特許第6476934号(P6476934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6476934新規重合体、およびそれを有する細胞培養基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6476934
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】新規重合体、およびそれを有する細胞培養基材
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20190225BHJP
   C08F 34/02 20060101ALI20190225BHJP
   C08F 8/32 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
   C08F34/02
   C08F8/32
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-18439(P2015-18439)
(22)【出願日】2015年2月2日
(65)【公開番号】特開2016-141732(P2016-141732A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金城 木綿
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭44−021339(JP,B1)
【文献】 特開昭50−155679(JP,A)
【文献】 特開昭49−117676(JP,A)
【文献】 米国特許第03455884(US,A)
【文献】 英国特許出願公告第01101463(GB,A)
【文献】 特開昭52−083991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/32
C08F 34/00
C08F134/00
C08F 16/00
C08F116/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に下記一般式(1)及び(2)を含有し、その含有量がmol%で(1):(2)=1:99〜100:0である共重合体を有することを特徴とする細胞培養基材。
【化1】
【化2】

(式中、Rは水酸基を含まない酸素原子、窒素原子又は硫黄原子のうちの少なくともひとつを含有する炭素数1〜30の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
共重合体の重量平均分子量(Mw)が10,000〜1,000,000である、請求項1記載の細胞培養基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸基及びN−置換カルバメート基を有する重合体、その製造方法およびその用途を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
近年、水酸基含有重合体として、ポリビニルアルコールやその共重合体、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやその共重合体等が知られている。ポリビニルアルコール(共)重合体は水溶性、造膜性、接着性、乳化性、耐油性などの特性をもち、紙加工剤、塗料、接着剤、乳化剤、懸濁剤、フィルム、シート原料、医薬、化粧品などの様々な用途で使用されている。
【0003】
また、特許文献1及び2ではポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(共)重合体は、その高い透明性、親水性、酸素透過性、生体適合性などを活かしてハイドロゲル、コンタクトレンズ、医療材料などに利用されていることが開示されている。
【0004】
他にも非特許文献1にはポリビニレンカーボネートのケン化物である、2つの水酸基を有するα,β−二置換エチレン単位からなる単独重合体および共重合体が開示されている。
【0005】
しかしながら上記の重合体は、アルコール類に不溶であり、アルコール類を用いて基板にコーティングすることができず、医療用や包装用コーティング材として使用するに限界があった。
【0006】
また、医療用に用いられるコーティング材は、その表面に中間水と呼ばれる状態の水分子が存在することにより、生体組織中のタンパク質の吸着が防止され、その結果として生体適合性を発現することが実験的に明らかにされている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0007】
中間水は、典型的には、過冷却後の昇温過程で見られる特異な潜熱の放出や吸収によって特徴付けられる。つまり、中間水を含有する物質においては、−100℃に冷却した後に30℃まで徐々に加熱する過程で、水の低温結晶化に起因する発熱ピークが観察され、−10℃以下の氷点下において水の低温融解に起因する吸熱ピークが観察される。このような挙動を示す水分子が中間水として定義されている。中間水は物質を構成する分子からの特定の影響により弱く拘束された水分子であると推察されるが、生体組織中のタンパク質の吸着の防止に関連するものと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−10558号公報
【特許文献2】特開2002−224215号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.Matsuda et al.Langmuir,11,4135−4140(1995).
【非特許文献2】M.Tanaka et al. Polymer International,49,1709−1713(2000).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、アルコール類に可溶で、基板にコーティングすることが容易であり、医療用や包装用コーティング材として有用な、水酸基及びN−置換カルバメート基を有する重合体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記の課題を解決するべく、鋭意検討した結果、アルコール類に可溶で、基板にコーティングすることが容易であり、医療用や包装用コーティング材として有用な重合体として、一般式(1)及び(2)を含有する重合体とその製造方法を見出した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の[1]から[3]に記載した発明を提供するものである。
[1]下記一般式(1)及び(2)を含有し、その含有量がmol%で(1):(2)=1:99〜100:0であることを特徴とする共重合体。
【0013】
【化1】
【0014】
【化2】
(式中、Rは水酸基を含まない、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子のうちの少なくともひとつを含有する炭素数1〜30の炭化水素基を示す。)
[2]共重合体の重量平均分子量(Mw)が10,000〜1,000,000である、[1]記載の共重合体。
[3]ポリビニレンカーボネートをRNH(式中、Rは水酸基を含まない酸素原子、窒素原子又は硫黄原子のうちの少なくともひとつを含有する炭素数1〜30の炭化水素基を示す。)でアミノリシスすることを特徴とする、[1]記載の共重合体の製造方法。
[4]基材上に[1]又は[2]に記載の共重合体を有することを特徴とする細胞培養基材。
【0015】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の共重合体において、一般式(1)及び(2)の含有量は(1):(2)=1:99〜100:0であり、好ましくは30:70〜100:0である。なお、一般式(1)の割合が30mol%未満になると、溶媒への溶解性がやや低下する傾向がある。なお、一般式(2)が0mol%の場合、本発明の共重合体は一般式(1)の単独重合体となるが、その場合も含めて本発明では共重合体と記載する。
【0016】
本発明の一般式(1)のRの水酸基を含まない酸素原子、窒素原子又は硫黄原子のうちの少なくともひとつを含有する炭素数1〜30の炭化水素基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、へキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、アミノメトキシ基、2−アミノエトキシ基、2−アミノイソプロポキシ基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、イソプロポキメチル基、ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基、sec−ブトキシメチル基、tert−ブトキシメチル基、n−ペンチルオキシメチル基、イソペンチルオキシメチル基、(1−メチルシクロヘキシル)メトキシメチル基、シクロペンチルオキシメチル基、シクロヘキシルオキシメチル基、フェノキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、アダマンチルオキシメチル基、(1−アダマンチル)メトキシメチル基、フェンキルオキシメチル基、(2−メチル−2−ノルボルニル)メトキシメチル基、1−メトキシエチル基、2−メトキシエチル基、1−ジメチル−2−メトキシエチル基、1−エトキシエチル基、2−エトキシエチル基、1−n−プロポキシエチル基、2−n−プロポキシエチル基、1−イソプロポキシエチル基、2−イソプロポキシエチル基、1−n−ブトキシエチル基、2−n−ブトキシエチル基、1−イソブトキシエチル基、2−イソブトキシエチル基、1−sec−ブトキシエチル基、2−sec−ブトキシエチル基、1−tert−ブトキシエチル基、2−tert−ブトキシエチル基、1−メトキシ−1−メチルエチル基、2−メトキシ−1−メチルエチル基、2−シクロペンチルオキシエチル基、2−フェノキシエチル基、2−ベンジルオキシエチル基、2−アダマンチルオキシエチル基、1−メトキシプロピル基、2−メトキシプロピル基、2−メトキシイソプロピル基、3−メトキシプロピル基、1−エトキシプロピル基、2−エトキシプロピル基、2−エトキシイソプロピル基、3−エトキシプロピル基、1−プロポキシプロピル基、3−プロポキシプロピル基、3−イソプロポキシプロピル基、1−プロポキシブチル基、3−フェノキシプロピル基、3−アダマンチルオキシプロピル基、1−メトキシブチル基、2−メトキシブチル基、3−メトキシブチル基、4−メトキシブチル基、2−メチル−2−メトキシブチル基、3−メチル3−メトキシブチル基、1−エトキシブチル基、2−エトキシブチル基、3−エトキシブチル基、4−エトキシブチル基、4−プロポキシブチル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロフルフリル基、テトラヒドロ−2H−ピラニル基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチルアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、1−メチルアミノエチル基、2−メチルアミノエチル基、1−ジメチルアミノエチル基、2−ジメチルアミノエチル基、1−メチルアミノプロピル基、2−メチルアミノプロピル基、3−メチルアミノプロピル基、1−ジメチルアミノプロピル基、2−ジメチルアミノプロピル基、3−ジメチルアミノプロピル基、2−メチルアミノイソプロピル基、2−ジメチルアミノイソプロピル基、3−ジエチルアミノプロピル基、1−メチルアミノブチル基、2−メチルアミノブチル基、3−メチルアミノブチル基、4−メチルアミノブチル基、1−ジメチルアミノブチル基、2−ジメチルアミノブチル基、3−ジメチルアミノブチル基、4−ジメチルアミノブチル基、2−メチルアミノ−1−ジメチルエチル基、2−エチルアミノエチル基、3−エチルアミノプロピル基、4−エチルアミノブチル基、1−ピロリジニルメチル基、2−(1−ピロリジニル)エチル基、3−(1−ピロリジニル)プロピル基、1−メチル−2−ピロリジニルメチル基、2−(1−メチル−2−ピロリジニル)エチル基、3−(1−メチル−2−ピロリジニル)プロピル基、1−ピペリジニルメチル基、2−(1−ピペリジニル)エチル基、3−(1−ピペリジニル)プロピル基、2−(2−オキソピロリジン−1−イル)エチル基、アミノメチル基、1−アミノエチル基、2−アミノエチル基、1−アミノプロピル基、2−アミノプロピル基、3−アミノプロピル基、1−アミノ−1メチルエチル基、2−アミノ−1−メチルエチル基、1−アミノブチル基、2−アミノブチル基、3―アミノブチル基、4−アミノブチル基、2−メチル−3−アミノプロピル基、2−メチル−2−アミノプロピル基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、へキシルチオ基、メチルチオメチル基、エチルチオメチル基、n−プロピルチオメチル基、イソプロピルチオメチル基、n−ブチルチオメチル基、イソブチルチオメチル基、sec−ブチルチオメチル基、tert−ブチルチオメチル基、n−ペンチルチオメチル基、イソペンチルチオメチル基、1−メチルチオエチル基、2−メチルチオエチル基、1−エチルチオエチル基、2−エチルチオエチル基、1−n−プロピルチオエチル基、2−n−プロピルチオエチル基、1−イソプロピルチオエチル基、2−イソプロピルチオエチル基、1−n−ブチルチオエチル基、2−n−ブチルチオエチル基、1−イソブチルチオエチル基、2−イソブチルチオエチル基、1−sec−ブチルチオエチル基、2−sec−ブチルチオエチル基、1−tert−ブチルチオエチル基、2−tert−ブチルチオエチル基、1−メチルチオプロピル基、2−メチルチオプロピル基、3−メチルチオプロピル基、1−メチルチオ−1−メチルエチル基、2−メチルチオ−1−メチルエチル基、1−エチルチオプロピル基、2−エチルチオプロピル基、3−エチルチオプロピル基、1−エチルチオ−1−メチルエチル基、2−エチルチオ−1−メチルエチル基、1−n−プロピルチオプロピル基、2−n−プロピルチオプロピル基、3−n−プロピルチオプロピル基、1−n−プロピルチオ−1−メチルエチル基、2−n−プロピルチオ−1−メチルエチル基、1−イソプロピルチオプロピル基、2−イソプロピルチオシプロピル基、3−イソプロピルチオプロピル基、1−イソプロピルチオ−1−メチルエチル基、2−イソプロピルチオ−1−メチルエチル基、1−メチルチオブチル基、2−メチルチオブチル基、3−メチルチオブチル基、4−メチルチオブチル基、2−メチルチオ−1−メチルプロピル基、3−メチルチオ−1−メチルプロピル基、3−メチルチオ− 2−メチルプロピル基、2−メチルチオ−1−エチルエチル基、1−エチルチオブチル基、2− エチルチオブチル基、3−エチルチオブチル基、4−エチルチオブチル基、2−エチルチオ−1−メチルプロピル基、3−エチルチオ−1−メチルプロピル基、3−エチルチオ−2−メチルプロピル基、2−エチルチオ−1−エチルエチル基、1−メチルチオペンチル基、2−メチルチオペンチル基、3−メチルチオペンチル基、4−メチルチオペンチル基、5−メチルチオペンチル基、チエニル基、2−チエニルメチル基、2−チエニルエチル基、2−(3−チエニル)エチル基、2−メチルスルホニルエチル基等が挙げられる。これらの中でも、操作性が優れることから、1−メトキシプロピル基、3−イソプロポキシプロピル基、テトラヒドロフルフリル基が更に好ましい。
【0017】
本発明の共重合体の重量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000の範囲が好ましく、さらに好ましくは30,000〜150,000の範囲である。Mwが小さいと機械的強度が低下する場合があり、また反対にMwが大きすぎると、溶媒への溶解性が低下する場合があるので好ましくない。
【0018】
本発明の重合体は、ポリビニレンカーボネートを変性剤RNH(式中、Rは水酸基を含まない、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子のうちの少なくともひとつを含有する炭素数1〜30の炭化水素基を示す。)でアミノリシスすることにより製造することができる。変性剤は一般式(1)で表されるカルバメート単位を生成できるもので、例えば、メトキシメチルアミン、エトキシメチルアミン、プロポキシメチルアミン、イソプロポキメチルアミン、ブトキシメチルアミン、イソブトキシメチルアミン、sec−ブトキシメチルアミン、tert−ブトキシメチルアミン、n−ペンチルオキシメチルアミン、イソペンチルオキシメチルアミン、(1−メチルシクロヘキシル)メトキシメチルアミン、シクロペンチルオキシメチルアミン、シクロヘキシルオキシメチルアミン、1−メトキシエチルアミン、2−メトキシエチルアミン、1−ジメチル−2−メトキシエチルアミン、1−エトキシエチルアミン、2−エトキシエチルアミン、1−n−プロポキシエチルアミン、2−n−プロポキシエチルアミン、1−イソプロポキシエチルアミン、2−イソプロポキシエチルアミン、1−n−ブトキシエチルアミン、2−n−ブトキシエチルアミン、1−イソブトキシエチルアミン、2−イソブトキシエチルアミン、1−sec−ブトキシエチルアミン、2−sec−ブトキシエチルアミン、1−tert−ブトキシエチルアミン、2−tert−ブトキシエチルアミン、1−メトキシ−1−メチルエチルアミン、2−メトキシ−1−メチルエチルアミン、2−シクロペンチルオキシエチルアミン、1−メトキシプロピルアミン、2−メトキシプロピルアミン、2−メトキシイソプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、1−エトキシプロピルアミン、2−エトキシプロピルアミン、2−エトキシイソプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、1−プロポキシプロピルアミン、3−プロポキシプロピルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、1−プロポキシブチルアミン、1−メトキシブチルアミン、2−メトキシブチルアミン、3−メトキシブチルアミン、4−メトキシブチルアミン、2−メチル−2−メトキシブチルアミン、3−メチル3−メトキシブチルアミン、1−エトキシブチルアミン、2−エトキシブチルアミン、3−エトキシブチルアミン、4−エトキシブチルアミン、4−プロポキシブチルアミン、テトラヒドロフリルアミン、テトラヒドロフルフリルアミン、メチルアミノメチルアミン、ジメチルアミノメチルアミン、2−メチルアミノエチルアミン、2−ジメチルアミノエチルアミン、3−メチルアミノプロピルアミン、3−ジメチルアミノプロピルアミン、2−メチルアミノイソプロピルアミン、2−ジメチルアミノイソプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、4−メチルアミノブチルアミン、4−ジメチルアミノブチルアミン、2−メチルアミノ−1−ジメチルエチルアミン、3−エチルアミノプロピルアミン、4−エチルアミノブチルアミン、2−(1−ピロリジニル)エチルアミン、3−(1−ピロリジニル)プロピルアミン、2−(1−メチル−2−ピロリジニル)エチルアミン、3−(1−メチル−2−ピロリジニル)プロピルアミン、2−(1−ピペリジニル)エチルアミン、3−(1−ピペリジニル)プロピルアミン、2−(2−オキソピロリジン−1−イル)エチルアミン、メチルチオメチルアミン、エチルチオメチルアミン、n−プロピルチオメチルアミン、n−ブチルチオメチルアミン、n−ペンチルチオメチルアミン、2−メチルチオエチルアミン、2−エチルチオエチルアミン、2−n−プロピルチオエチルアミン、2−イソプロピルチオエチルアミン、2−n−ブチルチオエチルアミン、3−メチルチオプロピルアミン、2−メチルチオ−1−メチルエチルアミン、3−エチルチオプロピルアミン、3−n−プロピルチオプロピルアミン、3−イソプロピルチオプロピルアミン、4−メチルチオブチルアミン、3−メチルチオ−1−メチルプロピルアミン、3−メチルチオ− 2−メチルプロピルアミン、2−メチルチオ−1−エチルエチルアミン、4−エチルチオブチルアミン、3−エチルチオ−1−メチルプロピルアミン、3−エチルチオ−2−メチルプロピルアミン、5−メチルチオペンチルアミン、2−チエニルメチルアミン、2−チエニルエチルアミン、2−(3−チエニル)エチルアミン、2−メチルスルホニルエチルアミン基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数3〜12のアルコキシアルキルアミンが好ましく、3−メトキシプロピルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、テトラヒドロフルフリルアミンが更に好ましい。変性量は、共重合体において、一般式(1)の含有量が1〜100mol%好ましくは30〜100mol%となるよう、変性剤RNHの量を適宜調整すれば良い。一般式(1)の割合が30mol%未満になると、溶媒への溶解性がやや低下する傾向がある。反応温度は30〜120℃、好ましくは60〜80℃の範囲で、反応時間は5〜72時間が好ましい。
【0019】
本発明に用いられるポリビニレンカーボネートは、市販のものでよく、又はビニレンカーボネートのラジカル重合によって合成しても良い。ポリビニレンカーボネートのMwは10,000〜1,000,000の範囲が好ましく、さらに好ましくは30,000〜150,000の範囲である。Mwが小さいと機械的強度が低下する場合があり、あまりに大きすぎると、溶媒への溶解性が低下する場合がある。
【0020】
重合開始剤としては、一般的にラジカル重合に使用され、熱により重合を開始させるものが使用可能であり、例えば、α,α’ーアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス(4ーメトキシー2,4ージメチルバレロニトリル)、アゾビス(2,4ージメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル(BPO)、ジーtertーブチルパーオキサイド等が好ましい。この重合開始剤は0.01〜10重量%程度添加すればよい。反応温度は40〜140℃、好ましくは60〜100℃の範囲で、6〜72時間、好ましくは12〜24時間反応させるとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の重合体は、一般式(1)及び(2)を含有する共重合体であり、一般式(1)及び(2)の含有量およびN−置換カルバメート基の置換基の変更が容易である。つまり一般式(1)、(2)の含有量を容易に変更することができることによって、親水性・疎水性を制御可能という有用な効果がある。またN−置換カルバメート基の置換基の変更が可能であることについては親水性・疎水性を制御可能という点から医療材料や包装材料等への展開が期待できる。
【0022】
更に本願発明によって得られた本発明の重合体は、メチルアルコールやエチルアルコール等のアルコールへの溶解が可能になり、そのまま、あるいは必要に応じて各種の添加剤を添加、混合することにより、ガラス基板、プラスチックフィルム等の基材へ適用する組成物として使用できる。
【0023】
また本発明の重合体を基材に適用する方法としては、例えば塗布、はけ塗り、ディップコーティング、スピンコーティング、バーコーディング、流し塗り、スプレー塗装、ロール塗装、エアーナイフコーティング、ブレードコーティングなど通常知られている各種の方法を用いることが可能である。
【0024】
また、本発明の重合体は、親水性・疎水性の制御が可能であることから、ガラス基材やプラスチックフィルム等基材に適用することによって、細胞や組織の接着を制御できるという特徴を有し、浮遊性細胞や特定接着性細胞の培養基材として使用することができる。
【0025】
また、本発明の重合体は、中間水を有することが可能となり、この中間水と呼ばれる状態の水分子が基材の表面に存在することにより、生体組織中のたんぱく質の非特異吸着が防止され、その結果として、生体適合性を付与することが可能となり、各種の使用用途に適したコーティング材や、それを用いた医療用器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】重合体Aの13C−NMRスペクトルチャートである。
図2】重合体Bの13C−NMRスペクトルチャートである。
図3】重合体Cの13C−NMRスペクトルチャートである。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また本発明の要旨の範囲内で適宜に変更して実施することができる。
【0028】
なお、断りのない限り用いた試薬は市販品を用い、実施例により示す諸物性は、以下の方法により測定した。
【0029】
<アミノリシスの追跡>
液成分を、ガスクロマトグラフ(島津製作所製(商品名)GC−14B)を用いて分析した。分離カラムはキャピラリーカラム(商品名)Inert Cap for Amine(長さ60m、内径0.32mm)を用い、内部標準物質としてナフタレンを用いて内部標準法により測定した。
【0030】
<樹脂の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GX270)を用いた、プロトン核磁気共鳴分光(H−NMR)スペクトル分析、カーボン核磁気共鳴分光(13C−NMR)スペクトル分析より求めた。
【0031】
<樹脂の物性>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては東ソー(株)製 HLC−8120GPCを用い、カラムとしては東ソー(株)製 TSKgel SuperAWM−Hを用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液としてDMF+10mM−LiBrを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mlの濃度で調製し、0.2ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリエチレンオキサイド試料を用いて校正した。なお、MwおよびMnはポリエチレンオキサイド換算の値として求めた。
【0032】
<重合体の溶解性>
メタノール、エタノールに対して、重合体を溶液濃度が30質量%になるように混合させた。その後、該溶解液を透明なガラス瓶の中で2時間静置した後、目視で均一性を確認し、以下の基準で評価した。
○:均一に溶解し、静置後も均一な溶液であった。
×:混合しても溶解しなかった。または、均一に溶解したが、静置すると、層分離するかまたは凝固した。
【0033】
本発明においては、いずれかの溶媒において○の評価であることが好ましい。
【0034】
<中間水の有無の確認>
DSC装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社、「DSC6220」)を用い、窒素流量40mL/min、2.5℃/minの条件で測定した。温度プログラムは、(i)30℃から−100℃まで冷却、(ii)−100℃で5分間保持、(iii)−100℃から30℃まで加熱を行い、上記(iii)において、水の低温結晶化に起因する発熱ピーク及び水の低温融解に起因する吸熱ピークの有無によって中間水の有無を確認した。
【0035】
合成例1 ポリビニレンカーボネートの合成
ガラス封管中に、ビニレンカーボネート40g、重合開始剤としてα,α’ーアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.16g、ジメチルホルムアミド(DMF)3.76gを仕込み、窒素置換後、重合温度60℃、重合時間18時間の条件にてラジカル重合反応を行なった。反応後、得られた固形物をDMFに溶解させ、その溶液と過剰のメタノールと混合することにより白色の繊維状の固体を析出させた。得られた個体を濾過後、メタノールで十分洗浄し80℃にて乾燥させた。その結果、約60%の収率で所期の有機高分子を得た。
【0036】
この有機高分子はFT−IRおよびDMSO中H−NMRによりポリビニレンカーボネート(PVCa)であることが同定できた。得られたポリビニレンカーボネートのMwは、58000、Mw/Mnは2.3であった。
【0037】
ポリビニレンカーボネートは、メタノール、エタノールは全く溶解しなかった。
【0038】
実施例1
合成例1で得られたポリビニレンカーボネート5gを25mlのDMF中に溶解させ、3−イソプロポキシプロピルアミン13.6gを投入し、窒素雰囲気下、60℃で反応を行った。反応中にサンプリングを行い、サンプリング物をGCで分析してポリビニレンカーボネート等量の3−イソプロポキシプロピルアミンが消失するまで反応を行った。反応時間は3−イソプロポキシプロピルアミン投入後、10時間であった。反応終了後、窒素雰囲気下、反応溶液を過剰のヘキサンと混合することにより、白色繊維状固体を析出させた。得られた個体を濾過後、ヘキサンによるソックスレー抽出を行い、精製し、100℃にて真空乾燥させた。その結果、約84%の収率で重合体Aを得た。
【0039】
得られた重合体Aは、DMSO中H−NMR、13C−NMRにより、ポリビニレンカーボネートのカーボネート基が約100%開環し、側鎖に水酸基とN−3−イソプロポキシプロピルカルバメート基を有する構造であると同定できた。得られた重合体AのMwは61000、Mw/Mnは2.6であった。
【0040】
また、得られた重合体Aの13C−NMRスペクトルチャートを図1に示す。以下に示すように、式(1)のRが3−イソプロポキシプロピルである重合体Aに由来するカーボンの存在が確認できた。
22ppm:−
30ppm:−CH−CH−O−
38ppm:−−CH−CH−O−
66ppm:−CH−CH−O−
67ppm:−H(OH)−
70ppm:−OH(CH
74ppm:−H[OCONHCHCHCHOCH(CH]−
156ppm:−O−O−NHCH
得られた重合体Aは、メタノール、エタノールに溶解した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
実施例2
3−イソプロポキシプロピルアミン13.6gの代わりに、3−メトキシプロピルアミン10.4gを使用し、実施例1と同様の方法で反応を行った。反応時間は3−メトキシプロピルアミン投入後、6時間であった。反応終了後、窒素雰囲気下、反応溶液を過剰のメチルエチルケトンと混合することにより、白色繊維状固体を析出させた。得られた個体を濾過後、ヘキサンによるソックスレー抽出を行い、精製し、100℃にて真空乾燥させた。その結果、約80%の収率で重合体Bを得た。
得られた重合体BのMwは62000、Mw/Mnは2.3であった。
また、得られた重合体Bの13C−NMRスペクトルチャートを図2に示す。以下に示すように、式(1)のRが3−メトキシキシプロピルである重合体Bに由来するカーボンの存在が確認できた。
29ppm:−CH−CH−O−
38ppm:−−CH−CH−O−
58ppm:−O
67ppm:−H(OH)−
70ppm:−CH−CH−O−
73ppm:−H[OCONHCHCHCHOCH]−
156ppm:−O−O−NHCH
得られた重合体Bは、メタノールに溶解した。結果を表1に示す。
【0042】
また、得られた重合体Bについて、DSC測定を行った結果、−80℃付近に水の低温結晶化に伴う挙動、−40℃付近に水の低温融解に伴う挙動が確認され、重合体Bが中間水を保持していることが明らかになった。
【0043】
実施例3
3−メトキシプロピルアミン10.4gの代わりに、テトラヒドロフルフリルアミン11.8gを使用した以外は、実施例2と同様の方法で重合体Cを得た。反応時間はテトラヒドロフルフリルアミン投入後、12時間であった。収率は84%、得られた重合体CのMwは56000、Mw/Mnは2.3であった。
また、得られた重合体Bの13C−NMRスペクトルチャートを図3に示す。以下に示すように、式(1)のRがテトラヒドロフルフリルである重合体Cに由来するカーボンの存在が確認できた。
25ppm:−CH−CH−O−
28ppm:−−CH−CH−O−
45ppm:−NH−
67ppm:−H(OH)−
69ppm:−CH−CH−O−
74ppm:−H[OCONHCHO]−
77ppm:−H<
156ppm:−O−O−NHCH
得られた重合体Cは、メタノールに溶解した。結果を表1に示す。
また、得られた重合体Cについて、DSC測定を行った結果、−70℃付近に水の低温結晶化に伴う挙動、−30℃付近に水の低温融解に伴う挙動が確認され、重合体Cが中間水を保持していることが明らかになった。
実施例4
【0044】
3−イソプロポキシプロピルアミン4.81gを使用した以外は、実施例1と同様の方法で重合体Dを得た。反応中にサンプリングを行い、サンプリング物をGCで分析して3−イソプロポキシプロピルアミンが消失するまで反応を行った。反応時間は3−イソプロポキシプロピルアミン投入後、9時間であった。得られた重合体Dは、ポリビニレンカーボネートのカーボネートが72%開環し、側鎖に水酸基とN−イソプロポキシプロピルカルバメート基を有する構造であり、収率は70%、Mwは60000、Mw/Mnは2.4であった。
実施例5
【0045】
3−メトキシプロピルアミン1.63gを使用した以外は、実施例2と同様の方法で重合体Eを得た。反応中にサンプリングを行い、サンプリング物をGCで分析して3−メトキシプロピルアミンが消失するまで反応を行った。反応時間は3−メトキシプロピルアミン投入後、6時間であった。得られた重合体Eは、ポリビニレンカーボネートのカーボネートが33%開環し、側鎖に水酸基とN−メトキシプロピルカルバメート基を有する構造であり、収率は75%、Mwは60000、Mw/Mnは2.5であった。
実施例6
【0046】
3−ジメチルアミノプロピルアミン11.9gを使用した以外は、実施例1と同様の方法で重合体Fを得た。収率は69%、得られた重合体FのMwは61000、Mw/Mnは2.6であった。
実施例7
【0047】
3−メチルチオプロピルアミン12.2gを使用した以外は、実施例1と同様の方法で重合体Gを得た。収率は72%、得られた重合体FのMwは60000、Mw/Mnは2.5であった。
図1
図2
図3