特許第6477732号(P6477732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6477732フィルム、その製造方法および該フィルムを用いた半導体素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6477732
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】フィルム、その製造方法および該フィルムを用いた半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/56 20060101AFI20190225BHJP
   B29C 33/68 20060101ALI20190225BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20190225BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   H01L21/56 T
   B29C33/68
   B32B27/30 A
   B32B27/30 D
   B32B27/00 L
【請求項の数】15
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-573381(P2016-573381)
(86)(22)【出願日】2016年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2016053072
(87)【国際公開番号】WO2016125796
(87)【国際公開日】20160811
【審査請求日】2018年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-22691(P2015-22691)
(32)【優先日】2015年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】小寺 省吾
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 政己
【審査官】 土谷 慎吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−166904(JP,A)
【文献】 特開2012−167177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/56
B29C 33/68
B32B 27/00
B32B 27/30
C09J 7/02
C09J 133/02
C09J 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の面上に設けられた粘着層と、を備えるフィルムであって、
前記基材の180℃における貯蔵弾性率が10〜100MPaであり、
前記粘着層が、ヒドロキシ基を有するアクリル系重合体と、多官能イソシアネート化合物とを含む粘着層用組成物の反応硬化物であり、
前記アクリル系重合体の、ヒドロキシ基とカルボキシ基との合計当量が2,000g/モル以下であり、
前記粘着層用組成物中のMCOOH/(MNCO−MOH)が0〜1.0であり、MNCO/(MCOOH+MOH)が0.4〜3.5である(ただし、MOHは、前記アクリル系重合体に由来するヒドロキシ基のモル数MOHであり、MCOOHは、前記アクリル系重合体に由来するカルボキシ基のモル数であり、MNCOは、前記多官能イソシアネート化合物に由来するイソシアナート基のモル数である。)ことを特徴とするフィルム。
【請求項2】
前記アクリル系重合体の質量平均分子量が10万〜120万である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記多官能イソシアネート化合物がイソシアヌレート環を有する、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記粘着層の180℃における貯蔵弾性率が2〜20MPaである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記粘着層の坪量W1(g/m)と、当該フィルムに以下の溶解試験を行った後に残存する粘着層の坪量W2(g/m)とから以下の式で求められる、前記粘着層の不溶化度が、40〜90%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルム。
不溶化度(%)=(W2/W1)×100
<溶解試験>
フィルムを20〜25℃の塩化メチレン中に浸漬し、1日撹拌する。1日の撹拌が終了した後のフィルムを、別の20〜25℃の塩化メチレンに10分間浸漬して洗浄する。洗浄を行った後のフィルムを、100℃で2時間真空乾燥させる。
【請求項6】
前記基材がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】
前記基材の厚さが50〜100μmであり、前記粘着層の厚さが0.5〜15μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記粘着層用組成物がさらに帯電防止剤を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記基材と前記粘着層との間に帯電防止層を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項10】
封止樹脂で封止され半導体素子を製造する封止工程で用いられる離型フィルムである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項11】
前記封止樹脂で封止され半導体素子が、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が封止樹脂から露出している半導体素子である、請求項10に記載のフィルム。
【請求項12】
前記封止工程において硬化性樹脂を金型内で硬化させて封止樹脂とする際に、金型内面に離型フィルムの基材側の面が接し、半導体チップの該表面の一部に離型フィルムの粘着層の面が接する、ように用いられる離型フィルムである、請求項10または11に記載のフィルム。
【請求項13】
以下の封止工程において用いられる離型フィルムである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のフィルム。
封止工程:金型の硬化性樹脂が接する面に離型フィルムをその基材側の面が金型面に接するように配置し、該金型内に、半導体チップを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有する構造体を配置する工程と、
前記金型を型締めして、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面に、前記離型フィルムを介して前記金型を接触させる工程と、
前記金型を型締めした状態で、該金型内に硬化性樹脂を満たして硬化させ、樹脂封止部を形成することにより、前記構造体と前記樹脂封止部とを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した封止体を得る工程と、
前記封止体を前記金型から離型する工程と、
を含む封止工程。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法であって、
前記基材の一方の面上に、前記粘着層用組成物と液状媒体とを含む粘着層用塗工液を塗工、乾燥して粘着層を形成する工程を含むことを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項15】
半導体チップと、硬化性樹脂から形成される樹脂封止部とを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した半導体素子の製造方法であって、
金型の硬化性樹脂が接する面に請求項1〜9のいずれか一項に記載のフィルムをその基材側の面が金型面に接するように配置し、該金型内に半導体チップを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有する構造体を配置する工程と、
前記金型を型締めして、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面に、前記離型フィルムを介して前記金型を接触させる工程と、
前記金型を型締めした状態で、該金型内に硬化性樹脂を満たして硬化させ、樹脂封止部を形成することにより、前記構造体と前記樹脂封止部とを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した封止体を得る工程と、
前記封止体を前記金型から離型する工程と、
を含むことを特徴とする半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子製造用の離型フィルムとして適したフィルム、その製造方法および該フィルムを用いた半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップは通常、外気からの遮断・保護のため、パッケージと呼ばれる容器に収容(封止)され、半導体素子として基板上に実装されている。パッケージには、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等の硬化性樹脂が用いられている。半導体素子の製造方法としては、たとえば、半導体チップ等を、金型内の所定の場所に位置するように配置し、金型内に硬化性樹脂を充填して硬化させる、いわゆるトランスファ成形法または圧縮成形法が知られている。
近年、半導体素子において、放熱性の向上や薄型化を目的として、たとえば半導体チップや半導体チップに接合されたソース電極等を露出させることが行われるようになっている(たとえば特許文献1)。このような半導体素子としては、センサが代表的に挙げられる。
【0003】
また、近年、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等として、半導体チップが搭載された基板上にリブ材(スペーサ)を介してシールガラスが積層した中空構造の半導体素子が用いられるようになってきている。かかる半導体素子の製造においては、リブ材の上にシールガラスを積層した後、リブ材とシールガラスの周面をさらに硬化性樹脂で封止することが行われている(たとえば特許文献2)。
【0004】
このような半導体チップやその他の部位(ソース電極、シーリングガラス等)の一部が露出した半導体素子(以下、「露出素子」ともいう。)は、たとえば、半導体チップやその他の部位における露出させたい部分(以下、「露出部」ともいう。)に金型を押し当て、その状態で硬化性樹脂を充填し、硬化させることにより製造される。
しかし、露出素子の製造においては、露出部への硬化性樹脂の漏れこみ(通称、バリ)が問題となることが多い。つまり充填した硬化性樹脂が金型と露出部との間に入り込み、そのまま硬化し、その硬化物によって露出部の表面が薄く覆われた状態になりやすい。漏れこみを減らす目的で金型のクランプ圧を上げ、露出部に金型を強く押し付ければ、露出部がへこんだり傷付いたりして半導体チップやその他の部位が破壊されてしまう。そのため、露出部と金型とは弱く接触している状態にしなければならず、漏れこみが発生しやすい。漏れこみが発生した場合には、露出部を覆う硬化物を除去する工程を入れなければならない等、生産性が低下する。
【0005】
漏れこみの対策として、下記(1)〜(4)の離型フィルムを用いることが提案されている。
(1)成形品からの離型性を担う層(A層)と、成形時の加熱に対する耐熱性を担う層(B層)との2層を含むもの(特許文献3)。
(2)半導体素子を樹脂成形する際に、半導体素子の離型性を担う層(A層)と、成形時の加熱に対する耐熱性を担う層(B層)との少なくとも2層を含み、B層がポリアミド樹脂であるもの(特許文献4)。
(3)基材フィルムと、該基材フィルムよりも低圧縮弾性率の補助層との複合フィルムからなり、補助層をチップの被封止面側に向けて使用されるもの(特許文献5)。
(4)基材シート上に、モールド成形用樹脂に対して離型性を有し、180℃における圧縮弾性率が15〜300MPaであり、かつ、厚さが20〜70μmのクッション層を設けてなるもの(特許文献6)。
【0006】
(1)の離型フィルムにおいて、A層には、アクリル樹脂やポリイソブチレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)樹脂、シンジオタクティックポリスチレン樹脂が使用され、B層には、ポリ(4−メチルペンテン−1)樹脂や2軸延伸ポリエチレンテレフタレート、軟質共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリイミドが使用されている。
(2)の離型フィルムにおいて、A層には、アクリル樹脂やシリコーン樹脂が使用されている。
(3)の離型フィルムにおいて、補助層には、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン等)やフッ素ゴムが使用され、基材フィルムには、ポリイミドフィルムやアルミニウム箔が使用されている。
(4)の離型フィルムにおいて、クッション層には、シリコーンゴムが使用され、基材シートには、ポリエステルが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−200338号公報
【特許文献2】特開2014−225619号公報
【特許文献3】特開2002−158242号公報
【特許文献4】特開2004−079567号公報
【特許文献5】特開2001−250838号公報
【特許文献6】特開2004−253498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記(1)、(2)の離型フィルムは、硬化後の硬化性樹脂(樹脂封止部)に対する離型性が不充分である。代表的な露出素子であるセンサの場合、形状が複雑で、離型フィルムと樹脂封止部との接触面積が大きいため、樹脂封止部に対する離型性がより優れる(樹脂封止部に対する接着性がより低い)ことが望ましい。
前記(1)、(3)、(4)の離型フィルムは、低移行性という点が不充分である。たとえば露出素子の半導体チップの汚染は、変色等の外観不良に繋がる。そのため、離型フィルムには、半導体チップを汚染しないことが求められる。(1)、(3)、(4)の離型フィルムの場合、封止工程で、半導体チップと接する層(補助層、A層、クッション層)に含まれる成分や分解物(たとえばゴムに含まれる各種添加剤、シリコーンから生じる反応性オリゴマー等)が半導体チップに移行することによる汚染が生じやすい。ソース電極やシーリングガラスの場合も同様の問題が懸念される。本明細書においては、前述したような汚染の原因となる物質(汚染物質)が半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスに移行しにくい性質を「低移行性」ともいう。
前記(1)、(2)の離型フィルムのうち、A層にアクリル樹脂を用いたものは、半導体チップに対する再剥離性が不充分である。半導体素子の封止は通常、180℃程度の高温で行われる。A層にアクリル樹脂を用いた(1)、(2)の離型フィルムは、封止工程の間にA層の粘着力が増大し、半導体チップの露出部から離型フィルムを剥離する際にA層の一部または全部が半導体チップに付着したまま残ってしまう、いわゆる糊残りが発生する問題がある。ソース電極やシーリングガラスの場合も同様の問題が懸念される。本明細書においては、前述したように、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスの露出部から離型フィルムを剥離する際の、離型フィルムの剥離しやすさを「再剥離性」といい、剥離しやすい場合には再剥離性に優れるといい、剥離しにくい場合には再剥離性が不充分であるとする。
以上のように、前記(1)〜(4)の離型フィルムにおいては、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスの表面の一部が露出した半導体素子の製造において、樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスに対する低移行性および再剥離性を両立できるものではなかった。
【0009】
本発明の目的は、樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスに対する低移行性および再剥離性に優れ、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスの表面の一部が露出した半導体素子の製造用として有用な離型フィルムとして適したフィルムおよびその製造方法、ならびに該フィルムを用いた半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]〜[15]の構成を有する、半導体素子製造用の離型フィルムとして適したフィルム、その製造方法および該フィルムを用いた半導体素子の製造方法に関する。
[1]基材と、前記基材の一方の面上に設けられた粘着層と、を備えるフィルムであって、
前記基材の180℃における貯蔵弾性率が10〜100MPaであり、
前記粘着層が、ヒドロキシ基を有するアクリル系重合体と、多官能イソシアネート化合物とを含む粘着層用組成物の反応硬化物であり、
前記アクリル系重合体の、ヒドロキシ基とカルボキシ基との合計当量が2,000g/モル以下であり、
前記粘着層用組成物中のMCOOH/(MNCO−MOH)が0〜1.0であり、MNCO/(MCOOH+MOH)が0.4〜3.5である(ただし、MOHは、前記アクリル系重合体に由来するヒドロキシ基のモル数MOHであり、MCOOHは、前記アクリル系重合体に由来するカルボキシ基のモル数であり、MNCOは、前記多官能イソシアネート化合物に由来するイソシアナート基のモル数である。)ことを特徴とするフィルム。
【0011】
[2]前記アクリル系重合体の質量平均分子量が10万〜120万である、[1]のフィルム。
[3]前記多官能イソシアネート化合物がイソシアヌレート環を有する、[1]1または[2]のフィルム。
[4]前記粘着層の180℃における貯蔵弾性率が2〜20MPaである、[1]〜[3]のいずれかのフィルム。
[5]前記粘着層の坪量W1(g/m)と、当該フィルムに以下の溶解試験を行った後に残存する粘着層の坪量W2(g/m)とから以下の式で求められる、前記粘着層の不溶化度が、40〜90%である、[1]〜[4]のいずれかのフィルム。
不溶化度(%)=(W2/W1)×100
<溶解試験>
フィルムを20〜25℃の塩化メチレン中に浸漬し、1日撹拌する。1日の撹拌が終了した後のフィルムを、別の20〜25℃の塩化メチレンに10分間浸漬して洗浄する。洗浄を行った後のフィルムを、100℃で2時間真空乾燥させる。
【0012】
[6]前記基材がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を含む、[1]〜[5]のいずれかのフィルム。
[7]前記基材の厚さが50〜100μmであり、前記粘着層の厚さが0.5〜15μmである、[1]〜[6]のいずれかのフィルム。
[8]前記粘着層用組成物がさらに帯電防止剤を含む、[1]〜[7]のいずれかのフィルム。
[9]前記基材と前記粘着層との間に帯電防止層を有する、[1]〜[7]のいずれかのフィルム。
【0013】
[10]封止樹脂で封止され半導体素子を製造する封止工程で用いられる離型フィルムである、[1]〜[9]のいずれかのフィルム。
[11]前記封止樹脂で封止され半導体素子が、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が封止樹脂から露出している半導体素子である、[10]のフィルム。
[12]前記封止工程において硬化性樹脂を金型内で硬化させて封止樹脂とする際に、金型内面に離型フィルムの基材側の面が接し、半導体チップの該表面の一部に離型フィルムの粘着層の面が接する、ように用いられる離型フィルムである、[10]または[11]のフィルム。
【0014】
[13]以下の封止工程において用いられる離型フィルムである、[1]〜[9]のいずれかのフィルム。
封止工程:金型の硬化性樹脂が接する面に離型フィルムをその基材側の面が金型面に接するように配置し、該金型内に、半導体チップを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有する構造体を配置する工程と、
前記金型を型締めして、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面に、前記離型フィルムを介して前記金型を接触させる工程と、
前記金型を型締めした状態で、該金型内に硬化性樹脂を満たして硬化させ、樹脂封止部を形成することにより、前記構造体と前記樹脂封止部とを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した封止体を得る工程と、
前記封止体を前記金型から離型する工程と、
を含む封止工程。
【0015】
[14]前記[1]〜[9]のいずれかのフィルムの製造方法であって、
前記基材の一方の面上に、前記粘着層用組成物と液状媒体とを含む粘着層用塗工液を塗工、乾燥して粘着層を形成する工程を含むことを特徴とするフィルムの製造方法。
【0016】
[15]半導体チップと、硬化性樹脂から形成される樹脂封止部とを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した半導体素子の製造方法であって、
金型の硬化性樹脂が接する面に[1]〜[9]のいずれかのフィルムをその基材側の面が金型面に接するように配置し、該金型内に半導体チップを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有する構造体を配置する工程と、
前記金型を型締めして、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面に、前記離型フィルムを介して前記金型を接触させる工程と、
前記金型を型締めした状態で、該金型内に硬化性樹脂を満たして硬化させ、樹脂封止部を形成することにより、前記構造体と前記樹脂封止部とを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した封止体を得る工程と、
前記封止体を前記金型から離型する工程と、
を含むことを特徴とする半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフィルムは、樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスに対する低移行性および再剥離性に優れ、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスの表面の一部が露出した半導体素子を製造するための離型フィルムとして有用である。
本発明のフィルムの製造方法によれば、樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスに対する低移行性および再剥離性に優れ、半導体チップ、ソース電極またはシーリングガラスの表面の一部が露出した半導体素子の製造用の離型フィルムとして有用なフィルムを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のフィルムの第1実施形態を示す概略断面図である。
図2】本発明の半導体素子の製造方法により製造する半導体素子の一例を示す略断面図である。
図3】本発明の半導体素子の製造方法により製造する半導体素子の他の例を示す略断面図である。
図4】本発明の半導体素子の製造方法の第1実施形態における工程(1)を示す断面図である。
図5】本発明の半導体素子の製造方法の第1実施形態における工程(2)を示す断面図である。
図6】本発明の半導体素子の製造方法の第1実施形態における工程(3)を示す断面図である。
図7】本発明の半導体素子の製造方法の第1実施形態における工程(5)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書における下記の用語の意味は以下の通りである。
樹脂における「単位」は、当該樹脂を構成する構成単位(単量体単位)を示す。単量体に基づく単位を、「単量体単位」と示すことがある。
「アクリル系重合体」とは、(メタ)アクリレートに基づく単位を有する重合体である。アクリル系重合体に含まれる(メタ)アクリレートに基づく単位は1種でもよく2種以上でもよい。アクリル系重合体は、(メタ)アクリレートに基づく単位以外の他の単位をさらに有していてもよい。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。
ヒドロキシ基を有するアクリル系重合体の「ヒドロキシ基とカルボキシ基との合計当量」は、該アクリル系重合体の、ヒドロキシ基とカルボキシ基との合計1モルあたりの質量を意味する。以下においては、該合計当量を「架橋官能基当量」ともいう。
「側基」とは、樹脂(重合体)の主鎖に結合した基(ペンダント基)を示す。
【0020】
本発明のフィルムは、封止樹脂で封止され半導体素子を製造する封止工程で用いられる離型フィルムとして適したものである。以下、この用途に用いられるフィルムを「離型フィルム」という。
本発明の離型フィルムは、特に、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が封止樹脂から露出している半導体素子を製造する封止工程で用いられる離型フィルムとして適している。しかし、これに限られず、それ以外の樹脂封止半導体素子を製造する封止工程で用いることもできる。
本発明の離型フィルムは、封止工程において硬化性樹脂を金型内で硬化させて封止樹脂とする際に、金型内面に離型フィルムの基材側の面が接し、半導体チップの該表面の一部に離型フィルムの粘着層の面が接する、ように用いることができる。これにより、離型フィルムの粘着層の面が接した半導体チップ表面上には封止樹脂が形成されず、その表面が露出面となる。同様に、本発明の離型フィルムが、ソース電極またはシールガラスを有する半導体チップのソース電極またはシールガラスの表面の一部が封止樹脂から露出している半導体素子を製造する封止工程で用いる場合には、本発明の離型フィルムの粘着層の表面をソース電極またはシールガラスの表面の一部に接触させてその表面と硬化性樹脂との接触を妨げ、これにより、離型フィルムの粘着層の面に接したソース電極またはシールガラスの表面を露出面とすることができる。
【0021】
半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が封止樹脂から露出している半導体素子を製造する封止工程としては、下記工程の組合せからなる封止工程が挙げられるが、これに限られるものではない。
封止工程:金型の硬化性樹脂が接する面に離型フィルムをその基材側の面が金型面に接するように配置し、該金型内に、半導体チップを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有する構造体を配置する工程と、前記金型を型締めして、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面に、前記離型フィルムを介して前記金型を接触させる工程と、前記金型を型締めした状態で、該金型内に硬化性樹脂を満たして硬化させ、樹脂封止部を形成することにより、前記構造体と前記樹脂封止部とを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した封止体を得る工程と、前記封止体を前記金型から離型する工程と、を含む封止工程。
以下、上記封止工程で使用される離型フィルムを例として、本発明の離型フィルムの詳細を説明する。
【0022】
本発明の離型フィルムは、たとえば、露出素子の樹脂封止部を形成する際に、該樹脂封止部の形状に対応する形状のキャビティ(空間)を有する金型の前記キャビティを形成する面(以下、「キャビティ面」ともいう。)を覆うように配置され、形成した樹脂封止部と金型のキャビティ面との間に配置されることによって、得られた封止体の金型からの離型を容易にする。また、樹脂封止部を形成する際、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部に密着することによって、その部分への硬化性樹脂の入り込みを防ぐ。半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の離型フィルムが密着していた部分が、露出素子の外表面(大気と接する面)に露出する露出部となる。
【0023】
〔第1実施形態の離型フィルム〕
図1は、本発明の離型フィルムの第1実施形態を示す概略断面図である。
第1実施形態の離型フィルム1は、基材3と、基材3の一方の面上に設けられた粘着層5とを備える。
粘着層5は、樹脂封止部の形成時に硬化性樹脂および半導体素子と接する。つまり離型フィルム1は、半導体パッケージの製造時に、粘着層5側の表面1aを半導体チップに向けて配置され、樹脂封止部の形成時に半導体チップ、ソース電極またはシールガラスと硬化性樹脂とに接触する。また、この時、基材3側の表面1bは金型のキャビティ面に密着する。この状態で硬化性樹脂を硬化させることにより、金型のキャビティの形状に対応した形状の樹脂封止部が形成される。また、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの、表面1aに接触していた面とキャビティ面との間には硬化性樹脂が入り込まず、該面が露出部となる。
【0024】
(基材)
基材3は、180℃における貯蔵弾性率(以下、「貯蔵弾性率(180℃)」ともいう。)が10〜100MPaであり、10〜80MPaが特に好ましい。
180℃は、半導体素子を封止する際の一般的な金型温度である。
代表的な露出素子であるセンサの場合、形状が複雑であり、その製造に用いられる金型のキャビティの形状も複雑になる。貯蔵弾性率(180℃)が前記範囲の上限値以下であれば、離型フィルムが高温条件下で適度な伸びを示し、キャビティ面が上記のような複雑な形状のものであっても、離型フィルムが確実にキャビティ面に密着し、精度の高い樹脂封止部が形成される。
貯蔵弾性率(180℃)が前記範囲の下限値以上であれば、離型フィルムが高温条件下で適度な強度を示し、離型フィルムを真空で引っ張りながら金型のキャビティ面を覆うように配置する際に、破れやピンホールが発生しにくい。また、離型フィルムに張力が均一にかかり、しわが発生しにくく、離型フィルムのしわが樹脂封止部の表面に転写されることによる外観不良が生じにくい。
【0025】
貯蔵弾性率(180℃)は、ISO 6721−4:1994(JIS K7244−4:1999)に基づき測定される。周波数は10Hz、静的力は0.98N、動的変位は0.035%とする。温度を20℃から2℃/分の速度で上昇させて、180℃の値において測定した貯蔵弾性率を貯蔵弾性率(180℃)とする。
【0026】
貯蔵弾性率(180℃)は、基材3を構成する材質(含む組成)等によって調整できる。たとえば基材3が熱可塑性樹脂で構成される場合、熱可塑性樹脂の結晶化度を調整することによって貯蔵弾性率(180℃)を調整できる。具体的には、熱可塑性樹脂の結晶化度が低いほど、貯蔵弾性率(180℃)は低くなる。熱可塑性樹脂の結晶化度は、公知の方法によって調整できる。たとえば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)の場合、テトラフルオロエチレンとエチレンに基づく単位の比率、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の他の単量体に基づく単位の種類や含有量によって調整できる。
【0027】
基材3としては、封止後の金型からの離型フィルムの離型性に優れる点から、離型性を有する樹脂を含むものが好ましい。
離型性を有する樹脂とは、当該樹脂のみからなる層が離型性を有する樹脂を意味する。離型性を有する樹脂としては、当該樹脂のみからなる層の貯蔵弾性率(180℃)が前記の範囲内となるものが好ましい。かかる樹脂としては、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリシクロオレフィン、シリコーンゴム、ポリエステルエラストマー、ポリブチレンテレフタレート、無延伸ナイロン等が挙げられる。金型からの離型性、封止時の金型の温度(たとえば180℃)における耐熱性、硬化性樹脂の流動や加圧力に耐え得る強度、高温における伸び等の点から、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリシクロオレフィン等が好ましく、離型性に優れる点で、フッ素樹脂が特に好ましい。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
基材3としては、フッ素樹脂のみからなるものが特に好ましい。
【0028】
フッ素樹脂としては、離型性および耐熱性に優れる点から、フルオロオレフィン系重合体が好ましい。フルオロオレフィン系重合体は、フルオロオレフィンに基づく単位を有する重合体である。フルオロオレフィン系重合体は、フルオロオレフィンに基づく単位以外の他の単位をさらに有してもよい。
フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。フルオロオレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
フルオロオレフィン系重合体としては、ETFE、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオリド共重合体(THV)等が挙げられる。フルオロオレフィン系重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
フルオロオレフィン系重合体としては、高温での伸びが大きい点から、ETFEが特に好ましい。ETFEは、TFE単位と、エチレン単位(以下、「E単位」ともいう。)とを有する共重合体である。
ETFEとしては、TFE単位と、E単位と、TFEおよびエチレン以外の第3の単量体に基づく単位とを有する重合体が好ましい。第3の単量体に基づく単位の種類や含有量によってETFEの結晶化度、ひいては基材3の貯蔵弾性率(180℃)や他の引張特性を調整しやすい。たとえば第3の単量体(特にフッ素原子を有する単量体)に基づく単位を有することで、高温(特に180℃前後)における引張強伸度が向上する。
【0031】
第3の単量体としては、フッ素原子を有する単量体と、フッ素原子を有しない単量体とが挙げられる。
フッ素原子を有する単量体としては、下記の単量体(a1)〜(a5)が挙げられる。
単量体(a1):炭素数2または3のフルオロオレフィン類。
単量体(a2):X(CFCY=CH(ただし、X、Yは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表されるフルオロアルキルエチレン類。
単量体(a3):フルオロビニルエーテル類。
単量体(a4):官能基含有フルオロビニルエーテル類。
単量体(a5):脂肪族環構造を有する含フッ素単量体。
【0032】
単量体(a1)としては、フルオロエチレン類(トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、クロロトリフルオロエチレン等)、フルオロプロピレン類(ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」ともいう。)、2−ヒドロペンタフルオロプロピレン等)等が挙げられる。
【0033】
単量体(a2)としては、nが2〜6の単量体が好ましく、nが2〜4の単量体が特に好ましい。また、Xがフッ素原子、Yが水素原子である単量体、すなわち(ペルフルオロアルキル)エチレンが特に好ましい。
単量体(a2)の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
CFCFCH=CH
CFCFCFCFCH=CH((ペルフルオロブチル)エチレン。以下、「PFBE」ともいう。)、
CFCFCFCFCF=CH
CFHCFCFCF=CH
CFHCFCFCFCF=CH等。
【0034】
単量体(a3)の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。なお、下記のうちジエンである単量体は環化重合し得る単量体である。
CF=CFOCF
CF=CFOCFCF
CF=CF(CFCF(ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)。以下、「PPVE」ともいう。)、
CF=CFOCFCF(CF)O(CFCF
CF=CFO(CFO(CFCF
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CFCF
CF=CFOCFCF(CF)O(CFCF
CF=CFOCFCF=CF
CF=CFO(CFCF=CF等。
【0035】
単量体(a4)の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
CF=CFO(CFCOCH
CF=CFOCFCF(CF)O(CFCOCH
CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOF等。
【0036】
単量体(a5)の具体例としては、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)等が挙げられる。
【0037】
フッ素原子を有しない単量体としては、下記の単量体(b1)〜(b4)が挙げられる。
単量体(b1):オレフィン類、
単量体(b2):ビニルエステル類、
単量体(b3):ビニルエーテル類、
単量体(b4):不飽和酸無水物。
【0038】
単量体(b1)の具体例としては、プロピレン、イソブテン等が挙げられる。
単量体(b2)の具体例としては、酢酸ビニル等が挙げられる。
単量体(b3)の具体例としては、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等が挙げられる。
単量体(b4)の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0039】
第3の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
第3の単量体としては、結晶化度を調整しやすい点、第3の単量体(特にフッ素原子を有する単量体)に基づく単位を有することで高温(特に180℃前後)における引張強伸度に優れる点から、単量体(a2)、HFP、PPVE、酢酸ビニルが好ましく、HFP、PPVE、CFCFCH=CH、PFBEがより好ましく、PFBEが特に好ましい。すなわち、ETFEとしては、TFEに基づく単位と、Eに基づく単位と、PFBEに基づく単位とを有する共重合体が特に好ましい。
【0040】
ETFEにおいて、TFE単位と、E単位とのモル比(TFE単位/E単位)は、80/20〜40/60が好ましく、70/30〜45/55がより好ましく、65/35〜50/50が特に好ましい。TFE単位/E単位が前記範囲内であれば、ETFEの耐熱性および機械的強度に優れる。
【0041】
ETFE中の第3の単量体に基づく単位の割合は、ETFEを構成する全単位の合計(100モル%)に対して0.01〜20モル%が好ましく、0.10〜15モル%がより好ましく、0.20〜10モル%が特に好ましい。第3の単量体に基づく単位の割合が前記範囲内であれば、ETFEの耐熱性および機械的強度に優れる。
【0042】
第3の単量体に基づく単位がPFBE単位を含む場合、PFBE単位の割合は、ETFEを構成する全単位の合計(100モル%)に対して0.5〜4.0モル%が好ましく、0.7〜3.6モル%がより好ましく、1.0〜3.6モル%が特に好ましい。PFBE単位の割合が前記範囲内であれば、離型フィルムの180℃における引張弾性率を前記範囲内に調整できる。また、高温(特に180℃前後)における引張強伸度が向上する。
【0043】
ETFEの溶融流量(MFR)は、2〜40g/10分が好ましく、5〜30g/10分がより好ましく、10〜20g/10分が特に好ましい。MFRは、分子量の目安であり、MFRが大きいほど、分子量が小さい傾向がある。ETFEのMFRが前記範囲内であれば、ETFEの成形性が向上し、離型フィルムの機械的強度に優れる。
ETFEのMFRは、ASTM D3159に準拠して、荷重49N、297℃にて測定される値である。
【0044】
基材3は、離型性樹脂のみからなるものでもよく、離型性樹脂に加えて、離型性樹脂以外の成分をさらに含有してもよい。
他の成分としては、たとえば滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、離型剤等が挙げられる。
基材3は、金型を汚しにくい点では、他の成分を含まないことが好ましい。
【0045】
基材3の、樹脂封止部の形成時に金型と接する面、すなわち離型フィルム1の基材3側の表面1bは、平滑でもよく凹凸が形成されていてもよい。金型からの離型性に優れる点では、凹凸が形成されていることが好ましい。
凹凸が形成されている場合の表面形状は、複数の凸部および/または凹部がランダムに分布した形状でもよく、複数の凸部および/または凹部が規則的に配列した形状でもよい。複数の凸部および/または凹部の形状や大きさは、同じでもよく異なってもよい。
凸部としては、離型フィルムの表面に延在する長尺の凸条、点在する突起等が挙げられ、凹部としては、離型フィルムの表面に延在する長尺の溝、点在する穴等が挙げられる。
凸条または溝の形状としては、直線、曲線、折れ曲がり形状等が挙げられる。離型フィルム表面においては、複数の凸条または溝が平行に存在して縞状をなしていてもよい。凸条または溝の、長手方向に直交する方向の断面形状としては、三角形(V字形)等の多角形、半円形等が挙げられる。
突起または穴の形状としては、三角錐形、四角錐形、六角錐形等の多角錐形、円錐形、半球形、多面体形、その他各種不定形等が挙げられる。
【0046】
表面1bの算術平均粗さRaは、0.2〜2.5μmが好ましく、0.2〜2.0μmが特に好ましい。表面1bの算術平均粗さRaが前記範囲の下限値以上であれば、金型からの離型性がより優れる。また、表面1bと金型がブロッキングを起こしにくく、ブロッキングによるシワが生じにくい。表面1bの算術平均粗さRaが前記範囲の上限値以下であれば、離型フィルムにピンホールが開きにくい。
算術平均粗さRaは、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997,Amd.1:2009)に基づき測定される値である。粗さ曲線用の基準長さlr(カットオフ値λc)は0.8mmとする。
【0047】
基材3の厚さは、50〜100μmが好ましく、50〜75μmが特に好ましい。基材3の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、離型フィルム1が容易に変形可能で、金型追従性に優れる。基材3の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、離型フィルム1の取り扱い(たとえばロール・トゥ・ロールでの扱い)が容易であり、離型フィルム1を引っ張りながら金型のキャビティを覆うように配置する際に、しわが発生しにくい。
【0048】
(粘着層)
粘着層5は、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体と、多官能イソシアネート化合物とを含む粘着層用組成物の反応硬化物である。ヒドロキシ基含有アクリル系重合体が多官能イソシアネート化合物と反応して架橋し、硬化し、反応硬化物となる。
該粘着層用組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、前記アクリル系重合体および多官能イソシアネート化合物以外の他の成分をさらに含んでもよい(ただし、液体媒体を除く。)。
【0049】
<ヒドロキシ基含有アクリル系重合体>
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体が有するヒドロキシ基は、多官能イソシアネート化合物中のイソシアナート基と反応する架橋官能基である。
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の水酸基価は、1〜100mgKOH/gが好ましく、29〜100mgKOH/gが特に好ましい。
水酸基価は、JIS K0070:1992に規定される方法より測定される。
【0050】
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体は、カルボキシ基を有していてもよく、有していなくてもよい。カルボキシ基は、ヒドロキシ基と同様に、多官能イソシアネート化合物中のイソシアナート基と反応する架橋官能基である。
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の酸価は、0〜100mgKOH/gが好ましく、0〜30mgKOH/gが特に好ましい。
酸価は、水酸基価と同様にJIS K0070:1992に規定される方法により測定される。
【0051】
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の架橋官能基当量(ヒドロキシ基とカルボキシ基との合計当量)は、2,000g/モル以下であり、500〜2,000g/モルが好ましく、1,000〜2,000g/モルが特に好ましい。
架橋官能基当量は、架橋点間分子量に相当し、架橋後の弾性率(反応硬化物の弾性率)を支配する物性値である。架橋官能基当量が前記範囲の上限値以下であれば、反応硬化物の弾性率が充分に高くなり、粘着層5の樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する再剥離性が優れる。また、低移行性が優れる。
【0052】
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体において、ヒドロキシ基は、側基に存在していてもよく、主鎖末端に存在していてもよく、それらの両方に存在していてもよい。ヒドロキシ基の含有量を調整しやすい点から、少なくとも側基に存在していることが好ましい。
【0053】
ヒドロキシ基が側基に存在しているヒドロキシ基含有アクリル系重合体としては、以下の単位(c1)と、以下の単位(c2)とを有する共重合体が好ましい。
単位(c1):ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート単位。
単位(c2):単位(c1)以外の単位。
【0054】
単位(c1)としては、たとえば以下の単位が挙げられる。
−(CH−CR(COO−R−OH))−
【0055】
単位(c1)において、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数3〜10のシクロアルキレン基または−R−OCO−R−COO−R−である。RおよびRはそれぞれ独立に炭素数2〜10のアルキレン基であり、Rはフェニレン基である。
としては、水素原子が好ましい。
、R、Rにおけるアルキレン基は、直鎖状でもよく分岐状でもよい。
【0056】
単位(c1)となる単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
単位(c1)としては、ヒドロキシ基の反応性に優れる点で、Rが炭素数2〜10のアルキレン基であるものが好ましい。すなわち、炭素数2〜10のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位が好ましい。
【0057】
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体を構成する全単位の合計(100モル%)に対する単位(c1)の割合は、3〜30モル%が好ましく、3〜20モル%が特に好ましい。単位(c1)の割合が前記範囲の下限値以上であれば、多官能イソシアネート化合物による架橋密度が充分に高くなり、粘着層5の樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する再剥離性がより優れる。単位(c1)の割合が前記範囲の上限値以下であれば、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する密着性がより優れる。
【0058】
単位(c2)としては、単位(c1)を形成する単量体と共重合可能なものであれば特に限定されない。単位(c2)はカルボキシ基を有していてもよいが、カルボキシ基以外のイソシアナート基と反応しうる反応性基(たとえば、アミノ基)を有しないことが好ましい。
単位(c2)となる単量体としては、たとえばヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、不飽和二重結合を有するマクロマー等が挙げられる。不飽和二重結合を有するマクロマーとしては、たとえば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルの(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン鎖を有するマクロマーが挙げられる。
ヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリレートとしては、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、3−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2−トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペルフルオロメチル(メタ)アクリレート、ジペルフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロメチル−2−ペルフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロヘキサデシルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1〜12の化合物が好ましく、たとえばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
単位(c2)は、少なくともアルキル(メタ)アクリレート単位を含むことが好ましい。
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体を構成する全単位の合計(100モル%)に対するアルキル(メタ)アクリレート単位の割合は、70〜97モル%が好ましく、60〜97モル%が特に好ましい。アルキル(メタ)アクリレート単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、アルキル(メタ)アクリレートの構造に由来するガラス転移点や機械物性が発現し、粘着層5が機械的強度と粘着性に優れる。アルキルアクリレート単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、ヒドロキシ基の含有量が充分であるため架橋密度が上がり、所定の弾性率を発現できる。
【0061】
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の質量平均分子量(Mw)は、10万〜120万が好ましく、20万〜100万がより好ましく、20万〜70万が特に好ましい。質量平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する再剥離性がより優れる。質量平均分子量が前記範囲の上限値以下であれば、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する密着性がより優れる。
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の質量平均分子量は、分子量既知の標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定することによって得られるポリスチレン換算の値である。
【0062】
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、20℃以下が好ましく、0℃以下が特に好ましい。Tgが前記範囲の下限値以上であれば、低温になっても粘着層が充分な可とう性を発現し、基材3と剥離しやすい。
なお、Tgの下限値は特に制限されないが、前述の分子量範囲では、−60℃以上が好ましい。
本明細書において、Tgとは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した中間点ガラス転移温度を意味する。
【0063】
<多官能イソシアネート化合物>
多官能イソシアネート化合物は、2以上のイソシアナート基を有する化合物であり、3〜10個のイソシアナート基を有する化合物が好ましい。
多官能イソシアネート化合物としては、たとえば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシシレンジイソシアネート(XDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。また、それらの多官能イソシアネート化合物のイソシアヌレート体(3量体)やビュレット体、それらの多官能イソシアネート化合物とポリオール化合物とのアダクト体等が挙げられる。
【0064】
多官能イソシアネート化合物は、イソシアヌレート環を有することが、該環構造の平面性によって反応硬化物(粘着層)が高い弾性率を示す点で好ましい。
イソシアヌレート環を有する多官能イソシアネート化合物としては、HDIのイソシアヌレート体(イソシアヌレート型HDI)、TDIのイソシアヌレート体(イソシアヌレート型TDI)、MDIのイソシアヌレート体(イソシアヌレート型MDI)等が挙げられる。
【0065】
<他の成分>
粘着層用組成物が必要に応じて含んでもよい他の成分としては、たとえば架橋触媒(たとえばアミン類、金属化合物、酸等)、補強性フィラー、着色性染料、顔料、帯電防止剤等が挙げられる。
【0066】
架橋触媒は、多官能イソシアネート化合物を架橋剤とする場合に、前記ヒドロキシ基含有アクリル系共重合体と架橋剤との反応(ウレタン化反応)に対して触媒として機能する物質であればよく、一般的なウレタン化反応触媒が使用可能であり、たとえば第三級アミン等のアミン系化合物、有機錫化合物、有機鉛化合物、有機亜鉛化合物等の有機金属化合物等が挙げられる。 第三級アミンとしては、トリアルキルアミン、N,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン、N,N−ジアルキルアミノアルコール、トリエチレンジアミン、モルホリン誘導体、ピペラジン誘導体等が挙げられる。有機錫化合物としては、ジアルキル錫オキシド、ジアルキル錫の脂肪酸塩、第1錫の脂肪酸塩等が挙げられる。
架橋触媒としては、有機錫化合物が好ましく、ジオクチル錫オキシド、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ラウリレート、ジブチル錫ジラウリレートが特に好ましい。また、ジアルキル錫エステルとアセチルアセトンを溶媒中で反応させることによって合成され、ジアルキル錫1原子に対してアセチルアセトン2分子が配位した構造を持つ、ジアルキルアセチルアセトン錫錯体触媒が使用できる。
架橋触媒の使用量は、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の100質量部に対して、0.01〜0.5質量部が好ましい。
【0067】
帯電防止剤としては、イオン液体、導電性重合体、金属イオン伝導型塩、および導電性金属酸化物等が挙げられる。
導電性重合体とは、重合体の骨格(ポリマー骨格)を伝って、電子が移動し、拡散する重合体である。導電性重合体としては、たとえばポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリパラフェニレン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリチオフェン系重合体、ポリビニルカルバゾール系重合体等が挙げられる。
金属イオン伝導型塩としては、たとえばリチウム塩化合物等が挙げられる。
導電性金属酸化物としては、たとえば酸化錫、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、リンドープ酸化錫、アンチモン酸亜鉛、酸化アンチモン等が挙げられる。
粘着層用組成物中の帯電防止剤の含有量は、粘着層5の所望の表面抵抗値に応じて適宜設定される。
【0068】
粘着層用組成物において、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体、多官能イソシアネート化合物それぞれの含有量は、MCOOH/(MNCO−MOH)が0〜1.0となり、MNCO/(MCOOH+MOH)が0.4〜3.5となるように、それぞれが有するヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアナート基の量に応じて設定される。
COOH/(MNCO−MOH)は、0〜1.0が好ましく、0〜0.5が特に好ましい。
NCO/(MCOOH+MOH)は、0.4〜4.0が好ましく、0.4〜3.0が特に好ましい。
【0069】
ここで、MOHは、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体に由来するヒドロキシ基のモル数MOHであり、MCOOHは、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体に由来するカルボキシ基のモル数であり、MNCOは、多官能イソシアネート化合物に由来するイソシアナート基のモル数である。
【0070】
COOH/(MNCO−MOH)は、粘着層用組成物中に含まれる多官能イソシアネート化合物のイソシアナート基のうち、ヒドロキシ基と反応しないイソシアナート基のモル数に対するカルボキシ基のモル数の割合である。つまり、MCOOH/(MNCO−MOH)が小さいほど、粘着層用組成物の反応硬化物である粘着層5中に残るフリーのカルボキシ基が少なくなる。粘着層5中にフリーのカルボキシ基が含まれていると、硬化性樹脂、たとえばエポキシ樹脂と反応して剥離しにくくなる。MCOOH/(MNCO−MOH)が1.0以下であれば、粘着層5中にフリーのカルボキシ基が充分に少なくなり、樹脂封止部に対する離型性が優れる。
【0071】
NCO/(MCOOH+MOH)は、粘着層用組成物中に含まれるヒドロキシ基含有アクリル系重合体のヒドロキシ基とカルボキシ基との合計(架橋官能基)のモル数に対する多官能イソシアネート化合物のイソシアナート基のモル数の割合である。MNCO/(MCOOH+MOH)が前記範囲の下限値以上であれば、反応硬化物の架橋密度、ひいては弾性率が充分に高くなり、粘着層5の樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する再剥離性が優れる。MNCO/(MCOOH+MOH)が前記範囲の上限値以下であれば、粘着層5の弾性率が高くなりすぎず、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する密着性に優れる。また、未反応のまま粘着層5に残留する多官能イソシアネート化合物の量が少なくなり、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する低移行性が優れる。
【0072】
粘着層用組成物中のヒドロキシ基含有アクリル系重合体と多官能イソシアネート化合物との合計の含有量は、粘着層用組成物の全量に対し、50質量%以上が好ましい。
【0073】
粘着層5は、前記粘着層用組成物からなる層であり、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体と、多官能イソシアネート化合物とを反応させることにより形成できる。
粘着層5の形成方法としては、粘着層用組成物に含まれる材料が均一に混合され、均一な粘着層が得られる点と任意の厚さや幅の粘着層が得られる点で、粘着層用組成物と、液状媒体とを前もって混合しておき、これにより得られる粘着層用塗工液を基材3の一方の面上に塗工し、乾燥する方法が好ましい。該方法については後で詳しく説明する。
【0074】
粘着層5の貯蔵弾性率(180℃)は、2〜20MPaが好ましい。粘着層5の貯蔵弾性率(180℃)が前記範囲の下限値以上であれば、樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する再剥離性がより優れる。粘着層5の貯蔵弾性率(180℃)が前記範囲の上限値以下であれば、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する密着性がより優れ、露出部への硬化性樹脂の漏れこみ抑制効果がより優れる。
粘着層5の貯蔵弾性率(180℃)は、MCOOH/(MNCO−MOH)、MNCO/(MCOOH+MOH)、多官能イソシアネート化合物の種類、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体と、多官能イソシアネート化合物との混合比等によって調整できる。
【0075】
粘着層5の不溶化度は、40〜90%が好ましく、50〜90%が特に好ましい。粘着層5の不溶化度は、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の架橋密度の指標である。ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の架橋密度が高いほど、不溶化度が高くなる傾向がある。不溶化度が前記範囲の下限値以上であれば、樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する再剥離性がより優れる。不溶化度が前記範囲の上限値以下であれば、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する密着性がより優れる。
【0076】
粘着層5の不溶化度は、粘着層5の坪量W1(g/m)と、離型フィルム1に以下の溶解試験を行った後に残存する粘着層5の坪量W2(g/m)とから以下の式で求められる。
不溶化度(%)=(W2/W1)×100
【0077】
<溶解試験>
離型フィルムを20〜25℃の塩化メチレン中に浸漬し、1日撹拌する。1日の撹拌が終了した後の離型フィルムを、別の20〜25℃の塩化メチレンに10分間浸漬して洗浄する。洗浄を行った後の離型フィルムを、100℃で2時間真空乾燥させる。
【0078】
粘着層5の不溶化度は、MNCO/(MCOOH+MOH)、多官能イソシアネート化合物の種類、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体と多官能イソシアネート化合物とを反応させる際の温度等によって調整できる。
【0079】
粘着層5の表面抵抗値は10の10乗Ω/□以下が好ましく、10の9乗Ω/□以下がより好ましい。表面抵抗値が10の10乗Ω/□以下であれば、剥離時の放電による半導体チップの破壊を効果的に防げる。
【0080】
粘着層5の、樹脂封止部の形成時に硬化性樹脂と接する面、すなわち離型フィルム1の粘着層5側の表面1aは、平滑でもよく凹凸が形成されていてもよい。
表面1aの算術平均粗さRaは、0.05〜2.5μmが好ましく、0.05〜2.0μmがより好ましく、0.05〜0.5μmが特に好ましい。表面1aの算術平均粗さRaが前記範囲の下限値以上であれば、形成される樹脂封止部の樹脂流れ跡(フローマーク)が目立たない。表面1aの算術平均粗さRaが前記範囲の上限値以下であれば、表面1aと半導体素子あるいはそれに付随する部品との密着性に優れる。また、樹脂封止部の形成後に、樹脂封止部に施すマーキングの視認性がより優れる。
【0081】
粘着層5の厚さは、0.5〜15μmが好ましく、1〜10μmが特に好ましい。粘着層5の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスとの密着性がより優れる。粘着層5の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、樹脂封止部に対する離型性がより優れる。
【0082】
(離型フィルムの諸物性)
離型フィルム1は、たとえば以下のi)〜iii)の条件を満たすことが好ましい。
i)以下の試験法で求められるエポキシ樹脂の180℃における剥離力(以下、「エポキシ樹脂の剥離力(180℃)」ともいう。)が0.001〜0.1N/cm。
ii)以下の試験法で求められる180℃における粘着力(以下、「粘着力(180℃)」ともいう。)が0.005〜0.1N/24mm。
iii)以下の試験法で求められる移行性(プレス後Al元素ピーク強度/プレス前Al元素ピーク強度)が0.6〜1。
【0083】
i)のエポキシ樹脂の剥離力(180℃)は、樹脂封止部に対する離型性の指標であり、値が小さいほど離型性に優れることを示す。エポキシ樹脂の剥離力(180℃)は、0.001〜0.05N/cmが好ましい。
ii)の粘着力(180℃)は、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する粘着力の指標である。粘着力(180℃)が前記下限値以上であれば、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の露出部への樹脂の漏れこみが充分に低減される。粘着力(180℃)が前記範囲の上限値以下であれば、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する再剥離性に優れる。粘着力(180℃)は、0.005〜0.05N/24mmが好ましい。
iii)のプレス後Al元素ピーク強度/プレス前Al元素ピーク強度は、半導体素子に対する移行性の指標であり、最大は1である。値が1に近いほど、移行性が低いことを示す。移行性が低いほど、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の露出部の外観が優れる。たとえばはんだリフロー後の半導体チップ表面の変色が抑制される。
【0084】
<エポキシ樹脂の剥離力(180℃)>
厚さ3mm、大きさ15cm×15cmの正方形状の第一の金属板(SUS304)の上に、厚さ100μm、大きさ15cm×15cmの正方形状のアルミニウム箔を乗せ、前記アルミニウム箔の上に、厚さ100mm、大きさ15cm×15cmの正方形状で、中央に10cm×8cmの長方形状の穴が開いたスペーサを乗せ、その穴の中心付近に下記のエポキシ樹脂組成物の2gを乗せ、さらにその上に、大きさ15cm×15cmの正方形状の離型フィルムを、粘着層側の表面を前記スペーサ側に向けて乗せ、その上に、厚さ3mm、大きさ15cm×15cmの正方形状の第二の金属板(SUS304)を乗せて積層サンプルを作製する。前記積層サンプルを、180℃、10MPaの条件で5分間の条件でプレスして、前記エポキシ樹脂組成物を硬化させる。
離型フィルムとエポキシ樹脂組成物が硬化した層とアルミニウム板との積層体を25mm幅に切断し、5個の試験片を作製する。
各試験片について、180℃における180度剥離力を、引張試験機を用いて100mm/分の速度で測定する。力(N)−つかみ移動距離曲線における、つかみ移動距離25mmから125mmまでの剥離力の平均値(単位はN/cm)を求める。
5個の試験片の剥離力の平均値の算術平均を求め、その値をエポキシ樹脂の剥離力(180℃)とする。
【0085】
エポキシ樹脂組成物:
フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(軟化点58℃、エポキシ当量277。)の8質量部、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(融点45℃、エポキシ当量172。)の2質量部、
フェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂(軟化点65℃、水酸基当量165。)の2質量部、
フェノールノボラック樹脂(軟化点80℃、水酸基当量105。)の2質量部、
硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)の0.2質量部、
無機充填材(メディアン径16μmの溶融球状シリカ)の84質量部、
カルナバワックスの0.1質量部、
カーボンブラックの0.3質量部、
カップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)の0.2質量部。
上記をスーパーミキサーにより5分間粉砕混合したもの。
【0086】
<粘着力(180℃)>
JIS Z0237:2009(ISO29862:2007)に準拠して、ステンレス(SUS)板に対する180℃での180度引きはがし粘着力(N/24mm)を測定し、その値を180℃粘着力とする。
【0087】
<移行性>
厚さ1mmの厚紙と、離型フィルムと、厚さ0.1mm、JIS H4160:2006におけるA1N30H−H18材からなるアルミニウム板と、厚さ1mmの厚紙とをこの順に、前記離型フィルムの粘着層と前記アルミニウム板とが接するように重ね、180℃、5MPaの条件で20分間プレスし、前記アルミニウム板から前記離型フィルムを剥離し、プレス前と後の前記アルミニウム板の前記離型フィルムと接触していた表面をX線光電子分光分析により分析して、プレス前後のAl元素ピーク強度を求め、(プレス後Al元素ピーク強度/プレス前Al元素ピーク強度)を求める。
【0088】
(離型フィルムの製造方法)
離型フィルム1は、たとえば以下の工程を有する製造方法により製造できる。
離型フィルム製造工程:基材3の一方の面上に、前記粘着層用組成物と液状媒体とを含む粘着層用塗工液を塗工、乾燥して粘着層5を形成する工程。
乾燥時にヒドロキシ基含有アクリル系重合体と多官能イソシアネート化合物との反応が進み、反応硬化物となって粘着層5が形成される。
なお、上記工程後にさらに粘着層用組成物の硬化を促進するために加熱してもよい。
【0089】
基材3は前記と同じである。基材3の粘着層用塗工液を塗工する表面においては、粘着層5との密着性を向上させるために、表面処理が施されてもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、シランカップリング剤塗工、接着剤の塗布等が挙げられる。
【0090】
粘着層用塗工液は、前記粘着層用組成物と液状媒体とを含む。すなわち、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体と、多官能イソシアネート化合物と、液状媒体とを含み、必要に応じて他の成分を含む。
粘着層用塗工液中のヒドロキシ基含有アクリル系重合体、多官能イソシアネート化合物、他の成分、MCOOH/(MNCO−MOH)、MNCO/(MCOOH+MOH)はそれぞれ前記と同じである。
液状媒体としては、水、有機溶剤等が挙げられる。有機溶剤としては、アルコール化合物、エステル化合物等が挙げられる。
【0091】
粘着層用塗工液の固形分濃度は、5〜30質量%が好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。固形分濃度が前記範囲の下限値以上であれば、基材3に塗工する際にハジキが生じにくい。固形分濃度が前記範囲の上限値以下であれば、塗工面のレべリング性に優れる。
【0092】
粘着層用塗工液の塗工方法としては、公知の各種ウェットコート法を用いることができ、たとえばグラビアコート法、ダイコート法、バーコート法等が挙げられる。
乾燥温度は、45〜100℃が好ましい。
【0093】
(作用効果)
離型フィルム1にあっては、樹脂封止部の形成時に半導体チップ、ソース電極またはシールガラスと硬化性樹脂とに接する粘着層5が前記粘着層用組成物の反応硬化物であるため、樹脂封止部に対する離型性、半導体チップ、ソース電極またはシールガラスに対する低移行性および再剥離性に優れる。
また、離型フィルム1にあっては、樹脂封止部の形成時に半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの露出部に接する層が粘着層5であるため、露出部に離型フィルムが密着し、露出部への硬化性樹脂の漏れこみが低減された露出素子が得られる。
また、離型フィルム1にあっては、基材3の貯蔵弾性率(180℃)が前記範囲内であるため、金型追従時に適度な強度と伸びを示し、金型追従性に優れる。たとえばセンサのような、露出部を有しながらかつ複雑な形状の半導体素子を製造する場合に用いられる複雑形状の金型に対しても離型フィルム1が充分に追従し、破れやピンホール、それに伴う硬化性樹脂の金型側への漏れ、離型フィルムのしわ、それに伴う樹脂封止部の外観不良等の不具合が生じにくい。
【0094】
以上、本発明の離型フィルムについて、第1実施形態を示して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0095】
第1実施形態では、基材3が単層構造である例を示したが、基材3は、多層構造でもよい。多層構造としては、たとえばそれぞれ離型性樹脂を含む複数の層が積層した構造が挙げられる。この場合、複数の層それぞれに含まれる離型性樹脂は同一でもよく異なってもよい。金型追従性、引張伸度、製造コスト等の点からは、基材3は、単層構造であることが好ましい。
【0096】
第1実施形態では、基材と粘着層とが直接積層したものを示したが、本発明の離型フィルムは、基材と粘着層との間に他の層を備えてもよい。また、基材の粘着層側とは反対側に他の層を備えてもよい。
他の層としては、たとえば、ガスバリア層、帯電防止層、着色層等が挙げられる。これらの層はいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。他の層の厚さは0.05〜3μmが好ましく、0.05〜2μmが特に好ましい。
【0097】
剥離時の放電による半導体チップの破壊を効果的に防げる点では、基材と粘着層との間に帯電防止層を有することが好ましい。
帯電防止層は、帯電防止剤を含む層である。帯電防止剤としては、前記と同様のものが挙げられる。
帯電防止層において、帯電防止剤は、樹脂バインダ中に分散していることが好ましい。樹脂バインダとしては、封止工程での熱(たとえば180℃)に耐えられる耐熱性を有するものが好ましく、たとえばアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、クロロトリフロロエチレン−ビニルアルコール共重合体、テトラフロロエチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。
樹脂バインダは、架橋されていてもよい。樹脂バインダが架橋されていると、架橋されていない場合に比べて、耐熱性が優れる。
帯電防止層の表面抵抗値は、10の10乗Ω/□以下が好ましく、10の9乗Ω/□以下がより好ましい。
【0098】
本発明の離型フィルムとしては、樹脂封止部の形成時に硬化性樹脂と接する側から、粘着層/基材、粘着層/帯電防止層/基材、粘着層/ガスバリア層/基材のいずれかの層構成を有するものが好ましい。中でも、粘着層と基材との密着性に優れる点で、第1実施形態のように、粘着層/単層構造の基材の2層構成のものが特に好ましい。
【0099】
〔半導体素子〕
本発明の離型フィルムを用いて、後述の本発明の半導体素子の製造方法により製造される半導体素子は、半導体チップと、樹脂封止部とを有し、必要に応じてソース電極(「ソース端子」ともいう。)またはシールガラスを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出したものである。
樹脂封止部は、硬化性樹脂から形成されるものである。硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。
シールガラスは、リブ材(スペーサ)を介して半導体チップ上に積層され、半導体チップを気密な空間に封止するガラス板である。シールガラスは、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等のセンサ(半導体素子)においては、光検出部としても機能する。
本発明における半導体素子は、ソース電極またはシールガラスを有するものでもよく、有しないものでもよい。
ソース電極およびシールガラスを有しない場合、表面の一部が露出するのは半導体チップである。
ソース電極を有する場合、典型的には、表面の一部が露出するのはソース電極であり、半導体チップは、樹脂封止部やソース電極、他の部材で表面が覆われ、露出しない。
シールガラスを有する場合、典型的には、表面の一部が露出するのはシールガラスであり、半導体チップは、基板とシールガラスとリブ材と樹脂封止部とによって封止され、露出しない。
半導体素子においては、半導体チップ、ソース電極およびシールガラス以外に、半導体チップに付随する部品の表面の一部が露出していてもよい。半導体チップに付随する部品としては、たとえばはんだバンプ等が挙げられる。
【0100】
半導体素子としては、トランジスタ、ダイオード等の半導体素子を集積した集積回路;発光素子を有する発光ダイオード等が挙げられる。
集積回路の素子形状としては、たとえばBGA(Ball Grid Array)、QFN(Quad Flat Non−leaded package)、SON(Small Outline Non−leaded package)等が挙げられる。
半導体素子としては、生産性の点から、一括封止およびシンギュレーションを経て製造されるものが好ましく、たとえば、封止方式がMAP(Moldied Array Packaging)方式、またはWL(Wafer Lebel packaging)方式である集積回路等が挙げられる。
【0101】
図2は、半導体素子の一例を示す概略断面図である。
この例の半導体素子10は、基板11と、半導体チップ13と、半導体チップ13を基板11に接合する複数のバンプ15と、樹脂封止部17とを有する。
基板11としては、プリント配線基板、リードフレーム等が挙げられる。
樹脂封止部17は、半導体チップ13の主面(基板11側の表面)と基板11との間の間隙および半導体チップ13の側面を封止しており、半導体チップ13の背面13a(基板11側とは反対側の表面)が露出部となっている。
【0102】
図3は、半導体素子の他の例を示す概略断面図である。
この例の半導体素子50は、基板51と、半導体チップ53と、樹脂封止部57と、シールガラス59と、リブ材61とを有する。
基板51としては、プリント配線基板、リードフレーム等が挙げられる。
半導体チップ53は、複数のボンディングワイヤ55a、55bによって基板51に接合されている。
リブ材61は、基板51上に、半導体チップ53を囲むように設けられている。リブ材61の高さは半導体チップ53の高さよりも高く、このリブ材61の上にシールガラス59が配置されている。これによって、基板51とシールガラス59とリブ材61との間に、半導体チップ53を封止する空間が形成されている。
樹脂封止部57は、基板51の周縁部から上方に延びる枠状の形状であり、基板51の外周面、リブ材61の外周面およびシールガラス59の外周面に接している。
半導体素子50においては、シールガラス59の上面(基板51側とは反対側の表面)が露出部となっている。シールガラス59の側面は樹脂封止部57に接している。
なお、ここでは、樹脂封止部57の高さがシールガラス59の上面の高さと同じである例を示したが、樹脂封止部57の高さがシールガラス59の上面の高さよりも高くなっていてもよい。その場合、シールガラス59の上面の一部(周縁部)は樹脂封止部57に接していてもよい。また、ここでは、リブ材61が基板51上に配置される例を示したが、リブ材61が半導体チップ53上に配置されていてもよい。その場合、基板51は、スルーホールを通じて互いに導通された内部導体パッド(上面側)および外部導体パッド(下面側)を備え、内部導体パッドがボンディングワイヤを介して半導体チップ53と接続される。
【0103】
〔半導体素子の製造方法〕
本発明の半導体素子の製造方法は、
半導体チップと、硬化性樹脂から形成される樹脂封止部とを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した半導体素子の製造方法であって、
金型の硬化性樹脂が接する面に本発明の離型フィルムをその基材側の面が金型面に接するように配置し、該金型内に半導体チップを有し、必要に応じてソース電極またはシールガラスを有する構造体を配置する工程と、
前記金型を型締めして、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面に、前記離型フィルムを介して前記金型を接触させる工程と、
前記金型を型締めした状態で、該金型内に硬化性樹脂を満たして硬化させ、樹脂封止部を形成することにより、前記構造体と前記樹脂封止部とを有し、前記半導体チップ、ソース電極またはシールガラスの表面の一部が露出した封止体を得る工程と、
前記封止体を前記金型から離型する工程と、
を含む。
【0104】
本発明の半導体素子の製造方法は、本発明の離型フィルムを用いること以外は、公知の製造方法を採用できる。たとえば樹脂封止部の形成方法としては、トランスファ成形法が挙げられ、この際に使用する装置としては、公知のトランスファ成形装置を用いることができる。製造条件も、公知の半導体素子の製造方法における条件と同じ条件とすることができる。
【0105】
(第1実施形態)
図4〜7を用いて、本発明の半導体素子の製造方法の第1実施形態を説明する。本実施形態は、離型フィルムとして前述の離型フィルム1を用いて、図2に示した半導体素子10をトランスファ成形法により製造する例である。
本実施形態の半導体素子の製造方法は下記の工程(1)〜(6)を含む。
工程(1):離型フィルム1の基材側の表面1bが上型20と下型30とを有する金型の上型20のキャビティ21を覆うように離型フィルム1を配置する工程(図4)。
工程(2):離型フィルム1を上型20のキャビティ面23の側に真空吸引し、別途、基板11表面に複数の半導体チップ13がバンプ15によって接合された組立体(構造体)の基板11を下型30の基板設置部31に配置する工程(図5)。
工程(3):上型20と下型30とを型締めして、半導体チップ13の背面に離型フィルム1を密着させ、下型30の樹脂配置部33のプランジャ35を押し上げて、樹脂配置部33に予め配置された硬化性樹脂40を、上型20の樹脂導入部25を通じてキャビティ21内に充填する工程(図6)。
工程(4):キャビティ21内に充填された硬化性樹脂40を硬化させて樹脂封止部17を形成することにより封止体100を得る工程。
工程(5):金型内から封止体100を取り出す工程(図7)。
工程(6):前記封止体100を、複数の半導体チップ13が分離するように切断することにより、複数の半導体素子10を得る工程。
【0106】
工程(1)において、離型フィルム1は、離型フィルム1の基材3側の表面1bが上型20のキャビティ面23と接するように、つまり粘着層5側の表面1aが上型20側とは反対側(キャビティ21内の空間)に向くように配置される。
【0107】
工程(3)は、いわゆるモールドアンダーフィル(MUF)工程である。
工程(3)での型締めは、半導体チップ1つあたり0.05〜2MPaのクランプ圧で行われることが好ましく、0.2〜1MPaが特に好ましい。クランプ圧が前記範囲の下限値以上であれば、複数の半導体チップ13の高さにばらつきがあるような場合でも、各半導体チップ13の背面(露出部)に離型フィルムが充分に密着し、それぞれの背面への硬化性樹脂の漏れこみを防止できる。クランプ圧が前記範囲の上限値以下であれば、型締め時に半導体チップ13の破壊が生じにくい。
本発明にあっては、前記の離型フィルムを用いることで、従来一般的なクランプ圧よりも低いクランプ圧であっても、硬化性樹脂の漏れこみを充分に防止できる。
【0108】
工程(5)において、金型から取り出された封止体100の樹脂封止部17には、樹脂導入部25内で硬化性樹脂40が硬化した硬化物19が付着している。硬化物19は通常、切除される。
工程(6)の前または後に、必要に応じて、樹脂封止部17の表面に、インクを用いてインク層を形成してもよい。
【0109】
以上、本発明の半導体素子の製造方法について、第1実施形態を示して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0110】
離型フィルムから樹脂封止部を剥離するタイミングは、金型から樹脂封止部を取り出す時に限定されず、金型から離型フィルムとともに樹脂封止部を取り出し、その後、樹脂封止部から離型フィルムを剥離してもよい。
一括封止する複数の半導体素子各々の間の距離は均一でも不均一でもよい。封止を均質にでき、複数の半導体素子各々にかかる負荷が均一になる(負荷が最も小さくなる)点から、複数の半導体素子各々の間の距離を均一にすることが好ましい。
金型としては、第1実施形態に示すものに限定されず、公知のものを使用できる。
離型フィルムは、本発明の離型フィルムであればよく、離型フィルム1に限定されない。
【0111】
本発明の半導体素子の製造方法により製造する半導体素子は、半導体素子10に限定されない。製造する半導体素子によっては、第1実施形態における工程(6)は行わなくてもよい。樹脂封止部に封止される半導体素子は1つでも複数でもよい。樹脂封止部の形状は、図2に示すものに限定されず、段差、傾斜、曲面等を有する形状であってもよい。
たとえば製造する半導体素子は、半導体素子50のようなシールガラスを備えるものでもよく、ゲート電極を備えるものでもよい。半導体素子50は、たとえば、上型20のキャビティ21の形状を樹脂封止部57に対応した形状のものに変更し、工程(2)における組立体の代わりに、基板51表面に複数の半導体チップ53がそれぞれボンディングワイヤ55a、55bによって接合され、その周囲に設けられたリブ材61を介してシールガラス59が積層した組立体を用い、工程(3)での型締めによりシールガラス59の上面に離型フィルム1を密着させる以外は上記と同様にして製造できる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
後述の例1〜21のうち、例1〜3、5〜8、13、14、16、18〜21は実施例であり、例4、9〜12、15、17は比較例である。
各例で使用した評価方法および材料を以下に示す。
【0113】
〔評価方法〕
(厚さ)
基材の厚さ(μm)は、ISO 4591:1992(JIS K7130:1999のB1法、プラスチックフィルムまたはシートから採った試料の質量法による厚さの測定方法)に準拠して測定した。
粘着層の厚さ(μm)は、透過型赤外線膜厚計RX−100(商品名。倉敷紡績社製)により測定した。
【0114】
(基材表面の算術平均粗さRa)
基材表面の算術平均粗さRa(μm)は、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997,Amd.1:2009)に基づき測定した。基準長さlr(カットオフ値λc)は0.8mm、測定長さは8mmとした。測定に際しては、SURFCOM 480A(東京精密社製)を用い、フィルムの製造時の流れ方向に対して直交する方向について3か所、および平行な方向について3か所の計6か所についてRaを求め、それらの平均値を当該表面のRaとした。
【0115】
(貯蔵弾性率(180℃))
基材の貯蔵弾性率(180℃)は、動的粘弾性測定装置ソリッドL−1(東洋精機社製)を用い、ISO 6721−4:1994(JIS K7244−4:1999)に基づき測定した。周波数は10Hz、静的力は0.98N、動的変位は0.035%とし、温度を20℃から2℃/分の速度で上昇させて、180℃における貯蔵弾性率を測定した。
粘着層の貯蔵弾性率(180℃)は、以下の手順で測定試料を作製し、該測定試料について、基材の貯蔵弾性率(180℃)と同じ方法で測定した。
<測定試料>
シリコーン塗工PET(NSセパレーター A(商品名)、中本パックス社製)に、10cm×10cmの穴をくりぬいた12cm×12cmの厚紙(厚さ1mm)を貼りつけ、高さ1mmの土手を作った。その内側に、粘着層の形成に使用した粘着層用塗工液を流し込み、常温で1日乾燥後、真空乾燥機で常温で1日乾燥し、さらに40℃で3日間乾燥と養生を行い、厚さ200μmの膜を作成した。該膜を測定試料とした。
【0116】
(粘着層の不溶化度)
粘着層の坪量(W1)の算出:
各例において、粘着層用塗工液が塗工される前のフィルム(基材)の坪量(g/m)(以下、「塗工前フィルム坪量」ともいう。)と、該フィルムに粘着層用塗工液を塗工して粘着層を形成した後のフィルムの坪量(g/m)(フィルムと粘着層との合計の坪量。以下、「塗工後フィルム坪量」ともいう。)とを測定した。その結果から、以下の式により、粘着層単体の坪量W1(g/m)を算出した。
W1=(塗工後フィルム坪量)−(塗工前フィルム坪量)
【0117】
溶解試験:
10cm×10cmに切り取った離型フィルムを、20〜25℃の塩化メチレン中に浸漬し、1日撹拌した。1日の撹拌が終了した後の離型フィルムを、別の20〜25℃の塩化メチレンに10分間浸漬して洗浄した。洗浄を行った後の離型フィルムを、100℃で2時間真空乾燥させた。
【0118】
不溶化度の算出:
前記溶解試験での真空乾燥後の離型フィルムの質量を測り、該離型フィルムの坪量(g/m)(以下、「溶出後フィルム坪量」ともいう。)を算出した。その結果から、以下の式により、溶解試験を行った後に残存する粘着層の坪量W2(g/m)を算出した。
W2=(溶出後フィルム坪量)−(塗工前フィルム坪量)
求めたW1およびW2から、以下の式により、不溶化度(%)を求めた。
不溶化度(%)=(W2/W1)×100
【0119】
(粘着層の表面抵抗値)
表面抵抗値(Ω/□)は、IEC 60093、二重リング電極法に準拠して測定した。測定機器は超高抵抗計R8340(Advantec社製)を使用し、印加電圧500V、印加時間1分間で測定を行った。
【0120】
(エポキシ樹脂の剥離力(180℃))
厚さ3mm、大きさ15cm×15cmの正方形状の第一の金属板(SUS304)の上に、厚さ100μm、大きさ15cm×15cmの正方形状のアルミニウム箔を乗せ、前記アルミニウム箔の上に、厚さ100mm、大きさ15cm×15cmの正方形状で、中央に10cm×8cmの長方形状の穴が開いたスペーサを乗せ、その穴の中心付近に下記のエポキシ樹脂組成物の2gを乗せ、さらにその上に、大きさ15cm×15cmの正方形状の離型フィルムを、粘着層側の表面を前記スペーサ側に向けて乗せ、その上に、厚さ3mm、大きさ15cm×15cmの正方形状の第二の金属板(SUS304)を乗せて積層サンプルを作製した。
前記積層サンプルを、180℃、10MPaの条件で5分間の条件でプレスして、前記エポキシ樹脂組成物を硬化させた。
離型フィルムとエポキシ樹脂組成物が硬化した層とアルミニウム板との積層体を25mm幅に切断し、5個の試験片を作製した。
各試験片について、180℃における180度剥離力を、引張試験機(オリエンテック社製RTC−131−A)を用いて100mm/分の速度で測定した。力(N)−つかみ移動距離曲線における、つかみ移動距離25mmから125mmまでの剥離力の平均値(単位はN/cm)を求めた。
5個の試験片の剥離力の平均値の算術平均を求め、その値をエポキシ樹脂の剥離力(180℃)とした。
【0121】
エポキシ樹脂組成物:
フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(軟化点58℃、エポキシ当量277。)の8質量部、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(融点45℃、エポキシ当量172。)の2質量部、
フェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂(軟化点65℃、水酸基当量165。)の2質量部、
フェノールノボラック樹脂(軟化点80℃、水酸基当量105。)の2質量部、
硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)の0.2質量部、
無機充填材(メディアン径16μmの溶融球状シリカ)の84質量部、
カルナバワックスの0.1質量部、
カーボンブラックの0.3質量部、
カップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)の0.2質量部。
上記をスーパーミキサーにより5分間粉砕混合したもの。
このエポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は135℃、130℃における貯蔵弾性率は6GPa、180℃における貯蔵弾性率は1GPaであった。
【0122】
(粘着力(180℃))
粘着力(180℃)は、JIS Z0237:2009(ISO29862:2007)に準拠して、ステンレス板に対する180℃での180度引きはがし粘着力(N/24mm)を測定した。具体的には、50mm×125mm、厚さ0.1mmのステンレス板(SUS304 CP BA(冷間圧延後、光輝熱処理))に、幅24mm長さ300mmの離型フィルムを、粘着層側をステンレス板側に向けて、180℃の温度下で重さ1kgの手動式圧着ローラで10mm/秒の速さで2往復して圧着した。圧着した試験片は1分以内に180℃のホットプレート上で、デジタルゲージで180度引きはがし粘着力(N/24mm)を測定した。なお、測定値(N/24mm)は、N/10mmに換算せず、そのまま180度引きはがし粘着力とした。
【0123】
(移行性)
厚さ1mmの厚紙(大きさ5cm×10cm)の上に、アセトンに浸漬して洗浄した厚さ0.1mm、JIS H4160:2006におけるA1N30H−H18材からなるアルミニウム板(大きさ5cm×10cm)を載せ、その上に、離型フィルム(大きさ5cm×10cm)を、露出部接触面(粘着層側)を下側(アルミニウム板側)に向けて乗せ、その上(金型接触面側)にさらに厚さ1mmの厚紙(大きさ5cm×10cm)を乗せて積層サンプルとした。該積層サンプルを、180℃で熱したプレス機に入れ、5MPaの圧力で5分間プレスした。プレス後、両側の厚紙を取り除き、アルミニウム板から離型フィルムを剥離し、プレス前のアルミニウム板の表面と、プレス後で、アルミニウム板の離型フィルムと接触していた表面をそれぞれX線光電子分光分析(XPS)により分析した。その分析結果から、プレス前のAl板の該表面におけるアルミニウム原子のピーク面積と、離型フィルムとプレスし、剥離後の該表面におけるアルミニウム原子のピーク面積の比(プレス後Alピーク面積/プレス前Alピーク面積)を求めた。
XPSには、ULVAC−PHI社製のQuanteraSXM型のX線光電子分光分析装置を用いた。X線源として単色化AlKα線を15kV、25Wで使用し、X線照射面光電子検出角を45度とし、光電子のPass Energyを114eV、測定回数を10回、分析面積を0.5mm×0.5mmとした。(プレス前Al元素ピーク面積/プレス後Al元素ピーク面積)は、上記条件で検出されたAl(1s)のピーク強度を用い、3点測定の平均から求めた。
【0124】
(封止試験)
図3に記載のものと同様の構成の封止装置(トランスファ成形装置G−LINE Manual System、アピックヤマダ社製)を用い、封止試験を行った。
50mm×50mmのリードフレームに、1mm×1mm、厚さ0.1mmの半導体チップを10×10個実装し、封止試験に供した。硬化性樹脂としては、上述のエポキシ樹脂の180℃における剥離力の評価で用いたのと同様のエポキシ樹脂組成物を用いた。離型フィルムは100mm幅のロールをロール・トウ・ロールでセットした。
半導体チップを搭載したリードフレームを下型に配置したのち、上型に離型フィルムを真空吸着し、下記の条件で型締めをして硬化性樹脂を流した。5分間加圧後、型を開き、半導体素子を取り出した。離型フィルムと樹脂封止部(硬化性樹脂の硬化物)との剥離状態、半導体チップの露出部の外観を目視で確認し、以下の基準で評価した。さらに半導体素子の帯電圧を測定した。
【0125】
<封止条件>
金型クランプ圧力:半導体チップ1つあたり0.5MPa。
トランスファ圧力:5MPa。
金型温度(封止温度):180℃。
【0126】
<離型フィルムと樹脂封止部との剥離状態>
○(良好):正常に剥離した。
×(不良):正常に剥離せず、リードフレームが下型から外れた。
<半導体チップの露出部の外観>
○(良好):樹脂かぶりあるいはフィルムからの移行物転写が2個未満。
×(不良):樹脂かぶりあるいはフィルムからの移行物転写が2個以上。
<封止後半導体離素子の帯電圧>
取り出した半導体素子の帯電圧を、非接触式表面電位計Model520−1(トレックジャパン社製)で、測定距離10mmで測定した。
【0127】
〔使用材料〕
(基材)
ETFEフィルム:Fluon(登録商標) ETFE C−88AXP(旭硝子社製)を、Tダイを備えた押出機にフィードし、表面に凹凸のついた押し当てロールと、鏡面の金属ロールの間に引き取り、厚さ50μmのフィルムを製膜した。押出機、およびTダイの温度は320℃、押し当てロール、金属ロールの温度は100℃であった。得られたフィルムの表面のRaは、押し当てロール側が2.0μm、鏡面側が0.2μmであった。鏡面側には、ISO8296:1987(JIS K6768:1999)に基づく濡れ張力が40mN/m以上となるように、コロナ処理を施した。
ETFEフィルムの貯蔵弾性率(180℃)は40MPaであった。
【0128】
(粘着層用材料)
<ヒドロキシ基含有アクリル系重合体>
アクリル系重合体1:ニッセツ(登録商標) KP2562(日本カーバイド工業社製)。
アクリル系重合体2:TERPLUS(登録商標) N3508(大塚化学社製)。
アクリル系重合体3:テイサンレジン(登録商標) WS−023(ナガセケムテックス社製)。
アクリル系重合体1〜3それぞれの固形分、分子量、水酸基価、酸価、ガラス転移温度Tg、架橋官能基当量をそれぞれ表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
<多官能イソシアネート化合物>
多官能イソシアネート化合物1:ニッセツCK157(日本カーバイド工業社製)、固形分100%、イソシアヌレート型ヘキサメンチレンジイソシアネート、NCO含量21質量%。
多官能イソシアネート化合物2:コロネート(登録商標) HXR(東ソー社製)、固形分100%、イソシアヌレート型ヘキサメンチレンジイソシアネート、NCO含量22質量%。
多官能イソシアネート化合物3:コロネート L(東ソー社製)、固形分75%、3モルのトリレンジイソシアネート(TDI)と1モルのトリメチロールプロパンとを反応させたポリイソシアネート、NCO含量13.5質量%。
【0131】
<帯電防止剤>
帯電防止剤1:HTCP−200T(日本カーリット社製)、固形分8%、導電性ポリチオフェンのトルエン溶液。
帯電防止剤2:サンコノール(登録商標) MEK-50R(三光化学社製)、固形分50%、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド。
帯電防止剤3:サンコノール(登録商標) AD2600−50R(三光化学社製)、固形分100%、ポリエチレングリコールビス(2−エチルヘキソエート)とリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドとの混合物。
【0132】
(帯電防止層用材料)
帯電防止剤含有材:アラコート(登録商標)AS601D(荒川化学工業社製)、固形分3.4%、導電性ポリチオフェン0.4%、アクリル樹脂3.0%。
硬化剤:アラコート(登録商標)CL910(荒川化学工業社製)、固形分10%、多官能アジリジン化合物。
【0133】
〔例1〕
アクリル系重合体1の100質量部と、多官能イソシアネート化合物1の4質量部と、酢酸エチルとを混合して粘着層用塗工液を調製した。酢酸エチルの配合量は、粘着層用塗工液の固形分が25質量%になる量とした。
ETFEフィルムのコロナ処理を施した側の表面に、粘着層用塗工液を、グラビアコータを用いて塗工し、乾燥して厚さ2μmの粘着層を形成した。塗工は、ダイレクトグラビア方式で、グラビア版としてΦ100mm×250mm幅の格子 150#−深度40μmロールを使用して行った。乾燥は、100℃で1分間、ロールサポート乾燥炉を通り、風量は19m/秒で行った。次いで、40℃、120時間の条件で養生をして離型フィルムを得た。
【0134】
〔例2〜17〕
ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の種類、多官能イソシアネート化合物の種類または配合量を表2〜3に記載のように変更した以外は例1と同様にして粘着層用塗工液(固形分25質量%)を調製し、離型フィルムを得た。
なお、表2〜3中、アクリル系重合体1〜3、多官能イソシアネート化合物1〜3それぞれの配合量は、液状媒体を含めた全量である。
【0135】
〔例18〕
アラコートAS601Dの100質量部と、アラコートCL910の10質量部と、メタノールの100質量部を混合して、帯電防止層用塗工液(固形分2質量%)を調製した。
ETFEフィルムのコロナ処理を施した側の表面に、帯電防止法塗工液をグラビアコータを用いて塗工し、乾燥して厚さ0.1μmの帯電防止層を形成した。塗工は、ダイレクトグラビア方式で、グラビア版としてΦ100mm×250mm幅の格子 150#−深度40μmロールを使用して行った。乾燥は、100℃で1分間、ロールサポート乾燥炉を通り、風量は19m/秒で行った。
次いで、該帯電防止層上に、例1と同様にして、粘着層を形成し、離型フィルムを得た。
【0136】
〔例19〜21〕
例19〜21では、粘着層用塗工液(固形分25質量%)に、帯電防止剤を含ませた。具体的には、ヒドロキシ基含有アクリル系重合体の種類、多官能イソシアネート化合物の種類、帯電防止剤の種類または配合量を表2〜3に記載のように変更した以外は例1と同様にして、帯電防止剤含有粘着層用塗工液を調製し、離型フィルムを得た。
【0137】
各例で用いた粘着層用塗工液における各材料の配合量、OH基モル数、COOHモル数、NCOモル数、MCOOH/(MNCO−MOH)、MNCO/(MCOOH+MOH)、得られた離型フィルムにおける粘着層の貯蔵弾性率(180℃)、粘着層の不溶化度、粘着層の表面抵抗値、エポキシ樹脂の剥離力(180℃)、粘着力(180℃)、移行性、離型フィルムと樹脂封止部との剥離状態、半導体チップの露出部の外観、封止後半導体素子の帯電圧を表2〜3に示す。
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
上記結果に示すとおり、例1〜3、5〜8、13、14、16、18〜21の離型フィルムにあっては、エポキシ樹脂の剥離力(180℃)が0.1N/cm以下であり、樹脂封止部に対する離型性に優れることが示された。また、0.005N/cm以上であり、硬化性樹脂が漏れこみにくいことが示された。
これらの離型フィルムにあっては、粘着力(180℃)が0.05〜0.1N/24mmであり、半導体チップの露出部に対する密着性が優れ、かつ該露出部からの再剥離性にも優れることが示された。
また、これらの離型フィルムにあっては、移行性が0.6以上であり、粘着層から半導体チップの露出部への移行が少ないことが示された。
実際の封止試験でも、離型フィルムと樹脂封止部との剥離状態、半導体チップの露出部の外観の評価結果が良好であった。
また、粘着層が帯電防止剤を含む、または基材と粘着層との間に帯電防止層をさらに有する例18〜21の離型フィルムを用いた場合、封止後の半導体素子の帯電圧が低く、優れた帯電防止機能を有していた。
【0141】
一方、MNCO/(MCOOH+MOH)が4.01の例4の離型フィルムの場合、粘着力(180℃)が小さかった。また、半導体チップの露出部の外観の結果も不良であった。これは、架橋密度が高すぎ、粘着層の弾性率が高いため粘着性が低くなり、その結果、粘着層と露出部との密着性が不充分となり、硬化性樹脂が露出部へ入りこんだためであると考えられる。
架橋官能基当量が2,000g/モル超のアクリル系重合体2を用いた例9〜11の離型フィルムの場合、エポキシ樹脂の剥離力(180℃)が大きく、粘着力(180℃)が大きく、移行性が不良であった。また、離型フィルムと樹脂封止部との剥離状態、半導体チップの露出部の外観の結果も不良であった。これは、架橋官能基当量が大きいために架橋密度が低く、そのため粘着層の弾性率が充分には高くならず、エポキシ樹脂や露出部に強く粘着したためと考えられる。また、架橋密度が低いために粘着層に含まれる低分子量体が分子運動によりブリードし、チップを汚染したためと考えられる。さらに例10、11のように架橋密度を高くするために多量の架橋剤(多官能イソシアネート化合物)を入れると、未反応の架橋剤が残り、封止時に露出部へ移行して汚染したためと考えられる。
COOH/(MNCO−MOH)が2.1の例12の離型フィルムおよびMCOOH/(MNCO−MOH)が1.2の例15の離型フィルムの場合、エポキシ樹脂の剥離力(180℃)が大きかった。また、離型フィルムと樹脂封止部との剥離状態が不良であった。これは、粘着層に遊離のカルボキシル基が残留しており、カルボキシル基と硬化性樹脂のエポキシ基とが反応して接着したためと考えられる。
NCO/(MCOOH+MOH)が4.45の例17の離型フィルムの場合、移行性が不良であった。また、半導体チップの露出部の外観の結果も不良であった。これは、架橋密度を高くするために多量の架橋剤を入れたため、未反応の架橋剤が残り、封止時に露出部へ移行して汚染したためと考えられる。
なお、2015年2月6日に出願された日本特許出願2015−022691号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0142】
1 離型フィルム、3 基材、5 粘着層、10 半導体素子、11 基板、13 半導体チップ、15 バンプ、17 樹脂封止部、19 硬化物、20 上型、21 キャビティ、23 キャビティ面、25 樹脂導入部、30 下型、31 基板設置部、33 樹脂配置部、35 プランジャ、40 硬化性樹脂、50 半導体素子、51 基板、53 半導体チップ、55a〜55b ボンディングワイヤ、57 樹脂封止部、59 シールガラス、61 リブ材、100 封止体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7