【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、アフィニティーリガンドを固定化した不溶性担体を充填したカラムの平衡化液に一定濃度のアルギニンを添加することで、抗体の分離能が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(A)から(C)の態様を包含する:
(A)Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに平衡化液を添加してカラムを平衡化する工程と、前記平衡化したカラムに抗体を含む溶液を添加して前記抗体を前記担体に吸着させる工程と、前記担体に吸着した抗体を溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、抗体の精製方法であって、前記平衡化液が30mM以上のアルギニンを含む、前記精製方法。
【0010】
(B)Fc結合性タンパク質が配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むポリペプチドである、(A)に記載の精製方法。
【0011】
(C)Fc結合性タンパク質が配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したポリペプチドである、(A)に記載の精製方法。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明においてFc結合性タンパク質は、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域(具体的には天然型ヒトFcγRIIIaの場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目までのグルタミンまでの領域)を構成するタンパク質のことをいう。ただし必ずしもヒトFcγRIIIa細胞外領域の全領域でなくてもよく、ヒトFcγRIIIa細胞外領域を構成するポリペプチドのうち、少なくともヒトIgGのFc領域に結合する本来の機能を発現し得る領域のポリペプチドを含んでいればよい。当該ヒトFc結合性タンパク質の一例として、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目から192番目までのアミノ酸残基を含むポリペプチドや、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したポリペプチド
があげられる。前記(ii)の一態様としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(40)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、ポリペプチド(特願2013−202245号)があげられる。
(1)配列番号1の18番目のメチオニンがアルギニンに置換
(2)配列番号1の27番目のバリンがグルタミン酸に置換
(3)配列番号1の29番目のフェニルアラニンがロイシンまたはセリンに置換
(4)配列番号1の30番目のロイシンがグルタミンに置換
(5)配列番号1の35番目のチロシンがアスパラギン酸、グリシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、セリン、スレオニン、ヒスチジンのいずれかに置換
(6)配列番号1の46番目のリジンがイソロイシンまたはスレオニンに置換
(7)配列番号1の48番目のグルタミンがヒスチジンまたはロイシンに置換
(8)配列番号1の50番目のアラニンがヒスチジンに置換
(9)配列番号1の51番目のチロシンがアスパラギン酸またはヒスチジンに置換
(10)配列番号1の54番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(11)配列番号1の56番目のアスパラギンがスレオニンに置換
(12)配列番号1の59番目のグルタミンがアルギニンに置換
(13)配列番号1の61番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(14)配列番号1の64番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(15)配列番号1の65番目のセリンがアルギニンに置換
(16)配列番号1の71番目のアラニンがアスパラギン酸に置換
(17)配列番号1の75番目のフェニルアラニンがロイシン、セリン、チロシンのいずれかに置換
(18)配列番号1の77番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換
(19)配列番号1の78番目のアラニンがセリンに置換
(20)配列番号1の82番目のアスパラギン酸がグルタミン酸またはバリンに置換
(21)配列番号1の90番目のグルタミンがアルギニンに置換
(22)配列番号1の92番目のアスパラギンがセリンに置換
(23)配列番号1の93番目のロイシンがアルギニンまたはメチオニンに置換
(24)配列番号1の95番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(25)配列番号1の110番目のロイシンがグルタミンに置換
(26)配列番号1の115番目のアルギニンがグルタミンに置換
(27)配列番号1の116番目のトリプトファンがロイシンに置換
(28)配列番号1の118番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(29)配列番号1の119番目のリジンがグルタミン酸に置換
(30)配列番号1の120番目のグルタミン酸がバリンに置換
(31)配列番号1の121番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(32)配列番号1の151番目のフェニルアラニンがセリンまたはチロシンに置換
(33)配列番号1の155番目のセリンがスレオニンに置換
(34)配列番号1の163番目のスレオニンがセリンに置換
(35)配列番号1の167番目のセリンがグリシンに置換
(36)配列番号1の169番目のセリンがグリシンに置換
(37)配列番号1の171番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(38)配列番号1の180番目のアスパラギンがリジン、セリン、イソロイシンのいずれかに置換
(39)配列番号1の185番目のスレオニンがセリンに置換
(40)配列番号1の192番目のグルタミンがリジンに置換
また前記(ii)の別の態様としては、配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において以下の(41)から(57)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、ポリペプチド(特願2014−133181号)があげられる。
(41)配列番号3の45番目のフェニルアラニンがイソロイシンまたはロイシンに置換
(42)配列番号3の55番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(43)配列番号3の64番目のグルタミンがアルギニンに置換
(44)配列番号3の67番目のチロシンがセリンに置換
(45)配列番号3の77番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(46)配列番号3の93番目のアスパラギン酸がグリシンに置換
(47)配列番号3の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(48)配列番号3の106番目のグルタミンがアルギニンに置換
(49)配列番号3の128番目のグルタミンがロイシンに置換
(50)配列番号3の133番目のバリンがグルタミン酸に置換
(51)配列番号3の135番目のリジンがアスパラギンまたはグルタミン酸に置換
(52)配列番号3の156番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(53)配列番号3の158番目のロイシンがグルタミンに置換
(54)配列番号3の187番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(55)配列番号3の191番目のロイシンがアルギニンに置換
(56)配列番号3の196番目のアスパラギンがセリンに置換
(57)配列番号3の204番目のイソロイシンがバリンに置換
また前記(ii)のさらに別の態様としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(58)から(61)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、天然型ヒトFcγIIIaバリアントがあげられる(特願2014−133181号)。
(58)配列番号1の66番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(59)配列番号1の147番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(60)配列番号1の158番目のチロシンがヒスチジンに置換
(61)配列番号1の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換
本発明において不溶性担体とは、抗体の吸着/溶出に用いる溶液や溶剤に対して不溶性であり、かつFc結合性タンパク質を共有結合で固定化するための官能基(例えばヒドロキシ基)を有した物質であればよく、ジルコニア、ゼオライト、シリカ、皮膜シリカ等の無機系物質に由来した担体であってもよいし、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然有機高分子物質に由来した担体であってもよいし、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリレート、ビニルポリマー等の合成有機高分子物質に由来した担体であってもよい。
【0014】
なお担体表面に有する官能基がヒドロキシ基の場合、活性化剤を用いて、当該ヒドロキシ基から、Fc結合性タンパク質と共有結合可能な活性化基を形成させるとよい。前記活性化剤の具体例として、エピクロロヒドリン(活性化基としてエポキシ基を形成)、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(活性化基としてエポキシ基を形成)、トレシルクロリド(活性化基としてトレシル基を形成)、ビニルブロミド(活性化基としてビニル基を形成)があげられる。また、ヒドロキシ基をアミノ基やカルボキシル基などに変換した後、活性化剤を作用させて活性化する手法を例示することができ、活性化剤の具体例として3−マレイミドプロピオン酸N−スクシンイミジル(活性化基としてマレイミド基を形成)、1,1’−カルボニルジイミダゾール(活性化基としてカルボニルイミダゾール基を形成)、ハロゲン化酢酸(活性化基としてハロゲン化アセチル基を形成)などを例示することができる。
【0015】
本発明は、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに平衡化液を添加してカラムを平衡化する工程と、前記平衡化したカラムに抗体を含む溶液を添加して前記抗体を前記担体に吸着させる工程と、前記担体に吸着した抗体を溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、抗体の精製方法において、前記平衡化液が30mM以上のアルギニンを含むことを特徴としている。本発明により、抗体成分の分離度をRs値換算で1.1倍から1.5倍に向上させることができる。従って、今まで検出できなかった抗体分子構造の微小な差異も検出でき、分析の精度を向上させることができる。なお前記平衡化液に含まれるアルギニンの濃度は30mM以上であればよいが、30mM以上1500mM以下であると好ましく、30mM以上1000mM以下であるとより好ましく、30mM以上500mM以下であるとさらに好ましく、50mM以上400mM以下であるとさらにより好ましく、50mM以上200mM以下が最も好ましい。
【0016】
前記平衡化液を用いて前記吸着した抗体を溶出させるには、前記抗体とFc結合性タンパク質との親和性を弱める溶出液を用いて溶出させればよい。一例として、平衡化液として30mM以上のアルギニンを含むpH5.0から6.9の弱酸性緩衝液を、溶出液としてpH2.5から4.5の酸性緩衝液をそれぞれ用いたグラジエント溶出法があげられる。緩衝剤としては公知の緩衝剤の中から、作成する緩衝液のpHなどに基づき適宜選択すればよく、一例として、リン酸、酢酸、ギ酸、MES(2−Morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3−Morpholinopropanesulfonic acid)、クエン酸、コハク酸、グリシン、ピペラジンがあげられる。
【0017】
本発明の分離方法は、Fc結合性タンパク質と親和性を有する、糖鎖を付加した抗体のFc領域を少なくとも含んだ抗体であれば分離することがでいる。一例として、抗体医薬に用いる抗体として一般的に用いられているキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体やそれらのアミノ酸置換体があげられる。また二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)、糖鎖を付加した抗体のFc領域と他のタンパク質との融合抗体、糖鎖を付加した抗体のFc領域と薬物との複合体(ADC)などの人工的に構造改変した抗体であっても、本発明の分離方法で分離することができる。