燥温度を35℃とし、乾燥時間を7時間として実施した。結果を下記表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
(藻濃縮液のDMEによる処理)
絶乾藻重量で0.25g相当のユーグレナを含有する藻濃縮液2.9mLを耐圧容器に注入した。耐圧容器に蒸留水を加え、藻濃縮液の水分量を95質量%に調整した。
【0091】
次に、耐圧容器内を気密状態に保ちつつ液体状態のDMEを供給して、藻濃縮液とDMEとを接触させた。液体状態のDMEの量は、DMEの重量(DME重量)と絶乾燥状態のユーグレナの重量(絶乾燥重量)との比である「DME重量/絶乾燥重量」の値が160(「DME重量/藻濃縮液重量」の値が8)となるようにした。なお液体状態のDMEが供給された時点で耐圧容器内の圧力は上昇し、加圧状態となる。
【0092】
次いで、耐圧容器を撹拌機により転倒撹拌して、藻濃縮液とDMEとを混合した。転倒撹拌は、回転数を50rpmとし、5分間実施した。
【0093】
(分離溶媒による処理)
耐圧容器に分離溶媒として(1)1.5g、(2)2.2g、及び(3)3.5gのヘキサン(ヘキサン重量/藻濃縮液重量が(1)0.30、(2)0.44、及び(3)0.70となる量を加えた後、攪拌機を用いて転倒撹拌する処理を行った。転倒撹拌は、回転数を50rpmとし、5分間実施した。
【0094】
次に、耐圧容器を正位置に固定し、耐圧容器の気密状態を解除して耐圧容器内の圧力を減じることで液体状態のDMEを気体状態とし、気体状態のDMEを耐圧容器外に導出し、DMEを気化除去した。なお、DMEが耐圧容器外に導出された時点で耐圧容器内の圧力は大気圧となる。
【0095】
次に、混合液を容量100mLの分液ロートに注入した。分液ロートを3分間静置して混合液を層分離させた後、下層(水層)をビーカーに採取し、上層(有機層)をナス型フラスコに採取して油性成分を含有する分離溶媒を選択的に得た。
【0096】
ナス型フラスコに採取された油性成分を含有する分離溶媒を、温度を40℃としたエバポレーターで圧力を−0.1MPaとして減圧乾燥した後、温度を50℃とし圧力を−0.1MPaとして5時間真空乾燥することにより分離溶媒から油性成分を抽出する抽出処理を行った。
【0097】
(回収率)
抽出処理前後における、有機層を含むナス型フラスコの重量の変化から、抽出(回収)された油性成分の回収率を下記式により算出した。
式:回収率(%)=抽出された油性成分の重量(g)/絶乾燥重量(g)
結果を下記表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
<比較例1>
比較例1では、既に説明した実施例1と同様に藻濃縮液を調製して用いた。
【0100】
(藻濃縮液のDMEによる処理)
絶乾藻重量で0.25g相当の量のユーグレナを含有する藻濃縮液2.9gを耐圧容器に注入した。耐圧容器に蒸留水を加え、藻濃縮液の水分量を95質量%に調整した。
【0101】
次に、耐圧容器内を気密状態に保ちつつ液体状態のDMEを供給して、藻濃縮液とDMEとを接触させた。液体状態のDMEの量は、DMEの重量(DME重量)と絶乾燥状態のユーグレナの重量(絶乾燥重量)との比である「DME重量/絶乾燥重量」の値が160(「DME重量/藻濃縮液重量」の値が8)となるようにした。
【0102】
次いで、耐圧容器を撹拌機により転倒撹拌して、藻濃縮液とDMEとを混合した。転倒撹拌は、回転数を50rpmとし、5分間実施した。
【0103】
次に、耐圧容器を正位置に固定し、耐圧容器の気密状態を解除して耐圧容器内の圧力を減じることで液体状態のDMEを気体状態とし、気体状態のDMEを耐圧容器外に導出した。なお、この時点で耐圧容器内の圧力は大気圧となる。
【0104】
(分離溶媒による処理)
DMEによる処理及びDMEの導出が完了した藻濃縮液を容量100mLの分液ロートに注入した。次いで、分液ロートに分離溶媒として5mLのヘキサン(ヘキサン重量/藻濃縮液重量が0.65となる量)を加えた後、転倒撹拌する処理を行った。なお、藻濃縮液と分離溶媒との接触時に多量の気泡の発生がみられた。
【0105】
次に、分液ロートを3分間静置して層分離させた後、下層(水層)をビーカーに採取し、上層(有機層)をナス型フラスコに採取して油性成分を含有する分離溶媒を選択的に得た。
【0106】
さらにビーカーに採取された水層を再び分液ロートに戻し、水層に1回目の処理と等量のヘキサンを加え、1回目の処理と同様に転倒撹拌して層分離させ、油性成分を含有する分離溶媒を選択的に分取するステップをさらに2回(2回目、3回目という。)繰り返した。
【0107】
ナス型フラスコに採取された油性成分を含有する分離溶媒を、温度を40℃としたエバポレーターで圧力を−0.1MPaとして減圧乾燥した後、温度を50℃とし圧力を−0.1MPaとして5時間真空乾燥することにより分離溶媒から油性成分を抽出する抽出処理を行った。
【0108】
(回収率)
抽出処理前後における、有機層を含むナス型フラスコの重量の変化から、抽出(回収)された油性成分の各回の回収率を上記式により算出した。
結果を下記表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
DMEによって抽出された油性成分をDMEの気化除去した後にヘキサンを接触させて油性成分を抽出した比較例1であっても従来慣用されている「ヘキサン抽出法」と同程度の回収率を達成できるのであるが、表2及び表3から明らかなように、DMEを気化除去することなく油性成分を含むDMEに直接的に分離溶媒であるヘキサンを接触させて油性成分を抽出した実施例1によれば、比較例1の回収率1回目と比較して、ヘキサン重量/藻濃縮液重量が0.30とヘキサンの使用量が1/2以下とより少量であったとしても、これを上回る回収率を達成できている。またヘキサン重量/藻濃縮液重量が0.70である場合に比較例1の回収率1回目と比較すると3倍近い回収率を達成することができており、回収率の総計(回収率1回目、2回目、3回目の総計)と比較してもこれを上回る回収率を達成できている。よって、本発明にかかる油性成分の抽出方法によれば、より簡便な工程でより効率的に油性成分の抽出を行うことができることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0111】
10 装置
20 容器
30 貯蔵槽
40 配管
42 導入配管
44 導出配管
46 再導入配管
48 分離配管
50 バルブ
60 液化器
70 分離槽
図1