(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
磁性材料では、磁気相転移は、エントロピー対温度曲線の偏差(anomaly)、すなわち、エントロピー上昇によって明示される。磁気相転移は外部磁界の印加に対して固有の感度を有するので、磁界変化によるこのエントロピーの偏差を温度にシフトさせることが可能である。この磁界変化が、等温条件で実現されるのか、または断熱条件で実現されるのかによって、この効果は、エントロピー変化(ΔS)または断熱温度変化(ΔT
ad)によって定量化され、磁気熱量効果(MCE)と呼ばれる。キュリー温度(T
C)近傍の強磁性化合物では、磁界の増加によって、エントロピーの偏差が高温側にシフトするので、生成MCEは、負のエントロピー変化および正の温度変化である。磁気相転移は、磁界変化または温度変化によって誘起させることができる。
【0003】
磁気熱量効果を使用するシステムは、機械が熱エネルギーを磁気の仕事に変換する熱磁気デバイスから、磁気の仕事を使用して熱エネルギーを冷熱源から熱シンクにまたはその逆に移動させるヒートポンプまでの高範囲の実用分野に及ぶ。前者の型には、電気を生成するために(一般に、熱磁気、熱電気および高温熱磁気発電機と呼ばれる)、または機械仕事を創出するために(熱磁気モーターのように)第2の工程で磁気の仕事を使用するデバイスが含まれる。一方、後者の型は、磁気冷凍機、熱交換器、ヒートポンプまたは空調システムに相当する。
【0004】
こうしたデバイスのすべてにおいて、デバイスの心臓部、すなわち、磁気熱量材料とも呼ばれるMCE材料を最適化することが最も重要である。このMCEは、磁界印加がそれぞれ等温条件または断熱条件いずれで実施されるかに応じてエントロピー変化(ΔS)または温度変化(ΔT
ad)として定量化される。しばしば、ΔSのみが考慮されるが、こうした2つの量をつなぐ直接的な関係は存在しないので、一方のみのパラメータが好ましいという理由は存在せず、したがって、双方を同時に最適化することが必要である。
【0005】
これまで引用したMCEの応用はすべて、循環特性を有する、すなわち、磁気熱量材料は、頻繁に、磁気相転移を経験するので、磁界または温度振動が印加される場合にMCEの可逆性が保証されることが重要である。これは、MCE近傍で生起する恐れのある磁界または熱ヒステリシスを低く保つ必要があることを意味する。
【0006】
実用的な見地からは、大規模な応用を可能にするために、MCE材料は、高価でなく、毒性であると分類されない大量に入手可能な元素から形成されなければならない。
【0007】
磁界変化の印加によって引き起こされるMCEを使用する応用では、MCEは、好ましくは、ΔB≦2T、より好ましくは、ΔB≦1.4Tなど永久磁石によって提供することができる程度の磁界変化によって実現しなければならない。
【0008】
応用のために実際に必要な別の条件は、材料の機械的安定性に関連する。この事実は、最も魅力的なMCE材料には、一次転移が行われる磁化における不連続変化という利点が存在するということである。しかし、一次転移によって、結晶構造を有する固体材料の場合、単位格子を含めた他の物理パラメータの不連続がもたらされる。転移のこの「構造」部分によって、多様な変化、すなわち、対称性の破壊、格子容積変化または異方性格子パラメータ変化などが生起する恐れがある。バルクの多結晶試料の安定性に対する最も劇的なパラメータは、格子容積変化であることがわかっている。熱または磁界循環の間に、容積変化によって生起する歪によって、バルク片の破壊または崩壊がもたらされ、これによってこうした材料の応用性が大きく妨げられる場合がある。したがって、一次転移において容積変化をゼロにすることが、良好な機械的安定性を保証する第1の工程である。
【0009】
米国特許第7,069,729号によって、一般式MnFe(P
1−xAs
x)、MnFe(P
1−xSb
x)およびMnFeP
0.45As
0.45(Si/Ge)
0.10である磁気熱量材料が提供されるが、これは、一般に、毒性条件を満足しない。
【0010】
米国特許第8,211,326号によって、一般式MnFe(P
wGe
xSi
z)である磁気熱量材料が開示されているが、これは、大規模応用に不適当である希少元素(Ge、希少であり、高価である)を含む。
【0011】
米国特許出願公開第2011/0167837号および米国特許出願公開第2011/0220838号によって、一般式(Mn
xFe
1−x)
2+zP
1−ySi
yである磁気熱量材料が開示されている。この材料は、かなりのΔSであるが、大部分の応用に適した大きなΔSと大きなΔT
adの組合せであるとは必ずしも言えない。マンガンと鉄の比(Mn/Fe)が1である材料は、ヒステリシスが大きい。これは、循環操作される機械における磁気熱量効果の応用に関して不利である。マンガンと鉄の比(Mn/Fe)を1から変化させると、ヒステリシスが低減する。残念ながら、ヒステリシスに関する改良は飽和磁化の低減によって相殺されることが判明している、N.H.Dungら、Phys.Rev.B86、045134(2012)を参照されたい。この飽和磁化の低減は、MCEのためには磁気熱量材料の磁化は、可能な限り大きくあるべきであるという理由で、望ましくない。
【0012】
CN102881393Aには、0.4≦y≦0.55および0≦z≦0.05であるMn
1.2Fe
0.8P
1−ySi
yB
zが記載されている。示されたデータによれば、Bの添加によって、材料のキュリー温度が高温側にシフトされると思われるが、提出された実験データによれば、ヒステリシスに対する効果がないように思われる。記載の材料を用いた磁気冷却操作で実現可能なΔT
ad値は、開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の磁気熱量材料は、非毒性であり、限界的でないものとして一般に分類される元素から形成される。本発明の磁気熱量材料の作業温度は、−150℃から+50℃の範囲であり、これは、冷凍機や空調のような高範囲の冷却用途で使用するのに有利である。本発明の磁気熱量材料は、非常に有利な磁気熱量特性を有する;詳細には、これは、大きな値のΔSおよび同時に大きな値のΔT
adを示し、ならびに非常に小さい熱ヒステリシスを示す。さらには、本発明の材料は、磁気相転移の際に非常に小さいまたは実際上ゼロの格子容積変化を示すのみである。これによって、連続循環中の材料の機械的安定性が大きくなり、これは、磁気熱量材料の実際の応用で必須である。
【0020】
化学量論値xは、少なくとも0.55、好ましくは、少なくとも0.6である。xに対する最大値は、0.75、好ましくは、0.7である。特に好ましくは、0.6≦x≦0.7の範囲である。
【0021】
化学量論値yは、少なくとも0.25、好ましくは、少なくとも0.3、より好ましくは、少なくとも0.32である。yの最大値は、0.4であり、好ましくは、yの最大値は、0.36であり、より好ましくは、yの最大値は、0.34である。好ましくは、0.3≦y<0.4の範囲であり、さらにより好ましくは、0.3≦y≦0.36の範囲であり、特に好ましくは、0.32≦y≦0.34の範囲である。
【0022】
化学量論値zの低い方の限界は、>0.05であり、好ましくは、zは、少なくとも0.052であり、より好ましくは、zは、少なくとも0.06である。zの最大値は、0.2、好ましくは、0.16、より好ましくは、0.1であり、特に好ましくは、zの最大値は、0.09である。zの好ましい範囲は、0.052≦z≦0.1、より好ましくは、0.06≦z≦0.09である。
【0023】
化学量論値uは、わずかだけ0と異なってよく、uは、通常、−0.1≦u≦0.05、好ましくは、−0.1≦u≦0、より好ましくは、−0.05≦u≦0、詳細には、−0.06≦u≦−0.04である。
【0024】
本発明の材料の1つの利点は、Mn/FeとP/Si比を同時にバランスさせ、zをわずかに調整することによって限定されたヒステリシスを容易に得ることができることである。この点において、本発明による材料ではリンのホウ素による置換は熱ヒステリシスに対して大きな影響を及ぼすものであるが(実施例を参照されたい)が、これは、提供された実験実施例すべてが望ましくない大きな熱ヒステリシスを示すCN102881393Aが示すB添加とは大きく相違する結果であることに留意されたい。循環操作されるデバイスでは、熱ヒステリシスは、利用可能な磁界によって誘起される断熱温度変化を超えるべきでない。熱ヒステリシス(磁界0における)は、好ましくは、6℃以下、より好ましくは、3℃以下である。
【0025】
T
CにおけるΔSおよびΔT
adの大きな値、小さいヒステリシスおよび小さい格子容積変化の同時存在に関して特に良好な特性を示す本発明の材料は、
0.6≦x≦0.7、
0.3≦y<0.4、好ましくは、0.30≦y≦0.36、最も好ましくは、0.32≦y≦0.34および
0.052≦z≦0.1、好ましくは、0.06≦z≦0.09である式(I)の磁気熱量材料である。
【0026】
こうした磁気熱量材料は、1/3に近いSi含量を有するが、これは、室温未満(−150°C〜20°C)のキュリー温度を得るのに特に好ましい。この範囲の第2の利点は、y≒1/3の場合に見られる大きな磁化に存在する[Z.Ou、J.Mag.Mag.Mat.340、80(2013)]。このような場合、限定された熱ヒステリシスを示す最良の材料は、本発明者らによって見出され、実施例で示されているように、zが少なくとも0.06である場合に得られる。
【0027】
本発明の磁気熱量材料は、好ましくは、Fe
2P型の六方晶系結晶構造を有する。
【0028】
本発明の磁気熱量材料は、磁気相転移においてわずかまたは実際にゼロの容積変化しか示さないが、類似のホウ素を含まない磁気熱量材料は、磁気相転移において容積ステップを明確に示す。好ましくは、本発明の磁気熱量材料は、磁気相転移において最大0.05%、より好ましくは、最大0.01%の相対容積変化|ΔV/V|を示す。最も好ましくは、|ΔV/V|の最大値は、磁気相転移において本発明の磁気熱量材料の単なる熱膨張によって引き起こされる値に等しい。|ΔV/V|の値は、X線回折によって測定することができる。
【0029】
本発明の磁気熱量材料は、任意の適切な方式で製造することができる。本発明の磁気熱量材料は、磁気熱量材料用の出発元素または出発合金の固相変換または液相変換、続いての冷却、任意のプレス、不活性ガス雰囲気下での1つまたはいくつかの工程における焼結および熱処理、および続いての室温までの冷却によって、あるいは出発元素または出発合金の溶融物の溶融紡糸によって生成することができる。
【0030】
好ましくは、出発原料は、元素Mn、Fe、P、BおよびSiから、すなわち、元素形態のMn、Fe、P、BおよびSiから、ならびに前記元素相互から形成される合金および化合物から選択される。元素Mn、Fe、P、BおよびSiによって形成されるかかる化合物および合金の非限定された例は、Mn
2P、Fe
2P、Fe
2SiおよびFe
2Bである。
【0031】
出発元素または出発合金の固相反応は、ボールミル中で実施することができる。例えば、元素形態あるいはMn
2P、Fe
2PまたはFe
2Bなどの予備合金形態のMn、Fe、P、BおよびSiの適当量がボールミル中で粉砕される。その後、粉末は、900から1300℃の範囲、好ましくは、約1100℃の温度で適切な時間、好ましくは、1から5時間、特に約2時間保護ガス雰囲気下でプレスおよび焼結される。焼結後、材料は、700から1000℃の範囲、好ましくは、約950℃の温度で適切な期間、例えば、1から100時間、より好ましくは、10から30時間、特に約20時間熱処理される。冷却後、第2の熱処理が、好ましくは、900から1300℃の範囲、好ましくは、約1100℃で、適切な時間、好ましくは、1から30時間、特に約20時間実施される。
【0032】
あるいは、元素粉末または予備合金は、誘導炉中で一緒に溶融することができる。次いで、上で詳記したように熱処理を実施することが可能である。
【0033】
溶融紡糸を介する加工もまた可能である。これによってより均一に元素を分散させることが可能であり、それによって磁気熱量効果が改良される;Rare Metals、25巻、2006年10月、544〜549頁を参照されたい。ここに記載された方法では、出発元素は、最初に、アルゴンガス雰囲気中で誘導溶融され、次いで、ノズルから回転銅ローラー上に溶融状態で散布される。これに続いて1000℃で焼結され、室温までゆっくり冷却される。加えて、生成のために米国特許第8,211,326号および米国特許出願公開第2011/0037342号を参照することができる。
【0034】
好ましくは、本発明の磁気熱量材料を生成するための方法は、以下の工程、
(a)固相および/または液相の磁気熱量材料に対応した化学量論で出発原料を反応させて固体または液体反応生成物を得る工程と、
(b)工程(a)で得られた反応生成物が液相である場合、工程(a)による液体反応生成物を固相に相間移動させて固体反応生成物を得る工程と、
(c)工程(a)または(b)による反応生成物を造形する任意の工程と、
(d)工程(a)、(b)または(c)による固体生成物を焼結および/または熱処理する工程と、
(e)工程(d)の焼結および/または熱処理生成物を少なくとも10K/sの冷却速度で急冷する工程と、
(f)工程(e)の生成物を造形する任意の工程と
を含む。
【0035】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、工程(a)または(b)による反応生成物を造形する工程(c)が実施される。
【0036】
本方法の工程(a)では、磁気熱量材料中に存在する元素および/または合金は、固体または液体相において、材料に対応する化学量論で変換される。好ましくは、工程a)の反応は、閉じた容器または押出機中での元素および/または合金を合わせて加熱することによって、またはボールミル中の固相反応によって実施される。特に好ましくは、特にボールミル中で実施される固相反応が実施される。かかる反応は、原理的に公知である。すでに引用された文献を参照されたい。通常、磁気熱量材料中に存在する個別の元素の粉末または2種以上の個別の元素の合金の粉末が、適切な質量比の粉砕または顆粒形態で混合される。必要であれば、混合物は、さらに粉砕して微結晶性粉末混合物を得ることができる。この粉末混合物は、好ましくは、ボールミル中で機械的に衝撃を与えられ、これによって、さらなる冷間溶接およびまた良好な混合、ならびに粉末混合物中の固相反応がもたらされる。
【0037】
あるいは、元素は、選定された化学量論の粉末として混合され、次いで溶融される。閉じた容器中で合わせて加熱することによって、揮発性元素の固定および化学量論の制御が可能になる。具体的にリンを使用する場合、このリンは、開放システムでは容易に蒸発する。
【0038】
工程(a)は、好ましくは、不活性ガス雰囲気下で実施される。
【0039】
工程(a)で得られる反応生成物が、液相である場合、工程(a)からの液体反応生成物は、固相に相間移動され、工程(b)で固体反応生成物が得られる。
【0040】
この反応に続いて、工程(d)の固体の焼結および/または熱処理によるが実施される。これに対しては、1つまたはそれ以上の中間工程を提供することができる。例えば、工程(a)で得られた固体は、工程(c)における造形にかけた後に焼結および/または熱処理することができる。
【0041】
例えば、ボールミルで得られた固体を溶融紡糸工程に送ることが可能である。溶融紡糸法は、それ自体公知であり、例えば、Rare Metals、25巻、2006年10月、544〜549頁およびまた米国特許第8,211,326号および国際公開第2009/133049号に記載されている。こうした方法では、工程(a)で得られた組成物は、溶融され、回転冷金属ローラー上に散布される。この散布は、散布ノズルの上流の昇圧または散布ノズルの下流の減圧によって実現することができる。通常、回転銅ドラムまたはローラーが使用され、これは、さらに任意に冷却することができる。銅ドラムは、好ましくは、10から40m/s、特に、20から30m/sの表面速度で回転する。銅ドラム上では、液体組成物は、好ましくは、10
2から10
7K/sの速度、より好ましくは、少なくとも10
4K/sの速度、特に、0.5から2×10
6K/sの速度で冷却される。
【0042】
工程(a)の反応と同様に溶融紡糸は、減圧下または不活性ガス雰囲気下で実施することができる。
【0043】
溶融紡糸は、大きな加工速度を実現することができる。その理由は、続く焼結および熱処理を短縮できるからである。したがって、具体的に工業規模では、磁気熱量材料の生成が、顕著に、より経済的に実現可能になる。散布乾燥はまた、大きな加工速度をもたらす。溶融紡糸を実施することは特に好ましい。
【0044】
溶融紡糸は、工程(a)で得られた液体反応生成物を工程(b)に記載の固体に相間移動させるために実施することができるが、造形工程(c)として溶融紡糸を実施することも可能である。本発明の一実施形態によれば、工程(a)および(b)のうちの1つは、溶融紡糸を含む。
【0045】
あるいは、工程(b)では、散布冷却を実施することもでき、その場合、工程(a)からの組成物の溶融物は、散布塔内に散布される。散布塔は、例えば、さらに冷却することができる。散布塔では、10
3から10
5K/sの範囲、特に約10
4K/sの冷却速度が、しばしば実現される。
【0046】
工程(c)では、工程(a)または(b)の反応生成物の任意の造形が実施される。反応生成物の造形は、プレス、成形、押出のような当技術分野で公知の造形方法によって実施することができる。
【0047】
プレスは、例えば、コールドプレスまたはホットプレスとして実施することができる。プレスに続いて以下に記載の焼結工程を実施することができる。
【0048】
焼結工程または焼結金属工程では、磁気熱量材料の粉末は、最初に、所望の形状の造形体に変換され、次いで、焼結によって相互に結合される。それによって所望の造形体が得られる。焼結は、以下に記載されたのと同様に実施することができる。
【0049】
本発明にしたがって、磁気熱量材料の粉末をポリマー性結合剤内に導入し、生成した熱可塑性成形材料を造形し、結合剤を除去し、生成した未処理体を焼結することも可能である。磁気熱量材料をポリマー性結合剤でコートし、適切なら熱処理を用いて、プレスによる造形を実施することも可能である。
【0050】
本発明によれば、磁気熱量材料用の結合剤として使用できる任意の適切な有機結合剤を使用することが可能である。これは、特に、オリゴマーまたはポリマー系であるが、低分子量の有機化合物、例えば、蔗糖を使用することも可能である。
【0051】
磁気熱量材料は、1種の適切な有機結合剤と混合され、金型に充填される。これは、例えば、鋳込み、射出成形または押出によって実施することができる。次いで、ポリマーは、接触的にまたは熱的に除去され、一体構造の多孔体が形成される程度まで焼結される。
【0052】
磁気熱量材料の熱間押出または金属射出成形(MIM)もまた可能であり、圧延法によって得ることができる薄いシートからの製作も同様である。射出成形の場合、モノリスのチャネルは、金型から成形物を除去できるように円錐型である。シートからの製作の場合、チャネル壁はすべて、平行に移動することができる。
【0053】
工程(a)から(c)に続いて、固体の焼結および/または熱処理が実施される。これに対して1つまたはそれ以上の中間工程を提供することができる。
【0054】
固体の焼結および/または熱処理は、上記したように工程(d)で実施される。溶融紡糸法を使用する場合、焼結または熱処理の期間は、例えば、5分から5時間、好ましくは、10分から1時間の期間まで顕著に短縮することができる。焼結の場合の10時間および熱処理の場合の50時間という溶融紡糸法以外の従来の値に比較して、この溶融紡糸法は、時間に関する大きな利点をもたらす。焼結/熱処理は、粒子境界の部分的な溶融をもたらすので、材料はさらに緊密化する。
【0055】
したがって、工程(a)から(c)に含まれる溶融および急速冷却によって、工程(d)の継続時間を大きく短縮することが可能になる。これによってまた、磁気熱量材料の連続生成が可能になる。
【0056】
工程(a)から(c)の1つから得られた組成物の焼結および/または熱処理は、工程(d)で実施される。焼結の最高温度(T<融点)は組成物の重要な機能である。過剰のMnは、融点を低減し、過剰のSiは、それを増加する。好ましくは、組成物は、最初に、800から1400℃の範囲、より好ましくは、900から1300℃の範囲の温度で焼結される。造形体/固体では、焼結は、より好ましくは、1000から1300℃、特に、1000から1200℃の範囲の温度で実施される。焼結は、好ましくは、1から50時間、より好ましくは、2から20時間、特に、5から15時間という期間で実施される(工程d1)。焼結後、組成物は、好ましくは、500から1000℃の範囲、好ましくは、700から1000℃の範囲の温度で熱処理されるが、800から900℃の範囲を除く前述の温度がより好ましい、すなわち、熱処理は、好ましくは、700℃<T<800℃および900℃<T<1000℃である温度Tで実施される。熱処理は、好ましくは、1から100時間、より好ましくは、1から30時間、特に、10から20時間の期間で実施される(工程d2)。次いで、この熱処理に続いて、室温までの冷却を実施することができるが、これは、好ましくは、ゆっくりと実施される(工程d3)。追加の第2の熱処理は、900から1300℃の範囲、好ましくは、1000から1200℃の範囲の温度で、適切な期間、好ましくは、1から30時間、好ましくは、10から20時間実施することができる(工程d4)。
【0057】
正確な期間は、材料にしたがって実際に必要な時間に調整することができる。溶融紡糸法を使用する場合、焼結または熱処理の期間は、顕著に、例えば、5分から5時間、好ましくは、10分から1時間の期間まで短縮することができる。焼結の場合の10時間および熱処理の場合の50時間という溶融紡糸法以外の従来の値に比較して、この溶融紡糸法は、時間に関する大きな利点をもたらす。
【0058】
焼結/熱処理は、粒子境界の部分的な溶融をもたらすので、材料はさらに緊密化する。
【0059】
したがって、工程(b)または(c)の溶融および急速冷却によって、工程(d)の継続時間を大きく短縮することが可能になる。これによってまた、磁気熱量材料の連続生成が可能になる。
【0060】
好ましくは、工程(d)は、
(d1)焼結工程、
(d2)第1の熱処理工程、
(d3)冷却工程、および
(d4)第2の熱処理工程
を含む。
【0061】
工程(d1)から(d4)は、上記のように実施することができる。
【0062】
工程(e)では、工程(d)の焼結されたおよび/または熱処理された生成物の少なくとも10K/s、好ましくは、少なくとも100K/sの冷却速度での急冷が実施される。熱ヒステリシスおよび転移幅は、磁気熱量材料が焼結および/または熱処理後室温までゆっくりと冷却されるのでなく、むしろ早い冷却速度で冷却される場合に顕著に低減することができる。この冷却速度は、少なくとも10K/s、好ましくは、少なくとも100K/sである。
【0063】
急冷は、任意の適切な冷却法、例えば、水または水性液体、例えば、冷却水または氷/水混合物を用いて固体を急冷することによって実現することができる。固体は、例えば、氷で冷却した水中に落下させることが可能である。液体窒素などの過冷却されたガスで固体を冷却することも可能である。急冷のためのさらなる方法は、当業者には公知である。制御され、急速であるという特性を持つ冷却は、800と900℃の間の温度範囲で特に有利である。すなわち、800と900℃の間の範囲の温度にできるだけ短く材料を暴露することが好ましい。
【0064】
磁気熱量材料の生成の残余は、最後の工程が、大きな冷却速度での焼結されたおよび/または熱処理された固体の急冷を含むのであれば、あまり重要でない。
【0065】
工程(f)では、工程(e)の生成物を造形することができる。工程(e)の生成物は、当業者に公知の任意の適切な方法、例えば、エポキシ樹脂または任意の他の結合剤を用いた結合によって造形することができる。造形工程(f)の実施は、工程(e)の生成物が、粉末または小粒子の形態で得られる場合に特に好ましい。
【0066】
本発明の磁気熱量材料は、任意の適切な用途で使用することができる。例えば、これは、冷凍機や天候調節ユニットなどの冷却システム、熱交換器、ヒートポンプまたは熱電発電機で使用することができる。冷却システムで使用することが特に好ましい。本発明のさらなる目的は、上記のような少なくとも1種の本発明の磁気熱量材料を含む、冷却システム、熱交換器、ヒートポンプおよび熱電発電機である。実施例によって、および磁気冷凍分野の現状技術への参照によって、本発明を以降詳細に例示する。
【実施例】
【0067】
A)磁気熱量材料の製造
以降記載の実施例はすべて、同じプロトコルにしたがって合成する。化学量論量のMnフレーク、Bフレーク、およびFe
2P、P、およびSi粉末を、ボールと試料質量の比4において遊星式ボールミルで粉砕した。次いで、生成粉末をプレスしてペレットとなし、200mbarのAr雰囲気下で石英アンプル中に密封した。複数の工程の過程を介して熱処理を実施した:最初に1100℃で2時間の焼結、続いて850℃での最初の20時間の熱処理を実施した。続いて、試料を炉中で室温まで冷却した。最後に、1100℃で20時間熱処理し、続いて熱い石英アンプルを室温の水中に落下することによって試料を急冷した。
【0068】
製造した材料の組成を表1に要約する。
【0069】
【表1】
【0070】
Bが、存在しない場合、組成は、非常に正確に与えることができる。しかし、特に、非常に少量のBの場合、Zの値を非常に正確に測定することは困難である。これは、Bの酸素に対する親和性と関係する。ほとんど不可避ではあるが、酸素が試料中に存在する場合、Bの一部が反応してB
2O
3になり、これは揮発性であるので、化合物中に入らない。通常、zの誤差は、約±0.01である。
【0071】
B)測定
掃引速度10K/分においてゼロ磁場で示差走査熱量計を用いて実施例の比熱を測定した。表1に列挙した磁気熱量材料のすべての場合において、磁気転移は対称性のある比熱ピークを伴っており、これは、本発明者らが、一次転移、すなわちK.A.Geschneidner Jr.、V.K.PecharskyおよびA.O.Tsokol、Rep.Prog.Phys.68、1479(2005)に記載されたのと同様な巨大磁気熱量材料を取り扱っていることを示している。
【0072】
実施例の磁気特性をQuantum Design MPMS 5XL SQUID磁気計で測定した。
【0073】
均一場磁化測定に基づき、いわゆるマックスウエル関係を使用してエントロピー変化を算出した(A.M.G.Carvalhoら、J.Alloys Compd.509、3452(2011)を参照されたい)。
【0074】
自家製のデバイスでの直接法によってΔT
adを測定した。永久磁石から発生する磁場で試料を移動/除去(1.1 Ts
−1)することによって磁場変化1.1Tを印加した。それぞれの磁界変化の間で緩和時間4sを使用したので、磁化/脱磁化の全サイクルの継続時間は、10sであった。それぞれのサイクルの出発温度を外部から制御し、速度0.5K/分で250Kと320Kの間を掃引した。ΔT
adが起こるのに要する時間は、一般に、1s以下の程度であり、掃引速度に比較してほとんど瞬時であることに留意されたい。
【0075】
Anton Paar TTK450低温チャンバを備えたPANalytical X−pert Pro回折計でゼロ磁界において多様な温度のx線回折図形を集めることによって構造パラメータを調査した。ソフトウエアFullProf(http://www.ill.eu/sites/fullprof/index.html)を用いて構造決定および修正を実施した。これは、表1に列挙した試料はすべて六方晶系のFe
2P型構造(空間群
【数1】
)で結晶化していることを示す。
【0076】
C)結果
図1A)からC)は、掃引速度1K/分で冷却(白抜き記号)および加熱(塗りつぶし記号)した場合の磁界B=1Tで測定した磁化データを示す。このデータは、飽和磁化を改変せずにヒステリシスを低減するホウ素置換の能力を例示する。
【0077】
米国特許出願公開第2011/0167837号、米国特許出願公開第2011/0220838号およびCN102881393Aで提案されたパラメータに関連してこの結果を議論する。以下の観察事項を作成することができる:
【0078】
図1A):MnFe
0.95P
2/3Si
1/3(実施例1;正方形)の熱ヒステリシスは、約77Kである。Mn
1.1Fe
0.85P
2/3Si
1/3(実施例2;円)までマンガンを増加させると、約62Kのヒステリシス、すなわち、マンガン1%当り約−2Kのヒステリシスの低減がもたらされる。しかし、同時に、強磁性状態の磁化値は、減少し、これは、Mn添加の望ましくない第二次の結果である。対照的に、Mn
1.1Fe
0.85P
2/3Si
1/3におけるホウ素による置換によって、1Kのヒステリシスを有するMn
1.1Fe
0.85P
0.60B
0.07Si
1/3(実施例3、三角形)によって示されるように、飽和磁化のさらなる低減をまったく示すことなく非常に小さいヒステリシスがもたらされる。したがって、平均のヒステリシス低減は、ホウ素1%当り約−10Kである。
【0079】
図1B):室温未満のキュリー温度にするためには、MnFe
0.95P
2/3Si
1/3(
図1Aで示される実施例1)から出発して、マンガン含量を増加させ、ケイ素含量を約1/3に保持しなければならない。Mn
1.15Fe
0.8P
2/3−zB
zSi
1/3シリーズ(z=0.04、実施例4、正方形;z=0.05、実施例5、円;z=0.06、実施例6、三角形;およびz=0.07、実施例7、菱形)は、この可能性の良好な実施例である。所望の特性(限定されたヒステリシス、転移の鋭さ)を有する組成物は、z=0.06およびz=0.07に対応する。
【0080】
図1C):Mn
1.3Fe
0.65P
2/3−zB
zSi
1/3シリーズ(z=0.00、実施例8、正方形;z=0.02、実施例9、円;z=0.04、実施例10、三角形;およびz=0.06、実施例11、菱形)でも類似の結果を得る。Pの小部分をBによって置換すると、より良好な特性、詳細には、ヒステリシスの低減がもたらされるが、所望の小さいヒステリシスを示す材料を得るためには、最小含量のBの存在が必要である;限定されたヒステリシスを有する組成物は、z=0.06に対応する。
【0081】
ホウ素置換は、ヒステリシスを制御するために米国特許出願公開第2011/0167837号で提案されたパラメータより効果的であると思われる。詳細には、
図1A)から1C)で示される実施例すべてで、リンのホウ素による置換は、強磁性状態の磁化値に影響を及ぼさず、熱ヒステリシスを顕著に低減しない。
【0082】
図2A)は、掃引速度1K/分で加温しながら測定された、B=0.05Tで出発し、次いで0.25Tと2T(0.25T増分)の間の多様な磁界におけるMn
1.15Fe
0.8P
2/3−0.07B
0.07Si
1/3(実施例7)に対する一組のM
B(T)を示す。B=1Tにおける磁気相転移で約74Am
2kg
−1の大きな磁化ジャンプが見られ、これは、この温度範囲における大きな磁気熱量効果をもたらす。実施例7の磁界dT
C/dBに関しての磁気相転移の感受性を
図2B)に示す。正方形は、実験のT
Csに対応し、直線は直線近似である。実施例7のdT
C/dBは、+4.9+/−0.2KT
−1に達し、これは、(Mn
xFe
1−x)
2+uP
1−ySi
y化合物の場合より大きい。詳細には、この値は、ホウ素を含まない材料Mn
1.25Fe
0.7P
0.5Si
0.5について報告された+3.25±0.25KT
−1より顕著に大きい(+50%)[N.H.DungらPhys.Rev.B86、045134(2012)]。dT
C/dBのこの改良は、本発明の目的と一致しており、こうしたホウ素置換化合物における大きな断熱温度変化をもたらすことになる。
【0083】
図3は、1T(白抜き記号)および2T(塗りつぶし記号)の磁界変化に対するいくつかの本発明の材料(実施例3、6、7および11)のΔS曲線のパネルを表す。ΔB=1Tに対する|ΔS|の最大値は、8〜10Jkg
−1K
−1の範囲、すなわち、ガドリニウム元素より約3〜4倍であり、この事実は、こうした材料がいわゆる「巨大」磁気熱量効果を示すことを実証している(総説K.A.Geschneidner Jr.、V.K.PecharskyおよびA.O.Tsokol、Rep.Prog.Phys.68、1479(2005)を参照されたい)。ホウ素置換試料ではΔB=1Tの|ΔS|値は、米国特許出願公開第2011/0220838A号および米国特許出願公開第2011/0167837で示された組成物と類似またはより大きいことに留意されたい。したがって、ホウ素置換試料におけるdT
C/dB、ΔT
adおよび機械的安定性の改良点は、ΔS性能をまったく低減せずに得られる。最後に、本明細書に示したΔSは、瞬時過渡現象問題(すなわち、M
T(B)曲線に基づいてΔSを誘導する際に得られる異常に巨大なΔS値)に直面しない当業者に公知の技法であるM
B(T)測定に基づくことを注意したい。したがって、本発明者らのΔSは、相の共存特徴を明確に観察できる(CN102881393の
図5a)、6a)および6b)におけるM
T(B)曲線上の明らかな二重ステップ挙動)CN102881393で示されたΔS値と比較することができない。
【0084】
図4A)は、実施例3および12の断熱温度変化ΔT
adを示す。約2.5Kの最大値を本発明の材料は、実施例3で得るが、室温近傍の巨大磁気熱量材料でこれまで報告された最大の値に非常に近い(総説K.A.GeschneidnerJr.、V.K.PecharskyおよびA.O.Tsokol、Rep.Prog.Phys.68、1479(2005)を参照されたい)。こうしたΔT
ad値は、米国特許出願公開第2011/0167837号の好ましい組成物に基づくホウ素を含まない材料より顕著に大きい(実施例12に比較して+45%の改良)。この測定ΔT
adは、連続循環操作中に測定されたので完全に可逆的な効果に対応することは留意に値する、なお実施例3に対する
図4B)(正方形は試料温度に対応し、矢印は、磁界変化を表す)を参照されたい。これは、最近公開された「巨大な」ΔT
ad値とは大きな相違であり、循環操作中に測定されたそのΔT
adは、非可逆的なΔT
ad値の1/3に過ぎない(J.Liu、T.Gottschallら、in Nature Mat.11、620(2012)による「構造転移がもたらす巨大磁気熱量効果」を参照されたい)。類似の理由(あまりにも大きなヒステリシス)で、12Kから27Kの大きな熱ヒステリシスを示すCN102881393Aで示された組成物は、中間磁界(ΔB≦2Tの場合)においていかなる顕著な可逆的ΔT
adを示さないと思われる;すなわち、こうした組成物は、磁気冷凍機のような循環用途で使用することができない。
【0085】
図5A)は、Si=1/3の2つの本発明の材料、実施例6、7および米国特許出願公開第2011/0167837号の好ましい材料からの比較材料の実施例13に対してx線回折で測定したcとa格子パラメータの間の比を示す。式(Mn
xFe
1−x)
2+uP
1−y−zSi
yB
zの好ましい組成物の単位格子は、六方晶系であり、磁気相転移における「構造」変化は、等方性でない。実施例6(正方形)および7(円)では、T
Cでの格子パラメータのジャンプが観察されるが、ホウ素のない組成物(Mn
1.25Fe
0.7P
0.5Si
0.5;実施例13、三角形)とほとんど同じくらい顕著であると思われる。しかし、ホウ素置換試料(実施例6および7、正方形および円)に対する
図5B)で示されるように、格子容積のジャンプは観察されず、Mn
1.25Fe
0.7P
0.5Si
0.5(三角形)の約+0.25%のかなり大きいΔV/Vが存在した。ホウ素置換試料で観察された約0のΔVは、ΔV/V=−0.44%(Jap.J.of Appl.Phy.44、549(2005)を参照されたい)である(Mn,Fe)
2(P,As)系材料、ΔV/V=+0.1%である(J.Phys.Soc.Jpn.75、113707(2006)を参照されたい)(Mn,Fe)
2(P,Ge)系材料、およびΔV/V=+0.25%である(前述した通り)(Mn,Fe)
2(P,Si)系材料のΔVより小さいことがわかる。本発明者らの知見では、事実上単なる熱膨張である、すなわち、温度依存のジャンプまたは工程のような任意の不連続性がない約0のΔVが、巨大MCE材料の一次転移で観察されたのはこれが最初である。
【0086】
ホウ素置換試料におけるT
Cでの非常に小さいΔVは、こうした試料に良好な機械的安定性を与える。この良好な機械的安定性は、ΔT
ad直接測定中の転移を超えて試料を循環することによって確認された。ΔT
ad測定のための試料の形状は、直径10mm、厚さ1mmの薄い円筒に対応する。ΔT
ad測定のために使用された磁化/脱磁化の8000サイクル後でも、ホウ素置換組成物の幾何学形状は、完全のままであり、機械的一体性が維持される。巨大MCE材料、例えば、La(Fe,Si)
13系材料の機械的安定性を検査するために同じ実験方法がすでに使用されていることに留意されたい(Adv.Mat.22、3735(2010))。