(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6477772
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】洗浄水供給装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20190225BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
H01L21/304 648K
H01L21/304 648G
C02F1/42 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-80627(P2017-80627)
(22)【出願日】2017年4月14日
(65)【公開番号】特開2018-182099(P2018-182099A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森田 博志
(72)【発明者】
【氏名】顔 暢子
【審査官】
堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−334433(JP,A)
【文献】
特開2000−288373(JP,A)
【文献】
特開2000−294532(JP,A)
【文献】
再公表特許第2016/042933(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水にpH調整剤及び/又は酸化還元電位調整剤を添加して一定濃度の洗浄水を製造する洗浄水製造部を有する洗浄水供給装置において、
洗浄水製造部からの洗浄水を貯留する貯留槽と、
該貯留槽内の洗浄水を洗浄機に供給する供給手段とを備える洗浄水供給装置であって、
前記貯留槽内の洗浄水位が所定範囲となるように前記洗浄水製造部を制御する制御手段と、
前記洗浄水製造部からの洗浄水の水質が規定範囲外であるときに、洗浄水製造部を排出ラインに導く切替手段とを有することを特徴とする洗浄水供給装置。
【請求項2】
請求項1において、前記排出ラインからの排出水から溶質を除去して水を回収する除去部を有することを特徴とする洗浄水供給装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記制御手段は、前記洗浄水製造部が停止している間に、超純水を小流量にて洗浄水製造部に通水させることを特徴とする洗浄水供給装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記制御手段は、前記洗浄水製造部における洗浄水の製造流量を2段階設定しておき、貯留槽の水位が第1の所定水位以上になったときに、製造流量を高流量から低流量に切り替え、水位が第2の所定水位以下になった段階で低流量から高流量に切り替えることを特徴とする洗浄水供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水にpH調整剤、酸化還元電位調整剤などを添加して、半導体ウェハ等の洗浄水を製造し、供給する装置に関するものであって、特にpH調整剤、酸化還元電位調整剤等の溶質をごく低濃度にて含むウェハ洗浄水を製造し供給するのに好適な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハの洗浄・リンス水工程では、ウェハの帯電、金属腐食・溶解、微粒子付着を抑制する目的で、酸又はアルカリのpH調整剤や、酸化剤又は還元剤のような酸化還元電位調整剤を、必要最低限のごく低濃度で超純水に溶解させた水質調整水が洗浄水(リンス水を含む)として使用される場合がある(例えば特許文献1)。この洗浄水の製造方法としては、H
2、O
3、CO
2、NH
3といった還元性、酸化性、酸性、又はアルカリ性のガスを超純水に溶解させる方法もあるが、操作が簡便であることから、pH調整剤及び/又は酸化還元電位調整剤を水に溶解させた薬液を薬注する方法が採用される場合が多い。薬液の薬注方法としては、ポンプを用いる方法、密閉容器とN
2などの不活性ガスによる加圧を用いる方法があり、いずれも実用化されている。
【0003】
超純水の流量が一定であれば、所望の濃度となるように溶質を添加することは容易であるが、実際に希薄洗浄水が用いられる洗浄機においては、ウェハに注がれる水の供給・停止が複数のバルブの開閉で制御されており、流量が不規則に変動する。
【0004】
超純水流動が変動しても、希薄洗浄水の溶質濃度が所望範囲に収まるように、超純水流量に対する比例制御、濃度モニターの信号を受けてのPID制御など、様々な手法による溶質添加制御が行われている。しかし、特に複数の洗浄チャンバーを有する枚葉式洗浄機においては、不規則な流量変動に十分追随できる溶質添加制御は実現できておらず、結果としてウェハに注がれる洗浄水・リンス水の液質が目的値から大きく乖離することがあった。
【0005】
液質安定化を優先し、希薄洗浄水を一定の条件で製造し供給し続ける単純な方法もあるが、この場合、余剰水をそのまま流出させることになる。最近の多チャンバー枚葉洗浄機では、瞬間的に必要になる最大流量と最低流量の差が大きく、最大流量以上の洗浄水を連続供給すると、相当量の余剰水を排出することになり、用排水設備への負担、薬液の過剰使用・排出という面で問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−139766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、半導体用ウェハ等の洗浄・リンス工程に供給するのに好適な、アルカリ・酸化剤等のごく低濃度の溶質を含む洗浄水を安定供給することができ、しかも余剰水を全く又は殆ど排出させることがない洗浄水供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の洗浄水供給装置は、超純水にpH調整剤及び/又は酸化還元電位調整剤を添加して一定濃度の洗浄水を製造する洗浄水製造部を有する洗浄水供給装置において、洗浄水製造部からの洗浄水を貯留する貯留槽と、該貯留槽内の洗浄水を洗浄機に供給する供給手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様では、前記貯留槽内の洗浄水位が所定範囲となるように前記洗浄水製造部を制御する制御手段を有する。
【0010】
本発明の一態様では、前記洗浄水製造部からの洗浄水の水質が規定範囲外であるときに、洗浄水製造部を排出ラインに導く切替手段を有する。
【0011】
本発明の一態様では、前記除去部は、前記排出ラインからの排出水から溶質を除去して水を回収する除去部を有する。
【0012】
本発明の一態様では、前記制御手段は、前記洗浄水製造部が停止している間に、超純水を小流量にて洗浄水製造部に通水させる。
【0013】
本発明の一態様では、前記制御手段は、前記洗浄水製造部における洗浄水の製造流量を2段階設定しておき、貯留槽の水位が第1の所定水位以上になったときに、製造流量を高流量から低流量に切り替え、水位が第2の所定水位以下になった段階で低流量から高流量に切り替える。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、洗浄水製造部で、一定濃度となった洗浄水が製造される。この一定濃度の洗浄水が貯留槽に貯留され、貯留槽内の洗浄水がウェハ洗浄機に供給される。貯留槽内の安定した水質の洗浄水が洗浄機に供給される。
【0015】
本発明によると、多数のバルブが不規則に開閉する多チャンバー枚葉式洗浄機において、洗浄・リンス工程で極めて重要な液質を所望の値に精度良く安定に保つ供給が実現でき、かつ余剰水の排出をなくし超純水の無駄遣いを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の洗浄水供給装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の洗浄水供給装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
【0019】
この洗浄水供給装置は、超純水にpH調整剤及び/又は酸化還元電位調整剤等を添加して水質調整水を製造し、洗浄機に供給するためのものであり、超純水が定量にて流れる超純水ライン1と、該超純水ラインに溶質を定量添加して洗浄水を製造する製造部2と、製造された洗浄水が配管3を介して導入される貯留槽4と、該貯留槽4から洗浄水が供給される第1ないし第nのn個の洗浄機5A,5B………5N等を有する。配管3にはバルブ3aが設けられている。バルブ3aの上流側において、配管3からドレン配管6が分岐している。配管6にバルブ6aが設けられている。
【0020】
貯留槽4には水位センサ4aが設けられ、該水位センサ4aの検出信号が制御器2aに入力されている。該制御器2aからの信号によって洗浄水製造部2とバルブ3a,6aが制御される。
【0021】
貯留槽4には、酸素をパージするための窒素ガス等の不活性ガス供給配管4bが接続されている。
【0022】
アンモニア水、塩酸などのアルカリや、酸、過酸化水素水などの酸化剤といった、一般的にELグレードの薬液添加で製造される希薄洗浄水の液質は安定である。このため、極端な長時間でなければ作り貯めして貯留槽4に貯留しておいても、洗浄水の溶質濃度は殆ど変化しない。また、この実施の形態では、N
2ガス等によって酸素をパージするので、大気中の酸素が洗浄水に溶解することもない。
【0023】
貯留槽4の水位が一定以上のときは、製造部2での洗浄水の製造を停止する。洗浄機5A〜5Nでの消費に伴い、貯留槽4の水位が規定の下限レベルまで低下したときは、製造部2での洗浄水の製造及び貯留槽4への供給を開始する。この際の製造流量は、洗浄機5A〜5Nでの使用の最大流量(合計流量)より大きく設定しておき、必ず水位が上昇するようにする。水位が規定の上限レベルに達したならば、洗浄水の製造、供給を停止する。以下、これを繰り返すことにより、貯留槽4内には常に上述の下限レベルと上限レベルとの間の水位となるように洗浄水が貯留される。
【0024】
なお、水位センサ4aの代わりに、貯留槽4の重量を検出する重力測定手段を用いてもよい。
【0025】
貯留槽4は、希薄洗浄水の純度を損なわない、内壁からの溶出が無視できるレベルである高純度の材質からなるものを使用する。溶存酸素の上昇を防ぐため、貯留槽4の気相部は常時一定圧力のN
2等、不活性ガスで満たされるような機構(例えばパージ用不活性ガス供給配管4b)を装備させておくのが好ましい。
【0026】
超純水(原水)中の溶存酸素濃度が高い場合や薬液(酸、アルカリ、酸化剤)中の溶存酸素濃度を低減する必要がある場合は、後述の
図7,8のように、製造部に脱気膜等、溶存酸素を低減させる機構を装備させるのが好ましい。
【0027】
洗浄機5A,5B,………5Nへは、それぞれ、貯留槽4から分岐配管7、バルブ8、ポンプ9、配管10を介して洗浄水が供給される。配管10にフィルターが設けられてもよい。配管10からはリターン配管11が分岐しており、該リターン配管11の末端側は貯留槽4に接続されている。リターン配管11にバルブ12が設けられている。
【0028】
超純水ライン1には、定量ポンプ、定流量弁、流量制御装置等を備えた定量供給装置によって超純水が一定流量にて流れている。製造部2では溶質が一定供給量にて超純水に添加され、これにより、高精度にて目的濃度となった洗浄水が貯留槽4に供給される。
【0029】
洗浄水製造部2の構成の一例を
図3〜8に示す。
【0030】
図3では、洗浄水製造部は、薬液タンク15と、薬注ポンプ16と、薬注配管17とで構成されている。薬液タンク15内には、pH調整剤、酸化還元電位調整剤等の1種以上が所定濃度にて溶解した薬液が収容されている。薬注ポンプ16としては定量ポンプ又は流量制御装置付きポンプが用いられる。
図4のように、薬液タンク15と、薬注ポンプ16と、薬注配管17とからなる薬注ユニットが2以上設置されてもよい。
【0031】
図3,4では、薬液タンク15内の薬液を薬注ポンプ16によって超純水ライン1に薬注するようにしているが、
図5のように薬液タンク15に窒素ガス等の不活性ガスを定量供給して薬液を超純水ライン1に定量添加するよう構成してもよい。
図5は
図3に関連するものであるが、
図4も同様に構成することができる。後述の
図6〜8においても、薬液タンク15内の薬液を窒素ガス等のガス圧によって薬注するようにしている。
【0032】
図6の洗浄水製造部は、
図5において、超純水ライン1に過酸化水素除去装置
19を設けたものであり、その他の構成は
図5と同一である。過酸化水素除去装置19を設置することにより、洗浄水中の酸化剤の量を精度よく制御することができる。なお、
図3,4においても、超純水ライン1に過酸化水素除去装置
19を設置してもよい。
【0033】
図7では、洗浄水製造部は
図6において、更に、洗浄水中から酸素等のガス成分を除去するための脱気装置20を備えている。脱気装置20は、この実施の形態では、膜20aを有した膜式脱気装置であり、膜20aで隔てられた気相室内を真空ポンプ22等の減圧手段によって減圧するよう構成されている。ただし、脱気装置は膜脱気装置以外であってもよい。脱気装置20は、
図3〜5でも
図7と同様に設けられてもよい。
【0034】
また、脱気装置20は、
図8のように、薬注ポイントよりも上流側の超純水ライン1に設置されてもよい。
【0035】
本発明において、超純水に薬注する薬液は、pH調整剤及び/又は酸化還元電位調整剤を超純水に溶解させて調製した薬液であり、そのpH調整剤としては、塩酸、酢酸、硝酸、リン酸、硫酸、フッ酸、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、又は炭酸アンモニウム等を用いることができる。
【0036】
また、酸化還元電位調整剤としては過酸化水素や硝酸を用いることができる。
【0037】
本発明で用いる薬液は、通常、これらの薬剤を20〜48重量%程度の濃度で含むものであり、このような薬液を超純水に薬注して、通常、薬剤濃度0.1〜100mg/L程度の洗浄水が製造される。
【0038】
上記の通り、本発明では、製造部2における酸、アルカリ、酸化剤、還元剤等の溶解は、従来の薬注機構をそのまま適用できる。即ち、ポンプやN
2等の不活性ガスによる圧送で、所望の溶質濃度となるように溶質を溶解させる。
【0039】
製造部2で洗浄水の製造を開始した直後は、洗浄水中の溶質濃度が所定範囲から逸脱することがある。この場合には、所望の濃度で安定するまでに要する時間や処理量を予め調べておいて、そこに至るまではドレン配管6から排出するのが好ましい。
【0040】
このようにすることで、貯留槽4に供給する希薄洗浄水の溶質濃度を精度よく維持できる。この際の排出分は排水となるが、全体に占める水量としては僅かである。
【0041】
また、貯留槽4の水位が一定以上で製造部2が停止状態にある場合にも、ごく小流量の超純水を通水し続けておくことで、製造部系内の純度を高く維持できる。この際の通水出口水は、配管6から排水するか、超純水のリターン配管に合流させるか、いずれかとする。
【0042】
図1では、ドレン配管6からのドレンを排出するものとしているが、
図2のように溶質除去部13を設け、ドレンから溶質を除去した水を配管14を介して回収してもよい。
【0043】
除去部13における溶質の除去は、イオン交換樹脂又は白金族触媒のみで対応可能である。即ち、ppmオーダーの酸・アルカリはイオン交換装置で容易に除去できる。電気再生式イオン交換装置(いわゆるEDI)を適用することもできる。酸化剤・還元剤の除去には白金ナノコロイド担持樹脂などの触媒が有効である。オゾンを多く含む余剰水がある場合には、オゾン分解に適した触媒を追加することが望ましい。
【0044】
ドレン中の溶質濃度がppmオーダーと非常に低く、また、溶質の種類が限られているため、溶質を十分に除去することは容易であり、簡単なイオン交換装置と触媒装置の組み合わせで超純水に近い純度に戻る。従って、除去部13で溶質が除去された回収水は、余剰超純水のリターン配管や超純水タンクに導くことができ、無駄のない再利用が可能である。
【0045】
本発明では、精度よく所望濃度の希薄洗浄水を製造できる流量条件を2段階(高流速条件、低流速条件)定めておき、貯留槽4の水位が上昇して所定レベル(例えば、上限レベルと中間レベルとの間のレベル)に達したならば、製造流量条件を高流速条件から低流速条件に切り替え、また水位が低下して所定レベル(例えば、下限レベルと中間レベルとの間のレベル)に達したならば、製造流量条件を低流速条件から高流速条件に切り替えることもできる。この場合、製造開始時の濃度安定化に要する間の排水が無くなり、より無駄の無いシステムとなる。
【0046】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態とされてもよい。例えば、洗浄機は1基のみ設置されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 超純水ライン
2 洗浄水製造部
4 貯留槽
5A〜5N 洗浄機
15 薬液タンク
16 薬注ポンプ
20 脱気装置