(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479862
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】一成分型のUVおよび熱硬化高温剥離可能な接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 183/07 20060101AFI20190225BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20190225BHJP
C09J 183/05 20060101ALI20190225BHJP
C09J 5/06 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
C09J183/07
C09J11/06
C09J183/05
C09J5/06
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-575056(P2016-575056)
(86)(22)【出願日】2014年6月24日
(65)【公表番号】特表2017-527636(P2017-527636A)
(43)【公表日】2017年9月21日
(86)【国際出願番号】CN2014080578
(87)【国際公開番号】WO2015196345
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2017年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
(73)【特許権者】
【識別番号】514056229
【氏名又は名称】ヘンケル アイピー アンド ホールディング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・ハインズ
(72)【発明者】
【氏名】スン・チュンユー
(72)【発明者】
【氏名】ジアンボ・オーヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・グレゴリー・ウッズ
(72)【発明者】
【氏名】バーラム・イッサリ
(72)【発明者】
【氏名】コン・ションチアン
(72)【発明者】
【氏名】リウ・ヤ−ユン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ウェンホア
【審査官】
磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−154008(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/181801(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/133138(WO,A1)
【文献】
特表2011−516626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一成分の剥離可能な高温安定性接着剤組成物であって、
(i)1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン上のビニル基と末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサン上の末端Si-H水素との反応の部分ヒドロシリル化反応生成物、および
(ii)光及び/又は熱ラジカル硬化開始剤
を含んでなる組成物。
【請求項2】
末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサンは、構造
【化1】
[式中、Rは、C
1〜C
10アルキレン基、
アリーレン基、酸素、-(O-SiMe
2)
n−O-、-(O-SiAr
2)
n-O-、-(O-SiMeAr)
n-O-、及びこれらの基のうちの任意の組み合わせからなる群から選択され、ここで、nは少なくとも1の整数であり、Meはメチル基であり、Arはアリール基であり;R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6の各々は、独立して、C
1〜C
10アルキル基またはアリール基である]
を有する、請求項1に記載の剥離可能な接着剤組成物。
【請求項3】
末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサンは、ポリジアルキルシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン、テトラアルキルジシロキサンおよびポリジアリールシロキサンからなる群から選択される、請求項2に記載の剥離可能な接着剤組成物。
【請求項4】
前記ラジカル硬化開始剤は、α-ヒドロキシケトン、ベンゾフェノン、フェニルグリオキシル酸、アシルホスフィンオキシド、ビス-アシル-ホスフィンオキシド、ジクメンペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、および2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の剥離可能な接着剤組成物。
【請求項5】
アクリル化および/またはメタクリル化シロキサンから選択される硬化速度助剤をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の剥離可能な接着剤組成物。
【請求項6】
充填剤材料をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の剥離可能な接着剤組成物。
【請求項7】
前記組成物は、追加の架橋剤を含まない、請求項1〜6のいずれかに記載の剥離可能な接着剤組成物。
【請求項8】
キャリアと基材との間に配置された、請求項1〜7のいずれかに記載の一成分の剥離可能な高温安定接着剤組成物を含む、基材とキャリアのアセンブリ。
【請求項9】
基材をキャリアに接合する方法であって、
(a)基材とキャリアを準備すること、
(b)基材および/またはキャリア上に請求項1〜7のいずれかに記載の一成分剥離接着剤組成物を配置すること、
(c)基材とキャリアとを接触させて、剥離可能な接着剤組成物をキャリアと基材との間に配置して、アセンブリを形成すること、
(d)(i)アセンブリを加熱すること、または
(ii)アセンブリを放射線に暴露すること、または
(iii)アセンブリを放射線に暴露し、続いて加熱すること
によって前記剥離可能な接着剤をラジカル硬化させること
を含む方法。
【請求項10】
キャリアから基材を剥離するための方法であって、
(a)基材とキャリアを準備すること、
(b)基材および/またはキャリア上に、請求項1〜7のいずれかに記載の一成分剥離性接着剤組成物を配置すること;
(c)基材とキャリアとを接触させて、剥離可能な接着剤組成物をキャリアと基材との間に配置して、アセンブリを形成すること;
(d)(i)アセンブリを加熱すること、または
(ii)アセンブリを放射線に暴露すること、または
(iii)アセンブリを放射線に暴露し、続いて加熱すること、
によって前記剥離可能な接着剤をラジカル硬化させること、
および
(e)基材およびキャリアを機械的に分離すること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用途に使用される一成分UVおよび熱硬化性仮接着剤に関し、特に、ある基材を別の基材に一時的に取り付けるための接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの産業内では、柔軟なおよび/または非常に薄い基材、例えば、ステンレス鋼、シリコンウェーハ、ガラス、セラミック、ポリイミドおよびポリエステルフィルムの使用における関心が高まっている。柔軟で非常に薄い基材は、下流の製造条件で自立して取り扱うには極めて壊れやすく、生き残るためには適切なキャリア上に支持されなければならない。製造プロセスが行われた後、基材は損傷を受けていないキャリアから、好ましくは周囲温度で、除去可能でなければならない。
【0003】
エレクトロニクス産業では、一例として、イメージングディスプレイ、センサ、太陽光発電およびRFIDが、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント、iPad、またはTV用のディスプレイ用途に薄くおよび/または可撓性のある基材をますます必要としている。例示的な基材は、機能が詰め込まれた非常に薄い(100μm)ガラスである。ガラスは、透明導電体としてインジウム錫酸化物(ITO)を堆積させるために、薄膜トランジスタ(TFT)を堆積するために300〜500℃で、または150〜400℃で処理される。ガラスの脆弱性および過酷なプロセス条件のために、このガラスは、製造中により安定した基材への結合によって強化または保護されなければならない。また、タッチセンサ製造に対するピースタイプのアプローチでは、タッチセンサガラスは、上記のような堆積プロセスの前に、事前に切断され、キャリアに結合される。シリコンウェーハ製造のような他の産業でも、バックグラインドプロセスの間にますます薄いシリコンウェーハを保護するためにキャリア基材にボンディングする必要があり、その後にクリーンリリースが行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような用途は、容易かつきれいに剥離可能であり、高い加工温度で仮接着を可能にし、基材の取扱いまたは性能を損なうことのない高温安定接着剤を必要とする。これは、特にエレクトロニクス産業内での目的である。このような接着剤の開発は、半導体、アクティブマトリックス薄膜トランジスタ、タッチメンブレン、または光電池などのための既存の製造方法が、現在設置されている製造ツールおよび機械の基盤を使用することを可能にする。しかしながら、現在利用可能な殆どの仮接着剤は、製造工程の最大加工において熱的に安定ではなく、400℃もの高温になり得る。
【0005】
従って、後に室温で除去されて標的成分に損傷を与えることのない高温仮接着用途に適した接着剤であれば、様々な産業にわたってより薄い、またはより柔軟な基材の使用を前進させるであろう。
【0006】
一般に、一般的な剥離可能な接着剤は、二成分系からなる。より正確には、これらの二成分系は、適用の前または適用の過程において適切な加工生成物を調製するためにさらなる添加剤と混合される必要がある。その理由から、そのような種類の現在の組成物は、作業時間が短く、硬化時間が長く、特に容器包装を開封した後の貯蔵寿命が短いため、その適用性および管理性が損なわれる。
【0007】
本発明は、300℃から450℃までの範囲の製作温度で、基材のキャリアへの適切な一時的な接着を与え、基材を損傷することなく、周囲温度で基材とキャリアの界面で接着不良を起こして剥離する、一成分UVおよび熱硬化性の高温安定で剥離可能な接着剤を提供することにより、上記の目的を達成し、既存の欠点を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の態様において、本発明は、
(i)1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン上のビニル基と末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサン上の末端Si-H水素との反応の部分ヒドロシリル化反応生成物、および
(ii)光及び/又は熱ラジカル硬化開始剤
を含んでなる一成分の剥離可能な高温安定接着剤組成物に関する。
【0009】
別の態様において、本発明はまた、基材とキャリアとの間に配置された、上記のような、好ましくは硬化した、一成分の剥離可能な高温安定接着剤組成物を含む、基材とキャリアのアセンブリに関する。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、基材をキャリアに結合させる方法であって、 (a)基材とキャリアを準備すること、
(b)本発明の一成分の剥離可能な接着剤を基材および/またはキャリア上に配置すること、
(c)剥離可能な接着剤がキャリアと基材との間に配置されるように基材とキャリアを接触させて、アセンブリを形成し、
(d)下記によって前記剥離可能な接着剤をラジカル硬化させること、
(i)アセンブリを加熱すること、または
(ii)アセンブリを放射線に暴露すること、または
(iii)アセンブリを放射線に暴露し、続いて加熱すること
を含んでなる方法を対象とする。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、キャリアから
基材を剥離する方法であって、
(a)基材とキャリアを準備すること;
(b)基材および/またはキャリア上に、本明細書に記載されるような一成分剥離可能接着剤を配置すること;
(c)剥離可能な接着剤がその間に配置されるように基材とキャリアとを接触させ、アセンブリを形成すること;
(d)下記によって前記剥離可能な接着剤をラジカル硬化させること、
(i)アセンブリを加熱すること、または
(ii)アセンブリを放射線に暴露すること、または
(iii)アセンブリを放射線に暴露し、続いて加熱すること。および
(e)場合によりアセンブリを周囲温度にした後および/または基材を処理する1つ以上のステップの後に、基材およびキャリアを機械的に分離すること
を含む方法を特徴とする。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、接着剤として、好ましくは基材とキャリアを結合させるための、本明細書に記載の組成物の使用も含む。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使用される「2以上」は、少なくとも2に関するものであって、2,3,4,5,6,7,8,9またはそれ以上の参照種を含む。
【0014】
本明細書および特許請求の範囲内で使用される場合、「基材」は製造プロセスのターゲット成分を指し、「キャリア」は「基材」のための支持構造を指す。
【0015】
本発明は、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン上のビニル基と末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサン上の末端Si-H水素との反応のヒドロシリル化反応生成物、および放射線活性化光開始剤および/または熱活性化ラジカル開始剤を含む一成分接着剤組成物に関する。
【0016】
1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチル-シクロテトラシロキサンと末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサンとの間の反応の部分ヒドロシリル化反応生成物は、本明細書ではビニルカルボシロキサンまたはVCS樹脂またはVCSRと指称する。一般に、用語「部分ヒドロシリル化反応生成物」は、本明細書で使用される場合、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンと末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサン上の末端Si-H水素との間のヒドロシリル化反応の生成物を指し、ここで、反応生成物は少なくとも1つの未反応ビニル基を保持している。前記の少なくとも1つの未反応ビニル基は、後の硬化反応(ラジカル重合による)において架橋結合部分として働く。様々な実施形態において、VCSRは、200000g/molまで、好ましくは1000ないし150000g/molの分子量Mwを有する。分子量Mwは、溶離剤としてTHFを使用して、DIN55672-1:2007-08に従ってゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0017】
本発明の接着剤組成物は、300℃以上450℃以下の温度でその接着性を維持し、室温で約0.1ないし5N/25mmの力で、好ましくは0.2ないし1.5N/25mmの力で機械的に剥離可能である。TGA重量損失は、好ましくは、適用温度で5%未満である。
【0018】
キャリアから基材を接着または剥離する上述の方法の様々な実施形態では、アセンブリを加熱することによる硬化は、100℃ないし175℃の温度またはその範囲の温度を1分ないし30分間適用することを含む。UV放射による硬化は、UV/Visランプ、例えば500W UV/Visランプによって約1秒ないし4分間、発生された放射線にアセンブリを曝すことによって行うことができる;実施者の裁量の範囲内で他の放射線源を使用することもできる。様々な実施形態において、加熱および照射は、場合により上述の加熱/照射条件を適用することによって組み合わせることができる。一般に、当業者は、一般的な技術知識または日常的な実験に頼ることによって、適切な硬化条件を容易に決定することができる。上記の加熱および/または照射は、ラジカル開始剤(触媒)を活性化することによってVCSRのラジカル硬化を開始させる働きをする。硬化条件は、使用される触媒に依存し、例示的な硬化条件もまた以下により詳細に記載される。
【0019】
本明細書に記載の接着剤におけるVCS樹脂の使用は、構造:
【化1】
を有する1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンの、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンと反応するための少なくとも2個の末端Si-H水素を有する適切なシランまたはシロキサンとの部分ヒドロシリル化反応によって形成され、これは、構造:
【化2】
[式中、Rは、C
1ないしC
10の
アルキレン基、
アリーレン基、例えばC
6ないしC
10の
アリーレン基、酸素、-(O-SiMe
2)
n-O-、-(O-SiAr
2)
n、-(O-SiMeAr)
n-O-、およびこれらの基の任意の組み合わせから選択され、ここで、nは1以上の整数であり、Meはメチル基であり、Arはアリール基であり、例えばC
6ないしC
10のアリール基;R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6の各々は、独立して、C
1ないしC
10アルキル基又はアリール基、例えばC
6ないしC
10アリール基である。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6が、C
1ないしC
10アルキル基、特にC
1ないしC
4アルキル基、例えばメチルまたはエチル、またはフェニルであることが好ましい]
を有するものを含む。
【0020】
例示的なシランまたはシロキサンとしては、ケイ素原子上のアルキル基がC
1ないしC
10アルキル基であるポリアルキルシランおよびポリアルキルシロキサンが挙げられる。様々な実施形態において、シランおよびシロキサンには、ポリジメチルシロキサンなどのポリジアルキルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなどのポリアルキルアリールシロキサン、テトラメチルシロキサンなどのテトラアルキルジシロキサン、およびポリジアリールシロキサンが含まれる。これらの化合物はGelestから市販されている。
【0021】
好ましいVCSR反応生成物は、分子量が重量平均分子量である以下の理想化構造を有するものである。種々の実施形態において、VCSR反応生成物のケイ素原子上のアルキル基には、C
1ないしC
10アルキル基が含まれる。以下の理想化された構造では、メチル基がシラン/シロキサン部分に示されているが、他のC
1ないしC
10アルキル基が置換されていてもよいと理解されるべきである。
【0022】
【化3】
VCSR-1, Mw = 1000 - 100,000
【化4】
VCSR-2, Mw = 1000 - 150,000
【化5】
VCSR-3, Mw = 1000 - 100,000
【0023】
上記VCSRに加えて、接着剤組成物は、ビニル基のラジカル重合/架橋によってVCSRを硬化させるための触媒として、光開始剤および/または熱活性化ラジカル開始剤を含む。
【0024】
光開始剤は放射線活性化ラジカル開始剤であり、熱硬化ラジカル開始剤は熱活性化ラジカル開始剤であるので、硬化は熱硬化または光硬化である。適切なラジカル開始剤は、当業者に周知である。例えば、光開始剤および/または熱活性化ラジカル開始剤は、α-ヒドロキシケトン、ベンゾフェノンおよびフェニルグリオキシル酸からなる群から選択される。当業界で一般的に知られている全てのタイプのアシルホスフィンオキシドおよびビス-アシル-ホスフィンオキシド、さらにジクメンペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンも適当であるが、これらに限定されない。好ましいラジカル開始剤はジクミンペルオキシドである。好ましい光開始剤には、Darocure(登録商標)1173およびIrgacure(登録商標)184(1-ヒドロキシシクロヘキシル-α-ヒドロキシケトン)または2100(モノアシルホスフィンオキシド(MAPO)およびビスアシルフォスフィンオキシド (BAPO))の商品名で市販されているものが含まれる。
【0025】
多くの反応において、触媒のレベルは、依然として活性であるが、反応生成物からそれを分離する必要がないほど十分に低い。
【0026】
様々な実施形態において、組成物は、組成物の総重量に基づいて、VCSRを40ないし95重量%、好ましくは60ないし85重量%、および/または光開始剤および/または熱活性化ラジカル開始剤を0.1ないし10重量%、好ましくは0.1ないし2重量%含む。
【0027】
典型的な硬化条件には、UV/Vis放射への曝露および/または200℃未満の温度での熱が含まれる。エネルギー入力は、好ましくは2000−20,000mJ/cm
2、好ましくは7000−12,000mJ/cm
2の範囲である。
【0028】
組成物は、硬化速度助剤、例えばメタクリル化またはアクリル化シロキサンをさらに含んでよい。そのような添加剤の量は、組成物の総重量に対して通常約0ないし50重量%、好ましくは5ないし15重量%の範囲である。
【0029】
また、限定されるものではないが、シリカを含む種々の充填材が含まれてよい。存在する場合、そのような充填剤は、組成物の総重量に基づいて0ないし40重量%、好ましくは5ないし25重量%の量で存在してよい。
【0030】
本発明の組成物は、追加の架橋剤、特にヒドロシランおよび/またはヒドロシロキサン架橋剤の添加を必要としない。したがって、好ましい実施形態では、本発明の組成物は、このような追加の架橋剤を含まず、特にヒドロシランおよびヒドロシロキサン架橋剤を含まない。この文脈で使用される「含まない」は、組成物中の参照種の量が、組成物の総重量を基準にして1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満であることを意味する。
【0031】
本明細書に記載されているように、キャリア、基材およびキャリアを基材に接着させる硬化接着剤からなる結合されたアセンブリを、基材のさらなる処理ステップに供することができる。処理ステップは、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)を堆積するために300ないし500℃の温度に曝露するか、又は透明導電体としてインジウム錫酸化物(ITO)を堆積させるために150ないし400℃を曝すことを含む。様々な実施形態において、基材は、ガラス基板またはシリコンウェーハ、例えば、0.5mm未満、好ましくは100μm以下の厚さを有する超薄型ガラスまたはウェーハである。前記処理ステップの間に前記基材を前記キャリアに接合することにより、前記基材が補強し保護される。キャリアは、金属、ガラス、プラスチックおよびセラミックを含む任意の適切な材料で作ることができる。他の実施形態では、キャリアは、例えば上記に定義したような基材であってもよい。
【0032】
前記処理ステップが完了した後、アセンブリを冷却し、キャリアと基材を機械的に互いに分離してよい。本明細書では「剥離」とも呼ばれるこの機械的分離工程において、分離は、基材を損傷することなく、周囲温度で基材とキャリアとの界面における接着剤の破損によって生じる。
【0033】
本発明は、剥離可能な接着剤として、特に基材とキャリアを互いに可逆的に結合するための、本明細書に記載の組成物の使用をさらに包含する。使用は、上記の方法と同様のステップを含んでよい。
【0034】
一般に、本発明の組成物に関連して本明細書に開示された全ての実施形態は、開示された方法および使用に等しく適用可能であり、逆も同様であることを理解されたい。
【実施例】
【0035】
比較例1:現在の2k調製物
調製物
72.5%のVCSR2(Pt触媒を含有する)、6.5%のヒュームドシリカ、5%のPDV-0535、および1%のDarocure 1173を含むパートA、Gelest製のSIB 6826.0ヒドロシロキサンを含むパートBを有する2液型調製物。パートAをパートBと85:15の重量比で混合した。混合した試料の一部をガラスバイアルに入れた。ガラスバイアルをUVLOC 1000に入れ、80秒間(約8000−12000mJ/cm
2)UV曝露に付した後、150℃のオーブンに入れて15分間加熱後硬化させた。最終的に、硬化した試料は透明な固体であった。この試料のTGA(熱重量分析)は、350℃で30分後に質量の97.5%が残っていることを示した(室温から20℃/分の上昇率)。
【0036】
脱接着の剥離力
上記の調製物を、標準的なスライドガラス(75×25×1mm)およびカバースライド(50×24×0.1mm)上で交差位置(結合面積25×24mm)にコーティングした。次いで、アセンブリを、UV熱硬化の後、単純な剥離力試験に供した後、250℃で1時間、350℃で10分間加熱老化させ、その後室温に冷却した。力ゲージを薄いガラススライドに取り付け、結合部をおよそ90度の剥離力にかけた。結合は、薄いガラススライドそのままで1−3ニュートンの力で容易に壊れた。
【0037】
エージング後のクラッキング
上記の調製物のサンプル(約0.1ml)を50×80×1mmガラススライド上に置いた。150ミクロンのスペーサーをスライドのいずれかの端部に置き、150ミクロンのおおよそのボンドギャップを与えるために、スペーサーによって支持されたサンプルの上に同じガラススライドを置いた。サンプルをUVLOC 1000中で80秒間、オーブン中150℃で10分間硬化させ、次いで室温へ取り出した。熱エージング後、室温接着剤サンプルは透明でクラックが無かった。
【0038】
粘度安定性/ポットライフ
ブルックフィールド粘度計(動的)(RVT DV-II CP#5 2.5rpm、25℃)を使用して、上記組成物について経時的な粘度監視試験を行った。パートAをパートBとスピードミキサーで混合し、次いで粘度を0時間、0.5時間、1.5時間および2時間後に試験した。結果(表1)は、2成分調製物が非常に短いポットライフを有し、したがって製造に適用することが困難であることを示した。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例2:本発明の1k調製物
二成分系の短期ポットライフの不足を克服し、さらに製造における塗布プロセスに利益をもたらすために、新規な一成分型調製物を開発した。接着剤を基材に塗布する前に異なる成分を混合する必要はない。さらに、パッケージングは単純化される。
【0041】
調製物
12.5%のPDV-0535、5.5%のヒュームドシリカ、0.2%のジクミルペルオキシド、および1%のDarocure 1173を含有するVCSR2を有する新規の調製物をガラスバイアルに入れた。ガラスバイアルを2000rpmで1分間スピードミキサーに入れた。次いで、ガラスバイアルをUVALOC1000に入れ、500WのUV照射下で80秒間(約8000−12000mJ/cm
2)、UVプレ硬化サンプルを150℃で15分間完全に硬化させた。硬化した試料は透明な固体であった。この試料のTGAは、350℃で30分後(室温から20℃/分の上昇率)に質量の96.8%が残っていることを示した。これは、実施例1と比較して、ほぼ同等のアウトガス性能である。
【0042】
脱接着の剥離力
エージング後のクラッキング
上記の調製物の試料(約0.1ml)を50×80×1mmガラススライド上に置いた。150ミクロンスペーサーをスライドのいずれかの端に置き、150ミクロンのおおよそのボンドギャップを与えるために、スペーサーによって支持されたサンプルの上に同一のガラススライドを置いた。試料を80秒間UCLOC1000で、オーブン中150℃で硬化させた。得られた透明な結合したガラスサンプルを250℃で1時間、350℃で10分間オーブン中に置いた後、室温へ取り出した。熱エージング後、室温接着剤サンプルは透明でクラックが無かった。
【0043】
粘度安定性/ポットライフ
ブルックフィールド粘度計(RVT DV-II CP#5 2.5rpm、25℃)により数週間にわたって粘度を追跡し、最初の新鮮なサンプルの粘度は7966cpsであり、12日後に粘度は7542cpsで依然として安定していた。実施例1で明白なポットライフの問題は完全に解決される。
本発明の好ましい態様は、以下を包含する。
〔1〕一成分の剥離可能な高温安定性接着剤組成物であって、
(i)1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン上のビニル基と末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサン上の末端Si-H水素との反応の部分ヒドロシリル化反応生成物、および
(ii)光及び/又は熱ラジカル硬化開始剤
を含んでなる組成物。
〔2〕末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサンは、構造
[化1]
[式中、Rは、C1〜C10アルキレン基、アリーレン基、酸素、-(O-SiMe2)n−O-、-(O-SiAr2)n-O-、-(O-SiMeAr)n-O-、及びこれらの基のうちの任意の組み合わせからなる群から選択され、ここで、nは少なくとも1の整数であり、Meはメチル基であり、Arはアリール基であり;R1、R2、R3、R4、R5およびR6の各々は、独立して、C1〜C10アルキル基またはアリール基である]
を有する、〔1〕に記載の剥離可能な接着剤組成物。
〔3〕末端Si-H水素を有するシランまたはシロキサンは、ポリジアルキルシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン、テトラアルキルジシロキサンおよびポリジアリールシロキサンからなる群から選択される、〔2〕に記載の剥離可能な接着剤組成物。
〔4〕前記ラジカル硬化開始剤は、α-ヒドロキシケトン、ベンゾフェノン、フェニルグリオキシル酸、アシルホスフィンオキシド、ビス-アシル-ホスフィンオキシド、ジクメンペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、および2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンからなる群から選択される、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剥離可能な接着剤組成物。
〔5〕アクリル化および/またはメタクリル化シロキサンから選択される硬化速度助剤をさらに含む、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の剥離可能な接着剤組成物。
〔6〕充填剤材料をさらに含む、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の剥離可能な接着剤組成物。
〔7〕前記組成物は、追加の架橋剤を含まず、好ましくはヒドロシランおよびヒドロシロキサン架橋剤を含まない、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の剥離可能な接着剤組成物。
〔8〕キャリアと基材との間に配置された、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の一成分の剥離可能な高温安定接着剤組成物を含む、基材とキャリアのアセンブリ。
〔9〕基材をキャリアに接合する方法であって、
(a)基材とキャリアを準備すること、
(b)基材および/またはキャリア上に請求項1〜7のいずれかに記載の一成分剥離接着剤組成物を配置すること、
(c)基材とキャリアとを接触させて、剥離可能な接着剤組成物をキャリアと基材との間に配置して、アセンブリを形成すること、
(d)(i)アセンブリを加熱すること、または
(ii)アセンブリを放射線に暴露すること、または
(iii)アセンブリを放射線に暴露し、続いて加熱すること
によって前記剥離可能な接着剤をラジカル硬化させること
を含む方法。
〔10〕キャリアから基材を剥離するための方法であって、
(a)基材とキャリアを準備すること、
(b)基材および/またはキャリア上に、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の一成分剥離性接着剤組成物を配置すること;
(c)基材とキャリアとを接触させて、剥離可能な接着剤組成物をキャリアと基材との間に配置して、アセンブリを形成すること;
(d)(i)アセンブリを加熱すること、または
(ii)アセンブリを放射線に暴露すること、または
(iii)アセンブリを放射線に暴露し、続いて加熱すること、
によって前記剥離可能な接着剤をラジカル硬化させること、
および
(e)場合によりアセンブリを周囲温度にした後および/または基材を処理する1つ以上のステップの後に、基材およびキャリアを機械的に分離すること
を含む方法。