(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475609
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】エピタキシャルウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20190218BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20190218BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20190218BHJP
H01L 21/302 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/24
C23C16/44 J
H01L21/302 201A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-256691(P2015-256691)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-120830(P2017-120830A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591037498
【氏名又は名称】長野電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 盛史
(72)【発明者】
【氏名】田中 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 進一
(72)【発明者】
【氏名】若林 大士
【審査官】
長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−203164(JP,A)
【文献】
特開2011−233583(JP,A)
【文献】
特開2008−078179(JP,A)
【文献】
特開平10−125603(JP,A)
【文献】
特開平11−016845(JP,A)
【文献】
特開2002−252179(JP,A)
【文献】
特開2012−227385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205、21/302、21/3065、21/31、
21/365、21/461、21/469、21/86、
C23C 16/00−16/56、
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス部材を有する反応炉内に配置されるサセプタにポリシリコン層を堆積する第1工程と、
前記第1工程後に、前記反応炉内を熱処理する工程と、
前記熱処理する工程後に、塩化水素ガスによる気相エッチングにより前記ポリシリコン層を前記サセプタから除去する工程と、
前記除去する工程後に、前記サセプタにポリシリコン層を堆積する第2工程と、
前記第1工程、前記熱処理する工程、前記除去する工程及び前記第2工程を複数回、繰り返す工程と、
前記繰り返す工程前に、前記反応炉をメンテナンスする工程と、
を備えることを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記繰り返す工程後に、前記反応炉内で基板にエピタキシャル層を成長する工程を備える請求項1に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記繰り返す工程では、前記第1工程、前記熱処理する工程、前記除去する工程及び前記第2工程を5回以上繰り返す請求項1又は2に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CCD(Charge Coupled Device)、CIS(CMOS Image Sensor)などの撮像素子用基板にエピタキシャルウェーハが使用されている。このエピタキシャルウェーハは、例えば、シリコン基板にシリコン膜(エピタキシャル層)を気相成長することで作製される。この気相成長する環境が、例えば、金属不純物で汚染されていると、金属不純物が取り込まれたエピタキシャルウェーハが作製される。このようなエピタキシャルウェーハを撮像素子用基板に用いると、白キズ(白点)と呼ばれる不良が発生するため、気相成長時にエピタキシャルウェーハ中に取り込まれる金属不純物を低減することが重要である。
【0003】
一般にシリコンエピタキシャルウェーハは、エピタキシャルCVD装置などの気相成長装置を使用して製造される。このような気相成長装置では、気相成長装置を大気に開放して気相成長装置の反応炉、配管等を洗浄などする定期的なメンテナンスが必要となる。しかし、メンテナンスを実行すると、気相成長装置に金属不純物が持ち込まれる等の理由により、メンテナンス後の気相成長装置は、実際に清浄度が悪化する。そのため、SPV(Surface Photo Voltage)、WLT(Wafer Life Time)、VP−ICPMS(Vapor Phase Inductively Coupled Plasema Mass Spectrometry)等の方法によりメンテナンス後の気相成長装置の清浄度が評価され、清浄度が所定の水準になるように管理される。
【0004】
メンテナンス後の気相成長装置は、例えば、反応炉内が気相エッチングされ、その後、反応炉内のサセプタ等にシリコン層を堆積させるとの特許文献1〜7に開示される工程が繰り返されることで、清浄度をもとの水準に回復させる。なお、シリコン層を堆積させることについては、例えば、特許文献8及び9にも開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−45007号公報
【特許文献2】特開2011−233583号公報
【特許文献3】特開2012−222301号公報
【特許文献4】特開2012−227385号公報
【特許文献5】特開平9−199424号公報
【特許文献6】特開2004−260086号公報
【特許文献7】特開2011−14771号公報
【特許文献8】特開平6−188198号公報
【特許文献9】特開2010−40574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜7のように気相エッチングしてシリコン層を堆積させる工程を繰り返して気相成長装置の清浄度を回復させると、清浄度を回復させるのに長時間を要する。そのため、シリコンエピタキシャルウェーハの生産性が大きく低下するとの問題がある。
【0007】
本発明の課題は、生産性を高めることが可能なエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法は、
ステンレス部材を有する反応炉内に配置されるサセプタにポリシリコン層を堆積する第1工程と、
第1工程後に、反応炉内を熱処理する工程と、
熱処理する工程後に、気相エッチングによりポリシリコン層をサセプタから除去する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明者らは、メンテナンス後の気相成長装置の清浄度を効率よく回復させるために、メンテナンス後に反応炉内を気相エッチングする点に着眼して鋭意検討を重ねた。その中で、本発明者らは次のような知見を得た。メンテナンス後の気相成長装置の反応炉内は操業時と比べて水分量が多い(酸素濃度が高い)ため、この状態で気相エッチングをすると、反応炉内のステンレス部材の腐食が悪化する。そして、そのステンレス部材の腐食の悪化により反応炉内が金属不純物により汚染され、結果として気相成長装置の清浄度を回復させるのに長時間を要するとの知見を、本発明者らは得た。
【0010】
そこで、本発明では、気相エッチングの前に反応炉内のサセプタにポリシリコンを堆積させて反応炉内を熱処理する一連の工程を備える。こうすることで、シリコンエピタキシャルウェーハを製造する製造環境の清浄度を回復させる時間を従来よりも短縮させることが可能となる。その結果、シリコンエピタキシャルウェーハの生産性を高めることができる。
【0011】
本発明の実施態様では、除去する工程後に、サセプタにポリシリコン層を堆積する第2工程を備える。これによれば、反応炉内の金属汚染を低減させることが可能となる。
【0012】
本発明の実施態様では、第1工程、熱処理する工程、除去する工程及び第2工程を複数回、繰り返す工程を備える。これによれば、4つの工程を複数回繰り返すことで、シリコンエピタキシャルウェーハを製造する製造環境における清浄度を高めることが可能となる。
【0013】
本発明の実施態様では、繰り返す工程前に、反応炉をメンテナンスする工程を備える。これによれば、反応炉内の清浄度が悪化するメンテナンス後に反応炉内の清浄度を回復させる時間を短縮させることができる。
【0014】
本発明の実施態様では、繰り返す工程後に、反応炉内で基板にエピタキシャル層を成長する工程を備える。これによれば、金属汚染が抑制されたシリコンエピタキシャルウェーハを製造できるとともに、エピタキシャルウェーハの生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に使用する気相成長装置の一例を示す模式断面図。
【
図2】メンテナンス作業後における
図1の気相成長装置の反応炉内の様子を説明する説明図。
【
図3A】
図1の気相成長装置における反応炉内のサセプタの表面にポリシリコン層を堆積させた状況を示す模式断面図。
【
図3B】
図3Aの気相成長装置の反応炉内を熱処理した状況を示す模式断面図。
【
図3C】
図3Bの気相成長装置の反応炉内を気相エッチングしてサセプタに堆積したポリシリコン層とともに、金属不純物を反応炉の外部に排出させる状況を示す模式断面図。
【
図4】メンテナンス後の反応炉内の清浄度を回復させる一連の工程を繰り返した回数と、作製したエピタキシャルウェーハのモリブデン濃度の相対値(実施例3のモリブデン濃度を1とした場合の相対値)の関係を示す実施例1〜3及び比較例1〜3のグラフ。
【
図5】メンテナンス後の反応炉内の清浄度を回復させる一連の工程を1回実施する平均時間の相対値(ただし、実施例の平均時間を1とした場合の相対値)を示す実施例と比較例のグラフ。
【
図6】メンテナンス後の反応炉内の清浄度を回復させる一連の工程を1回実施するために使用した水素ガス、トリクロルシランガス及び塩化水素ガスの平均使用量の相対値(ただし、実施例の塩化水素ガスの平均使用量を1とした場合の相対値)を示す実施例と比較例のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明に使用する気相成長装置1の一例を示す。気相成長装置1を使用して、例えば、成長用基板となるシリコン単結晶ウェーハ(基板W)にシリコン単結晶膜(エピタキシャル層)を気相成長させ、シリコンエピタキシャルウェーハが製造される。
【0017】
気相成長装置1は反応炉2を備える。反応炉2は容器状に形成され、円筒状のベースリング2aと、ベースリング2aを上から蓋をするアッパードーム2bと、ベースリング2aを下から蓋をするロワードーム2cとを備える。
【0018】
ベースリング2aは、ベースリング2aの内側と外側を繋ぐ通路2a1、2a2を有するステンレス部材である。具体的には、ベースリング2aは、Fe(鉄)を主成分として、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)、Mn(マンガン)などの成分を含むステンレス鋼(例えば、SUS316L)により形成される。ベースリング2aが本発明の「ステンレス部材」に相当する。
【0019】
アッパードーム2bは、円筒状のベースリング2aの上側の開口を塞ぐように位置する。ロワードーム2cは、円筒状のベースリング2aの下側の開口を塞ぐように位置する。
【0020】
反応炉2の内部には、基板Wを載置させるサセプタ3と、サセプタ3を支持する支持部4が備わる。
【0021】
サセプタ3は、円盤状に形成される。サセプタ3は、基板Wの直径より大きな円盤状に表面が窪むザグリ部3aを有する。ザグリ部3aに基板Wが載置された状態で、サセプタ3は、ザグリ部3aに載置された基板Wを水平又は略水平に支持する。サセプタ3は、基板Wを支持した状態で鉛直方向に延びる軸線O回りに回転可能なように反応炉2内に配置される。
【0022】
支持部4は、サセプタ3の裏面側からサセプタ3を水平又は略水平に支持するように配置される。支持部4は、サセプタ3の裏面に接続してサセプタ3を支持するアーム4aと、上端部がアーム4aに接続して鉛直方向の下方に伸びる支柱4bを備える。
【0023】
支柱4bの下端部には駆動部5が接続する。駆動部5は、支柱4bを上下動させることが可能及び支柱4bを軸線O回りに回転させることが可能な駆動手段(例えば、モーター)として構成される。
【0024】
反応炉2の外部には、反応炉2の左右にガス供給管6及びガス排出管7が配置される。また、反応炉2の上下にはランプ8が配置される。
【0025】
ガス供給管6は、反応炉2の水平方向の一端側(
図1左側)に位置し、各種のガスを反応炉2内に略水平に供給する。例えば、気相成長時には、ガス供給管6は、反応炉2内に気相成長ガスを供給する。気相成長ガスは、シリコン単結晶膜の原料となる原料ガスと、原料ガスを希釈するキャリアガスと、単結晶膜に導電型を付与するドーパントガスとを有する。また、反応炉2内の清浄度を回復させる回復時には、ガス供給管6は、次のガスを供給する。ガス供給管6は、サセプタ3の表面にポリシリコン層を形成するためのトリクロルシランなどのシラン系のガス及び反応炉2内を気相エッチングするエッチングガスを供給する。エッチングガスは、例えば、塩化水素ガス(HClガス)が使用され、この供給された塩化水素ガスをパージする際には、ガス供給管6は、反応炉2内にパージガス(例えば、水素等)を供給する。
【0026】
ガス排出管7は、反応炉2の水平方向の他端側(図示右側)に位置し、反応炉2内のガスを反応炉2外に排出する。ガス排出管7からは、基板Wを通過した気相成長ガス等が排出される。
【0027】
ランプ8は、反応炉2の上下に複数配置され、反応炉2内の温度を調節する。
【0028】
以上、気相成長装置1の主要な各部について説明した。気相成長装置1を稼働させてシリコンエピタキシャルウェーハを製造する場合は、先ず、反応炉2のサセプタ3に基板Wを載置させる。そして、ガス供給管6から基板Wに気相成長ガスを供給し、基板Wにシリコン単結晶薄膜を気相成長させてシリコンエピタキシャルウェーハを製造する。このような製造工程を気相成長装置1が繰り返して気相成長装置1が所定の期間、稼働すると、気相成長装置1の定期的なメンテナンスが施される。このメンテナンスの作業としては、反応炉2を大気に開放して反応炉2と反応炉2に接続する配管等の清掃、点検等が行われる。
【0029】
気相成長装置1のメンテナンスにより、反応炉2を大気に開放すると、反応炉2内などに金属不純物等が持ち込まれ、気相成長装置1の清浄度が悪化する。そのため、メンテナンスの作業後には、反応炉2内の清浄度を回復させるために、従来では、次のような工程を複数回、繰り返していた。メンテナンス作業後にガス供給管6から反応炉2内に塩化水素ガスを供給して気相エッチングし、その後、ガス供給管6から反応炉2内にシラン系ガスを供給してサセプタ3の表面にシリコンを堆積させる工程を複数回、繰り返していた。
【0030】
本発明者らは、メンテナンス作業後における気相成長装置1の清浄度を効率よく回復させるために、メンテナンス作業後の気相エッチングに着眼して鋭意検討を重ねた。その中で、本発明者らは次のような知見を得た。
図2に示すようにメンテナンス作業後における気相成長装置1の反応炉2内は操業時よりも水分量が多い(酸素濃度が高い)。よって、この状態で気相エッチングを行うと(塩化水素ガスを流すと)、反応炉2内のベースリング2a(ステンレス部材)の腐食が悪化する。このステンレス部材の腐食が悪化すると、反応炉2内が金属不純物により汚染され、結果として気相成長装置1の清浄度を回復させるのに長時間を要してしまうとの知見を本発明者らは得た。
【0031】
そこで、本実施態様では、メンテナンス後の反応炉2内に塩化水素ガスを供給して気相エッチングする前にガス供給管6からサセプタ3の表面にシラン系ガスを供給する。例えば、トリクロルシランをサセプタ3の表面に供給することで、サセプタ3の表面等にポリシリコン層Pを、例えば、30μm堆積させる(第1工程、
図3A参照)。次いで、ポリシリコン層Pを堆積させたサセプタ3が配置される反応炉2内をランプ8で、例えば、1130度に加熱する熱処理をする(熱処理する工程)。熱処理によりメンテナンス後の反応炉2内に固相の状態で存在する金属不純物(例えば、モリブデン(Mo))が
図3Bに示すように気相状態となる。金属不純物が気相状態になると、金属不純物がポリシリコン層Pに付着等してポリシリコン層Pに捕集される。その後、反応炉2内を気相エッチングするための塩化水素ガスと反応炉2内の塩化水素ガスをパージする水素ガスをガス供給管6から供給する。これにより、サセプタ3からポリシリコン層Pが除去され、水素ガスによりガス排出管7を通じて反応炉2の外部に排出される。また、ポリシリコン層Pに捕集された金属不純物についても気相エッチングで除去されたポリシリコン層Pとともに反応炉2の外部に排出される(除去する工程、
図3C)。その後、ガス供給管6からサセプタ3の表面にシラン系ガスを供給してサセプタ3の表面等にポリシリコン層Pを所定の厚さ堆積させる(第2工程)。反応炉2内の清浄度が所定の水準に回復するまで、以上の、第1工程→熱処理する工程→除去する工程→第2工程が複数回繰り返される。そして、清浄度が回復した反応炉2内に基板Wが搬入され、基板Wにエピタキシャル層を成長し、再びエピタキシャルウェーハの製造を繰り返す。
【0032】
本実施態様では、メンテナンス作業後の気相エッチングの前に反応炉2内のサセプタ3にポリシリコン層Pを堆積させて反応炉2内を熱処理する。こうすることで、メンテナンス後に存在する金属不純物をポリシリコン層Pに捕集し、気相エッチングにより反応炉2の外に排出できる。よって、メンテナンス作業直後に反応炉2内を気相エッチングするよりも反応炉2内の金属汚染を抑制でき、メンテナンス後における反応炉2内の清浄度を回復させる時間を短縮することができる。
【実施例】
【0033】
本発明の効果を確認するために以下の実験を行った。以下においては、実験例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0034】
(実施例)
メンテナンス作業が終了した気相成長装置1を用意した。用意した気相成長装置1を使用してガス供給管6から反応炉2内のサセプタ3の表面にトリクロルシランを供給してポリシリコン層Pを30μm堆積した(第1工程)。次いで、ランプ8により反応炉2内を1130度に加熱した(熱処理する工程)後に、ガス供給管6から反応炉2内に塩化水素ガス(HCl)を供給するとともに、パージガス(水素)を供給してポリシリコン層Pを気相エッチングした(除去する工程)。その後、ガス供給管6からサセプタ3の表面にトリクロルシランを供給してサセプタ3の表面等にポリシリコン層Pを堆積させた(第2工程)。そして、第1工程→熱処理する工程→除去する工程→第2工程の一連の工程(以下、「回復工程」とする)を複数回、繰り返すとともに、回復工程に費やした総時間を測定した。その後、反応炉2内の汚染を評価するP型のシリコン単結晶基板Wを反応炉2内に搬入して基板Wにエピタキシャル層を成長し、反応炉2内の金属不純物を評価するエピタキシャルウェーハを作製した。そして、作製されたエピタキシャルウェーハの表面のモリブデン濃度(atоms/cm
2)をICP−MS法により測定した。なお、シリコン単結晶基板Wには、直径200mm、結晶方位<100>、抵抗率10Ωcmのものを使用した。
【0035】
実施例1では回復工程を3回、実施例2では回復工程を5回、実施例3では回復工程を7回にし、各実施例において金属不純物を評価するためのエピタキシャルウェーハを作製した。
【0036】
(比較例)
比較例では、実施例の回復工程の代わりに、次の代替工程を実施した。具体的には、メンテナンス作業が終了した反応炉2内にガス供給管6から塩化水素ガスとともに、パージガス(水素)を供給して気相エッチングをした(エッチング工程)。その後、反応炉2内のサセプタ3の表面にガス供給管6からトリクロルシランを供給してサセプタ3の表面にポリシリコン層Pを堆積させた(堆積工程)。そして、エッチング工程→堆積工程の一連の工程(代替工程)を複数回、繰り返した。比較例では、実施例の回復工程を代替工程に代える以外は実施例と同じようにしてエピタキシャルウェーハを作製し、作製したウェーハの表面のモリブデン濃度を測定した。
【0037】
比較例1では代替工程を3回、比較例2では代替工程を5回、比較例3では代替工程を7回にし、各比較例において金属不純物を評価するためのエピタキシャルウェーハを作製した。
【0038】
図4は、金属不純物を評価するために実施例1〜3及び比較例1〜3で作製したエピタキシャルウェーハのモリブデン濃度の相対値(実施例3のモリブデン濃度を1とした場合の相対値)を示す。反応炉2内の清浄度を回復させる工程(実施例では「回復工程」、比較例では「代替工程」を意味する。)を繰り返した回数が少ない3回の場合は、実施例と比較例のモリブデン濃度に顕著な差が生じなかった。その一方で、反応炉2内の清浄度を回復させる工程を繰り返した回数が増えるにつれて、実施例のモリブデン濃度が比較例よりも大きく減少し、反応炉2内の清浄度が大きく回復した。
【0039】
また、実施例で反応炉2内の清浄度を回復させる工程に要した総時間の相対値(実施例3の総時間を1とした場合の相対値)は、実施例1で0.4、実施例2で約0.7、実施例3で1となった。その一方、比較例で回復させる工程に要した総時間の相対値(実施例3の総時間を1とした場合の相対値)は、比較例1で約0.8、比較例2で約1.4、比較例3で約2となった。実施例1〜3における回復させる工程(回復工程)を1回実施する平均時間を1とすると、比較例1〜3における回復させる工程(代替工程)を1回実施する平均時間は約2となった。回復させる工程を1回実施する実施例と比較例の平均時間の相対値が
図5に示される。実施例においては、反応炉2の清浄度を回復させる時間を比較例よりも短縮させることができた。
【0040】
図6には実施例1〜3の回復工程及び比較例1〜3の代替工程の1回の工程で使用した水素、トリクロルシラン、塩化水素の平均使用量の相対値(実施例の塩化水素ガスの平均使用量を1とした場合の相対値)が示される。実施例では、相対値が水素ガス:トリクロルシランガス:塩化水素ガス=約32.4:約2.5:1となったのに対し、比較例では、相対値が水素ガス:トリクロルシランガス:塩化水素ガス=約53.5:約7.2:約5.6となった。そのため、実施例においては、ガスの使用量を比較例よりも抑制した上で反応炉2内の清浄度を回復させることができた。
【0041】
以上のように反応炉2内の清浄度を回復させる工程を繰り返した回数が増えるにつれて、実施例では比較例よりも反応炉2内の清浄度が大きく回復した。そして、実施例では比較例よりも反応炉2内の清浄度を回復させる工程に要した総時間が短縮するため、シリコンエピタキシャルウェーハの生産性を高めることができる。更に、実施例では、反応炉2内の清浄度を回復させるのに使用する各種のガスの使用量が比較例より低減するため、比較例より低コストでエピタキシャルウェーハを製造することができる。
【0042】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその具体的な記載に限定されることなく、例示した構成等を技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせて実施することも可能であるし、またある要素、処理を周知の形態に置き換えて実施することもできる。
【符号の説明】
【0043】
1 気相成長装置 2 反応炉
2a ベースリング(ステンレス部材)3 サセプタ
4 支持部 6 ガス供給管
7 ガス排出管 8 ランプ
W シリコン単結晶基板