(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
時刻歴波形として取得された振動の変位データ,振動の速度データ,振動の加速度データ,又はひずみデータのうちのいずれかが前記基準データ及び前記観測データとして利用されることを特徴とする請求項1記載の人の行動の同定方法。
時刻歴波形として取得された振動の変位データ,振動の速度データ,振動の加速度データ,又はひずみデータのうちのいずれかが前記基準データ及び前記観測データとして利用されることを特徴とする請求項3記載の人の行動の同定装置。
時刻歴波形として取得された振動の変位データ,振動の速度データ,振動の加速度データ,又はひずみデータのうちのいずれかが前記基準データ及び前記観測データとして利用されることを特徴とする請求項5記載の人の行動の同定プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の行動判定システムでは、行動開始からの経過時間を把握することはできても、人が実際に行っている行動の種類を特定することはできない。このため、行動の種類を特定した上での高齢者等の生活パターンの変化を具体的且つ詳細に把握することができず、高齢者等の見守りの仕組みとして十分であるとは言い難い。
【0005】
特許文献1の行動判定システムでは、また、住居内における高齢者等の行動を把握するためには住居内のあらゆる場所が各人感センサの感知範囲で漏れ無くカバーされるようにする必要があり、したがって多数の人感センサが必要とされる場合が多く、安否確認の仕組みの構築のコストアップに繋がるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、必ずしも多数のセンサを必要とすることなく住居等の施設内の人の行動の種類を良好な精度で同定することができる人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、居住者への負担をできるだけ軽減することも意図し、住居に設置した据え置き型振動センサを用いて人の動作・行動の種類を同定する新しい手法の検討を行う中で、例えば以下の知見を得た。
【0008】
具体的には、本発明者は、木造住宅の一階で人が歩く行動を、100 Hz のサンプリング周波数(即ち、計測の時間間隔が10ミリ秒)で、振動の速度波形として55秒間に亙って計測する実験を同一人物を対象として二回実施した。
【0009】
二回の計測により、計測回毎の結果として
図3(A)と同図(B)とに示す時刻歴波形(なお、5500サンプリングポイントである)が得られた。なお、
図3に示す結果は、速度を計測した据え置き型振動センサ(具体的には、サーボ型速度計)の性能を考慮し、1 Hz のハイパスフィルタを適用した波形である。
【0010】
図3の(A)及び(B)の結果から、同一の場所に於ける同一人物の同一の動作であっても、最大振幅の大きさや当該最大振幅が発生するタイミングが大きく異なることが確認された。
【0011】
すなわち、振動波形に基づいて人の動作・行動の種類を同定しようとする場合に、モニタリングする時間帯,同定対象者の体調,建物構造特性,及び計測機器自体の性能などにより、同一の行動をとっていても振動波形そのものには或る種のゆらぎが生じると考えられた。このため、このゆらぎの程度を考慮しつつ人の動作・行動の種類を同定することが必要であると考えられた。
【0012】
そこで、本発明者は、人の動作・行動のゆらぎを吸収することを考慮し、二回の計測によって得られた時刻歴波形(
図3(A),(B))を計測回毎にフーリエ変換して周波数成分毎の絶対速度スペクトル値(即ち、スペクトル強度)を算定した。その結果、
図4(A)と同図(B)とに示す結果が得られた。なお、
図4乃至
図6においては、各図の(A)が
図3(A)に基づくものであり、各図の(B)が
図3(B)に基づくものである。
【0013】
図4の(A)及び(B)の結果から、時刻歴の波形データから位相情報を取り除いてスペクトル成分に変換すると、周期性のある同一動作・行動であれば、最大振幅が出現する経過時間にかかわらず、最大振幅値の周波数成分がほぼ一致し、同一の周波数成分が高くなるなどの類似した周波数特性が出現することが知見された。
【0014】
また、二回の計測によって得られた時刻歴波形(
図3(A),(B))の振幅値に着目して当該振幅値の度数分布を計測回毎に作成した。その結果、
図5(A)と同図(B)とに示す結果が得られた。
【0015】
さらに、フーリエ変換によって得られたスペクトル強度分布(
図4(A),(B))のスペクトル値に着目して当該スペクトル値の度数分布を計測回毎に作成した。その結果、
図6(A)と同図(B)とに示す結果が得られた。
【0016】
これら
図5の(A)及び(B)並びに
図6の(A)及び(B)の結果から、各図の(A)と(B)とで頻度の分布形が非常に類似しており、時刻歴の波形データから時間情報や周波数特性情報を取り除いた計測期間内の各波形成分の振幅値の頻度という観点からも類似度の判定が可能であることが知見された。
【0017】
また、
図5及び
図6に示す度数分布について、横軸の階級の幅を調整することにより、区別したいゆらぎのレベルに応じた度数分布の構築が可能であることも知見された。
【0018】
例えば上述の知見も踏まえ、本発明者は、本発明を発明するに至った。
【0019】
具体的には、本発明の人の行動の同定方法は、行動モード別の動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された基準データの計測値の度数分布が作成され且つ基準データがフーリエ変換されると共に当該フーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布が作成され、また、行動同定対象時間帯における動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された観測データの計測値の度数分布が作成され且つ観測データがフーリエ変換されると共に当該フーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布が作成され、これらにより、基準データに関する行動モード別の計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群、並びに、観測データに関する計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群が整備され、これら基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の、数式1及び数式2によって算定される第一の判定指標値,数式3及び数式4によって算定される第二の判定指標値,並びに数式5によって算定される第三の判定指標値のうちの少なくとも二つの判定指標値が用いられて数式6乃至数式8によって行動モード別に統合判定値が算定され、当該行動モード別の統合判定値に基づいて行動同定対象時間帯における人の行動の種類が同定されるようにしている。
【0020】
また、本発明の人の行動の同定装置は、行動モード別の動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された基準データの計測値の度数分布を作成する手段と、基準データをフーリエ変換する手段と、基準データのフーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布を作成する手段と、行動同定対象時間帯における動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された観測データの計測値の度数分布を作成する手段と、観測データをフーリエ変換する手段と、観測データのフーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布を作成する手段とを有し、これら手段により、基準データに関する行動モード別の計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群、並びに、観測データに関する計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群を整備し、さらに、数式1及び数式2によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第一の判定指標値を算定する手段と、数式3及び数式4によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第二の判定指標値を算定する手段と、数式5によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第三の判定指標値を算定する手段と、基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第一乃至第三の判定指標値のうちの少なくとも二つの判定指標値を用いて数式6乃至数式8によって行動モード別に統合判定値を算定する手段と、行動モード別の統合判定値に基づいて行動同定対象時間帯における人の行動の種類を同定する手段とを有するようにしている。
【0021】
さらに、本発明の人の行動の同定プログラムは、行動モード別の動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された基準データの計測値の度数分布を作成する処理と、基準データをフーリエ変換する処理と、基準データのフーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布を作成する処理と、行動同定対象時間帯における動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された観測データの計測値の度数分布を作成する処理と、観測データをフーリエ変換する処理と、観測データのフーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布を作成する処理とをコンピュータに行わせ、これら処理により、基準データに関する行動モード別の計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群、並びに、観測データに関する計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群を整備し、さらに、数式1及び数式2によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第一の判定指標値を算定する処理と、数式3及び数式4によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第二の判定指標値を算定する処理と、数式5によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第三の判定指標値を算定する処理と、基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第一乃至第三の判定指標値のうちの少なくとも二つの判定指標値を用いて数式6乃至数式8によって行動モード別に統合判定値を算定する処理と、行動モード別の統合判定値に基づいて行動同定対象時間帯における人の行動の種類を同定する処理とをコンピュータに行わせるようにしている。
【0022】
【数1】
ここに、 Χ :評価値,
Ba:基準データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
Ob:観測データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
d :組み合わせデータ群の種類を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
k :階級の属性の種別若しくは周波数成分の種別を表す識別子,
n(d):組み合わせデータ群の種類(d)別の階級の属性の総数若しくは
周波数成分の総数 をそれぞれ表す。
【0023】
【数2】
ここに、 P :第一の判定指標値,
χ
12(Χ
d,j):Χ
d,jに対応する自由度1のカイ2乗分布値 をそれぞれ表す。
【0024】
【数3】
ここに、 B :第二の判定指標値,
Ba:基準データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
Ob:観測データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
d :組み合わせデータ群の種類を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
k :階級の属性の種別若しくは周波数成分の種別を表す識別子,
n(d):組み合わせデータ群の種類(d)別の階級の属性の総数若しくは
周波数成分の総数 をそれぞれ表す。
ただし、N(Ba
d,j,k)及びN(Ob
d,k)について数式4が成り立つ。
【0025】
【数4】
【0026】
【数5】
ここに、 R :第三の判定指標値,
Ba:基準データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
Ob:観測データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
d :組み合わせデータ群の種類を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
k :階級の属性の種別若しくは周波数成分の種別を表す識別子,
n(d):組み合わせデータ群の種類(d)別の階級の属性の総数若しくは
周波数成分の総数 をそれぞれ表す。
また、Ba
d,j ̄(正しくは、Ba
d,jの上に―が付く)はBa
d,j,kの全てのkに関する平均値であり、Ob
d ̄(正しくは、Ob
dの上に―が付く)はOb
d,kの全てのkに関する平均値である。
【0027】
【数6】
ここに、 Pr:統合判定値,
I :第一の判定指標値,第二の判定指標値,または第三の判定指標値,
C :重み係数,
m :判定指標値の種別を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
Ni:用いられる判定指標値の種別の個数 をそれぞれ表す。
また、I
m ̄(正しくは、I
mの上に―が付く)はI
j,mの全てのjに関する平均値である。
ただし、Cは数式7を制約条件として数式8で表されるSp
2を最大にするように決定される。
【0028】
【数7】
【0029】
【数8】
ここに、 Sp
2:分散量,
no:行動モードの個数 をそれぞれ表す。
また、Pr ̄(正しくは、Prの上に―が付く)はPr
jの全てのjに関する平均値である。
【0030】
したがって、これらの人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによると、時刻歴波形として取得された基準データ及び観測データの時間情報,位相情報,或いは周波数特性情報を取り除いて用いるようにしているので、計測データにおける人の動作・行動のゆらぎが吸収されたデータによって人の動作・行動の同定処理が行われる。
【0031】
これらの人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによると、しかも、一つのみの計測機器によって収集された基準データ及び観測データによって人の動作・行動の同定処理が行われるようにしても良い。
【0032】
これらの人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによると、また、三種類の組み合わせデータ群の種類毎の三種類の判定指標値(即ち、判定指標値は合計で九つ)のうちの少なくも二つが用いられて基準データと観測データとの類似の程度を評価するための統合判定値が算定されるようにしているので、多面的且つ総合的に類似の程度を評価して人の動作・行動の同定処理が行われ、また、同定対象者の特性や行動の種類に応じて判定指標値の適切な組み合わせによって人の動作・行動の同定処理が行われ得る。
【0033】
また、本発明の人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムは、時刻歴波形として取得された振動の変位データ,振動の速度データ,振動の加速度データ,又はひずみデータのうちのいずれかが基準データ及び観測データとして利用されるようにしても良い。この場合には、特に高価な計測機器や高度な技術を必要とすること無く基準データ及び観測データが収集される。
【発明の効果】
【0034】
本発明の人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによれば、計測データにおける人の動作・行動のゆらぎが吸収されたデータによって人の動作・行動の同定処理を行うことができるので、人の動作・行動を高い精度で同定することが可能になる。
【0035】
本発明の人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによれば、しかも、一つのみの計測機器によって収集された基準データ及び観測データによって人の動作・行動の同定処理を行うようにすることができるので、本発明に係る仕組みの構築費用を低減させることが可能になり、延いては、汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0036】
本発明の人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによれば、また、多面的且つ総合的に類似の程度を評価して人の動作・行動の同定処理を行うことができ、また、同定対象者の特性や行動の種類に応じて判定指標値の適切な組み合わせによって人の動作・行動の同定処理を行うようにすることができるので、人の動作・行動の同定精度を一層向上させることが可能になる。
【0037】
また、本発明の人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムは、振動の変位,速度,若しくは加速度のデータ又はひずみデータのうちのいずれかが基準データ及び観測データとして利用されるようにした場合には、特に高価な計測機器や高度な技術を必要とすること無く基準データ及び観測データを収集することができるので、本発明に係る仕組みの構築費用を低減させることが可能になり、延いては、汎用性の向上を図ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0040】
以下の説明において、単位であることを明確にするために単位としての記号や文字を[ ]で括って表記する場合がある。
【0041】
図1及び
図2に、本発明の人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムの実施形態の一例を示す。
【0042】
本実施形態の人の行動の同定方法は、行動モード別の動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された(ステップA−1)基準データの計測値の度数分布が作成され(ステップA−2)且つ基準データがフーリエ変換される(ステップA−3)と共に当該フーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布が作成され(ステップA−4)、また、行動同定対象時間帯における動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された(ステップB−1)観測データの計測値の度数分布が作成され(ステップB−2)且つ観測データがフーリエ変換される(ステップB−3)と共に当該フーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布が作成され(ステップB−4)、これらにより、基準データに関する行動モード別の計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群、並びに、観測データに関する計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群が整備され、これら基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の、数式9及び数式10によって算定される第一の判定指標値(ステップB−5),数式11及び数式12によって算定される第二の判定指標値(ステップB−6),並びに数式13によって算定される第三の判定指標値(ステップB−7)のうちの少なくとも二つの判定指標値が用いられて数式14乃至数式16によって行動モード別に統合判定値が算定され(ステップB−8)、当該行動モード別の統合判定値に基づいて行動同定対象時間帯における人の行動の種類が同定される(ステップB−9)ようにしている(
図1参照)。
【0043】
【数9】
ここに、 Χ :評価値,
Ba:基準データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
Ob:観測データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
d :組み合わせデータ群の種類を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
k :階級の属性の種別若しくは周波数成分の種別を表す識別子,
n(d):組み合わせデータ群の種類(d)別の階級の属性の総数若しくは
周波数成分の総数 をそれぞれ表す。
【0044】
【数10】
ここに、 P :第一の判定指標値,
χ
12(Χ
d,j):Χ
d,jに対応する自由度1のカイ2乗分布値 をそれぞれ表す。
【0045】
【数11】
ここに、 B :第二の判定指標値,
Ba:基準データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
Ob:観測データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
d :組み合わせデータ群の種類を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
k :階級の属性の種別若しくは周波数成分の種別を表す識別子,
n(d):組み合わせデータ群の種類(d)別の階級の属性の総数若しくは
周波数成分の総数 をそれぞれ表す。
ただし、N(Ba
d,j,k)及びN(Ob
d,k)について数式12が成り立つ。
【0047】
【数13】
ここに、 R :第三の判定指標値,
Ba:基準データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
Ob:観測データに関する度数の値若しくはスペクトル値,
d :組み合わせデータ群の種類を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
k :階級の属性の種別若しくは周波数成分の種別を表す識別子,
n(d):組み合わせデータ群の種類(d)別の階級の属性の総数若しくは
周波数成分の総数 をそれぞれ表す。
また、Ba
d,j ̄(正しくは、Ba
d,jの上に―が付く)はBa
d,j,kの全てのkに関する平均値であり、Ob
d ̄(正しくは、Ob
dの上に―が付く)はOb
d,kの全てのkに関する平均値である。
【0048】
【数14】
ここに、 Pr:統合判定値,
I :第一の判定指標値,第二の判定指標値,または第三の判定指標値,
C :重み係数,
m :判定指標値の種別を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
Ni:用いられる判定指標値の種別の個数 をそれぞれ表す。
また、I
m ̄(正しくは、I
mの上に―が付く)はI
j,mの全てのjに関する平均値である。
ただし、Cは数式15を制約条件として数式16で表されるSp
2を最大にするように決定される。
【0050】
【数16】
ここに、 Sp
2:分散量,
no:行動モードの個数 をそれぞれ表す。
また、Pr ̄(正しくは、Prの上に―が付く)はPr
jの全てのjに関する平均値である。
【0051】
上記人の行動の同定方法は、人の行動の同定装置によって実施され得る。本実施形態の人の行動の同定装置10は、行動モード別の動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された基準データ、及び、行動同定対象時間帯における動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された観測データの入力を受ける手段としてのデータ受部11aと、基準データ及び観測データの計測値の度数分布を作成する手段としての計測値度数分布作成部11bと、基準データ及び観測データをフーリエ変換する手段としてのフーリエ変換部11cと、基準データ及び観測データのフーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布を作成する手段としてのスペクトル値度数分布作成部11dとを有し、これら手段により、基準データに関する行動モード別の計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群、並びに、観測データに関する計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群を整備し、さらに、数式9及び数式10によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第一の判定指標値を算定する手段としてのカイ2乗算定部11eと、数式11及び数式12によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第二の判定指標値を算定する手段としてのバタチャリア算定部11fと、数式13によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第三の判定指標値を算定する手段としての相関係数算出部11gと、基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第一乃至第三の判定指標値のうちの少なくとも二つの判定指標値を用いて数式14乃至数式16によって行動モード別に統合判定値を算定する手段としての統合判定値算定部11hと、行動モード別の統合判定値に基づいて行動同定対象時間帯における人の行動の種類を同定する手段としての行動同定部11iとを有する。
【0052】
また、上記人の行動の同定方法及び人の行動の同定装置は、人の行動の同定プログラムがコンピュータ上で実行されることによっても実施・実現され得る。ここでは、人の行動の同定プログラム17がコンピュータ10上で実行されることによって人の行動の同定装置が実現されると共に人の行動の同定方法が実施される場合を説明する。
【0053】
本実施形態の人の行動の同定プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、人の行動の同定装置10でもある)の全体構成を
図2に示す。このコンピュータ10(人の行動の同定装置10)は制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14,及びメモリ15を備え、これらが相互にバス等の信号回線によって接続されている。
【0054】
制御部11は、記憶部12に記憶されている人の行動の同定プログラム17によってコンピュータ10全体の制御並びに人の行動の同定に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0055】
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0056】
入力部13は、少なくとも作業者の命令や種々の情報を制御部11に与えるためのインターフェイス(即ち、情報入力の仕組み)であり、例えばキーボードやマウスである。なお、例えばキーボードとマウスとの両方のように複数種類のインターフェイスを入力部13として有するようにしても良い。
【0057】
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形或いは画像等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0058】
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0059】
そして、コンピュータ10(「人の行動の同定装置10」と表記する)の制御部11には、人の行動の同定プログラム17が実行されることにより、行動モード別の動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された基準データ、及び、行動同定対象時間帯における動作情報に関する計測によって時刻歴波形として取得された観測データの入力を受ける処理を行うデータ受部11aと、基準データ及び観測データの計測値の度数分布を作成する処理を行う計測値度数分布作成部11bと、基準データ及び観測データをフーリエ変換する処理を行うフーリエ変換部11cと、基準データ及び観測データのフーリエ変換後の周波数成分毎のスペクトル値の度数分布を作成する処理を行うスペクトル値度数分布作成部11dとが構成され、これらにより、基準データに関する行動モード別の計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群、並びに、観測データに関する計測値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群,周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ群,及びスペクトル値の階級の属性と度数の値との組み合わせデータ群が整備される。人の行動の同定装置10の制御部11には、人の行動の同定プログラム17が実行されることにより、さらに、数式9及び数式10によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第一の判定指標値を算定する処理を行うカイ2乗算定部11eと、数式11及び数式12によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第二の判定指標値を算定する処理を行うバタチャリア算定部11fと、数式13によって基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第三の判定指標値を算定する処理を行う相関係数算出部11gと、基準データと観測データとのそれぞれに関する三種類の組み合わせデータ群の種類毎の第一乃至第三の判定指標値のうちの少なくとも二つの判定指標値を用いて数式14乃至数式16によって行動モード別に統合判定値を算定する処理を行う統合判定値算定部11hと、行動モード別の統合判定値に基づいて行動同定対象時間帯における人の行動の種類を同定する処理を行う行動同定部11iとが構成される。
【0060】
本発明の人の行動の同定方法は、大きくは、参照データが整備される段階(フェーズA)と、住居等の施設内の人の行動の種類が同定される段階(フェーズB)とを有する。
【0061】
そして、人の行動の同定方法の実行として、初めに参照データの整備が行われ(フェーズA)、具体的には、まず、予め設定された行動モード別に動作情報に関する計測が行われて基準データとしての計測データの取得が行われる(ステップA−1)。
【0062】
基準データは、人の行動の種類が同定される段階(フェーズB)において用いられる参照データ(教師データやリファレンスデータとも呼ばれる)の整備において利用されるものであり、対象とされた施設内の同定対象者が当該施設内においてとると想定される動作・行動の種類(「行動モード」と呼ぶ)毎に収集・取得される。
【0063】
行動モードは、特定の種類の動作や行動に限定されるものではなく、対象とされた施設における同定対象者の動作や行動として比較的頻繁に行われるものや対象とされた施設での同定対象者の動作や行動として把握される必要があるものなどが考慮されたり、同定対象者の行動を同定する目的などが考慮されたりした上で適当なものが適宜選定されて設定される。
【0064】
具体的な行動モードしては、あくまで一例として挙げると、静止状態,室内の移動(言い換えると、歩行状態),椅子への着席・離席,廊下の歩行,階段の昇降,掃除機の使用,トイレの使用,風呂の使用,更には床に寝転んで寝返り等を繰り返している状態などが挙げられる。
【0065】
なお、必要な場合には、施設が複数階の構造であるときは行動モードが階別に設定されたり、施設に複数の部屋があるときは行動モードが部屋別に設定されたりするようにしても良い。
【0066】
また、参照データは、対象とされた施設において同定対象者が行動モード毎の動作・行動を実際にした時のデータ(即ち、基準データ)が用いられて整備される。このため、対象とされた施設に同定対象者が複数居る場合には、同定対象者毎に基準データの取得が行われて同定対象者毎に参照データが整備される。
【0067】
本発明では、動作情報として、人が動作することによって生成される現象であって時刻歴波形として計測され得る現象に関する情報が利用される。すなわち、本発明における動作情報は、前記のような現象に関する情報であれば、特定のものには限定されない。
【0068】
本発明における動作情報としては、具体的には例えば、人が動作した際に施設に生じる振動やひずみが利用され得る。そして、動作情報として振動が利用される場合には、計測により、振動の変位データ,振動の速度データ,或いは振動の加速度データが時刻歴波形として収集・取得される。また、動作情報としてひずみが利用される場合には、ひずみ(特に、動ひずみ)データが時刻歴波形として収集・取得される。
【0069】
動作情報の計測の仕方は、例えば上記データのうちのいずれかを計測すると共に所定の時間毎に例えば電気的な信号として上記データのうちのいずれかの計測値を出力するものであれば、特定の方法や機器によるものに限定されるものではなく、対象施設の状況なども考慮された上で適当な方法や機器が適宜選択される。
【0070】
例えば、住居などの対象施設に振動センサ(具体的には、振動の変位検出型センサ,速度検出型センサ,若しくは加速度検出型センサ)或いはひずみセンサのうちのいずれかが設置されて動作情報に関する計測値の収集・取得が行われる。
【0071】
具体的には、あくまで一例として挙げると、所定の時間間隔(言い換えると、サンプリング周期)での振動の速度の計測が行われ、前記所定の時間間隔での振動の速度の値が計測値として収集・取得される。
【0072】
基準データ及び観測データを時刻歴波形として収集するための、動作情報の計測における上述の「所定の時間間隔(サンプリング周期)」としての計測の時間間隔[秒]は、特定の時間[秒]に限定されるものではなく、計測に用いられる計測機器の仕様なども踏まえた上で適当な値に適宜設定される。具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、1〜100ミリ秒程度の範囲で適当な値に設定され得る。なお、サンプリング周期が1〜100ミリ秒程度の範囲ということは、すなわち、サンプリング周波数が10〜1000[Hz]ということである。
【0073】
動作情報を計測するための計測機器は、対象施設に少なくとも一つ設置される。
【0074】
計測機器は、対象施設における人の動作・行動を適切に捕捉することができるように、人が動作することによって生成される現象ができる限り大きく伝播されたり大きく顕れたりすると考えられる場所・箇所に設置されることが好ましい。計測機器は、具体的には例えば、対象施設における最も大きな部屋・空間の床や廊下の床などに設置されることが好ましい。
【0075】
対象施設に一つの計測機器が設置される場合には、当該一つの計測機器によって対象施設の全体における人の行動が把握され得る場所・箇所に、計測機器が設置されることが好ましい。また、対象施設に複数の計測機器が設置される場合には、これら複数の計測機器によって対象施設の全体における人の行動が効率的に把握され得る(言い換えると、各計測機器の感知範囲が必要以上に重複することなく且つ各計測機器の感知範囲の和として施設全体が漏れ無くカバーされ得る)場所・箇所に、計測機器が設置されることが好ましい。
【0076】
基準データを収集・取得するための動作情報に関する計測は、行動モード別に、当該行動モードの開始から終了までが一体のデータとして(言い換えると、当該行動モードの開始から終了までを連続的な対象として)計測されるように行われる。
【0077】
行動モード毎の動作情報に関する計測は、即ち基準データの計測は、全ての行動モードの種別について同一の計測時間[秒]で行われるようにしても良いし、行動の種類毎の一連の行動として完結する時間が考慮されるなどして行動モードの種別によって異なる計測時間[秒]で行われるようにしても良い。
【0078】
なお、行動モード毎の動作情報に関する計測の計測時間[秒]は、特定の時間長[秒]に限定されるものではなく、選定・設定された行動モードが完結する時間などが考慮されて適当な時間長に適宜設定される。具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、30〜90秒程度の範囲で適当な時間長に設定され得る。
【0079】
そして、計測によって取得された行動モード毎の動作情報に関する計測値は、データ受部11aを介して人の行動の同定装置10に入力される。
【0080】
動作情報に関する計測値は、人の行動の同定装置10に、例えば、データサーバを介して入力されるようにしても良いし、人の行動の同定装置10と計測機器とがデータや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が可能であるように電気的に接続されて入力されるようにしても良い。
【0081】
データサーバを介して計測値が入力される場合には、データサーバがバス等の信号回線によって人の行動の同定装置10に接続され、計測機器から出力された計測値が前記データサーバにデータファイル等として格納(保存)され、当該データファイル等として保存された計測値が読み込まれるようにしても良い。
【0082】
また、人の行動の同定装置10と計測機器とが電気的に接続されて計測値が入力される場合には、例えば、各々に接続されて敷設されたケーブル等が用いられる有線による信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されるようにしても良いし、各々に接続された無線信号送受信機が用いられる無線による信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されるようにしても良い。そして、これら信号送受の仕組みによって計測値が入力されるようにしても良い。
【0083】
さらに、データサーバや有線・無線による信号送受の仕組みが組み合わされて用いられて計測値が人の行動の同定装置10に入力されるようにしても良い。
【0084】
なお、計測値は、必要に応じ、例えば計測に用いられた計測機器の仕様・性能が考慮されて、ハイパスフィルタやローパスフィルタなどの機器・仕組みによって整形された上で人の行動の同定装置10に入力されるようにしても良い。
【0085】
また、各計測値が計測された時刻が、計測機器に備えられた時計機能によって計測値と一緒に出力されて当該計測値と対応づけられて記録されたり、計測と同時に計測機器から出力された計測値がデータサーバや人の行動の同定装置10に記録されたり入力されたりした時の時刻が当該計測値と対応づけられて記録されたりする。
【0086】
本発明の説明においては、各計測値と対応づけられて記録される時刻のことを「計測時刻」と呼び、計測時刻と当該計測時刻における計測値との組み合わせデータのことを「計測データ」と呼ぶ。なお、組み合わせデータとしての計測データは、時刻歴の波形データであり、例えば、時刻歴振動波形(具体的には、時刻歴変位波形,時刻歴速度波形,或いは時刻歴加速度波形)や時刻歴ひずみ波形である。
【0087】
そして、データ受部11aにより、行動モード別に計測値が計測時刻と対応づけられて(言い換えると、行動モードの種別,計測時刻,及び計測値の組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0088】
続いて、制御部11の計測値度数分布作成部11bにより、ステップA−1の処理によって計測されて取得された基準データとしての計測データが用いられて計測値の度数分布の作成が行われる(ステップA−2)。
【0089】
具体的には、計測値度数分布作成部11bにより、行動モード別に、ステップA−1の処理においてメモリ15に記憶された計測データが読み込まれ、計測値の絶対値に着目した度数分布(ヒストグラム)が作成される。
【0090】
なお、動作情報(言い換えると、計測値)が、例えば、振動の変位の場合には変位の絶対値の度数分布が作成され、振動の速度の場合には速度の絶対値の度数分布が作成され、振動の加速度の場合には加速度の絶対値の度数分布が作成され、また、ひずみの場合にはひずみの絶対値の度数分布が作成される。
【0091】
ステップA−1の処理によって計測されて取得された時刻歴の波形データが計測値の絶対値に着目した度数分布に変換されることにより、当該時刻歴の波形データから時間情報や周波数特性情報が取り除かれ、当該時刻歴の波形データが振幅値のみに着目したデータに変換される。
【0092】
度数分布を作成する際の計測値(絶対値)の階級の幅(級間隔やビンの幅とも呼ばれる)は、特定の値に限定されるものではなく、事前の分析結果が考慮されたり、例えばスコットの方法やスタージェスの方法などの公知の技術も参考にされたりして適当な値に適宜設定される。
【0093】
そして、計測値度数分布作成部11bにより、行動モード別に度数の値が階級と対応づけられて(言い換えると、行動モードの種別,階級の属性,及び度数の値の組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0094】
続いて、制御部11のフーリエ変換部11cにより、ステップA−1の処理によって計測されて取得された基準データとしての計測データのフーリエ変換が行われる(ステップA−3)。
【0095】
具体的には、フーリエ変換部11cにより、行動モード別に、ステップA−1の処理においてメモリ15に記憶された計測データが計測時刻順の時系列の波形データとして読み込まれ、フーリエ変換が行われて周波数成分毎のスペクトル値が算出される。
【0096】
なお、動作情報(言い換えると、計測値)が、例えば、振動の変位の場合には絶対変位スペクトル値が算出され、振動の速度の場合には絶対速度スペクトル値が算出され、振動の加速度の場合には絶対加速度スペクトル値が算出され、また、ひずみの場合には絶対ひずみスペクトル値が算出される。
【0097】
ステップA−1の処理によって計測されて取得された時刻歴の波形データに対してフーリエ変換が行われることにより、当該時刻歴の波形データから位相情報が取り除かれ、当該時刻歴の波形データがスペクトル成分に変換される。これにより、周期性のある同一行動であれば、最大振幅が出現する経過時間にかかわらず、同一の周波数成分が高くなるなどの類似した周波数特性が捕捉され易くなることが期待される。
【0098】
フーリエ変換を行う際の周波数成分のピッチ[Hz]は、特定の値に限定されるものではなく、計測に用いられた計測機器の仕様やサンプリング周期なども踏まえた上で適当な値に適宜設定される。
【0099】
そして、フーリエ変換部11cにより、行動モード別に、算出されたスペクトル値が周波数成分と対応づけられて(言い換えると、行動モードの種別,周波数成分,及びスペクトル値の組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0100】
続いて、制御部11のスペクトル値度数分布作成部11dにより、ステップA−3の処理によって算出された周波数成分毎のスペクトル値が用いられてスペクトル値の度数分布の作成が行われる(ステップA−4)。
【0101】
具体的には、スペクトル値度数分布作成部11dにより、行動モード別に、ステップA−3の処理においてメモリ15に記憶された周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータが読み込まれ、スペクトル値に着目した度数分布(ヒストグラム)が作成される。
【0102】
ステップA−3の処理によって算出された周波数成分毎のスペクトル値データがスペクトル値に着目した度数分布に変換されることにより、当該周波数成分毎のスペクトル値データから周波数特性情報が取り除かれ、当該周波数成分毎のスペクトル値データが振幅値(スペクトル値)のみに着目したデータに変換される。
【0103】
度数分布を作成する際のスペクトル値の階級の幅(級間隔やビンの幅とも呼ばれる)は、特定の値に限定されるものではなく、事前の分析結果が考慮されたり、例えばスコットの方法やスタージェスの方法などの公知の技術も参考にされたりして適当な値に適宜設定される。
【0104】
そして、スペクトル値度数分布作成部11dにより、行動モード別に度数の値が階級と対応づけられて(言い換えると、行動モードの種別,階級の属性,及び度数の値の組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0105】
以上のステップA−1乃至A−4の処理により、基準データに関する、行動モード別の、計測値の絶対値に着目した階級の属性と度数の値との組み合わせデータ(「計測値度数分布データ」と呼ぶ),周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ(「周波数スペクトル値データ」と呼ぶ),及びスペクトル値に着目した階級の属性と度数の値との組み合わせデータ(「スペクトル値度数分布データ」と呼ぶ)が整備される。
【0106】
次に、住居等の施設内の人の行動の種類の同定が行われる(フェーズB)。
【0107】
本発明による人の行動の種類(行動モード)の同定は、対象とされた施設において行動を同定する対象とされた時間帯(「行動同定対象時間帯」と呼ぶ)におけるに計測が行われて取得された計測データ(「観測データ」と呼ぶ)が用いられる。
【0108】
このため、行動同定対象時間帯における動作情報に関する計測が行われて観測データとしての計測データの取得が行われる(ステップB−1)。
【0109】
人の行動の種類の同定のための動作情報に関する計測は、参照データの整備のためのフェーズAのステップA−1の処理における計測と基本的には同じ条件で行われる。
【0110】
そして、計測によって取得された行動同定対象時間帯における動作情報に関する計測値は、データ受部11aを介して人の行動の同定装置10に入力され、データ受部11aによって計測時刻と対応づけられて(言い換えると、計測時刻と計測値との組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0111】
ここで、人の行動の種類の同定の処理(フェーズB)では、参照データの整備(フェーズA)における行動モード毎の動作情報に関する計測と同一の計測時間[秒]の計測データが用いられる。
【0112】
したがって、フェーズAにおいて基準データの計測が全ての行動モードの種別について同一の計測時間[秒]で行われるようにした場合には、フェーズBにおける観測データの計測はフェーズAにおける基準データの計測と同一の計測時間[秒]で行われる。ただし、フェーズAにおける基準データの計測時間よりも長い時間の計測が行われて、その中からフェーズAと同じ時間長のデータが適当な方法によって抽出されてフェーズBの観測データとして用いられるようにしても良い。
【0113】
一方、フェーズAにおいて基準データの計測が行動モードの種別によって異なる計測時間[秒]で行われるようにした場合には、フェーズBにおける観測データの計測はフェーズAにおける基準データの計測時間[秒]のうち最長の計測時間と同一若しくはそれよりも長い計測時間[秒]で行われる。そして、その中から、フェーズAの行動モードの種別によって異なる計測時間のそれぞれに対応する複数の時間長のデータが適当な方法によって抽出されてフェーズBの観測データとして用いられるようにする。
【0114】
また、人の行動の種類の同定処理(フェーズB)は、例えば、事前に計測されて保存されている計測データについて行われるようにしても良いし、または、所定の間隔で若しくは何かイベント等を契機として繰り返し計測される計測データについて即時的に反復して行われるようにしても良い。すなわち本発明における行動同定対象時間帯の設定の仕方には特段の制約はなく、言い換えると基準データの計測時間以上の時間長の計測データが取得されるあらゆる時間帯が行動同定対象時間帯になり得る。したがって、本発明における行動同定対象時間帯の設定の仕方は任意であり、観測データの取得は随時・適時に行われ得る。
【0115】
反復して行われるようにする場合には、具体的には例えば、所定の時間間隔の到来を処理開始のトリガーとしたり、計測データが人の行動の同定装置10に入力されることを処理開始のトリガーとしたりすることにより、フェーズBの処理が行われるようにしても良い。
【0116】
続いて、制御部11の計測値度数分布作成部11bにより、ステップB−1の処理によって計測されて取得された観測データとしての計測データが用いられて計測値の度数分布の作成が行われる(ステップB−2)。
【0117】
具体的には、計測値度数分布作成部11bにより、ステップB−1の処理においてメモリ15に記憶された計測データが読み込まれ、計測値の絶対値に着目した度数分布(ヒストグラム)が作成される。
【0118】
人の行動の種類の同定のための計測値の度数分布の作成は、参照データの整備のためのフェーズAのステップA−2の処理における計測値の度数分布の作成と同じ条件で行われる。
【0119】
そして、計測値度数分布作成部11bにより、度数の値が階級と対応づけられて(言い換えると、階級の属性と度数の値との組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0120】
続いて、制御部11のフーリエ変換部11cにより、ステップB−1の処理によって計測されて取得された観測データとしての計測データのフーリエ変換が行われる(ステップB−3)。
【0121】
具体的には、フーリエ変換部11cにより、ステップB−1の処理においてメモリ15に記憶された計測データが計測時刻順の時系列の波形データとして読み込まれ、フーリエ変換が行われて周波数成分毎のスペクトル値が算出される。
【0122】
人の行動の種類の同定のための計測データのフーリエ変換は、参照データの整備のためのフェーズAのステップA−3の処理におけるフーリエ変換と同じ条件で行われる。
【0123】
そして、フーリエ変換部11cにより、算出されたスペクトル値が周波数成分と対応づけられて(言い換えると、周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0124】
続いて、制御部11のスペクトル値度数分布作成部11dにより、ステップB−3の処理によって算出された周波数成分毎のスペクトル値が用いられてスペクトル値の度数分布の作成が行われる(ステップB−4)。
【0125】
具体的には、スペクトル値度数分布作成部11dにより、ステップB−3の処理においてメモリ15に記憶された周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータが読み込まれ、スペクトル値に着目した度数分布(ヒストグラム)が作成される。
【0126】
人の行動の種類の同定のためのスペクトル値の度数分布の作成は、参照データの整備のためのフェーズAのステップA−4の処理におけるヒストグラム値の度数分布と同じ条件で行われる。
【0127】
そして、スペクトル値度数分布作成部11dにより、度数の値が階級と対応づけられて(言い換えると、階級の属性と度数の値との組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0128】
以上のステップB−1乃至B−4の処理により、観測データに関する、計測値の絶対値に着目した階級の属性と度数の値との組み合わせデータ(即ち「計測値度数分布データ」),周波数成分とスペクトル値との組み合わせデータ(即ち「周波数スペクトル値データ」),及びスペクトル値に着目した階級の属性と度数の値との組み合わせデータ(即ち「スペクトル値度数分布データ」)が整備される。
【0129】
そして、本発明では、観測データが行動モード別の基準データのうちのいずれの行動モードのデータと類似しているかにより、当該観測データが計測された時の人の行動の種類が同定される。
【0130】
このため、本発明では、行動モード別の基準データが用いられてステップA−2乃至A−4の処理において作成された行動モード毎の三種類の組み合わせデータと、観測データが用いられてステップB−2乃至B−4の処理において作成された三種類の組み合わせデータとが用いられ、各行動モードの基準データに対する観測データの類似の度合いを評価するための指標(「判定指標」と呼ぶ)の値(「判定指標値」と呼ぶ)が複数算定される。
【0131】
判定指標値の算定として、まず、制御部11のカイ2乗算定部11eにより、ステップA−2乃至A−4並びにステップB−2乃至B−4の処理によって得られたデータが用いられてカイ2乗分布を応用した類似度判定値の算定が行われる(ステップB−5)。
【0132】
具体的には、カイ2乗算定部11eにより、ステップA−2乃至A−4の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータ(具体的には、基準データに関する行動モード別の計測値度数分布データ,周波数スペクトル値データ,及びスペクトル値度数分布データ)、並びに、ステップB−2乃至B−4の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータ(具体的には、観測データに関する計測値度数分布データ,周波数スペクトル値データ,及びスペクトル値度数分布データ)が用いられて、数式17により、行動モードそれぞれの基準データと観測データとの適合の程度を表すカイ2乗値を応用した評価値Χが算出される。
【0133】
【数17】
ここに、 Χ :カイ2乗値を応用した評価値,
Ba:基準データから作成された値,
Ob:観測データから作成された値,
d :組み合わせデータの種類を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
k :成分の種別を表す識別子,
n(d):組み合わせデータ群の種類(d)別の成分の総数 をそれぞれ表す。
【0134】
組み合わせデータの種類を表す識別子dは、例えば、計測値度数分布データ群に対してd=1,周波数スペクトル値データ群に対してd=2,及びスペクトル値度数分布データ群に対してd=3のように付与される。
【0135】
行動モードの種別を表す識別子jは、フェーズAにおいて選定されて設定された行動モードのそれぞれに対して付与される。例えば、フェーズAにおいて設定された行動モードが15種類である場合には、j=1,2,3,…,15である。
【0136】
基準データから作成された値Ba及び観測データから作成された値Obは、計測値度数分布データ及びスペクトル値度数分布データに関しては度数の値であり、周波数スペクトル値データに関してはスペクトル値である。
【0137】
成分の種別を表す識別子kは、計測値度数分布データ及びスペクトル値度数分布データに関しては階級の属性の種別を表す識別子として付与され、周波数スペクトル値データに関しては周波数成分の種別を表す識別子として付与される(具体的には、k=1,2,3,…)。
【0138】
組み合わせデータ群の種類(d)別の成分の総数n(d)は、計測値度数分布データ及びスペクトル値度数分布データに関しては階級の属性の種別の総数であり、周波数スペクトル値データに関しては周波数成分の種別の総数である。したがって、k=1,2,3,…,n(d)である。
【0139】
さらに、カイ2乗算定部11eにより、上記数式17によって算出されたカイ2乗値を応用した評価値Χ
d,jが用いられて、数式18により、行動モードそれぞれの基準データと観測データとの類似度を表す類似度判定値Pが算定される。
【0140】
【数18】
ここに、 P :カイ2乗分布を応用した類似度判定値,
χ
12(Χ
d,j):Χ
d,jに対応する自由度1のカイ2乗分布値 をそれぞれ表す。
【0141】
数式18によって算定される類似度判定値P
d,jは、0≦P
d,j≦1の範囲の値になり、1であるときに類似度が最も高いことを意味する。
【0142】
そして、カイ2乗算定部11eにより、第一の判定指標値として、カイ2乗分布を応用した類似度判定値P
d,jの値が組み合わせデータの種類及び行動モードの種別と対応づけられて(言い換えると、組み合わせデータの種類d,行動モードの種別j,及び類似度判定値P
d,jの組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0143】
続いて、制御部11のバタチャリア算定部11fにより、ステップA−2乃至A−4並びにステップB−2乃至B−4の処理によって得られたデータが用いられてバタチャリア係数を応用した類似度判定値の算定が行われる(ステップB−6)。
【0144】
具体的には、バタチャリア算定部11fにより、ステップA−2乃至A−4の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータ、並びに、ステップB−2乃至B−4の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータが用いられて、数式19により、行動モードそれぞれの基準データと観測データとの類似の程度を表すバタチャリア係数を応用した類似度判定値Bが算定される。
【0145】
【数19】
ここに、 B:バタチャリア係数を応用した類似度判定値 を表す。
【0146】
数式19のBa,Ob,d,j,k,及びn(d)は、数式17におけるものと同様である。
【0147】
ただし、数式19の、N(Ba
d,j,k)としては基準データから作成された値Baについて数式20によって組み合わせデータの種類(d)別且つ行動モードの種別(j)別に正規化された値が用いられ、N(Ob
d,k)としては観測データから作成された値Obについて数式20によって組み合わせデータの種類(d)別に正規化された値が用いられる。
【0149】
数式19によって算定される類似度判定値B
d,jは、0≦B
d,j≦1の範囲の値になり、1であるときに類似度が最も高いことを意味する。
【0150】
そして、バタチャリア算定部11fにより、第二の判定指標値として、バタチャリア係数を応用した類似度判定値B
d,jの値が組み合わせデータの種類及び行動モードの種別と対応づけられて(言い換えると、組み合わせデータの種類d,行動モードの種別j,及び類似度判定値B
d,jの組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0151】
続いて、制御部11の相関係数算出部11gにより、ステップA−2乃至A−4並びにステップB−2乃至B−4の処理によって得られたデータが用いられて相関係数の算出が行われる(ステップB−7)。
【0152】
具体的には、相関係数算出部11gにより、ステップA−2乃至A−4の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータ、並びに、ステップB−2乃至B−4の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータが用いられて、数式21により、行動モードそれぞれの基準データと観測データとの関連の程度を表す相関係数Rが算出される。
【0153】
【数21】
ここに、 R:相関係数 を表す。
【0154】
数式21のBa,Ob,d,j,k,及びn(d)は、数式17におけるものと同様である。
【0155】
Ba
d,j ̄(正しくは、Ba
d,jの上に―が付く)は、基準データから作成された値Ba
d,j,kの、組み合わせデータの種類(d)別且つ行動モードの種別(j)別の、全ての成分の種別(k)に関する平均値である。
【0156】
また、Ob
d ̄(正しくは、Ob
dの上に―が付く)は、観測データから作成された値Ob
d,kの、組み合わせデータの種類(d)別の、全ての成分の種別(k)に関する平均値である。
【0157】
数式21によって算出される相関係数R
d,jは、−1≦R
d,j≦1の範囲の値になり、1であるときに類似度が最も高いことを意味する。
【0158】
そして、相関係数算出部11gにより、第三の判定指標値として、相関係数R
d,jの値が組み合わせデータの種類及び行動モードの種別と対応づけられて(言い換えると、組み合わせデータの種類d,行動モードの種別j,及び相関係数R
d,jの組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0159】
以上のステップB−5乃至B−7の処理により、組み合わせデータの3種類(具体的には、計測値度数分布データ,周波数スペクトル値データ,及びスペクトル値度数分布データの3種類)と判定指標値の3種類との組み合わせとして定義づけられる9種類の判定指標のそれぞれについて、各行動モードに対する観測データの判定指標値(具体的には、P
d,j,B
d,j,及びR
d,j)の値が算定される。
【0160】
次に、制御部11の統合判定値算定部11hにより、ステップB−5乃至B−7の処理によって得られた判定指標値が用いられて行動モード別の統合判定値の算定が行われる(ステップB−8)。
【0161】
具体的には、統合判定値算定部11hにより、ステップB−5の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータの種類d,行動モードの種別j,及び類似度判定値P
d,jの組み合わせデータ、ステップB−6の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータの種類d,行動モードの種別j,及び類似度判定値B
d,jの組み合わせデータ、並びにステップB−7の処理においてメモリ15に記憶された組み合わせデータの種類d,行動モードの種別j,及び相関係数R
d,jの組み合わせデータが用いられて、主成分分析の方法論を応用した数式22により、行動モードそれぞれの基準データと観測データとの類似度を総合的に表すための統合判定値Pr
jが算定される。
【0162】
【数22】
ここに、 Pr:統合判定値,
I :判定指標値,
C :重み係数,
m :判定指標の種別を表す識別子,
j :行動モードの種別を表す識別子,
Ni:用いられる判定指標の種別の個数(但し、Ni=2,3,4,…,9)
をそれぞれ表す。
【0163】
判定指標値I
j,mは、具体的には、或る行動モードの基準データに対する観測データの判定指標値であり、組み合わせデータの種類(d)毎(具体的には、計測値度数分布データ,周波数スペクトル値データ,及びスペクトル値度数分布データ毎)且つ行動モードの種別(j)別の第一の判定指標値としての類似度判定値P
d,j,第二の判定指標値としての類似度判定値B
d,j,及び第三の判定指標値としての相関係数R
d,jが該当する。
【0164】
I
m ̄(正しくは、I
mの上に―が付く)は、各行動モードの基準データに対する観測データの判定指標値I
j,mの、判定指標の種別(m)別の、全ての行動モードの種別(j)に関する平均値である。
【0165】
重み係数Cは、数式23を制約条件として数式24で表される統合判定値の分散量Sp
2を最大にするように、ラグランジェの未定係数法により、固有値ベクトルとして判定指標の種別(m)毎の値C
mの組み合わせとして決定される。
【0167】
【数24】
ここに、 Sp
2:分散量,
no:行動モードの個数 をそれぞれ表す。
【0168】
Pr ̄(正しくは、Prの上に―が付く)は、各行動モードの基準データに対する観測データについての統合判定値Pr
jの、全ての行動モードの種別(j)に関する平均値である。
【0169】
判定指標の種別(m)毎の値C
mの組み合わせとして決定される重み係数Cは、一般に、判定指標の種別(m)の個数と同じ個数だけ求められる。したがって、行動モードの種別(j)別に、数式22により、判定指標の種別(m)の個数(即ち、Ni)と同じ個数だけ統合判定値Pr
jが算定される。
【0170】
そして、複数の統合判定値Pr
jのうち、数式24で表される分散量Sp
2の大きさがx番目である重み係数Cの組み合わせによって算定される値が第x主成分の統合判定値Pr
jである。
【0171】
また、数式23によって算定される行動モードの種別(j)別の統合判定値Pr
jは、9種類の判定指標のあらゆる組み合わせ、すなわち、9種類の中から2乃至9種類を選択する全ての組み合わせ(p個の中からr個を選択してできる組み合わせの個数を表す記号である
pC
rを用いて「判定指標の
9C
2乃至
9C
9の組み合わせ」と表記する)のそれぞれについて算定される。
【0172】
すなわち、統合判定値Pr
jの値は、判定指標の
9C
2乃至
9C
9の組み合わせ毎に、行動モードの種別(j)別に、第1主成分から第x主成分まで算定される。ただし、xは、選択された判定指標の個数であり、2≦x≦9である。
【0173】
そして、統合判定値算定部11hにより、第1主成分の統合判定値P1
j及び第2主成分の統合判定値P2
jの値(数学的には主成分得点のこと)が行動モードの種別(j)及び判定指標の
9C
2乃至
9C
9の組み合わせの種別と対応づけられて(言い換えると、判定指標の
9C
2乃至
9C
9の組み合わせの種別,行動モードの種別j,第1主成分の統合判定値P1
j,及び第2主成分の統合判定値P2
jの組み合わせデータとして)メモリ15に記憶させられる。
【0174】
次に、制御部11の行動同定部11iにより、ステップB−8の処理によって算定された行動モード別の統合判定値が用いられて人の行動の種類の同定が行われる(ステップB−9)。
【0175】
具体的には、行動同定部11iにより、ステップB−8の処理においてメモリ15に記憶された判定指標の
9C
2乃至
9C
9の組み合わせの種別,行動モードの種別j,第1主成分の統合判定値P1
j,及び第2主成分の統合判定値P2
jの組み合わせデータが用いられて、まず、第1主成分の統合判定値P1
jの値が最大になっている判定指標の
9C
2乃至
9C
9の組み合わせの種別と行動モードの種別(j)とが特定される。この行動モードの種別のことを「第1主成分行動モード」と呼ぶ。
【0176】
続いて、第1主成分の統合判定値P1
jの値が最大になっている判定指標の
9C
2乃至
9C
9の組み合わせの種別において第2主成分の統合判定値P2
jの値が最大になっている行動モードの種別(j)が特定される。この行動モードの種別のことを「第2主成分行動モード」と呼ぶ。
【0177】
そして、第1主成分行動モードと第2主成分行動モードとが同一である場合には、計測時刻(言い換えると、行動同定対象時間帯)における人の動作・行動は第1主成分行動モードであると同定される。
【0178】
一方、第1主成分行動モードと第2主成分行動モードとが異なる場合には、数式25により、第1主成分行動モードと第2主成分行動モードとのそれぞれについてマハラノビスの距離Dが算出される。
【数25】
ここに、 D :マハラノビスの距離,
P1:第1主成分の統合判定値,
S
p1:P1
jの標準偏差 をそれぞれ表す。
【0179】
P1
jとしては、第1主成分行動モードの第1主成分の統合判定値、或いは、第2主成分行動モードの第1主成分の統合判定値が用いられる。
【0180】
P1
j ̄(正しくは、P1
jの上に―が付く;以下同じ)は、各行動モードの基準データに対する観測データについての主成分毎の統合判定値のうちの第1主成分の統合判定値P1
jの、行動モードの種別(j)別の平均値(具体的には、第1主成分行動モードに関する平均値、或いは、第2主成分行動モードに関する平均値)である。
【0181】
P1
j ̄の値は、行動モードが特定(言い換えると、指定)された上でステップB−1乃至B−8の処理が複数回行われることによって得られた複数の第1主成分の統合判定値P1
jの平均として予め算定される。
【0182】
S
P1は、各行動モードの基準データに対する観測データについての主成分毎の統合判定値のうちの第1主成分の統合判定値P1
jの、行動モードの種別(j)別の標準偏差(具体的には、第1主成分行動モードに関する標準偏差、或いは、第2主成分行動モードに関する標準偏差)である。
【0183】
S
P1の値は、上述の平均値P1
j ̄の算定と併せて、行動モードが特定(言い換えると、指定)された上でステップB−1乃至B−8の処理が複数回行われることによって得られた複数の第1主成分の統合判定値P1
jの標準偏差として予め算定される。
【0184】
そして、第1主成分行動モードと第2主成分行動モードとのうち、マハラノビスの距離Dが小さい方の行動モードが、候補行動モードとして選択される。
【0185】
その上で、上記候補行動モードの第1主成分の統合判定値P1
jの値がP1
j ̄±αの範囲に入っているか否かが判断される。
【0186】
そして、上記P1
jの値がP1
j ̄±αの範囲に入っている場合には、計測時刻(言い換えると、行動同定対象時間帯)における人の動作・行動は候補行動モードであると同定される。
【0187】
一方、上記P1
jの値がP1
j ̄±αの範囲に入っていない場合には、計測時刻(言い換えると、行動同定対象時間帯)における人の動作・行動はフェーズAにおいて選定されて設定された行動モードのうちのいずれでもないと判断される。
【0188】
なお、上記の同定・判断の処理に用いられるαは、特定の値に限定されるものではなく、必要とされる同定精度なども考慮されて適当な値に適宜設定される。具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、αの値は標準偏差S
P1に設定され得る。
【0189】
なお、フェーズAにおいて選定されて設定された行動モードのうちのいずれでもないと判断された場合には、当該計測時刻における人の動作・行動が具体的には何であったのかが確認された上で行動モードとして追加設定されると共に観測データが基準データに追加されて参照データが追加整備されるようにしても良い。
【0190】
以上により、ステップB−1の処理において人の行動の同定装置10に入力された計測データについての人の行動の種類の同定処理が終了する。そして、制御部11により、場合により(言い換えると、必要に応じ)、処理開始のトリガーに従ってステップB−1乃至B−9の処理が繰り返し行われる。
【0191】
以上のように構成された人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによれば、時刻歴波形として取得された基準データ及び観測データの時間情報,位相情報,或いは周波数特性情報を取り除いて用いるようにしているので、計測データにおける人の動作・行動のゆらぎが吸収されたデータによって人の動作・行動の同定処理を行うことができ、人の動作・行動を高い精度で同定することが可能になる。
【0192】
以上のように構成された人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによれば、しかも、一つのみの計測機器によって収集された基準データ及び観測データによって人の動作・行動の同定処理を行うようにすることができるので、本発明に係る仕組みの構築費用を低減させることが可能になり、延いては、汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0193】
以上のように構成された人の行動の同定方法、同定装置、及び同定プログラムによれば、また、三種類の組み合わせデータ群の種類毎の三種類の判定指標値(即ち、判定指標値は合計で九つ)のうちの少なくも二つが用いられて基準データと観測データとの類似の程度を評価するための統合判定値が算定されるようにしているので、多面的且つ総合的に類似の程度を評価して人の動作・行動の同定処理を行うことができ、また、対象者の特性や行動の種類に応じて判定指標値の適切な組み合わせによって人の動作・行動の同定処理を行うようにすることができ、人の動作・行動の同定精度を一層向上させることが可能になる。
【0194】
なお、上述の形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
【0195】
例えば、上述の実施形態では判定指標の
9C
2乃至
9C
9の組み合わせのそれぞれについて行動モードの種別(j)別の統合判定値Pr
jが算定されるようにしているが、これに限られず、同定処理に用いられる判定指標の種類が予め選定されて当該選定された判定指標に係る判定指標値のみが算定されるようにしても良い。この場合、判定指標の種類は、2種類以上9種類以下の範囲で選定される。
【0196】
また、上述の実施形態では第1主成分の統合判定値P1
jの値と第2主成分の統合判定値P2
jの値(数学的には主成分得点のこと)との両方が算定されて同定処理に用いられるようにしているが、これに限られず、第1主成分の統合判定値P1
jの値のみが算定されて同定処理に用いられるようにしても良い。そして、第1主成分の統合判定値P1
jの値が最大になっている行動モードの種別が計測時刻(言い換えると、行動同定対象時間帯)における人の動作・行動であると同定されるようにしても良い。
【0197】
また、上述の実施形態では第1主成分の統合判定値P1
jの値と第2主成分の統合判定値P2
jの値とが独立的に考慮されるようにしているが、これに限られず、第1主成分の統合判定値P1
jの値と第2主成分の統合判定値P2
jの値とが平均されて考慮されるようにしても良い。そして、第1主成分の統合判定値P1
jの値と第2主成分の統合判定値P2
jの値との平均値が最大になっている行動モードの種別が計測時刻における人の動作・行動であると同定されるようにしても良い。