(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記引出開始位置設定ステップでは、前記所定位置は前記引出開始位置設定手段が前記基板表面に接触せず、前記引出開始位置設定手段と前記基板表面との間に前記CNTアレイの連続部を残す位置であり、
前記引出ステップでは、前記連続部を前記引出開始位置としてCNT構造体を引き出す請求項1に記載のCNT構造体の製造方法。
前記引出ステップは、前記引出開始位置設定手段を、前記CNTアレイのCNT供給源側から離れる方向に移動させてCNT構造体を引き出す請求項1または2に記載のCNT構造体の製造方法。
前記板状部材は、前記除去部側の前記CNT構造体に挿入される側の断面形状が端部に向かって徐々に細くなる先細りのテーパー状である請求項4に記載のCNT構造体の製造方法。
前記引出ステップでは、前記引出位置設定ステップにおいて前記引出開始位置設定手段が挿入された前記所定位置から、前記引出開始位置設定手段を移動させてCNT構造体を引き出す請求項1〜8のいずれか1項に記載のCNT構造体の製造方法。
基板表面に配列された複数のCNTを含むCNTアレイの一部からCNT構造体を引き出すことによりCNT構造体を製造する製造装置であって、前記CNTアレイから前記CNT構造体の引き出しを開始する引出開始位置設定手段と、前記引出開始位置設定手段の位置を制御する制御手段を備えており、
前記制御手段が、前記引出開始位置設定手段を前記CNTアレイの表面側から前記基板側に移動させて、所定位置で停止させることにより引出開始位置を設定し、前記引出開始位置設定手段を前記CNTアレイから除去される除去部側に移動させて、前記CNTアレイから前記CNT構造体を引き出すことを特徴とするCNT構造体の製造装置。
前記開始部設定手段は板状部材を有しており、前記制御手段は、前記所定位置において、前記板状部材を前記除去部側に傾斜可能である請求項10に記載のCNT構造体の製造装置。
前記引出開始位置設定手段は、前記除去部側の面と前記CNTアレイとの付着性が、前記CNT供給源側面と前記CNTアレイとの付着性よりも高い請求項10〜12のいずれか1項に記載のCNT構造体の製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、CNTアレイの端部は、内部と比較してCNTの均一性が低いことが多い。このため、特許文献1に記載されているCNT構造体の製造方法では、仮にCNTアレイ端部のCNTを十分に接着できたとしても、CNTアレイ端部の均一性の低さに起因して、均一なCNT構造体を引き出せないことがある。
そこで、本発明は、端部の均一性が低いCNTアレイを原料とする場合でも、ウェブやフィルム等のCNT構造体を容易かつ安定的に引き出して、均一性の高いCNT構造体を形成することができる製造方法および装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために提供される本発明は、次のとおりである。
[1]基板表面に配列された複数のCNTを含むCNTアレイの一部からCNT構造体を引き出すCNT構造体の製造方法であって、前記CNTアレイの表面側から前記基板側に引出開始位置設定手段を移動させて、所定位置で停止させて引出開始位置を設定する引出開始位置設定ステップと、CNTアレイから取り除かれる除去部を前記CNTアレイのCNT供給源側から離れる方向に移動させてCNT構造体を引き出す引出ステップと、を備えている、CNT構造体の製造方法。
[2]前記引出開始位置設定ステップでは、前記所定位置は前記引出開始位置設定手段が前記基板表面に接触せず、前記引出開始位置設定手段と前記基板表面との間に前記CNTアレイの連続部を残す位置であり、前記引出ステップでは、前記連続部を引出開始位置としてCNT構造体を引き出す[1]に記載のCNT構造体の製造方法。
[3]前記引出ステップは、前記引出開始位置設定手段を、前記CNTアレイのCNT供給源側から離れる方向に移動させてCNT構造体を引き出す[1]または[2]に記載のCNT構造体の製造方法。
[4]前記引出開始位置設定手段が板状部材を有する[2]または[3]に記載のCNT構造体の製造方法。
[5]前記板状部材は、前記CNT構造体に挿入される側の断面形状が端部に向かって徐々に細くなる先細りのテーパー状である[4]に記載のCNT構造体の製造方法。
[6]前記引出開始位置設定ステップと前記引出ステップとの間に、前記所定位置において前記板状部材を前記除去部側に傾ける傾斜ステップを備えている[4]または[5]に記載のCNT構造体の製造方法。
[7]前記板状部材は、前記除去部側にのみ斜面を備えている[5]または[6]に記載のCNT構造体の製造方法。
[8]前記引出開始位置設定手段が糸状部材を有する[1]〜[3]のいずれか一つに記載のCNT構造体の製造方法。
[9]前記引出ステップでは、前記引出位置設定ステップにおいて前記引出開始位置設定手段が挿入された前記所定位置から、前記引出開始位置設定手段を移動させてCNT構造体を引き出す[1]〜[8]のいずれか一つに記載のCNT構造体の製造方法。
【0007】
[10]基板表面に配列された複数のCNTを含むCNTアレイの一部からCNT構造体を引き出すことによりCNT構造体を製造する製造装置であって、前記CNTアレイから前記CNT構造体の引出を開始する引出開始位置設定手段と、前記引出開始位置設定手段の位置を制御する制御手段を備えており、前記制御手段が、前記引出開始位置設定手段を前記CNTアレイの表面側から前記基板側に移動させて、所定位置で停止させることにより引出開始位置を設定し、前記引出開始位置設定手段を前記CNTアレイから除去される除去部側に移動させて、前記CNTアレイから前記CNT構造体を引き出すことを特徴とするCNT構造体の製造装置。
[11]前記開始部設定手段は板状部材を有しており、前記制御手段は、前記所定位置において、前記板状部材を前記除去部側に傾斜可能である[10]に記載のCNT構造体の製造装置。
[12]前記引出開始位置設定手段は、糸状部材を有する[10]または[11]に記載のCNT構造体の製造装置。
[13]前記引出開始位置設定手段は、前記除去部側の面と前記CNTアレイとの付着性が、前記CNT供給源側面と前記CNTアレイとの付着性よりも高い[10]〜[12]のいずれか一つに記載のCNT構造体の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
CNTアレイの表面側から基板側に引出開始位置設定手段を移動させることにより、CNTアレイの端ではなく均一性の高い内側にCNT構造体の引出開始位置を設定することができる。したがって、CNTアレイの端部が不均一な場合でも、均一性の高いCNT構造体を容易かつ安定的に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[CNT構造体の製造方法]
基板表面に配列された複数のCNTを含むCNTアレイの一部からCNT構造体を引き出すCNT構造体の製造方法として、本発明を実施する形態について、以下、説明する。
【0011】
図1(a)〜(c)は、本実施形態のCNT構造体の製造方法を模式的に示している。
図1(a)はCNTアレイの表面側から引出開始位置設定手段の挿入を開始する段階(所定位置Xへ移動させる前)の斜視図であり、
図1(b)は引出開始位置設定手段をCNTアレイに挿入して、所定位置Xで停止させた段階の斜視図であり、
図1(c)はCNTアレイのCNT供給源側から離れる方向に引出開始位置設定手段を移動させた段階(所定位置Xから移動させた後)の斜視図である。
図1(a)〜
図1(c)を参酌しつつ、本実施形態のCNT構造体の製造方法における、引出開始位置設定ステップおよび引出ステップについて説明する。
【0012】
[引出開始位置設定ステップ]
引出開始位置設定ステップは、CNTアレイの表面側から基板側に引出開始位置設定手段を移動させて、所定位置で停止させることにより、CNTアレイに引出開始位置を設定する工程である。本実施形態において、「CNTアレイの表面」とは、CNTの先端により形成される面をいう。CNTの先端側をCNTアレイの「表面側」といい、基板のCNTアレイが成長する面を基板表面という。CNTが基板と接している側をCNTアレイの「基板側」または「基板表面側」という。
【0013】
図1(a)〜
図1(c)のうち、
図1(a)から
図1(b)までの工程が引出開始位置設定ステップに相当する。
図1(a)に示すように、CNTアレイ2の表面21側からCNTアレイ2内部に引出開始位置設定手段1を挿入して、
図1(b)に示すように、挿入した引出開始位置設定手段1を所定位置Xで停止させて、引出開始位置23を設定する。引出開始位置設定手段1が所定位置Xに挿入された状態においては、引出開始位置設定手段1と基板表面31との間には、CNT供給源2Aと除去部2Bとを接続する連続部2Cが形成される。
【0014】
図1(a)〜
図1(c)では、引出開始位置設定手段1を移動させて、CNTアレイ2内に挿入する例を示している。しかし、引出開始位置設定ステップは、引出開始位置設定手段1をCNTアレイ2内に挿入する場合のみではなく、引出開始位置設定手段1を移動させて、CNTアレイ2の端22を有する部分を表面21側から基板3方向に押しつぶす場合も含んでいる(
図8参照)。
【0015】
引出開始位置設定ステップにおいて引出開始位置設定手段1を所定位置Xまで挿入することにより、引出ステップによりCNTアレイ2が分割される引出開始位置23を規定できる。引出ステップにより、基板表面21上に残ってCNT供給源となるCNTアレイ2の一方をCNT供給源2Aといい、基板表面21から取り除かれるCNTアレイ2の他方を除去部2Bという。
図1(c)には、引出開始位置設定手段1とともに除去部2Bを所定位置Xから移動させて除去部2Bを取り除く例を示した。しかし、除去部2BをCNT供給源側から離れる方向に移動させる手段として、引出開始位置設定手段1とは別の部材を用いてもよい。例えば、引出開始位置設定手段1とともに除去部2Bを所定位置Xから移動せることなく、別の部材を用いて除去部2Bを取り除くこととしてもよい。
【0016】
CNTアレイの連続部2Cは、後の引出ステップでCNT構造体が最初に引き出される引出開始位置23となる。引出開始位置設定ステップにより、CNTアレイ2の端22ではなく、CNTアレイ2内に引出開始位置23を設定する。CNTの均一性が高い連続部2Cが引出開始位置23となるから、後の引出ステップによって引き出しを開始した最初の段階から均質なCNT構造体4を製造することが可能になる。
【0017】
[引出ステップ]
引出ステップは、CNTアレイの除去部をCNTアレイの除去部側(CNT供給源の反対側)に移動させてCNT構造体を引き出すステップであり、引出位置設定ステップにおいて引出開始位置設定手段により規定された除去部をCNTアレイから取り除いてCNT構造体を引き出す工程である。
【0018】
図1(a)〜
図1(c)のうち、
図1(b)から
図1(c)までの工程(引出開始位置設定手段を所定位置Xから移動させる工程)が引出ステップに相当する。
図1(b)に示すように、引出開始位置設定手段1を所定位置Xで停止させた後に、
図1(c)に示すように、除去部2B側の方向(CNT供給源2Aとは反対側の方向)に引出開始位置設定手段1を移動させる。引出開始位置設定手段1を移動させることにより、CNT供給源2AからCNT構造体4を連続的に引き出す。
【0019】
引出ステップにおいて、引出開始位置設定手段1を除去部2B側に移動させるとは、所定位置Xを基準として、CNT供給源2Aとは反対側に引出開始位置設定手段1を移動させることをいう。
【0020】
なお、
図1(c)には、引出開始位置設定手段1を基板3の基板表面31に対して斜め方向(図中では右下の方向)に移動させる形態を示したが、このように引出開始位置設定手段1を基板表面31と完全に平行な方向(基板表面31に対して0°の方向)に移動させることは必要でなく、基板表面31に対して斜め方向に引出開始位置設定手段1を移動させてもよい。引出開始位置設定手段1の移動方向は、基板表面31に対して0°〜70°の範囲とすることが好ましい。
【0021】
[板状部材]
図2は、
図1(b)のA−A矢視断面図であり、本発明の実施形態に係るCNT構造体の製造方法において用いられる引出開始位置設定手段の断面形状の一例について引出開始位置設定手段が所定位置Xで停止した段階を示している。同図に示すように、引出開始位置設定ステップにおける所定位置Xは、引出開始位置設定手段(板状部材)1が基板表面31に接触しない位置であり、引出開始位置設定手段1と基板表面31との間にCNTアレイ2の連続部2Cを形成する。このようにCNT供給源2Aと除去部2Bとの間に連続部2Cを形成することにより、引出開始位置設定手段1をCNT供給源2Aの反対側に移動させる引出ステップにおいて、連続部2Cを引出開始位置23としてCNT構造体4を引き出すことができる。
【0022】
CNTアレイ2の高さをHとし、CNTアレイ2の連続部2Cの高さをHcとすると、引出開始位置設定ステップにおいて、引出開始位置設定手段1を所定位置Xに挿入した状態における、連続部2Cの高さをHcが下記の式(1)を満たすことが好ましい。
0.1H≦H
C≦0.9H・・・(1)
【0023】
連続部2Cの高さH
Cを0.9H以下とすること、すなわちCNTアレイの表面21から引出開始位置設定手段1を挿入する距離を0.1H以上とすることより、引出開始位置設定ステップの後の引出ステップにおいて、除去部2Bを安定的に引出開始位置設定手段1とともに移動させることができる。
【0024】
連続部2Cの高さH
Cを0.1H以上とすること、すなわちCNTアレイの表面21から引出開始位置設定手段1を挿入する距離を0.9H以下とすることより、引出開始位置設定ステップの後の引出ステップによってCNTアレイ2が分割されることを防止して、安定的に引出開始位置23からCNT構造体4を引き出すことができる。
【0025】
基板表面31からのCNTアレイ2の高さHは限定されないが、例えば、0.2mm〜1.5mm程度とすれば、安定的に引出開始位置23とからCNT構造体4を引き出すことができる。
【0026】
図2に示すように、CNTアレイ2の端22は凹凸などが形成され不均一であることが多い。このため、端22を引出開始位置としてCNT構造体4(
図1(c)参照)を引き出すと、端22の凹凸に影響されて、均一なCNT構造体4を引き出すことが困難である。そこで、本実施形態の製造方法は、CNTアレイ2の表面21側から引出開始位置設定手段1を挿入することにより、端22から内側に入った均一性の高いCNTアレイ2の領域に連続部2Cを形成して、引出開始位置23とする。端22からどの程度離れた位置を連続部2Cとするかは、CNTアレイ2の端22の不均一性や、CNT構造体4に要求される均一性などに応じて、適宜設定することができる。
【0027】
図2では、引出開始位置設定手段1の基板3側が基板表面31と略平行な端面10を備えている断面矩形の板状部材を示す。同図に示すように、端面10を備える引出開始位置設定手段1を用いた場合、引出開始位置設定ステップにおいて引出開始位置設定手段1を挿入することにより(
図1(a)および
図1(b)参照)、端面10によりCNTアレイ2が押しつぶされて連続部2CのCNT密度が高くなる。したがって、引出開始位置設定手段1を所定位置で停止させた段階では、CNT供給源2Aと除去部Bとが密度の高い連続部Cにより接続されるから、安定的に連続部Cを引出開始位置23としてCNT構造体を引き出ことができる。
【0028】
図3は、断面形状が異なる引出開始位置設定手段の他の一例が所定位置Xで停止した段階を示す断面図である。同図に示す引出開始位置設定手段(板状部材)5の断面形状は、CNT構造体2に挿入される側に2つの傾斜面51を備え、基板表面31側端に向かって徐々に細くなり、端部50を備えた先細りのテーパー状である。CNT構造体2に挿入される側の断面形状を先細りのテーパー状とすることにより、CNTアレイ2の表面21側からの挿入を円滑にすることができる。したがって、引出開始位置設定手段5を挿入することによって、CNT構造体2のCNTの配列状態が乱されることを抑制できる。
【0029】
図4は、断面形状が異なる引出開始位置設定手段のさらに他の一例が所定位置Xで停止した段階を示す断面図である。同図に示す引出開始位置設定手段6の断面形状は、端部60を備えている点において、端部50を備えた引出開始位置設定手段5と同様であるが、一方側のみが傾斜面61である点において、両側とも傾斜面51である引出開始位置設定手段5とは異なっている。しかし、引出開始位置設定手段(板状部材)6がCNTアレイ2の表面21側からの挿入を円滑化する作用を奏するという点は、引出開始位置設定手段5と同じである。なお、
図4には、CNT供給源2Aとは反対側の除去部2B側のみに傾斜面61を形成した例を示したが、CNT供給源2A側のみを傾斜面61としてもよい。
【0030】
本実施形態において「先細りのテーパー状」とは、断面形状が端部に向かって徐々に細くなる先細り形状をいい、引出開始位置設定手段として厚みが同じ板状部材を用いた場合に、
図2の断面矩形とした構成と比較して、所定位置Xまで挿入される時の抵抗を軽減する作用を奏する形状をいう。
図3および
図4に示したように、両面が傾斜した両刃形状および一方の面のみが傾斜した片刃形状のいずれでもよい。傾斜は一定である必要は無く、連続的または不連続的に変化するものでもよい。例えば、
図5に示したように、端面70および傾斜面71の両方を備えている断面形状が台形である引出開始位置設定手段7も、先細りのテーパー状に含まれる。
【0031】
[傾斜ステップ]
本実施形態のCNT構造体の製造方法は、引出開始位置設定ステップと、引出ステップとの間に、所定位置において板状部材をCNT引出側のCNTアレイ側に傾ける傾斜ステップを備えていてもよい。
図6(a)および
図6(b)は、本発明の実施形態に係るCNT構造体の製造方法における傾斜ステップを模式的に示している。
図6(a)は引出開始位置設定手段を所定位置Xで停止させた段階の側面図であり、
図6(b)は引出開始位置設定手段の下端を所定位置Xに保持したままで、基板表面の法線Vを基準として引出開始位置設定手段を、除去部側に傾けた段階の側面図である。
【0032】
傾斜ステップは、
図6(a)に示すように、引出開始位置設定ステップで引出開始位置設定手段(板状部材)1をCNTアレイ2の所定位置Xに挿入した後、
図6(b)に示すように、引出開始位置設定手段1の下端を所定位置Xに保持したままで、CNTアレイ2のCNT供給源2Aとは反対側、すなわち除去部2B側に傾ける工程である。この傾斜ステップにより、引出開始位置設定手段1のCNT供給源2A側の側面1AをCNT供給源2Aから離れる方向に移動させて、引出開始位置設定手段1とCNT供給源2Aとの接触を弱めることができる。同時に、引出開始位置設定手段1の除去部2B側の側面1BをCNTアレイ2の除去部2B側に移動させて、引出開始位置設定手段1の除去部2Bとの接触を強めつつ、除去部2Bを押し固めて塊とする。これにより、引出ステップの開始時に、CNT供給源2Aと接している引出開始位置設定手段1の側面1Aが引出開始位置23となることを防ぎ、除去部2Bを塊状にして移動させることができる。したがって、連続部2Cを引出開始位置23として、CNT供給源2AからCNT構造体4をより安定的に引き出すことができる(
図1(a)〜
図1(c)参照)。
【0033】
所定位置Xから引出開始位置設定手段1を傾ける角度θ(基板表面31の法線Vと引出開始位置設定手段1の除去部2B側の側面1Bとにより形成される角度)を大きくすれば、引出ステップの前に、板状部材をCNTアレイ供給部との接触を弱めるとともに、引き出される側のCNTアレイの除去部2Bを引出開始位置設定手段で押し固めてブロック化し、より安定なCNTの塊を形成することができる。
【0034】
所定位置Xから引出開始位置設定手段1を傾ける角度θを小さくすれば、基板表面31と平行な方向に引出開始位置設定手段1を移動させる際、安定的に引出開始位置設定手段1に除去部2Bを引っかけて引出開始位置設定手段1と一緒に移動させることができるから、CNT構造体を容易に引き出すことが可能になる。
【0035】
所定位置Xから引出開始位置設定手段1を傾ける角度θは、CNTアレイの性質に応じて適宜調整すればよいが、除去部2BをCNTの塊とする観点から、45°以上89°以下の範囲とすることが好ましい。引出開始位置設定手段1を傾ける角度θを上記の範囲とすることにより、引出開始位置設定手段1により除去部2Bを塊の状態で引出開始位置設定手段1の側面1Bに接着させることができるから、CNT構造体を容易に引き出すことが可能になる。
【0036】
図6(a)および
図6(b)では、引出開始位置設定手段1を所定位置Xに挿入した後の傾斜ステップにより、除去部2Bを押し固めて塊とする形態を説明した。以下では、
図7および
図8を参照して、引出開始位置設定手段6を表面21側から基板表面31側に移動させる引出位置設定ステップと同時に、除去部2Bを押し固めて塊とする形態を説明する。
【0037】
図7は所定位置(引出開始位置)Xに移動した引出開始位置設定手段6の除去部2B側の側面6BがCNTアレイ2の端22の内側にある場合を示す側面図であり、
図8は、所定位置Xに移動した引出開始位置設定手段6の除去部2B側の側面6BがCNTアレイ2の端22よりも外側にある場合を示す側面図である。
【0038】
図7および
図8に示すように、引出位置設定ステップにおいて、引出開始位置設定手段6がCNTアレイ2の表面21から所定位置Xに移動すると同時に、斜面61によって、除去部2BのCNTを押し固めて塊とすることができる。したがって、引出開始位置設定手段6を用いることにより、引出位置設定ステップが上述した傾斜ステップと同様の作用を奏することができる。
【0039】
傾斜面61によりCNTを押し固めて塊とする観点から、基板表面31の法線Vと引出開始位置設定手段6の除去部2B側の傾斜面61との角度θは、45°以上89°以下の範囲であることが好ましい。
【0040】
CNT供給源2A側のCNTは、引出ステップにおいてCNT構造体の原料となることから、引出位置設定ステップにおいて押し固められないようにすることが均一なCNT原料体を形成するために好ましい。この観点から、引出位置設定ステップでは、引出開始位置設定手段6のCNT供給源2A側の側面6Aには傾斜面61が設けられていない引出開始位置設定手段6を、側面6Aが上記法線Vと平行となるように、移動させることが好ましい。
【0041】
図7および
図8に示したように、除去部2B側の側面6Bにのみ傾斜面61が形成された引出開始位置設定手段6を用いれば、引出位置設定ステップによって、CNT供給源2A側のCNTは押し固めることなく、除去部2Bを塊として取り除きやすくしながら引出開始位置23を設定することができる。したがって、引出ステップにより、引出開始位置23から均質なCNT構造体4を容易かつ安定的に引き出すことができる(
図1(a)〜
図1(c)参照)。
【0042】
引出開始位置設定手段として、引出開始位置設定手段1、5、6、7および後述されている8(
図9〜
図10参照)のいずれを用いるかは、原料として用いるCNTアレイや形成するCNT構造体の性質等に応じて、適宜選択すればよい。
【0043】
[糸状部材]
図9(a)〜
図9(c)は、本発明の実施形態に係る製造方法において、糸状部材を有する引出開始位置設定手段を用いた場合を模式的に示している。
図9(a)はCNTアレイの表面側から引出開始位置設定手段の挿入を開始する段階(所定位置Xへ移動させる前)の斜視図であり、
図9(b)は引出開始位置設定手段を所定位置Xで停止させた段階の斜視図であり、
図9(c)引出開始位置設定手段をCNTアレイのCNT供給源側から離れる方向に移動させてCNT構造体を引き出した段階(所定位置Xから移動させた後)の斜視図である。同図に示すCNT構造体の製造方法は、引出開始位置設定手段が板状部材ではなく、糸状部材81を有している引出開始位置設定手段8を用いる点において、
図1(a)〜
図1(c)に示した製造方法と異なっている。
【0044】
図10は、本発明の実施形態に係る製造方法における糸状部材を備えている引出開始位置設定手段の断面形状の一例を示す、所定位置Xに移動した段階における
図9(b)のB−B矢視断面図である。本実施形態において「糸状部材」とは、細長く連続した形状の部材をいい、
図10に示すように、CNTアレイ2の高さHよりも、糸状部材の直径Lが小さいことをいう。換言すれば、所定位置Xに挿入された状態(
図9(b)参照)において、CNTアレイ2の表面21の外側に位置する部分が有しないことをいう。
【0045】
細長く連続した方向に対して垂直に切断した糸状部材81の断面形状としては、例えば、円形、楕円形、矩形、多角形などが挙げられる。また、糸状部材81には細長いリボン状のものも含まれる。これら例示した断面形状では、CNTアレイ2に挿入する際にどの側面から挿入しても同じ条件となるという点において、断面円形の糸状部材8が好ましい。
【0046】
[CNT構造体の製造装置]
CNT構造体の製造装置として本発明を実施する形態について、以下に説明する。
図11は、本発明の実施形態に係るCNT構造体の製造装置のブロック図である。本実施形態のCNT構造体の製造装置100は、基板表面に配列された複数のCNTを含むCNTアレイの一部からCNT構造体を引き出すことによりCNT構造体を製造する製造装置であって、引出開始位置設定手段101と、引出開始位置設定手段101の位置を制御する制御手段102とを備えている。
【0047】
引出開始位置設定手段101は、CNTアレイ2からCNT構造体4の引き出しを開始するための手段であり、上述した引出開始位置設定手段1、5〜8などを用いることができる(
図1〜10参照)。
【0048】
制御手段102は、引出開始位置設定手段101をCNTアレイ2の表面側から基板3側に移動させて、所定位置Xで停止させて引出開始位置を設定し、引出開始位置設定手段101をCNTアレイ2から除去される除去部2B側に移動させて、CNTアレイ2からCNT構造体4を引き出す。例えば、引出開始位置設定手段101の位置をレールで規定して移動させる構成や、引出開始位置設定手段101の位置をロボットアームで移動させる構成や、除去部2Bをつまんで移動させる構成などが挙げられる。引出開始位置設定手段101の位置制御は、コンピュータなどを用いて行うことができる。
【0049】
板状部材を有する引出開始位置設定手段を用いる場合、制御手段は、所定位置において、板状部材を除去部側に傾斜可能な構成とすることが好ましい。板状部材の基板側の端部を同じ位置に維持したまま、反対側の端部を除去部側に移動させることにより、板状部材を除去部側に傾斜させることができる。この構成により、安定的に連続部2Cを引出開始位置23としてCNT構造を引き出すことができる(
図6(a)、
図6(b)参照)。
【0050】
糸状部材81を有する引出位置設定手段8を用いることにより、引出位置設定手段8とCNTアレイ2との接触を弱めることができるから、引出位置設定手段8に接するCNT供給源2Aが引出開始位置となる可能性を低下させて、連続部2Cを引出開始位置23とすることができる(
図9(a)〜
図9(c)、
図10参照)。
【0051】
引出開始位置設定手段とCNTアレイとの付着性は、CNT供給源側面よりも、除去部側面が高いことが好ましい。除去部側の側面のCNTアレイに対する付着性を高くすることにより、引出開始位置設定手段とCNTアレイ供給部との接触を弱めるとともに、引出開始位置設定手段とCNTアレイの除去部との接触を強めることができる。したがって、CNT構造体が引き出される際に、引出開始位置設定手段のCNTアレイ供給部側面が引出開始位置となる可能性を低下させて、CNTアレイの所定位置と基板表面との間の連続部を引出開始位置として均一なCNT構造体を引き出すことができる。
【0052】
CNTアレイに対する「付着性」とは、CNTアレイの付着しやすさの程度をいう。例えば、引出開始位置設定手段の側面に接着剤や粘着剤を塗布することにより、CNTアレイを付着しやすくすることができる。接着剤や粘着剤の種類は特定されず、一般に用いられている天然系や合成系の接着剤や粘着剤を用いることができる
【0053】
「CNT供給源側面」とは、引出開始位置設定手段のCNT供給源に接する側面をいう(
図6、
図10参照)。引出開始位置設定手段が、
図6に示す板状部材1を有する場合、CNT供給源2Aと接する側面1AがCNT供給源側面である。
図10に示す糸状部材8を有する場合、同図に示す糸状部材81の断面の中心線Yを基準としてCNT供給源2A側の側面81AがCNT供給源側面である。
【0054】
「除去部側面」とは、引出開始位置設定手段の除去部に接する側面をいう(
図6、
図10参照)。引出開始位置設定手段が、
図6に示す板状部材1を有する場合、除去部2Bと接する側面1Bが除去部側面である。
図10に示す糸状部材81を有する場合、同図に示す糸状部材81の断面の中心線Yを基準として、除去部2B側の側面81Bが除去部側面である。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
図12は、引出開始位置設定手段として板状部材を用いて、CNTアレイからCNT構造体を引き出した実施例の結果を示す図面代用写真である。同図に示すように、板状部材を有する引出開始位置設定手段を用いた本発明のCNT構造体の製造方法によって、均一なCNT構造体を引き出すことができた。
[実施例2]
図13は、引出開始位置設定手段として糸状部材を用いて、CNTアレイからCNT構造体を引き出した実施例の結果を示す図面代用写真である。同図に示すように、糸状部材を有する引出開始位置設定手段を用いた本発明のCNT構造体の製造方法によって、均一なCNT構造体を引き出すことができた。