特許第6479594号(P6479594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479594
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】紙用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/20 20060101AFI20190225BHJP
   C08F 216/38 20060101ALI20190225BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20190225BHJP
   C08F 224/00 20060101ALI20190225BHJP
   C08F 216/06 20060101ALI20190225BHJP
   D21H 19/60 20060101ALI20190225BHJP
   D21H 27/02 20060101ALI20190225BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20190225BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20190225BHJP
【FI】
   D21H19/20 B
   C08F216/38
   C08F8/12
   C08F224/00
   C08F216/06
   D21H19/60
   D21H27/02 Z
   C09D129/04
   C09D7/40
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-131538(P2015-131538)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-14654(P2017-14654A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】山本 歩
(72)【発明者】
【氏名】森川 圭介
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−285549(JP,A)
【文献】 特開平03−281506(JP,A)
【文献】 特開2001−139750(JP,A)
【文献】 特開2008−280653(JP,A)
【文献】 特開2004−160862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00−19/44
C08F6/00−246/00
301/00
C09D1/00−10/00
101/00−201/10
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)又は(II)で表される構成単位を0.1〜5モル%含有するビニルアルコール系共重合体(A)および有機チタン化合物(B)を含む紙用コーティング剤であって、前記ビニルアルコール系共重合体(A)が、前記一般式(II)で表される構成単位を有する紙用コーティング剤
【化1】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状のアルキル基又は−CH−COOMであり、ここでMは水素原子、メチル基、アルカリ金属又はアンモニウム基であり、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは水素原子又は−COOMであり、ここでMは水素原子、メチル基、アルカリ金属又はアンモニウム基であり、Xは−(CH−、−CO−NH−(CH−、−NH−CO−(CH−、−CO−(CH−、−(CH−CO−、−CO−O−(CH−、−O−CO−(CH−、−NR−CO−(CH−、又は−CO−NR−(CH−であり、ここでRは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、nは0〜8の整数である。)
【化2】
(式中、R、R及びXは、上記と同一意味を有し、Rは−(CH−であり、mは2〜4の整数である。)
【請求項2】
有機チタン化合物(B)が、チタンラクテートもしくはその部分または完全中和物である請求項1に記載の紙用コーティング剤。
【請求項3】
pHが3以上6以下に調整されている請求項1または2に記載の紙用コーティング剤。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の紙用コーティング剤を塗工してなる層を有する感熱記録紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセタール構造を含有するビニルアルコール系共重合体および有機チタン化合物を含む紙用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体(以下、ビニルアルコール系重合体をPVAと略記することがある)は各種バインダー、接着剤または表面処理剤として広く使用されており、造膜性および強度において他の水溶性樹脂の追随を許さない、優れた性能を有することが知られている。しかしながら、PVAは水溶性であるため、耐水性、特に低温で乾燥した場合の耐水性が低いという欠点があり、従来、この欠点を改良するために種々の方法が検討されてきた。
【0003】
例えば、PVAの耐水性を改良する方法として、PVAをグリオキザール、グルタルアルデヒド、ジアルデヒドデンプン、水溶性エポキシ化合物、メチロール化合物などで架橋させる方法が知られている。しかしながら、この方法でPVAを十分に耐水化するためには100℃以上、特に120℃以上の高温で長時間熱処理する必要がある。この場合、乾燥温度が高いために感熱記録材料の表面保護層に使用しようとすると、乾燥時に感熱層が発色するために実質的に使用できない。また、乾燥時の発色を防ぐために低温乾燥で耐水化する方法として、pH2以下のような強酸性条件を用いる方法も知られているが、この場合にはPVA水溶液の粘度安定性が悪く、使用中に塗工液がゲル化するなどの問題点がある。さらには、塗工層の耐水性が不十分であった。
【0004】
さらに、カルボキシル基含有PVAをポリアミドエピクロルヒドリン樹脂で架橋させる方法、アセトアセチル基含有PVAをグリオキザールなどの多価アルデヒド化合物で架橋させる方法なども知られている。例えば、特許文献1、特許文献2ではアセトアセチル基変性PVAと共に架橋剤としてグリオキザールなどのアルデヒド類を使用して得られた皮膜は高い耐水性を発現することが知られている。しかしながら、アルデヒドの反応性が高いため、塗工液の粘度安定性が十分でない場合があり、また、高温高湿下で保存した場合、塗工層が黄変する問題があった。
【0005】
側鎖にアルデヒド基を有するポリビニルアルコール系樹脂と活性水素含有官能基を有する水溶性樹脂を含有してなる感熱記録用媒体(特許文献3)も知られているが、アルデヒド基の高い反応性のため、塗工液の粘度安定性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−106995号公報
【特許文献2】特開平9−11623号公報
【特許文献3】特開2004−160862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、塗工液の粘度安定性に優れ、かつ紙表面に塗工し、室温から50℃程度の低温で乾燥した場合においても、耐水性に優れる塗工層を紙に設けることができる紙用コーティング剤を提供することである。さらに高温高湿下に保存しても塗工層が黄変しない紙用コーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは鋭意検討を行った結果、下記一般式(I)又は(II)で表される、アルデヒド基をジアルキルもしくは環状アルキレンで保護したアセタール構成単位を0.1〜5モル%含有するビニルアルコール系共重合体(A)および有機チタン化合物(B)を含む紙用コーティング剤が上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
【化1】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状のアルキル基又は−CH−COOMであり、ここでMは水素原子、メチル基、アルカリ金属又はアンモニウム基であり、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは水素原子又は−COOMであり、ここでMは水素原子、メチル基、アルカリ金属又はアンモニウム基であり、Xは−(CH−、−CO−NH−(CH−、−NH−CO−(CH−、−CO−(CH−、−(CH−CO−、−CO−O−(CH−、−O−CO−(CH−、−NR−CO−(CH−、又は−CO−NR−(CH−であり、ここでRは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、nは0〜8の整数である。)
【0010】
【化2】

(式中、R及びXは、上記と同一意味を有し、Rは−(CH−であり、mは2〜4の整数である。)によって達成される。
【0011】
ビニルアルコール系共重合体(A)が、前記一般式(II)で表される構成単位を有する紙用コーティング剤が好ましい。
【0012】
有機チタン化合物(B)が、チタンラクテートまたはその部分または完全中和物である紙用コーティング剤が好ましい。
【0013】
pHが3以上6以下に調整されている紙用コーティング剤が好ましい。
【0014】
紙用コーティング剤を塗工してなる層を含む紙が、感熱記録紙であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、塗工液の粘度安定性に優れ、かつ耐水性および高温高湿下に保存しても塗工層が黄変しない紙用コーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の紙用コーティング剤は、下記一般式(I)又は(II)で表される構成単位を0.1〜5モル%含有するビニルアルコール系共重合体(A)および有機チタン化合物(B)を含有する。なお、この明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルの総称であり、これと類似の表現についても同様である。
【0017】
本発明に用いるビニルアルコール系共重合体(A)は、下記一般式(I)又は(II)で表される構成単位を0.1〜5モル%含有するが、0.15〜4.5モル%含有することがより好ましく、0.2〜4モル%含有することが特に好ましい。ビニルアルコール系共重合体(A)中の前記構成単位の含有量が0.1モル%未満の場合は、紙用コーティング剤を用いて製造した塗工紙の耐水性が劣る。一方、ビニルアルコール系共重合体(A)中の前記構成単位の含有量が5モル%を超える場合は、紙用コーティング剤を含む塗工液が粘度安定性に劣る。
【0018】
【化3】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状のアルキル基又は−CH−COOMであり、ここでMは水素原子、メチル基、アルカリ金属又はアンモニウム基であり、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは水素原子又は−COOMであり、ここでMは水素原子、メチル基、アルカリ金属又はアンモニウム基であり、Xは−(CH−、−CO−NH−(CH−、−NH−CO−(CH−、−CO−(CH−、−(CH−CO−、−CO−O−(CH−、−O−CO−(CH−、−NR−CO−(CH−、又は−CO−NR−(CH−であり、ここでRは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、nは0〜8の整数である。)
【化4】


(式中、R及びXは、上記と同一意味を有し、Rは−(CH−であり、mは2〜4の整数である。)
【0019】
式(I)〜(II)の各式の記号について、以下に説明する。本発明の異なる2以上の式(例えば式(I)と式(II))で使用される同一の記号(例えばR)について、該記号の内容は、規定された範囲を超えない限り、各式において同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0020】
における炭素数1〜8の直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基が挙げられ、メチル基が好ましい。R及びRにおけるMで表されるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられ、リチウム、ナトリウム又はカリウムが好ましく、ナトリウム又はカリウムがより好ましい。
【0021】
及びRにおける炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、これらのうち、炭素数1〜6の基が好ましい。R及びRにおけるアルキルカルボニル基としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基等が挙げられ、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基又はヘキサノイル基が好ましい。
【0022】
Xは−(CH−が好ましい。
【0023】
Xのnは0、1、2、3、4、5又は6が好ましい。
【0024】
における炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0025】
のmは1または2が好ましく、1がより好ましい。
【0026】
前記式(I)又は(II)で表される単量体としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる;
(メタ)アクロレインジメチルアセタール、(メタ)アクロレインジエチルアセタール、2−ビニル−1,3−ジオキソラン、2−イソプロペニル−1,3−ジオキソラン等の(メタ)アクロレインのアセタール化物、3−メチル−3−ブテナールジメチルアセタール、3−メチル−3−ブテナールジエチルアセタール、2−(2−メチル−2−プロペニル)−1,3−ジオキソラン等の3−メチル−3−ブテナールのアセタール化物、3−ブテナールジメチルアセタール、3−ブテナールジエチルアセタール、2−(2−プロペニル)−1,3−ジオキソラン等の3−ブテナールのアセタール化物、4−ペンテナールジメチルアセタール、4−ペンテナールジエチルアセタール、2−(3−ブテニル)−1,3−ジオキソラン等の4−ペンテナールのアセタール化物、5−ヘキセナールジメチルアセタール、5−ヘキセナールジエチルアセタール、2−(5−ペンテニル)−1,3−ジオキソラン等の5−ヘキセナールのアセタール化物、6−ヘプテナールジメチルアセタール、6−ヘプテナールジエチルアセタール、2−(6−ヘキセニル)−1,3−ジオキソラン等の6−ヘプテナールのアセタール化物、7−オクテナールジメチルアセタール、7−オクテナールジエチルアセタール、2−(1−ヘプテニル)−1,3−ジオキソラン、2−(6−ヘプテニル)−1,3−ジオキソラン等の7−オクテナールのアセタール化物等のエチレン性不飽和二重結合を有する脂肪族アルデヒドのアセタール化物;
【0027】
N−(2,2−ジメトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジエトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジイソプロポキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジブトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジ−t−ブトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3,3−ジメトキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3,3−ジエトキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3,3−ジイソプロポキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3,3−ジブトキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3,3−ジ−t−ブトキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(4,4−ジメトキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(4,4−ジエトキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(4,4−ジイソプロポキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(4,4−ジブトキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(4,4−ジ−t−ブトキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−(2,2−ジメトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−(2,2−ジエトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−(2,2−ジイソプロポキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−(2,2−ジブトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−(2,2−ジ−t−ブトキシエチル)(メタ)アクリルアミド等のジアルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド系化合物;4−{(2,2−ジメトキシエチル)アミノ}−4−オキソ−2−ブテン酸、4−{(2,2−ジエトキシエチル)アミノ}−4−オキソ−2−ブテン酸、4−{(2,2−ジイソプロポキシエチル)アミノ}−4−オキソ−2−ブテン酸、4−{(2、2−ジブトキシエチル)アミノ}−4−オキソ−2−ブテン酸等のジアルコキシ基を有するブテン酸類;5,5−ジメトキシ−3−オキソ−1−ペンテン、5,5−ジエトキシ−3−オキソ−1−ペンテン、5,5−ジイソプロポキシ−3−オキソ−1−ペンテン、5,5−ジブトキシ−3−オキソ−1−ペンテン等のジアルコキシ基を有するペンテン類;4−{(2,2−ジメトキシエチル)アミノ}−4−オキソ−3−メチレン−ブタン酸、4−{(2,2−ジエトキシエチル)アミノ}−4−オキソ−3−メチレン−ブタン酸、4−{(2,2−ジイソプロポキシエチル)アミノ}−4−オキソ−3−メチレン−ブタン酸、4−{(2,2−ジブトキシエチル)アミノ}−4−オキソ−3−メチレン−ブタン酸等のジアルコキシ基を有するブタン酸類;3−[N−(2,2−ジメトキシエチル)カルバモイル]プロペン酸、3−[N−(2,2−ジエトキシエチル)カルバモイル]プロペン酸、3−[N−(2,2−ジイソプロポキシエチル)カルバモイル]プロペン酸、3−[(N−2,2−ジブトキシエチル)カルバモイル]プロペン酸、3−[N−(2,2−ジ−t−ブトキシエチル)カルバモイル]プロペン酸等の1分子中に2個のアルコキシ基を有するプロペン酸系化合物;3−[N−(2,2−ジメトキシエチル)カルバモイル]プロペン酸メチル、3−[N−(2,2−ジエトキシエチル)カルバモイル]プロペン酸メチル、3−[N−(2,2−ジイソプロポキシエチル)カルバモイル]プロペン酸メチル、3−[N−(2,2−ジブトキシエチル)カルバモイル]プロペン酸メチル、3−[N−(2,2−ジ−t−ブトキシエチル)カルバモイル]プロペン酸メチル等の1分子中に2個のアルコキシ基を有するプロペン酸エステル系化合物;2,2−ジメトキシエチル(メタ)アクリレート、2,2−ジエトキシエチル(メタ)アクリレート、2,2−ジイソプロポキシエチルア(メタ)クリレート、2,2−ジブトキシエチル(メタ)アクリレート等のジアルコキシアルキル(メタ)アクリレートのアセタール化物等;又はアルキル(メタ)アクリルアミド系化合物、ブテン酸類、マレイン酸類、イタコン酸のアセタール化物、ペンテン類のアセタール化物或いは不飽和二重結合を有する脂肪族アルデヒドのアセタール化物が挙げられる。前記アルコキシ基の炭素数としては、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。前記アルキル(メタ)アクリルアミド系化合物又はアルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数としては、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、1〜2がさらに好ましい。
【0028】
本発明に用いるビニルアルコール系共重合体のけん化度は特に限定されないが、通常80〜99.9モル%が好ましく、85〜99.5モル%がより好ましい。けん化度が80モル%未満では、紙用コーティング剤の塗工層の耐水性が劣る。一方、けん化度が99.9モル%を超えると、紙用コーティング剤の塗工液の粘度安定性が劣る。前記けん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた値である。
【0029】
前記ビニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度(以下単に重合度と言うことがある)は特に限定されないが、300〜4000が好ましく、350〜3500がより好ましい。重合度が300未満の場合には、紙用コーティング剤の塗工層の強度が劣る。一方、重合度が4000を超える場合には、紙用コーティング剤の塗工液の粘度安定性が劣る。前記重合度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた値である。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて式により粘度平均重合度(P)を求めた。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0030】
本発明の紙用コーティング剤に用いる有機チタン化合物(B)としては、チタンラクテート、その部分または完全中和物(たとえば、チタンラクテート一アンモニウム塩、チタンラクテート二アンモニウム塩、チタンラクテート一ナトリウム塩、チタンラクテート二ナトリウム塩、チタンラクテート一カリウム塩、チタンラクテート二カリウム塩)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジ−n−ブトキシシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)、ポリチタンビス(アセチルアセトナート)、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、チタンテトラステアリレートなどが挙げられる。これらのチタン化合物の中でもキレート型の配位子を有する有機チタン化合物で、水溶性のものが好ましく、具体的にはチタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(トリエタノールアミナート)が好適なものとして挙げられる。これらのチタン化合物は必ずしも単独で使用する必要はなく、必要に応じて2種以上混合して用いることもできる。
【0031】
本発明の紙用コーティング剤は上述の如く、ビニルアルコール系共重合体(A)および有機チタン化合物(B)を含む。ビニルアルコール系共重合体(A)と有機チタン化合物(B)の質量配合比率{(B)/(A)}は特に限定されないが、(B)/(A)が0.1/99.9〜20/80であることが好ましく、1/99〜15/85であることがより好ましい。
【0032】
本発明の紙用コーティング剤は、これらの組成物に、本発明の目的が阻害されない範囲で、溶媒、充填材、界面活性剤(ノニオン性、アニオン性)、滑剤、消泡剤、分散剤、湿潤剤、圧力発色防止剤、シランカップリング剤、pH調節剤、各種高分子(水溶性高分子または高分子エマルジョンまたはラテックス等)を、用途または性能に応じて適宜配合することができる。
【0033】
溶媒としては、水あるいは水に各種アルコール、ケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の溶媒を併用したものが挙げられる。滑剤としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
【0034】
充填材としては、カオリン、クレー、タルク、炭酸カルシウム、焼成クレー、酸化チタン、ケイソウ土、シリカ、コロイダルシリカ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸マグネシウム、ポリスチレン微粒子、ポリ酢酸ビニル系微粒子、尿素−ホルマリン樹脂微粒子、小麦粉等が挙げられる。
【0035】
水溶性高分子または高分子分散体としては、澱粉及びその誘導体、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、アラビヤゴム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸のアルカリ塩(ソーダ塩等)、アクリル酸(またはメタクリル酸)エステル共重合体のアルカリ塩(ソーダ塩等)、ポリビニルピロリドン、アクリルアミド(またはメタクリルアミド)/アクリル酸(またはメタクリル酸)エステル共重合体、アクリルアミド(またはメタアクリルアミド)/アクリル酸エステル(またはメタアクリル酸エステル)/アクリル酸(またはメタアクリル酸)三元共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩(ソーダ塩)、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩(ソーダ塩等)、ジイソブチレン/無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩(ソーダ塩等)、ポリアクリルアミド、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、カゼイン等の水溶性高分子;ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリブチルメタクリレート、エチレン/酢酸ビニル共重合体等のエマルジョン、スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/ブタジエン/アクリル系共重合体等のラテックス等が挙げられる。
【0036】
本発明の紙用コーティング剤を用いて製造する紙は、特に限定されないが、感熱紙、感圧紙、インクジェット用紙、剥離紙、耐油紙、耐水紙、アート紙、コート紙等の製造に用いられる。なかでも、感熱紙の製造に好適に用いることができ、感熱発色層、表面保護層、アンダーコート層および基材のいずれかに用いることができる。
【0037】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0038】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、実施例、比較例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を表す。
【0039】
(PVA−1の合成)
撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入管および還流冷却器を付した反応容器中に酢酸ビニル1232g、メタノール368g、2−(6−ヘプテニル)−1,3−ジオキソラン14gを仕込み撹拌しながら系内を窒素置換した後内温を60℃まで上げた。この系に2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.7gを含むメタノール溶液50mlを添加し重合を開始した。4時間後重合を停止し、そのときの重合率は55%であった。25%に調整した該溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/変性PVAc中のビニルエステル単位のモル数)が0.03となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られた変性PVAのけん化度をJIS K6726に準じて測定したところ98.5モル%であった。また、該変性PVAの粘度平均重合度をJIS K6726に準じて測定したところ1300であった。さらに、けん化前の変性ポリビニル酢酸をメタノールとn−ヘキサンを用いて再沈精製した。得られた精製物のH−NMR測定から、2−(6−ヘプテニル)−1,3−ジオキソラン単位の変性量は0.3モル%であった。
【0040】
(PVA−2、PVA−5、PVA−6の合成)
PVA−1に示す重合操作において酢酸ビニルなどの単量体に対するメタノールの重量比を変えることで該重合体の重合度を、反応槽内の2−(6−ヘプテニル)−1,3−ジオキソランの添加量を変えることで変性量を変えることでPVA−2、PVA−5、PVA−6を得た。得られたPVAの重合度、変性量を表1に示す。
【0041】
(PVA−3の合成)
撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入管および還流冷却器を付した反応容器中に酢酸ビニル1408g、メタノール192g、6−ヘプテナールジメチルアセタール252gを仕込み撹拌しながら系内を窒素置換した後内温を60℃まで上げた。この系に2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.3gを含むメタノール溶液50mlを添加し重合を開始した。4時間後重合を停止し、そのときの重合率は50%であった。25%に調整した該溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/変性PVAc中のビニルエステル単位のモル数)が0.03となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られた変性PVAのけん化度をJIS K6726に準じて測定したところ98.5モル%であった。また、該変性PVAの粘度平均重合度をJIS K6726に準じて測定したところ1300であった。さらに、けん化前の変性ポリビニル酢酸をメタノールとn−ヘキサンを用いて再沈精製した。得られた精製物のH−NMR測定から、6−ヘプテナールジメチルアセタール単位の変性量は4.2モル%であった。
【0042】
(PVA−4の合成)
撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入管および還流冷却器を付した反応容器中に酢酸ビニル1440g、メタノール160g、2−(2−メチル−2−プロペニル)−1,3−ジオキソラン11gを仕込み撹拌しながら系内を窒素置換した後内温を60℃まで上げた。この系に2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.2gを含むメタノール溶液50mlを添加し重合を開始した。4時間後重合を停止し、そのときの重合率は35%であった。25%に調整した該溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/変性PVAc中のビニルエステル単位のモル数)が0.03となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られた変性PVAのけん化度をJIS K6726に準じて測定したところ98.5モル%であった。また、該変性PVAの粘度平均重合度をJIS K6726に準じて測定したところ2400であった。さらに、けん化前の変性ポリビニル酢酸をメタノールとn−ヘキサンを用いて再沈精製した。得られた精製物のH−NMR測定から、2−(2−メチル−2−プロペニル)−1,3−ジオキソラン単位の変性量は0.2モル%であった。
【0043】
(PVA−7の合成)
特開平9−124874号公報の実施例1 を参考にして、アセトアセチル変性PVAであるPVA−8を合成した。得られたPVA−8のけん化度は99.4 モル% 、粘度平均重合度は1200、アセトアセチル化度は6.0モル%であった。
【0044】
(実施例1)
(1) 表面保護層用塗工液の調製
ビニルアルコール系共重合体(A)の12質量%の水溶液を調製した。別途、ウルトラホワイト90(エンゲルハード社製;カオリンクレー)100部に水54部を加えてディスパーサーを用い、3000rpmで20分撹拌することで、濃度65質量%のカオリン分散液を得た。このカオリン分散液に前記ビニルアルコール系共重合体(A)の12質量%水溶液830部をゆっくり室温で加えて、ビニルアルコール系共重合体(A)水溶液とクレー分散液の混合液を調整した。さらに、有機チタン化合物(B)としてオルガチックスTC−315(乳酸チタン;マツモトファインケミカル(株)製)を前記混合液に室温で撹拌しながらゆっくり加え、20%濃度の塗工液を調製した{重量配合比率:(B)/(A)=4.8/95.2}。その後、pHが3となるように必要量のリン酸を加え、均一混合することで塗工液を得た。
【0045】
(2) 表面保護層付き感熱記録紙の製造
オーバーコート層を持たない市販感熱紙の表面に、その塗工紙表面に上記(1) で調製した塗工液を、ワイヤーバーコーターNo.14(ETO製)を用いて塗工した後、熱風乾燥機で50℃で5分間乾燥した。その後、該塗工紙をソフトスーパーカレンダー(線圧:100kg/cm、ロール温度:40℃)にて表面処理した。該塗工紙を、キュア処理として40℃、50%R.H.の条件で恒温恒湿機中で1日保管して表面保護層付き感熱記録紙を製造した。
【0046】
(耐水性:ウエットラブ試験)
塗工紙の塗工面に水を数滴垂らした後、その部分を指先で擦る操作を填料が脱落するまで繰り返した。最初に填料が脱落するまでに擦った回数で塗工紙の耐水性を評価した。
評価:(優秀)◎ > ○ > △ > ×(劣)
◎:30回超でも填料の脱落はなかった。
○:10回以上〜30回以下で填料が脱落した。
△:3回以上〜10回未満で填料が脱落した。
×:3回未満で填料が脱落した。
【0047】
(黄変試験)
上記手法で作成した感熱記録紙を恒温恒湿機内で40℃、90%R.H.にて1週間保存したサンプルの塗工面の外観を肉眼で観察し、塗工紙の黄変を評価した。
・ : 塗工層の外観の変化なし
× : 塗工層の外観が黄色に発色
【0048】
(塗工液の粘度安定性)
上記(1)で作成した、塗工液を20℃で静置し、塗工液調液完了からゲル化するまでの時間を計測することで、塗工液の粘度安定性を評価した。
○:12時間以上ゲル化しなかった
△:1時間〜12時間でゲル化した
×:1時間未満でゲル化した
【0049】
(実施例2〜7)および比較例1〜5
ビニルアルコール系共重合体の種類、有機チタン(B)の種類、ビニルアルコール系共重合体と有機チタン(B)の配合比、塗工液のpHをそれぞれ表1に示す内容に変更した以外は実施例1と同様に行った。得られた塗工液および感熱記録紙の評価結果を表1に示す。
【0050】
(比較例1〜4)
ビニルアルコール系共重合体の種類、有機チタン(B)の種類、ビニルアルコール系共重合体と有機チタン(B)の配合比、塗工液のpHをそれぞれ表1に示す内容に変更した以外は実施例1と同様に行った。得られた塗工液および感熱記録紙の評価結果を表1に示す。
【0051】
(比較例5)
ビニルアルコール系共重合体(A)の代わりにPVA−7を用い、有機チタン(B)の代わりにグリオキザールを用いた以外は、実施例1と同様に塗工液を調整した。ここで、架橋剤に用いたグリオキザールは固形分比でPVA−7の100部に対し5部添加した。得られた塗工液のpHは6であった。次いで、実施例1と同様の方法で感熱記録紙を作製した。得られた感熱記録紙を評価した結果、耐水性の指標であるウェットラブ試験は30回超であった。一方、黄変試験は黄色く変色した。また、塗工液の粘度は1時間以内で流動性を失ってゲル化した。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1〜7から明らかなように、本発明の紙用コーティング剤は塗工液の粘度安定性が良いため、紙加工に使用する際の取り扱いに優れる。また、本発明の紙用コーティング剤の塗工層は、耐水性に優れることが判る。さらに、当該塗工層は高温高湿度下での黄変が少ないことがわかる。一方、変性量が少なすぎる場合(比較例1)は、耐水性に劣っていた。また、変性量が多すぎる場合(比較例2)は、塗工液の粘度安定性が悪かった。さらに、有機チタンを併用しない場合(比較例3)は、耐水性に劣っており、架橋剤に有機チタンに換えてグリオキザールを用いた場合(比較例4)は、塗工液の粘度安定性が悪かった。アセトアセチル基変性PVAと架橋剤グリオキザールを使用した場合(比較例5)は、黄変が激しかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、塗工液の粘度安定性に優れ、紙表面に塗工し、室温から50℃程度の低温で乾燥した場合においても、耐水性に優れる塗工層を紙に設けることができる紙用コーティング剤を提供することができる。本発明の紙用コーティング剤は、例えば、感熱紙、感圧紙、インクジェット用紙、剥離紙、耐油紙、耐水紙、アート紙、コート紙等の製造に使用できる。