(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。
【0016】
図1(a)は、本実施形態に係る真空処理装置を示す概略断面図である。
図1(b)は、本実施形態にかかるシャワープレートの一部を示す概略断面図である。
【0017】
本実施形態に係る真空処理装置1は、真空槽10と、支持部11と、蓋部12と、シャワーヘッド20と、支持台30と、ガス供給源40と、電力供給手段50、55とを具備する。真空処理装置1は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって基板80に膜を形成する成膜手段と、ドライエッチングによって基板80に形成された膜を除去するエッチング手段とを兼ね備える。
【0018】
真空処理装置1において、放電プラズマは容量結合方式によって、例えば、シャワーヘッド20と支持台30との間に形成される。この放電プラズマは、例えば、グロー放電によって形成される。本実施形態において、シャワーヘッド20と支持台30との間の空間をプラズマ形成空間10pとする。真空処理装置1がプラズマCVD装置として機能する場合、例えば、シャワーヘッド20は、陰極として機能し、支持台30は、陽極として機能する。また、真空処理装置1がRIE(Reactive Ion Etching)等のエッチング装置として機能する場合、例えば、シャワーヘッド20は、陽極として機能し、支持台30は、陰極として機能する。
【0019】
真空槽10は、支持台30を囲む。蓋部12は、真空槽10に対向する。支持部11は、蓋部12に付設されている。真空槽10には、ガス排気口10hを介して、例えば、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプ(不図示)が接続されている。これにより、シャワーヘッド20と支持台30との間が減圧状態に維持され得る。例えば、
図1(a)の例では、シャワーヘッド20と、真空槽10と、支持部11で囲まれた空間が真空ポンプにより減圧状態に維持される。蓋部12と、シャワーヘッド20と、支持部11とで囲まれた空間は、大気であってもよく、減圧状態であってもよい。蓋部12は、シャワーヘッド20に投入される高周波をシールドするシールドボックスとして機能する。蓋部12と、シャワーヘッド20と、支持部11とで囲まれた空間が減圧状態を維持する場合、真空槽10と蓋部12とを併せて真空容器とみなすことができる。この場合、真空容器内の少なくとも一部の空間が減圧状態に維持できる。また、真空槽10には、真空槽10内の圧力を計測する圧力計(不図示)が設置されている。
【0020】
シャワーヘッド20は、ヘッド本体21と、シャワープレート22と、絶縁部材27とを有する。シャワーヘッド20は、絶縁部材27を介して真空槽10の支持部11により支持される。これにより、シャワーヘッド20が真空槽10から絶縁される。また、シャワーヘッド20は、真空処理装置1から取り外すことができる。
【0021】
ヘッド本体21は、内部空間28を有する。内部空間28には、ヘッド本体21の内部に設けられたガス導入管42を経由して、放電ガスが導入される。ガス導入管42のガス導入口は、例えば、内部空間28の中心に位置する。これにより、内部空間28に均等に放電ガスが供給される。ガス導入口は、1つに限らず、複数設けてもよい。
【0022】
シャワープレート22は、ヘッド本体21に密着するように接合されている。シャワープレート22は、プレート基材22bと、複数のガス噴出口23と、ガス噴出面22sと、複数の孔部25とを有する。複数のガス噴出口23のそれぞれは、プレート基材22bを貫通する。複数のガス噴出口23のそれぞれは、内部空間28に連通する。
【0023】
シャワープレート22において、内部空間28とは反対側のプレート基材22bの面がガス噴出面22sになっている。放電ガスは、内部空間28から複数のガス噴出口23を経由してガス噴出面22sから噴出される。
【0024】
本実施形態において、シャワープレート22には、複数のガス噴出口23のほかに、複数の孔部25が設けられている。複数の孔部25は、ガス噴出面22sに配置されている。複数の孔部25のそれぞれは、複数のガス噴出口23のそれぞれと重ならないように、ガス噴出面22sに配置されている。
【0025】
複数の孔部25は、プレート基材22bを貫通していない。例えば、複数の孔部25は、ガス噴出面22sからプレート基材22bの内部に向けて掘り下げられた孔である。シャワープレート22において、複数の孔部25の表面積は、ガス噴出面22sの中心22cから放射状に段階的に大きくなるように構成されている。
【0026】
プレート基材22bの厚さは、5mm以上50mm以下である。一例として、プレート基材22bの厚さは、25mmである。複数のガス噴出口23のそれぞれの内径は、複数の孔部25のそれぞれの内径よりも小さい。複数のガス噴出口23のそれぞれの内径は、0.3mm以上1mm以下である。複数のガス噴出口23のそれぞれの内径は、同じである。一例として、複数のガス噴出口23のそれぞれの内径は、0.7mmである。
【0027】
プレート基材22b及びヘッド本体21は、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の導電体を含む。プレート基材22b及びヘッド本体21には、耐食性を向上させるために、必要に応じて酸化皮膜処理が施されてもよい。
【0028】
支持台30は、基板80を支持することができる。支持台30は、シャワープレート22に対向している。基板80が載置される支持台30の基板載置面は、シャワープレート22に対して実質的に平行になっている。支持台30は、例えば、導電体を含む構成を有する。支持台30において、基板80が載置される面は、導電体でもよく、絶縁体でもよい。例えば、支持台30において、基板80が載置される面には、静電チャックが設置されてもよい。支持台30が絶縁体や静電チャックを含む場合、支持台30が接地されたとしても、基板80とグランドとの間には、寄生の容量31が生じる。
【0029】
支持台30には、基板80にバイアス電力を供給できるように、電力供給手段55が接続されてもよい。電力供給手段55は、例えば、交流電源(高周波電源)でもよく、直流電源でもよい。例えば、真空処理装置1をRIE等のエッチング装置として用いる場合、電力供給手段55によって基板80に電力が投入され、基板80にバイアス電位が印加される。さらに、支持台30には、基板80を所定温度に加熱したり、冷却したりする温調機構が内蔵されてもよい。支持台30とシャワープレート22との間の距離(以下、電極間距離)は、10mm以上30mm以下である。一例として、電極間距離は、20mmである。
【0030】
支持台30において、基板80が載置される載置面の平面形状は、基板80の平面形状に対応している。シャワープレート22の平面形状も載置面の平面形状に対応している。例えば、基板80がパネル等に適用される矩形状の基板であれば、載置面及びシャワープレート22の平面形状は、矩形になる。基板80が半導体デバイス等に適用されるウェーハ基板であれば、載置面及びシャワープレート22の平面形状は、円状になる。本実施形態では、一例として、載置面及びシャワープレート22の平面形状が矩形であるとする。但し、載置面及びシャワープレート22の面積は、基板80の面積よりも大きい。なお、基板80は、例えば、厚さが0.5mmのガラス基板である。基板80のサイズは、例えば、1500mm×1300mm以上である。
【0031】
ガス供給源40は、シャワーヘッド20の内部空間28にプロセスガス(成膜ガス、エッチングガス等)を供給する。ガス供給源40は、流量計41と、ガス導入管42とを有する。ガス導入管42におけるプロセスガスの流量は、流量計41によって調整される。
【0032】
電力供給手段50は、電源51と、整合回路部(マッチングボックス)52と、配線53とを有する。配線53は、シャワーヘッド20の中心に接続されている。整合回路部52は、シャワーヘッド20と電源51との間に設置される。電源51は、例えば、RF電源である。電源51は、VHF電源でもよい。さらに、電源51は、直流電源でもよい。電源51が直流電源の場合、電力供給手段50からは、整合回路部52が除かれる。
【0033】
例えば、シャワーヘッド20から、プラズマ形成空間10pにプロセスガスが導入され、配線53を経由して電源51からシャワーヘッド20に電力が投入されると、プラズマ形成空間10pに放電プラズマが発生する。例えば、プラズマ形成空間10pに成膜ガスが導入され、プラズマ形成空間10pに成膜プラズマを発生させた場合、基板80には、膜が形成される。この場合、真空処理装置1は、成膜装置として機能する。一方、プラズマ形成空間10pにエッチングガスが導入され、プラズマ形成空間10pにエッチングプラズマを発生させた場合、基板80からは膜が除去される。この場合、真空処理装置1は、エッチング装置として機能する。
【0034】
以上、説明した真空処理装置1の作用を説明する前に、比較例に係る真空処理装置の作用について説明する。比較例に係る真空処理装置は、シャワープレート22に孔部25が設けられてない構成を有する。
【0035】
このような比較例においては、基板80のサイズが大きくなるほど、プラズマ密度の面内ばらつきが大きくなる。これにより、プラズマCVDで形成された膜の膜質(膜厚、膜応力等)の面内ばらつきが大きくなる可能性がある。また、エッチング時においても、エッチング速度の面内ばらつきが大きくなる可能性がある。
【0036】
容量結合方式では、電源51から高周波電力が陰極(シャワーヘッド)に印加される。しかし、電源51からシャワーヘッドに供給される高周波は、シャワーヘッドを構成する導電体の内部には浸透せず、導電体の表面を伝導してシャワープレートに伝搬する(表皮効果)。
【0037】
シャワープレートにおける任意の1点には、任意の方向から電磁波が伝搬してくる。これにより、この任意の1点において、複数の位相を持った電磁波が合成される。しかし、シャワープレートの場所によって電磁波の合成が異なり、シャワープレートに定在波が立つ場合がある。
【0038】
これにより、シャワープレートの面内で電圧分布が生じる。この現象は、周波数が大きく、または、シャワープレートの面積が大きくなるほど顕著になる。例えば、シャワープレートに印加された電力は、シャワープレートの中心付近で最も高く、シャワープレートの端部付近の電圧が最も低くなる場合がある。特に、シャワープレートの平面形状が矩形の場合は、シャワープレートに印加された電力は、シャワープレートの中心付近で最も高く、4角付近の電圧が最も低くなる傾向にある。
【0039】
これにより、比較例においては、電圧が最も高い中心付近に放電電流が集中し、中心付近におけるプラズマ密度が最も高くなる。従って、比較例においては、シャワープレートの中心付近でラジカルがより多く生成され、シャワープレートの中心付近でイオンエネルギーも高くなる。この結果、比較例では、基板上に形成される膜の膜質(膜厚、膜応力等)及びエッチング速度の面内ばらつきが大きくなる。
【0040】
基板サイズが比較的小さい場合には(例えば、920×730mm以下)、このようなプラズマ密度の面内ばらつきは、無視できる場合がある。しかし、基板サイズが大きくなるほど(例えば、920×730mm以上)、このプラズマ密度の面内ばらつきが無視できなくなる。
【0041】
このような現象に対処する方法の1つとして、放電電力、ガス流量、流量比率、放電圧力、陰極・陽極間距離等の成膜条件を変更する方法がある。しかし、この方法では、成膜速度が遅くなったり、膜厚分布が改善されても膜応力分布が改善されなかったりする。結局、この方法では、プラズマ密度の面内ばらつきが改善できない。
【0042】
これに対して、本実施形態では、シャワープレート22のガス噴出面22sに、複数のガス噴出口23のほかに、複数の孔部25が設けられている。そして、複数の孔部25の深さは、中心22cから端部22eに向かうにつれ、段階的に変化している。例えば、電力投入時、シャワープレート22において最も電圧が高くなる中心22cの付近には、孔部25が設けられていない。また、電力投入時、シャワープレート22において最も電圧が弱くなる端部22eの付近には、深さが最も深い孔部25が配置されている。
【0043】
これにより、シャワープレート22におけるガス噴出面22sの実効的な表面積(単位面積あたりの表面積)が中心22cから端部22eに向かい、段階的に大きくなる。この結果、孔部25の深さが最も深い端部付近では、中心付近に比べて放電が起きやすくなり、シャワープレート22が持つ電圧分布を起因とするプラズマ密度の面内ばらつきが孔部25の配置によって補正され、プラズマ密度がシャワープレート22の面内で均一になる。
【0044】
なお、容量結合方式では、放電周波数が高いほどプラズマ密度が高くなり、イオンダメージが低くなる傾向にある。このため、生産性の向上、膜質の高品質化の観点からは、例えば、放電周波数は、13.56MHzよりも27.12MHzが望ましい。しかし、放電周波数が高くなると、膜質(膜厚、膜応力)の面内ばらつきが大きくなる。
【0045】
一方、放電周波数を13.56MHzよりも低周波にしたり、直流放電を採用したりすると、イオンエネルギーが強くなり過ぎ、膜質、エッチング特性が悪化する場合がある。これにより、本実施形態では、放電周波数として、13.56MHzが選択される。
【0046】
次に、本実施形態に係るシャワープレート22の作用の具体例を以下に説明する。
【0047】
図2(a)は、本実施形態に係るプラズマ解析のプラズマ解析モデルを示す概略断面図である。
図2(b)〜
図2(d)は、本実施形態に係るプラズマ解析結果を示す概略断面図及びプラズマ密度を示すグラフ図である。
【0048】
図2(a)に示すプラズマ解析モデルでは、シャワープレート22に相当する陰極(Cathode)に円錐形状の孔部が配置されている。基板80に相当する陽極(Anode)と陰極との間の電極間距離は、20mmである。陽極と陰極との間に圧力300Paの窒素ガスが存在している。高周波の周波数は、13.56MHzである。「a/2」は、孔部の半径(mm)、「b」は、孔部の深さ(mm)である。
【0049】
また、
図2(b)〜
図2(d)には、白黒の濃淡によって電子生成率の大きさが示されている。例えば、
図2(b)〜
図2(d)では、黒色が濃い部分ほど、電子生成率(/m
3/sec)が高いことを意味している。電子生成率は、例えば、放電電圧に依存する。放電電圧が低くなれば、電子生成率も低くなるため、成膜速度、膜応力、エッチング速度の決定因子であるラジカル生成率、イオンの照射エネルギーが低くなる。
【0050】
図2(b)に、孔部がない陰極の電子生成率を示す。
図2(b)に示すように、陰極及び陽極のそれぞれから約5mm離れた位置で電子生成率が最も高くなっている。
【0051】
これに対し、
図2(c)に、内径4.3mm、深さ5mmの孔部が陰極に形成された場合の電子生成率を示す。陰極及び陽極のそれぞれから約5mm離れた位置で電子生成率が高くなっている。但し、
図2(c)の例では、陰極側で孔部の中心付近において電子生成率が相対的に高くなっている。つまり、陰極に孔部を形成することで、プラズマ放電の様子が変わることが
図2(c)の例において見いだされている。
【0052】
図2(d)に、内径8.7mm、深さ5mmの孔部が陰極に形成された場合の電子生成率を示す。この条件では、電子が陽極側で生成しにくく、陰極側の孔部の中心付近で優先的に生成し、放電の形態が
図2(b)、(c)とは大きく異なっている。
図2(d)では、孔部内で、ホロー効果が生じていると推察される。
【0053】
ホロー効果が発現した場合には、陽極側で電子生成がほぼなくなるため、陽極の近傍でイオンも生成されにくくなる。このため、陽極(基板)側へのイオン照射が減り、基板へのイオン照射が決定因子となる膜応力の制御が難しくなる。これにより、本実施形態では、ホロー効果が発現しない内径4mm程度の孔部25をシャワープレート22に設けている。例えば、内径が3.5mmの孔部25がシャワープレート22のガス噴出面22sに形成されている。
【0054】
図3は、本実施形態に係る孔部の深さとプラズマ密度との関係を示すグラフ図である。
【0055】
例えば、窒素ガスを放電ガスとして用いた場合、孔部25の深さが2.5mmになると、孔部25が形成されない場合に比べて、プラズマ密度が1.25以上になることが分かった。さらに、孔部の深さが5mmになると、孔部が形成されない場合に比べて、プラズマ密度が1.3倍以上になることが分かった。
【0056】
これらの結果から、シャワープレート22のガス噴出面22sに孔部25を形成することで、ガス噴出面22sに孔部25が形成されていない場合に比べてプラズマ密度が増加することが分かる。さらに、孔部25の深さが深くなるほど、プラズマ密度がより高くなることが分かる。すなわち、ガス噴出面22sにおける孔部25の表面積が大きくなるほど、プラズマ密度がより高くなる。この理由は、一例として、孔部25の表面積が大きくなるほど、孔部25から放出される二次電子の数がより増えることに起因していると考えられる。
【0057】
このようなシャワープレート22を用いれば、シャワープレート22に配置される孔部25の深さを調整することにより、シャワープレート22におけるプラズマ密度の面内ばらつきをより均一に制御できる。
【0058】
以下に、シャワープレート22に設けられた、複数の孔部25の配置について説明する。
【0059】
図4(a)は、本実施形態に係るシャワープレートを示す概略平面図である。
図4(b)は、
図4(a)の破線222dで囲む領域を示す概略平面図である。
図4(c)〜
図4(f)は、本実施形態に係るシャワープレートの孔部を示す概略断面図である。
【0060】
シャワープレート22の電界強度分布を電磁解析により解析すると、中心22cほど電界強度が強く、端部22eほど電界強度は弱くなることが判明している。また、シャワープレート22の面内における電界強度の等強線(同じ電界強度の点の集まりで形成される線)は、例えば、同心状に楕円状になることが判明している。
【0061】
例えば、
図4(a)に示すように、シャワープレート22に配置される孔部25の配置領域は、電界強度に応じて複数の領域に区分けされている。例えば、ガス噴出面22sは、中心領域221と、中心領域221に対して同心状に配置された複数の領域222、223、224、225を有する。例えば、中心領域221は、領域222によって取り囲まれ、領域222は、領域223によって取り囲まれ、領域223は、領域224によって取り囲まれている。さらに、領域224は、領域225によって取り囲まれている。
【0062】
本実施形態に係るシャワープレート22の平面形状は、一例として長方形になっている。ここで、シャワープレート22の長端部22Lと平行な方向を第1方向(Y軸方向)、シャワープレート22の短端部22Nと平行な方向を第2方向(X軸方向)とする。第2方向は、第1方向と直交する。中心領域221及び複数の領域222、223、224のそれぞれにおいては、第1方向における径が第2方向における径よりも長い。例えば、中心領域221及び複数の領域222、223のそれぞれの外形は、楕円状になっている。換言すれば、中心領域221及び複数の領域222、223のそれぞれを区分けする境界線は、楕円状(例えば、長軸は短軸の約2倍)である。
【0063】
ここで、領域224は、シャワープレート22の短端部22Nにおいて途切れ、連続した領域になっていない。但し、領域224の外形を連続的に繋ぐ仮想線を引いた場合、その仮想線の外形は、楕円状になっている。また、領域225は、ガス噴出面22sにおける領域225外の領域である。
【0064】
中心領域221及び複数の領域222、223、224、225のそれぞれには、複数のガス噴出口23とともに、複数の孔部25が配置されている。ここで、孔部25とは、後述する孔部252、253、254、255の総称である。なお、
図4(a)の例では、中心領域221には、孔部25が配置されていない。
【0065】
例えば、
図4(b)には、領域222における破線222dで囲まれた領域の平面が示されている。
図4(b)に示すように、複数の孔部252は、ガス噴出面22sにハニカム状に配置されている。ガス噴出口23は、例えば、互いに隣接する3つの孔部252の中心を頂点とする三角形の中心に配置されている。
【0066】
但し、ガス噴出面22sに設けられた孔部25の表面積は、複数の領域222、223、224、225のそれぞれによって異なる。例えば、互いに隣接する2つの領域において、中心領域221とは反対側の領域に配置された複数の孔部25のそれぞれの表面積は、中心領域221側の領域に配置された複数の孔部25のそれぞれの表面積よりも大きい。
【0067】
例えば、
図4(c)〜
図4(f)に示すように、領域222の外側の領域223に配置された孔部253の表面積は、領域222に配置された孔部252の表面積よりも大きい。領域223の外側の領域224に配置された孔部254の表面積は、領域223に配置された孔部253の表面積よりも大きい。領域224の外側の領域225に配置された孔部255の表面積は、領域224に配置された孔部254の表面積よりも大きい。
【0068】
ここで、中心領域221とは反対側の領域に配置された複数の孔部25のそれぞれの内径は、中心領域221側の領域に配置された複数の孔部25のそれぞれの内径と同じである。例えば、領域222の外側の領域223に配置された孔部253の内径R3は、領域222に配置された孔部252の内径R2と同じである。領域223の外側の領域224に配置された孔部254の内径R4は、領域223に配置された孔部253の内径R3と同じである。領域224の外側の領域225に配置された孔部255の内径R5は、領域224に配置された孔部254の内径R4と同じである。すなわち、内径R2、R3、R4、R5のそれぞれは同じである。なお、内径R2、R3、R4、R5とは、ガス噴出面22sの位置での内径である。
【0069】
本実施形態におけるシャワープレート22では、複数の領域222、223、224、225のそれぞれに配置された孔部25の表面積が深さを変えることによって変化している。例えば、中心領域221とは反対側の領域に配置された複数の孔部25のそれぞれの深さは、中心領域221側の領域に配置された複数の孔部25のそれぞれの深さよりも深い。領域222の外側の領域223に配置された孔部253の深さD3は、領域222に配置された孔部252の深さD2よりも深い。領域223の外側の領域224に配置された孔部254の深さD4は、領域223に配置された孔部253の深さD3よりも深い。領域224の外側の領域225に配置された孔部255の深さD5は、領域224に配置された孔部254の深さD4よりも深い。
【0070】
ここで、深さを変えずに内径を拡げて孔部25の表面積を増加させると、ガス噴出面22sにおける孔部25の占有面積が増加する。これにより、孔部25の内径をより拡げた領域ほど、複数の孔部25の配置密度が低下したり、孔部25とガス噴出口23とが互いに干渉したりする。
【0071】
仮に、孔部25とガス噴出口23とが重なった場合、孔部25の深さが深くなるほど、ガス噴出口23の長さが短くなる。これにより、領域222、223、224、225ごとに、ガス噴出口23のコンダクタンスが変わってしまい、領域222、223、224、225のそれぞれから噴出するガス流量が変わってしまう。
【0072】
また、シャワープレート22においては、孔部25の内径がガス噴出口23のピッチより小さくなっている。孔部25の内径がガス噴出口23のピッチより大きくなると、ガス噴出口23の個数が減少してしまう。ガス噴出口23の個数が減少すると、1個当たりのガス噴出口23から噴き出すガス流量が多くなり、ガス噴出面22sにおけるガス流量分布がガス噴出口23の寸法ばらつきの影響を受けやすくなる。さらに、ガス噴出口23のパターンが膜厚分布に反映されてしまう。
【0073】
また、孔部25の内径を拡げて孔部25の表面積を増加させると、孔部25内でホローカソード放電が発したり、異常放電が発したりして、局部的にプラズマ密度が高くなる可能性がある。または、孔部25内でホローカソード放電が発したり、異常放電が発したりすると、シャワープレート22に付着した膜が剥離しやすくなる。これにより、本実施形態では、複数の領域222、223、224、225のそれぞれ属す孔部25の表面積を、内径を変えずに深さを変えることで変化させている。
【0074】
シャワープレート22のサイズは、1500mm×1300mm以上である。一例として、基板80のサイズが1850mm×1500mmである場合、シャワープレート22のサイズは、2000mm×1700mmである。ガス噴出口23のガス噴出面22sにおけるピッチは、電極間距離の1/2程度である。シャワープレート22(サイズ:2000mm×1700mm)には、約52000個のガス噴出口23が配置され、約200000個の孔部25が配置されている。
【0075】
なお、基板80及び支持台30の平面形状が円状である場合には、この形状に対応させて、シャワープレート22の平面形状も円状になる。この場合、中心領域221及び複数の領域222、223、224、225のそれぞれ平面形状は、円状になる。
【0076】
また、中心領域221にも、複数の孔部25が配置されてもよい。この場合、中心領域221に配置された複数の孔部25のそれぞれの表面積は、中心領域221に隣接する領域222に配置された複数の孔部25のそれぞれの表面積よりも小さく設定される。
【0077】
また、本実施形態においては、複数の孔部25の平面形状として円状のものが例示されたが、この例に限らない。複数の孔部25の平面形状は、矩形状でもよく、楕円状であってもよい。
【0078】
図5(a)は、本実施形態の基板処理装置によって膜が形成される基板の概略平面図である。
図5(b)は、比較例に係る膜の膜厚分布を示す概略的なグラフ図である。
図5(c)は、本実施形態に係る膜の膜厚分布を示す概略的なグラフ図である。
【0079】
図5(a)に示す基板80は、ガラス基板である。基板80において、例えば、第1方向の長さは、1850mm、第2方向の長さは、1500mmである。
図5(b)、(c)には、第1方向または第2方向で平行であって、基板80の中心80cを通るライン上の膜厚分布が示されている。成膜条件は、以下の通りである。基板80上に形成される膜は、SiN
x膜である。SiN
x膜は、基板80に成膜される。
【0080】
成膜ガス:SiH
4(流量:1.6slm)/NH
3(流量:16slm)
放電圧力:265Pa
シャワープレート−基板間距離:21mm
放電電力:14.5kW(周波数:13.56MHz)
基板温度:350℃
【0081】
図5(b)に示す比較例では、シャワープレートに孔部25が設けられていない。比較例では、基板80の中心80cの膜厚が最も厚く、基板80の外周に向かうほど、膜厚が薄なっている。すなわち、比較例は、上に凸の膜厚分布を示している。これは、シャワープレートの中心ほどプラズマ密度が高く、シャワープレートの端部ほどプラズマ密度が低くなることに対応している。
【0082】
これに対し、本実施形態に係る実施例1、2の結果を
図5(c)に示す。実施例1、2では、シャワープレート22に複数の孔部25が設けられている。例えば、実施例1では、領域222の孔部252の深さD2が1.5mmであり、領域223の孔部253の深さD3が3mmであり、領域224の孔部254の深さD4が4.5mmであり、領域225の孔部255の深さD5が6mmである。実施例1では、基板80の中心80cの膜厚が最も薄く、基板80の外周に向かうほど、膜厚が厚くなっている。つまり、
図5(c)の結果は、シャワープレート22に複数の孔部25を形成することにより、膜厚分布が制御されることを示している。
【0083】
さらに、実施例2では、領域222の孔部252の深さD2、領域223の孔部253の深さD3、領域224の孔部254の深さD4及び領域225の孔部255の深さD5のそれぞれを実施例1のそれぞれの値よりもさらに浅く設定している。この場合、基板80に形成された膜の膜厚分布は、第1方向及び第2方向において実質的に均一になっている。
【0084】
図6は、本実施形態及び比較例に係る膜の応力分布を示す概略的なグラフ図である。
【0085】
図6の横軸は、中心領域221及び領域222、223、224、225の位置に対応している。
図6の縦軸は、SiN
x膜の応力値の規格値である。
図6において、縦軸のマイナス値の絶対値が大きくなるほど圧縮応力が強くなり、縦軸のプラス値の絶対値が大きくなるほど引張応力が強くなることを意味している。
【0086】
比較例では、中心領域221で成膜されたSiN
x膜は、圧縮応力を有している。そして、中心領域221から外側の領域に向かうほど、SiN
x膜は、圧縮応力よりも引張応力を持つようになる。これは、孔部25が設けられていないシャワープレートでは、中心領域221におけるプラズマ密度が最も高く、中心領域221から外側の領域に向かうほどプラズマ密度が低くなることに対応している。
【0087】
一方、実施例1では、中心領域221で成膜されたSiN
x膜が引張応力を有している。そして、実施例1では、中心領域221から外側の領域ほど、SiN
x膜において引張応力よりも圧縮応力が強くなる。つまり、
図6の結果は、シャワープレート22に複数の孔部25を形成することにより、応力分布が制御されることを示している。
【0088】
また、実施例1の結果に基づいて、中心領域221及び領域222、223、224、225のそれぞれにおける応力をより均一にすることもできる。例えば、実施例1のラインの勾配をより緩やかにするには、領域222の孔部252の深さD2、領域223の孔部253の深さD3、領域224の孔部254の深さD4及び領域225の孔部255の深さD5のそれぞれを実施例1のそれぞれの値よりも浅く設定する。
【0089】
例えば、実施例2では、領域222の孔部252の深さD2が0.33mm、領域223の孔部253の深さD3が0.65mm、領域224の孔部254の深さD4が0.98mm、及び領域225の孔部255の深さD5が1.3mmに設定されている。この場合、中心領域221及び領域222、223、224、225のそれぞれにおける応力は、実質的に均一になる。
【0090】
各領域に配置される孔部25の深さは、成膜条件によっても変化する。
【0091】
例えば、
図7(a)及び
図7(b)は、成膜条件と、最外領域における孔部の深さの最適値との関係を示す概略的なグラフ図である。
図7(a)及び
図7(b)には、成膜条件と、領域225における孔部255の最適値との関係が示されている。
【0092】
例えば、
図7(a)に示すように、領域225における孔部255の最適値は、放電圧力が上記条件(265Pa)よりも高く設定されると、1.3mmよりも大きい値にシフトする。逆に、放電圧力が上記条件よりも低く設定されると、孔部255の最適値は、1.3mmよりも小さい値にシフトする。
【0093】
また、
図7(b)に示すように、領域225における孔部255の最適値は、電極間距離が上記条件(21mm)よりも広く設定されると、1.3mmよりも大きい値にシフトする。逆に、電極間距離が上記条件よりも狭く設定されると、孔部255の最適値は、1.3mmよりも小さい値にシフトする。このように、各領域に配置される孔部25の深さは、成膜条件によって適宜調整される。
【0094】
また、本実施形態において、シャワープレート22のガス噴出面22sを同心状に区分けする領域数は、5個に限らない。例えば、ガス噴出面22sを同心状に区分けする領域数は、6個以上でもよい。例えば、中心領域221及び領域222、223、224、225のそれぞれがさらに同心状に10個の領域によって区分けされ、ガス噴出面22sを同心状に区分けする領域の数が50個となってもよい。
【0095】
例えば、実施例1では、隣接する領域における孔部25の深さの差が1.5mmになっている。実施例1において、ガス噴出面22sを区分けする領域数が50個となれば、隣接する領域における孔部25の深さの差は、0.15mm(1.5mm/10)となり、隣接する領域における孔部25の深さの差がさらに小さくなる。また、実施例2では、隣接する領域における孔部25の深さの差が約0.3mmになっている。実施例2において、ガス噴出面22sを区分けする領域数が50個となれば、隣接する領域における孔部25の深さの差は、0.03mm(0.3mm/10)となり、隣接する領域における孔部25の深さの差がさらに小さくなる。
【0096】
このように区分け数の増加により、シャワープレート22の面内におけるプラズマ密度がより均一になって、基板80の面内における膜の膜質(膜厚、応力等)がより均一になる。
【0097】
図8(a)は、本実施形態に係るシャワープレートのガス噴出面の別の態様を示す概略平面図である。
図8(b)は、本実施形態に係るシャワープレートを区分けする別の態様を示す概略平面図である。
【0098】
シャワープレート22において、各領域に配置された孔部25は、隣接する領域に跨って配置されてもよい。すなわち、中心領域221とは反対側の領域に配置された複数の孔部の一部が中心領域221側の領域に配置され、中心領域221側の領域に配置された複数の孔部25の一部が中心領域221とは反対側の領域に配置されてもよい。
【0099】
例えば、
図8(a)に領域222と、領域222に隣接する領域223の例を示す。ここで、領域222は、中心領域221側に配置され、領域223は、中心領域221とは、反対側に配置されている。また、
図8(a)では、孔部252と孔部253とを明確にするために、孔部252にグレー色が付されている。
図8(a)に示すように、領域223に配置された複数の孔部253の一部が中心領域221側の領域222に配置されている。さらに、領域222に配置された複数の孔部252の一部が領域223に配置されている。
【0100】
このような配置であれば、隣接する領域における孔部25の深さの差がさらに緩和され、シャワープレート22の面内におけるプラズマ密度がより均一になる。これにより、基板80の面内における膜の膜質(膜厚、応力等)がより均一になる。
【0101】
また、各領域を区分けする境界線の最適形状は、楕円状に限らない。例えば、
図8(b)に示す例では、第1方向と平行であって中心22cを含む線Aと各領域を区分けする境界線との交点において、境界線が屈曲している。さらに、第2方向と平行であって中心22cを含む線Bと各領域を区分けする境界線との交点において、境界線が屈曲している。
【0102】
このような境界線の平面形状は、シャワープレート22の平面形状、放電条件に応じた電磁解析によって決定される。これにより、中心領域221、領域222、223、224、225のそれぞれにおけるプラズマ密度の面内ばらつきがさらに均一になる。
【0103】
このように本実施形態に係るシャワーヘッド20では、シャワープレート22に、複数のガス噴出口23のほかに、ガス噴出面22sにガス噴出面22sの中心22cから放射状に表面積が段階的に大きくなる複数の孔部25が設けられている。これにより、このシャワーヘッド20を用いれば、プラズマ密度の面内ばらつきがより均一になる。これにより、基板80上に形成される膜の膜質(膜厚、膜応力)の面内分布、エッチング速度の面内分布が改善される。特に、シャワーヘッド20は、基板80のサイズがより大型になるほど有効に機能する。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。