(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6476245
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】炭素ナノ構造体成長用のCVD装置及び炭素ナノ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/458 20060101AFI20190218BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20190218BHJP
C23C 16/54 20060101ALI20190218BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20190218BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20190218BHJP
【FI】
C23C16/458
C23C16/26
C23C16/54
C01B32/15
B82Y40/00
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-152995(P2017-152995)
(22)【出願日】2017年8月8日
(65)【公開番号】特開2019-31706(P2019-31706A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2018年8月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中野 美尚
(72)【発明者】
【氏名】野末 竜弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】塚原 尚希
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕彦
【審査官】
▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/128349(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0009693(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0143019(US,A1)
【文献】
特開2016−169422(JP,A)
【文献】
特開2016−172611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00 − 16/56
C01B 32/15
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理炉と、処理炉内を通過するように処理対象物を搬送する搬送手段と、処理炉内に炭素含有の原料ガスを導入するガス導入手段と、原料ガスを加熱する加熱手段とを備え、処理室内を通過する処理対象物の表面に炭素ナノ構造体を成長させる炭素ナノ構造体成長用CVD装置であって、
搬送手段は、処理対象物が載置されて所定速度で走行される帯状体を有し、この帯状体に、処理対象物の載置面側への炭素ナノ構造体の成長を許容する複数の開口が形成されるものにおいて、
帯状体と処理対象物との間にメッシュ体を介在させ、
前記メッシュ体が、前記帯状体を構成する線材より小さい外径を持つ線材を組み付けて帯状に形成したものであり、
前記メッシュ体の開口率が、50〜99.8%の範囲に設定されることを特徴とする炭素ナノ構造体成長用のCVD装置。
【請求項2】
請求項1記載の炭素ナノ構造体成長用のCVD装置であって、前記帯状体がメッシュベルトで構成されるものにおいて、
前記メッシュ体が、前記メッシュベルトの走行に伴って走行されることを特徴とする炭素ナノ構造体成長用のCVD装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の炭素ナノ構造体成長用のCVD装置を用いた炭素ナノ構造体の製造方法であって、
帯状体とメッシュ体とを重ねた後、メッシュ体に処理対象物を載置する準備工程と、
処理炉内で帯状体とメッシュ体とを走行させ、処理炉内を通過する間に、加熱された原料ガスを処理対象物表面に接触させてこの処理対象物表面に炭素ナノ構造体を成長させる成長工程とを含み、
前記成長工程にて、処理対象物の載置面側に成長する炭素ナノ構造体がメッシュ体を構成する各線材に夫々接触する第1段階と、各線材に接触した炭素ナノ構造体が更に成長して、これら成長した炭素ナノ構造体により処理対象物を担持させる第2段階を経て炭素ナノ構造体を成長させることを特徴とする炭素ナノ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブやグラフェン等の炭素ナノ構造体を成長させるための炭素ナノ構造体成長用のCVD装置及び炭素ナノ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の炭素ナノ構造体成長用のCVD装置は例えば特許文献1で知られている。このものは、処理炉と、処理炉内を通過するように処理対象物を搬送する搬送手段と、処理炉内に炭素含有の原料ガスを導入するガス導入手段と、原料ガスを加熱する加熱手段とを備える。搬送手段は、間隔を置いて配置される複数のローラとこれらのローラの周囲に巻き掛けられる無端状のメッシュベルト(帯状体)を備え、ローラを回転駆動することで、上側に位置するメッシュベルトの部分に載置される処理対象物が処理炉内を通過するように搬送される。そして、処理炉内を通過する間に、加熱された原料ガスを処理対象物表面に接触させることで、処理対象物の載置面側を含む処理対象物表面に炭素ナノ構造体が成長されるようになっている。
【0003】
ここで、上記特許文献1のような搬送手段では、メッシュベルトに常時所定の張力が付与されているため、耐久性よく安定して処理対象物を搬送するには、メッシュベルトを構成する線材として比較的外径(線径)が大きいものを用いたり、または、使用する線材を増加させて開口率を小さくしたりして機械的強度を持たせる必要が生じる。このような場合、処理対象物の載置面側のうち各線材に対向する部分に炭素ナノ構造体が成長しない(所謂ベルト痕の発生する)ことが判明した。これは、例えば、線径が大きいと、処理対象物の載置面側における線材の投影面まで原料ガスが行き届かないことに起因しているものと考えられる。その結果、電池の電極材料として基板の両面にカーボンナノチューブを成長させるような用途には利用できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4581146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、処理対象物表面全体に亘って炭素ナノ構造体を成長させることができる炭素ナノ構造体成長用のCVD装置及び炭素ナノ構造体の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、処理炉と、処理炉内を通過するように処理対象物を搬送する搬送手段と、処理炉内に炭素含有の原料ガスを導入するガス導入手段と、原料ガスを加熱する加熱手段とを備え、処理室内を通過する処理対象物の表面に炭素ナノ構造体を成長させる本発明の炭素ナノ構造体成長用CVD装置は、搬送手段が、処理対象物が載置されて所定速度で走行される帯状体を有し、この帯状体に、処理対象物の載置面側への炭素ナノ構造体の成長を許容する複数の開口が形成され、帯状体と処理対象物との間にメッシュ体を介在させることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、帯状体と処理対象物との間に介在させるメッシュ体は、常時所定の張力が付与されるものではないので、機械的強度を考慮する必要がない。このため、例えば、メッシュ体を構成する線材の線径を可及的に小さくしたり、メッシュ体の開口率を可及的に大きくしたりすることで、処理対象物の載置面側の全面に亘って、加熱された原料ガスが行き届くようにすることができる。その結果、処理対象物表面全体に亘って炭素ナノ構造体を成長させることができる。
【0008】
ところで、処理対象物の載置面側の全面に亘って加熱された原料ガスが行き届くようにするために、治具を用いて帯状体から処理対象物を浮かせることが考えられるが、処理対象物に治具を取り付ける手間や時間が掛かり、これでは、生産性が低下する。本発明においては、前記帯状体をメッシュベルトで構成し、前記メッシュ体を、前記メッシュベルトを構成する線材より小さい外径を持つ線材を組み付けて帯状に形成し、前記メッシュベルトの走行に伴って走行されるようにすることが好ましい。これによれば、治具の取り付けが不要となるため、生産性が低下しない。
【0009】
また、本発明においては、前記メッシュ体の開口率が、50〜99.8%の範囲に設定されることが好ましい。開口率が50%未満では、原料ガスが十分に供給されずに炭素ナノ構造体の成長が悪くなったりメッシュ体の形状の痕がついたりする場合がある一方で、開口率が99.8%を超えるとメッシュ体の機械的強度が低下する場合がある。
【0010】
また、本発明においては、前記メッシュ体をシート状のものとし、前記メッシュ体を巻回した状態で保持し、前記メッシュ体を繰り出す繰出ローラと、繰出ローラから繰り出された前記メッシュ体を巻き取る巻取ローラとを備える場合、前記搬送手段は、これら繰出ローラと巻取ローラとの間に配置され、前記メッシュベルトが巻き掛けられる複数のローラと、これら複数のローラのうちの駆動用ローラを回転駆動する駆動部とで構成してもよい。この場合、メッシュベルトにメッシュ体を重ねておけば、駆動用ローラを回転駆動してメッシュベルトを所定速度で走行させると、この走行するメッシュベルトの走行に伴いメッシュ体を走行させることができる。これにより、繰出ローラと巻取ローラと回転駆動する駆動部を設ける必要がなく、CVD装置の低コスト化を図ることができる。
【0011】
また、上記炭素ナノ構造体成長用のCVD装置を用いた本発明の炭素ナノ構造体の製造方法は、帯状体とメッシュ体とを重ねた後、メッシュ体に処理対象物を載置する準備工程と、処理炉内で帯状体とメッシュ体とを走行させ、処理炉内を通過する間に、加熱された原料ガスを処理対象物表面に接触させてこの処理対象物表面に炭素ナノ構造体を成長させる成長工程とを含み、前記成長工程にて、処理対象物の載置面側に成長する炭素ナノ構造体がメッシュ体を構成する各線材に夫々接触する第1段階と、各線材に接触した炭素ナノ構造体が更に成長させて、これら成長した炭素ナノ構造体により処理対象物を担持させる第2段階を経て炭素ナノ構造体が成長することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第2段階にて、炭素ナノ構造体で担持される処理対象物とメッシュ体との間に隙間が形成され、この隙間を通じて処理対象物の載置面側の全面に亘って、加熱された原料ガスを行き届くようにすることができる。これにより、処理対象物の載置面側の全面に亘って炭素ナノ構造体を成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態のCVD装置を示す模式的断面図。
【
図2】(a)〜(c)は、本発明の実施形態の炭素ナノ構造体の製造方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、処理対象物を表面に触媒(図示省略)が形成された金属箔Fmとし、処理炉1内を通過する金属箔Fmの表面にカーボンナノチューブCtを成長させる場合を例に、本発明のCVD装置の実施形態について説明する。
【0015】
図1を参照して、Mは、本発明の実施形態のCVD装置である。CVD装置Mは、金属箔Fmにカーボンナノチューブを成長させる円筒状の処理炉1を備える。以下において、処理炉1内で金属箔Fmが搬送される方向をX軸方向(
図1中の左右方向)右側、金属箔Fmの幅方向をY軸方向(
図1の紙面に直交する方向)、これらX軸方向及びY軸方向を含む平面に対して直交する方向をZ軸方向(
図1中の上下方向)として説明する。
【0016】
処理炉1のX軸方向両側には、上流側の補助室2と、下流側の補助室3とが夫々連設されている。処理炉1内には、図示省略のガス源に連通する、マスフローコントローラ11が介設されたガス管12の先端が配置され、炭素含有の原料ガスを処理炉1内に所定流量で導入できるようになっている。この場合、マスフローコントローラ11やガス管12が特許請求の範囲のガス導入手段を構成する。
【0017】
処理炉1の外側には加熱手段13が設けられ、処理炉1内に導入された原料ガスを加熱し、これにより、加熱した原料ガスを金属箔Fmの表面に供給できるようになっている。加熱手段13としては、ランプや電熱線等の公知のものを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。加熱手段13の外側には、上下の断熱材14a,14bが設けられている。
【0018】
上記CVD装置Mは、処理炉1内を通過するように金属箔Fmを搬送する搬送手段15を備える。搬送手段15は、帯状体としての無端状のメッシュベルトVmと、このメッシュベルトVmが巻き掛けられる、間隔を置いて配置される複数(本実施形態では4個)のローラ15a,15b,15c,15dとを有する。ローラ15aにはモータDMの回転軸(図示省略)が連結されており、モータDMによりローラ15aが回転駆動されると、所定速度でメッシュベルトVmが走行されるようになっている。メッシュベルトVmには、所定の張力(例えば、20〜80N)が付与されているため、メッシュベルトVmを構成する線材W1として外径(線径)d1が比較的大きいものを組み付けることで機械的強度を持たせている。また、メッシュベルトVmには、金属箔Fmの載置面Fm1側へのカーボンナノチューブCtの成長を許容する複数の開口が形成されている。
【0019】
上流側の補助室2には、金属箔Fmを巻回した状態で保持し、金属箔Fmを繰り出す繰出ローラ21と、帯状のメッシュ体Bmを巻回した状態で保持し、繰出ローラ21の下流側でメッシュ体Bmを繰り出す繰出ローラ22とが設けられている。メッシュ体Bmとしては、メッシュベルトVmを構成する線材W1より小さい外径を持つ線材W2を組み付けて形成したもの(例えば、メッシュベルト)が用いられる。メッシュ体Bmの線材W2の外径d2は、0.01〜0.1mmの範囲に設定されることが好ましい。外径d2が0.01mm未満では、温度が上昇することで線材W2が伸びてメッシュベルトVm側へ垂れ下がってしまい、メッシュ体Bmを使用する効果が小さくなる場合がある一方で、外径d2が0.1mmを超えると、線材W2から金属箔Fmを十分に浮かせることができずにメッシュ体Bmの形状の痕がついてしまう場合がある。また、メッシュ体Bmの開口率は、50〜99.8%の範囲に設定されることが好ましい。開口率が50%未満では、原料ガスが十分に供給されずに炭素ナノ構造体の成長が悪くなったりメッシュ体の形状の痕がついたりする場合がある一方で、開口率が99.8%を超えるとメッシュ体Bmの機械的強度が低下する場合がある。
【0020】
下流側の補助室3には、処理炉1を通過してカーボンナノチューブCt成長済みの金属箔Fmを巻き取って回収する巻取ローラ31と、巻取ローラ31の上流側でメッシュ体Bmを巻き取って回収する巻取ローラ32とが設けられている。ここで、カーボンナノチューブCt付きの金属箔Fmとメッシュ体Bmとを重ねた状態で一旦巻き取ることも考えられるが、カーボンナノチューブCtにメッシュ体Bmが圧接されるとメッシュ体Bmの痕が付いてしまうため、メッシュ体Bmと金属箔Fmとを分離して夫々巻き取って回収することが好ましい。
【0021】
このように搬送手段15を構成することで、モータDMによりローラ15aを回転駆動すると、メッシュベルトVmが所定速度で走行する。走行するメッシュベルトVmにはメッシュ体Bmが重ねられ、メッシュ体Bmに金属箔Fmが載置される。このため、メッシュベルトVmの走行に伴って繰り出されたメッシュ体Bmが走行され、さらにメッシュ体Bmの走行に伴って繰り出された金属箔Fmが処理炉1内を通過するように所定速度(例えば、0.01〜1.0m/min)で搬送される。処理炉1内を通過する金属箔Fmの表面に、加熱手段13によって加熱された原料ガスが供給されることで、当該表面からカーボンナノチューブCtが成長する。
【0022】
上記CVD装置Mは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた公知の制御手段を有し、制御手段により上記マスフローコントローラ11の作動、加熱手段13の作動や、モータDMの作動等を統括管理するようになっている。
【0023】
次に、
図2も参照して、上記CVD装置Mを用いて、処理対象物を金属箔Fmの表面に触媒膜が成膜されたものとし、金属箔Fmの表面にカーボンナノチューブCtを成長させる場合を例に、炭素ナノ構造体の製造方法の実施形態について説明する。金属箔FmとしてはNi箔を用いることができ、触媒膜としてはFe膜を用いることができる。
【0024】
先ず、ローラ15a,15b,15c,15dの周囲に帯状体であるメッシュベルトVmを巻き掛けることで、メッシュベルトVmをセットし、繰出ローラ21に金属箔Fmをセットし、繰出ローラ22にメッシュ体Bmをセットする。これにより、メッシュベルトVmにメッシュ体Bmが重ねられ、メッシュ体Bmに金属箔Fmが載置される(準備工程)。
【0025】
ここで、帯状体は、開口を有してメッシュ体Bmを支持できるものであればよいため、上記メッシュベルトVmのようなメッシュ形状のものに限定されず、例えば、ラダーチェーンまたはラダーワイヤ(ローラチェーン)のような形状や、細トレイを連結させた無限軌道の履帯形状のものを用いることができる。即ち、後述の原料ガスを供給し得る開口率を確保することができ、メッシュ体Bm上に載置される処理対象物(金属箔Fm)の表面におけるカーボンナノチューブCtの成長を阻害しなければ、帯状体の形状は問わない。
【0026】
次いで、モータDMによりローラ15aを回転駆動することにより、所定速度でメッシュベルトVmが走行する。走行するメッシュベルトVmにはメッシュ体Bmが重ねられているため、上流側の補助室2に設けられた繰出ローラ22からメッシュ体Bmが繰り出され、繰り出されたメッシュ体BmはメッシュベルトVmと共に処理炉1内をX軸方向右側に走行した後、下流側の補助室3に設けられた巻取ローラ32によって巻き取られる。さらに、メッシュ体Bmには金属箔Fmが載置されているため、補助室2に設けられた繰出ローラ21から金属箔Fmが繰り出され、繰り出された金属箔Fmはメッシュ体Bmと共に処理炉1内をX軸方向右側に走行し、処理室1内を通過した後、下流側の補助室3に設けられた巻取ローラ31によって巻き取られる。処理炉1内を金属箔Fmが通過する時間は、金属箔Fm表面から成長させるカーボンナノチューブCtの長さ(例えば、125μm)に応じて適宜設定することができる。
【0027】
このように金属箔Fmが処理炉1内を通過する間、マスフローコントローラ11を制御して処理炉1内に炭素含有の原料ガスを所定流量(例えば、100〜2000sccm)で導入する(このとき、処理炉1内の圧力は1kPa〜大気圧)。炭素含有の原料ガスとしては、エチレンガス、アセチレンガス及びメタンガス等の炭化水素や、エタノール等のアルコールを用いることができる。このような原料ガスと共に希釈ガスを処理炉1内に導入してもよく、希釈ガスとしては、水素ガス、窒素ガスや、アルゴン等の希ガスを用いることができる。この状態で加熱手段13を作動させて原料ガスを所定温度に加熱すると、加熱した原料ガスが金属箔Fmの表面に供給され、金属箔Fmの表面からカーボンナノチューブが成長する(成長工程)。加熱温度は、原料ガスの種類に応じて、400〜1050℃の範囲で適宜設定することができる。例えば、エチレンガスを用いる場合には750℃、アセチレンガスを用いる場合には720℃、メタンガスを用いる場合には800℃に夫々設定することができる。
【0028】
本実施形態によれば、メッシュベルトVmと金属箔Fmとの間に介在させるメッシュ体Bmは、常時所定の張力が付与されるものではないので、機械的強度を考慮する必要がない。このため、例えば、メッシュ体Bmを構成する線材W2の線径d2を可及的に小さくすることで、金属箔Fmの載置面Fm1側の全面に亘って、加熱された原料ガスが行き届くようにすることができる。その結果、金属箔Fm表面全体に亘ってカーボンナノチューブCtを成長させることができる。
【0029】
上記成長工程においては、金属箔Fmの載置面Fm1側に成長するカーボンナノチューブCtがメッシュ体Bmを構成する各線材W2に夫々接触する第1段階(
図2(a)参照)と、各線材W2に接触したカーボンナノチューブCtが更に成長して、これら成長したカーボンナノチューブCtにより金属箔Fmを担持させる第2段階を経てカーボンナノチューブCtが成長される。第2段階でカーボンナノチューブCtにより金属箔Fmが担持されると、メッシュ体Bmと金属箔Fmとの間に隙間Sが形成され、この隙間Sを介して金属箔Fmの載置面Fm1側における線材W2の投影面まで確実に加熱された原料ガスを行き届かせることができる。これにより、金属箔の載置面側の全面に亘ってカーボンナノチューブCtを成長させることができる。
【0030】
ところで、金属箔Fmの載置面Fm1側の全面に亘って加熱された原料ガスが行き届くようにするために、つまり、上記隙間Sを形成するために、治具を用いて金属箔Fmを浮かせることが考えられるが、金属箔Fmに治具を取り付ける手間や時間が掛かり、これでは、生産性が低下する。本実施形態においては、帯状体をメッシュベルトVmで構成し、メッシュ体Bmを、メッシュベルトVmを構成する線材W1より小さい外径d2を持つ線材W2を組み付けて帯状に形成し、メッシュベルトVmの走行に伴って走行されるようにすればよく、治具の取り付けが不要となるため、生産性が低下しない。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変形が可能である。上記実施形態では、処理対象物として金属箔Fmを用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、他の基材を用いることができる。
【0032】
上記実施形態では、処理炉1内に導入された原料ガスを加熱手段13により加熱する場合を例に説明したが、加熱した原料ガスを処理対象物表面に供給できればよく、例えば、処理炉1外で加熱した原料ガスを処理炉1内に導入するようにしてもよい。
【0033】
上記実施形態では、カーボンナノチューブCtを成長させる場合を例に説明したが、グラフェンのような他の炭素ナノ構造体を成長させる場合にも本発明を適用することができる。
【0034】
上記実施形態では、処理対象物をシート状の金属箔Fmとし、メッシュ体Bmをシート状に形成する場合を例に説明したが、メッシュ体Bmの形状はこれに限定されず、例えば処理対象物が矩形の基材である場合、メッシュ体Bmもその基材の輪郭に対応する輪郭を持つ矩形状に形成してもよい。この場合、走行するメッシュベルトVm上に、基材を支持したメッシュ体Bmを載置することで、処理室1内を基材を通過させることができる。
【0035】
また、繰出ローラ21,22及び巻取ローラ31,32を駆動する他のモータを更に設けてもよい。但し、上記実施形態の如く、メッシュベルトVmを所定速度で走行させると、この走行するメッシュベルトVmの走行に伴いメッシュ体Bmが走行し、さらに金属箔Fmが走行するように構成すれば、他のモータを設ける必要がなく、CVD装置の低コスト化を図ることができる。
【0036】
上記実施形態では、メッシュ体Bmの線材W2の断面が真円である場合を例に説明したが、線材W2の断面はこれに限らず、楕円、三角形、菱形の断面を持つ線材を用いることができるが、金属箔Fmの載置面Fm1と線接触する断面を持つ線材W2を用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0037】
Bm…メッシュ体、Fm…金属箔(処理対象物)、Fm1…載置面、M…炭素ナノ構造体成長用のCVD装置、Vm…メッシュベルト(帯状体)、W1…メッシュベルトVmを構成する線材、W2…メッシュ体Bmの線材、1…処理炉、11…マスフローコントローラ(ガス導入手段)、12…ガス管(ガス導入手段)、13…加熱手段。