特許第6479611号(P6479611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6479611揚げ物用油脂組成物及び該揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479611
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】揚げ物用油脂組成物及び該揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品。
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20190225BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20190225BHJP
【FI】
   A23D9/00 506
   A21D13/60
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-173463(P2015-173463)
(22)【出願日】2015年9月3日
(65)【公開番号】特開2017-46653(P2017-46653A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】窪田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 朋子
(72)【発明者】
【氏名】宮原 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−322708(JP,A)
【文献】 特開2000−125765(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104782793(CN,A)
【文献】 特開2003−79315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記油脂Aを50〜95質量%、下記油脂Bを3〜37質量%含有する揚げ物用油脂組成物。
油脂A:X3含量が2〜10質量%、X2U含量が37〜65質量%、P2O含量が25〜55質量%、P2O/X2Uの質量比が0.50以上、POP/P2Oの質量比が0.80以上、XU2含量が15〜45質量%、U3含量が10質量%以下、構成脂肪酸中のX含量が36〜70質量%、構成脂肪酸中のU含量が30〜64質量%である油脂。
油脂B:構成脂肪酸中のX含量が15〜35質量%、構成脂肪酸中のP/Xの質量比が0.80以上、構成脂肪酸中のU含量が65〜85質量%、構成脂肪酸中のL/Uの質量比が0.60以上である油脂。
上記において、X、U、P、O、L、X3、X2U、P2O、POP、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16〜18の飽和脂肪酸
U:炭素数16〜18の不飽和脂肪酸
P:パルミチン酸
O:オレイン酸
L:リノール酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
P2O:Pが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
POP:1位と3位にP、2位にOが結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
【請求項2】
前記油脂Aがパーム系油脂である請求項1に記載の揚げ物用油脂組成物。
【請求項3】
構成脂肪酸中のU含量が75〜95質量%、けん化価が100〜160、水酸基価が120〜180であるポリグリセリン脂肪酸エステルを0.01〜2質量%含有する請求項1又は請求項2に記載の揚げ物用油脂組成物。
【請求項4】
前記揚げ物用油脂組成物が、ドーナツ又は揚げパンの揚げ調理である請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の揚げ物用油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品。
【請求項6】
前記揚げ物食品がドーナツ又は揚げパンである請求項5に記載の揚げ物食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーナツ、揚げパン等の揚げ物の調理に適した揚げ物用油脂組成物に関するものである。また、本発明は、揚げ物用油脂組成物を使用して揚げたドーナツ、揚げパン等の揚げ物食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドーナツ、揚げパンは油脂で揚げた食品であり、昔から広く一般消費者に親しまれている。流通しているドーナツ、揚げパンの大部分は、ファストフード店等の専門店の店舗内で揚げたものである。店舗内で揚げたドーナツ、揚げパンは、通常、調理された日に食される。
【0003】
ドーナツに関しては、販売形態の多様化により、店舗内で揚げずに、セントラルキッチンなど店舗外で揚げたものを輸送し、店舗内に持ち込み販売する形態もみられるようになった。店舗外で揚げたドーナツは、輸送に時間を要するため、揚げてから時間が経過したものであり、時間経過による風味、食感の劣化が問題となる場合があった。
【0004】
ドーナツ、揚げパンの風味、食感には、調理に使用する揚げ油が影響することが知られていることから、風味、食感が良いドーナツ、揚げパンを提供するための揚げ物用油脂が開発されている(例えば、特許文献1〜3等)。しかしながら、これらの揚げ物用油脂は、店舗内で調理され、時間経過しない内に食されるドーナツ、揚げパンを対象に開発されたものであった。
【0005】
また、ドーナツ、揚げパンの調理に使用する揚げ油は、油切れが悪かったり、ドーナツ、揚げパンからの油の染み出しが多かったりすると、ドーナツ、揚げパンがべとついてしまい、包材や喫食時の手指の汚れが問題なることがあった。
【0006】
以上のような背景から、経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ないドーナツ、揚げパン等の揚げ物食品を製造することができる揚げ物用油脂の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−262754号公報
【特許文献2】特開2012−19700号公報
【特許文献3】特開2013−243958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ない揚げ物食品及び該揚げ物食品を製造することができる揚げ物用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の油脂を特定量配合した油脂組成物を揚げ油に用いることで、経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ない揚げ物食品が提供することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明は、下記油脂Aを50〜95質量%、下記油脂Bを3〜37質量%含有する揚げ物用油脂組成物である。
油脂A:X3含量が2〜10質量%、X2U含量が37〜65質量%、P2O含量が25〜55質量%、P2O/X2Uの質量比が0.50以上、POP/P2Oの質量比が0.80以上、XU2含量が15〜45質量%、U3含量が10質量%以下、構成脂肪酸中のX含量が36〜70質量%、構成脂肪酸中のU含量が30〜64質量%である油脂。
油脂B:構成脂肪酸中のX含量が15〜35質量%、構成脂肪酸中のP/Xの質量比が0.80以上、構成脂肪酸中のU含量が65〜85質量%、構成脂肪酸中のL/Uの質量比が0.60以上である油脂。
上記において、X、U、P、O、L、X3、X2U、P2O、POP、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16〜18の飽和脂肪酸
U:炭素数16〜18の不飽和脂肪酸
P:パルミチン酸
O:オレイン酸
L:リノール酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
P2O:Pが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド
POP:1位と3位にP、2位にOが結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
本発明の第2の発明は、前記油脂Aがパーム系油脂である第1の発明に記載の揚げ物用油脂組成物である。
本発明の第3の発明は、構成脂肪酸中のU含量が75〜95質量%、けん化価が100〜160、水酸基価が120〜180であるポリグリセリン脂肪酸エステルを0.01〜2質量%含有する第1の発明又は第2の発明に記載の揚げ物用油脂組成物である。
本発明の第4の発明は、前記揚げ物用油脂組成物が、ドーナツ又は揚げパンの揚げ調理用である第1の発明〜第3の発明の何れか1つの発明に記載の揚げ物用油脂組成物である。
本発明の第5の発明は、第1の発明〜第4の発明の何れか1つの発明に記載の揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品である。
本発明の第6の発明は、前記揚げ物食品がドーナツ又は揚げパンである第5の発明に記載の揚げ物食品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ない揚げ物食品及び該揚げ物食品を製造することができる揚げ物用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、下記油脂Aを50〜95質量%、下記油脂Bを3〜37質量%含有するものである。
油脂A:X3含量が2〜10質量%、X2U含量が37〜65質量%、P2O含量が25〜55質量%、P2O/X2Uの質量比が0.50以上、POP/P2Oの質量比が0.80以上、XU2含量が15〜45質量%、U3含量が10質量%以下、構成脂肪酸中のX含量が36〜70質量%、構成脂肪酸中のU含量が30〜64質量%である油脂。
油脂B:構成脂肪酸中のX含量が15〜35質量%、構成脂肪酸中のP/Xの質量比が0.80以上、構成脂肪酸中のU含量が65〜85質量%、構成脂肪酸中のL/Uの質量比が0.60以上である油脂。
【0013】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、油脂Aを含有する。また、本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、X3含量が2〜10質量%、X2U含量が37〜65質量%、P2O含量が25〜55質量%、P2O/X2Uの質量比が0.50以上、POP/P2Oの質量比が0.80以上、XU2含量が15〜45質量%、U3含量が10質量%以下、構成脂肪酸中のX含量が36〜70質量%、構成脂肪酸中のU含量が30〜64質量%である。
【0014】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、X3含量が2〜10質量%であり、好ましくは3〜9質量%であり、より好ましくは4〜8質量%である。
なお、本発明において、X3はXが3分子結合しているトリグリセリド(トリアシルグリセロール)である。また、本発明において、Xは炭素数16〜18の飽和脂肪酸である。
【0015】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、X2U含量が37〜65質量%であり、好ましくは37〜62質量%であり、より好ましくは40〜60質量%である。
なお、本発明において、X2UはXが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(XXU+XUX+UXX)である。また、本発明において、Uは炭素数16〜18の不飽和脂肪酸である。
【0016】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、P2O含量が25〜55質量%であり、好ましくは30〜50質量%であり、より好ましくは35〜45質量%である。
なお、本発明において、P2OはPが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド(PPO+POP+OPP)である。また、本発明において、Pはパルミチン酸であり、Oはオレイン酸である。
【0017】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、P2O/X2Uの質量比が0.50以上であり、好ましくは0.55〜0.90であり、より好ましくは0.60〜0.87である。
なお、本発明において、P2O/X2Uの質量比は、X2U含量(質量%)に対するP2O含量(質量%)の比のことである。
【0018】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、POP/P2Oの質量比が0.80以上であり、好ましくは0.80〜0.95であり、より好ましくは0.83〜0.93である。
なお、本発明において、POP/P2Oの質量比は、P2O含量(質量%)に対するPOP含量(質量%)の比のことである。また、本発明において、POPは1位と3位にP、2位にOが結合しているトリグリセリドである。
【0019】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、XU2含量が15〜45質量%であり、好ましくは17〜43質量%であり、より好ましくは20〜40質量%である。
なお、本発明において、XU2はXが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(XUU+UXU+UUX)である。
【0020】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、U3含量が10質量%以下であり、好ましくは1〜9質量%であり、より好ましくは1〜8質量%である。
なお、本発明において、U3はUが3分子結合しているトリグリセリドである。
【0021】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、構成脂肪酸中のX含量が36〜70質量%であり、好ましくは38〜65質量%であり、より好ましくは40〜60質量%である。
【0022】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、構成脂肪酸中のU含量が30〜64質量%であり、好ましくは35〜62質量%であり、より好ましくは40〜60質量%である。
【0023】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量が好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0024】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aは、好ましくはパーム系油脂及びテンパリング型カカオ代用脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはパーム系油脂である。
本発明において、パーム系油脂とは、パーム油やパーム油の加工油脂(分別油、エステル交換油等)のことである。パーム油の加工油脂には、複数の加工処理を行ったものも含まれる。パーム系油脂の具体例としては、パーム油、パーム分別油が挙げられる。また、パーム分別油の具体例としては、パーム分別軟質油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、パーム中融点部、パーム分別硬質油(パームステアリン等)等が挙げられる。また、本発明において、パーム分別硬質油とは、パーム油やパーム分別油を分別して得られる硬質部(ステアリン部)のことである。また、本発明において、パーム中融点部とは、パーム分別軟質油を分別して得られる硬質部又はパーム分別硬質油を分別して得られる軟質部(オレイン部)のことである。また、本発明において、パーム分別軟質油とは、パーム油やパーム分別油を分別して得られる軟質部のことである。これらのパーム系油脂は、1種又は2種以上を混合して使用することができる。また、本発明において、テンパリング型カカオ代用脂とは、主にチョコレートの製造に使用されるカカオ脂と類似の構造及び性質を持つ油脂のことである。
【0025】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aとしてのパーム系油脂は、好ましくはパーム油及びパーム分別油からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはパーム油、ヨウ素価40〜50のパーム中融点部及びヨウ素価25〜40のパーム分別硬質油からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、さらに好ましくはパーム油、ヨウ素価40〜50のパーム中融点部及びヨウ素価25〜40のパーム分別硬質油の混合油である。
【0026】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、油脂Aの含量が50〜95質量%であり、好ましくは60〜93質量%であり、より好ましくは70〜90質量%である。
【0027】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物が上記油脂Aを上記範囲で含有すると、揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品は、経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ないものとなる。
【0028】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、油脂Bを含有する。また、本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Bは、構成脂肪酸中のX含量が15〜35質量%、構成脂肪酸中のP/Xの質量比が0.80以上、構成脂肪酸中のU含量が65〜85質量%、構成脂肪酸中のL/Uの質量比が0.60以上である。
【0029】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Bは、構成脂肪酸中のX含量が15〜35質量%であり、好ましくは17〜33質量%であり、より好ましくは20〜30質量%である。
【0030】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Bは、構成脂肪酸中のP/Xの質量比が0.80以上であり、好ましくは0.80〜0.95であり、より好ましくは0.83〜0.95である。
なお、本発明において、P/Xの質量比は、X含量(質量%)に対するP含量(質量%)の比のことである。
【0031】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Bは、構成脂肪酸中のU含量が65〜85質量%であり、好ましくは68〜83質量%であり、より好ましくは70〜80質量%である。
【0032】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Bは、構成脂肪酸中のL/Uの質量比が0.60以上であり、好ましくは0.60〜0.85であり、より好ましくは0.65〜0.80である。
なお、本発明において、L/Uの質量比は、U含量(質量%)に対するL含量(質量%)の比のことである。また、本発明において、Lはリノール酸である。
【0033】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Bは、構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量が好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0034】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Bは、好ましくは綿実油である。
【0035】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、油脂Bの含量が3〜37質量%であり、好ましくは4〜35質量%であり、より好ましくは8〜28質量%である。
【0036】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物が上記油脂Bを上記範囲で含有すると、揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品は、経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ないものとなる。
【0037】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、好ましくは油脂Cを含有する。また、本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Cは、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸含量が95質量%以上である。
【0038】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Cは、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸含量が95質量%以上であり、好ましくは96質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上である。
【0039】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Cは、構成脂肪酸中のSt/飽和脂肪酸の質量比が好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.83以上であり、さらに好ましくは0.85以上である。
なお、本発明において、St/飽和脂肪酸の質量比は、飽和脂肪酸含量(質量%)に対するSt含量(質量%)の比のことである。また、本発明において、Stはステアリン酸である。
【0040】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Cは、好ましくは構成脂肪酸中の炭素数18の脂肪酸含量が80質量%以上の油脂の極度硬化油である。炭素数18の脂肪酸含量が80質量%以上の油脂の具体例としては、菜種油、大豆油、コーン油、米油、サフラワー油、ヒマワリ油等が挙げられる。
【0041】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、油脂Cの含量が好ましくは0.5〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜3質量%であり、さらに好ましくは0.7〜3質量%である。
【0042】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物が上記油脂Cを上記範囲で含有すると、揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品は、経時的な風味、食感の劣化やべとつきがより少ないものとなる。
【0043】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、上記油脂A、上記油脂B、上記油脂Cの他に、本発明の効果を損なわない範囲内でその他の油脂を使用することもできる。
【0044】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、好ましくは構成脂肪酸中のU含量が75〜95質量%、けん化価が100〜160、水酸基価が120〜180であるポリグリセリン脂肪酸エステル(以下、ポリグリセリン脂肪酸エステルAとする。)を含有する。
【0045】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルAは、構成脂肪酸中のU含量が75〜95質量%であり、好ましくは80〜93質量%である。
【0046】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルAは、けん化価が100〜160であり、好ましくは120〜160である。
【0047】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルAは、水酸基価が120〜180であり、好ましくは、140〜170である。
【0048】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルAは、平均重合度が好ましくは8〜40であり、より好ましくは10〜25である。
【0049】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルAは、グリセリンやグリシドール、エピクロロヒドリン等の縮合で得られたポリグリセリンと特定の脂肪酸とを、水酸化ナトリウム等の触媒存在下でエステル化させて製造することができる。
【0050】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステルAの含量が好ましくは0.01〜2質量%であり、より好ましくは0.05〜1.5質量%であり、さらに好ましくは0.10〜1質量%である。
【0051】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物が上記ポリグリセリン脂肪酸エステルAを上記範囲で含有すると、揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品は、サクサク感がより向上し、経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ないものとなる。
【0052】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルAの他に、その他の乳化剤を使用することもできる。その他の乳化剤としては、例えば、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルA以外のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、縮合リシノレイン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン等が挙げられる。
【0053】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量が好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0054】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、油脂、乳化剤の他に、通常、揚げ物用油脂に添加される各種添加物を配合することもできる。各種添加剤としては、例えば、L−アスコルビン酸やL−アスコルビン酸誘導体、ビタミンE、トコフェロール類、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、リン脂質、オリザノール、植物ステロール、ジアシルグリセロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物、シリコーン、微粒子二酸化ケイ素、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類等が挙げられる。
【0055】
トリグリセリド組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム−HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)準拠)を用いて行うことができる。
構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠)を用いて行うことができる。
ヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1−1996 ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」を用いて測定することができる。
けん化価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.2.1−1996けん化価(その1)」を用いて測定することができる。
水酸基価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2,3,6,2−1996ヒドロキシル価(ピリジン−無水酢酸法)」を用いて測定することができる。
【0056】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、成分となる上記油脂、乳化剤等を混合することにより製造することができる。混合は、通常、行われている方法でよく、例えば、固形状の油脂もしくは、混合する油脂全てを加熱して溶解させ、撹拌する。加熱温度は、極度硬化油を含む場合は、80〜100℃まで加熱する必要があるが、その他の油脂は40〜80℃で十分である。なお、撹拌は、溶解と同時に行うこともできる。
【0057】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、ドーナツ、揚げパン、フライ、唐揚げ、天ぷら等の揚げ物を揚げるための油脂(揚げ油)として使用するものである。
【0058】
本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品は経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ない。特に本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物を使用して揚げた揚げ物食品は、ジューシー感、コク味・うま味、しとり感、口溶け、サクサク感、油っこさといったドーナツ、揚げパンに求められる風味、食感の経時的な劣化やべとつきが少ないことから、ドーナツ又は揚げパンの揚げ調理用に適している。したがって、本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物は、好ましくはドーナツ又は揚げパンの揚げ調理用に使用する。
【0059】
本発明の実施の形態に係る揚げ物食品は、本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物を使用して揚げたものである。揚げ物食品の具体例としては、ドーナツ、揚げパン、フライ、唐揚げ、天ぷら等が挙げられる。
【0060】
本発明の実施の形態に係る揚げ物食品は、好ましくはドーナツ又は揚げパンである。ドーナツ、揚げパンの具体例としては、イーストドーナツ、ケーキドーナツ、あんドーナツ、チュロス、サーターアンダギー、カレーパン、揚げコッペパン、ピロシキ、ギョウザドック等の惣菜パンが挙げられる。
【0061】
本発明の実施の形態に係る揚げ物食品は、本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物を用いること以外は、使用する素材や特別な条件を必要とせず、常法により揚げることができる。
【0062】
本発明の実施の形態に係る揚げ物食品は、経時的な風味、食感の劣化が少ない。特に本発明の実施の形態に係る揚げ物食品は、ジューシー感、コク味・うま味、しとり感、口溶け、サクサク感、油っこさといったドーナツ、揚げパンに求められる風味、食感の経時的な劣化が少ない。
【0063】
本発明の実施の形態に係る揚げ物食品は、油切れが良く、油の染み出しが少ないことから、べとつきの少ないものである。揚げ物食品のべとつきの少なさは、油脂の付着による包材の汚れを少なくし、喫食時の手指の汚れの防止にも役立つ。
【実施例】
【0064】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されるものではない。
【0065】
〔分析方法〕
トリグリセリド組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム−HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)準拠)を用いて行った。
構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠)を用いて行った。
ヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1−1996 ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」を用いて測定した。
けん化価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.2.1−1996けん化価(その1)」を用いて測定した。
水酸基価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2,3,6,2−1996ヒドロキシル価(ピリジン−無水酢酸法)」を用いて測定した。
【0066】
表1に記載の原料油脂、乳化剤を同表に記載の配合比に従って混合して、実施例1〜6の揚げ物用油脂組成物、比較例1〜5の揚げ物用油脂組成物を製造した。各揚げ物用油脂組成物の構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量を表1に示した。
【0067】
表1に示した原料油脂、乳化剤は、以下のものを使用した。なお、油脂A1〜A3は本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Aに相当するものであり、油脂B1は本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Bに相当するものであり、油脂C1は本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用する油脂Cに相当するものであり、乳化剤A1は本発明の実施の形態に係る揚げ物用油脂組成物に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルAに相当するものである。
【0068】
〔油脂A1〕
パーム油(ヨウ素価52)54質量部、パーム中融点部(ヨウ素価45)30質量部、パームステアリン(ヨウ素価32)5質量部を混合した混合油を油脂A1(X3含量:7.2質量%、X2U含量:53.9質量%、P2O含量:37.2質量%、P2O/X2Uの質量比:0.691、POP/P2Oの質量比:0.893、XU2含量:30.6質量%、U3含量:4.2質量%、X含量:50.9質量%、U含量:46.9質量%、トランス脂肪酸含量:0.4質量%)とした。
【0069】
〔油脂A2〕
パーム油(ヨウ素価52)を油脂A2(X3含量:7.3質量%、X2U含量:46.6質量%、P2O含量:31.0質量%、P2O/X2Uの質量比:0.665、POP/P2Oの質量比:0.876、XU2含量:36.9質量%、U3含量:5.2質量%、X含量:48.2質量%、U含量:49.5質量%、トランス脂肪酸含量:0.5質量%)とした。
【0070】
〔油脂A3〕
パーム油(ヨウ素価52)58.5質量部、テンパリング型カカオ代用脂19.5質量部を混合した混合油を油脂A3(X3含量:6.2質量%、X2U含量:56.5質量%、P2O含量:32.3質量%、P2O/X2Uの質量比:0.572、POP/P2Oの質量比:0.898、XU2含量:29.4質量%、U3含量:4.1質量%、X含量:51.9質量%、U含量:46.2質量%、トランス脂肪酸含量:0.2質量%)とした。
【0071】
〔油脂a1〕
パーム油(ヨウ素価52)75質量部、パームステアリン(ヨウ素価32)25質量部を混合した混合油を油脂a1(X3含量:14.5質量%、X2U含量:44.8質量%、P2O含量:30.4質量%、P2O/X2Uの質量比:0.680、POP/P2Oの質量比:0.882、XU2含量:31.9質量%、U3含量:4.5質量%、X含量:53.0質量%、U含量:44.7質量%、トランス脂肪酸含量:0.4質量%)とした。
【0072】
〔油脂a2〕
パーム油(ヨウ素価52)43質量部、パームオレイン(ヨウ素価67)40質量部を混合した混合油を油脂a2(X3含量:3.8質量%、X2U含量:35.5質量%、P2O含量:22.7質量%、P2O/X2Uの質量比:0.639、POP/P2Oの質量比:0.855、XU2含量:49.5質量%、U3含量:7.1質量%、X含量:41.8質量%、U含量:55.9質量%、トランス脂肪酸含量:0.5質量%)とした。
【0073】
〔油脂a3〕
パーム油(ヨウ素価52)68質量部、パームステアリン(ヨウ素価32)15質量部部を混合した混合油を油脂a3(X3含量:12.5質量%、X2U含量:45.3質量%、P2O含量:30.6質量%、P2O/X2Uの質量比:0.675、POP/P2Oの質量比:0.880、XU2含量:33.3質量%、U3含量:4.7質量%、X含量:51.7質量%、U含量:46.0質量%、トランス脂肪酸含量:0.4質量%)とした。
【0074】
〔油脂B1〕
綿実油を油脂B1(X含量:23.2質量%、P/Xの質量比:0.892、U含量:75.2質量%、L/Uの質量比:0.686、トランス脂肪酸含量:0.8質量%)とした。
【0075】
〔油脂b1〕
菜種油を油脂b1(X含量:6.1質量%、P/Xの質量比:0.689、U含量:91.1質量%、L/Uの質量比:0.218、トランス脂肪酸含量:1.4質量%)とした。
【0076】
〔油脂C1〕
菜種油(炭素数18の脂肪酸含量:92.8質量%)の極度硬化油を油脂C1(飽和脂肪酸含量:100質量%、St/飽和脂肪酸の質量比:0.912)とした。
【0077】
〔乳化剤A1〕
ポリグリセリン脂肪酸エステル(U含量:88.0質量%、けん化価:146、水酸基価:154)を乳化剤A1とした。
【0078】
〔ドーナツの製造及び評価〕
製造した実施例1〜6の揚げ物用油脂組成物、比較例1〜5の揚げ物用油脂組成物を用いてイーストドーナツ及びケーキドーナツを揚げた。具体的には、イーストドーナツはリングドーナツ(株式会社イズム、40g/個)を解凍後、1時間発酵させて、各揚げ物用油脂組成物を900g入れた1L電気フライヤー(象印マホービン株式会社、EFK−A10)を用いて180℃で3分間揚げた。ケーキドーナツはタマゴドーナツ(オーランドフーズ株式会社、40g/個)を、各揚げ物用油脂組成物を900g入れた1L電気フライヤー(象印マホービン株式会社、EFK−A10)を用いて180℃で4分間揚げた。
【0079】
揚げた後3時間放冷し、その後密閉包装を施して、経時的な風味、食感の劣化を比較するために20℃で24時間保存した。各ドーナツについて項目ごとに評価を行った。官能評価として、各ドーナツを食した時のジューシー感、コク味・うま味、しとり感、口溶け、サクサク感、油っこさ及び総合的美味しさを下記評価基準により評価した。官能評価は、◎、○又は△である場合を良好であると判断した。また、各ドーナツを手指でつかんだ時のべとつきを下記評価基準に従い評価した。べとつきは、○又は△である場合を良好であると判断した。評価結果を表1〜3に示す。
【0080】
<官能評価の評価基準>
◎:非常にこのましい
〇:好ましい
△:どちらかといえば好ましい
▲:普通
×:好ましくない
【0081】
<べとつきの評価基準>
○:べとつかない
△:少しべとつく
×:べとつく
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
表1、2から分かるように、実施例の揚げ物用油脂組成物を用いて揚げたドーナツは、24時間保存しても、風味、食感及びべとつきの評価結果が良好であり、経時的な風味、食感の劣化やべとつきが少ないものであった。
一方、表2、3から分かるように、比較例の揚げ物用油脂組成物を用いて揚げたドーナツは、24時間保存後の風味、食感及びべとつきの評価結果のいずれか又は全てが悪かった。