特許第6478710号(P6478710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6478710-固型調理油 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6478710
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】固型調理油
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20190225BHJP
   A23D 7/02 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   A23D9/00 504
   A23D7/02 500
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-39846(P2015-39846)
(22)【出願日】2015年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-158554(P2016-158554A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山村 尚志
(72)【発明者】
【氏名】柳田 祐佳
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−185153(JP,A)
【文献】 特開平03−039064(JP,A)
【文献】 特開2000−050795(JP,A)
【文献】 特開2006−288314(JP,A)
【文献】 特開2008−237032(JP,A)
【文献】 特開平05−030905(JP,A)
【文献】 米国特許第04844921(US,A)
【文献】 特開2002−315543(JP,A)
【文献】 特開2004−000253(JP,A)
【文献】 特開昭61−162158(JP,A)
【文献】 食品工業,2009,vol.52,no.22,p.33-39
【文献】 New Food Industry, 1991, vol.33, no.2, p.53-59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分及び第二成分からなるバター風固型調理油において、
第一成分全重量のうち30〜60重量%が融点40〜60℃の動物性または植物性の油脂類であり、
第一成分全重量のうち4〜30重量%が少なくとも直鎖長鎖デキストリンまたは高度分岐環状デキストリンを含んだ多糖類であり、
第二成分全重量のうち、65重量%以上が融点40〜60℃の動物性または植物性の油脂類であり、
第二成分にはデキストリンが含まれておらず、
第一成分と第二成分とが多層構造を形成しているバター風固型調理油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デキストリンを含有する固型調理油に関する。より詳しくは、特定構造のデキストリンを用いた固型調理油に関する。
【背景技術】
【0002】
インスタント食品の需要はますます増えており、それに伴い需要者の本格志向も高まっている。需要者はインスタント食品を喫食する際、まず視覚と嗅覚で味わい、次に味覚で味わう。そのため、味覚のみならず、視覚と嗅覚においても需要者に訴えかけることは、食欲や購買意欲を増進させる観点からも重要であり、各メーカーはより本格的な製品を供給すべく製品開発を行っている。
【0003】
例えば、即席麺において、バター風の固型油脂が添加されることがある。このバター風の固型油脂は、喫食時に市販のバターのように溶ける様相とバターの香りとによって、需要者の食欲を惹起するものである。
【0004】
市販のバターのように溶ける様相を呈するバター風の固型油脂としては、例えば、デキストリンを含有した調味油または調味料が報告されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−39064号公報
【特許文献2】特開2002−218938号公報
【特許文献3】特開2006−288314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、デキストリンは種類が多く、構造も直鎖状、分枝状、環状など、多種多様である。物質の特性は、その構造によっても異なる。そのため、市販のバターのように溶ける様相を呈するためには、デキストリンの構造も重要な問題となる。しかしながら、市販のバターのように溶ける様相を呈するのに適したデキストリンの構造については、何ら検討されていない。
【0007】
本発明は上記問題点を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、喫食時まで形状を保ち、かつ、市販のバターに近い見た目の質感及び市販のバターのように溶ける様相を呈するのに適した特定の構造をもったデキストリンを用いた固型調理油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、溶けた部分と溶けかかっている部分のバランスの改善及び市販のバターに近い見た目の質感を呈する方法を模索し、鋭意検討を行った。そして、特定の構造をもったデキストリンを用いた調理油によって、市販のバターに近い見た目の質感及び市販のバターのように溶ける様相を呈することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、少なくともデキストリンを含有する固型調理油であって、前記デキストリンが直鎖長鎖デキストリンまたは高度分岐環状デキストリンのいずれかである固型調理油を提供する。
【0010】
かかる構成によれば、直鎖長鎖デキストリンまたは高度分岐環状デキストリンを用いることにより、市販バターに近い見た目の質感を再現するとともに、喫食時まで形状を保つことができる。
【0011】
また、本発明の固型調理油は、デキストリンを含む第一成分と、デキストリンを含まない第二成分と、で構成することが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、第一成分は市販バターに近い見た目の質感を再現するとともに、喫食時まで形状を保つことができる。一方、第二成分は融解することで市販バターのように溶ける様相を呈することができる。
【0013】
また、本発明の固型調理油は、多層構造を形成することが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、成分ごとに層を形成しているので、各成分の機能をより顕著に発揮しやすい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、特定の構造を持ったデキストリンを用いることで、市販のバターに近い見た目の質感及び市販のバターのように溶ける様相を呈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明にかかる固型調理油の構造を示す説明図である。
図2】実施例1,2の固型調理油または参考例を即席麺上に載置し、お湯を注加して3分経過後の状態を示す図面代用写真である。
図3】比較例1〜3の固型調理油を即席麺上に載置し、お湯を注加して3分経過後の状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図を用いつつ、説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
≪固型調理油1≫
図1は本発明にかかる固型調理油1の構造を示す説明図である。本発明にかかる固型調理油1は、大別すると第一成分10と第二成分20とからなる。第一成分10はデキストリンを含んでおり、第二成分20はデキストリンを含んでいない。そして、第一成分10と第二成分20は、図1のように板状に成型固化されており、第一成分10を第二成分20で挟み込んだ積層構造となっている。
なお、図1に示す実施形態では、第一成分10を第二成分20で挟み込んでいるが、本発明の目的を損なわなければ、第一成分10と第二成分20がそれぞれ一層ずつ、または、複数あってもよい。また、層状に限られず、球状、マーブル状または市松模様となっていても良い。
【0019】
本発明にかかる固型調理油1の構造を形成する方法は特に限定されないが、例えば、第二成分20を容器に入れて冷却固化した後に第一成分10を加えて第一成分10を冷却固化し、さらに第二成分20を加えて冷却することで形成することができる。また、事前に第一成分10と第二成分20を別々に板状に成型固化した後、積層することで形成することもできる。
【0020】
本発明にかかる固型調理油1は、湯を注いだときに第一成分10及び第二成分20が溶解を始める。ここで、デキストリンは油脂類が融解して溶出後に吸水、溶解が始まるため、第一成分10は第二成分20に比べて溶けるのが遅い。これにより、第一成分10は喫食時まで形状が残るものと考えられる。
【0021】
次に、本発明に係る固型調理油に好適に用いることができる成分について説明する。
【0022】
(1)第一成分10
本発明にかかる固型油脂を形成する第一成分10としては、喫食時まで溶け残っているものであれば特に限定されない。第一成分10としては、例えば、デキストリン及び油脂を少なくとも含む組成とすることができる。
【0023】
本発明に用いることが可能なデキストリンとしては、直鎖長鎖デキストリンまたは高度分岐環状デキストリンが挙げられる。また、これらの組み合わせであってもよい。これらのデキストリンは、成型や質感に悪影響を及ぼさない範囲の添加量で目的を果たす。
【0024】
直鎖デキストリンは、α‐グルコースがα‐(1→4)グリコシド結合によって重合した分子構造を有する。直鎖デキストリンは、分子量に応じて、さらに3つに分類することができる。本発明においては、3つの分類として、短鎖デキストリン(平均分子量約500)、中鎖デキストリン(平均分子量約1000)、長鎖デキストリン(平均分子量約5000)と定義する。本発明においては、長鎖デキストリンであることが好ましく、分子量5000以上である長鎖デキストリンを用いることが好ましい。
【0025】
一方、高度分岐環状デキストリンは、分岐数が多く、環状構造を有する。また、他のデキストリンと比較して、狭い分子量分布を示すという特徴を有する。本発明においては、ブドウ糖が11〜17個連結しており、分子量が3万〜100万程度の高度分岐環状デキストリンであることが好ましい。
【0026】
本発明においては、第一成分全重量に対し、デキストリンの範囲が4〜40重量%であることが好ましく、4〜30重量%であることがより好ましく、7〜20重量%であることがさらにより好ましい。
【0027】
デキストリンが4重量%未満だと見た目の形状が悪くなってしまう。そのため、溶けた時に市販のバターとは似つかわしくない状態となってしまう。一方、デキストリンの範囲が40重量%を超えると、溶解性や成形性が悪くなり、市販のバターに近い見た目の質感及び市販のバターのように溶ける様相が得られない。
【0028】
本発明に用いることが可能な油脂類は特に限定されないが、例えば、バター脂肪、ラード、牛脂などの動物性油脂、大豆油、パーム油などの植物性油脂、これら動物性油脂又は植物性油脂の硬化油、これら動物性油脂又は植物性油脂の分別油のうち一種又は二種以上があげられる。この中で、硬化油であることが好ましい。なお、油脂類の融点は40℃〜60℃であることが好ましい。40℃未満で固体状にならない油脂類は、商品流通時に高温環境下に置かれると溶けやすいため、好ましくない。60℃より高いと、湯を注いだときに、溶けにくい場合があり、好ましくない。
【0029】
本発明に用いる油脂類は、様々な風味をつけたシーズニングオイルや油溶性のフレーバーなどで着香することも可能である。
【0030】
本発明においては、第一成分全重量に対し、油脂類の範囲が30〜60重量%であることが好ましく、40〜50重量%であることがより好ましい。
油脂類が30重量%未満だと成形性が悪く、また見た目の質感も悪くなる。一方、油脂が60重量%を超えると、喫食時までに完全溶けてしまい形状を維持することができない。
【0031】
(2)第二成分20
本発明にかかる固型油脂を形成する第二成分20としては、喫食時までに溶けるものであれば特に限定されず、例えば、油脂や糖類で構成することができる。
【0032】
第二成分20に用いることが可能な油脂類は特に限定されず、第一成分10と同じものを用いることができる。第二成分20として用いることができる油脂類としては、硬化油であることが好ましい。
【0033】
第二成分20においては、第二成分全重量に対し、油脂類の範囲が65重量%以上であることが好ましい。油脂類が65重量%未満だと、溶けた時に油脂の広がりが十分に得られず、市販のバターのように溶ける様相を得られない。
【0034】
さらに、本発明における固型調理油の各成分は、単糖、オリゴ糖などの糖、脱脂粉乳、全脂粉乳、粉末チーズ、ホエーパウダーなどの乳製品、コショウ等のスパイス類、グルタミン酸ソーダなどの化学調味料、精製塩、粉末状エキス、着色料、香料などの調味料を添加することができる。
【0035】
ここで、本発明に用いることが可能な単糖、オリゴ糖などの糖(以下、単に「単糖類等」という)は特に限定されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの単糖、ラクトース、スクロース、マルトース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などのオリゴ糖が挙げられる。この中で、グルコース、ラクトース、スクロースが好ましく、ラクトースがより好ましい。
【0036】
以上説明した本発明に係る固型調理油は、特定のデキストリンを用いることによって、従来の調味油又は調理油に比べ、より市販のバターに近い見た目の質感及び市販のバターのように溶ける様相を呈する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
【0038】
まず、以下に示す方法で、実施例1,2、比較例1〜3に係る組成物を作製した。
【0039】
<実施例1>
直鎖長鎖デキストリン(松谷化学工業株式会社製;商品名「パセリSA−2」)8.0重量%、調味料の一例として乳糖50.0重量%、全粉乳4.4重量%、香料0.4重量%、色素0.2重量%を混合し、粉末を調整した。次に、油脂類の一例として動物性油脂35.0重量%、バターオイル2.0重量%を80℃に加温しながら混合し、油脂を調整した。混合した油脂に粉末を加え、滑らかで均一になるまで80℃に加温しながら混合し、第一成分を得た。
【0040】
次に、乳糖17.4重量%、全粉乳10.0重量%、香料0.4重量%、色素0.2重量%を混合し、粉末を調整した。続いて、動物性油脂70.0重量%、バターオイル2.0重量%を80℃に加温しながら混合し、油脂を調整した。混合した油脂に粉末を加え、滑らかで均一になるまで80℃に加温しながら混合し、第二成分を得た。
【0041】
得られた第二成分を型に流し込み、冷却固化させた。冷却固化させた第二成分の上に、先ほど型に流し込んだ第二成分の倍量の第一成分を流し込み、再度冷却固化させた。最後に、冷却固化させた第一成分の上に第二成分を先ほどと同量流し込み冷却固化させて固型調理油を得た。
【0042】
<実施例2>
高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ社製;商品名「クラスターデキストリン(登録商標)」)を用いたこと以外は、実施例1と同様である。
【0043】
<比較例1>
直鎖短鎖デキストリン(松谷化学工業株式会社製;商品名「パインデックス#6」)を用いたこと以外は、実施例1と同様である。
【0044】
<比較例2>
多孔型デキストリン(松谷化学工業株式会社製;商品名「パインフロー」)を用いたこと以外は、実施例1と同様である。
【0045】
<比較例3>
シクロデキストリン(塩水港精糖株式会社製;商品名「セルデックスB−100」)を用いたこと以外は、実施例1と同様である。
【0046】
<参考例>
市販のバター(雪印メグミルク株式会社製;商品名「雪印北海道バター」)を用いた。
【0047】
次に、実施例および比較例における各特性の判断方法について説明する。
【0048】
[官能評価]
実施例、比較例及び参考例から5gのキューブ状サンプルを市販の即席麺に加えて90℃以上の熱湯を注いだ。3分間の湯戻し時間経過後、固型調理油の形状、質感、フレーバーの放出性能について、参考例を基準に3段階評価を行った。評価は、以下に基づき行った。
○:参考例と同等である
△:参考例より劣る
×:参考例よりかなり劣る
【0049】
各評価試験結果を表1及び図2,3に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1及び図2,3から明らかなように、実施例1及び2は、生産性、形状、質感、フレーバー放出ともに、参考例と同等の結果を示した。
【0052】
一方、比較例1は、生産性、質感およびフレーバー放出については参考例と同等であったが、湯戻し3分後の形状については参考例よりもかなり劣るものであった。具体的には、比較例1は湯戻し後、溶解し過ぎてしまい、存在感が失われていた。これは、デキストリンが短鎖であるため、水に対する溶解度が高過ぎたためと考えられる。
【0053】
次に、比較例2は、フレーバー放出については参考例と同等であったが、生産性、形状および質感については参考例よりもかなり劣るものであった。具体的には、比較例2は加熱混合時の流動性が低く、成型時に均一の厚さに引き延ばすことが困難であった。そのため、大量生産に向かないものであった。また、湯戻し後も形状が維持され、表面も粉っぽい質感となった。これは、多孔型デキストリンの水に対する溶解度が低過ぎたためと考えられる。
【0054】
次に、比較例3は、生産性、質感については参考例と同等であったが、形状ならびにフレーバー放出については参考例よりも劣るものであった。具体的には、湯戻し後の融け残りが小さく、存在感に物足りなさを感じるものであった。またバターの香りが全く感じられなかった。これは、シクロデキストリンの溶解度がやや高いことに加え、環状構造による低分子の包接効果が影響しているためと考えられる。
【0055】
以上説明したように、本発明は、特定のデキストリンを用いることによって、喫食時まで形状を保ち、かつ、市販のバターに近い見た目の質感及び市販のバターのように溶ける様相を呈する固型調理油を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 固型調理油
10 第一成分
20 第二成分
図1
図2
図3