【実施例】
【0029】
(実施例1)
上記コンロッドの製造方法に係る実施例につき、比較例と共に説明する。本例では、表1に示すごとく、成分組成が異なる3種類の鋼材を準備して、表2に示す複数の製造条件でコンロッドを作製し、その機械的性質を評価した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
本例の基本的な製造工程は、準備した鋼材を1150℃〜1250℃に加熱後、1000℃以上の状態で鋼材に熱間鍛造を施して、
図1に示すごとく、大端部11と小端部12とそれらの間に位置するコラム部13とを有するコンロッド1を形成し、室温まで放冷後、治具21、22を介して、コラム部13の軸方向に冷間において圧縮加工を施して、所定の軸方向永久歪みをコラム部13に付与するというものである。
【0033】
本例での圧縮加工は、上述したごとく冷間(室温)で行い、圧縮加工によって与えた永久歪みが表2に示す値となる条件とした。治具21、22は、それぞれ、大端部11、小端部12を収容可能な挿入穴210、220を有するものであり、これらの挿入穴210、220にコンロッド1を挿入した状態で、プレス装置(図示略)によって圧縮する。その結果、コラム部13には、その軸方向に圧縮加工が加えられることとなる。この場合、圧縮方向の歪みは断面全体に均一に付与され、均等に加工硬化による強度向上効果が得られる。
【0034】
なお、従来例のC10〜C12の条件は、コラム部13に対して軸方向の圧縮加工ではなく、従来と同様の軸方向に直交する方向の圧縮加工を加えた。なお、この場合には、本発明の実施例とは異なり、断面内の圧縮歪み分布は一様ではなく、表面近くに偏った分布となる。
【0035】
圧縮加工を終えた各コンロッドには、切削加工を施すことなく、圧縮加工後の永久歪みの測定、及び機械的性質の評価を行った。
【0036】
永久歪みの測定は、E1〜E9及びC1〜C9については、コラム部13の軸方向における大端部11に近い位置と小端部12に近い位置とにそれぞれ標点を設け、その標点間距離の変化量を測定することによって求めた。また、C10〜C12については、コラム部13の軸方向に直交する方向の歪みを採用し、具体的には、高さ変化(
図8におけるH
1からH
2への減少率)を永久歪みの値とした。これらの値は、表2に示す。
【0037】
機械的性質は、コンロッド1の大端部11と小端部12に機械加工を施し、これら大端部11及び小端部12をそれぞれ治具21及び22に挿入し、圧縮試験を行うことによって評価した。圧縮試験によって得られた0.2%耐力は、コンロッドの座屈強度に直接的に影響する特性である。さらに、0.2%耐力の値については、同じ鋼種の比較例における圧縮加工を行わなかった例(C1、C4またはC7)の結果を基準にして向上率を計算した。0.2%耐力の値と向上率とは、表2に示した。
【0038】
また、0.2%耐力の値と向上率とは、
図2及び
図3にも示した。これらの図は、横軸に軸方向の永久歪み(圧縮率)%をとり、縦軸に、0.2%耐力または向上率をとったものである。
【0039】
表2並びに
図2及び
図3から知られるごとく、永久歪みが2%以上10%未満となるように圧縮加工を施したE1〜E9の条件の場合には、比較例(C1、C4またはC7)と比べて20%以上の耐力向上率が見られ、十分に座屈強度が向上していることが分かる。また、表及び図には示していないが、軸方向に圧縮加工することにより断面積が若干増加するため、0.2%耐力を示した際の荷重で比較すると30%以上の向上が見られた。
【0040】
一方、永久歪みが2%未満あるいは10%以上の比較例(C1〜C9)や従来例(C10〜C12)は、耐力の向上があまり見られなかった。
【0041】
より具体的には、C2、C5及びC8の場合には、圧縮加工による永久歪みが2%未満であるため、耐力向上効果が十分に得られなかった。また、C3、C6及びC9の場合には、圧縮加工による永久歪みが10%以上となったことにより、座屈が生じた影響で耐力向上効果が半減することがわかった。また、C10〜C12は、前記した特許文献に記載の通り、コイニングと呼ばれる軸方向に直交する圧縮加工を行ったものであるが、この場合、上述の通り、塑性歪みはコラム部の厚み方向の表層部分に集中し、かなり大きな加工を加えないと断面全体が加工硬化しないこと、大きな加工を加えると断面積が減少してしまうことから、座屈しない限界の軸方向荷重はほとんど増加しないか、場合によっては減少する場合もある(C12の場合には6%減少)。したがって、従来のコラム部の軸方向に直交する方向への圧縮加工では、耐力向上効果があまり得られず、座屈強度を向上させることが困難であることが分かった。
【0042】
以上説明した通り、本発明ではコンロッド部品において、最も強度を必要とする部位であるコラム部を軸方向に圧縮加工するが、コンロッドの製造時にコラム部は圧縮加工後に機械加工することはない。機械加工される部位はクランクやピストン部品を固定する大端部と小端部に限定される。したがって、上記圧縮加工によりコラム部が加工硬化した場合でも、コラム部の機械加工は不要であるため切削性への影響がなく、また、機械加工される大端部や小端部には、上記圧縮加工により塑性変形しないため、加工硬化により被削性が低下することがない。そのため、本発明の方法により製造したコンロッド部品は優れた強度を有する割に製造上問題とならない被削性を容易に確保することができる。
【0043】
(実施例2)
本例では、実施例1と同じ基本的な製造工程の採用し、圧縮加工の後に、コンロッドを所定温度に30分間保持する時効処理を追加したものである。時効処理の温度条件は、表3に示す。その他の製造条件及び評価方法は実施例1の場合と同じであり、これらの結果は、表3並びに
図4及び
図5に示す。これらの図は、横軸に時効温度(℃)をとり、縦軸に、0.2%耐力または向上率をとったものである。
【0044】
【表3】
【0045】
表3並びに
図4及び
図5から知られるごとく、時効温度が300℃以下で適正な場合には、時効処理がない場合と比べてさらに耐力の向上が見られる。一方、時効温度が300℃を超えるC13については、耐力向上効果が低下した。これは、時効温度が高すぎることにより回復・再結晶が生じたためと考えられる。この結果から、300℃以下の温度で時効処理を追加することが有効であることが分かる。
【0046】
(実施例3)
本例では、実施例1の基本的な製造工程における圧縮加工を、熱間鍛造後の冷却過程で行い、所定の温度の温間加工に変更した例である。温間加工の温度条件は、表4に示す。その他の製造条件及び評価方法は実施例1の場合と同じであり、これらの結果は、表4並びに
図6及び
図7に示す。これらの図は、横軸に温間加工温度(℃)をとり、縦軸に、0.2%耐力または向上率をとったものである。
【0047】
【表4】
【0048】
表4並びに
図6及び
図7から知られるごとく、温間加工の温度が少なくとも200℃〜400℃の範囲内である場合には、冷間加工(室温)で圧縮加工する場合よりも耐力向上効果が高まることがわかる。一方、圧縮加工の温度が500℃のC14については、耐力向上効果が大幅に低下した。これは、温間加工の温度が高すぎることにより回復・再結晶が生じたためと考えられる。この結果から、圧縮加工を温間加工で行う場合には、少なくとも、200℃〜400℃の範囲内で行うことが好ましいことが分かる。